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【タツベイ部門】平成ポケノベ文合せ2013 〜秋の陣〜 【終了】
日時: 2013/11/17 23:52
名前: 企画者

こちらは平成ポケノベ文合せ2013 〜秋の陣〜【タツベイ】部門の投稿会場です。

参加ルール( http://pokenovel.moo.jp/f_awase2013a/rule.html )を遵守の上でご参加ください。



◆日程

・テーマ発表 :2013年10月27日(日)0:00
・投稿期間 :2013年10月27日(日)〜2013年11月17日(日)23:59
23:59
・投票期間(タツベイ) :2013年11月18日(月)〜2013年12月07日(土)23:59
・結果発表(タツベイ) :2013年12月07日(日) 21:00


◆テーマ

テーマA「輪」(一次創作可)  

乗り物の車輪やお洒落な腕時計などのような形のある輪もあれば、苦楽を共に過ごす友達の輪に、誰とでも繋がれる世界の輪のような形のない輪もたくさんあります。あなたが真っ先に想像した輪はどんなものでしょうか? それから生まれた作品が、文合せという輪っかを構成するのかもしれませんよ?


テーマ「石」(ポケモン二次創作のみ)  

道端に転がっている石、アクセサリとなる石、何か曰くのある不思議な石。なにげなく道端に転がる石も一つ一つよく見ると形も色も様々。そういえば新作ポケモンXYでは石が物語の重要な要素となっていますね。ポケモンで石と言えばあの人も……


◆目次

 ▼テーマA「輪」

 >>2
 リフレインレポート

 >>5
 月明かりの下、魔法使いとワルツを。

 >>7
 車輪は歩くような速さで

 >>11
 エネコなんかよんでもこない。

 >>12
 洛城異界居候御縁譚


 ▼テーマB「石」

 >>1
 LIFE

 >>3
 ご主人の視線を取り戻せ

 >>4
 缶コーヒーと秋の空

 >>6
 びいだまよほう。

 >>8
 変わらずのいし

 >>9
 イワガミ様の伝承

 >>10
 進化のキセキ

 >>13
 不変のいしと育て屋のきおく


◆投票

 投票は下記URLより
http://pokenovel01.blog111.fc2.com/blog-entry-9.html
メンテ

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ご主人の視線を取り戻せ ( No.3 )
日時: 2013/11/12 01:02
名前: リング

【テーマB:石】

 ご主人のアイカさんは、最近私達の事を構ってくれない。
 旅の途中でいただいたヌメラの女の子が卵から孵化してからというもの、最近は毎日ヌメラへのポケパルレに夢中なのだ。抱き着いてぬめったり、なでなでしてぬめったり。生まれたばかりの新しい子に構いたくなる気持ちは分かるけれど、もう少し私の事も大事にして欲しいの。
 そんなこんなで、最近はバトルの時と食事の時くらいしかまともに声をかけてもらっていない。他の子達も似たような状況なので、あまり不満ばかり愚痴るのも大人げないし。だからと言って、このまま引き下がるのも嫌である。私への視線を取り戻させて見せるんだから!

