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「助け」の手 作:美容室

ジャイアントホール

極低温の地で眠り、全てを凍らせる力を持つドラゴンがいた。

その強大な氷の力は、己の強靭な身体さえでも制御できず、身体ごと凍って深い眠りについている。

黒い鱗を纏い、幾多もの凝結した氷の結晶を体表のあちこちに携え、その様子はまるで氷山の一角を身につけているよう。

その氷の龍は、強大な氷の力を鼓舞する事も蹂躙することもなく、ジャイアントホールと呼ばれる空洞で、人に見つかる事なく、静かに停まっているという。

長い歴史の中で、このポケモンが人との接触がなかったのは、人気(ひとけ)のない静かな洞窟にあった唯一の氷柱を、巨大な身体を氷結させたドラゴンポケモンとは誰しも思わなかった為である。

故に、伝説と呼ばれる由縁がなく、伝承等や言い伝えも全く無かった。という訳ではない。

電気の力を纏う黒いドラゴン、ゼクロム。

火炎の力を持つ白いドラゴン、レシラム。

その双方のドラゴンの伝説が、古くからイッシュの地に存在した。

2体の龍が相対し対立する時、雷が広がり、炎が降り注ぐ。

イッシュの人々は、天災を伝説のドラゴンポケモンの2体に例え、その強大な力を伝説のポケモンとして崇め、伝承された。

・・・・しかし。

この伝承には矛盾がひとつあった。

.

イッシュ地方にて起こったプラズマ団による事件。『ポケモン解放』と立教し、ゼクロム・レシラムを捕らえて世界を危機にひんした事件があった。

それは、とある一人の年端のいかない若いトレーナーによる活躍で、事件は解決した。イッシュの伝説のドラゴンポケモンを手中に収める程の実力は、イッシュの新たなチャンピオンとして認可される程。

かくして、伝説のポケモンは、トレーナーの手に渡った。

・・・・・では何故、再びイッシュの地にて、雷が轟き、炎が襲う事態が起こるのか。

.

・・・・・答えは、

イッシュに生息する、もう一体の龍にある・・・。







「ウヒョヒョヒョ。壮観だな、いつ見ても。」

ホウエン地方という、南に位置する温暖地域にある、活火山のふもとに、俺達は拠点を張っている。エントツ山と呼ばれるホウエン唯一の活火山。周りの地域では広域にわたり、断続的な火山灰の被害を被っている。その火山は観光地にもなっており、ホウエンで1、2を競う標高の山を体感しようと、各地の旅行客や登山やトレーナーが足を運ぶ。山道や歩道の舗装整備、ロープウェイの設立等、人為的な保安がなされている。

そんな一目が増すようになった火山のふもとにて、俺達の組織は、穴をつくり、通路を掘り、基地をつくった。

正直に言うと暑苦しい。火口に溶岩が溜まっている現役の活火山の中に基地をつくると、蒸気が立ち込め、壁や床は摂氏百を越え、おまけに硫黄の臭いが鼻を突き刺す。この硫黄にやられて倒れた団員が何人も続出している。

流れる汗も、暑さで乾くような過酷な環境を、何故拠点にしたのかは、理由があった。それは、基地といっても仮設であり、常に根城にして活動する訳ではないから。

そして最大の理由は・・・。

「・・・グラードン、か。」

エントツ山の深部。周りの分子をすべて蒸発させるようなマグマが溢れ出す。ここまでくるとさすがに俺達も改装はできない。生命の侵入を拒むような地には、広大な溶岩の池、長い溶岩の河口。岩の裂目から黄色い閃光が光る。
そのマグマの池の真ん中に佇む、古代ポケモン『グラードン』は、俺達に気付く事なく、我関せずというように眠り続けている。その泰然としたオーラに、俺は『伝説』と呼ばれる由縁を再考する。
高台からその由々しき姿を見ていた俺と、隣にいるホムラという男。

「お前がマグマ団に入ってどれだけ経つ?」

「・・・半年です。」

「ウヒョヒョ!半年で幹部かよ!羨ましい限りだぜ。俺が長年チマチマしてんのがアホらしいってか!?」

隣で奇怪で特徴的な笑い方をする男は、マグマ団創立の時から、リーダーと共にいた。甲高い笑い声には、聞く者を見下すかのような印象を与える。が、まあ当人は自覚はないだろう。

「・・・そろそろ、定例です。」

「ウヒョヒョ、話逸らしやがって。」

俺達は、眠るグラードンの見張りを下っ端の警戒員に任せ、その場をあとにする。基地内の通路は、床は地面のままだが、壁にはパイプやパネルが取り付けられている。硫黄除去のファンが最近作られた。

歩くと道が舗装されたエリアに入った。重役以外の立ち入りを禁じるエリアだ。
・・・・俺がマグマ団に入ったのは半年前、持ち前の格闘センスとパワー、ポケモンバトルの実力を買われて、一躍幹部となった。その他にも、マグマ団に入団する人材を数十人提供した事により、組織の活動力は増大した。

俺とホムラはある部屋に入る。

「遅いぞ。早く席につけ。」

マグマ団リーダー、マツブサがテーブルの中央に座っていた。

俺達は頭を下げて所定の位置につく。

「・・・さて。グラードンの居場所はとらえた。資料によれば、グラードンを目覚めさせつつ、操作する事が可能な『紅色の玉』。場所は既に解っている。行動開始の見通しを早目にしたい。アクア団の動きもある。それまでに準備を整えろ。・・・では、各自報告。」

マツブサが、テーブルに座っている研究員に目配せし、各自資料を読み上げていく。

この組織の最終目的は、大陸の拡大。そのために、ホウエンに伝わる伝説のポケモン、グラードンの力を使い、人の住む土地を増やす。

リーダーのマツブサやホムラを始め、彼らは昔かつて、都市開発に従事している委員だったが、土地の高騰や貿易停滞等の問題を抱え、海を埋め立てて大陸棚を増加する案を持ち出したが、環境保全派の人間に妨害されて廃止。その後委員を下ろされた。彼らのやる事は私怨である。自らの考えを否定された悔いを憎しみに変えたのだ。

