このスレッドは管理者によりロックされています。記事の閲覧のみとなります。
ホームに戻る > スレッド一覧 > 記事閲覧
2011年春企画 ★結果発表
日時: 2011/04/15 22:44
名前: 企画者

☆ごあいさつ
各地で桜が満開の季節を迎えております。
新年度をおむかえして、皆様いかがお過ごしですか。 春は何事も新しくなる季節。皆様もこれを機になにか新しいことを始めてはいかがでしょうか。
そういった気持で今回の企画も気軽に参加して頂ければ幸いです。

☆企画概要
◇主旨

短編の小説作品を投稿し、その完成度を競います。

◇日程
・テーマ発表日  :4月16日(土)
・作品投稿期間  :4月23日(土)0:00〜5月14日(土)23:59
・投票期間  :5月15日(日)0:00〜5月24日(火)23:59


☆参加ルール
※前回からの変更点はありません。

・企画作品は必ず企画用掲示板の2011年春企画スレッドへと投稿してください。

・一作品につき必ず一レス(30,000字)に収まる長さにしてください。

・投稿作品はテーマに沿ったものにしてください。テーマの説明は後述。

・Aテーマを一次創作可、Bテーマをポケモン必須のテーマとします。お間違いの内容お気をつけください。

・参加のための申請などは一切ありません。気まぐれでのご参加もドンと来いです。

・作品投稿の際のHN(ハンドルネーム)は自由です。複数投稿してそれぞれ別のHNを使用しても構いません。

・過度に性的、および暴力的な文章はご遠慮ください。また、それらの判断基準は運営側で判断させていただきます。

・お一人様につきの投稿数は三作までです。

・投稿の際の記事には以下の内容を必ず記入してください。
@作品タイトル(※掲示板の仕様上、必ず“題名欄”にご記入ください)
Aテーマ
B本文
 なお、あとがきなどの本文終了後の文章のご記入は任意です。

・以上の内容が守られない場合、投票の凍結、最悪の場合は作品を削除することがあります。



☆テーマ


A「リスタート」
 春は始まりの季節、とよく言われていますがたまには振り返ることも大切です。
 振り返った上での再出発、リスタートはいかがでしょうか。この春企画で物書きとしてのリスタートも兼ねて。


B「鐘」
 鐘と一口いっても種類は様々。お寺の梵鐘、教会のベル、はたまた学校のチャイムなどなど。個人的な見解ですが、鐘の音というのはいつなんどき耳にしても心安らぐものです。



☆目次


>>1
B:「ばいばい、」 by ¥0

>>2
B:「Once Again Sound of That Bell... 〜 あの鐘をもう一度…… 〜」 by ドクターペッパー

>>3
A:「シンクロケーシィ」 by 緑坂 美波

>>4
A:「散りゆく桜が蘇るなら」 by 奥野細満

>>5
B:「鐘の唄」 by 命の担い手

>>6
A:「蔵」 by スパイダーマン

>>7
A:「檻の中の小さなはらっぱ」 by 北里ミカ

>>8
A:「偽心真心」 by プラネット

>>9
A:「魅了入門」 by Rと名の付かない

>>10
B:「無音の世界」 by ニシカミ リザード

>>11
B:「みそか成長記」 by ファンシー至上主義

>>12
B:「夢の野原」 by 古今東西

>>13
A:「Midnight Mansion」 by ファイルケース

>>14
A:「MONK」 by 乃響ぺが

>>15
B:「きらきら」 by (´・ω・`)

>>16
A:「飛び出す○○○と地を逝く×××」 by プロジェクトMのやおい系

>>17
B:「ダルマッカの為に鐘は鳴る」 by the lost bell

>>18
B:「ハガネイロ」 by 鹿渡 功労

>>19
B:「アラブルアブソル、主人ト離レテ、ブル ブル ブル」 by 鹿渡 功労

>>20
A:「クソ親父」 by 外野の人

>>21
A:「全てが君の力になる」 by フォルテシモ



・結果発表 >>22
・運営総評 >>23
メンテ

Page: 1 | 2 | 全部表示 スレッド一覧

きらきら ( No.15 )
日時: 2011/05/14 17:33
名前: (´・ω・`)

Bコース






 冒険の予感がした。
 船着き場の護岸ブロックの上に立ちながら、ゾロアはじっと海を見ていた。大きな月に照らされた滑らかな海の真ん中に、悠然と船がやってくる。屋台に売っているきらきらのジュエルボックスをいくつもいくつも重ねたような輝きは子供ながらに見事と思えた。まるで広い海の全てを、あの船がごっそり従えているみたいだ。
 白波立てて近づいてくる豪華船に背を向けて、ゾロアはぴょんぴょんとブロックの上を跳ねて行く。夜目が利くから別にいいのだけれど、そうでなくても十分に明るく、足元の見える夜だった。友達のヘイガニが顔を覗かせ、やや、すごいのが来てるね、と言った。皆に報告しなくっちゃ、と返してゾロアははにかみ笑いした。そうしてすぐに駆け出した。
 堤防をのぼりきってコンクリートの上をぺちぺち走る。ふいに世界が暗みを増した。お月さまが雲に隠されていく、と空を仰ぐでもなくゾロアは思った。月明かりがなくとも、あの船のライトのお陰だろうか、やっぱり十分明るい夜だった。
 けれど、月が隠れたからこそ、見つけることができたのだろう。遠くちらっと何かが光った。あれ、とゾロアは目を細める。星屑のように小さなピンク色の瞬き。発光しているのではない。翻る何かが反射しているのだ。
 ゾロアは地面蹴る足の力を強める。ピンクの輪郭が見え始める。それを追い立てる、いくつかの獣の姿も。たてがみを切る風が不穏な熱気を帯びていく。唸り声。続く悲鳴。ただごとじゃない。意図して、ぴんとした体の緊張をほどく。逆立つ毛並みの興奮を静める。冷静に、冷静に。閉じる瞼の裏にひとり、大きな人間の背中を思い浮かべながら――イリュージョン、と呟くと、あっと言う間にちいさなゾロアは大男へと化けていた。
 おおおお、と腹の底から叫び散らすと、きゃうんと獣たちが委縮した。長く逞しい四肢を振りかざし、人間は獣とピンクに割って入った。ムーランド一匹、ハーデリア三匹。その首輪に光る『紋』に見覚えがあり、ゾロアは思わず身震いを起こした。それはゾロアだけじゃない、この国に住んでいる生き物ならおよそ誰もが、畏怖を抱く強烈な紋だ。大男の委縮するのを見、ムーランドはくっと険しい表情で姿勢を立て直した。
 さてピンクはその隙に護岸ブロックの方へダッシュしていく。視界の端にそれを認めて、目の前に飛び掛かってきたハーデリアのいくつかを、すんでのところでゾロアに戻ってひょいひょいと駆けてかわしてみせた。何か吠え立てたいかり顔のムーランドの額へ、ていっ、とゾロアは蹴りを一発。クリーンヒット! よろめいたムーランドを踏み台に、体翻してすぐさまピンクを追う。闇色の体だ、夜目の利かない相手ならば、少し離れればこちらのもの。
「――ヒメ! ヒメ!」
 狂ったうに喚いているムーランドの声の中に、ボォォッ、と地響きのような音が鳴った。豪華船の汽笛だ。
 ブロックの隙間と隙間で、ヘイガニの好奇の視線を受けながら、ピンクはぷるぷる震えいていた。よく見ればピンクは服の色で、本体のほうは泥に汚れたねずみ色。服を着たポケモンなんて珍しいよね、というヘイガニの興奮した声を聞いて、あの首輪の『紋』を思い返し、ゾロアはなんだかとんでもないことになっちゃったな、という気がしてきた。しかし乗りかかった船ってやつだ。皆だってそうして、いつもゾロアを助けれくれた。
 もう動けそうにもないピンク、改めねずみ色をヨイショっと背負って、ゾロアはもう一度駆け出した。波打ち立てるブロックの上を先程より幾分重い足取りでぴょんぴょん行って、誰も見ていないことを確認すると、そこの合間の深い穴へと飛び込んだ。