「そんなわけで、私はご主人を振り向かせるために綺麗になりたい! 皆だって、最近構ってもらえなくって寂しいでしょ? ここらで、ご主人に構ってもらえるようにモーションかけましょう! ご主人の視線を取り戻すの!」
 食事の最中、仲間にそう持ち掛けてみる。ヌメラは現在おねむの最中だ。
「そうだね。私は誰かから女性を奪うのは好きだけれど、女性を奪われるのは好きじゃない……ヌメラもご主人も、私のものになるべきだ。私が美しすぎるから」
 少しナルシストなウィッチお兄さん。彼はご主人と最も長い付き合いの男の子だ。少しウザったいところを除けば、メロメロのうまい美青年だ。
「一部の意見には同意ね。私もご主人を奪われるのは好きじゃないわ」
「ふふ、もちろん君も一緒に盗んであげるから安心してよ。そうだね……主人に振り向いてもらいたいなら美しくならないと。月桂樹やヒイラギのような優雅な木の枝を盾の鞘に刺そうじゃないか。あ、カエデなんかもいいんじゃないか……そういえば私も最近ストックの木の枝が尽きてきたな。食事が終わったら少し選んでおくか」
「いや、盾は私の大事な場所を守るものなんだけれど……あ、でも枝を切るなら私に任せてね。庭師も真っ青な剣裁きで切ってあげるから」
 マフォクシーのウィッチお兄さんは、私をテールナーにでもするつもりだというのか。さすがにそれは御免こうむるわ。
「やっぱりあれぞい! 女なんてキスで攻めてやれば落ちるぞい! おいどんなら7か所同時にキスできるもんな!」
「あんたに聞いた私が馬鹿だった」
 ガメノデスのシチフクジンさんは発想がヤバイ。というかそれ恐怖でしかないと思うわ。
「ご主人は雌だからなぁ……やっぱり、翼を広げて体の大きさをアピールするのが一番だろ?」
 ウォーグルのアレク。あんたもウォーグルの基準でものを語らないで……。
「私に翼なんてないってば。飾り布くらいしかないでしょ!」
 ため息をつきつつ、私はアレクに反論する。
「美しくなるなら、磨かなきゃだよねー。僕も原石は見れたものじゃないけれど、きちんと磨いてもらったら、とってもキレーでメレシーウレシーだったよー」
 メレシーのアメジストは、間延びした声でそう告げる。なるほど、磨くのか……。
「そうだねぇ。私も、ご主人が振るう包丁の冷たい輝きは大好きだよ。お母さんが旅に合わせて美しいものを選んでくれたらしいけれど、あの濡れたような美しい刃がねぇ……私はその輝きも嫌いじゃない。いつか盗んじゃおうかな……うふふ。潤んだ女性の瞳というのは素敵だしね……」
 ウィッチお兄さんは、妖しく微笑みながら、ご主人がさっきまで使っていたウェットティッシュで手入れされた包丁を見る。こいつ、マジシャンの特性のせいか、やけに手癖が悪いんだよなぁ。
「うーむ……そうか、あの輝きか。血液の滴る私の剣も格好いいと思うけれどなぁ……でも、研いで綺麗になるのも必要か……」
 私は特殊型として育てられているから、ニダンギル時代と違ってあまり、剣の手入れは必要ない。そうか、だからご主人があんまり構ってくれなくなっちゃったんだなぁ。特殊技が弱かったころは、ガンガン切り裂いていたから、すぐ切れ味も落ちちゃったものね。
「そうだ、俺の羽飾りを頭につけてみろよー。ご主人は雌だし、きっと惚れるぜ」
「却下」
 アレクは、同種の雌(いない)と仲良くやっててください。
「でもさー。サヤカちゃん、ご主人より身長大きいよねー。そんな体をどんな石で自分を磨くのー?」
「そ、それは……」
 そうとも、私の身長は180センチメートルほど。同族の中でもかなり大きい部類に入る。ご主人の持ち物を思い浮かべる。確か進化の石がいくつかあったけれど、あれは使えないし。他の石も小さすぎる。そうなると、手近にあって大きな石と言えば。
「ねぇ、アメジスト。私と一緒に美しさを磨かない?」
「え、そんなのよりおいどん達と研がないか?」
 私の研ぎのパートナーにふさわしそうなのはアメジストしかいない。シチフクジンさんは……岩タイプだけれどちょっと遠慮しておこう。
「んー……最近垢がたまってきたから、それを削ってくれるなら、メレシーウレシーだよー」
「なんだ、どうやら話もまとまったみたいだね。ふふ、美しくなった君の刃で、私が使う木の枝を綺麗に細工してくれることを願うよ」
「は、はい。ウィッチさん。喜んで!」
「それとも、木の枝の代わりに君を抱いて寝るのもいいかな?」
「あ、抱かれるのは謹んで遠慮いたします」
 これでも、宮殿の庭師の真似をして遊んでいたくらいだから、私はそういうのが好きなんだ。
「それじゃ、そういう訳でアメジストちゃん。夜、主人が寝静まったら……私と一緒にお互いを磨き合いましょう。朝起きたらご主人を驚かせてやるんだから!」
「いいよー。でも、僕は砥石にされるなんて初めてだから優しくしてねー」
「それはもう当然。生まれたての赤子をなぜるように、慎重にやらせてもらいますとも」
「ふふ、綺麗になれるといいね……とはいえ、私も最近ご主人に甘えていないなぁ。耳でも舐めれば喜んでくれるかな?」
 ウィッチさんは妖艶に微笑み、ご主人の方を見る。
「俺も7倍キッスしてあげて構ってもらおうかな? きっと一発でメロメロぞい」
「いや、それはご主人が嫌がるんじゃないかと……」
「大丈夫大丈夫。それより、刃を研ぐなら水が必要ぞい。おいどんも協力しようか? それに、刃を研ぐなら目の粗い石と細かい石があったほうがいいぞい? ロックカットするよりもきれいになりそうだし、おいどんもたまにはおしゃれしたいぞい」
「あ……そうね」
 忘れてた……水の事。それに、目の細かさの事も……そうよね、やっぱり荒い砥石を使ったほうが最初はよさそうね。あんまり気が進まないけれど、参加させてあげましょうか。
「それじゃあ、私は、さっそく今日の夜からご主人にポケパルレをさせるよ。僕が美しいから、ご主人には拒否権なんてないしね」
 あるでしょ。
「じゃあ、主人を寝かしつけておいてくれるかしら? 私はその隙に体を綺麗にしちゃうわ」
「了解、サヤカ」