マツブサ達は有志を集め、陸地の素晴らしさを説きながら組織力を高めた。

・・・現段階では、海域を増やそうとするアクア団を警戒しつつ、グラードンの復活に勤しむ。

第二工程、天気研究所の占拠、トクサネ宇宙センターの占拠、アクア団の活動牽制及び壊滅。

課題はまだまだ山積み。グラードンの発見で浮足が立つかと思えば、意外にもマツブサは冷静だった。

「(・・・もう少し粘るか。)」

俺はそう思った。

定例が終わり、各自席を立つ。

「ヤシロ。」

マツブサが俺を呼ぶ。

「何でしょう、リーダー。」

「定例の間、辛辣な表情を浮かべていたが、どうした?」

マツブサは俺を見据えた。

・・・その洞察力は流石としか言いようがない。変にだまくらかすのも悪影響だ、・・・・少し揺さぶるか。

「・・・いえ、少し考え事を。」

「我々マグマに関する事であろうな。」


マツブサがしかめる。現在マグマ団は、活動が著しく厳しい状況だ。よって慎重性が問われるようになった。アクア団の件もあるが、最近子供のトレーナーが現れて、マグマ団の妨害をしていると報告がある。デボンからの『かいえん2号』の潜水艇設計図の奪取がうまくいかなかったのは、その子供が要因である。マツブサの機嫌も悪くなるわけだ。

「はい。海を画期的に埋め立てる案を考えています・・・・が、なかなか理論的に問題も多いので。」

「ふむ、興味深いな。話してみろ。」

「いえ、大した事ではありません。そこまで正確に考えが纏まっているわけではないので・・・。また纏まったらお話しても宜しいですか?」

「・・・・いいだろう。さあ、行け。」

俺達は部屋を出た。

「・・・ウヒョ。お前が言ってんのって、こないだの『寒暖エネルギー説』か?」

・・・ホムラには少し話していた。

「ああ、だが、大々的にうまくはいかないだろう。」

「ウヒョヒョ。理屈の話なら面白いぜ?地球上を無理矢理冷やして、マントルの温度を上げて活火山を活発に活動させる。発想はガキだが、永久に循環するしよ。噴火して陸が増えて、火山灰で地球が冷えて、また噴火。・・・話しゃよかったじゃねえか?」

ホムラはあざ笑った。

「そのうち話すさ・・・・。(そのうち・・・な。)」

.

20日後。

第三工程を終えた。

内容は、『紅色の玉』の奪取。

アクア団の動きが活発になり、先手を打とうとしたが、おくりび山にて鉢合わせし、『藍色の玉』を強奪された。

グラードンの宿敵、カイオーガは海を広げる力を持つ。そのカイオーガの力を操る『藍色の玉』を盗んで破壊する計画は見事に失敗。だが、『紅色の玉』は手に入れたからイーブンだ。

グラードン復活を翌日に控えた日だった。その日の定例に足を運ぶ。部屋に入り、所定の席に着いた。

マツブサがいつもより柔和な表情で話しはじめる。

「・・・時は満ちた。計画よりも早めになってしまったが、アクア団に先手を打たれる前にコチラから仕掛ける。・・・我々の最終目的は、『グラードンの復活』だ。力の制御・操作は課題が多い。グラードンを手中にする必要はない。グラードンをホウエンの地に放つのだ。そうすれば自然と力を発揮する事だろう。

・・・各自、ラストスパートをかけて準備を整えろ!アクア団を潰すぞ!我々を嘲笑ってきた奴らを見返す時だ!」

マツブサが怒号をあげた。その声色から、高揚が伝わってきた。

「・・・リーダー。」

俺は挙手をした。ここしかない。

「この間話した考案の件で。」

「おお、そうだったな。話してみろ。」

「はい。・・・この案は、グラードンの力の保険といったところでしょうか。グラードンの火山と地面の力を用いれば、簡単に海は枯れ果てるでしょう。しかし、グラードンの復活の度に出てくるのがカイオーガです。過去の資料や記録、古文書を確認してみても、必ず2体双方が出てきます。どちらか一体という事はありません。理由は断定出来ませんが、世界の均衡を保つためのシステム上と関係があるかと。


万一に備えておくべきだと俺は思います。そこで、このホウエンを始め、あたりの活火山の造山帯に、冷却拠点を置こうと考えています。」

「冷却拠点だと?」

「このあたりで活動している火山は、このフエン山のみです。

そこで、氷タイプのポケモンを捕獲し、ホウエンの海のどこかで集中的に寒波を生成します。次第に海が凍り、気候に変化が生じ、あたりは霰に見回れます。」

「それが陸地拡大と何の関係がある?」

「海から冷やした方が、より地表を冷やせます。温度は、より恒温を保とうと、冷めた部分を温め、熱い部分を冷まします。

地球の核やマントルは凄まじい高温です。急激に地表を冷やす事で、それに応じたエネルギーが集まります。そのエネルギーの影響を受けて、休止している山が活動を再開する可能性があるわけです。ホウエンでいえばおくりひ山やルネ、さらに海底火山も多いですから少なくとも。」

「ふむ・・・。冷やせば温度を上げようと、マグマを吹き出すという訳か。」

マツブサが神妙に思考している。

・・・もう一息だ。

「そのエネルギーは、復活したグラードンにも影響するかと思われます。海が凍ればカイオーガも戦闘に不利になります。

・・・以上が俺の考案です。如何でしょう?」

マツブサは顎に手を置いている。

「具体的な拠点は?」

「まだ未定ですが、マントル上にしようと考えています。」

「氷ポケモンというと、大変な数になるのでは?」

「遠方の地にアテがあります。この保険をつくる為には、少し時間と労力がいります。しかし、成功すれば、確実に陸上拡大に結びつくかと。」

研究員とのやり取りが続く。

・・・俺はマツブサの反応を見た。

「・・・保険、か。確かに必要事項だ。・・・いいだろう。ヤシロ、やってみろ。」

・・・・・・。

「・・ありがとうございます。少しの間、組織を離れる事になりますが。」

「構わん。ヤシロはよくやってくれた。後方支援隊として指揮をとってくれ。グラードンは我々に任せろ。」

俺はこのあと、必要な具体的な費用や人員を提案し、承諾を得た。

俺は部屋を出て、自室に向かった。

自室の簡易ベッドに腰を下ろした。

「・・・・・・・さて。」

・・・・・・行くか、イッシュに。









『助ける』とはなんなのか?

