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平成ポケノベ文合せ2012 〜春の陣〜 【終了】
日時: 2012/04/30 20:50
名前: 企画者

こちらは「平成ポケノベ文合せ2012 〜春の陣〜」投稿会場となります。

参加ルール( http://pokenovel.moo.jp/f_awase/rule.html )を遵守の上でご参加ください。


◆日程

テーマ発表 2012年04月18日(水) 0:00
投稿期間 2012年04月28日(土)〜2012年05月27日(日) 23:59
投票期間 2012年05月28日(月)〜2012年06月16日(土) 23:59
結果発表 2012年06月17日(日)20:00
日程は運営等の都合により若干の前後が生じる場合がございますので、どうぞご了承ください。


◆目次

>>1
【B】ため息と一緒に毒を吐く

>>2
【B】ポイズンガールは終わらない

>>3
【B】ポイズンガールは終わらない(裏)

>>4
【B】夢追い人の代償

>>5
【A】「助け」の手

>>6
【B】フェアトレード

>>7
【A】勇気のタネ

>>8
【A】颯爽と吹き抜ける涼風

>>9
【A】桜井さんのお花見

>>10
【B】毒を前に、進め

>>11
【A】希望の大地

>>12
【A】Skyme to the moon

>>13
【A】 Good night, a good dream.

>>14
【A】百日紅の木の側で

>>15
【B】リフレッシュ

>>16
【A】故郷

>>17
【A】もふだね。

>>18
【B】パンドラの匣


★結果発表★ >>19
メンテ

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故郷 ( No.16 )
日時: 2012/05/28 00:00
名前: レイコ

テーマA


ハクタイの しんわ

むかしむかしの ことです
ひとと ぽけもんが いっしょにくらす ひろいゆたかな もりがありました
やがて ひとびとは もりをきりひらき そこにまちをつくりました
すみかを うしなった ぽけもんたちは みんなどこかへ うつりすんでしまいました
そして ときはながれ あるとき おおきなせんそうが おきました
たくさんの いのちが うしなわれました
まちは やけのはらとなり みるかげもなくなりました 
そこへ じしんのような あしおとを ひびかせて やってくるものが ありました
せなかに いっぽんのきをはやした たいりくぽけもんたちの きょだいな むれです
たいりくぽけもんたちは いちぶの すきもなく あらそいの あとちを うめつくし
あれはてた とちに みをゆだねて だいちと ひとつになりました
こうして もりは かつての こうだいな すがたを とりもどしました


□   □


 草の要素が詰まった体は陽の光を充分に浴びてやっと活動的になるものだ。それが近頃は眠りも浅く、夜も明けぬうちに瞼が上がってしまうのはきっと歳のせいなのだろう。高い木の葉の間から漏れて差す星明かり。無音で通り過ぎた帚星があったように思う。彼は寝床から首だけじっと上向きに傾けて、日の出とともに肩身の狭くなっていく闇を見送るのが日課となっていた。
 だが今朝の目覚めはいつもと少し変わっていた。かさり、がさり、と乾いた音が未明の薄い意識に囁きかける。風もないのに葉擦れが起きる訳がない。彼は目を覚ました。
ぎくりとした。音は天蓋のように空を覆っている枝葉からではなく、なんと背中の上から聞こえくる。背中の甲羅に生やしてある一本の灌木を何かが荒らしているらしい。
 鼓動が速くなる。懐かしい感覚だ。
彼はこの森に住む生き物の中で最も巨大で最も高齢な、謂わば旧世紀の遺留品である。生存競争の第一線から身を引いてもその頑丈な体は年月に比例して堅さを極めていくようで、どんな荒くれ者も小島のような老体を一瞥しただけで立ち去ってしまい、身の危険を感じさせるような出来事と久しく縁が無くなっていた。