 とにもかくにも夜は更ける。ウィッチもご主人とポケパルレをしまくった挙句、そのまま寝落ちして添い寝の真っ最中。いつか食べてしまうんじゃないかというような表情でご主人を抱いている彼の目が妖しくも艶やかだ。今はぐっすり眠っているから、早く済ませてきなよとばかりに彼はご主人の首筋に鼻を押し付けながら手を動かしていた。
 ともかく、私とアメジストとシチフクジンとで、揃ってテントの外へ出る。
「ふー……深夜って言っても、まだまだたくさんのポケモンが起きているぞい」
「そりゃあ、夜行性のポケモンが多いし……私だって、元は夜行性よ?」
「僕は暗い所に住んでたから。夜のほうが落ち着くなー」
 すっかり夜も深まってみると、かわされるのはこんな会話。そういえば私も、夜にこうやって外に出たのは久しぶりの事だ。
「ともかく、一緒にキレーになろーよー。サヤカ姉さんの体を味わいたいよー」
「いいわよ。でも、まずは荒く研いでからね。そういう訳だから……シチフクジンさん、お願いできます?」
「おうよ、当然。もうぶっかけちゃっていいのか?」
「僕の準備は万端だよー」
「了解ぞい! ならば、水を出してと……」
 シチフクジンが、体中から水を発して自身の体表を濡らす。
 濡れた岩を凝視しながら、私は鞘であり盾でもある体の一部をそっとはだけさせる。錆びているがため、シャッという小気味の良い音は発生せず、ジャリッという錆びた音。あぁ、こんなことならもっとこう、さびが止まりそうなものでも塗りたい気分……となるとヌメ……いや、あれは油ではないか。
 ともかく、私の大切な部分を曝け出してみると、手入れ不足が響いたのか、案の定錆びだらけ。いくら、特殊技主体でほとんど刃を使わないからって、こんなにだらしない体を見せつけるのはやっぱり恥ずかしい……
 ギルガルドに進化してから、全く研いでいなかったんだ、切れ味も悪くなるはずである。私も、今現在は、物理技と言えば聖なる剣くらいしか使っていないし、それを使う相手はほとんど鋼や岩、氷など堅そうなやつばっかりで、斬るというよりは叩き斬る感じで使うからあんまり切れ味は必要ないのだ。全身から水を出したシチフクジンの体表には豊かな水が滴り、僅かな月明かりに照らされて鈍く光を照り返している。一般的には暗いと言える明るさだから、人間にはこの光は見えないだろう。
 その濡れている姿を見て、シチフクジンが相手だというのに私は湧き上がるギルガルドの本能を抑えきれなくなった。本来なら雨の日とかに、適当な岩で自身の体を研いでいたのだ。そうすることで年々擦り減っていく岩は、私達ヒトツキ族の繁栄の証。誇らしい気分にすらなってくる。