意味をいうなら、人に対して力になる、人を救済する等に当て嵌まる。俺はあの日、紛争地域の爆撃に巻き込まれ、両親が死に、俺は重傷を負った。痛みも感じない程の火傷を負いながら、重たい身体を引きずりつつ、戦禍から逃れようとした。
立ち込める砂塵。照りつける暑い太陽。遠方から聞こえる銃撃の音。ポケモンの雄叫び。燃える炎。人々の叫び。

俺は、自分自身の運命を呪った。
俺は何もしていない。生活の為、家計を支える為に、店頭販売をしていた。貧しくて治安の悪い街だったが、それが日常だった。それを一変に覆すようなクーデター。反政府の過激派によるテロ活動。理由はよくわからないが、多分不平等条約の問題や、宗教間の亀裂が原因だろう。

死に逝く身体を鉄板のように焼けたアスファルトに身を預けながら、俺は意識を投げ捨てた。

・・・くだらない生涯を過ごしたと回顧した。まだ12歳だった。親は爆撃に焼かれて、仮設学校に行っていた時の友達は銃で撃たれ、毎日俺の店に来てくれた女の子もポケモンに噛まれて死んだ。

故に、自分だけ何故助けられたのか、未だに受け止められないでいる。

意識を取り戻した時、俺は地区外の病院のベッドにいた。体中は包帯で巻かれ、腕や足はギブスでまかれ、点滴がついていた。
今の自分の状態を、何度もありえないと否定した。俺は死を選んだ。だが俺は生きている。それは何故だ。

「気づいたか?」


ベッドの横のイスに座って話しかけてきた男。筋肉質で剛健な体格に、あちこち汚れた白い胴着。泰然とした雰囲気から、強いオーラをかもしだしていた。

それが、俺とシバとの出会いだった。

「・・・なぜ、助けたんだ?」

俺は喉の痛みを堪えながら尋ねた。

「おいおい、俺に見殺しをしろというのか?」

シバは苦笑する。

「・・・そうじゃない、オレは、死のうとしたんだ。・・・だがアンタはなぜ俺を助けたんだ?・・・なぜ、オレだけ?」

自分で何度考えてもわからない疑問。目の前の男の真意が不明だった。俺は男の答えを待った。

「何を言ってる、人を助けるのは当たり前だろう。」

シバは言った。
からっきし質問の答えになっていなかった。俺は益々、『助ける』という意義に疑問を深めてしまった。

シバは、世界各地を旅しながら、武者修業をしている。格闘家という職業だそうだ。稼ぎは、ポケモンを闘わせてファイトマネーで賄うそうだ。
怪我が治った俺は、シバについていく事となった。いや、無理矢理連れていかれたといった方が正しいな。

シバは、各地の人の助けになり、ポケモンの助けになる活動をしていた。慈善活動というやつだ。
俺は長年、シバの側で付き添いながら、過酷な旅を続けた。毎日鍛練を行い、護身術、格闘術、筋力をつけて、体力を上げて、日々自分自身を追い詰める厳しい日課を共にした。

シバ曰く、鍛練をするのは力を強くする為ではなく、心を鍛える為だと常々言っていた。

「自分の為にか?」

俺は、白い胴着に付着した汗や泥を拭いながら、シバに聞いた。

「それもあるが、人と人が繋がっていく為にも、力が要るんだ。」

人はひとりでは生きてはいけないと言いたいのだろう。だが、ここでいうシバの言葉は、人を助ければ自分に返るという意味合いではない。『情けは人の為ならず』という諺があるが、格闘家として人を助ける事は、少々異なる意義があるようだ。

だから、俺はわからないでいた。

なぜ俺は、この男に助けられたのか。

「・・・シバ。」

「ん?」

「もう、5年になるな。シバに助けられて。」

「ああ、そうだな。」

「・・・未だにわからない、何故俺を助けてくれたのか。何故俺を連れていったのか。教えてくれないか。」

「・・・・・ふむ、ヤシロはあの時死にたがっていたと言ったよな。」

「ん、ああ。」

「俺はそういう風には見えなかった。荒れた道路に疼くまっていたお前は、一生懸命に生に執着していた。・・・・・ヤシロ、助ける助けられるのに理由は要らない。お前が小さい時は、親がお前を守ってくれていたはずだ。
人が困っている、誰かが泣いている、見ず知らずの者が死にかけている、人はな、支え合わなくては生きてはいけない。
・・・・・だが、いつの時代でも、生きる事を投げ捨てる人間がたくさんいる。・・・『心』の問題なんだ。力溢れて『心』なき者は暴力をふるい、力なく『心』なき者は押し潰されてしまう。
体裁だけ助けるのはただの情けだ。だが俺達が必死に鍛練をし、一生懸命に生き、技を磨き、『心』を鍛えていく事で、本当の意味で助けが生まれる。

