このスレッドは管理者によりロックされています。記事の閲覧のみとなります。
ホームに戻る > スレッド一覧 > 記事閲覧
平成ポケノベ文合せ2012 〜春の陣〜 【終了】
日時: 2012/04/30 20:50
名前: 企画者

こちらは「平成ポケノベ文合せ2012 〜春の陣〜」投稿会場となります。

参加ルール( http://pokenovel.moo.jp/f_awase/rule.html )を遵守の上でご参加ください。


◆日程

テーマ発表 2012年04月18日(水) 0:00
投稿期間 2012年04月28日(土)〜2012年05月27日(日) 23:59
投票期間 2012年05月28日(月)〜2012年06月16日(土) 23:59
結果発表 2012年06月17日(日)20:00
日程は運営等の都合により若干の前後が生じる場合がございますので、どうぞご了承ください。


◆目次

>>1
【B】ため息と一緒に毒を吐く

>>2
【B】ポイズンガールは終わらない

>>3
【B】ポイズンガールは終わらない(裏)

>>4
【B】夢追い人の代償

>>5
【A】「助け」の手

>>6
【B】フェアトレード

>>7
【A】勇気のタネ

>>8
【A】颯爽と吹き抜ける涼風

>>9
【A】桜井さんのお花見

>>10
【B】毒を前に、進め

>>11
【A】希望の大地

>>12
【A】Skyme to the moon

>>13
【A】 Good night, a good dream.