「さ、横になってシチフクジン」
「うむ、どうぞ。研ぎ過ぎて痛くしないで欲しいぞい」
 ごろんと横たわった彼の上半身をよく見てみると、以外にも老廃物がたまって劣化したような色の岩がたまっている。へぇ、岩タイプの子もこんな風になるんだぁ。
 彼の濡れた体に私はそっと体を重ね合わせる。血に染まって薄汚れた私の肌が冷たい彼の肌に触れて、そういえばこんな風に優しく触れ合うのも久々だと思う。ご主人は触れてくれたとしても、盾やグリップ、飾り布だけなんだもの。物足りないわ。ニダンギルの頃までの経験を思い出しながら、15度ほどの角度をつけてそっと彼の体とこすり合わせる。心地よい金属音が耳に響いて、甘美な欲求が呼び起された。
 こんなに大きくなってしまった体でも、小さかったあのころのように体を研げるのかと少しだけ心配もしたけれど、大丈夫そうどころか、十分すぎるくらいだ。濡れた体同士が擦りあわされるたびに、シチフクジンの体からはぎとられた垢が、研糞となって滴る水を濁らせる。この水の濁りが、美しい刃を作り出すための決め手となるのだ。
 研糞を十分出したら、まずはギザギザの刃で、相手に治りにくい傷を与えるための切っ先からゆっくりと。表面の垢が剥がれ、まだ固くきめ細かい部分に切っ先を這わせる。先端ゆえ、体ごと向かってゆくように突きだす攻撃にはなかなか使える。かたき討ちの時なんかは、これで思いっきり相手を突き刺すものだ……けれどまぁ、当然今の私は使わないけれど。
 引いて押して引いて押して。マグロのように横たわったシチフクジンの体をタチで圧迫しながらそうしていれば、少しずつ鈍くなった切っ先が削れていることが実感できる。最初は感じなかった感触も、研がれ、体内の神経と近くなっていくことによって、痺れるように私の中を駆け抜けていく振動。体の奥の方、神経が通い、そして丈夫な芯の存在する骨髄まで響くような感触。よし、ここら辺はもうそろそろ大丈夫。徐々に根元の方へとゆっくりと近づいてゆこう。
 そうして、ひたすら続く往復運動。人間に飼われようとも、獣として生まれたさだめである本能に突き動かされるまま、妖しい水音とともに私は少しずつ美しくなってゆくのを感じる。そう、ご主人にゲットされたり、庭師の真似をしたりと、野生を失いかけてきた私だけれど、こういった野生の欲求はどれほど澄ました顔をしていても消えるものではない。いや、すました顔よりも、研ぎすました白刃、切っ先、刀身の方がよっぽど気持ちよくって自然体だ。
 砥石が乾燥しないようにと、シチフクジンは適宜水を追加して、全身をしとどに濡らしている。うーん……シチフクジンの事はあんまり好きじゃなかったけれど、彼がいてくれてよかった。少々ごつごつがあった彼の体も、私の体にとがれ削られ、徐々になめらかな岩の形をしてきている。いま、それを知るのは私しかいないけれど、濁った研ぎ汁を洗い流せばきっと、赤の部分が削られ、磨かれた美しい岩が覘くはずだろう。
 さて、あんまり胸の前方の部分ばっかりやっていてもバランスが悪いので、その無駄な垢が削れた彼の体を一度見てみよう。
「次は貴方の背中で研ぎたいわ」
 研糞がついたままの刃を見せながら、シチフクジンに告げる。
「おう、随分ゴリゴリやっていたけれど、まだ半分も終わっていないんだな……どれどれ」
 と、シチフクジンは胸の濁った水を洗い流した。
「おぉ、随分と滑らかになったぞい」
 シチフクジンの言葉通り、彼の胸は予想以上に滑らかに慣らされている。研ぎまくったものねぇ。
「でしょう? どんな岩でも磨けばいい感じになるのね」
「うらやましー。僕も早くやって欲しいなー」
「だとよ、サヤカ。それじゃあ、早いとこ終わらせるぞい。次は背中を頼むぞい」
「えぇ、ご主人が戦闘中に見るのは背中だものね」
 背中を頼むと言ってうつぶせに横たわったシチフクジンに同じように刃を添える。こびりついていた研糞とともに、研磨を再開する。右側の根元まで研ぎ終えれば、今度は左側の先端から根元を目指す。すっきりした爽快感が左右対称ではないせいで、余計に不快感が募っていた左半身。
 先ほど、右半身を研いできたときは、まるでまとわりついていた虫を振り払えたかのような気分だったけれど。その感触を、いよいよ左半身にも与えられるという事だ。その感触を想像するだけで、うっとりとしてヨダレが出てしまいそうだ。
 癖になるこする摩擦音。荒々しい彼の体表に揉まれ、研がれ、洗練されてゆく。質量で見れば、1パーセントにも満たないような小さなダイエットなのに、研ぐことで得られる爽快感は、ボディパージで鞘や盾を投げ捨てた時よりも体が軽くなる気分だ。
 そうして、次は彼の下半身。ヒトツキ時代から、威勢の下半身に触れる事なんて、仲間で一緒に狩りをした時くらいだったけれど、こんな形で下半身に触れることになるとは思いもよらなかった。ご主人だって、抱いたりしているときに触れるのは上半身のみだから、何だか新鮮な気分だ。
 そんな初体験をシチフクジンで達成するのはいささか不本意だけれど、まぁいいわね。そうして左右の研ぎをどちらも終えたら、次は体の背面。研ぐことで付いた返りを削る作業だ。研ぐことで裏側に出っ張ってしまった返りを取り去れば、私の切れ味も、そして美しさも完璧なものになる。
 裏返り、仰向けのまま美しくきらめく星を見て軽く刀身を研いでゆく。あぁ、思えばシチフクジンと一緒に同じ星を見て居ることになる。このシチュエーション、もっとこう……立派な鍵をもったクレッフィとか、同じく立派な剣を持ったギルガルドや、美しい結晶の生えたギガイアスと味わいたいシチュエーションであるのが残念だ。でも、異性と一緒に、こうして星を見る……ニダンギル時代に仲間たちと一緒に星を眺めた時も、言い知れない満足感があったけれど、シチフクジンが相手なのに不覚にもそれに近いものを感じてしまうのが情けない。
 涼しい夜風に刀身を冷たく冷やされながら返りを研い行く。最近の手入れ不足のせいで、長丁場になってしまって、さすがに疲れてきたのだけれど、こすりあげるたびに私の体の奥底からもっと棘という欲求があふれ出し、私の体は止まることがない。ようやくすべて研ぎ終えた頃には、心地よい疲労感に包まれて、気持ちの良いため息が自然と漏れ出した。
 でも、まだ終わっていない。私がさらに美しくなるのはこれから。そう、これからなんだ。