・・・それが、ヤシロを助けた理由だよ、だいたいはな。」

「・・・・・・・・。」

シバは、人間として、また格闘家として俺を助けたという事だろうか。

だが、まだよく解らないでいた。

シバが何故俺を助けたのか。

助ける意義を、本当の意味で理解したい。

俺もシバのように生きれば、きっと『助ける』理由がわかるかもしれない。

だから、俺は格闘家となった。シバ式和桐(わどう)流。俺が17になり、今は一人で慈善活動をしている。

シバは、カントーで四天王に復帰していて忙しいようだ。・・・小耳にはさんだが、娘が出来たとか言っていたな。

今度カントーに顔を出してみるか。

俺はポケモンを持ち、胴着を着て、世界各地へと旅を続けた。


『こちらシンオウ地方のキッサキから中継でお伝えしています!今私は中継車の中にいるんですが、御覧のように全く前が見えません!雪が霰が霙がフロントガラスを叩きます!凄い風です!先程までシンオウ北部には避難命令が出されていましたが、政府の発令により、外に出るのは非常に危険な状態な為、外出禁止の命令が下されました!え〜現在外出禁止と発令されております!まだ外にいる人は、非常に危険ですので!速やかに近くの建物へと避難してください!・・・・・たった今入りました情報によりますと、水道被害を受けた件数が1029件へとのぼりました!千を越えています!突然の大吹雪に兼ね、氷点下の気候となった現在、キッサキを中心に水道の凍結の被害が出されています!その他、道路の凍結により、玉突きや衝突による事故が多発しています!警察は、キッサキ市内の車両交通を規制し、全般的に車を停めるよう命令を出しています!キッサキ市民の皆さんは、車を動かさないで下さい!滑走の恐れがあります!絶対に動かさないで下さい!』

中継と画面の右上にラップされ、それほど若くない女子アナウンサーが、声を張りながらテレビに映っていた。
その小さなテレビを見上げるように居酒屋にいる仕事帰りの男達はざわざわと見ていた。
季節は夏。
いくらシンオウ地方が雪国だとしても、テレビから見える光景を、異常と呼ぶ以外にない。

カントーのヤマブキの駅前通りの小さな居酒屋。酒とタバコの臭いが鼻をさす。しかし、その場にいる皆は、片手ビールに小さなテレビに釘付けになるようにかじりついていた。

「おい!雪が降ってるぜ!」

ガラガラと戸を開けた、工事現場帰りの男が居酒屋に入ってきた。

「なんだなんだ!?」

その場にいた男達は外を見た。

夏の夕方はまだ明るく、茜色の空が美しい。そんな趣のある情景を隠すような薄暗い雲が広がっていた。そしてシンシンと小さな雪が微量ながら降っている。

「・・・どうなってんだ?おりゃまだ、2杯しか飲んでねぇぜ?」
「は、は、ハックシーー!!さ、寒い!」
「なんだ!?急に寒く?」
「おい親父!なに冷房つけてやがる!とっとと暖房にしやがれ!」

・・・季節は夏。異常はシンオウのみではなかった。

『ザ、ザーーー・・・オウ地方は大吹雪に見舞われ、外に出られない状態が続いております。寒風が凄まじい勢いで吹き付けており、平均風速9メートルを記録しております!気象グループは原因を追求していますが、今のところ解っておりません!気象グループの発表によりますと、シンオウの他にも、カントー、ジョウト、ホウエン、イッシュ、オレンジ諸島等、中央大陸の活火山造山帯を中心に被害が予想され、シンオウのような気候が広がると予想されています。この気候の特徴としましては、北方の大陸の寒帯とほぼ同じで、氷点下の空気が北から強い風となって気温を下げていきます!現在異常な寒冷前線が広がっており、予想によりますと、中央大陸全土に広がるまで8日と発表がありました!地域のみなさんは、水分の確保、避難の準備、保温対策を進めて下さい!異常な寒帯気候になれば、水道が凍結する恐れがあります!・・・・・こちらはジョウトコガネラジオからお伝えしています!只今入りました新しい情報によりますと、先程まで、ホウエンで起きていた異常気象と関係が強い可能性があると気象グループから発表がありました!ホウエンの海域を中心に断続的に起�
3$C$F$$$?43$P$D$d9??e$N1F6A$+$i!"5$8uJQF0$NF0$-$,$"$k$H8+$FDI5f$,?J$s$G$$$^$9!#:#$N=j$OCGDj$G$-$^$;$s$,!"=8CfE*$J>e>:5$N.$H2<9_5$N.$N1F6A$K$h$j!"%b%s%9!<%s$KJQ2=$,@8$8$?0Y!"KL6K$N4(5$$,Mp5$N.$H$J$C$?$H2>@b$,N)$?$l$F$$$^$9!#$7$+$7!"%l!<%@!<$r3NG'$9$k$H!"6ICOE*$K5$29Dc2<$,5/$3$C$F$*$j!"%b%s%9!<%s$NB>$KA0C{$,$"$k$+D4$Y$r!&!&!&!&%6!"%6%6!
ジョウトのアサギシティの海から、薄暗い雲が近づいてくる。すべての空を包み込むような巨大な雲の層。
まるで、今海間見える茜色の空が、この先見れないかもしれないという予感をさせた。

海をみながらラジオを聞いていた少女は、ポケギアを切り、港町に戻る。

その少女は再びポケギアの電源をつけ、歩きながら電話をかけた。

『・・・・なんだ?』

「あ!ラック!?久しぶりーー!!」

『・・・俺は何だと聞いてんだ。』

「ラック、今どこ?寒くて風邪ひいてない?」

『・・・・・ラジオの話か。俺はホウエンにいる。・・・そっちはどうなんだ?』

「あ。心配してくれてるんだ〜♪」

『アホか。誰がお前なんか。』

「こっちはまだ大丈夫!でも段々雲が近づいてるから・・・・クシュン!」

『・・・・・お前、まさかこの状況で泳いでたのか?』

「えへへへ〜♪だって依頼だもん♪」

『バカだろ。風邪ひけ。』

「えへへ〜♪」

『褒めてねぇ。』








歩けば歩くほど、人がごった返す。
建物の間の通りは、テントを張って商売に精をだす者が列をずらりとつくっていた。
皆、破れた服やローブ、ボロボロの靴を履きながら歩く姿を見て、治安の悪さが予想できる。まあ、俺もボロい胴着だからひとのことは言えないが。

・・・コロコロ・・・。

俺の足に何かが当たった。

サッカーボールだ。

どの方向から転がってきたのか、辺りを見回すと、黒い肌の小さな少年が手を振っていた。俺は蹴ってボールを返してやった。

ガッシャアアアン!!

