ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ− ( No.1 ) |
- 日時: 2011/02/10 21:35
- 名前: 夜月光介 ID:Vk0ac.xg
- 参照: http://chiba.cool.ne.jp/kinokohonpo/sirokuro.html
- 第1章 1話『始まりの風』
オーロラの輝きと共に現れる北風を司る神・スイクン……雷(いかずち)と共に現れる雷を司る神・ライコウ…… マグマと共に現れる火山を司る神・エンテイ……ジョウトの歴史に刻まれている伝説のポケモン達。 しかし、まだ伝説に記されていないもう一匹の神がいた…… 吹雪と共に現れ、雪の結晶を司る神、その名は
「おい、起きろユキナリ!フタバ博士が呼んでたぞ!」 「えー……まだ眠いよ兄さん……今何時なの?」 「8時だ。もう起きるには充分な時間だぞ!さあ早く!」 ここはシラカワタウン。ポケモンという不思議な動物達が人間と共に暮らしているパラレルワールド。 ポケモンとは、野生の動物達のように普段は森の中や海の中で暮らしているが、 特殊な操り球である『モンスターボール』によって自由を奪われ、人間の奴隷として生きなければならない生物である。 その奴隷となったモンスターを人は道具として使う。悪戯に戦わせたり、ペットにしたり、生態を研究したり……
捕まえるまでポケモンは人間に対して敵意を感じたりするが、一旦捕獲されると自我を失ってしまう。 その為、人間は彼等を『友達』だと思い込んでしまっているのだ。野生のポケモンと親しく接す事が出来る人間は少ない。
シラカワタウンは、トーホクという大きな「エリア」である。トーホクの南にはポケモンのメッカ「カントー」があり、 そのカントーの左側には伝説のポケモンのエリアである「ジョウト」がある。 ジョウト・カントー・トーホクにはそれぞれエリアごとに「ポケモンジム」が8箇所ある。 ポケモンには様々な種類があり、種類を1つに絞って頂点を極めた者がそのジムの「ジムリーダー」となる。 性別、年齢、職業は問わない。 とにかく自分が捕獲したモンスターを上手く飼いならし、他のトレーナーには負けない実力のある者がリーダーとなるのだ。 そしてエリアにはリーグが1箇所設置されている。ココは1属性のポケモンを極めた者達が集う闘技場。 四天王とリーグ覇者が新参トレーナー達の挑戦を待っている。そんなポケモンが生活の1部になっているこの世界で、今新たな伝説が生まれようとしていた……
「いきなり博士から電話がかかってきたから、大急ぎで朝御飯作ったんだけど……味はどうかしら?」 「大丈夫。美味しいよ母さん。……だけど急になんだろう、こんな朝早くから僕を呼ぶなんて……」 「俺も呼ばれたんだよ。隣のユウスケもだ。また新しいポケモンの発見か?」 シラカワタウンは雪が1年中降っている街。都会から離れ、人々はポケモンと共に気ままに暮らしている。 ココに住んでいるのは、ユキナリ。そしてホクオウと、彼等のお母さん。隣の家にはユキナリの親友、ユウスケが暮らしていた。 ユキナリは今12歳。兄のホクオウとも丁度12年歳が離れている。ポケモントレーナーに憧れながらも、まだ1匹もポケモンを持っていない。 正義感が強く、とても優しい心を持った少年である。兄のホクオウは24歳。世界中の山を制覇した一流の登山家である。 家に帰るのはあまり好きではなく、この日も午後には出発する予定だった。 長い登山の旅を続けるもう1つの理由。それは母親に会いたくなかったからである。
ユキナリにとっては本当の母親だが、ホクオウにとっては赤の他人なのだから。 ホクオウの母親は、ホクオウが10歳の時に死んでしまっていたのである。 その後父親は若い妻と再婚。それから5年後に父親も後を追って他界した。父親の事を考えると気が滅入った。 新しい母親も好きにはなれなかった。2人の母親は今年で30歳。16歳の若さで結婚した頃とあまり変わっていない。 自分の子供ではないホクオウにも、優しく接している良き母親だ。 隣に住んでいるユウスケはユキナリと同い年。ポケモンの科学者を目指して独学で知識を持った。 現時点で学会に報告されているポケモンなら、生態系や覚える技をすべて把握しているという天才である。 だが生まれつき体が弱く、相棒の草ポケモンと一緒によく風邪をひいていた。気も弱く、人見知りしがちで、今の所親友と呼べるのはユキナリだけだった。 「おはようございます。呼ばれて来ました……何の御用ですか?」 3人はこの街では一番大きな建物であるフタバ博士の研究所にいた。 ユウスケはユキナリと同じく、なかなか布団から起きれないタイプの人間である為、まだ欠伸ばかりしている。 「こんな朝早くにごめんなさいね。私も連絡を受けたのよ。貴方達にその事を伝えなきゃと思ってね」 フタバ博士は若くしてトーホク内では右に出る者がいないと言われているポケモン研究者である。 彼女の名が全国に広まったのは彼女自身が発見したある『発表』がもとであった。 この「トーホク」は全ての街、野原、道路に雪が降り続けている不思議なエリアだ。
太古の昔からずっと降り続けているこの雪がポケモンの進化に多大な影響を及ぼしたのである。それは『変種』の誕生だった。 このエリアではなんと全てのポケモンがポケモンの1つのタイプである「こおり」を持っているのだ。 カントーやジョウトではノーマル・ひこうが当たり前なポッポも常識が覆され、「ひこう・こおり」になってしまっている。 毛も白く、口から吐く息は冷たい。そんな変種を詳しく研究したフタバ博士は、さらなる『発表』で世のポケモン学者を驚嘆させる事となる。 『変種』となったポケモンの一部が、普通の進化とは別の進化を遂げていたのだ。 現にユウスケが持っている「ボタッコ」は、白い変種ワタッコからさらに進化したポケモンなのだ。 そして変種とは関係無いトーホクのみで発見された新種の研究……謎はたくさんあった。 そんなこんなでトーホクに生息しているポケモンの数は変種を含めて400種以上と言われている。 フタバ博士は先程も書いたがトーホクポケモン研究者。日夜変種の生態系や変種進化の原因について調べている。 だが彼女はもともとトーホク出身者では無い。数年前から研究を行う為にトーホクに永住する事を決意した学者の鑑である。 理知的で物事を解決するのも得意。タウンの住民の悩みもヒマな時なら相談に乗ってくれる。(最近は殆どヒマな時が無いが) ジョウトのベイビィポケモン発見者であるウツギ博士とは親しい。新しく開発された液晶テレビ電話付きポケギアでよく意見の交換を行っている。 カントーの四天王カンナの双子の妹で、顔が知られている為都会に出ると勘違いされるのが悩みの種らしい。
「連絡って……何の事?」 「3人全員に報告よ。ウツギさんからの映像がここに残っているわ」 ユウスケの質問に対して、フタバ博士は答えなかったが、その代わり机の上に置いてあったパソコンを操作した。 『重要報告・ウツギ』と書かれている項目をクリックする。画面が暗くなり、すぐに3人ともよく知っている人物が現れた。 「この人、前に博士と研究室で話してた……」 「そう。若手ポケモン研究者の中では私と同じ位の位置にいる、ウツギ博士ご本人よ」 『フタバ博士、急に連絡を入れてしまって申し訳ありません。ウツギです。 この度、連盟長の教授が新たなプロジェクトを立ち上げたので、是非それを伝えておきたかったんです。 今フタバ博士がいるトーホクで、今一体何匹の変種と、トーホクの新種、それに変種進化のポケモンがいるのかという問題に直面しました。 カントーでは151匹、ジョウトでは251匹のポケモンが生息していますが、トーホクはそれを遥かに上回ると思われます。 それを確認したのはレッド君と、うちのゴールド君。とにかくポケモンが大好きな子供達が確認に協力してくれました。 ですが、今回ばかりはあまりにも数が多すぎて、1人では到底図鑑の完成は望めません。 そこで教授と相談した結果、2人のシラカワタウン出身者に手分けして図鑑を完成させてもらいたいと思ったんです。 多分、今君達はこの映像を見ているんじゃないかな……そう、ユキナリ君と、ホクオウ君が選ばれたんです!』
ユキナリはあっけにとられて、しばらくは声も出ない状態が続いた。 ユウスケは(じゃあ何故僕も呼ばれたんだ?)という様な表情をしている。 『明日には、インプット用ポケモン図鑑内蔵の新型ポケギアを2個、そちらにお届け出来ると思います。 そうそう、それからユウスケ君。君は、ユキナリ君ともう一つの仕事をやってもらう事にしたよ。 君はポケモンを持っていたよね?確か……ボタッコだったかな?ユキナリ君はまだポケモンを持っていないようだから、 フタバ君、君が持ってる奴を一匹プレゼントした方がいいかな……』 ユキナリはまさかと思った。出来すぎた夢かとも思った。だが、それは現実に他ならなかった。 『そう。オーキド博士の提案で、ユキナリ君、ホクオウ君、ユウスケ君の3人には、トーホクのウオマサ高原にあるポケモンリーグのチャンピオンに挑戦してもらう事にしたんだ! 確かホクオウ君も、登山のお供にポケモンを携えていたよね。今度はそれを頂点に立つ為に使ってみないか?』 夢にも思わなかった誘い。ユキナリは胸がいっぱいになった。リーグを制覇した人達と、同じ旅が出来るなんて! 『話が長くなってしまったね。というワケで、3人共頑張ってくれ!図鑑もリーグも大変だけど、君達ならどちらも成し遂げられるさ。 すぐポケギアを持って出発してくれ!トーホクのポケモン研究発展に関わる大切な仕事だ!!』
フタバ博士は画面を閉じた。 「ポケギアと、ユキナリ君のポケモンはもう用意してあるわ。ウツギさん、時々こっちに寄るって行ってたから、会った時はよろしく言っておいてね」 その言葉の通り、机の上には水色に光っている最新型のポケギア2個と、3個のモンスターボールが置かれていた。 「1つ、選んで頂戴。皆トーホクで発見された新種ばかりよ」 ほのお・こおりタイプ こぎつねポケモン コエン みず・こおりタイプ こくじらポケモン ホエルコ くさ・こおりタイプ こがらしポケモン カレッキー 「あ、僕これ持ってる!」 ユウスケはカレッキーを指差した。そう。それはユキナリも知っている。 兄のホクオウの相棒であるマッコは、ホエルコの進化形態だ。ならば、彼の選ぶポケモンは1匹に絞られる。 コエンだ。ユキナリは躊躇う事無くコエンを受け取った。
「出発は・・・明日ね。誰かさんは他の準備でもう出発出来るみたいだけど」 「そうだな。俺は今日行くよ。丁度家を出る他の口実を探してた所だ。その任務に参加させてもらう」 ホクオウはポケギアを腕にはめた。彼の手持ちのポケモンもうずうずしている様だ。 「お前等は2人で協力しろよ。多分すぐまた会えるさ。方向は同じなんだから……」 ホクオウは研究室を後にした。荷物はユキナリの家に置かれたままだったので、それを取りにいったのだろう。 「もう少し詳しく説明させてもらうと、この新型はトーホクのラジオ番組を聞く事が出来るの」 フタバ博士は残された1個のポケギアを腕にはめた。 「このボタンでチューナーを操作出来るわ。それと、これはテレビ電話も搭載済み。私のポケギアの機能も付いてるの」 博士は自分の研究室の電話番号を登録した。 「この青いボタンでラジオとテレビ電話の切り替えをするの。誰かから電話がかかってきたら、自動的に電話に切り替わるからね」 ユキナリは驚嘆した。まさに最新鋭のポケギアである。 「これがトーホク地図機能。セカイっていうDJが担当してるラジオ番組は聞いておいて。随分役に立つと思うわ」 フタバ博士はポケギアをユキナリに手渡した。ユウスケもポケギアをまじまじと見つめている。 「それと……勿論インプット機能付き最新ポケモン図鑑。ざっと500匹はデータを入れられるようにしてあるみたい。 これの凄い所は……そうね。見た方が早いわ。ユキナリ君。早速コエンをボールから出してみて頂戴」 ユキナリはちょっと恥ずかしかった。まだポケモンを手にした事が無かったからだ。