>>14
【A】百日紅の木の側で

>>15
【B】リフレッシュ

>>16
【A】故郷

>>17
【A】もふだね。

>>18
【B】パンドラの匣


★結果発表★ >>19
メンテ

Page: 1 | 全部表示 スレッド一覧

颯爽と吹き抜ける涼風 ( No.8 )
日時: 2012/05/07 21:15
名前: 鏡花水月

テーマ:A「タネ」


 人間からすれば、色違いのピジョットはかなり珍しいようだ。俺の存在が、そのことを証明している。俺は人間に捕まるのが嫌だったから、やつらからずっと逃げ続けてきた。やつらが変な球からポケモンを出して追いかけても、俺の攻撃で一発KOだった。そんな風に、俺は自分しか持っていない金色の羽を振り撒きながら、人間からゆうゆうと逃げ回っていた。そんな姿を見た人間たちから、俺は“涼風”という渾名をつけられているそうだ。これは、知り合いの鳥ポケモンから聞いた噂だが、そのお陰でポケモンたちからも涼風と呼ばれるようになってしまった。人間からつけられた渾名なんぞ俺にとっては無用の長物でしかないが、妙にかっこいい響きでしかもその由来もかっこいいとくれば俺はこの名前をどうすればいいのか迷ってしまう。
 俺はキャタピー一匹を食べ終えると、小さな木立を抜けて人間どもが生活を営んでいる場所に飛んできた。“街”と呼ばれる場所だと聞く。ところどころに生えていて、黒い線をつないでいる柱の上に降り立った。そこで少しの間羽繕いをするだけのつもりだったが、叫び声一つ、俺の平穏を見事に破ってくれた。どうやら骨のある人間どもが俺を見つけてくれたらしい。俺は颯爽と飛び立ち、逃走にはいった。
『見つけたぞ、涼風! 追いかけろエアームド!』
「キシャァァッ!」
 背後から人間の声が聞こえたかと思うと、鉄色の鳥が迫ってきた。鋼タイプのくせに相当スピードには自信があるようで、気付いたときには俺の背後にぴたりとつけてきていた。確かに早いけど、甘いな。
 俺は電光石火で、エアームドを振り払おうとした。雲が頭上を通り越していく。そこでエアームドも負けじとスピードアップしたが、やはり俺からじりじりと引き離されていった。
「待ちやがれぇっ!」
「んなこと言われて素直に待つ馬鹿はいねえだろうよ!」
 と叫びあったところで、俺は上に方向転換。そして百八十度後ろを向いて元来た道を辿り始めた。エアームドの姿は見えなかったが、きっと翻弄されて抑制力を失って、下に落ちているところだろう。……ん?
 目の前から緋色の龍が飛んできた。リザードン、か。そのリザードンの上には、俺を捕まえようとしている人間が球を携えて乗っていた。逃げようと後ろを振り返ったら、視界には落っこちたと思っていたエアームドが。あの野郎、まだ追っかけてたのか……。
『観念しろ、涼風! 火炎放射っ!』
「うおああああ!」
 リザードンは雄叫び一つ、炎を吐きだした。まずい! 俺は下に潜り込むと、やつの黄色がかった白の腹へ突撃した。間一髪、いや、一髪でも多すぎるという判断だった。炎は俺の翼の先端を焦がさない程度にかすめるとエアームドに直撃した。ざまーみろ、と俺は調子に乗った。エアームドは落ちていく途中で、人間の球に吸い込まれていった。
『エアームドッ!』
あろうことか、そのまま逃げ去ればいいものを俺はそのままリザードンに突っ込んでいった。つばめ返しで切りつけようとして、ドラゴンクローで返り討ちにされた。右翼の付け根に広がる痛みをこらえて、やつと同じ高度まで上がるとエアスラッシュを打った。
――――人間が従えているポケモンは、なかなか実力があったようだ。
「はん、そんな攻撃くらいじゃ痛かねえよ!」
 リザードンはエアスラッシュを頭から受け止めた。なのに、額がかち割れるどころか傷一つなく弾かれてしまった。
「ふん、石頭の阿呆か」
 俺はそんな捨て台詞を吐き捨てると、背中を見せた。その辺を彷徨い歩きながら食って生きてる俺に、プライドとかそんなもんはありゃしない。逃げるが勝ちってやつだ。
「阿呆はおまえだろーがよ。俺のご主人はお前を捕まえようってのに、ぬけぬけと突っかかってきやがって!」
『リザードン、龍の怒り!』
 人間が何か叫んだかと思うと、俺の背中に衝撃が走った。リザードンを完全に殲滅しようと後ろを振り向いても良かったのだが、今の状態では勝てそうになかったからスピードをあげて逃げることに専念した。電光石火でスピードを上げて、そのままの勢いで飛び続けた。痛みとダメージで速度は下がっているだろうけど、相手はただでさえ重たそうなガタイで、人間を乗せている。いつの間にか眼下には果ての無さそうな樹海が広がっていた。追いつけは出来ないだろうと考え、全力で少しの間飛んだあと、後ろを振り向いた。