・・・あ。

「コラアア!商品が台なしだああ!」

生まれて初めてのパスは、少年の方向へ真っ直ぐ軌道を描くはずだった。が、現実には右に大きく飛び、スピードはないが高速で回転しながらそのボールは、店の棚に突っ込んだ。

・・・俺は頭を何度も下げて、金を払って割れた陶器のような商品を受け取る。

あの少年が一部始終、腹を抱えて笑っていた。

「がはははは!兄ちゃん、おっかしぃ!」

自分の膝をバンバンと叩きながら笑いを抑えようとする。

「・・・るさいぞ。ホラ。」

俺はサッカーボールを渡した。

「兄ちゃん、芸道人?」

俺の服をまじまじと見ながら言う少年。

「ま、そんなもんだ。」

格闘家というのは伏せておいた。まあ、シバが自分から格闘家を名乗るなと言ってたし、というか、この格好で気づけ。

「変なの。ま、いーや。遊ぼうぜ!俺ひとりで退屈だったんだ!」

少年が俺の手を引っ張り、グングンとこの場から離れていく。・・・意外と力があるな、細身な手足で。

俺と少年は、しばらく広場でサッカーをした。ゆっくりだったら俺にでもパスは出来た。しかし、わざわざ他人を捕まえてサッカーに誘うのか・・・。

「友達は忙しいのか?」

俺はパスをしながら聞いた。

「いや、みんな病気で死んだよ。」

パスを片足で受け止める少年。

「・・・そうか。」

くだらない事を聞いた。後悔の念が立ち込める。

「いいよいいよ!気にすんな!行くぜ、バナナシュッ!!」

少年は俺を宥めて笑顔になり、シュートを出す。

ドン・・・パシィ!


綺麗な曲がるシュートだった。足では止められない高さだった。俺は跳躍して手で弾き落とした。

「おお!やるぅ!」

「だが、ハンドだ。」

「あれ?PKだぜ?」

「・・・パスワークじゃないのか?」

「どっちでもいいじゃん!へへ!」

・・・俺達は、日が暮れるまでサッカーをした。その間その少年は、本当に楽しそうな表情をしていた。

「俺さ、サッカー選手になるんだ!」

サッカーボールをリフティングしながら、目の前の少年、ラルクは言った。

「ポジションはオフェンス!とりあえず練習しまくって、相手のカットをトラップでかわし、そして最高のMFにサイド!そしてロングパスがゴール前に来て、来て、俺が!ヘディング!!ィシューー!!」

自演しながら夢を語るラルクは、本当に輝かしく思えた。

ラルクは、ボールを俺に投げて渡した。

「ヤシロー。ありがとな、今までで一番楽しかったよ。」

ニッと笑ったラルクは、歩いて帰っていく。

・・・・?

俺はラルクを追いかけた。

「おい、ボール。」

ラルクにボールを手渡すが、ラルクは手で遮る。

「いいよ、ヤシロにやる。」

ラルクの表情に、曇りがうつった。
・・・なぜだ?サッカーが好きなはずだろう?さっきまでの抑揚とした表情が消え、今では愛想笑いだ。

「ボールがなけりゃ、サッカーできないぞ。」

俺は言う。

「病気なんだ、俺。もうすぐ死ぬ。」

・・・衝動が駆け巡った。

「白血病みたいなやつでさ、一年ないんだって。」

苦笑いなのが見て取るようにわかる。

「・・・骨髄のドナーはないのか。」

「ドナーって何?」

ラルクの格好は、ハエがたかるボサボサの頭に、黄ばんだ緑のTシャツ。ジーンズをちぎったかのような半ズボン。
医者にかかわる金もないのがわかる。

「へへ、ヤシロ。俺さ、友達とサッカーなんてした事ねぇよ。」

ラルクは言った。

「だってさ、仲良くなってから死んだら辛いじゃんお互い。俺が病気だって知ったら、絶対に気ぃ遣うって。ヤダもん俺。」

「・・・健康体そのものに見えるがな。・・・・・だから旅人とかを誘ってたのか。」
「・・・ん。ゴメンな。」

「そうじゃない。」

俺はボールを半ば無理矢理押し付ける。

「何故諦めるんだ、しかも今更。」

サッカーをして、サッカーを語っていた時の無邪気な笑顔を見れば、どれだけラルクがサッカーが好きか、誰にでもわかる。

病気では確かに大人になる頃には命を落としているのかもしれない。というか、普通なら今ごろ絶望に苛まれて落ち込んでても可笑しくない。白血病だと知ってなおサッカーボールを持っていたラルクが、何故今俺にボールを渡すのか?

「・・・本当に楽しかったんだ、サッカー。ヤシロと一緒にやれて。俺、今までボールがあれば壁とか使えばサッカーできると思ってた・・・。
・・・でもさ、サッカーは人がいなきゃ出来ないね。ヤシロとやって解った。・・・・・だから、ヤシロにあげる。じゃあね。」
ラルクは走ってその場を去る。

・・・・・俺は、ラルクを助けてやりたい。

しかしどうすればいい?
病気を治す為に金を稼ぐ?いや、骨髄を移植する相手がいなければ話にならない。なら行って励ますか?いや、それは悪手だろう、ラルクには重荷にしかならない。

・・・・・・・・・・。

ラルクは俺から逃げるように走りつづけ、姿が見えなくなりかける。

「ラルク!!!」

俺は大きく張り叫んだ。

ラルクが止まった。夕焼けの逆光でよく見えないが、きっと俺の声に気付いている。

・・・・・・夢なんだろう?