「誰かね。それはわしの木だよ」

 彼は朽ち木のように柔らかい物腰で尋ねた。しばらく食べ物を通す以外に喉を使っていなかったので、今聞いた自分の声がまるで別物のように感じられる。若い頃は樹皮のようにごつごつしかった声が随分角の取れたものだ。
 どんな僅かな言葉も聞き逃さないように、彼はじっと聞き耳を立てた。葉擦れの音が止まる。しかし答えはなかなか返ってこない。その代わり規則的な呼吸音が聞こえ始めた。背中の珍客は、灌木の葉に埋もれながら眠ってしまったようだ。
 さて、どうしたものか。枝葉に意思を届かせて振るい落とすことも出来る。だが、ここで辛抱強く相手の正体を探るのも一興かもしれない。何せ隠居生活は残酷なくらい暇なのだ。よし、見極めてやろうじゃないか。彼は相手が自然に目覚めるまで待つと決めた。どっちみち朝日を待つのと大差ないだろう。

 日が昇り、気温が高くなってくると背中の葉をかさかさ揺する音が再開された。思った通り動き出したようだ。
「おはよう」
 彼は明け方前に話しかけたのと同じ調子で挨拶した。返事はやはり無い。こちらの声が聞こえていないのだろうか。しかし、彼が一番気になったのは聞こえてくる音の質が少し変化したことだ。かさかさ、に加えて、ぎりぎり、とまるで何かを噛み切ったり縛ったりするような。予感を裏付けるように、鈍感ながらも神経の通った彼の枝葉が異常事態を告げている。
「お前さん、わしの葉を食べてるのか?」
 相手は何も言わない。口いっぱいに緑の繊維を頬張っている様子が目に浮かぶ。
彼がまだ幼くて頭に双葉が生えていた頃、鳥の形―カタチ―にその子葉の片割れをついばまれたことがある。あれは痛いというより恐かった。背中の灌木の葉を囓られるのも同様に痛くはないが、鼻先に息を吹きかけられているかのようなムズムズとした感触を得られるのが気になる。やはり振るい落としてしまおうか。そんな矢先、彼の耳は雨水が地面に垂れる音より早く、待ちに待った小さな声を拾い上げた。
 虫の啼き声だ。意味を持たない喃語とおぼしい。そうか。だから何も答え『られ』なかったのか。
背中の訪問者は、食欲と睡眠欲が活力の、生まれたての虫の赤ん坊。
厄介で、憎めない事実に直面してしまった。さて、どうしたものか。他所の木でも生きられるとして問題は振るい落とすことのほうだ。地面にぶつかった衝撃でころっと逝ってしまわないか。そんな命の奪い方をして良心が咎めないか。
仕方がない。食害は様子見だ。もう少しだけこのムズムズに付き合ってやろう。体が大きくなればより良い樹を求めて出て行くに違いないから。彼は気を取り直した。自分も朝食を採ろうと思った。いつものようにあの湖へ行って綺麗な水をたらふく飲んだら、水辺の花でも眺めながら光合成をして過ごそう。
大きな生き物たちが同じような経路を辿るうちに、そこはいつしか彼の体幅が楽々通れるほどの広い獣道が出来上がっていた。今日もその道を拝借して湖まで抜けると、起き抜けの太陽が早くも湖面を銀の粉をまぶしたように煌めかせていた。空では黒っぽい鳥のカタチが囀り、丸々とした鼠のカタチが水縁に打ち上げられた枯れ枝に白い前歯を立てており、耳先にふわふわの飾り毛がついた茶色い兔のカタチは美味しそうに青草をはんでいた。見た目は似ていないが彼と同じ草の力を持つカタチもたくさん来ていた。岸辺にいる花のカタチは赤と青の優雅に咲き誇る両手から誰が一番蠱惑的な香りを放てるかを競っているらしく、風も凪いでいるので辺りがうっとりするほど甘い香気で満たされている。
いつもと変わらない穏やかな朝の景色。その中でもとりわけ彼の中心視野を押さえていたのが、水面に儚くたゆたう一つのカタチだった。額には小さな角。くるりと巻いた耳。親近感の湧く灰色の甲羅。もたげた太い首は一瞬蛇の鎌首のように見えなくもない。青い皮膚は湖面が空の色を映した時によく溶け込んでいた。