モンスターボールには2つのボタンがある。 1つは中央に付いているボタン。これで操られたポケモンを外に開放する。 もう一つのボタンはそのすぐ近くにあるボタン。 穴状になっていて、エンピツなどの尖った物で刺さないと押せない。それは解除ボタン。 モンスターを本当の意味で開放し、野生の本能を取り戻させるボタンである。滅多に押される事は無い。 とにかく、ユキナリは中央のボタンを押した。閃光と共に、コエンが出現する。その途端、ポケギアが反応した。 図鑑画面に切り替わり、機械的な声で説明を始める。 『コエン。こぎつねポケモン。死の予兆と言われる人魂らしき物を常に近くに浮かばせている。 人を化かすのが得意で、よく飼い主に化けてトレーナーを驚かす。キタキツネと生態が似ており、 かまくらを自分で作って寒い冬を越す。ロコンとの関連性も否定できない。進化するに従って尻尾が増えるのは一緒である』 確かに、図鑑が言う通りコエンは青白い人魂を2つ浮かばせていた。尻尾が2本あり、2足歩行のポケモンの様だ。 「ユキナリ君。ボタンで選んで、そこの『コミュニケーション』と書いてある項目を押してみて。本当に面白いわよ!」 フタバ博士は笑いを隠しきれずにいる。とても嬉しそうだ。ユキナリは少し躊躇った。 「ユキナリ。押してみてよ!」 ユウスケも興味津々だ。とにかくユキナリはそのボタンを押してみる事にした。 『フタバ博士、このコが僕の新しい飼い主なんですか?』 「ええ。ユキナリ君って言うの。さっきから聞いていたと思うけど」 『ああ、聞いてました。ちょっと久しぶりに外に出させてもらったものだから、名前しか聞いてませんでしたけど』 ポケギアから出てきた声は、キーキー声とでも言うのだろうか。とにかく狐の様な甲高い声だった。 「……な……!?」
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ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ− ( No.2 ) |
- 日時: 2011/02/10 21:34
- 名前: 夜月光介 ID:Vk0ac.xg
- 参照: http://chiba.cool.ne.jp/kinokohonpo/sirokuro.html
- 第1章 2話 『初戦闘』
ユキナリは立ち竦んだ。 (嘘だろ!?そんな、まさか!) 「驚いてくれたかしら。フフフ……これが科学の力よ。これでポケモンの言葉が私達の言葉に直されたの。 ポケモンの本音が知りたい人達が沢山いたから、研究チームも必死に努力した結果、このシステムもポケギアに搭載したわ」 呆然とする他無かった。ユウスケもびっくりしている。当たり前だろう。ポケモン自身が喋っているワケでは無いが、気持ちがはっきり伝わったのだ。 確かに『コミュニケーション』だ。はっきりしすぎた意志の疎通が出来るだろう。 『宜しくお願いしますね、コエンです。ユキナリ君、これから、ずっと一緒ですよ!』
とにかくユキナリは言葉を返した。 「うん、これからよろしくね!」 「……これって、どんなポケモンとも会話が出来るの?」 「ええ。標準を切り替えれば、1匹1匹の声は聞きづらくなるけど、何匹とでも会話が出来るわよ。勿論、ポケモン同士もね」 ユウスケは緑色のモンスターボールを取り出した。開放ボタンを押す。出てきたのは、彼の相棒であるボタッコだった。すぐさま図鑑が解説する。 『ボタッコ。ゆきわたポケモン。寒い所で何百年も子孫を生み出し続けた結果生まれた変種進化ポケモン。 ハネッコと言うくさタイプのポケモンの最終進化と思われていた、ワタッコの変種からさらにアワッコ、ボタッコと進化する。 性格は極めて穏やかだが、雪の胞子を飛ばし、相手を霜焼けにしてしまう技を持っている為、油断しない方が良い』 「ボタッコ……コミュニケーションっと……」 ユキナリはコエンとボタッコ同士の会話も聞ける様に設定した。方法も簡単でユキナリにとっては非常に有難い。
『ユウスケ、このヒトだーれ?』 「僕の友達の新しい相棒さ。ユキナリ、初めてポケモンを仲間にしたんだ。僕のボタッコと戦ってみないか?」 「えーっ!?む、無理だよ。仲間になったばかりでろくにポケモンバトルの事も知らないのに……それにどう考えたってレベルが違いすぎるじゃないか!!」 『それは関係無いと思いますよ。ユキナリさん』 「そうね。コエンの言う通りよ。最も、私がそれを貴方に使ってたから知ってるんでしょうけど」 『ハハハ、バレました?ユウスケさん。パワーベルト持ってるんでしょ』 「うん。そうなんだ。うちのお母さんが買ってきてくれたゴーリキーお墨付きのパワーベルト。 これでポケモンのレベルを自由に調節出来るんだよ。えーっと、コエンは多分レベルは5だよね。 数字を決定して……よし、これでボタッコも力はレベル5に抑えたよ!」 「で、でも……」 「大丈夫よ。最初は皆戸惑うわ。コエン、とにかく命令の仕方をユキナリ君に教えてあげて」 『何か間違ってませんか?……まあいいか。ユキナリさん、まずは僕の技を覚えてください』 「わざ?」 『僕達は技を習得します。ある一定のレベルに達するか、技マシンと言う装置で覚えさせられるか。 とにかく、僕の場合は〔鬼火〕と〔化かす〕が生まれた時から備わっていた技です』 「それで?」 『野生のモンスターや、ユウスケさんの様なトレーナーと戦う時、何時その技を使うべきかを命令しなければならないんです』 「なるほど……で、それはどんな技なの?」 『うーん。それはさすがに僕が説明するものでは無いですね。僕、ポケモンですから。図鑑を見てください』
ユキナリはポケギアのコエンのデータを開いた。『コエンが覚える技』が載っている。ユキナリは自分で読んでみた。 『鬼火・人魂を敵にぶつけて攻撃する不気味な攻撃方法。威力自体は火の粉程度。しかし恐怖により時々相手は凍ってしまう。 技の属性自体は炎なのだが、氷漬けの判定がある特殊な技』 ユキナリはさらに続きの画面を開いてみた。 『化かす・相手のトレーナーの幻を見せて、相手を必ず混乱させる技。混乱状態になるとかなりの確率で自分にダメージを与えてしまう為、なかなか効果的。 技の属性はゴースト……だが特殊技である為意味は無い。』 「なるほど……」 ユキナリは一応理解したつもりだった。とにかくどう戦うかは承知した。
「リーグの覇者になる為には、まずトーホクに8つあるジムという修練場のリーダー、つまりジムリーダーを倒さなければならないの。 ジムリーダーのポケモンや使ってくる技も見る事が出来るから、それで作戦をたてる事ね」 「じゃあ、戦い方が解った所で、僕のポケモンと訓練してみよう!」 ユウスケに促され、ユキナリはコエンに指示を与える準備をする。 『貴方が命令する最初のバトルですからね!属性的に有利でも、油断してはいけませんよ!』 「属性的に有利……?」 「あら、属性の説明をしていなかったわね。属性というのは、ポケモンに備わっている機能の様な物。 それによってこの技を覚えられるとか覚えられないとか、どの属性のポケモンに大ダメージを与えられるかなどが大体解るの」 『このトーホクに生息しているポケモンは全て氷の属性を持っています。僕もほのお・こおりタイプのポケモンですし、今戦うボタッコさんはくさ・こおりタイプなんです』 「基本的な3種類の属性を見てみましょうか。ユキナリ君。ポケギアのポケモン図鑑で〔属性影響〕という所を選んで頂戴」 ユキナリが項目を選ぶと、矢印が沢山見える画面が出てきた。
「ほのおタイプのコエンは、ボタッコの様なくさタイプに大ダメージを与えられるわ。 ホクオウ君が持っているマッコは、コエンに強いけど、ボタッコと戦うのは避けた方がいい。 この基本属性の3つは、互いに牽制しあっているの」 「基本属性の他にも、色んな属性があるみたいだね。」 『それは後でも説明出来ます。久しぶりに戦えるので、僕もウズウズしてるんです。早く戦いましょう』 ユキナリの新たな疑問は保留の形となった。 ユウスケのボタッコ(パワーベルトの作用でレベル5になっている)とコエン(元フタバ博士のポケモン。たねポケモンなのでレベルは当然5)を戦わせるのが先だ。 「ユキナリ君。ポケギアの機能はまだまだあるわ。〔バトル〕と書いてある項目を選んでみて」 出てきたのは数々のデータ画面。ユキナリは驚嘆した。 「その6つの丸は今貴方が何匹ポケモンを持っているかを表しているの。今1匹しかいないから、当然1つしかランプが点いていないはずよ」 彼女の言う通り、オレンジ色のランプは1つしか点いていない。他の5つのランプは灰色だった。
「コエンのデータという項目を押すと、使える技の回数とHPが解るの。HPが0になったポケモンは瀕死状態で戦えないわ。 その時、丸は瀕死のポケモンの数だけ青く光って……瀕死に近いポケモンがいる時、ランプは赤く光るわよ」 『瀕死状態や、技のポイントが0になった時はポケモンセンターに僕を連れて行ってください。こまめに回復させてもらえると有難いなあ。 無料施設なので、何回利用しても問題はありませんからね』 「バトルの解説は済んだわね。それじゃあ、私が審判役になるから、思う存分戦ってみなさい!」 研究室は不意の事故に備えて恐ろしく丈夫に出来ていた。ポケモン、そして人間同士がスタートを待ち互いに睨みあう。
「開始!!」 フタバ博士のその言葉と共に、2匹は一斉に駆け出した。 「コエン、〔化かす〕を使うんだ!」 『解りました!』 コエンが呪文を唱えると、ユウスケの幻が現れた。 「うわ、僕そっくりの幻影だ!」 ユウスケもこの技を見るのは初めてらしい。
『ボタッコ、デンキショックダ!』 『え〜?そんな技覚えてないよー』 『ボタッコ、ニゲルンダ!』 『バトルの最中はそのコマンド使えないよぉ。ああ、なんか頭がクラクラしてきた……』 幻のユウスケの命令は無理な注文ばかりだった。しかも本物の声が幻に邪魔されて頭に入らない。 「しまった。〔こんらん〕状態になっちゃった!」 焦っても仕方が無い。ユウスケは祈りながら命令を出した。もう幻は消えている。 「ボタッコ、冷たい風だ!」 「冷たい風?」 ユキナリは相手の技の項目からそれを選択した。 『冷たい風・名前の通り冷たい風を相手に吹き付ける技。通常のダメージの他に、相手の命中率を下げる効果を持っている』 「うーん。ちょっと嫌な予感が……」 混乱状態にはなっていたものの、ボタッコは自分にダメージを与える事なくその技を出す事が出来た。
『うわっ!』 コエンに刃の様な冷たい風が襲いかかってきた。その突風はコエンの全身を麻痺させ、コエンの手はガチガチにかじかんでしまう。 『さ、寒い……』 コエンの動きも鈍くなってしまっている。ユキナリにとって、これは非常に厄介な出来事であった。 「あ、そうそう。この戦いが終わればコエンの命中率も元に戻るから安心してね」 ユキナリはホッとしたが、今は解説を聞いている場合じゃ無い。 「コエン、鬼火だ!」 コエンは体の近くを飛び回っている青い人魂をボタッコに飛ばした。だが、命中しない。 「今度は僕の番だ。ボタッコ、冷たい風をもう一度だ!」 混乱状態は続いていたが、運が良かった為ボタッコは通常通り技を繰り出した。こおりタイプの技はコエンにはあまり効かないが、その場のみの命中率下げは大きな力となる。 寒さに震えるコエン。ユキナリは鬼火を繰り出させたが、またもや攻撃を避けられてしまった。 『ユウスケさーん。頭がスッキリしてきましたー』 「そ、そんな……」 そう、数ターンで混乱は解けてしまうのである。しかも、今回の場合は混乱しても有利にはならなかった。 「よし、もっとダメージを与えられる技に変更だ!ボタッコ、体当たりしてやれ!」
コエンの腹に突っ込んだボタッコは体全身をコエンにぶつけた。 『グッ!』 これはキツイ。コエンのHPはかなり減ってしまった。HP表示を見ると、緑色だったバーは黄色に変わってしまっている。 「もう一度体当たりをくらったら……」 さっきのダメージからして敗北は確実だ。ターン制なので次はコエンの攻撃となるが、ほぼ絶望的だ。 命中率を半分下げられ、もし当たったとしても一撃で倒せるダメージを与えられるかどうか。属性的には有利なのだが…… 「なかなかいい戦いね。ユキナリ君にも逆転のチャンスはあるわ。同じ5レベルのボタッコ。属性的には通常のダメージよりも効果は大きい。 これでもし急所に当たる攻撃を出せれば……本当の逆転勝利よ!」 命中率を下げられ、次のターンで確実に瀕死……勝つ為にはなんとしても攻撃を当て、なおかつ急所に当てなければならない。 「……コエン、鬼火だ!」 『OK。何があっても絶対当てます!』