「――あーさー! 朝だよっ朝! アッサァーホラ起きろネボスケみんな起・き・ろォー!」
「やかましいわアホインコ!」
 そんな騒々しいやり取りに耳をやられて、ピンク、改めねずみ色――改め、泥汚れのチラーミィは、ぱっちり目を覚ました。
 そしてばっちり目があった。しげしげ寝顔を覗きこんでいたゾロアは、急に瞼を上げたチラーミィの黒目を見て、はぅっ、と鳴いて大げさに体を引いた。それから顔を真っ赤にして、わいわい言いながらどこかへ走り去った。その間にも、インコじゃない! インコじゃない! という甲高いBGMが狭い小屋の中に流れ続けている。唯一の窓のあちらとこちらで、やかましいペラップとやかましいヤミラミが睨みをきかせていた。
 チラーミィは額を擦った。こんなに賑やかな寝起きは、もしかしなくても初めてだろう。
 かび色の布団を除けながら起き上がると、ベッドの脇に自分のピンク色のドレスが、驚いたことに深緑のゴミ袋と一緒に置いてあって、チラーミィはむっと嫌な気持ちに……あ、いや、よく見ると違う。ポケモンだ。昨日のバトルでほつれて破れてぼろぼろのドレスを、ゴミ袋のポケモンが繕おうとしている。
「あ、おはようヒメちゃん。……えっと、あのね、せっかくきれいなドレスだったから、直してあげようと思って。こう見えて裁縫は得意だから」
 可愛らしい声でそう言って微笑むヤブクロンに意表をつかれて、チラーミィはしばらく何も言えなかった。
 インコじゃない! インコじゃない! じゃかぁしいッいい加減にしぃや! インコじゃない! インコじゃない! あとアホじゃない!
「……あげるよ」
「え?」
「そのドレス。ぼくには似合わないから」
「本当!?」
 ヤブクロンは飛び上がって、胡麻のような瞳をきらりと輝かせた。同時にぷぅんと生ぐさい匂いが鼻をつくのがなんだか可笑しくて、喜んでもらえたのも嬉しくって、チラーミィはくすくす笑ってしまった。
 窓辺で言い争っていた二匹が二匹のやりとりに気がついて、ようよう口を閉じて振り向く。二匹はにやっとした。鳥と人型とでも、にやつく顔はよく似ている。
「おぉ、おはようヒメちゃん。気分はどないや」
「オハヨウ! 気分はどう? 気分はどう?」
 同時に同じことを言いながらお互い押し合うようにしてずんずん近づいてくるヤミラミとペラップの様子がまた可笑しくて、チラーミィはけらけら笑って肩を揺らした。
「ねぇ、その『ヒメちゃん』って、ぼくのこと?」
 一様に、三匹が左へ首を傾げた。
 その時、窓の向かいにひとつある扉が吹き飛ぶ勢いで開かれた。
「ゾラが教えたんだよ!」
 駆けこんできたちいさなゾロアは、遠慮なしベッドへ飛び乗ってせわしく耳をぴょこぴょこさせながら持ってきたオレンのみを手渡し、やはり気分はどうかと問うた。受け取りながら、悪くないよ、とチラーミィが返すと、残りのポケモンたちは顔を見合わせて再びにやっと笑った。仲の良さそうな連中だ。生まれてからずっと、チラーミィにそんな友達はいなかった。どことなく雑な、もっと言うなら安っぽい味わいのきのみをしゃくしゃく食みながら、チラーミィにはその、通じ合ってるみたいな『にやっ』が少し羨ましくもあった。
「だって、あのムーランドたちに、ヒメ、って呼ばれてたの、ゾラ聞いたよ」
「あー……まぁ、それ以外にあだ名で呼ばれたこともないし、いいけどさ」
「ヒメちゃんって名前、すっごくかわいい!」
 そう言ってまたしても跳ねだしたヤブクロンを見やって、ゾロアは楽しそうに耳を震わせた。匂いが気になるのはチラーミィくらいらしかった。
「この子はヤブクロンのブクちゃん。そんでこっちが、」
 ベッドから飛び降り、ヤミラミとペラップの周りを忙しく駆けまわって、
「ヤミラミのヤッさんと、ペラップのぺらーり!」
「よろしく頼むわ」
「ぺらーり、ヨロシクッ!」
 最後にっ、とベッドにぼふんと舞い戻って、ゾロアは貴族がするような恭しい敬礼をした。
「わたしはゾロア。ゾラって呼ばれてるよ。ゾロアゾロアゾロァゾロァゾラァゾラゾラ、なぁんてねっ」
 そうしてくるくる回り始めるゾロア――ゾラの前で、ヒメはすくっと立ち上がった。ベッドから下りて身震いすると、泥やら何やらが床に削げ落ちた。追い回されたこの体、汚れているが外傷はない。そう、大事にされているんだ。自分が置かれている状況を思えば、なんだってできる。歌って踊るゾロアを横目に、ヒメの中にふつふつと熱い感情がこみあげていた。流れる血潮のひとかけらにまで染みついた、強い強い秘密の思いだ。
「ゾラ、きみに頼みたいことがあるんだ」
「なぁに?」
 動きを止め、ベッドから見下ろしてくるゾラに、ヒメは思いっきり明るい口調で言ってのけた。
「一緒に、鐘を鳴らして欲しい!」
 ヒメが思ったよりもその言葉は、随分とスムーズに滑り出した。
 ゾラが小首を傾げる。ヒメの突然の申し出に、残る三匹も不思議そうな目をしていた。
「鐘、って?」
「街の真ん中にある塔の鐘だよ。ぼくのマスターが教えてくれたの。昔から人間に伝わる有名な童話にあるんだけど、あの鐘を鳴らすと、街じゅうのみんなが幸せになれるらしいんだ!」
「うわぁっそりゃ凄いね!」
 途端目を輝かせ始めたゾラに、でしょでしょ、とヒメが畳み掛ける。それにブクも興味深そうに頷いていたけれど、ヤッさんとぺらーりの二匹は、互いの顔を見合わせて首を捻っていた。
「大事な鐘だから誰でも鳴らせるわけじゃなくって、塔には厳重な警備が敷いてあるんだ。でも、生きてるうちに一回は鳴らしてみたいなぁって思っててね。ゾラのイリュージョンがあれば、きっと忍び込めるよ!」
「う、うーん、ゾラにできるかなぁ?」
「ははぁ、泣き虫のゾラにぁ、絶対無理無理」
「ムリムリ絶対ムリムリ!」
 後ろからはやし立てる二匹に、ゾラはくるんと尻尾を揺らして振り向いた。
「泣き虫じゃないもん!」
「無理なもんか! それどころか、ゾラにしかできないんだからっ」
 ヒメはぽんとゾラの背中を叩くと、両手を高く振り上げた。
「そうと決まれば、さっそくしゅっぱーつ!」