この湖にあの甲羅のカタチが現れたのはそう遠い昔のことではなかった。当時、情報は足が付いたように森を駆け回り、あの見慣れないカタチが湖を独り占めする気ではないかと悪い噂も立った。彼は丸鼠のカタチ達が「人間の仕業だ。彼女は捨てられたのだ」と話しているのを聞いた。元はこの森の果てにある「海」という場所に住むカタチだということも。泳ぎに適したあの体では陸を行きたくとも行けないに違いない。以来、あの甲羅のカタチは誰と交わることもなく湖の真ん中で独り静かに暮らしている。
度々彼女は、全てを赤く染め上げる白日の終焉に身も凍るほど美しく哀調を帯びた調べを手向けた。二度と帰れない故郷を想っているのか。二度と会えない家族や仲間を偲んでいるのか。自分を捨てた人間を憎んでいるのだろうか。それとも今も愛しているのだろうか。
真意のほどは誰にも分からない。しかしあの甲羅のカタチの唄に耳を傾ける時、彼は自分の憂いが水気を絞り出されて昇華する心地になれた。彼もまた取り残された身空なのである。家族はすでに亡くし、冒険に憧れて森を出た仲間の消息はほとんど分からない。以前、旅から戻った数名が森の外で得た素晴らしい体験について語って聞かせてくれたことがある。あの眼の輝き、あの速い息遣い。いつ思い起こしても肌に熱い風が吹く。そして英雄達はみな口を揃えてこう締めくくる。どこで何をしていてもやはり故郷は忘れられない。だから帰ってきたのだと。
故郷に拘りを見せた仲間の胸中は、頭では理解できても深い部分で寄り添えた気がしなかった。じゃあ帰りたいと思いたくなくなるほどに荒れ果ててもか、と聞いてみると、ああきっとそのようなものだろうとあっけらかんとした答えが返ってきた。故郷を一歩も出たことのない若い彼はどうしても腑に落ちなかった。外界で山ほど珍しいものを見てきたくせに。本音を言うと彼は羨ましかったのだ。大胆不敵に外界に乗り出した仲間達の生き様が。若い時分の彼はとにかく自信のない男で勇敢な仲間達への劣等感で雁字搦めとなっていた。だから皆が旅に出る時は揃って逃げるように浸かり込んだ。幼い頃から慣れ親しんだ、平穏が一番の生活に。それが当たり前になりすぎて今さら有り難みを語られても実感は湧かなかったが、あの時は外界の引き立て役として故郷の名も大いに働いて聞こえた。それだけのことだった。
なのに。偉大な友は晩年まで愛し抜いた土に抱かれて、とうの昔に眠りについたというのに。自分はまだ生きて故郷の土を踏みしめている。皮肉な話だ。
湖に着いたのを境に背中の灌木を食い荒らす音は止んでいた。彼は子どもを持ったことがないので生まれ立ての頃というのは本当に喰っちゃ寝が仕事なのだと変に納得してしまう。それからこんな事を考えた。もしかすると、この虫の赤ん坊にとっては自分の背中が故郷になるのではないか。生まれ、そしてここで育つのだとしたら。そう思うと途端に心が侘びしくなる。自分にとっての故郷はこの森だ。こんなに広大な姿で在れる筈がない。仲間の亡骸を受け入れて未来への糧としたこの土地は、故郷とは、そう。命と想いも引き受ける永遠の器だ。しかし生きている限り、どう足掻いてもその時は訪れる。それならいっそ忘れられたほうが気も楽だ。元気に巣立ってくれればそれで良い。離れていく背中を閑かに見送りたい。だからその瞬間が叶うまで、自分も命を輝かそう。この子と一緒に、精一杯。
「いつか、行っておいで。そしてこの世界のどこかに、今度はお前の命の種を落としておいで」
もうじき夕暮れだ。日がな一日湖の畔で過ごしてしまった。さあ来た道を戻ろうか。甲羅のカタチが歌い出す前に。幼子にあの哀しい調べを聞かせるのは誤りなのだから。そして願わくばこの子にはあの旋律に魂を震わせることのない、正反対の余生を送って貰いたい。想うだけ切ない望郷の念など、これっぽちも抱かずに。
メンテ

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