「お待たせ、アメジスト」
「むー、遅いぞー」
「ごめんね。でも、シチフクジンと同じく、貴方の体も一緒に綺麗にしてあげる」
 両肩の飾り布で彼の顔をなぜる。撫でられるのが嬉しいらしく、こちら側に顔を寄せて甘えてきた。堅い体同士がふれあって、小気味の良い音がした。数秒ほど抱擁してそっと体を離すと、自分の体をとぎに使われるのが初めてなので、若干緊張しているような面持ちだ。怯えたように濡れた瞳がちょっとかわいいかもしれない。
「大丈夫よ、安心して。さっきシチフクジンにやったように、痛くはしないから」
「う、うん……お願い」
 ごろんと、アメジストが横たわる。
「それじゃ、水をかけるぞい」
 そこに、振りかけられるシチフクジンの水。
「ねぇ、シチフクジン。私の研ぎ汁も落としてくれないかしら? きっちり流し切るつもりでお願いするわ」
「あいよ、ちょっと威力強めで行くぞい」
 あぁ、私の体が洗い流されてゆく。刀身の腹の方まできっちり錆を落とした私の刃は、美しい黄金色を呈している。けれど、私はさらに美しくなって見せる。彼が悪いわけではないけれど、シチフクジンの岩は粗い。そのため、グッと目を近づけないとよくわからないほどではあるが、切っ先には細かな傷やあらが残り、剣の切っ先は、切れ味も輝きも研ぐ前よりはましといった程度か。
 そう、野生の頃皆の憧れだったレベルの高いニダンギルのお兄さんは、沢山の雌の鞘にその刀身を納めるべく、宮殿内部にある大理石の非常に細やかな目を利用して研いでいたものだ。そうやってきめ細かな石で研がれたあの方の刀身の美しい事。濡れてもいないのに、光の加減で濡れているように光を照り返すその様は、女として鞘がうずいたものだった。
 その時の美しさ……メレシーの宝石よりも輝いて見えた記憶がある。さて、粗い研糞を落としたら、次はいよいよきめ細かな彼の体で私の刀身を研ぐのだ。やはり最初は垢のように古く風化した岩がこびりついているが、往復しているうちに、それらは禿げて、中にある堅くてきめ細かな岩肌が覘く。
 守りを固めた姿の私に匹敵する丈夫さを誇る岩のボディは、息がふれるほど近づいてみれば、かすかにキラキラと輝いている。濁った研ぎ汁すらかすかに煌めいて美しくなりそうなその体を、今から擦りあわせようとするのだと思うとなんだか少し緊張する。ごくりと生唾を飲みこんで、私は再びそっと彼と体を重ね合わせる。
 シャリンシャリンと立てる音は、今までで一番なめらかで耳の奥まで透き通るような金属音だ。そして、きめ細やかな分だけ非常に緩やかな振動が私の体の中に伝わってくる。そう、それは例えるならばじっとり濡れたウィッチの舌が私の刀身を這うような、そんな感覚。往復運動の回を追うごとに吸い付くように、そして吸い込まれるように一体感が味わえる。きっと、私の体に合った小さな傷が消えて行っているのだろう。
 とろけそうなほどに優美な感触は一度味わうと癖になる。時間が許す限り、この甘く爽やかな感触を味わっていたい。虚ろな目をして、私は初めての体験にひたすら身をやつしていた。
 やがてその心地よさにも終止符を打つ時が来た。右も左も裏も表も、すべての部分を研ぎ終えたのだ。