「……ちっ」
 リザードンは着実に、しかも結構速くこっちに近づいてきている。下は森だったから、高度を下げて、相手を森の中にぶちこんでやろうと思った。一旦入ってしまえば、そのときはあの巨体のことだ。木々に引っ掛かって動けなくなるに違いない。
 だが、現実は甘いものではなかった。
『もう一度、龍の怒り!』
 空を切って、人間の声が届いてきた。少し後ろを見たところ、リザードンがさっきの技を放とうとしていた。あの距離から? 無理に決まってる!
「お前、甘く見るなよ」
 リザードンは物騒極まりない一言を漏らした瞬間、俺は龍の怒りが体にぶち当たるのを、その痛みを、体に浸透させた。翼はその機能を失って、俺は自分が仕掛けた罠に自分から掛かりにいってしまった。不幸中の幸いだったのか、木々に阻まれて、人間は俺を収納する球を投げることができなかったようだった。それでも、枝が体に引っ掛かって痛い。翼は半分折りたたまれた状態だというのに滑空は続き、ある木に衝突して俺はようやく止まった。
「いってぇ……」
 体の左側をぶつけたために、そこだけがうずうずと痛む。しばらく翼も足も放り出して寝そべっていた。やがて、さっきの戦闘で受けた傷を癒そうと、オレンの実かオボンの実でも探さねば、と立ちあがったところ、目の前に何かが落ちてきた。青い柑橘系の果物――――オレンの実? 何で俺が探しているものがこんなにタイムリーに出てくるんだ?
 俺は不審に思って上を見た。そこには、オレンの実と同色の生物がいた。頭に三つの綿毛の塊を付けている。ワタッコ? こんなところにも生息していたのか。密林とまではいかないが、なかなか深くて光もさほど差し込まないこんな中で暮らすのは楽じゃないだろうに。
「あなた、涼風さんですよね?」
「あァ?」
 俺は眉根を寄せて、その名を呼んだやつを見た。ワタッコの他にものを言いそうなやつはいないから、こいつに違いないだろうな。
「もしかして、また追われていたんですか?」
「黙れ」
 オレンの実をついばみながら、生意気な口を叩くワタッコの野郎を睨み据えた。
“鋭い目”という特性は視界を守るには役立っても相手をひるませるには及ばないらしく、ワタッコはいかんともしない表情を浮かべていた。くそっ、こいつもついばんでやろうか……!
「……」
 戦闘で傷ついた俺の体は、オレンの実の一つや二つでは足りないようだった。傷が癒えないのは構わないが、腹が減って仕方がない。
「あ、足りませんでしたかー? もうちょっと取ってきますね」
 のんきそうな声でワタッコは言うと、ぴょこんと跳ねながら茂みの中へ入っていった。
「能天気なやつだな、俺を狙っていた人間がその辺をうろついているかもしれないってのに」
 俺はオレンの実の残骸の種をくちばしで弄んでいた。さっきは苛立ちと殺意を覚えたが、話し相手がいなくなるとどうもつまらない……。ここに落ちてきたときよりはだいぶ楽になったから、その辺を散策してみた。ワタッコが消えていった方とは別の方角に行ってみると、数十秒で開けた土地に出た。開けた、とは言っても光が周囲よりは多く射しこんでくる程度で、やはり木々に覆われている。俺はその真ん中へ行くと、脚で穴を掘ってそこにオレンの種を植え付けた。
 元の場所に戻ってきてみると、ワタッコがすでに戻ってきていた。オレンの実はどこにあるのか、と思いきや奴の頭部から生えている綿毛の中に青い塊が幾つも埋まり込んでいた。
「お前、いくらなんでもその運び方は酷えよ……」
「あ、戻ってきた。何されてたんですか?」
「なんでもない」
 俺はぞんざいにこう答えると、右翼を前に出した。ワタッコは綿毛を揺らし、オレンの実を五つその上に乗せた。
「サンキュ」
「いえいえー。あ、私この辺に住んでるので、いつでも声かけて下さいね。タネっていう名前なんです」
「タネ? ……分かった、気が向けばまた来る」
 来たくてここに来たわけでもないし、用が済んじまえばとっとと立ち去ろうと思っていたのに、こう返事した俺は……。嘘を吐く性根じゃない。つまり、戻ってこようとは思っていたってわけだな。
 休息をとっていると、やがて夕闇が訪れて星が空で煌めきだした。俺はさっきの言葉を撤回し、明日になったらこの森を立ち去るつもりで眠り込んだ。優しくしてもらったのは久しぶりだな、と夢うつつに感じながら。