コエンは手の痛み、腹の痛みを堪え、人魂を放った。2つの人魂がボタッコに向かって飛んでくる。 「ボタッコ、命中率は低い!当たったとしてもよほどの事が無い限り負ける事は無いさ!」 『次のターンでボクの勝ち〜♪』 だが、ボタッコに人魂がまとわりついた。攻撃が当たったのだ。 『うわ〜!』 青い炎がボタッコを焦がす。不気味にグルグル回り続ける。熱いのか寒いのかよく解らない攻撃だ。体は炎に巻かれ、心は恐怖に凍りつく。 顔の無い人魂がボタッコに噛み付いてくるようだった。 『こ、怖いよぉ〜。』 ユキナリは祈りながら相手に与えたダメージを確認した。 『通常ダメージ。効果は抜群』 「ああ、ダメか……」 ユキナリは落胆した。効果は抜群だとしても、半分以上HPを減らしただけだ。次のターンでこっちが瀕死になるのだから意味が無い。 人魂がコエンの元に帰ってきた。コエンは痛みをこらえ、相手を見た。 ユキナリはポケギアの情報にうちのめされ、うつむいていた。いきなり負けるなんて…… 「おめでとうユキナリ君。初戦としては危なっかしい戦いだったけど、終わり良ければ全て良し、かな」 「え?」 ユキナリは自分の耳を疑った。博士は、僕の勝ちだと言っている。顔を上げると、そこには頭をかいているユウスケの姿があった。 「土壇場で大逆転だよユキナリ君。こんな白熱した戦いはなかなか出来ない。諦めちゃいけないって事だね」 『ユキナリさん!ほら、ボタッコさん戦闘不能になっちゃったんです』 コエンも、まだ自分が勝ったという気分では無い様だ。ユキナリはボタッコがいた所に目を向けた。 そこには、恐怖の表情のまま氷の中に閉じ込められているボタッコの姿があった。
「氷漬けの状態=戦闘不能と考えてもいいわ」 ユキナリとユウスケは互いのポケモンをボールに戻した後、博士の研究室にある回復用ポッドにそのままの状態で入れた。 ポケモンは回復用ポッドにより数秒でその力を取り戻す。人間より遥かに優れた治癒力を持っているのだ。 いや、科学の力なのか?それはともかく、2人はコエンとボタッコを休ませ、フタバ博士の説明を聞いていた。 「トーホクでは最も強い力を持っている氷漬けの状態。このエリアではそれに適応した技を持っているポケモンしか氷から抜け出せない。 だから、ユウスケ君は戦闘不能。ジョウトやカントーでは試合続行らしいけど、ここは極寒の地。自然に氷が溶ける事は無いから……」 「氷から抜け出す技って、何ですか?」 「このトーホクでは、『聖なる炎』や『熱湯シャワー』。あと『マグニチュード』位かしら……あ、そうそう。 ゴーストタイプのポケモンには氷漬けそのものが成立しないから、覚えておいて。簡単に言うと、効かないって事よ」 「ユキナリ君!君のポケモン、その氷から抜け出せる技を覚えられるのかなあ?」 「うん。一寸調べてみる……」
ユキナリはポケギアを操作して、〔コエンが覚える技〕の続きを読んでみた。 『聖なる炎・コエンが覚えられる技としては最高クラスの技。コエンの場合は光の炎を体から放出し、敵をその炎に巻き込んで攻撃する。 氷漬けの状態でもこの技を使え、氷を溶かす事が出来る為、この技を覚えられるポケモンは恵まれている』 「へえ、やっぱり覚えられるんだ。羨ましいな、ユキナリ君……」 ユウスケはすこし凹んでいた。現時点では彼の持ちポケモンは3匹。ボタッコ・カレッキー・マッドだけだ。 最高進化という形で成長している。(変種進化)ボタッコに比べて、トーホクのポケモンであるカレッキーとマッドは未だ種ポケモン。 ユキナリよりも先にトレーナーになったのだから少し目上態度をとっても許されるはずなのだが、 彼は気が弱かったし、他人の成功の方が大きく見えてしまうタイプの人間だった為、何時もこうなってしまうのだった。
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ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ− ( No.3 ) |
- 日時: 2011/02/10 21:33
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第1章 3話 『始祖の棲む森』
「ポケモンを集めて、なおかつリーグの覇者を狙う。これは無理な相談では無いわ。 いえ、それどころか正論よ。リーグでは30体の優秀なポケモンが集っている。 色んなポケモンを捕まえ、好きなポケモンを見つけたらそのポケモンを仲間として扱い、100レベルまで育ててあげましょう。 それがポケモンを捕まえる私達の義務なの……」 「とにかく、明日になったら出発しよう!でも、ポケモンを捕まえなきゃ話にならないね…… ジム戦は何匹かを一定のレベルに上げないと挑戦権が与えられないらしいし……」 「この街にアルファショップがあるわ。手頃な価格でスーパーボールが売ってるから、何個か買っておく事ね」 ユキナリはすぐ自分の家に戻ったが、ホクオウはもう出発した後だった。 母親にその旨を話すと、彼女は自分の家の電話番号を登録する様にと忠告する。 「何か困った事があったら、電話してね。ホクオウにもそう伝えて。何か言おうとしたけど、あの子すぐ出て行ったから……」
ユキナリはこれから先はぐれたら困ると思い、ユウスケの電話番号も登録しておいた。 フタバ博士の方も電話番号を登録してくれたが、自分の研究室の電話番号の他に、ウツギ博士の研究室の電話番号も入れておいてくれた様だった。 ユウスケがすぐ迎えに来てくれた。買い物をしなければならないのだ。 新雪が降り積もっている地面を踏みしめ、2人はアルファショップに向かった。空を仰ぐと一面灰色の世界。雪が降っている。 アルファショップはシラカワタウンに建てられている商店で、他の街にはその親店や姉妹店が数多く建てられているのだ。 適当にボールのみを買った。1個200円はお得価格らしい。 店の店主に聞いた所、他の街ではもっと面白いボールが売られているらしかった。 ユキナリは今まであてもなく溜め続けてきた貯金を今回の旅に使う事にした。2人で5個ずつ買って、家に戻る。 にこやかに笑っていたユウスケの顔が印象に残った。その夜……ユキナリはなかなか寝付けなかった。 初めてポケモンを仲間にして、会話をし、心を通じ合わせてユウスケのボタッコに逆転勝利を決めた。 (トーホクのポケモン達が、僕等を待っている……!) その頃、最初のジム戦を突破し、草原地帯でキャンプをはったホクオウは、ちらちらと降り続ける雪をじっと見ていた。 トーホクは、雪が止まない。街から街への野宿には慣れっこになっていたが、それでも彼は注意していた。 「何せ、外で凍死するトレーナーが多いエリアなんて、トーホク位のものだからな」
『そうですか……無事に承諾してくれましたか』 「彼等に回復したモンスターを渡したわ。明日には、大荷物を届けてもらわないとね」 『ハハ、解ってますよ。ホクオウ君も無言のまま出発しましたけれど、前、僕に打ち明けてくれた事があるんです』 「え?」 『このまま登山家として生きていくだけで、果たして自分は幸せなのかって……何時も考えていたようですね』 フタバ博士はコーヒーカップを机の上に置くと、腕にはめたポケギアはそのままにして窓辺に向かった。 「雪……貴方のエリアで雪が確認されたのは、何回かしら?」 『数える程ですよ。ここ数年、雪が降った日なんて合計しても2日あたりしか……』 「ウツギ君。それがトーホクの面白い所なの。雪が止んだ事などここは一回も無い。 外の気温は常に−○度。吹雪いた日には−20〜−30度が当たり前。 常に温暖な気候を保っているジョウトには存在出来ない、こおりタイプのポケモンが今までに何十匹も確認されているわ」 『私も、その素晴らしさには目を見張ります。前にブリザードの生態系を研究させてもらった時は……』 ポケモンの話に入ってしまうと、2人の博識は止まらない。
新たな物語の幕開けである。
ユキナリは朝早く目が覚めた。外は当然雪が降っている。彼は着替えを済ませると階段を降り、母に気付かれない様に寝室を通った。 色々お小言を言われたくなかったのだ。心配されたくなかった。もう12歳なのだ。 旅に出たって、昔ならおかしくない年齢だろう。そして今も。ユキナリは兄がもう昨日から出発している事は知っていた。 出来るだけ早く追いつきたかった。ユウスケもとっくに起きているだろう。 フタバ博士も。旅の用意は学会の連盟者である彼女がやってくれる事になっている。
外は朝靄の中、ちらちらと雪が舞っている状態だ。 ユキナリは何時もの自分のジャンバーではなく、水色と紺の色をした兄の使っていた昔のお古な防寒服を着ていた。 何せウオマサリーグへ行くとなると、毎日吹雪に見舞われている街もある程なので。 ユウスケの家の玄関口に彼はもう立っていた。 「じゃあ、行こうか」 この粉雪とも、しばらくお別れするかもしれない。トーホクのウオマサ高原はリーグの駐屯地だが、 その気候はエリアの最北端である為、最悪。視界は殆ど遮られているという。 「とりあえず、出発したら、新しいモンスターを捕まえた方がいいよ。ポケモンは1戦1交代制だからね」 「1戦1交代?」 「ジムでは最低でも3匹はポケモンを持っていて、なおかつ全員のレベルを一定に上げていないと勝負してくれないんだ。 1回の戦いの後、ポケモンを交代するかしないか選べるんだけど、選べるポケモンがいないと意味無いでしょ? この先のコヤマジムは3対3のポケモンバトルなんだ。どちらかのポケモンが3匹敗れた時点で勝敗がつく」 「そうか……じゃあ早い所ポケモンを捕まえて、育てないとね。」 「待ってたわよユキナリ君。これが、学会から支給された2人分の荷物なんだけど……結構重いのよね。大丈夫かしら?」 研究所の玄関にフタバ博士が立っていた。他の助手達は全員まだ宿舎の中で寝ているはずだ。 「本当に有難うございます博士。では、行ってきます!」 ユキナリとユウスケはそれぞれリュックを背負った。……重い。肩に相当負担がかかりそうだ。 「何か解らない事があったら、ポケギアのラジオ機能で聞ける『ジョバンニ先生&ヨーコのポケモン教室』を聞くといいわ。 あと、うちの派遣中の研究員とか、それを指導してるホンバ君とか見つけたら、声をかけてあげて。喜ぶんじゃないかしら」 2人共親に内緒で出発したのだが、少し罪悪感を感じてしまうのも確かだ。しかしお小言を聞かされるのは周知の事実。 ユキナリが腕に付けているポケギアで電話すればいい。そう思っていた。
街から離れると、そこは雪が積もった林の中。降り積もる雪が枯れ木に付着して、まるで緑の葉の様になっている。 ユキナリの着ている古い水色の防寒服も、その下の青いジャケットと青紫色のセーターも雪まみれになってしまっていた。 耳当てをしているユウスケの薄緑の防寒着も雪がついている。時々トーホクでは当たり前の北風が、2人の肩を竦ませていた。 「さ、寒いね。」 「まあ、雪が降ってれば当然なんだけど……タウンマップによると、ここは47番道路・・・『始まりの森』だと思う」 ユキナリはポケギアを見ていた。勿論このポケギア、絶対零度まで壊れない優れ物である。当然防水加工もバッチリだ。 「始まりの森?」 「うん。ちょっとポケギアのラジオ機能に入っている『トーホクぶらり旅』の過去記録を聞いてみようか」 このポケギア、5年前からラジオが聴ける様になっている。その間の過去記録を音声ライブラリーとして全て記憶しているのだ。 ユキナリは『セカイ』の項目をクリックし、『始まりの森』の音声ライブラリーを開いた。 『始まりの森って知ってるかな。そうそう、シラカワタウンを出た所からすぐ入る大きな枯れ木の林なんだけど。 47番道路って事は、実はここ、カントーの道路の延長なんだよね。つまりトーホク最南端の道路ってワケ。 凄いよね、ここ。シラカワタウンからリーグを目指す奴にとっちゃ、ここはまさしく『始まりの森』。 でも、この林の名前、そういう意味で付けられたんじゃ無いんだよなあ。 実はこの林、昔から〔始祖〕という神がこの林に住んでいて、そいつがエリアの創造主だったんだと。 だから、トーホク誕生の……トーホクの歴史の始まった場所。という事なのよ。俺もよく知らないんだけどね』