 全身からあふれるような満足のため息をついてから、潤んだ目でシチフクジンの方を見る。
「ねぇ、私の体を洗い流してくれないかしら?」
「おう、おいどんに任せるぞい」
 シチフクジンは研糞を洗い流すために水鉄砲を放つ。そうすると、研ぐ前とは見違える自分の姿があった。ご主人からちょろまかした手鏡には、自身の体も鏡と見まがうばかりに磨かれた姿が、手鏡との合わせ鏡として映っている。
「おー、綺麗になったなー。仲間が綺麗になってメレシーウレシーぞー」
「美しい……あぁ、研がれたお前ががこんなに美しいとは思わなかったぞい」
 私の仲間達も、こんなに褒めてくれる。良し、この姿でご主人にアタックかけて、久しぶりに振り向かせて見せるんだから。とにもかくにも、私は布巾で体をふき取ってみる。あまりに切れ味が良かったのか、少しだけ切れてしまったのが主人に申し訳ない。
 そうして体をふき取ってもなお、鏡面のように研磨された私の体は、美しく濡れたような刀身を保ったまま。濡れた女性の瞳は美しいと言っていたウィッチにも惚れてもらえそうなくらいに美しいと自負している。
 テントの中に戻ってみれば、ウィッチもさすがに主人と添い寝をしたまま眠っていたが、気配を感じて目を覚ましてしまったようだ。
「おや、君は……人違いかな、サヤカちゃんによく似ているが、とても美しい」
 ブレードフォルムにして露出度を上げ、体のラインを強調する私に、ウィッチさんは立ち上がって褒める。
「ふふん、もちろん私はサヤカよ。それは褒め言葉として受け取っておくわ、ウィッチさん」
「おや、君だったのか。はぁ、なんて美しい刀身だ……思わず、ご主人から奪ってしまいたいほどに、綺麗じゃないか」
 そう言って、ウィッチさんは私の肩にそっと指を添え、私の目の下、胸にじっとりと濡れた舌を這わせる。
「うん、触り心地も滑らかだ。ふふ、やっぱり……君の事もご主人から奪ってしまおうか……皆奪われてしまえば、みんな幸せだろ?」
「ダメよウィッチ……寝言は寝て言わなきゃ」
「おやおや、口の悪いお嬢さんだ。タチが悪い」
 そう言って、モフモフの体で私を抱きしめる。褒めてくれるのは嬉しいけれど、ご主人に抱きしめられた方が嬉しいのよ。
「わーおー、ウィッチが大胆だなー」
 と、その光景を見てアメジストは無邪気な感想を漏らしていた。茶化されると恥ずかしいわ。
「でも明日は、私はご主人のものだし、私さっきまで貴方がいた位置にいるんだから、覚悟してよね!」
 緩く啖呵を切ると、ウィッチは妖しく微笑んだ。
「うん、どうぞご自由に。雌を奪って僕のものにするのは楽しいけれど、ご主人は1人しかいないから分け合わなきゃね。明日は君の自由にするといいよ」
 と言って、ウィッチは抱いていた私を開放して、ご主人との添い寝に戻る。よし、明日は私がその添い寝のポジションを狙ってやる! 明日、主人にポケパルレをねだるのがが楽しみで寝られないかと思ったけれど、披露していた私は予想以上にぐっすりと夢の世界へと旅立っていった。夢の中でも、ご主人とポケパルレ出来たらいいなぁ。
メンテ

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