 すぐに立ち去ろう、と思っていたのに、いつの間にか長居してしまっていた。たんに一夜二夜過ごすなら話は別だが、今や両足の指に加え両翼の羽全てを使っても数えきれないくらいの夜をこの森の中で過ごしていた。どれくらい経ったのかは分からないが、少なくとも森に住むポケモンと流暢に話すくらいには。
「お前、ピジョンにしては防御力は高いみたいだな。だったらフェザーダンスなんざ使ってもあまり意味無いぞ」
「うっす、御指導ありがとうございました!」
 俺が涼風であると知ってか知らずか、はたまた色違いだから強いポケモンだと思われたのか、毎日森のポケモンが鍛錬として俺相手にバトルを挑みにくる。人間から狙われるような色違いのポケモンは群れから爪弾きに遭うと思っていたが、全くその逆だった。一度不思議に思って、タネに訊いてみた。
「だって、骨のある人間でも滅多にこんなところに立ち入りませんよ? 薄気味悪くて何もない場所なのに……」
 いくらなんでも、自分の住む場所をこんなに悪く言うだろうかと思ったが、鎌首をもたげたそんな疑問は無視した。
「珍しいポケモンや財宝を求めるような人間ですら来ないのか?」
「今の人間は命が何よりも大事なんですよ」
 タネのそんな言葉を訊いて、俺はこの森に入る前に俺を追った男のことを思い出した。俺が考えるような人間がそんな武骨なら、あいつはもう俺を捕まえているだろうな。この森には来ていないだろうし、来たとしてももう帰っているだろう。
 なんだ、こいつ。やけに悲しそうな表情をしてるな。
「おい、タネ」
「何ですか?」
 誰か、俺に親しくしてくれるようなポケモンがいたら訊こうと思いながら、今までずっと思っていなかった。
「お前、人間と暮らしたいと思ったことはあるか?」
 多分、生まれも育ちも野生(確証はないが)のタネははいとは答えないだろう。
「人間と、ですか? うーん……」
 ただ、俺は何故か無闇にいいえとは答えられない。もしかしたら、人間といる方が楽しいんじゃないかって今でも思う。かと思えば、やつらに虐げられて悲鳴を上げるポケモンだっている。俺は、仮に誰にも看取られずに無様に死んでいくとしてもあんな愚劣極まりない人間のこき使われ役として生きていくのだけは嫌だった。そんなのは生きてるっていわねえよ。
「付き合う相手を間違えなければ、楽しいんじゃないですか?」
 ……ほう。
 タネは、言葉を選んだようには見えなかった。こいつは人間の下にいたことがあるのか? そこまで強くもない、普通のワタッコのように見えるのだが。
「じゃあ、ポケモンが人間と一緒にいたくないって思うのは自然なことか?」
「……」
 タネは答えなかった。
「涼風さん!」
 ニョロゾが来て、俺は鍛錬の相手をすることになった。