「始祖……エリアの歴史誕生の地……」 「それにしては、この林、あんまりポケモンの姿が見えないね」 「物音を聞いて警戒してるのかもしれないね。一寸歩いてみようか。音を立てないで歩けば、捕まえられるかも……」 2人はポケギアの説明を聞くと、コヤマタウンに向かって歩き始めた。ゆっくりとした歩調を保つ。 雪が降っている為、林の土にもすっかり雪が降り積もってしまっていた。当然、ポケモンは否が応にも警戒してしまうだろう。 ユキナリは歩きながら呆れていた。ユウスケも同じ思いをしていたに違いあるまい。顔が哀しく引き攣っていた。 でも彼の場合は体験済みだ。 「もう何時でも逃げれる状態にしてるんだよね。大抵のポケモンは……でも僕の場合は3匹とも苦労しなかったから。 1匹目・枯れ木のフリをしていたカレッキーを急襲、ライターで弱らせてゲット。 2匹目・フワフワ降りてきた足の遅いワタッコ変種をカレッキーと戦わせてゲット。 3匹目・地面に埋まっていたマッドを自分の耳に耳栓した後地面から引っこ抜いて、驚いた所をゲット。 全員、逃げない草タイプのポケモンだったからね」
「なんか嫌だなあそれは。やっぱり苦労しないと、面白く無いよ。達成感とかが欠けるんじゃない?」 「まず、ユキナリ君がポケモンを2匹捕まえないとコヤマタウンのジムリーダーには挑戦出来ないよ。 でも、まずポケモンが現れないと捕まえる次元の話じゃ無いから……うーん。困ったなあ……」 ユウスケはしばし考え込んでいたが、突然思い出したかの様に叫んだ。 「そうだ!ポケモンを出す方法があったよ。ユキナリ君、ラジオ機能に『ヒットナンバーチャート』があったよね!」 「え?ユタカさんの『ヒットナンバーチャート』?」 ユキナリは画面に出ている『ユタカのヒットナンバーチャート』を選んだ。 ユキナリの家のラジオから何時も流れていたので、この番組は知っていたのだ。 「ポケモンとの遭遇率を上げたり下げたり出来るラジオ番組だから、運が良ければそっちから近づいてくるよ」 「曲によっては遭遇率が逆に下がるの?」 「全然問題無いよ。音楽を聞いている間以外は元に戻るんだから……」 『さてと、今週中に最も人気の高かったベストソングを24時間 流し続けるこの番組も今年で10周年! 俺も3代目ナンバーDJとして皆さんに音楽を提供してるんだから、もっと頑張って曲を紹介しないとな。 今週のミリオンヒットは、タマキ ヒカリの〔大いなる挑戦〕なんだよね。そう。ついさっきまで流してたやつ。 流石に1週間この歌だけってのも淋しいけど、それがこの番組。無料放送だから、金額を払う必要も無し。 他のチャンネルに変えるのもありだ。ぶっ続けのループを楽しんでくれ!』 歌が流れ出すと、ポケギアが遭遇率の数値を叩きだした。 「えーと……この歌の音波による遭遇率は……86パーセント上昇するよ!!」 「やったねユキナリ君!流しっぱなしにしてしばらく歩いてみよう!きっとすぐにポケモンが見つかるよ!」 ユキナリとユウスケは粉雪舞う中、ポケギアから音楽を流しっぱなしにして歩いた。
ユウスケは自分のリュックから方位磁石と始まりの森の地図を取り出しており、それにそって歩いていたので、迷う心配は無い。 ユキナリとユウスケが歩いている間、ポケギアからは音楽が流れ続けていた。女性が歌っている。
善と悪など無い 勝者も敗者も無い
心が全てを決める それが真の戦いだ
旅を続けて仲間を見つけ 答えを探す
まだ見つからない答え 旅をする意味
最強の2文字を携える者達がこの世界に限りなくいる
ならば戦え そして倒せ
くじけるな 見失うな
勝利は心の鍵を開ける 希望の扉
戦えポケモンマスター 勇気を持って立ち向かえ
勝てよポケモンマスター ずっとこの時を待っていた
頂点を望む者達がこの世に存在する限り
戦いは永久に続く事だろう
見果てぬ上を目指せ ポケモンマスター
止まるな そして前を向いて走り続けろ
ポケモンマスター ポケモントレーナー
「ポケモン、見えないね……」 歩いて数分、今だポケモンは現れる気配を見せない。粉雪の舞う中、ユキナリとユウスケは途方に暮れていた。 コヤマタウンジムリーダーのゲンタに挑戦する為には最低でも3匹のポケモンを持っていないと挑戦する事が出来ない。 とにかくポケモンを見つけぬ事には…… 「?ユウスケ、あれ!」 ユキナリは向こうの林を指差した。雪の積もった斜面から滑り降りてくる影が見える。その姿を2人が確認した時、その影は近くに移動していた。
「ユキナリ君、ポケモンだよ、ポケモン!」 「わ、解ってる……」 近付いてきたのは白いジグザグマだった。トーホクではジグザグマは『ノーマル』と『こおり』を兼ね備えている。 白と灰色の縞模様で、動きが極端に素早かった。それでもジグザグマは2人がトレーナーである事を知っているのか、 小馬鹿にした様に彼等の周りを回り始めた。戦いを望んでいるらしい。 「コエンが入っているモンスターボールを投げて!」 ユウスケに言われ、ユキナリは慌てながらも紅蓮に燃える色をしたモンスターボールの出現スイッチを押した。閃光と共にコエンが出てくる。 『野生のポケモンを見つけたんですか?……うわっ!!』 コエン出現と同時に変種ジグザグマは問答無用で襲い掛かってきた。ジャンプしてそのまま噛み付こうとする。 コエンは身を翻してそれを避けた。 「なんか、凄く好戦的なポケモンみたいだね……」 「コエン。野生のポケモンと初めて戦うね。とにかく僕がしっかり命令するよ!」 『了解です。宜しくお願いしますね!』
互いに睨み合うコエンと変種ジグザグマ。水色に光るポケギアの『バトル』画面を見つめていたユキナリが発した言葉からバトルが開始された。 「コエン、鬼火を使ってジグザグマの体力を削るんだ!」 『ハイ!』 コエンは体から不気味に青く光る鬼火を浮かせ、それをジグザグマにぶつけようとした。 しかしジグザグマは動きが予想以上に素早く、あっけなく攻撃をかわされてしまう。 「ユキナリ君、このジグザグマレベル高そうだね……」 「最初の野生バトルくらい、勝っておきたいなあ」 ユキナリは帽子のつばを手で構えると、状況を分析した。今の所、鬼火を当てる為に出来る事はただ1つ。それを、行なうしか無い。 「コエン、化かすを使うんだ!」 『解りました……ガハッ!』 コエンが構えようとした次の瞬間、ダッシュしてきた変種ジグザグマの強烈な頭突きがコエンの顎にクリティカルヒットした。 コエンはのけぞって倒れてしまう。 「うわ、コエン!大丈夫か?」 『う、うう……敵もなかなかやりますね……』 「ユキナリ君、僕もカレッキーで手助けしようか?」 「ううん。これはコエンとジグザグマ……いや、僕とコエンの挑戦なんだ。まだ勝負はついてない!」 何とか立ち上がるコエン。しかしジグザグマは全くダメージを受けていない。状況は極めて不利だった。 しかしユキナリはこの逆境を跳ね返す術を思いついたのだ……相手を利用する攻め方を。
粉雪は地面に落ちて消えていく。土には霜が出来ていた。生活環境は極めて悪いこの土地だからこそ、 寒さに対応してポケモン達は進化を遂げてきたのだ。変種ジグザグマはまさにそれの典型だった。
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ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ− ( No.4 ) |
- 日時: 2011/02/10 21:32
- 名前: 夜月光介 ID:Vk0ac.xg
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第1章 4話 『白の街コヤマタウン』
「ユキナリ君、一体どうすれば?」 「全力で体当たりをしてくるジグザグマと並行に走る。そして奴が方向転換しようとした瞬間に鬼火を放つんだ。 方向を変えるのが難しいジグザグマなら命取りになる攻撃しか方法は無い!」 『ええ?あんなスピードについていくんですか?』 「それしか無いんだコエン。出来るだけでいい。なんとか走ってくれ!」 『わ、解りました。出来るだけ全力で走ります!』 「大丈夫かな……」 ユウスケは緑色のモンスターボールを取り出していた。 「コエンがピンチになったら、僕すぐにカレッキーを出すからね!」 「ユウスケ……」 ユキナリは前を見据えた。ここで引いたらきっと自分はポケモンと仲間になれないだろう。彼は何故か、そう感じたのだ。
『それ!』 再度頭突きをくらわそうと猛スピードで走ってきたジグザグマをギリギリのラインで避けると、 その瞬間コエンはジグザグマとキッチリ並行に並んでダッシュしていた。 ジグザグマは驚いたが、走っている間に攻撃を仕掛ける事など不可能。 そのまますぐに諦めるだろうと思い、走り続けた。コエンも止まるまで技を出せるワケが無い。 「精一杯走るんだ、頑張ってくれ!」 ユキナリはコエンを応援した。ポケギアを見るとコエンの体力は先程の頭突きで半分減ってしまっている。 このまま走らせても無傷のジグザグマとは差があり、倒れてしまうかも知れないと言う危惧はあった。 「ユキナリ君、無謀過ぎるよ!コエン、かなり体力を消費してるじゃないか!」 「これしか方法が無いんだ。これしか……」 ユキナリは目を背ける事無く、真剣に前を見ていた。
コエンの走行も限界だった。もともと先程の頭突きで体力を大幅に削られており、体が痛む。 (でも、ここで走るのを止めたらジグザグマの格好の餌食だ。食い下がるんだ……なんとしても!) ジグザグマは内心恐れを感じていた。全く速度を落とさずに自分の速さについてきている。 しかもさっき自分が頭突きをくらわせたのにも関わらずだ。さらにスピードを出し相手を振り切ろうとする。 ジグザグマは視界が悪くなっていた。懸命に前だけを見つめていたのだ。 「!危ないコエン、前に大木があるぞ!」 コエンは頭の中が真っ白になっていた。それでもその言葉は耳の中に入ってくる。 『クッ!』 コエンは走るのをやめ、大木の手前で何とか踏み止まった。あと数秒走っていたら激突し、 瀕死は免れなかった所だろう。一方ジグザグマはコエンが走るのを止めたのを機会に、ここで一気に勝負をつけてしまおうと直角に方向転換した。 その方向に枯れ木があるのにも気付かずに。
鈍い音がして、変種ジグザグマは無様に枯れ木の洗礼を受けていた。スピードの関係上ダメージも大き過ぎる。 枯れ木が根元から折れ、ジグザグマはそのまま倒れてしまった。 「ユキナリ君、モンスターボールを投げて!」 ユキナリは頷くとすぐに気絶したジグザグマに向けて買っておいたモンスターボールを投げつけた。 軽くジグザグマに当たると、ジグザグマを吸い込み、振動する。 「頼むぞ、逃げないでくれ……」 ユキナリが願う中、青いスーパーボールの中央に位置している赤ランプが光り……そして唐突に消えた。 ユキナリはこの日、生まれて初めてモンスターを捕まえる事に成功したのだ。 「やった……」 ユキナリは地面にへたりこんだ。ユウスケはその間にコエンの方に向かうと、コエンにリュックの中に入っていた『傷薬』を使用する。 傷に塗りつけると、すぐにその傷が消えていった。 「結構傷が浅かったから、簡単に治ったよ」 ユウスケはモンスターボールを拾い上げるユキナリに呼びかけた。 「良かった……初めて捕まえたんだ。僕達の手で……」 ユキナリは何故か凄く疲れた。緊張が解けたせいだろうか。コエンも無事で、ジグザグマを捕獲した。大成功だ…… ユキナリの踏み出した1歩は非常に大きかった。
数分後、ユキナリとユウスケは枯れ木の林の中を何事も無かったかの様に歩いていた。 ユキナリの腰についているボール。紅蓮のボールの中ではコエンが休息している。 ジグザグマは赤いボールの中で気絶したままだ。 「ユキナリ君。コエンは凄いね……君のアイディアも。僕、感動した……ジムリーダーのゲンタに挑めるかもしれないよ!」 「うん……僕だって勝ちたい。でも、まだ3匹じゃ無いんだよね。ポケモン……」 ユキナリにとって、それは悩みの種だった。ユウスケもジムに挑む。その為のポケモン3匹はカレッキー、マッド、ボタッコとすでに揃っていた。 しかしユキナリは違う。この森であと1匹ポケモンを捕まえさえすれば、状況も変わって来るのだが……