 その日、ラストゥレーヌのどんぐり通りは、いつも以上に魅力的だった。
 こんなにたくさんの屋台が連なっているのをゾラは今まで見たことがない。ゾラは屋台というのが好きで、落ちた小銭をこっそり拾っては、人の子に化け出店をうろつくのがいつものゾラの楽しみだった。屋台はゾラにこの上ないワクワク感を与えてくれる。型抜き、的当て、水風船。ほくほくのポテトは塩辛いけど好物で、ちょっと大銭が転がり込んできた日にはりんご飴やらオモシロお面やらを皆に自慢してみせた。例のきらきらのジュエルボックスのお店が目につくとあれが急に欲しくなって、ゾラはそわそわ首を回した。店だけでなく、大小の人足もやけに多い。どんぐり通りとあって潰れどんぐりばかりが見えるけれど、きっとお金もたくさん落ちてるはずだ。
「ねぇねぇヒメちゃん、今日はなんだか、街の全部がきらきらしているみたい!」
 前を行っていたヒメは振り向いて、へぇ、そうなんだぁ、とがやがや騒音に負けない大声を張った。
 うんそうだねって返事が聞けると思っていたからゾラは少しあれっとなったけれど、そんなふわんとした不思議はすぐにぱちんと消えてしまった。そのくらいにヒメははきはきした気性のポケモンだった。
「ゾラって、女の子?」
「うん? そ、そうだけど……」
 頷きながら、改めて確認されるとなんだか恥ずかしい心地がした。確かにゾラは女の子だ。でも、うんと女の子らしいヤブクロンのブクが一緒にいるから、やんちゃなゾラは仲間内ではあんまり女の子扱いされていない。
 ゾラがむずむずしている間にも、ヒメはどんぐり並木の雑踏をずんずん進んでいく。次々襲い来る人間の靴を避けながら、ゾラは慌ててねずみ色の背中を追いかけた。
「ヒメちゃんは女の子だよね?」
 その問いに、ひょっこりとヒメが振り返り、まん丸の瞳でしげしげゾラのことを眺めた。よくなかったかな、とゾラは見つめ返しながら耳を垂れた。なぜだかヒメは自分のことを『ぼく』って言う。でも、着ていたピンクのドレスもそうだし、名前もそうだけど、何より顔立ちや匂いが女の子のそれなのだ。気分を損ねたのかと思いきや、ヒメは小首を傾げてニッコリと笑った。
「うん、でもぼく、男に生まれればよかったな」
 そうしてまた前へと進み始める。ゾロアもてこてこ付いていく。なんでか、聞いてもいいのかなぁ。ゾロアがまたむずむずしている間に、ふわっと焦げたソースの香ばしいのが鼻っちょをくすぐって、二匹は揃って右へならった。それから互いが互いを見合わせて、いたずらっぽくくつくつ笑った。きっと聞いても大丈夫だ。二匹は並んで歩き始める。
「どうして?」
「何が?」
「男に生まれればよかった、って思ってること」
「うーん、じゃあゾラは、女の子でよかったって思ってる?」
 こくんとゾラが頷くのを見ると、ふふんとヒメは鼻を鳴らした。額の癖っ毛をぴょこんと揺らし、耳をぷるぷるさせ、箒のしっぽをぴんと立てると、
「だって、――男の子だったら、こんなこともできる!」
 そう声高く宣言して、力いっぱい地面を蹴った。
 屋台の頭を越えるほど高くジャンプして、すとんっ、と着地したのは、人間の女の頭だった。一拍の後、どんぐり通りをヒャアアアと悲鳴が貫いた。真っ青になった人間の上で対してヒメはけたけた笑って、周りの人間が伸ばした腕をするりにょろりとかいくぐって跳躍、今度は子供の腕へと飛び移り、その衝撃で小さな手から食べかけのやきそばがどさっと落ちた。ウワァッと言って泣きだす子供、つられて大きくなる騒ぎ。ヒメはそこからくるくる回りながらダイブした。落下点のゴミ箱がどじゃっとひっくり返った。そのまま人の群れへと突っ込んでいくのを、ゾラは訳も分からず追いかけた。転がりまわるように人の股の間をすり抜けては飛び逃げては笑い、ついにはヒャッホウと叫びながら屋台の中へ突撃した。どしゃーん、と売り台が倒れて、そこからたくさんのきらきらが飛び散った。あぁっもしかしてあれは、あぁ、あのジュエルボックスのお店じゃないか! 足元に転がってきた可愛らしいきらきらのひとつ、拾ってしまえって悪タイプの本能がうずっと来た瞬間に、ゾラははっと顔を上げた。怒鳴りつける店主、何事かと囲い込む人波の向こうに、濃紺色の帽子が見える。その帽子の真ん中に光る、紋。あの、恐ろしい紋――
「ヒメちゃん護衛兵!」
 ブルーシートの店内を高速でんぐり返しで行き来していたヒメは、ゾラの早口におうっと返事して、瞬く間に路上へ滑り出てカミナリさまのような速さでその場を乗り切った。何が何だか分からない。もう頭は完全にオーバーヒート、ついていくので精一杯だ。ぜぇぜぇ言いながら走るゾロアの耳から、けたたましい人々の怒声はだんだん遠のいていって、代わりにヒメのアッハッハという笑い声が痛快に鼓膜をくすぐった。
「あぁ幸せっ、こんなに楽しいの初めてだよ!」
 その言葉を聞くと、呆れとかそういう感情は、ゾラの中から吹き飛んでしまった。
 二匹はしばらく駆け続けて、途中公園の銅像に寄りかかって休憩した。ヘビのようなサカナのような変ちくりんな銅像が、精悍な目つきで二匹を見下ろしていた。公園の真ん中には大きな噴水の泉があるが、そこに遊んでいる人間の子供たちは今日はいつもより少ない。皆お祭りに出かけているのだろう。そこまで歩いていって溜まった水をぺろぺろ舐め、喉の渇きを潤した。
 ちょっと疲れてしまったのか、二匹ともぼんやりとしばらく水底を眺めていた。今は静かに波打つみなもに、光の泳ぐ噴水の底。所々水色とピンクのウロコ模様のお洒落な底面がきらきらしてきれいで、ゾラはこいつがお気に入りだ。この噴水の秘密のことをヒメに話してしまおうかな、という気が少し起きたけれど、それはやっぱり船着き場で一緒に暮らしてる四匹の仲間だけでの内緒だったから、その気はすぐに失せてしまった。
 運動した熱にぼうっとふやけているゾラの横で、街はこんなに賑やかなんだねぇ、とヒメはしみじみ呟く。その時ゾラの頭に、あの、『今日はなんだか、街の全部がきらきらしているみたい!』『へぇ、そうなんだぁ』のやりとりの不思議の答えが、にわかに浮かび上がってきた――ヒメ、この街のこと、多分詳しくは知らないんだ。
「今日はでも、なんだか賑やかすぎるなぁ」
「そうなの?」
「何のお祭りがあるのかな……あっ」
 きょとんとするヒメの前で、ゾラはぴーんと尻尾を伸ばした。
「そうだ、思い出した! 結婚式があるんだ。この国の王女さまと、海の向こうのナントカって国の国王さま! そのお祝いで、こんなに盛り上がってるんだね」
 ブクがするみたいにその場でぴょんぴょん跳ねながら、ゾラは想像を膨らませた。ラストゥレーヌの王女の顔は、ゾラも写真で見て知っている。ふわっと優しいパーマのかかった金髪の、ふっくらした顔つきの美しい少女だ。一匹のポケモンを大事に育てていると言う、心の豊かな人だとも。そんな王女さまが、女王さまのお目付けでその、ナントカって国に嫁入りすることになった話は、ゾラたちみたいな野良のポケモンでも誰しも祝辞を述べあうくらい有名なことだった。そういえば、昨晩見た、あのきらきらを乗せた大きな船。あれはきっと、どこぞの国王さまが王女さまを迎えに来たのに違いない。ゾラだって女の子だ、きらきらと豪華な結婚式のことを思うと、もう高揚感で爆発して飛んでいってしまいそうだった。
「あぁ、いいなぁ、結婚式! きっとパレードが見れるよ。王女さまのウエディングドレス、きれいなんだろうなぁ。あっ、パーティーがあるなら、お料理のお零れがあるのかな! おいしいものが食べれるかも。ねぇ、楽しみだねヒメちゃ……」
 その時、ゾラは、ヒメの顔がみるみるうちに暗くなっていくのに気付いた。
「……ヒメちゃん?」
 ゾラは首を傾げた。
 突如、黙りこくっていた噴水の筒が、中央から脇の小さいのから一斉にぷしゃーと水を吹き出した。わっと二匹は驚いて、一緒にどてんと尻餅をついた。見る人の子の誰もいない中、噴水はさも愉快そうにくるくる円を描きながら、形のないオブジェを描き続ける。
 太陽の光を一身に集めてから水面へ飛び込んでいく水玉たちを、二匹はじっと見て、先にぴょこんと立ち上がったのはヒメの方だった。ヒメは水玉に負けないきらめいた笑顔を見せた。
「さぁっ、そんなことはいいから、早く鐘を鳴らしにいこう!」
 踊る噴水に背を向けてヒメは一匹走りだす。あっ、待ってよ、とゾラは慌てて追いかけた。今日はとことん振り回されてる感じ、でも別にゾラはそんなこの日が嫌いじゃない。冒険の予感がした。このお転婆のチラーミィから、ただならぬ冒険の予感がしたのだ。
 ヒメとゾラは狭い路地裏を駆け抜ける。細い坂道を上がっていく。





