> うるおいボディ 作:音色
うるおいボディ 作:音色
「脱水症状ですね」
 家に帰ったらアギルダーが干乾びかけてぶっ倒れいていた。慌ててポケモンセンターに連れて行って言われたことがこれだ。
「脱水、ですか」
「よく水分を取らせて、安静にしておいてくださいね」
 笑顔でジョーイさんが注意事項を書いた紙を渡してくれた。タブンネがボールを持ったトレイ持って来ながら「タブンネー」と鳴いていた。

 お前さ、喉が渇いたんなら水くらい飲めよ。と言って見るが、アギルダーが昼間ほっとかれたのが気に食わないらしく、部屋の隅でいじけている。好物のチーズで釣ったらすぐに機嫌がなおった。
 大体アギルダーが干乾びるなんて俺知らなかったし、お前虫タイプだよなぁ、水タイプじゃないよなぁ。
 とりあえず、またこいつが干乾びないように何か対策を練ろうとするが、良い案が浮かぶはずもなく、とりあえずこ―ゆーことに詳しそうな奴に電話をかけてみた。

「俺のシュバルゴ元気?」
「そっちこそ俺のアギルダー元気だろうな」
 虫ポケ専攻の友人は玉虫大学で研究を続けているらしい。カブルモとチョボマキの交換進化の謎を解き明かすと豪語している。
「悪い、部屋に帰ったら干乾びてた」
「なんだとぉ!?」
 すぐポケセンに連れてったから大事には至らなかった、と説明するが向こうは呆れたような声を出した。
「あのなぁ、アギルダーは乾燥に弱いんだぞ。まぁ、管理がドレディア並みに難しいとは言わないけど。あいつら、薄い膜をぐるぐるにまきつけているだろ?あの幕は空気中の水分を吸って保つ特性があるんだ」
「へぇー、初めて知った」
「だから、一定の湿度を保ってないとすぐに弱っちまうんだよ。うちの研究室も湿度の調整大変なんだぜ」
「水を飲ませるのじゃだめなのか」
「うーん、直接摂取するのとはまた違うみたいなんだ」
「じゃあ、俺の部屋はどうすりゃいいんだよ」
「加湿器でもおけば」
 なるほど。

 そんなわけでアギルダーと加湿器とやらを買いに行くことにした。
 俺が加湿器の良さなんか分かるわけもないので、本人が気に入ったものを選ばせりゃいいか。そんな軽い考えで自転車にまたがった。
 こっちは必死こいてペダルを踏んでいるというのにアギルダーは余裕の表情を浮かべて先を進む。くそ、テッカニン張りに早いのは知っているが少しはスピードを落とせっての!
 電気屋の前に着く頃はこっちは汗だくでアギルダーは物足りなさそうな顔をしていた。後で公園にでも連れてってやるから思う存分飛び回って来い。
 その前に加湿器だ。

 加湿機コーナーなる場所に行くと大小様々、デザインも様々。俺としてはなるべく邪魔にならないサイズで尚且つ俺の財布にやさしいお値段のモノが良いのだが、それで粗悪品掴まされてアギルダーの機嫌を損ねるは御免なので一応真面目に見て回る。
 ……真面目に説明などを読んでみるがよく分からない。水を入れたらお湯を沸かして湯気で湿度を大きくするとか、超音波で水を砕いてファンで吹き出すとか。
 加湿出来りゃなんでもいいわけだが、当のアギルダーはあっちにうろうろ、こっちにうろうろ。止まっている奴が気に入ったのか、と見に行くと0が5個ついているような代物。ダメです。
 何かもっと手軽な奴ないですか。店員さんに聞いたら「こちらなんかいかがでしょう」。お勧めされたのは、水を入れるだけで中のフィルターみたいな奴が水を吸い上げて気化して行く奴、らしい。
 値段も手ごろ。これで良いか。アギルダーは加湿器を見るのが飽きてきたらしい。これください。

 帰り道に約束通りに公園による。ぎゅんぎゅん飛び回るアギルダーを見ながら俺は一服。チョボマキ時代はえらく臆病だったらしいが、俺の所に来てアギルダーとなっている様子を見る限りは全然そんな事はない。
 アギルダーは虫タイプで唯一“うるおいボディ”の特性を持っているらしい。だから乾くと弱ってしまう、という仮説を立てていると友人はいっていた。
 梅雨の時期になったらこいつは元気になるんだろうな―とか思いながら、ミックスオレを飲み干した。
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