「俺はしばらくこの街にいる!!だからまた明日来い!!相手してくれ!!」

俺は手に持ったボールを落とし、ゴールキックを放った。

ドンッ!!

俺の初めてのゴールキックは、高く放物線を描き、そして。

・・・・・パリィィィン!!

「こらあああ!!誰だウチの窓を割ったのは!!?」

・・・・・・・。

・・・・・・・少しはカッコつけさせろ。

俺はその住まいの方に頭を下げて、弁償金を払い、ボールをぶつけられた。

「がっははははは!」

隣にはラルクが、膝を叩いて爆笑していた。

「・・・・・//」

俺は、ラルクにボールを渡す。

すると、すんなりボールを受けた。

「ははは。しょうがないか。ヤシロ下手くそだしな。また明日サッカーやろう!」

そしてラルクは走りながら帰路を辿った。
ラルクの表情は、さっきとは比べものにならない。希望に満ち溢れた、幼げで明るい子供の顔をしていた。

・・・・・よくわからないが、きっと俺はラルクを助けてやれたような気がした。・・・有料だが。

.

しかし。

ラルクは死んだ。

.

俺はラルクの家を探し、街を走り回る。

そしてラルクの住まいに駆けつけた。

父らしき人物がひとり、ひっそりと泣いていた。

「・・あ、あんたは?」

涙を拭いながら、ラルクの父は聞いてきた。

「俺は・・・。」

友達か?知り合いか?
・・・・・いや。

「俺は、ラルクと今日、サッカーをする約束をしていました。」

「・・・・・・そうか。」

俺は、ある部屋に案内された。そこは小さな倉庫で、中には農具や掃除用具などが壁に立て掛けられ、ホコリが舞っていた。その部屋の中央に、一辺70センチくらいの木の箱が置いてあった。

俺は蓋を開けた。

・・・・開けなければよかったと、そう思った。

半年前、ラルクが急に倒れ、頭痛を訴えながら意識を失った。ラルクの父はなけなしの金をはたいて病院に連れていった。
余命一年。その言葉は両者にとって重すぎた。しかし、ラルクはサッカーをする事で気を紛らせていたのだろう。無理をして笑顔を取り繕うラルクは、父に心配をかけまいとしていたのだろう。父は胸を痛めた。

しかし、信じがたい出来事が降りかかる。ラルクを一度診てもらった病院に、街一番の有権者が来た。息子の心臓が病気らしい。院内の子供のリストに、ラルクの名前が明記されてあったのをいい事に、ラルクの心臓を差し出せと言ってきた。
ラルクは余命1年。白血病以外は健康体である。一方にとっては吉報で、一方にとっては最悪だった。

有権者には逆らうな。それがこの街で生きる為のルールでもあった。

ラルクの遺体の左胸には穴が空いていて、塞いだ跡もなかった。

俺とラルクが約束したその日。

その日は、ラルクが死ぬ日だったのだ。

昨日、ラルクはどんな気持ちで俺にボールを託したのか。

そして俺は、何故つき返すような軽はずみな行動をしたのか。

頭がグルグルと輪廻する。

俺はラルクの遺体の入った蓋を閉めた。

部屋の外へ出る。

父が、俺にあるものを渡してきた。

・・・俺が昨日ラルクに渡した、サッカーボールだった。

「ラルクからです、ヤシロさんへと。」

父は、俺を家から閉め出した。


家の前で呆然と立ち尽くしてしまう。

手に持ったサッカーボール。

投げ捨ててやろうか?

そう思ってボールを睨むように一瞥する。

・・・・・ボールに、何か書いてあった。

ミミズのような文字で、大きくマジックでこう書かれていた。

.

『ちゃんとゴールしろよな!ヤシロ!』

.

・・・・・俺は・・・・・・どうすればよかったんだ・・・。

俺は泣いた。大声で泣き叫んだ。

俺は・・・助けることが出来なかった。

助けたつもりでいた自分が・・・腹立だしかった。

.

.

.

その後も世界を廻って旅を続けた。

いろいろな人と出会った。

さまざまなポケモンと出会った。

彼らは、必死に生きていた。

そして、そんな彼らを迫害する人間がいた。

俺は、そういった奴らから彼らを助けてやりたかった。

・・・・・だが、旅をする度に辛さが募った。

学院で虐められている子の自殺を止めた事があった。俺はなんとか生きて欲しいと、武道を教えた。身の守り方、闘い方、力のつけ方等。そして最後に、『俺が教えた事は絶対に使うな』と教えた。「なぜ?」と聞いてきたから俺は、『武道は喧嘩の為にあるんじゃない。負けない心をつくる為にある』と教えた。

その子は、学院の登校を再開した。最初なんとか耐える事が出来た。

しかし、虐めは終わらなかった。

周りはポケモンを使い始めた。野生のポケモンと偽って、その子を影から襲った。その子は、正当防衛でポケモンを追い払った。

『ポケモン虐待』『暴力男』『反トレーナー』

そんなあだ名がついた。

その子は屋上から飛び降りて死んだ。

彼が机の中に残しておいた遺書には、こう書いてあった。

.

【ごめんなさい。武道を正しく使えなくて、暴力にしてしまって、ごめんなさい。ごめんなさい。】

.

・・・・・俺は、助ける意味を知りたい。

.

.

.

.

