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テーマA【リスタート】
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偽心真心 作:プラネット
僕の事を、人々はなんと言うだろう。
最強のトレーナーとか、天才とか、期待の星とか――はたまた化物という人もいると思う。
僕は――なんなのだろうか。
僕の生まれはジョウト地方のワカバタウン。恐らくだけど、ジョウト一の田舎だと思う。
僕はそこの中の一つの家で生を受けた。そして、僕は十歳になって旅に出る事となる。
道中、色々な騒動があった。
アルフの遺跡の謎を偶然だけど解いた。
ウバメの森では時渡りなんていう超常現象に巻き込まれた。
エンジュシティでは伝説のポケモンと出会ったり、戦ったりもした。
アサギシティでは薬を貰いに行かなきゃならなくなった。
怒りの湖では赤いギャラドスなんてものを見た。
チョウジタウンでは迷惑なお土産屋さんやロケット団のアジトに乗り込んだ。
挙句の果てにはロケット団という組織を解散させてしまった。
その上、何だかジムバッジをくれない強情な人もいた。
そして、僕は快進撃を続けていった。そんなある時、ある人は君は本当に子供なのかい?と言った。
僕は確かに自分のこの力量をおかしい、と思っていた。
三年前にも似たような凄い少年が現れたらしいが、それを十年――いや百年に一人の逸材だと判断すれば、充分に考える事は可能だ。でも、僅か三年で似たような快進撃をする子供がまた現れたとなれば、それは当然おかしいと思う。
僕もそれには同意見だった。でも、彼は違った。コウヤだけは。僕を見据えてこう言った。
「お前はお前だ。他の連中がどう言おうが、お前は俺のライバルだ。天敵でもある。お前ほどのヤツを倒せずにポケモンチャンピオンなど名乗れるか。お前だけは俺が倒す。必ずな」
彼は自分を見失わない。強さをどこまでも求めている。それが、純粋に僕にしては羨ましいし、妬ましい。
そんな時。僕はカントー地方へ招待された。オーキド博士の斡旋だった。
僅か十歳という若き年齢でポケモンリーグを制覇した天才少年、という事でカントーのジムを回る事となった。
そして、それを僕はまたやってのけた。人々は更に化物だという。もう、僕がいつ見ても、客観的に自分を見ても化物だ、としか思わなかった。
そんな中、僕は――シロガネ山へと向かう事になった。
普通のトレーナーの侵入を拒むのだが、僕は二つの地方を制覇した前代未聞のトレーナーとして特別に入ることを許された。これもオーキド博士の斡旋である。
そして――僕は見た。真なる伝説を。
彼はそこにいた。聖なる霊峰――シロガネ山の頂に。一人寂しく。
その瞳は一体、何を見据えているのだろうか。無感情、ともいえる――そんな瞳。
彼は――腰のベルトからモンスターボールを取り出した。彼の右肩にはピカチュウが乗っている。
僕は静かに頷いた。
『生きる伝説』という言葉があるなら僕の目の前の彼が最も当てはまると思う。彼は圧倒的だった。
僕は自分自身を化物と思っていた。だけど――彼は格が、何もかもが、ステージそのものが違っていた。
結論から言おう。僕は――負けた。
何故だろうか、それ以来僕はずっとワカバタウンに篭っていた。周囲は突然の帰郷に驚き、そして閉じこもった僕を不思議に思っていたみたいだけど、僕は全然違う。
あの圧倒的な存在を――僕は恐れていた。
バトルをしようとするだけで彼を思い出し、そして身体が震えてしまう。トラウマ、と言っても過言ではないと思った。
僕はポケモンバトルが出来ない――旅も出来るわけが無い、そう思って帰ってきたわけだ。
彼は僕の全てを破壊した。根底から天上まで、僕の全てを揺るがし、そして完膚なきまでに破壊した。
そして、僕は思った。僕はこのまま――こうして暮らすしかないんだろうって。
僕はもう――戦えない。
数週間が経った。数ヶ月が経ってしまえばいいと思った。
コウヤが僕の目の前に突然と姿を見せに来たのだ。
僕にとって、それは意外な来訪者。コウヤは僕の顔を見るなり、僕を外へ連れ出した。
「何なのさ」
「さあな、お前自身に聞いてみろ」
「バトルならしないよ」
「あぁ、言うと思った。少し付き合え」
コウヤは僕をどこへ連れて行くのだろうか。
近場だった。ウツギ研究所。僕の旅の切っ掛けを作り出した場所だった。
そこにはある来客がいた。間違っても、こんな田舎には来ないであろう人が一人。
橙色のツンツンした髪、黒の革ジャン、薄茶色のジーンズを身に着けた人物――カントー地方、トキワシティジムリーダーのグリーンさんだ。
「よぉ久々だな」
「お久しぶりです」
僕は軒並みな挨拶で返す。グリーンさんを見る限り、暫く会っていなかったけど元気そうだった。
「ところで、何でまた突然篭りだした? ん?」
直球に聞いてきた。
まぁ、大方そうなんだろうなと思う。僕は――何も言えなかった。いや、実際には色々と言えただろう。
だけど、それをできなかった。出そうと思えば出せるのに、その先が言えなかった。
その様子を見て、グリーンさんは言った。
「………その感じ。もしかするとだがお前……会ったな? アイツに」
「アイツ……?」
「あぁ、オレの邪魔をしたヤツがいるって以前言ったろ? ……オレの幼馴染さ」
「……………」