 あれが、鐘。――国の中央にほど近い民家の赤い屋根の上から、二匹は城を臨んでいた。
 気がつけば、どこまでも広がる空と海とは、黄昏の空気に蕩けつつある。くっきりしたオレンジの光陰の筋雲が、夕焼けをすうっと飾っている。
 ラストゥレーヌは国全体がひっくり返した浅いお椀みたいな小山の形になっていて、そのてっぺんに王さまの住む城があった。いくつかそびえる高いのの、一番手前に見える塔。とんがった屋根の下の空間に、大きな大きな鐘がぶら下がって、夕陽にぴかっと反射していた。遊んでたら遅くなっちゃったね、とヒメはへへっと笑った。見るもの全てがオモシロイと言わんばかりにあっちこっちと連れ回されて、ゾラは精神的にはともかく、体の方はどっぷり海に沈んだみたいに隅から隅まで疲れていた。
「……本当に、ゾラの力で忍びこめるのかなぁ……」
 だからこそぽつりと零したのは本当に弱気になったのもあったし、今日のところはよしておこうよ、というのも暗に含めていたけど、ヒメはそんなのはお構いなしにぶんぶん首を振った。
「大丈夫! 怖がるなって、ゾラならきっと行けるよ」
 ヒメはぼんっとゾラの背を叩く。疲れの色なんてちっとも見えない。本当に、びっくりするほどお転婆なチラーミィだ。自分のやんちゃなんて全然敵わないや――ゾラはそんなことを言おうとして、ヒメの方を見上げた。
 茜色に染められたチラーミィの頬は、そうでなくてもどことなく上気していた。おしゃべりな口はその時きゅっと結ばれてた。鼻先はつんと上を向いていて、一点の乱れもなく。大きな瞳は炎のような光を湛えて、まっすぐ城を見つめていた。
 今日一日で何度も、嫌じゃないけどついていけないな、と彼女に向けたゾラの思いも、その表情を見たときだけは静まって、ゾラは胸をどんと突かれたような心地がした。
「……あの鐘さえ鳴らせば。ぼくらは幸せになれるんだ」
 ヒメは潜めて呟いた。
 その時だった。ずん、と大げさな足音が聞こえて、二匹ははっと振り返った。屋根の甍の向かい側に、精悍なハーデリアが三匹、そして大きなムーランドが真ん中に、こちらを睨んでいる。その首輪に光る、あの紋――名誉あるラストゥレーヌ警護団の紋章。ゾラは息をのんだ。ヒメがくそっと悪態をつく。ムーランドの眉間に刻まれた皺が深まった。
 それは間違いなく、昨夜ヒメを追いかけていたポケモンたちだ。
「……もう終わりにしませんか、ヒメ。こんな無意味なこと」
 ムーランドの声は重々しく、じんと空気を震わせる。
 無意味なこと、とヒメが反復する。ムーランドはじりじりと間をつめ、ついに甍を乗り越えた。ハーデリアたちがそれに続く。ヒメとゾラとは摺り足で下がり、屋根の端まで追い詰められる。ゾラは目だけ動かして下を見た。少し低い位置に別の家屋の屋根がある。そこからなら入り組んだ路地に逃げ込めそうだ。
「身勝手だとは思われませんか。アザレアさまの気持ちも、少しはお考えになってください。……明日には、あなたの生涯でおよそ一番大切な、『進化の儀』が控えている。王女が嫁ぐ上で無視のできないしきたりだ。ヒメがいらっしゃらなければ、明日の結婚式がどうなってしまうか、そのくらいは分かるでしょうに」
 ヒメは何も言わなかった。ひたすら唇を噛みしめていた。ぴりぴりした緊張がゾラにまで伝わってきて、でもそれよりゾラには、ムーランドの言ったことで、頭の中がごちゃごちゃしてきた。アザレアさま、と言えば。ゾラたちみたいな野良のポケモンでも、誰もがきれいな人と口を揃えることができる、ラストゥレーヌの王女の名だ。
「ヒメ。――姫さま。姫さまの判断に、我が国の、ラストゥレーヌの行方が掛かっておるのですぞ」
 そのアザレア王女さまは、一匹のポケモンを大事に育てていると言う。
 ゾラはヒメを見た。ヒメはぶるぶる震えていた。背後には、明日の結婚式の準備に沸き立っているであろうこの国で一番大きな建物が、その北塔の荘厳な鐘が、ヒメをじっと見つめている。
 動かない『姫』に、ムーランドは息をついた。
「……それに、あんな鐘を鳴らしたところで……」
「――うるさいッ、バカムー!」
 ヒメはそう叫ぶと、ゾラの首根っこを掴んでその屋根から飛び降りた。