俺は28歳になった。

シバが四天王の座を辞して、2年が経っている。
理由は解っている、俺を探す為だ。

俺は、シバが受け持っていた道場に向かい、そこの道場生を集めて回った。
シバは、道場をつくっているが指導はしていないのは知っている。だから、体裁上そいつらは、シバの弟子の俺に肖ろうとついて来た。

・・・そして、ジョウトのシロガネヤマにて。

シバと対峙した。

「・・・ヤシロ。」

シバが言った。

「・・・・・10年ぶりです。」

「マグマ団に入るというのは本当か!?」

俺の言葉を遮るように、シバは言った。

「・・・ええ。しっかり考えて、決めたことです。」

「・・・マグマ団は、ポケモンを悪用し、自分達の都合のいいように好き勝手する組織だ。認めるわけにいくか!」

・・・・・人間なんて、どいつもこいつも都合がよけりゃいいのさ。

「・・・シバ師範。」

「・・・・・。」

「俺は、『助ける』事とはどういう事かを知りたくて、世界を旅してきました。そして、シバ師範が、俺を助けてくれた時の、貴方の気持ちを理解したくて、世界中の人やポケモンを『助け』てきました。

・・・・・結果、駄目でした。」

「なに?」

シバが顔をしかめる。

「シバ師範、貴方は俺に生き方を教えてくれました。お陰で俺はこうやってこの場に立っていられます。
・・・・・貴方の言う通り、人は一人では生きてはいけません。誰かが支えてやらなくてはなりません。」

「・・・・・。」

寡黙にシバは真剣に聞く。

「死にゆく子に手を差し延べ、落ち込んだ子に希望を与え、俺は繰り返し繰り返し、懸命に生きてきました。

・・・しかし、俺は気づきました。・・・俺達は、勝手で残酷な生き物だと。

天は二物を与えずといいます。人間には知能を、ポケモンには力を与えました。人間は知能で繁殖してきました。文明も、文化も、秩序も、そして心も。・・・故に、俺達人間は当たり前だと思っています。交錯した社会が、飽食の社会が、貧しい社会が。

・・・・・真面目に生きていく子供達が、バカを見て死んでいく。

・・・・・俺は、俺はそんな彼らを助ける方法を思いつきました。」

・・・人はみな生き物だ。ポケモンも、動物もしかり。

助け合って生きてゆかなくてはならない。

繰り返される訴訟や戦争。

反発する意志。

すべては、人間が自分勝手につくった社会やルールが間違っている。

なら、それを取り除こう。

俺は、これ以上生まれてくる子供達を苦しめたくない。

0からやり直そう。

かつて、地球上からひとつの有機物が、生命が生まれた時へと。



「俺は、地球上の全生命体を絶滅させる。」



「な!!!?」

シバは驚愕した。

「俺は本気だ。」

「・・・・・・ヤシロ。・・・お前は一度考えたら、最後までやる奴だ。・・・いまさらどうこう言うまい。」

シバは体から闘志を吹き出す。

俺を睨みつけるように言い放った。

「ヤシロ、お前は間違っている!俺が止めてやる!お前を助けてやる!」

シバが構えた!

「・・・・・助けるか・・。」

俺は、ドグロック、ニョロボン、エビワラー、バオンブー、カイリキーをボールから出した。

シバは、イワーク、サワムラー、エビワラー、カイリキー、カポエラーを繰り出した。

「考え直せ、ヤシロ!」

「・・・マグマ団には入る。既に貴方の門下生はマグマ団に送り込んだ。

・・・お前ら!俺に気合い玉だ!!」

「ドク!」
「ニョロ!」
「エビ!」
「リッキーー!」
「バオーーー!」

俺のポケモン5体は、気合い玉を発動し、各自パワーを右手に集め。

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォンンンン!!!

俺に集中放火した。

「な!!ヤシロ!!正気か!!?」

シバは目の前の惨状に驚きを隠せない。弟子のヤシロがポケモンを出し、気合い玉を命じたと思えば、ポケモン達は躊躇いもなくヤシロを攻撃した。

・・・だが、疑問が生じる。
5つの格闘ポケモンのパワーがぶつかれば、その反動は凄まじいはず。

故にシバは身震いした。

なぜ、反動の爆風が生じないのか。

そしてなぜ、ヤシロから凄まじいほどの闘気が溢れてくるのか。

気合い玉の光が消えた。

中からヤシロが出てきた。

「・・・ヤ、ヤシロ・・!?」

シバは言葉を失う。俺の黒い髪は、さっきと変わって白髪になり、顔や胸板の肌が綺麗に光る。顔立ちもすっきりしていて、精練された身体がシバの目の前にあった。

「シバ。一対一だ。」

「・・・・・よかろう!」

シバは気を発した。

「《観空大(かんくうだい)》!!!」

シバは技名を放ち、俺に突っ込んだ!

そして、俺の目の前で消えた。

「・・・。」

俺は気配を探る。

俺は首を下げた。

ブゥゥオオワン!

骨を切断するような蹴りが、ヤシロの背後から襲うが、空振りに終わる。

「がぐっ・・・!」

俺はシバの首と水月(みぞ)を突き、捕らえた。

「終わりだ。」

ボキィ・・・・!

シバは地面に叩きつけられ、何度も転がる。

シバは息絶え絶えに、顔を青くした。
首を折られた。

俺はシバにトドメを刺す。

「・・・師範、いままで、ありがとうございました。・・・・・さようなら。」

ズボッ・・・!!!

.

.

.

プルルルル・・・!

発信機から通信が入る。

俺は通信を繋げた。

『ヤシロ!貴様!どういうつもりだ!』

マツブサの怒号が聞こえた。

「・・・何か?」

『ぐっ・・・今どこにいる!』

「空の柱です。」

平然と答えた。

『・・・なんだと・・・、ヤシロ、謀ったか?』

「ええ。」

『・・・・・この異常な吹雪に冷気。まがいもない貴様の仕業だな。何をしたんだ!』

「お疲れ様でした。あと、人材提供や費用援助、非常に助かりました。」

俺は通信機を切る。その通信機を空の柱の屋上から投げ捨てた。放物線を描いて落ちた通信機は、途中で氷づけになって粉砕した。

・・・ブリザードを生成したか。

目の前にいる巨大なポケモン、キュレムは、かつてレックウザが眠っていた場所で眠りについている。

現在、空の柱の周りには氷と風のバリケードを張り巡らせ、一切の生命の侵入を拒む。もし触れれば、さっきの通信機のようになるからだ。

俺はラジオをつけた。

『ザ・・ザザ・・・ホ、ホウエン全土にお住まいのみなさん!現在キナギタウンから東北へと、ブリザードが発生しています!大変危険ですので、近隣にいる人は、直ちに避難して下さい!ホウエン全土に、強風、大雪、雪崩、凍傷警報が発生しています!みなさんは速やかに建物内に避難して下さい!気象グループから、大変寒い天候が予想されています!保温の対策を・・・ザ・サザ・・・・!』