ユキナリとユウスケは枯れ木の林の中を進んでいた。先程からずっと『ヒットチャート』の音楽が流れており、出現率86%を保っているのだが…… ポケモンが現れない。ユキナリは現在2匹しかポケモンを持っておらず、ジムリーダーに挑めない状態だった。 「ねえ、ユキナリ君。47番道路に出現するポケモンをチェックしておいた方がいいんじゃないかな……」 「え、ポケギアで解るの?」 「うん。セカイさんの『トーホクぶらり旅』の過去記録の中には、47番道路のポケモンデータがあるハズだよ」 「やってみようか」 ユキナリは音楽を一旦止め、ポケギアを操作しポケギアが記録している過去のデータを探っていった。 「あった。『始まりの森・出現データ』だね……」
『――始祖がいた所にしちゃ、随分ポケモンが少ないね。あと、ホウエンやカントーで発見されているポケモンが変種になっただけって所も面白いな…… まあカントーやジョウト、ホウエンはトーホクと陸続きだし、おかしくもなんとも無いんだけどね。 紹介に行こう、まずは変種ジグザグマ、変種スバメ、変種ポッポ、変種ハネッコ、変種……』 「ユキナリ君、あれ!」 「ユウスケ、聞いてるんだから静かにしてくれない?」 「そうじゃ無くて、いるよ。いるんだよポケモン!」 「!?何処、何処?」 「ホラ、あそこの枯れ木によっかかって寝てる……」
白い体色のハスボーが、枯れ木に寄りかかり寝入っていた。
「うわ、随分気持ち良さそうに寝てるなあ……」 「うん。なんか眠たくなってくる位」 ハスボーはジグザグマと同じくホウエン地方で確認されているポケモンだ。しかし変種ハスボーは頭が茶色い。 枯れたハスの花の様になっていて、体色がやはり真っ白だった。 「変種ハスボーは……『くさ・こおり』だよ!みず系の技も一応使えるみたいだけど、威力は強くないね」 「そっか、さっきのジグザグマも『ノーマル・こおり』だったんだよね……トーホクはこおりが多いからかな」 「で、ユキナリ君……ボール、投げる?」 「起こしてからにしようよ。僕、正々堂々の戦いがしたいんだ」 「えー?チャンスなのに!傷薬で一応コエンの体力は回復してるけど、精神力が……」 「ううん。僕はポケモンを自分のパートナーにする為には戦いで勝たなきゃ資格を得れないと思う。 コエンだってきっと解ってくれるハズだよ」 ユキナリは紅蓮に輝くモンスターボールを握った。 (ゴメン、もう少し頑張ってくれ。コエン!) 解放ボタンを押すと、コエンが出てきた。 『また僕の仲間を見つけたんですか?ユキナリさん』 「あそこで寝てる奴なんだけど……ハスボーだよ」 『ううん……あのポケモン、みずタイプの技も使えるんですよ。戦いに移るとこっちが不利になる可能性が……』 「頼む、僕は君と一緒に正々堂々の戦いを経て、仲間を増やしたいんだ!」 『……解りました。僕にもユキナリさんの気持ち、よく解ります。起こしましょう。ただし…… 逃げ出してしまったらどうしようもありませんよ?』 「それでも構わない。卑怯な事をするのは好きじゃないから」 「ユキナリ君……」 ユウスケは確固たる意志を持って話しているユキナリが一段と眩しく見えた。
「コエン、ハスボーを起こしてくれ!」 『大声でも出しましょうか……オーーーーイ!』 ポケギアとは別に、コエンの口から甲高い鳴き声が響き渡った。林全体に広がっていく程のデカイ声だ。 「うわ、耳がキーンとするよ……」 ユウスケは慌てて耳を塞いだ。ハスボーは嫌でも目が覚めるだろう。当然、ハスボーは飛び起きる。 いきなり大声が聞こえて目を覚ますと近くにポケモンがいる。人間2人がいる。変種ハスボーはパニック状態に陥った。
逃げる事も考えられず、近付くなとでも言わんばかりにハスボーは水を放射した。 「『みずげい』だね……通常の攻撃判定とは別に、『つまり』も時々起こるみたい」 「みずげい?つまり?」 ユキナリはポケギアで技を確認した。 『みずげい(水芸)、水を四方八方に噴射して敵を攻撃する技、命中率は100%。『つまり』状態になると水がポケモンの体の中に入り、 むせてダメージを受ける。効果はしばらく続く』 コエンは『こおり・ほのお』。ほのおの特性が特に出てきているので、この攻撃は効いた。 『うわああっ!』 コエンは一気に体力の半分以上を失ってしまう。 「どうしよう、このままじゃ……」 「化かすで相手を混乱させるしか無いよ!相手の攻撃を封じるんだ!」 今だ変種ハスボーはムキになって『みずげい』を連発している。コエンが『ひんし』になってしまう前に、何としても『化かす』を使わなければならなかった。 「コエン、化かすを使うんだ!」 『わ、解りました……』 コエンはヨロヨロと立ち上がり、煙を出した。ハスボーを包み込み、幻覚を見せる。
煙の中でハスボーは父と母の顔を見ていた。林の中ではぐれてしまった両親に会いたくて、 必死に探していたのに……疲れて寝ていたのだ。そこをユキナリ達に発見され、ハスボーは捕獲されようとしていたのだった。
「コエン、鬼火を使うんだ!」 『ハイ、ユキナリさん!』 コエンの周りに炎が出現し、煙の中で混乱状態になっているハスボーに命中する。『くさ・こおり』の変種ハスボーにとっては、致命的な打撃だった。 炎の熱さと恐怖の寒さに苦しむ変種ハスボー。その瞬間に今日2回目のモンスターボールが投げられた。ハスボーを捕まえ、ボールは振動する。 (お願い、出ないで……!) ユキナリは懇願していた。ボールから出てしまったらみずげいをされ、コエンが瀕死状態になってしまう。 それだけは御免だった。大切な仲間を瀕死状態にされてしまうのは…… 「ユキナリ君、ボールが止まったよ!」 ユウスケはランプが青く光った事を確認した。 「2匹目、捕獲成功……」 ユキナリは腰が抜けた。まさかこんなに早くポケモンを3匹にする事が出来るとは思っていなかったのだ……
ユキナリとユウスケは林を抜けた。 「あれが、コヤマタウンか……」 気がつけばもう夕方。街の灯りが遠くに見える。 「今日はジム挑戦は無理だね。何処かで休んで、明日ジムリーダーに会って勝負を挑んだ方が良いよ」 ユキナリはコエンに感謝していた。 (無理させちゃってゴメンね……コエン) しかしユキナリはまだ気付いていなかった。自分が大変な事をしてしまったと言う真実に……
「着いたね……」 夕暮れの街……既に街灯がついており、降る雪も暖かく照らされていた。 2人はとりあえず、ポケモンセンターでコエンと捕まえたポケモンを回復しようと中に入る。 「あの、ポケモン回復を頼みたいんですけど……」 (大丈夫だよユキナリ君、すぐ終わるから!) ユキナリはまだ自分の手でポケモン回復を頼んだ事は無かった。 「解りました、すぐに回復用ポッドにボールを入れますからね」 受付の男性はにこやかに微笑むと回復用ポッドにボールを入れる。 「10分位で回復しますから、待っていてください。」 「ユキナリ君、ちょっと休もうよ……朝から何も食べずに夕方まで歩きっぱなしなんて……」 2人はロビーの椅子に座って、回復が完了するまで待つ事にした。
「お、アンタ達ポケモントレーナー?」 椅子に座ってボーっとしているユキナリとユウスケに話し掛けてきたのは帽子を被った少年だった。 短パン姿で、腰には白いボールを携えている。 「そのボール、見た事無いけど何て言うの?」 「サークルボール。ノーマルポケモンが捕まりやすくなるコヤマタウンの名物なんだ。 後でベータショップに寄ってみるといいよ。オイラも買い足さなきゃならないかもしれないなあ……」 「ノーマルポケモン……」 「タイプとしてはレベルは低いかもね。効果が抜群になる事も無いし、かくとうにはボロ負けしちゃうし」 「!聞き捨てならないな!!ちょっと待った。オイラを馬鹿にしてるのと一緒だよ!トレーナーだろ、勝負しろよ!!」 急にその少年は怒り出した。ユキナリ達より歳は下だと思うのだが、性格がキツイ。 「ちょ、ちょっと待って、穏便に話し合おうよ……」 「僕はタイプなら全部知ってる。ノーマルタイプが他のタイプに比べてマイナーなのは事実なんだ!」 「……まあ、そうなんだけどさ……」 少年は言葉に詰まった。 「だけどさ、オイラは好きなんだ。ノーマルポケモンがさ…… 今までずっと戦ってきて、ここまで評価されてるのも結局はジムリーダーのオイラじゃ無くて、仲間であるポケモンのおかげなんだし……」 「ジムリーダー!?」 2人は一斉に聞き返した。 「え?……あ、そうか。まだオイラ自分の事もアンタ達の事も聞いてないや。オイラはゲンタ。コヤマタウンでジムリーダーをやってるんだ!」 「ゲンタって、君の事だったの?もっと僕より歳が上の人かなって、思っていたんだけど……」 「フフン、才能は年齢を選ばないよ。オイラとポケモンのコンビネーションは、その辺りにいる大人達なんて目じゃ無い位なんだぜ!」 ゲンタはそう笑うと、ボールを指でクルクル回した。 「で、アンタ達は?」 「僕はユキナリ、こっちは友達のユウスケ……僕達、ゲンタ君に挑戦しようとこの街に来たんだ」 「へえ、駆け出しのトレーナーか……オイラにもそんな時があったっけ。いや、オイラはアンタ達より長く生きちゃいないか。ハハハ……」 ゲンタはケラケラと笑い、ユキナリの腕を引っ張った。 「ちょ、何処へ行くの?」 「旅の途中は宿が必要だろ?リーグからの支給金でジム挑戦トレーナーの為の施設が用意されてるんだ」 「寝泊りする所……ですか?」 「その通り。寝泊り以外にもオプションがあったりするけど……とにかくオイラについてきなって!」 ユキナリはゲンタに引っ張られて引き摺られた。 後ろではユウスケが回復したコエンと他のポケモンが入っているボールをセンターの男性から受け取り、走り出している所だ。 「待ってよ、ユキナリ君、これ!」 「わ、忘れてた!」 1個ずつボールをキャッチすると、ユキナリは3個全てを腰につけた。 「お、ポケモンは3匹揃えたんだね。もしかして、突貫?」 「う……」 「それならある程度鍛えてもらわないとオイラには挑戦出来ないね。施設は寝泊りと訓練も兼ねてるから、暫く鍛えた方が良いと思うよ」 3人はジムに向かって走っていった。
「ここが、コヤマジム……」 夕闇はもう夜の暗闇に変わろうとしていた。夜になると一層降ってくる雪が冷たく感じられる。 「オイラもまさかここのジムリーダーになれるとは思って無かったけど……今はジムリーダーとしての強さと、誇りを持ちたいと思ってる。 肩書きに恥じない戦いをしなくちゃね!」 街灯に照らされた白いコンクリートの建物は、街の中では一番大きな建物らしかった。 「ここの裏手に宿舎があるんだ。旅をしてるトレーナー御用達のね」 ついていくと、木造の小屋が何軒も立ち並んでいる。 「中にはベットと練習用具、あとヒーター。何か食べたいなと思ったら、向こうにある調理場で。シャワー室もこっちの方に1台だけ備え付けてあるよ!」 「ありがとう、ゲンタ君……」 「へへ、リーグの命令なんだから当たり前だよ。オイラの金なんて使ってないしね!」 短パン姿のゲンタは寒さなど微塵も感じないのか、元気に笑っている。風邪などひかないのだろうか。 「ユキナリ君、とりあえず中に入ろうよ……結構寒くなってきたしさ」 「そうだね。じゃあ、僕達はここで寝泊りするから……」 「うん。オイラ、ジムにいるから何かあったら連絡してよ。確か小屋の中には内線電話もあったハズだから」 ゲンタはジムに向かって走っていき、見えなくなってしまった。 「僕等も行こう、ユキナリ君」 「そうだね……」 ユキナリは何時もは気が弱く言い出せないユウスケがゲンタに刃向かう所を見た。 きっとポケモンを知っていると言う自信からきた言動だろう。いや、ゲンタが言っていた様に、あれは『誇り』なのかもしれない。 (誇りを持って、戦いたい……) ユキナリはその意味がよく解った。勝つ為には、努力を惜しまない……兄の様に。