 それから、また沢山の夜が過ぎていった。ここに是非とも留まっていたい、というわけではなかったが別の場所に行こうという気概も段々薄れていった。
 タネは、不思議なほど人間たちのことを知っていた。ポケモンを捕まえる不思議な球のことも知っていた。“モンスターボール”というその名前を、俺は彼女から聞いた。
「お前、何でそんなに人間どものことを知っているんだ?」
「一回だけ、町に来たことがあるんです」
 そう苦笑いするだけで、タネはそれ以上教えてくれなかった。よく考えれば、名前が付くポケモンというのも珍しい。俺みたいにそこいらで暴れまわって有名になるか、人間の手下となるかしか名前をつけられる方法はなかった筈だ。まさか、コイツ――――?
 いつだったか俺が種を植えたオレンの樹が誇らしく若葉を茂らせ、青い実をたわわに実らせていて、地面に落ちた果実も多くあった。運が良ければ、その果実の中の種子がまた遠くへ飛ばされて新しい樹となるだろう。
その樹の根本に、タネが来る筈がないと言っていた人間が一人座っていた。隣にはリザードンが控えている。俺は、そこで初めてタネの叫び声を聞いた。
「マスター!」
 人間は肩を跳ねあげてこちらを見た。それは奇しくも、俺をこの森に追いやったあの人間だった。
『タネ! それに……涼風!』
 人間は、長い間追いかけてきた俺が目の前にいることよりも、タネがいることに驚いていた。彼女は走っていき、その青い姿を人間の体にうずめた。俺は人間に近づこうとはせずにその場で成り行きを見守っていた。人間は愛おしげにタネを抱きしめて泣いていた。
『何処に行ってたんだ! ずっと探したんだぞ……』
 まさか、とは一瞬思ったがやっぱりな、という気持ちの方が強かった。自分の仲間を取り戻したあの人間は俺をどうするつもりだろうか。
 リザードンが、俺をじっと見つめていた。やつは俺のところまで歩いてくると、静かに話し始めた。
「貴方が涼風か。話すのは初めてだな」
 態度こそ堂々とした好青年だったが、いかんせん顔が厳つい。無意識的に技を放つ構えをとってしまった。
「随分と警戒されてるなぁ……。お前さ、俺たちに着いてくつもりはねえの?」
 何だと! 俺がそんなあからさまな誘いに乗るような馬鹿に見えるのか!
 逆上し、気付けば翼を上に振り上げていた。リザードンは難なくかわしたようで、一歩後ろに下がっていた。金色の羽が一枚、ひらりと舞い落ちる。残念ながら飛んだ軌跡に虹を残す伝説のポケモンの羽ではない。かわされたことに対し苛立ちこそ覚えたが、よく考えればエアスラッシュを額で受け止めるようなポケモンだったな。
「危ねえなあ」
『涼風』
 リザードンの横に人間が歩いてきた。傍にはタネもいる。
「涼風さん、お世話になりました」
 彼女は礼儀正しく頭を下げた。どうやら、タネはこの後人間に着いて行くらしい。この森は、彼女が件の人間から離れて迷子になったときに迷い込んだところでこんな森の奥地じゃあ迎えに来てくれる筈がないと諦めていたのだそうだ。こいつは、こんな森の奥地でもはぐれたポケモンを迎えに来るというのか。
『お前、俺たちに着いてくる気はないか? 一緒に来てくれないか?』
 残念ながら、まともに人間と接したことがない俺はこいつが何を言っているのか理解できなかった。タネに翻訳を仰いで、その言葉をじっと脳内で繰り返した。
 俺は人間の目を見た。“鋭い目”という特性を持っている筈なのに、何故か目を逸らしてしまった。タネと人間が再会してから、俺の中でこの人間に対するイメージが全く異なってしまった。
「ちょっと……考えさせてくれ」
 答えかねる質問を弄びながら、俺は来た道を戻っていった。人間は俺を追おうとはしなかった。かなりの距離を歩き、すぐに戻るには飛ぶしかないところまで来ていた。
「タネ……?」
 だが、彼女は俺に着いてきていた。金色に染まった俺を無垢な瞳に映す。
「……」
 俺が名前を呼んでも、何も言おうとしなかった。丁度よかったから、俺は言いたいことを全て言うことにした。
「お前、あの人間に会えて嬉しかったか?」
「……はい」
 小さい声だったが、滲み出るのは明確な意志だけで曖昧さは感じ取れなかった。俺はもう一つ、最早これは言いたいことじゃなくて訊きたいこと、だな。
「あの人間、なんのためにポケモンを連れているんだ?」
 今度は返事までに少しばかり時間がかかった。やがて、タネは二回、三回と息を漏らした。
「多分、私達と仲良くなりたいんだと思います。仲良くなって、世界中の皆に幸せになってもらいたいんだと……思います」
 人間とポケモンが仲良くなることが、何故世界中のやつらの幸せにつながるのか、と疑問に思ったが、そのときあの人間の誠実そうな瞳が脳裏に浮かんだ。今なら、その瞳の奥に何があったかも断言できる。人間も、良いワタッコを仲間にしたもんだな。こーりゃまいった、降参だ。
「お前は、タネじゃねえな」
「え?」
 何であのとき、大人しくあの人間に着いていこうと思わなかったのか後悔したが、あのときの俺は人間など微塵も信じていなかったことを同時に気付いていた。
「タネはあの人間だ。いつか、ラフレシアよりもでかい花を咲かせるよ。どんな花かは知らねえけどさ」
「は、はぁ……」
 ワタッコは、俺の意味するところを理解しかねているようで、首をかしげていた。俺は、まさに俺自身が種を植えたオレンの樹の幹に寄りかかっていたあの人間を頭に思い浮かべていた。
「で、俺はあの人間さえよければそのタネが芽吹いて花になるまで手助けしてやってもいい」
 人間に着いていくことがとても楽しいものかどうかは知らないが、こいつはどう見ても楽しそうじゃないか。
「……そ、それって」
「合格だ、人間。せいぜいこの涼風を楽しませてみろっ!」
 俺はそう言い、ワタッコを掴むと颯爽と翼を動かして将来の大きな花の元へ飛んで行った。
メンテ

Page: 1 | 全部表示 スレッド一覧