 積み上げられた雑貨の影からおずおずと、ピンクのドレスを着たゴミ袋がやってきた。
「に、似合うかな?」
 頬を真っ赤に染め、胡麻の瞳を若干潤ませながら恥ずかしそうに聞くヤブクロンに、しかし誰もが一瞥をくれただけで、視線を元へと戻してしまった。ブクはしゅんとした様子で、申し訳なさそうにそこに座った。
 ベッドの頭の端と足の端に、汚れもぶれのゾロアとチラーミィが一匹ずつ、むすっとした顔で丸まっている。
 ヤミラミのヤッさんは仕方なしと言うように立ち上がって、右手の何やら古ぼけた絵本を仰いでみせた。
「遥か昔、ラストゥレーヌの北の塔には、それはそれは醜い容姿の化けモンが捉えらておりました。化けモンは街の連中から酷い迫害を受けておりました。ある朝、化けモンは恨みつらみをとことん乗せて塔の鐘を打ち鳴らし、その音は国全体を不穏の響きで包みました。その翌日、ラストゥレーヌの全土には天地をひっくり返すような大嵐が襲いかかり、幾千の尊い命が失われてしまったのです。その鐘は『呪いの鐘』と呼ばれ、その響きは不吉の前触れとして今でも恐れられております……悪いけどな、その童話、調べさせてもろうたわ」
 ヤッさんはびしっ、と絵本でヒメを指し示した。
「何が『みんなを幸せにする鐘』や! とんだデマカセやないかい」
「……知らなかった」
「一国の姫君なら、知らん訳あらへんやろ」
 怒らないでよ、と控えめな声でヤッさんをなだめて、ブクが立ち上がった。窓の外に浮かぶ大きな月と船の明かりに、ドレスがちらちら閃いた。
「ちゃんと聞こうよ、理由。……そこまでして、結婚をやめさせたかったの?」
 優しく問いかけるブクの声にも、ヒメは顔を上げようとしない。
 ふいにゾラが振り向いた。唇を尖らせた不細工な顔でじっとねずみ色の背中を見つめて、それからのっそり起き上がると、とん、とベッドから飛び降りた。
「進化の儀が嫌だったんでしょ?」
 ヒメの尻尾がぴく、と揺れた。難しい表情でそれを見ているゾラに、ブクがおどおどと尋ねる。
「なに、それ?」
「ムーランドが言ってたんだ。ゾラも聞いたことあるよ。ラストゥレーヌの王女さまは、一匹ずつ血統書つきのチラーミィを連れていて、結婚するとき、白く光る石をあててチラーミィを進化させるって決まりがある。明日の結婚式で、ヒメは無理矢理進化させられるのが嫌だったんだ。ゾラに嘘ついてまで不吉の鐘を鳴らそうとしたの、それだからでしょ」
 いつだってやんちゃで明るかったゾラがそんなふうに声を低めるから、ブクも、ヤッさんも、黙って続きを待っていた。
「……ヒメ。ゾラ、何よりも、ヒメに嘘つかれたのが、一番悲しいよ」
 ようやっとヒメは顔を上げた。大きな黒い瞳には、今にも溢れそうなほど涙が溜まって揺れていた。
「……ぼくは、ぼくはただ……」
 ガタンッ、とその声を遮るように窓が開け放たれて、飛んできたペラップがくちばしから何か放り落した。
「号外! 号外! 号外だよー!」
 一緒に滑り込んできた夜風はいつも以上に冷たくて、ぺらーりの持ってきた新聞もひんやりと凍えていた。ヤッさんが拾い上げ、広げたそれを、ひったくるようにヒメがもぎ取った。
「なにすんねんっ……」
 突っ込みでも入れようと振り上げた右手を、しかしヤッさんは引っ込めることしかできなかった。――ついに我慢ならず、大きな瞳から、ひとつふたつと涙の滴が零れ落ちた。
「王女サマの結婚式は、アッシターのアーサー七時からー!」
 カラフルな翼ばたつかせて騒ぎ立てるぺらーりに、うるさいっ、とブクが『はたく』を決めた。ぺしーん。それからしばらく、船着き場の小屋はしんとしていた。ぽたたっ、と水滴の落ちる音がして、くしゃっと新聞の潰れる音がして、それからヒメは嗚咽を漏らした。ひっぐ、ひっぐと、押し殺した泣き声が聞こえた。絶え間なく寄せる波の音が、大きく小さく響いていた。
 新聞の大見出しの下には、寄り添う王女と異国の国王が、幸せそうに微笑んでいる。
「……ぼくより、こんなことの方が、大事だって言うのかよ!」
 そうしてヒメは新聞をべしんと床に叩きつけた。ブクがびくりと震えた。ヒメはそこにしゃがみこんで、呻くようにすすり泣いた。ヤッさんとぺらーりが、困ったように顔を見合わせた。
 いつしかゾラも、奥歯噛みしめ、膝の震えるのをひたすら必死にこらえていた。じんわり視界が滲んできた。でもぶんぶんと頭を振った。ずずっと鼻水を吸った。たんっと前足を鳴らした。こんなときだからこそ、自分が奮い立っていないと、だめだ。
 開いた窓の向こうに、豪華船のきらきらがある。その後ろに、月はまだ、力強く輝いている。次の朝の七時なんて、残された時間は十分だった。
「――ヒメたちは幸せになるんでしょ!」
 ゾラのその、上ずった声に。
 ヒメは力強く頷いた。





 夜明け前。
 船着き場付近の土手を巡回していたハーデリアたちは、護岸ブロックの合間から、何かポケモンが飛び出して来るのを視認した。
 三匹のハーデリア隊は目配せを送りあう。白んだ月の明かりを反射してちらちらと光るドレスは、美しく気高いピンク色。あのような発色の洋服なんて、人間のものでも一般の民には手が届かない。三匹は綿密に連携を取りながら、囲い込むようにピンクの光を追っていく。
 この場所に姫が現れるのはムーランド隊長の予想通りだ、さすがに女王直々の護衛犬というだけはある。しかし想定外だったのは、姫が城とは逆の方向へと走りはじめたことだった。それが何故だか、彼らには分からない。風に流されてくる生臭いごみの匂いの理由も、彼らにはちっとも分からない。けれどそんなことはどうでもいい。とにかく姫を捉え、式に間に合うよう城へお連れすること、それが彼らの使命なのだ。
 だから彼らは、ピンク色のドレスを着たポケモンを捉えて、その胡麻の瞳を拝んだ時、マグマのように煮えたぎっていた使命感が急速に固まっていくのを実感した。
「やぁっ、変なところ触らないでくださいっ!」
 頭の『結び目』を掴まれながら、ヒメのドレスを着たブクは可愛らしい悲鳴を上げた。