宿舎の1つに2人は入った。中にはダブルベットと小さいヒーター。ベットの近くに内線電話と部屋の照明用のライトが置かれている。 「ふあああっ……!」 ユキナリは疲れからかベットに倒れこんだ。 「食事でも作ろうか、調理場があるって言ってたよね」 ユウスケは背負ってきたリュックを開け、中身を確認していく。ユキナリの分も見た。 「キャンプ食ばっかりだ・・・これなら2人で3ヶ月位もつかも」 「そんなに入ってたの?」 「レトルトカレーの袋と洗ってない米がいっぱい。レトルトシチューの袋、カップラーメンも……」 「道理で……」 ユキナリは肩に感じていた痛みの原因を知った。いくらなんでも重過ぎるだろうと思っていたのだ。 「そりゃ、旅をするんだから必要なのは当然だけど……」 「ま、旅を続けるうちに中身が軽くなるって事かな。今日はカレーにしようか。僕は先に調理場に行ってるよ!」 ユウスケは2人分の量を双方のリュックから取り、調理場へと向かった。 ユキナリは相当疲れが出てきたのか、ベットからなかなか起き上がる事が出来ない。 「今日は、色んな事があったな……」 初めてポケモンを捕まえ、いきなり3匹に増えた。ポケモンセンターではジムリーダーと偶然会い、ここで寝泊りしようとしている…… (まずはゲンタ君に挑戦しなきゃ……) 目蓋が重くなる……疲れ過ぎたせいなのか、ユキナリは深い眠りへと移行しつつあった。
「?」 いきなりユキナリの腰に付いているモンスターボールの1個から、信号音が鳴り響いた。 慌ててそのボールの解放スイッチを押し、ポケモンを出す。ポケギアのスイッチを押し、『コミニケーション』を選択した。 『うう……父さん、母さん……』 「ハスボー……」 今日捕まえたばかりだった変種ハスボーが、いきなり現れた途端涙を流している。 「どうしたの?具合でも……」 『帰りたい、林に帰りたいよお!』 「ちょっと待って、急に言われても……」 『うわああああああん!』 泣いてばかりいるハスボー。話が通じない。 「連絡しよう、僕にはどうすればいいのか解らない……」 ユキナリは必死に泣きじゃくるハスボーをなだめながら、フタバ博士に電話をかけた。
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ノ ( No.5 ) |
- 日時: 2011/02/08 14:27
- 名前: ジャック◆YLWidO8ODg ID:UyKhLD/2
- (´・ω・)ノ おいっす
やっぱ前より格段に読み易くなってるな。 まぁ、俺はかなり右に伸びるタイプだから見慣れない形式だけど。
それはそうと、親記事に一話デカデカと載せるってのは、このページのスクロール量が無駄に長くなる原因になるぞ。 せめて目次にするとかして、一話からまともにレス使った方がいいと思う。 まだ4レスしか使って無い今の状態じゃないと、作業長くなるし。
そいじゃ
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ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ− ( No.6 ) |
- 日時: 2011/02/10 21:31
- 名前: 夜月光介 ID:Vk0ac.xg
- 参照: http://chiba.cool.ne.jp/kinokohonpo/sirokuro.html
- 第1章 5話 『繋がる心・受け継ぐ意志』
「フタバ博士!」 『ユキナリ君、どうしたの?何かあったのかしら」 「あ、はい……実は……」 ユウスケが小屋にいない為、ユキナリはポケギアでフタバ博士と話していた。ポケギアの向こうの声は何時もより険しい。 『貴方の捕まえたポケモンが……自分のいた場所に帰りたいと言っているのね?』 「はい、そうなんです。泣いてばかりいます……」 『不思議ね。捕まったポケモンが自我を持つなんて』 「え?」 『ポケモンはね、ボールで捕獲されると自我を失ってしまうの。野生の頃の記憶を断ち切り、知能が与えられるわ。 命令に服従する能力。トレーナーと信頼を築く為の友情とかがそうなの……稀なケースだけど、記憶を失わせる時のミスで野生の頃の記憶が残っている事があるのよね。 私が聞くのは初めてだけれど……』 「記憶の削除、ですか……?」 ユキナリは言葉を失った。 『そうでないと、トレーナーとポケモンとの関係が作れないでしょう?私も良い事だとは思わない。でもこの世界では、それがごく当たり前の事なのよ……』 「そんな、そんな仕掛けがあったなんて!」 『私達はポケモンを捕獲する事によって、初めてポケギアで意志の疎通を図る事が出来るわ。野生のポケモンとは、コミニケーションが取れないのよ』 「……僕はどうしたらいいんでしょうか……」 『貴方が決めなさい。センターに持っていって記憶を改めて削除してもらうか。それとも野生に返すか…… 私は、後者を薦めるわ……じゃあね、ユキナリ君』 「有難うございました……」
(僕は、どうしてポケモントレーナーになったんだろう・・・) 今まで気にもしていなかった当たり前の事が大きな疑問となって目の前に立ちふさがった。 「ポケモンは、自我を奪われて、知能を与えられる……今までの記憶と引き換えに人間との生活を営む……正しい事なんだろうか?僕には解らない……」 この世界ではポケモンの無い暮らしなど考えられない。寝たきりの老人の安らぎとなっているポケモン。 建設現場で頑張っているポケモン。友達として遊んでいるポケモン……全てが悪だとは思わない。 「でも、僕が今すべき事……この選択で、僕のトレーナーとしての資質が試される様な気がする」 ハスボーを自然に帰してあげる。それが、ポケモンを愛している者がとるべき行動なのでは無いだろうか。 (ポケモンは物なんかじゃ無い。僕の……仲間、友達・・・パートナーなんだから!)
『おうちに帰りたいよぉ……』 「大丈夫だよ、君がいた林に明日、帰してあげるから」 『父さんと母さんに会えるの……?』 「勿論……君が探すんだ。きっと見つかるよ。僕は君を苦しめたりなんかしない。約束する」 『あ……アナタの名前は?』 「ユキナリ。ポケモントレーナーなんだ」 『ポケモン、トレーナー……』 ユキナリはハスボーをボールの中に入れると、再びベットの上に倒れこんだ。 「僕は、本当に正しい事をしているのだろうか……この旅は本当に僕を正しい道へ導いてくれるのか?」 悩みは終わる事無く、ユキナリが目を閉じて眠りに落ちる時まで続いていた。
次の日の朝……ユキナリは目を覚ました。昨日から何も食べていないせいだろうか、力が出ない。 無理やり身体を起こすと、辺りを見回した。ユウスケの姿が見えない。しかし、ベットの跡からユキナリの隣で寝ていた事が解った。もう起きたのだろうか。 「はぁ……」 (ジムへ行こう。とにかく何か食べなくちゃ……) 重い足を引き摺って、ユキナリはジムに向かった。ゲンタとユウスケはジムにいるのだろう。 (何か食べたら、話をしなきゃ……大切な話を)
ジムの玄関口に回ると、扉は開いていた。開けると、眩い程に輝く白い大理石の床と壁がユキナリを出迎える。 「白……ノーマルの象徴なんだ……」 外は勿論雪が降っている。その白ともあいまって、とても美麗な光景を形作っていた。 ユキナリは肩や帽子についた粉雪を払うと、2人がいるであろうジムの奥に進む。 白い床をしばらく歩くと、回廊が見えてきた。一本道をさらに進むと真っ白なドアが。 金色に輝くノブを開けると、そこはジムリーダーがトレーナーと戦う為のバトルフィールドだった。
「あ、ユキナリ君!」 カップラーメンをすすっているゲンタの隣で同じくカップラーメンを食べていたユウスケが声をかけてきた。 隅に座ってずっとゲンタと話していたらしい。 「アンタの分も用意しておいたよ。オイラは自分の分だから、気にしないでよ。喧嘩になっても困るしさ」 「うん……」 湯気が立ち上っているカップラーメン。中に半分入っていたフォークでもそもそと食べ始める。 「それで、しばらくここにいるんだろ?ポケモンを育てないとオイラとの挑戦は難しいしね」 こことは勿論コヤマタウンの事だろう。しかし……ユキナリにはやらなければならない事があった。 「ユキナリ君、どうしたの?顔色悪いよ?」 心配そうにユウスケが聞いてくる。 「大丈夫だよ……後で君とゲンタに話があるんだ。もう一度、始まりの森に戻らないとダメだと思う」 「え?だって一応ポケモンは3匹揃ったんじゃ……」 「ゴメン、今は食べさせて」 ユキナリは重い口調でそう喋ると、スープをすすった。
「ん?オイラに話?どうしたのさ。別に何かあったワケじゃ無いんだろ?」 しかし深刻な表情をしているユキナリの顔を見ると流石に何かあったのだろうと思い、口篭もる。 「僕が捕まえたハスボーが、林に帰りたいって言ってるんだ……帰してこようと思う」 「ユキナリ君、それポケモンがそう言ったの?」 「うん……たまに記憶消去が失敗する事があって、それでこうやって訴えてくる事もあるんだって…… 博士は、林に帰してきた方が良いって言うんだ。僕も……同じ気持ちだよ」 「そっか……オイラもついていきたいけど、ジムの留守番を頼む奴なんて誰もいないからさ。 ユウスケと2人で帰しに行けばいい。オイラは何時でも待ってるから……もう1度、捕まえればいいさ」 「ユウスケ、ついてきてくれる?」 「勿論だよ!ポケモンがそう言ってるのなら、僕だってそうする。でも……」 ユウスケは言葉を濁した。 「僕の捕まえたポケモン達も、そう思ってるかもしれないと思うと、哀しいな……友達になりたいだけなのに」 ユキナリの頭の片隅にもその思いがあった。 (コエン……本当に君は僕を信じてくれるの?僕と一緒にいる事が本当に良いと思っているの……?」
2人はカップの片づけをした後、始まりの森に向かった。とは言っても、まずは入り口でハスボーを解放してからの話だ。 地面を歩くと沢山の霜が割れる。ユキナリは曇り空を見上げた。 (ハスボー……僕は、出来る限りの事をするよ……ポケモントレーナーになったからには、ポケモンを思いやって、 ポケモンと一緒に成長していきたいと思ってる。ポケモンの願いも、かなえなくちゃ……) 「ユキナリ君、何時かきっとポケモンの記憶削除システムは廃止されるよ。僕達は本心でポケモンと話し合わなくちゃいけないんだ!」 ユキナリは頷いた。目をつぶったまま、しばらく考える。自分が今どうすべきかをもう1度、頭の中で反芻していた……
粉雪の降る中、ユキナリとユウスケは『始まりの森』の出口に辿り着いていた。ユキナリはボールを手に持つ。 (こんなに早くポケモンを逃がす機会があるとは思わなかったな……) 「ユキナリ君。僕達はポケモンと共に生きている。人間の勝手でポケモンは生きる動物じゃ無いんだ。応えてあげなきゃ……その気持ちに」 ユキナリはユウスケの言葉に胸を打たれた。そのままボールの『解除』ボタンに細い棒を入れる。
鈍い音がして、ボールから変種ハスボーが飛び出してきた。ハスボーはしばらくボンヤリしていたが、すぐに枯れ木の林の中に駆け込んで見えなくなってしまう。 (これで良かったんだ……これで……) ユキナリは暗い表情で林の中を見つめていた。 「行こうか、ユウスケ」 「勿論だよ、もう1度やり直さなくちゃ」 再び、2人は林の中に入っていった。
意志の疎通は『ポケモンが捕まった後』にしか出来ない……それは大きな問題だった。ポケモンの本心を今まで誰も聞いた事が無い。 だからこそ皆、安心してポケモンを自分のペットや仲間にしていられたのかもしれない……しかし、ユキナリには納得出来なかった。 納得出来ないにも関わらず、トレーナーとしてまたもや野生のポケモンを探している自分が情けなかった。 「元気出そうよ、ハスボーはちゃんと親を探して、今頃感動的な再会を果たし……」 「?ちょっと待って、ユウスケ……あれ!」 「!!……」 林の中で死んでいる2匹のポケモンの姿があった。どちらも変種ハスボー。メスとオスが両方雪の中に倒れて動かなくなっている。 「もしかして、あの2匹は……」 (そんな事は、そんな事は絶対……!) ユキナリは必死にそれを否定しようとした。どうやら風によって雪の中から顔を出したらしい。 昨日ユキナリ達はこの2匹がいる事に気付いていなかった。
