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テーマB【鐘】
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アラブルアブソル、主人ト離レテ、ブル ブル ブル 作:dodo
私の名前は、アブソル。ニックネームは、まだない……
はやくつけてほしいのだが、ポッと出の田舎モノのご主人にはそんなセンスはないようだ。
まったくと息を吐き、目の前をふらふらと歩いているご主人の背中に視線を送ってみる。
視線に気づいたのかご主人がこちらを振り向いた。
若干の期待が私の胸を突く。
が、何を勘違いしたのかご主人はニコリと微笑んで、私の頭をやさしく撫でる。
ご主人の手のリストバンドに飾られた鈴が、私の頭を撫でるたびに、チリンチリンと小気味良く鳴る。
別にかまってほしかった訳ではなかったけれど……、まあいいか
気持ちのいい時間は、意外とあっけなく終わった。ドンッという鈍い音共にご主人に男がぶつかった。
よろめく、ご主人。男は誤りもせず、いそいそと人ごみの中に消えていく。
確かにご主人は、田舎者の能天気者だが人にぶつかっておいて誤らないとは、この町の人間はなんて失礼なんだろうか。
煮えたぎる怒りを視線にこめて男の消えた人ごみをにらみ付けた。
私が災いを呼び込むポケモンとたいていの人間は知っている。
故に私がにらみつけた事で、人ごみがザワッと音を立てて後ろに引く。
そんなに過剰に反応しなくてもいいのに……
周りの反応にすっかり気分を悪くした私は、ご主人に行動を急かそうとして視線を送った。
と、そこで気がついた。
つい先ほどまでご主人が居たであろう場所に、ご主人の姿はなく。
忙しく左右を行きかう人々の山しかなかった。
ゴミのような人しか居ない町でご主人と離れ、私は一人……もとい一匹になってしまったのだ。
うぇあー・まい・ますたー……?
言葉の変わりに、湿った泣き声が喉から漏れた。
―*―*―*―
―――、ココハドコ? ワタシハタワシ?!
……はっ、何てことだ。マスターとあまりに突然、離別に気が動転してしまって、何か変なことを口走ってしまった気がする!
とはいえ、マスターから離れてすでに、二時間が経とうとしている。
私のアブソルという容姿はかなり目立つはずだ、先ほどから周囲の視線が痛いのでそれだけはわかる。
この視線から逃れるためにも、マスター……早く私を見つけてください。
頭を垂れて、トボトボと歩いているとチリンと小気味良い音が草陰から、聞こえてきた。
青天の霹靂とまではいかないが、そのいつもの鈴の音が聞こえたとき、全身の神経に電流が走ったかのような錯覚を覚えた。
なんだ、こんなところに居たのか、まったくちょっと目を離すとすぐどこかへ行って迷ってしまうのだから、マスターには困った物だ。
困らされたお礼に、脅かしてやろうと草むらから飛び出した瞬間、バシンとつめたい何かが私の鼻っ柱を叩いた。
な、なんだぁ〜。こいつはぁ〜!!
という言葉のかわりに、鳴き声が響く。
飛び掛った先に居たのは、マスターではなかった。
そして、そいつはすごく似ていた。
以前マスターが見せてくれた、宇宙関連の雑誌に載っていた『ユーホォー』ってやつにすごく似ていた。
全体の色が驚きの白さ! 頭のてっぺんから、黄色い窓みたいなでっぱりが飛び出している。
極めつけはあれだ、下に向かって光をたらしているかのようにへこんだお腹からベロンと、何に使うかがわからない吹き出しが垂れている。
突然のことに混乱していると、『ユーホォー』がぐるりと回転した。白い部分にある黄色い窓がこちらを覗き込んだ。どうやらそこが顔らしい。
困惑しているこちらを尻目に『ユーホォー』は口が開く。
「チリーン」
鳴き声(?)のような物を上げ、そいつは空中で体を左右に振る。
チリンチリンとマスターのと同じような小気味良い鈴の音が響く。
私は、開いた口が塞がらなかった。
頭の中で久しく働いていなかった野性というものが、カラカラと滑車を回し始めた。
本能に近い何かが、警鐘をガンガンと鳴らす。
コイツはやばい!!
という思考が、頭から全身に稲妻のように駆け巡る。
ウツボットが甘い香りによってえさであるハエを捕らえるように、ランターンが提灯を疑似餌にして小魚を捕らえるように、こいつは音を使って獲物を捕らえるのであろう。
つまり今の私はマスターの鈴の音を疑似餌に使われ、まんまとコイツの罠にかかってしまったというわけだ。
うわぁーっと軽く、自暴自棄になって私は『ユーホォー』に飛び掛った。
罠にかかってしまったときは、どうにかして相手の注意をそらして逃げるんだ。とマスターが、得意げに語っていたのを思い出したからだ。
だが、結果として浅はかな行為であったとしかいえなかった。
私の突進を予測していたのか『ユーホォー』はゆらりと宙を舞って、攻撃をかわす。
しかも、腹から垂れた吹き出しを私の首筋に絡めてきた。
きゅぅっと、首が絞まった。
な、何てことだ。こちらの攻撃を予測し、さらに罠を張り巡らせるとは、コイツかなり出来る!!
