ウインディもふもふ ( No.14 ) |
- 日時: 2012/01/24 00:01
- 名前: 一葉
- テーマB:「門」「結晶」「教えて」
むかしむかし、人間とポケモンは仲良く暮らしていました。 人間の王様とポケモンの王様はお互いに協力しあい、支え合ってきました。 ですが、ある時人間の王様は言いました。 「ポケモンの力があれば暮らしはもっと豊かになる」 人間の王様はポケモンの力で炎を扱う知識を手に入れました。 人間はもう自分で炎を起こす事が出来ます、炎ポケモンは火を吐くから危ない、と追い出されてしまいました。 人間の王様はポケモンの力で水を治める術を手に入れました。 人間はもう水害に怯える事もありません、水ポケモンは水の中で暮らすから水を汚す、と追い出されてしまいました。 人間の王様はポケモンの力で作物を育てる知恵を手に入れました。 人間はもうお腹を空かせて困る事もありません、草ポケモンは地面を痩せさせる、と追い出されてしまいました。 人間の暮らしはどんどん発展していきます、もうポケモンの力なんて必要ありません。 いつの間にか、ポケモンはみんないなくなってしまいました。 ポケモンの王様は言いました。 「もう僕たちの居場所はここにはない」 人間の王様は尋ねました。 「どこに行くんだい?」 ポケモンの王様は悲しそうに答えました。
そう……
「林田くーん、授業中はお休みの時間じゃありませんよー」 目が覚めた、それはもうすっきりと。先生の口元は引きつっているし、教科書を持つ手は震えている。本気で起こってる、そう思ったら眠気なんてどっかに逃げていった。 「嫌だな先生、眠ってなんてないっすよ」 「寝言、言ってましたが?」 満面の笑みに怒気を乗せる。そうか、寝言なんて言っていたのか。もはや弁解の余地はない、素直に謝って置いた方が良いのかもしれない。先に反省して見せた方が罰も軽くなると言うものだ。 「サーセンでしたーっ!」 勢い良く頭を下げる。その直後、ゴッという鈍い音がして目の前で星が舞った。殴ったよこの教師、それもグーで。 「やっぱり寝てたかこの野郎」 言葉遣いに地が出てますよ先生。文句を言いたいところだが、体罰だなんだと訴えて勝てるレベルの一撃に完全に沈黙してしまっている。頭の中がぐわんぐわんとしていてまともに働かない。 「テスト範囲、後で友達から教えてもらっておけよ」 最後まで男言葉のまま、先生は教室を出ていく。その辺りで、せっかく目覚めた意識は闇の中に沈んで行った、気絶的な意味で。
学校から少し離れた山の中に、今は使われていない山小屋の秘密基地がある。 「ハヤシも大変だったな」 「大変なんてもんじゃねーよ、見ろよコブが出来た」 頭の後ろの方を指差して見せる。先生の拳骨でそこには見事なコブが出来ていた。 「寝てるヤツが悪ぃだろ、しかしバカだよなー」 「なにが?」 「寝言なんて言ってなかったぜ、あのまましらばっくれてりゃ本当に寝てたかなんてわかんなかったのに」 「なん……だと? てことは騙されたのか!?」 「だな」 ゲラゲラと大笑いする友人にとりあえず身近にあったスナックの空箱を投げつけておく。他人事だと思いやがって。 「ああ、くそ、テストなんて忘れてバトルしようぜ」 「俺を赤点に巻き込むな」 パタパタと手を振り拒否する友人のカバンを漁り、3DSを取り出す。 「おまえな、ノート見せてくれって言うから来たんだぞ、遊ぶんなら帰るぞ?」 「良いだろ少しくらい、おまえのポッカピにリベンジしなきゃやる気が出ない」 「前もそう言ってて結局最後まで遊んでたじゃん」 それでもノリの悪い友人はバトルに付き合う気はないらしい。面白くない。 「いいから、ほらDS投げるぞ、取れよ、ちゃんと取れよ」 念を押して二回繰り返す。おまけにもう一度投げるからなと念には念を入れて、投げる。軽く放った。距離は遠くないし、普通に受け止めれば落とすような強さでもない。そう、普通に受け止めれば。 「あ」 友人は振り向きもしなかった。