 ここでも夜目が功を奏した。真っ暗闇の街中をゾラの迷いない先導を受けて、ヒメは昼間の公園へと辿りついた。
 どこにヒメを追う連中が潜んでいるか分からない。二匹は息を殺しながら噴水の方へと近づいた。同じようにどこからか忍び寄ってきたヤッさんが、掌のものを二匹へ見せる。暗くてヒメにはよく見えなかったが、それは雑踏に踏み潰されたいくつものどんぐりであった。
「『主(ぬし)』は、どんぐりの実の匂いに引き寄せられるんや」
 極力まで潜めた声で言いながら、ヤミラミはそれを噴水の泉の方へとぽいぽい放った。ちゃぷんちゃぷんと音を立てて、月を映した水面が揺れる。その底の、月明かりでしっとりと輝くお洒落なウロコ模様へどんぐりの一つが達した時――猛烈なスピードでウロコ模様が動き始めた。ぎゃあっとヒメが大声を上げて、ヤッさんとゾラは慌ててそれを押さえつけた。
 ヒメの大声よりももっと大きな水音をざぱぁんと派手におっ立てて、ぬらりと長い何かが泉の底からせり上がってくる。凛とした赤い瞳と耳のたれ、濡れてつやつや光る水色とピンクのウロコ模様があまりにも美しいその大きなミロカロスは、はむはむどんぐりを食べながら、まーたお前ら、こんな時間に何か用、と大して美しくもない声で言った。
「主、いつもいつもすまんけど扉を開けてくれへんか」
「なぁんで」
「このチビたち、城に用事があんねん」
「ふむ……」
 ミロカロスは完全に怯えきっているヒメとぺこりとお辞儀するゾラを見て、めんどくさそうに尻尾を上げた。泉の本物の底にはめ込まれるようにされていた尻尾のあった所には、何やら赤い突起が見える。次にミロカロスがめんどくさそうに尻尾を振り下ろすと、ざぱんっ、がちっ、と音がして、次にごごごご、と地鳴りがして……ミロカロスがめんどくさそうに底の模様の一部へと戻っていった頃、腰の抜けていたヒメはようよう起き上がることができた。そして促されて振り向いて、もう一度腰を抜かしかけた。
 昼間寄りかかって休憩していた、ヘビのようなサカナのような変ちくりんの銅像が横にスライドしていて、その下にいかにもと言うような隠し階段が続いていた。


 こんな簡単に忍び込めるなんて、なんて杜撰な管理体制のお城に住んでいたのだろう、と、ヒメはせわしく人の動き回る厨房を見下ろしながら呆れている。
 大きめの通気ダクトにぎゅうぎゅうになりながら、三匹はじっと機会を窺っていた。無理矢理腕を動かして顎を撫でながら、ヤッさんがぼそぼそ言った。
「これは計算違いやったわ……結婚式前やから、いつもより厨房にぎょうさん人間がおる。このままじゃ式が始まるまでに中に入られへん」
「いつもって、いつもぼくのお城に忍び込んでたの、ヤッさん」
「そりゃあ、まぁ……せやかてオレだけちゃうで。そこのアホギツネも、アホインコもゴミ袋も同罪や」
 ヒメはゾラをじろっとねめつけて、ゾラはぺたっと耳を垂れた。
 広々した厨房には、さすがにお城の御馳走とあって、生唾を飲み込みたくなるゴージャスな匂いが充満している。それを見まわして、ヤッさんはふむ、と頷いた。そして振り向いた。その宝石のような瞳が、ぎらっと悪タイプらしい光を放った。
「アホギツネ、それからアホネズミ」
「ぼくはネズミじゃないっ」
「じゃあただのアホや。そこのアホゥ共、俺がまず先に出て連中を引きつけるから、その隙にこっそり中へ行きぃや」
 アニキ分のお手本のような彼の言葉に、二匹はじんわり感動すら覚えた。
 ウィィィィィィィッ! と奇声を発しながら、ヤッさんがダクトから飛び降りた。シェフたちの目という目が全て、その紫の影を追った。がちゃんぱりーんと皿やらなんやらの割れる音があちこちから響き始めて、各所火の手さえ上がり始めた。あっという間に厨房は怒号と混乱の嵐に包まれた。さすが、ヤッさんのアニキだ! 小声で言うと共にゾラはダクトを飛び出し、ヒメが降りてくるのと合流すると、そそくさと厨房を抜けていった。
 それを見て、ここぞとばかりに、ヤッさんは瞳をこれ以上ないほど輝かせ、運び出されようとしていた料理の群れへと顔面から突っ込んだ。
「――んんっ、うまい!」
 満面の笑顔で叫んだヤミラミの首根っこに、人間の手が次々と襲いかかった。


 イリュージョン、と呟くと、あっという間にちいさなゾロアは人間の姿へ変貌した。ふわっと優しいパーマのかかった金髪の、ふっくらした顔つきの美しい少女だ。ヒメはうわぁっと感嘆して手を叩いた。
「凄い、よく似てる!」
「ほ、本当に? ばれないかな?」
「大丈夫、ぼくから見てもアザレアそっくりだよっ」
 二匹――改め一人と一匹は、急いで物影を飛び出した。この場所で生まれ育ってきたヒメだから、城内の地理にはとことん詳しい。式直前のはずのアザレア王女の慌てて走っていく姿と、お尋ね者となっていたはずのチラーミィの普段より汚れた姿を見て、すれ違う人すれ違う人いちいち皆が振り向いたが、それもどうだっていいことだった。脇目もくれずに絨毯を駆けた。人々がせかせかしている。式の始まりが近づいているのだ。
 堂々城を通り抜け、中庭へと飛び出したヒメは、ゾラへとひとつの塔を指し示した。
「あれだよ、あれが、鐘の塔」
 ゾラの、人の形の瞳が見上げる。あの屋根から見たときはそうとも思わなかったのに、真下からだと随分高い。鐘の姿も隠れて見えない。――辿りつけるのだろうか。心臓が高鳴り始める。だめだ、落ち着け。ゾラは王女アザレアだ。冷静に、冷静に……。集中力を高める暗示をかけ始めたその時、ずん、と大げさな足音が聞こえた。
 分かっていた、と言うように、ヒメはゆっくりと振り返った。ゾラもそれを推し測り、王女たる気風をめいいっぱい取り繕って背中の方を顧みた。
 たった一匹、けれど、縮みあがるような最上級の威厳をまとったムーランドが、二匹をじっと見つめていた。
「……わたしの前で、匂いまでごまかせると思いなさんな」
 ずし、ずし、と踏みしめるような足音を立てながら、ムーランドが近づいてくる。二匹は今度は引かなかった。一歩として引かなかった。
「姫さま。もうすぐ儀式の時間ですぞ」
 ただ、重々しく言い放つムーランドの厳かな瞳を、炎の熱で見返していた。
「あなたは、あなたの主(あるじ)の婚姻を台無しにするおつもりか」
「アザレアの、婚姻?」
 ハッ、とヒメは笑った――その時ふいに、彼女を取り巻く雰囲気が一変する。内心ゾラは驚いた。それをめちゃくちゃにするためのヒメの覚悟も執念も、ゾラは知っているつもりだった。けれど、今ヒメが選んだ剣は、違う。男に生まれたかったな、とぼやいた彼女の、小さな一匹のものではない。先祖代々ラストゥレーヌに仕えてきた、姫の血の受け継ぐ『誇り』のような、確固たる力を持つ何か。
「国と国との婚姻、ではなくて?」
 急に高圧的になったヒメに、ぐっ、とムーランドは芝を踏みつけた。
 ひゅうひゅうと風が駆け抜けた。遠く微かに群衆のざわめきが聞こえた。式は間近だ。人も集まってきている。
「姫さまともあろうものが何をおっしゃるか。我々はラストゥレーヌ家への忠義をもって――」
「忠義? それのどこが? 国の望まない結婚を押し進めることが? 笑わせないで!」
 臣下がするよりさらに強く、ヒメは青芝を踏みしめる。
「あれはとんだ男じゃない。女王さまを良いように口車に乗せて無理矢理アザレアを手に入れて、いずれラストゥレーヌの執権を奪おうとしている。アザレアだって分かっている、分かってて結婚を嫌がってた、ムーだってあの男の傍に、アザレアの傍にだっていたのに、すぐに分かったはずでしょう! 女王さまは間違っている。このままじゃラストゥレーヌは終わるのよ!」
「し、しかし……我が護衛団は女王さま直属の部隊であり、その命令に背くなどということは……」
「分かっててこんなことをするなんて、恥を知りなさい!」
 あまりの威圧に、クンッ、とムーランドが引いた。
 ヒメは二三歩前へ踏み出した。黒く大きな瞳は、淀みない光を宿していた。その場に居合わせた誰よりも、誰よりも小さなチラーミィが、大きく両手を広げ、誰よりも声高く、城を背負って宣誓した。
「ラストゥレーヌの名において! ――わたくしは。これ以上、あいつの好きにはさせないわ」
 空はいつの間にか明らみ、青白い朝の光が、小山の国を包み始めている。