食われてたまるかと、必死になって暴れる。
体重がこちらの上のためか、『ユーホォー』もぐららぐらぐらと揺れる。
コレはたまらんと、『ユーホォー』が首の拘束を緩めた瞬間を狙って、私は『ユーホォー』の吹き出しに『噛み付く』を繰り出した。
「くぁwせdrftgyふじこlp!!?」
と、噛み付かれた『ユーホォー』から奇妙な叫び声があがる。
しめた! 3割の確立で発生する補助効果、『ひるみ』が発動したのだ。
『ユーホォー』の拘束から、まんまと逃れた私は、これ幸いにとその場を全力で逃げ出した。
―*―*―*―
冷静になって考えてみると、先ほどのは『ユーホォー』ではなかったのかもしれない。
マスターが、見せてくれた写真はもっと楕円形でニビ色だったような気がする。
てんぱると状況を冷静に把握できなくなるは私の短所だと、マスターから何度も注意されていることだ。
もっと生じせねばと、そんな考えていると見慣れた赤い屋根が見えてきた。
ポケモンセンター、全国を旅するトレーナーにとって各町の拠点となる重要な場所であり、さまざまな人々が集う場所……
そこまで思い出して、思いついた。ここで待っていれば、マスターも来るのではないだろうか?!
おおー、こんな天才的なことを思いつく自分が恐ろしい……
浮き足立ったテンションで、私はポケモンセンターの自動ドアをくぐった。
……予想の斜め上を行く、人の量だ。
マスターがいるとして、一体どこにいるのだろうか?
ポケモンセンターの中をぐるりと回って、あまり人のいない赤い扉の前に腰を下ろした。
人ごみの流れを見る。マスターと思わしき人影はどこにも見当たらない。
手持ちぶさたを紛らわすため、上を見上げると、赤い扉の上に丸い枠が飾られていた。
ああ、これ知っています。
確かこの枠の中にあるボタンを押すと、人がたくさん集まってくるのだ。
身を乗り上げ、枠の中にあるボタンに目をやる。
『強く押す』
コレくらいの文字ならば、ポケモンの私でも読めるのだ。
と、そこで再び電流が走った。
このボタンを押せば、マスターは来るのではないのだろうか?
『強く押す』とも書いてあるし……
特に考えることもなく私はボタンを強く、押した。
空気が、炸裂したかと思った。
ビリビリと私の前にある扉を中心に全身の毛が逆立つほどの警鐘が鳴り響く。
ポケモンセンターの中の人々がざわざわと、騒ぎはじめる。
誰かが「火事だー!!」と叫んだ。それを切り口に、人々が絶叫を上げた。
出口に向かって、次々と飛び出していく……
あれ? 私、もしかしてとんでもないことした?
―*―*―*―
ポケモンセンターから、飛び出すように逃げ出して気がついたら、私は町外れまできていた。
もうこんな街、嫌だ。
街の中では、いやな目で見られるし『ユーホォー』には絡まれるし、ポケモンセンターでは騒ぎが起きるしとにかく、疲れる町だった。
マスター、早く見つけてー!!
と言葉に出したかったが、出てきたのはなんとも情けない鳴き声だった。
泣き叫ぶ私の耳にチリンと心地よい、音が響いた。
また『ユーホォー』が追いかけてきたのかと思いドキリとし、背筋が凍ったが優しい手が私の頭を撫でた。
手の伸びてくる方を見ると、そこには安堵したようなご主人の顔が浮かんでいた。
ご主人はかなり走っていたのか、額から汗が流れ出し肩で息をしていた。
私を放って置くなんて、許されないんだから!
と、言葉にしたかったが私はポケモンだから喋れないので、横についている鎌のような角で、グリグリと押し付けた。
ぐっと、ご主人の腹から声が漏れた。
なだめるように、頭を撫でご主人は私の首に手を回した。
カランと、綺麗な音が響いて私の首に金色の鐘がついていた。
「コレを買いに行ってたんだ。心配かけてごめんね」
とご主人は優しい声をかけ、私の瞼の涙を拭う。
それだけで、うれしくなって、舞い上がってしまって、私はご主人にしがみ付いた。
もう、一生ついていきます!!
そういう感情を全て込めて……
END
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