俺はラジオを切った。

来ていたマグマ団の服を脱ぐ。

周りから立ち込める寒気。

その発端が俺達だ。かつて氷河期により地球上の恐竜や植物が死んだ。

・・・自然の力に飲まれて、安らかに死んでくれ。

それが、俺が出来る最後の救済だ。

息を吐けば、曇るように真っ白い煙りが現れ、風とともに消える。

普通の人間ならば、凍りついて死ぬ気温だ。

今の俺は同期状態。ポケモンの気合い玉からパワーを貰い、代謝を高めている。

・・・まあ、そんな芸当できるのは俺くらいだが。

完全に孤立した世界が此処にはあった。

隣ではキュレムが寝ている。

・・・・・外では、地球上は急速に気温が下がっている。

火山も噴火するだろう。

まあ、その火山灰の影響で、太陽の力も無力化する。

・・・俺はようやく、人の為に助けになれたのだと、心から思った。

これから、全てが無に還った時、どのような『種』が生まれるのか。

それが、互いに支え合える『種』である事を祈る。

.

.

.

「ヤシロオオオオォォォォ!!!」

・・・しかし、『種』は潰しても。

『根』はまだ残っていた。

.

.

.

――――――――『ポケモン世界を歩こう3』side story―――――――― to be continue





マグマ団専用の飛行艇にのり、俺と団員下っ端はイッシュへと降り立つ。

団員はみな、俺が集めた元道場生ばかりを連れて来た。

「行くぞ。」

雪の積もる静寂な台地。

俺は目の前の断崖絶壁に向かって、カイリキーを出す。

「岩砕き!」

俺の指さす場所は粉砕され、大きな穴が空いた。

「おぉ!こんなところに!」
「ヤシロさん?ここに何があるんです?」
「なんだここは?」

団員が思い思いに言葉を発する。

「皆、ついて来い。」

俺が先導して、穴に入り、洞窟を進んだ。

.

ここで出てくる野生のポケモンは手強かった。部下に戦わせ、戦力を消費しながら、最奥部へと進んでいく。

「ヤシロさん。この先に何があるんです?」
下っ端が聞いてきた。

「それは見てのお楽しみだ。」

面白げもなく俺は返した。

「ひょっとして、行方不明のシバさんかな?」
「バカかお前、こんな寒い洞窟にいるわけないだろう。きっと、どっかの山奥で鍛練してるのさ。」
「シバさんもシバさんだぜ。4年も姿くらましちまって、引きこもってたほうがあの人は割が会うぜ。」
「ぎゃはははは!」

・・・・・・・・・。

最奥部についた。
ここまでかなり時間がかかったが、後は俺の仕事だ。

「・・・下がってろ。」

俺は部下を後退させた。

俺は、ポケモンを5体出した。

「気合い玉だ。」

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォンンンン!!!!

同期状態に入った。

後ろではザワザワとざわめく声が聞こえる。

俺は目の前の泉に目を向けた。

すると、突然吹雪が襲いかかる。

「「「「「うわわわあああ・・・!」」」」」

吹雪に晒された部下は、逃げるのに間に合わずに半数凍りついてしまう。

すると、洞窟の高い天井から、ソレは現れた。

ズシンと、地響きがなった。

『人間!ワシに何様だ!』

黒い氷のドラゴンは、威嚇しながら俺を見据えた。

「俺に力を貸して欲しい。」

悪びれもなく俺は言う。

『ほざけ!!』

キュレムの凍える世界!!

洞窟中が氷点下の空間になる!

部下は慌ててその場から逃げ出した。

俺は依然とキュレムを見たままだ。

『・・・ワシの技が効かぬとは・・・答えよ、人間から超逸した能力を身につけたか若しくはその遺伝を持つものか。どうだ!?』

「・・・・・格闘ポケモンの力を借りた。それだけだ。」

『格闘・・・気合いエネルギーか。不可能だ。人間とポケモンは相成れぬ存在。エネルギーの同調ならびに共用など。』

「確かめるか?」

『・・・・・・・フン。』

キュレムの絶対零度!!

カキィ・・・・・・・ィ・・ン・・!!

洞窟にある全てのモノが凍りついた。キュレム以外の森羅万象、全てを停止させた。

キュレムは驚愕した。

キュレムの眼下には、以前と変わらず、俺は居座っていた。

服とかは・・凍ってしまったが、身体は平気だ。・・・それでも、かなりの力だ。キュレム。

『・・・貴様、何故動ける?』

「ふん。」

ビュッ!

俺はキュレムの胴体へと潜りこんだ!

『(速い!)』

俺は掌底を腹に思い切り当てた。

ズガアアアアァァァァ!!

『がっっはぁぁぁ・・・!?』

キュレムは宙に投げ出された。

トンッ!

俺は追い撃ちをかけて跳躍し、キュレムに近づく!

俺は回し蹴りを放つ!

ドゴォォオオオ!!!

『うぐっ・・・・!!』

そのままキュレムは泉に落ちた。凍った泉に落ちたキュレムは、水の表面が割れた破片が刺さり、痛々しい。

キュレムはゆっくりと起き上がった。

俺は地面に着地する。

『・・・・・』

「・・・・・」

互いに見つめあう。

そして、キュレムが口を開いた。

『・・・・・ワシの負けだ。何が望みだ?』


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