受け止める相手のいないDSは、そのまま友人の背中に直撃し、さらにガチャンと大きな音を立てて地面に落ちた。 「あ?」 振り向いた友人の顔が茫然とし、驚きに変わり、怒りに染まる。 「な、投げんなバカ!」 「バッ、取れって言っただろちゃんと!」 「本気で投げるバカがどこにいんだよ! このバカ!」 「またバカって言ったな! 二回もバカって言ったな!?」 「バカだからバカって言ってんだろ! バカをバカ言って何が悪い!」 「バカバカ言うなこのカバ!」 「今の暴言を俺とカバさんに謝れ! あとDS投げたこともごめんなさいしろ!」 「うっせ! あーうっせ!」 詰め寄る友人を手で追い払う。なんでこいつはこんなにしつこいんだ。 「萎えた、帰る」 「てめ、人呼び出しといて帰んのかよ、ハヤシィ!」 友人が後ろで叫んでいるが関係ない。そのままカバンを手に山小屋を飛び出した。
やることもなくなったが、家に帰れば母さんが勉強しろとうるさいから山中をぶらつく。目的はないけれど、またぐちぐちとうるさく言われるよりはまだマシだ。 「あーくそ」 ただ歩いていても手持ちぶさたで、カバンから自分のDSを取り出してみる。友人には勝てなかった自慢のポケモン達。なんで勝てないんだろう。 不意に、足が沈んだ。身体がそのまま傾く。倒れる、そう思って堪えようとした足が空を踏んだ。
目の前が真っ暗になる。何が起きたんだ。くらくらとする頭を揺すり、目を開ける。 「……くそ」 目の前には小さな崖、崖と呼ぶには申し訳ないようなニメートルくらいの段差がそびえ立っていた。つまりあれか、DSの画面を見ながら歩いてたら足を踏み外したと言うことか。なんてマヌケだよ、くそ、誰がバカだこんちくしょう。 落ちた時にぶつけたのだろう、尻が痛い。それでも我慢して立ち上がると、思い切り崖を蹴り付けてやった。 ズボッ。 「んあ!?」 すると、蹴り付けて足が膝の辺りまで埋まる。何だこれ。恐る恐る足を引き抜いて見ると、どうやら中が空洞になっているようだった。ゲシゲシと周りを蹴り壊し、人が通れるくらいまで拡張する。 「やべぇ、テンションあがってきた」 それは洞窟だった。結構奥まで続いている。ハヤシは岩砕きを使った、洞窟が通れるようになった、てとこか。 洞窟内は意外と明るかった。野生のダンゴロとかイシツブテが居そうなフインキだ。あれ、フンイキだっけ、どっちでもいいか、そんなもんじゃワクワクは止められないぜ。 さらに進むと、洞窟は少しずつ広くなり、最後には大きな空間に繋がっていた。 「うっは、すげぇ、マジかよ」 それが驚かない訳がない。洞窟の終点、いや、まだ終点じゃないか、行き止まりには、十数メートルはあろうかと言う巨大な鉄の門が口を閉ざしていた。門には左右に一体ずつ、どこかで見たことがあるような竜が描いてある。片方は二本足で立つ肩に珠のある竜、もう一方は四本足で胸に珠を持つ竜。 「開くのか、これ?」 重厚な鉄の門を思い切り押す。びくともしない。こんにゃろ、と思い切り蹴り飛ばす。 「痛……ってぇー!」 当然足が痛かった。思わず足を足を抱えて跪く。すると、あれだけびくともしなかった鉄の扉がわずかに開く。 「お?」 狭いがギリギリ通れるだろうか。無理矢理身体を通して行く。そして、門を抜けた。
言葉を失う。空が見えた。洞窟を抜けたらしい。あんなどでかい門があるくらいだから金銀財宝でも隠してあるのかと思ったら拍子抜けだ。 「なんだ、外に繋がってるだけか」 急に熱が冷めていく。ここがどの辺りなのか、探索を続けようと思えば出来たけと、もうその気にはならなかった。帰ろう、そう思った瞬間だった。 「ピカ?」 鳴き声がした。意外と低音で、「ピ」と言うよりは「ヴィ」に近い音だったけれど、それはやっぴり「ピ」だ。 赤いほっぺ、黄色いシャツ、ギザギザ尻尾のあんちくしょう。 「ピカ……チュウ?」