「まさかとは思うがお前、本気でアイツに会ったのか? アイツは三年前から行方知れず。オレだってアイツの所在は知らないんだ」
僕は何も言えなかった。でも分かる。グリーンさんの言っている人物が間違いなく、僕にトラウマを植えつけた張本人である事は。
「ま……焦っても始まらないな。今度また来るわ」
そう言い残して、グリーンさんは研究所を後にした。
残るのは僕とコウヤの二人。暫く黙っていたのだけど、コウヤはやがて我慢できずに僕に聞いた。
「お前、負けたのか?」
コクン、と首を縦に振った。
否定できなかった。いや、彼だからこそだろう――僕はしなかった。
「負けたからお前止めたのか?」
「まさか……僕だって負けた事はある。でも、全てが違っていたんだ」
「全て、だと?」
「根から全てをかき回された。僕は僕なのか。僕は一体何なのか――本当に色々とかき回された。気付いたら……負けてた」
「リベンジは考えなかったのか?」
「考えた。でも、バトルしようとする度に――身体が拒絶したんだ。震えが止まらない」
コウヤは壁にいつのまにか体重を預けて凭れていた。
僕は続ける。
「それだけじゃない。僕はあの人のことばかりを考えるようになった。全てが全て、その人に囲まれて……」
考えるだけで僕の身体は恐怖を感じ、怯えだす。震えだす。
その様子を黙って静観していたコウヤは――こう言った。
「バカじゃねぇのか」
「え……?」
「だからオレはバカじゃねぇのか、って言ったんだ」
流石に僕も目つきが変わる。そしてコウヤの服を咄嗟に掴んだ。
「君は分からない! 僕は知っている! 分からない癖に勝手な事を言うなッ!!」
「いいや、分かる」
コウヤは僕の手を静かに振り払う。何故だか、いつものコウヤじゃない気がしていた。
コウヤは僕を一瞥する。
「お前、オレが今までどんな気持ちでお前と戦っていたか、分かるか?」
「ぇ――」
「オレはずっと言いたかった。お前、人間じゃねぇってな」
「―――ッ!?」
「だが、今回の事ではっきり分かった。お前は人間だ」
「どういう事……!?」
コウヤははっきり、僕に宣告した。僕の恐怖の元凶を。
「お前は自分のポケモンをボロボロにされたくないから、戦いたくないんだ」
「え?」
「お前は今まで、負けたとは言ってもそれは常に自分だけが関与する事だったはずだ。だが、お前は――自分のポケモンを完膚なきまでに叩き潰され、恐怖に怯えているだけだ。臆病者なんだよ、お前」
一瞬、コウヤの言葉の意味を僕は理解しようとは思わなかった。
恐れている? 僕が?
でも――考えてみれば、辻褄はちゃんと合う。
コウヤは言う。
「お前らしさって何だ?」
「僕らしさ?」
「あぁ。オレは絶対に諦めないというところだろう。お前は――オレから言ってみるなら」
――ポケモンをとことん信じる絶対的な強さを持っているんだろうな――
コウヤはそう言い、僕はそれを最後まで聞かずに研究所を飛び出した。聞きたくなかった。
僕に、そんな言葉は似合わない。そして、僕はやっと気付けた。
化物と呼ばれていた真の理由を。
家へ帰ると、僕はモンスターボールからポケモン達を出した。
「みんな……ごめんね」
静かに僕は呟くように言う。
「みんなを信頼していたつもりだった――でも、実際は違っていた。僕はみんなを仲間だなんて思っていなかったんだ。僕はみんなを兵士として扱っていた……あの人は一瞬でそれに気付いたんだ。だからっ! だからっ! だからっ! だから、僕は僕をも欺いていたんだ。みんなを信頼しているように自分や周りに見せ付けるために――それすら……それすら……あの人は……」
今まで泣かなかった。泣けなかった。だけど――それは僕自身が言ったように、本当にポケモンを信じていたとは言い難いと思う。
僕は色々な言葉を、謝罪をしたかった。でも、それをみんなはさせなかった。
僕を優しく包み込んでくれた。こんな僕を。みんなは道具として使われていたようなものなのに、そんな僕を許してくれるというのかい?
自然と涙が頬を伝う。
みんなは僕の嗚咽する声を懸命に聞いてくれていた。僕の懺悔を、後悔を、静かに聞いてくれていた。
僕は、僕は、僕は、僕は、僕は――
あれから二週間足らず。
僕は再び、シロガネ山へ来ていた。
もう、迷いは無い。
彼と再び戦うために―――僕はここへやって来た。
そして、彼もまた、僕を待つように頂に立っていた。
足音をわざと鳴らす。
頂には雪が積もっているから、そんな事をしなくてもいい。でも、あえてやったのだ。
彼は音に気付き、僕の方を見る。
口元が微笑む。
嬉しいのだろうか。それはよく分からない。でも、どうやら表情だけで分かったらしい。
この前との変化に一瞬で気づくなんて流石だ、と思う。
彼は言った。
「やっと来たね。もう来ないかと思っていたよ」
「負けませんよ先輩。僕は先輩を、伝説を越えてみせます」
「そう――」
楽しみだ、と彼は静かに言い――
期待していて下さい、と僕は返した。
さあ、始めよう。
僕は迷わない。僕は歩き出せるし、挫けたってまた立ち上がれる。
僕には――友がいる! 仲間がいる! 親友がいる!
この言葉は――随分と久しぶりだ。
でも、僕が僕である今、初めて使う言葉だと言っていい。
さあ、生きる伝説よ、僕はあなたを今こそ越えてみせる!
僕は心の底からその言葉を強く叫ぶように言う。
「頼んだよ、バクフーン!!」
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