> 飛び出す○○○と地を逝く××× 作:dodo
飛び出す○○○と地を逝く××× 作:dodo
―*―47―*―


 アカ・ダイダイ・キ

 様々な、色が彼女を照らす。
いや、その色は実際に彼女を照らしているわけではない。その色は、この街の様々な店の看板を目立たせる為に輝くネオンの色だ。
 しかし、彼女の目から見ればまるで自分が立つ無骨なビルの屋上をライトアップしているかのようだった。

 ビルの安全のために設けられている柵を超え、天井と空との境に足を置く。
下を見れば、大きな通りにポツポツとまばらな黒い点がゆっくりと左右を行きかっていた。
夜分遅いためだろう、人はあまり居ないようだ。
 あまり人の迷惑にかけたくなかった彼女にとってはうってつけの時だった。

 両手を広げ、彼女はそのまま倒れこんだ。

 自由落下の気持ち悪さよりも、一瞬感じた激痛よりも、自身の長髪が風に煽られて体をはたくむずがゆさがなによりも絶えがたかった―――


―*―48―*―


 キ・ミドリ・アオ

 様々な、色が彼女を照らす。
いや、その色は実際に彼女を照らしているわけではない。その色は、この街の様々な店の看板を目立たせる為に輝くネオンの色だ。
 しかし、彼女の目から見ればまるで自分が立つ無骨なビルの屋上をライトアップしているかのようだった。

 ビルの安全のために設けられている柵を超え、天井と空との境に足を置く。
 下を見れば、大きな通りに様々な色と模様の傘がゆっくりと左右を行きかっていた。
今日が雨のせいだろう、通りがいつもより華やかに見えた。
最期を派手に決めたかった彼女にとってはうってつけの時だった。

 両手を頭の上でピッタリと合わせ、彼女はそのまま入水した。

 自由落下の気持ち悪さよりも、ぬれた長髪が肌に張り付く気持ち悪さよりも、雨粒を追い抜いていくほどの速度が、絶えられなかった。


―*―49―*―


 アオ・アイ・ムラサキ

 様々な、色が彼女を照らす。
いや、その色は実際に彼女を照らしているわけではない。その色は、この街の様々な店の看板を目立たせる為に輝くネオンの色だ。
 しかし、彼女の目から見ればまるで自分が立つ無骨なビルの屋上をライトアップしているかのようだった。

 ビルの安全のために設けられている柵を超え、天井と空との境に足を置く。
 下を見れば、大きな通りに黒い斑点がフラフラと左右を行きかっていた。
今日が風邪の強い日のためだろう、風に飛ばされないと必死になる人々が滑稽に見えた。
最期に笑いたかった彼女にとってはうってつけの時だった。

 両手を腰にピッタリと合わせ、彼女はそのまま宙に舞った。

 自由落下の気持ち悪さよりも、風にあおられてグルグルと回される気持ち悪さよりも、落ちていく彼女を誰かが見つけて叫んだ声が耳につくのが、絶えられなかった。


―*―50―*―


 アカ・ダイダイ・キ・ミドリ・アオ・アイイロ・ムラサキ

 彼女の上に、七つの色がありありと表されている。
本日は、快晴。雲ひとつなく、風もまったくといって良いほどなかった。
 ビルの安全のために設けられている柵を超え、天井と空との境に足を置いた彼女は目の前の景色に圧倒され、ふと思い返した。

 この光景を見たのは何度目だろうか?

 初めて見るはずの光景なのに、何故か何度も見たこともあるような奇妙な感覚が彼女の胸からあふれ始めた。

 姿勢を正す前にもう一度、通りを見る。『いつも』と変わらない通り、大きな道の割に人通りの少ないのが特徴な通りだった。

 がさりと、顔に新聞紙が被さってきた。鬱陶しくまとわりつくソレを引き剥がすと一面に書かれた記事が目に飛び込んできた。

『××市に住む、女性 飛び降り自殺。増える自殺、何故?』

 と、大きく取り上げられていた。
よく見ると、そこに彼女の名前があった……たった今、死のうとしている自分の名前。

それを見た瞬間、彼女は全てを理解した。

 そうかと、息を呑んだ。

「私はもう、死んでいるんだ……」

 そう認めた瞬間、彼女は体が軽くなるのを感じた。
それまで、地面に縛られていたのではないかという錯覚にすら覚えた。

 両の手を胸の前でだらりと力なくたらし、彼女は空を飛んだ。

地縛霊としてではなく、浮遊霊としての彼女の死が 新たに 始まった のであった。




                                      続く
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