変種ハスボーが走ってきた。ユキナリ達の目の前で2匹の死体を見つける。ハスボーは愕然とした表情をしていたが、そのまますぐに泣き崩れてしまっていた。 「そ、そんな……」 2人はなすすべもなく、雪の降る中立ち尽くす。何も出来ない自分達が心底情けなかった。言葉も出ない哀しみ。 親は……死んでしまっていた。 「ユキナリ君、あのハスボー……これからどうするんだろう。親が死んでしまったなんて……」 「僕にも……どうすればいいのか解らないよ……」 ハスボーは2人の存在に気付き、一旦は逃げようとした。しかし、ユキナリの顔を見るとそのまま近付いてきたのだ。 「……」 そしてユキナリの足にすりよってきた。涙を浮かべながら哀しい表情でユキナリとユウスケの顔を見つめている。 「僕と……一緒に行こうか?」 ユキナリはそう、呟いた。自分でも驚く程、擦れた声だった。 「ユキナリ君。ハスボー……それを望んでるみたいだよ」 ハスボーはハッキリと頷いていた。 「僕達は、選択を迫られてる……でも、僕が今しなきゃならない事は間違いなく、こういう事なんだと信じたい。 僕はハスボーの面倒を親に代わって見るよ……」 ユキナリは先程解除ボタンを押したばかりのボールを投げ、それはハスボーに当たった。ボールは少しも反応せず、すぐにボールの色が青色に変わる。 それは、ポケモンが全く抵抗せずに捕まったと言う事に違いなかった。
ユキナリは疲れていた。精神的にかなり参っている。頭の中がグルグル回る様な、不思議な感覚に支配されていた。 「ユキナリ君……」 「ジムに……戻ろう。とにかく今はそれ以外にする事は無いよ」
始まりの森を抜け、2人はコヤマタウンのジムに向かって歩いていた。 「ユキナリ君、あれは何だろう」 「ん?」 昨日は辺りが暗かったのでポケモンセンターとジム。それにベータショップしか確認出来なかったのだが、もう1つ大きな建物があった。 『マウンテンショップ・オイカゼ』 「自転車を扱ってるお店なのかな?」 「マウンテンバイクかな……ホラ、サーキットを走る為に使われる競技用とかの」 「ユキナリ君、行ってみようよ!」 「今はジムに……って、うわっ!」 ユウスケは面白そうにユキナリの手を引いて店の方に走る。 (寄り道するの……?) そんな元気は無かったが、ユウスケの笑っている顔を見ると断るワケにはいかないだろうと思った。
「破産だ、破産!」 店長は悩んでいた。あと数日でこの店を畳まなくてはならない。 誇りにしていた素晴らしいマウンテンバイク達も、商品としてでは無く、借金のカタに取られてしまうのだ。 「イヤだ。この自転車は、走る為にあるんだ!この沢山の自転車をどうして闇金融なんかに手放さなくてはならない! 取られてしまう位なら、いっそ……」 経営悪化の時、悪魔の囁きに乗ってしまったのが破滅への始まりだった。 なんとか不況を乗り切り、金を返そうとしたがそのまま利子は雪だるま式に大きくなっていく。 そして、もうどうにもならない所まで追い詰められてしまったのだった。
「こんにちわー」 オイカゼは振り返る。店長以外の店員は全員夜逃げしてしまい、コヤマタウンの住民からも破産の事がばれて近寄ってもくれなくなってしまった。 (客か……客なのか……?) 「うわー、色んな自転車があるなあ……」 2人の子供が自転車に見に来てくれた。オイカゼは決心した。今しかチャンスは無い! 「やあ、坊や達。自転車は好きかい?」 「大好きだよ!走るととっても風が気持ちいいしね!でも……僕の自転車はずっと前壊れて捨てられちゃったんだ。」 エメラルドグリーンの髪色をしているメガネをかけた男の子。オイカゼは運命の出会いを感じた。 (この子達なら、きっと自転車を大切に使ってくれるに違いない!そうだ、もう2度と無いチャンスだぞ!!) 「実は……おじさんの店、破産寸前なんだ」 「ええ、そうなんですか!?」 帽子を被った男の子が驚いた。 「うん……おじさん、自転車は色んな所で走らせてこそ真価が出ると思ってる。私が大事に扱ってきた……そんな自転車達を埃まみれにはしたくない!」 オイカゼは2人にマウンテンバイクを見せた。 「ごらん、私が最も大切に保管してきた最高級のマウンテンバイク、『青空』だ。こっちは『緑芝』。この2台を、君達2人にあげたいんだよ!」 マウンテンバイクは輝く様な水色と、透き通る様な草の色の2台だった。どちらもピカピカに光っている。 「貰ってほしいんだ。おじさんはもうこの自転車の持ち主になれない。怖い人達が来る前に、この2台だけには逃げてもらいたいんだ。解るね?」 「凄い、2台合わせて100万円……!?」 帽子の男の子は息を呑んでいた。 「頼む、貰ってくれ!マウンテンショップの店長としての最後の頼みだ、どうかこの自転車を好きなだけ、色んな場所で走らせてやってくれ!」 土下座までして店長は彼等にお願いした。 「どうする、ユウスケ……」 「ユキナリ君、ここは貰っておいた方がいいんじゃないかな。僕達も得になるし、何より店長さんが頼んでいるんだから……」
数分後……ユキナリとユウスケは2台のマウンテンバイクを持って店を後にしていた。 成り行きで手に入れてしまったこの自転車、綺麗でかっこよくて、普通には絶対手に入らない品だろうと言う事は2人とも承知している。 とにかく、貰ったからには使わなければならない。それがユキナリとユウスケの結論だった。
ジムに戻ると、何やら奥から声が聞こえてくる。2人は貰った自転車をジムの壁に立てかけると、とにかく中に入ってみる事にした。 「誰か挑戦者が来てるのかな」 「ハッキリとは断定出来ないけどね……」 玄関を通ってバトル場の間の廊下を通る時、声は一層大きく聞こえてきた。どうやらゲンタの他にもう1人男がいるらしい。 (やるねアンタ、でももう後が無いんじゃない?) (こんな所で……私は負けるワケにはいかないんだ!) ユキナリは扉を開けた。
「うわ、ジムバトルしてるんだ……」 ユウスケは思わず立ちすくんでしまった。バトル場では2匹のポケモンが互いに睨みあっている。 1匹は巨大なネコの様なポケモン。もう1匹は星の様に光り輝いているポケモンだった。 「ユウスケ、あのポケモンは何て言うの?」 「こういう時の為にポケギアがあるんだよ」 「あ、そっか」 ユキナリはポケギアの図鑑説明を聞いてみる。 『カビゴン・1日の殆どを睡眠にまわし、時々起きては食べ物を貪り食うと言う不規則な生活を営んでいる。 太ってばかりでロクに動けないが、寝起きの悪さは天下一品。無理やり起こすと暴れまくる』 『ストーム・流星の様な光を放っている見た目にも大変美しく、珍しいポケモン。 全身が発光体になっており、その日の気分で体の色を自由に変える事が出来る』 「ひかりタイプ?」 ポケギアに表示されている『ひかり・いわタイプ』の文字にユキナリは首をかしげた。 「フタバ博士が最近発見した、新しいポケモンのタイプなんだ。あくとゴーストに強いんだって」 「へえ、あくとゴースト……」
「私は、勝たなければならない!あの方の為に力を尽くすと誓った。ここはあくまでも通過点にしか過ぎないのだ!」 「ここで負けてちゃ、他のジムリーダー全員に勝負したって負けるよ。オイラにだって誇りがあるんだ。易々と勝たせてあげるワケにはいかないね!」 ゲンタと戦っているのは、ボサボサの茶髪、閉じているとしか思えない程の細目をした男性だった。随分やつれている様だったが、その顔には決意が宿っている。 ユキナリはこの男に底知れぬ何かの力を感じた。 「この人、凄いオーラを出してる……!」 「ストーム、こうはだんだ!」 『OK、派手に決めるよ!』 ポケギアからどうやらストームの声を翻訳したものと思われる声が聞こえてくる。ユキナリは『コミュニケーション』に設定を切り替えていたのだ。 ストームはいきなり七色に光ると、大量の小さな光の粒をカビゴンに向けてばら撒いてきた。カビゴンは巨体なので動けず、そのままダメージを受けてしまう。 「カビゴン、そのまま眠るんだ!」 『ふわぁ……ああ……ZZZ……』 カビゴンは面倒くさそうに巨体を寝かせるとグーグー眠り始めた。 「対戦中なのに、寝てていいの?」 「ねむるには、体力を全回復する効果があるんだよ。カビゴンの恐ろしい所は、これだけじゃ無い……」 いきなりカビゴンは凄まじい鼾をかき始めた。思わず耳を塞ぐ2人。ゲンタは何時の間に用意していたのかヘッドホンを耳に装着している。 「し、しまった。鼾を使ってきたか!」 男性は歯をくいしばった。ストームは軽くではあるが、ダメージを受けている。このままではロクに攻撃も出来ないまま敗北してしまうだろう。 ただでさえ弱っていたストームにとってこれは命取りだった。 「くそ、もうあの技を使うしか無いのか……」 『そんな、僕も倒れちゃいますよ!』 「ストーム、引き分けは敗北にはならない。てんからのむかえを使うんだ!」 『は、ハイ……』 ストームはいきなり天高く舞い上がると、上空からカビゴンに向けて光を発射してきた。 「うわ、引き分けだ……てんからのむかえはひかりの技。相手のポケモンを戦闘不能にするんだけど、それを使ったポケモンも90%の確立で戦闘不能になる攻撃だよ」 「残りの10%は?」 「HPが1残る可能性があるって事」 『グウウウ・・・フガ・・・』 カビゴンは喉を押さえてうめいていたが、倒れこんだ。 「か、カビゴン!ボールに戻れ!」 「これで引き分けか・・・敗北よりは悪くない結果だ……」 男性は戦闘不能になり、そのまま落下してくるはずのストームを回復させようと、ボールを構えた。
しかし、ヨロヨロとストームは上から自力で降りてきたではないか!紙一重の勝利を獲得したのだ。 ゲンタは唖然として口を開けたままの状態になってしまっている。 「紙一重の勝利か……寧ろ有難い」 『マスター……勝ったんですよね?』 「ああ、勿論だ。ゆっくり休んでくれ。あのお方の為に、私とお前はさらなる勝利を掴まなければならないんだ」 ストームをボールに戻すと、彼は自嘲気味に微笑んだ。ユキナリとユウスケが彼に初めて出会った瞬間である……
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ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ− ( No.7 ) |
- 日時: 2011/02/13 17:25
- 名前: 夜月光介 ID:4gZ0ppHw
- 参照: http://chiba.cool.ne.jp/kinokohonpo/sirokuro.html
- 第1章 6話 『再戦・VSユウスケ』
「驚かされたな……アンタ、やるじゃん!」 ゲンタはニッと笑った。真剣な表情は消え、久しぶりに良い勝負をした満足感に包まれている。 「私は自分でやれるだけの事をしたまでだ。その結果私が勝った……当然の結果だろう」 「危なかったクセに。ユキナリ、ユウスケ!いや、オイラのカビゴン、良い戦いが出来たって喜んでるよ!」 「カビゴンが3匹目だったの?」 「オイラの自慢の切り札さ。物心ついた時からのパートナーなんだ。『食べ残し』を常時装備してるんだよ!」 「食べ残し?」 「ユキナリ君、ポケモンは道具を持つ事が出来るんだ。それによって、ポケモンが自分の判断で道具を使い、 体力を回復したり……またある時はその道具を使って自分の力を上げたり、戦いを有利に運べたりする。 良い道具を手に入れたら、装備させてみるといいよ」 「へえ……」 ユキナリはつい先程ゲンタに勝利した男性をもう一度見つめた。細目の上に太い稲妻型の眉毛、茶髪、顎鬚。 薄い灰色の衣服に濃い灰色の長ズボン、純白のマントを羽織っている。 思慮深そうで、常に悩んでいる様な表情を見せていたがその反面、強い何らかの意志を感じ取る事が出来た。 「あの、貴方は?」 「君は……ポケモントレーナーかい?私もそうだ……私はオチ。ひかり属性のポケモンを集めている。 今日は目的達成の為の祈りの代わりにここへ来た。ここで負けていては、私は到底あの組織を壊滅させる事など出来ないだろう」 「組織……?」 「このエリアにいる悪の組織だ……私は彼等に深い憎しみを抱いている。何としても奴等を叩き潰さなければならない…… 私が忠誠を誓ったマスターの為に」 「オチさん。じゃあ、ジムバッチはいらないんですか?」 「私はリーグを目指しているのでは無い。いらぬ物だ……ジムリーダー、私はもう行く。戦ってくれた事、感謝しているぞ。では……」 オチは身を翻してジムを後にする。 その後姿を見ていてユキナリは、(何故だろう……凄く哀しい背中を見せてる……)と思った。