ピカチュウ、かわいいキャラ作りポケモン、初代からで未だしゃばり続けいい加減降板を期待されている……じゃなくて、ポケモンだと。 ポケットモンスター略してポケモン、延々とシリーズを重ねついに育成出来るモンスターの種類六百を越え誰がそんなにやりこむんだと言わざるを得ない時代に名を残す名作ゲームである。育成や対戦が熱く、目の前にいるピカチュウと同種族のポケモンを友人が使っており、どうしても勝てないので大嫌いだ。 そのピカチュウが逃げていく。逃げられると追いたくなるのがポケモントレーナーとして当然、と踏み出し掛けた一歩をそれが止めた。 燃え上がる焔に似たたてがみは伝説ポケモンと呼ばれるが普通に草むらから飛び出してくるポケモンを進化させれば手に入る伝説でもなんでもないポケモン、ウインディだ。 「イケメン……だと!?」 さすがウインディかっこいいよウインディ伝説じゃないのに伝説名乗る辺りがシビれる憧れる。落ち着けそうじゃない。なんでポケモンが実在しているか、そうだろう? つまりあの門は現実世界とポケモン世界を繋ぐ門、ようこそポケットモンスターの世界へ、オーキドどこだ!? アララギでも構わん、御三家を寄越せ! 「ここも人間に見つかってしまったか」 ぽ、ポケモンが…… 「喋ったぁー!?」 冷静になれ、ポケモン世界ならポケモンが喋ったところでニャースだと思えば大丈夫だ。クールになれ、と言い聞かせている間にウインディが背を向ける。逃げる、そう思ったとき、ウインディから何かが落ちた。 「なんか落としたぞ?」 そのまま走り去ろうとしたウインディを呼び止める。無視して行ってしまうかと思ったがウインディは数歩駆けたところで足を止めていた。ウインディが落としたそれに駆け寄り、拾い上げる。 親愛なる我が友へ。半透明に光る水晶のような石を埋め込んだブローチだった。 「何だこれ? 友へって書いてあるけど、大事なものじゃないのか?」 こういうのは本当に大切な親友に贈るもんだ、それくらいはわかる。 「……大切なものであるものか」 「でも、友達からもらったもんだろ?」 「友達などではない、人間など、利用するだけ利用し、都合が悪くなれば裏切る、それが人間であろう」 「な、なんだよそれ……」 人聞きが悪い、人間として反論してやろうと、そう思ったのに、言葉が出なかった。
「おまえな、ノート見せてくれって言うから来たんだぞ、遊ぶんなら帰るぞ?」 「てめ、人呼び出しといて帰んのかよ、ハヤシィ!」
なんだよ、くそ。友人の言葉が頭を過る。 「信頼の証? 友情の結晶? 笑わせる!」 「お、おい!? どこ行くんだ? 教えてよ!」 再び背を向けたウインディに尋ねる。ウインディは一言、哀しげな瞳で答えた。
ポケモンの王様は言いました。 「もう僕たちの居場所はここにはない」 人間の王様は尋ねました。 「どこに行くんだい?」 ポケモンの王様は悲しそうに答えました。
「人間のいないところへ」
「おい、ハヤシィ! しっかりしろよハヤシィ!」 「……ゆぅ……と?」 目を開けると、友人が泣きそうな顔で叫んでいた。 「よかった……生きてた……」 「なんで……」 「そこから落ちたんだろ、上にDS落ちてて、拾おうとしたら、下に倒れてるのが見えて」 「……夢?」 崖の洞窟もない、今までのは全部夢だったのだろうか。
『人間など、利用するだけ利用し、都合が悪くなれば裏切る、それが人間であろう』
ウインディの言葉が蘇る。なんだよそれ、全部……言い様に友人を利用して、都合良くいかなきゃ逆ギレして…… 「俺みたいじゃん」 「どうした?」 友人の顔が涙でぐちゃぐちゃだ。それだけ、心配してたんだ。なのに、俺は…… 「あのさ、友人、さっきはごめん」 「は……なんだよいきなり、頭でも打ったか?」 友人が泣きながら笑う。だからそういう事にしておこう。ふと握った手には、あいつが落としたブローチがある。夢だけど、夢じゃなかった。この出会いは、きっと信じてもらえないと思うから。
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