 何万という観衆の見守る中、王城のバルコニーへ、王女とその夫となる異国の王とが姿を現した。
 人とポケモンで埋めつくされた会場には、煮沸寸前の恐ろしい熱気が渦巻いている。それは芯からの祝福ムードか、外国へ嫁いでいく王女を惜しむ声なのか分からない。ともかく、全身全霊を持ってその結婚を良しとしないという態度を取っているのは、今のところ、護衛兵に摘まんでこられた二匹のポケモンだけだった。
「あっ、ヤッさん! 捕まっちゃったの」
「ブク、お前もか。無事そうでなによりや」
 護衛の方もそんな野良ポケモンに構っている暇はないようで、二匹をぽいっと茂みの方へ放り投げると、人混みの方へと紛れていった。
 例のドレスを奪われたところで相変わらず生ごみ臭のブクと、厨房の件(くだん)でおいしい料理の匂いが染みついたヤッさんは、二匹してバルコニーのプリンスとプリンセスを見上げる。手を振っている彼らの笑顔は、ヒメの話を聞いた今となっては、男の方は嫌らしい『わるだくみ』の顔にしか見えなかったし、王女の方は、悲しみを努めて押し隠している、そんな風にも見てとれた。ゾラとヒメちゃん大丈夫かな、とか細い声で鳴くブクに対して、ヤッさんは口をもぐもぐさせながら、うまくやってるとえぇけど、と低くぼやいた。
 至る所に備え付けられた大型のスピーカーから、マイクの雑音が聞こえ始める。会場がだんだんと静まっていく。結婚式、はじまっちゃうよ。今にも泣き出しそうなブクに被さるように、スピーカーから誰かの声が聞こえ始めた。
『えー、ご静粛に、ご静粛に。ラストゥレーヌ国民の皆々様、今日という、このめでたき日に、アッ、チョッ、なっ、コラ! こいつ、このインコッ、あぁっ、やめな……』
 国を挙げての祭典での、そんな信じられないハプニングに、にわかに会場がざわつき始める。誰かの声がフェードアウトしていくにつれ、騒々しい羽ばたきの音と、甲高い鳴き声が、スピーカーから発信されはじめた。インコじゃなーい! インコじゃなーい!
 ブクは思わずぴょんぴょん跳ねた。ヤッさんはガッツポーズを決めて、あんのアホインコ! と叫び上げた。
 鳥足にがっちりマイクを掴んだぺらーりが、悠々と会場高く飛び立っていく。





 北の塔入り口に控えていた門兵を、ムーの巨体が『たいあたり』一撃で吹き飛ばした。
 ゾラとヒメとがあ然としている前で、ムーは卒倒した門兵の腰の鍵束をいとも簡単に食いちぎると、それをヒメの手の中に落としてみせた。ありがとう、と二匹礼を言うと、ムーはただむすっとしたまま背を向けて、城の方へとのっそりのっそり歩いていく。それだけで、彼の気持ちは十分だ。ヒメは鍵を順にいくつか差しこんで門を開け、早くと急かして飛び込んだ。ゾラもゾロアの姿に戻って、全力の四足歩行で駆け出した。
 螺旋の石造りの階段を、ただひたすら登っていく。壁に設けられたいくつもの小窓から見える景色がぐるぐる回っていく。そこから薄暗い屋内へ鋭い光が差し込んでいる。だんだん世界が高くなる。ふいに、イソゲ、イソゲ、と甲高い声がした。流れていく窓辺の中を、なんとぺらーりが追いかけてきている! 二匹を見ながら塔の周りを飛び回っているのだ。おぉッ、まかせて、と二匹は苦しい呼吸で、その声援に必死に応えた。突如、グゲェッ、と潰れたような悲鳴が聞こえて、いかついムクホークに取り押さえられたぺらーりが視界を後ろに流れていった。
 急に広い空間に出た。迷うまでもなく一本道だが、突然目の前に、大きな網を構えた門兵のなりの人間が現れた。待ってたぞォ、と嬉しそうにほくそ笑みながら、人間は大仰な動作で網を振り下ろした――ふいに人間の視界の中で、狙うべきチラーミィが二匹になった。え、と言う間に、彼の横を二匹ともどもが駆け抜けていく。片方はもちろんイリュージョンしたゾラだったのだけれど、その階の最後に鉄柵に阻まれた上への階段を見つけて、そっくりの二匹は同じ動作で柵の下をくぐり抜けた。すんでのところで門兵の手が尻尾を掴み損ねた。彼は鉄柵に頭をぶつけて、仰向けにそこへひっくり返った。
 二匹はためらわず駆け続けた。上へ。上へ。上へ。上へ。ひたすら石段蹴り飛ばす。のぼれ。のぼれ。のぼれ。のぼれ。十分には取れなかった昨日の疲れの残りもあって、四肢がじんじん痛み始める。あの屋根の上にいる時、ゾラにはヒメが随分元気そうに見えていたけれど、普段ゾラの何倍もぐうたらしているヒメだから、本当は全身泥人形みたいに動かなかった。けれど鳴らしたかった。鐘を。民のために。国の未来のために。ううん、本当は、そんなことはどうだってよくて、何よりも誰よりも、たったひとりの愛するパートナーのために。呪いと言われるあの鐘で。本当に本当に、ヒメは幸せにしたかった。
 隣にゾラがいた。ぜぇぜぇひぃひぃ言いながら、がんばれ、がんばれ、と呻いていた。ヒメは何も返せなかった。だんだん酸素足らずに混濁してぐちゃぐちゃになる意識の中に、色鮮やかに昨夜の光景が浮かび上がった。
 船着き場の小屋の中。幸せになるんでしょ、とゾラは言った。幸せになりたかった。なりたかったし、アザレアにだけはどうしても、幸せになってほしかった。悪い異国の王のこと、騙された王女さまのこと、素直に事の顛末を話せば、ちいさなゾロアは溜め息をついて、どうして本当のことを言ってくれなかったの、と聞いてきた。ヒメはなんだか恥ずかしくなって、独り言みたいな声を返した。本当のことを言ったら、協力してくれないでしょ。
 すると、ゾラと、ブクとヤッさんとぺらーりは、互いの顔を見合わせて、けらけらけらと笑うのだ。
「そんなことないよ。飼い主のために城を飛び出し、危険を冒してまで警鐘を鳴らそうとする勇ましすぎるお姫さま! こんなに応援したくなる事って、他にないよっ」
「乗りかかった船ってヤツや」
 皆がそんな風に言った。皆がヒメの肩を叩いた。ゾラははにかみながら、なぜだかちょっと泣きながら、尻尾を振って抱きついてきた。
「ヒメが心を開いてくれれば、皆ヒメに協力しちゃうんだからっ」
 ブクがぴょんぴょん跳ねた。ヤッさんが鼻を鳴らした。ぺらーりがばさばさ羽ばたいた。
「――ヒメはもう、大事な仲間だよ!」
 そうして皆、にやっと笑って。ヒメは、ちょっとぽかんとして、それからにやっと笑い返して。
 すると、声までこらえきれなくなって、ヒメはわんわん泣いたのだ。
 生まれてからずっと、ヒメにそんな友達はいなかった。アザレアのことは大好きだ。撫でてもらうのが好きだった。良い子にしてれば、たくさん頭を撫でてくれた。けれど、自分のちいさな胸の中に、どこまでも駆け抜けたくなるような野良っぽい衝動が、こっそり隠れてうずいていること、ヒメはずっと分かっていた。優雅に紅茶を啜る友達もよかった。けれど、引っ掻きあいっこするような友達も欲しかった。泥んこになって笑いあえるような友達も欲しかった。だから、通じ合ってるみたいな『にやっ』が、本当に本当に羨ましかった。
 はしれ。はしれ。はしれ。はしれ。今ヒメはひとりぼっちじゃない。一緒に走ってくれる仲間がいる。あがれ。あがれ。あがれ。あがれ。応援してくれる皆がいる。確かに変な奴らだけれど、励ましてくれる友達がいる。
 こんなにも簡単なことだった。ただ、ありのままの心を、素直に伝えるだけでよかった。気取らずに、嘯かずに、思った通りに言えばよかった。そうすれば、皆が力になってくれる。あのカタブツのムーだって命令に背いてくれた。それなら、もっと多くの人に、届けることもできるはず。
 階段の向こうに強い光が見えてきた。足の裏がこんなにも痛い。蹴るたびに噛みつかれるような引き裂かれるような衝撃が走る。心臓もばくばく早打ちしてる。喉の前と後ろが張り付くみたいだ。蹴りあげる。また一段。蹴りあげる。段を捉える間隔が消え失せていく。蹴りあげろ。溢れ来る光に突っ込んでいく。蹴る。飛んでいるのかも。蹴る。蹴る。呼吸が言う事を聞かない。空気を喉が押し返す。でも一歩。跳べ。跳ぶんだ。見えてくる。朝日を弾く鈍い光の球。呪いの鐘。希望の朝の鐘。前足が震える。泳ぐように蹴った。颯のように跳んだ。その光の中へひとつ下がっている、あの一本の綱めがけて。ゾラが吠えた。ヒメも似たように、吠えた。

 出来うる限り、心のままに。めいいっぱいの気持ちを乗せて。
 鐘を、鳴らしたい――!

 二匹がいっぺんにしがみついて、力いっぱい引っ張り下ろした。
 鐘が揺れた。ぶぅんと大きく左に揺れ、ひとつめの音が響き渡った。それに連動するように、隣の鐘が左に揺れた。その隣の鐘が揺れた。綱が引っ張り上げられる力に耐えきれずに二匹はぶわっと空を飛んだ。重力にならって落ちるのに、二匹の重みでまた綱が引かれた。先程より強く。そしてぶわっと空を飛ぶ。その上の鐘が、またその上の鐘が、次々と力強い音を奏で始めた。その響きは幾重にも幾重にも折り重なって、あまりにも賑やかな、荘厳だけど愉快な、複雑だけど単純な、強くて優しくて怖くてきれいで逞しい眩しい響きとなって――





 結婚式会場だった場所を、二匹は鐘付き堂の高台から見下ろしていた。
 結果として二匹が引き起こしたのは、空前絶後の大混乱だった。こんなめでたい日に『呪いの鐘』が鳴らされて、街は本当にどうにかなってしまったかのような騒ぎに包まれていた。でも、それはどちらかというと、『お祭り騒ぎ』に近い、ような。結局のところアザレアの結婚を快く思っていなかった王女さまファンは、国に数知れず潜んでいたのだ。
 とんでもないことになっちゃったな、と、ゾラは最初にヒメと会った時のように思っていた。朝日に何が煌めいているのか、街全体が本当にきらきら光ってみえる。大きなジュエルボックスを思い起こした。いいや、ジュエルボックスよりも、ずっとずぅっと良いきらきらだ。冒険の予感、間違ってなかったな、と他人事のようなふんわりした心地で考えながら、ゾラは朝の賑やかな街並みを見下ろしていた。
「……結婚、どうなったのかなぁ」
 うつ伏せになって肘をつき、足をぶらぶら揺らしながら同じように街を見下ろしているヒメは、小さくそんなことを言った。ゾラはヒメにぎゅっと寄り添うようにした。朝風はまだ冷たいけれど、全身はぎしぎし痛いけれど、それぞれ隣の体温は、ぽかぽかしてて気持ちいい。
「きっといいようになるよ。ヒメはがんばったもの!」
 ヒメはふとゾラの顔を見て、しばらくしげしげ眺めて、それから、にやっといたずらな笑顔になった。
「ゾラって、本当に泣き虫なんだね!」
 え、と返して、ゾラははっと顔を拭う。訳の分からない涙が、次から次へと溢れてきた。
 うえぇぇなんでぇ、と困惑するようなわめき声で鳴いているゾラの横で、ヒメはけらけら笑って、ぴょんと飛び上がった。皆のところへ行こっ、とやはり疲れの色などなかったように階段のほうへ走っていくヒメに、待ってよぉ、と声だけかけて、ゾラもよろよろと立ち上がる。
 でっかい朝日が、ラストゥレーヌの空を昇りはじめた。
メンテ

Page: 1 | 2 | 全部表示 スレッド一覧