「悪の組織か……僕、トーホクにいる闇組織の名前なら聞いた事があるよ」 「闇組織?」 「……カオスだね」 「え?」 ゲンタが少し曇った表情をしながら話し始めた。 「今トーホクでは、カオスって言う犯罪組織が蠢いてる。奴等はポケモンを本当の意味での道具としか考えていない。 だからポケモンを酷使しても平気なんだ。でもそれは……」 「ユキナリ君。カオスはゴシップ記事が作った偽りの組織だよ。誰1人として実際にカオスのメンバーを見たって人も、 逮捕されたメンバーなんかもいないんだ。空想なんだよ、きっと……」 ユキナリは腑に落ちなかった。本当にそうなんだろうか。さっきのオチさんの真剣な眼差しを見ると、どうしても嘘だとは思えない。 それに、ユキナリは彼に強い憧れを抱いていた。 (あんなトレーナーになれたらいいな……) 冷静の中にも鋭く光る熱き闘志。危うい程の脆い人間らしさ。弱みを見せない強さ……それはユキナリが憧れるタイプの人間に等しかった。
「さてと……客人もいなくなった事だし、アンタ達に特訓でもさせようか。教えるよー。 強くなるにはどうしたらいいのか!とにかく、ポケモンを鍛えるしか無いよ!!」 「ポケモンを鍛える……」 「野生のポケモンは戦いの中に生きてる。生きるか死ぬかって言う状況の中でね。でもそれはオイラ達トレーナーの戦いじゃない。 まずはその戦い方を叩き込ませる。そして、相手を倒す為に身体を鍛えて技を覚えるんだ。 その為には『トレーナーと戦って経験値を得る』しか方法は無い!」 「と、トレーナーって、誰と?」 「僕がいるじゃないか!やっぱりついてきて正解かも……ユキナリ君。互いに経験値を高めるチャンスだよ!」 ユウスケは目を輝かせた。 「オイラが住んでる街、コヤマタウンはノーマルポケモンを使ってるトレーナーが多くて、しょっちゅうオイラのジムに来るんだ。 連絡すれば相手をしてくれる奴等は沢山いると思うから、後で会わせてやるよ!」 ゲンタは笑った。 「ま、オイラは手伝えないから先に謝っておくよ。ジムリーダーが直接トレーナーに力を貸すのはリーグの方から禁止されてるから」 「ウオマサ高原のリーグ本部か……」
ウオマサ高原……トーホクの最北端に位置しているトーホクリーグの本部。 最強の称号を持つトレーナーの憧れ、四天王とチャンピオンが若き挑戦者達の挑戦を待っている。 ユキナリとユウスケはまさにその第一歩を踏み出したばかりだった。
ユキナリとユウスケはジムを離れ、ジムの後ろにある小屋へと戻っていた。 ゲンタによると、ここにゲンタを慕っているトレーナーが手合わせしに来てくれるらしい。 「ま、その人達が来る間に僕と勝負しようよ!」 ユウスケは顔を輝かせてボールを取り出した。 「3vs3のジム戦と同じルールの勝負。ポケモンが3匹戦闘不能になったトレーナーの負け。単純なルールだよ。それでいいよね?」 「勿論!」 ユキナリはハスボーが入っているボールを握った。 (僕は、君と一緒に強くなるよ……心も、身体も!) 「じゃあ、バトルフィールドにポケモンを出そう。ここは公式の場所じゃ無いから、随分狭くなっちゃうけどね。」 ユキナリとユウスケが練習をする場所は小屋の外。粉雪が相変わらず降り続けている中での戦いだった。 土は冷たく、水溜りが凍っている程だったので、この日は昨日より寒かったのだろう。
お互いの衣服が雪をくっつけ、北風が容赦無く2人を苦しめる。ジャンパーを着てはいるものの、その寒さは部屋の中とは違い過ぎていた。 「戦闘開始!」 一斉に2人はボールを投げる。閃光と共にポケモン2体が姿を現した。コエンとカレッキーだ。 「ユウスケの本命が登場か……」 ユキナリはポケギアの図鑑をチェックした。 『カレッキー・トーホク地方の寒さによってウソッキーから突然変異した新種のポケモン。 完全に樹木に変わり、手や頭がまるで枯れ木の枝の様に分かれている。吐く息は相手を凍らせ、巻き起こす風は全てを切り裂く』 「僕が手塩にかけて育てたポケモンなんだ。勿論パワーベルトを付けてるから対等な戦いが出来るよ!」 強さを制御し、コエンとカレッキーは同じレベルになっていた。互いに間合いを計り、睨み合う。 『ユキナリさん、相手のカレッキー……かなり強いですよ。ひしひしと自信に満ちたオーラを感じます』 「とにかく攻撃あるのみだ。相手の懐に飛び込んで叩くしか無い!コエン、まずは化かすで相手を惑わすんだ!!」 『解りました!』 ユウスケがクスッと笑った事にユキナリはまだ気付いていなかった。 コエンはそのまま相手にぶつかり相手をよろめかせると、『化かす』を使う。 しかし、幻影はカレッキーの前で跡形も無く消えてしまった。 『俺っち、そんなに甘く無いッスよ』 カレッキーはニヤリと笑い、『冷たい風』を挨拶代わりに吹いてくる。 「コエン、避けるんだ!」 コエンは慌てて飛び退いたが、自分から懐に飛び込んだのが裏目に出た。逃げられるワケも無く自分から当たりにいったかの様にくらってしまう。 『うわあっ!』 「こ、コエン!」 「ユキナリ君。カレッキーには特殊能力があるんだ。チェックしてみて。ちょっとズルイかもしれないけど」 ユキナリはポケギアの『バトル』から『相手の情報』を選択し閲覧した。 『なまくらボディー・こんらん状態にならない。その代わり技をかけられると防御力が少し下がる』 「防御力が下がる?」 「うん。でもこんらんするよりはマシだと思うんだ。その証拠に……」 ユウスケは拳を振り上げてガッツポーズをした。 「連続で技を繰り出せるしねっ!」 ユキナリはユウスケがまた『冷たい風』を命令しようとしている事が解った。2度続けて当たるのは洒落にならない。 「コエン!早く距離を取るんだ!」 しかしコエンはその場から動く事が出来ない。 「ど、どうした?」 『ダメです。冷たい風で素早さを下げられちゃったみたいで……これじゃ、飛び退こうにも飛び退けません!』 「そ、そんな!」 「カレッキー、冷たい風をもう1度当てるんだ!」 『解ったッス、マスター!』 カレッキーは口を尖らせた。
「コエン、鬼火だ!」 反射的にコエンは鬼火を出していた。そして鬼火を投げた瞬間、それが冷たい風と衝突し、バチバチと激しく火花を散らす。 『クッ……技の点では俺っちの方が負けてるッスけど、威力に関してはひけを取らないッスよ!』 「コエン、そのままふんばるんだ!」 「カレッキー、そのまま押して攻撃を当ててくれ!」 2人は自分のポケモンを応援し、励まして何とか勝たせようとした。勿論それが関係するハズも無く、あくまで2匹の精神力で勝負は決まる。 混乱にはならなかったものの、カレッキーは特殊能力の代償で防御力が下がっている。そして鬼火には滅法属性的に弱い。 対するコエンは属性的には有利なものの、冷たい風を2度もくらってしまっては大きな痛手になる。 最悪の場合、動けずにそのままやられてしまう可能性もあった。 2匹のポケモンは技を出したまま膠着状態になっている。2人も何時の間にか応援を止め、固唾を飲んで行方を見守っていた。 果たしてどちらが攻撃を当てるのだろうか……
膠着状態になったまま、2匹は身動き1つしなかった。互いにふんばって力を出し切っているものの、力は勿論互角。 ゆっくりと体力が寒さによって奪われていく。 「負けるな、コエン!」 「もうちょっとだけ頑張って、カレッキー!!」 ポケモンはこの瞬間、完全にトレーナーの手を離れて互いの勝負に持ち込んでいた。もう周りなど見えない。 ただ目の前にいる相手を倒したい。その執念でどちらも一歩も引かなかった。 鬼火と風がグルグル回ってぶつかり合う。2匹の精神力は同等に減っていき……
両方とも同時に地面に倒れこんでしまった。フルに精神力を使い果たしたのだ。 しかし、コエンの方は若干体力が残っていたらしい。ゼーゼー荒い息を吐いているカレッキーに向かって再び鬼火を当てる。 『これで、この戦いを終わりにしましょう!』 『まだ、勝負が決まったワケじゃ無いッス!』 カレッキーもなんとか体勢を立て直して息を吐こうとしたがもう立っていられなかった。大きく態勢を崩してしまう。
完全に無防備な状態となったカレッキーに容赦無く鬼火が襲い掛かった。 『やっぱり、アンタは強いッスね……』 そのまま燃えて、カレッキーのHPはゼロになってしまう。ユウスケは急いでカレッキーをボールに戻した。 「僕が適切な命令を出していれば……」 ユウスケはほぞを噛んだ。 「ユウスケ、かなりポケモンを鍛えてるんだね……」 「僕の自宅でね……やっぱり外に出て野生のポケモンと戦わないと成果は出ないよ。仲間同士で戦ってても、経験値は殆ど入らないしね」 ユウスケは次のポケモンを出そうとしていた。 「次の試合でも対戦相手との相性は重要だよ。どうする?ポケモンを交代させるのなら僕に言ってね」 (どうしよう……) 先程冷たい風のダメージを受けたうえ、かなりの精神力を消費したコエン……続けて戦わせても負けるのは目に見えている。 「ジグザグマに交代させてもらうよ」 「OK!じゃ、次のポケモンも同時に出そう」 『ユキナリさん、僕はまだ戦えますよ!』 「無理しないでいいよ。僕はポケモンを酷使したくなんか無い。僕の友達なんだから」 そう言うとユキナリはコエンをボールに戻した。次のボールを腰から外して手に持つ。 「せーのっ!」 また同時にボールが地面に落ち、ポケモンが姿を現した。ユキナリの方は昨日捕まえたジグザグマで、ユウスケの方は相棒の1匹マッドだった。 マッドは空中をフワフワ浮いている、カブの様なモンスターだった。凶悪な面構えをしている。 「えーと、図鑑は……」 『マッド・普段は地中で眠っており、掘り出されると五月蝿い声で喚きだす。あまりに五月蝿い声なので相手にダメージを与えてしまう程だ。 タイプはくさ・こおり』 「特殊能力はあるのかな?」 先程カレッキーの特殊能力のせいで痛手を受けたせいか、ユキナリは慎重になっていた。 『特殊能力・騒ぐ……相手のモンスターに少しずつダメージを与えていく。マッドが瀕死状態になると相手のモンスターに死の叫び声を聞かせて道連れにする。 ただし、倒れる直前のマッドの残りHPより相手モンスターのHPが少ない時にはこの効果は通用しない。少量のダメージはマッドが瀕死状態になるまで続く』 「長ったらしい説明だなあ……」 『要するに、俺のHPが奴のHPを下回ってる時に奴を攻撃すれば勝てるってんだろ?任せときな! 俺はアンタに惚れたんだよ。凄え相棒を持ってるじゃねえか。俺の素早さについていける奴を始めて見たぜ!』 ジグザグマは吠えて相手を睨みつけた。マッドはただ薄笑いを浮かべながらこちらを見ている。 「戦闘開始!」 ユキナリの命令でジグザグマは昨日披露した素早い動きを展開する。マッドはとりあえず喚きだした。 「ユキナリ君。マッドはそんなに簡単には倒せないよ!有利に立てば引き分けになってしまうから、ワザと自分を不利にして勝たないといけないんだ!」 そう言いながらユウスケは何かをユキナリに投げた。 「何これ……」 「耳栓。五月蝿いし、死の叫び声は強烈なんだ。下手すると僕達が気絶しちゃう位鋭い叫び声だからね」 ユキナリは背筋が寒くなった。すぐに耳栓を付ける。しかし、これだとジグザグマの受け応えも聞けなくなる。 ユキナリは命令するだけの立場になってしまっていた。
ユキナリとユウスケはこの戦いにおいて耳栓を付けていたので、自分のポケモンに命令が伝わったかどうか互いに解らない状態だった。 しかし命令しなければ戦えないのでユキナリは叫ぶ。 「ジグザグマ、たいあたりだ!」 ポケギアの『バトル』・『コンディション』によるとどうやら変種ジグザグマの使える技は『体当たり』と『アイスアタック』の2種類らしい。 『体当たり』はノーマルの常套手段で、『アイスアタック』はこおりの技だ。しかしダメージの通常設定はどちらも同じ。 ならば『こおり・くさ』のマッドに効果的なダメージを与える為には『体当たり』を使うしか無いのだ。
しかしユウスケは命令を出していなかった。何故か口が全く動いていないのが確認出来る。 (ど、どうして命令しないんだ?) ジグザグマは思い切り走って浮いているマッドに体当たりをくらわした。マッドは先程からずっと騒いでいる。 ジグザグマは攻撃をしただけなのに耳を押さえてうめいていた。 (そ、そうか。引き分けを狙ってるんだ!) ジグザグマが受けるダメージは微々たるものだが、このまま何の考えも無しにダメージを受け続ければ特殊能力の餌食になってしまう。 ユウスケの残り手持ちはボタッコ。コエンと戦い、互角の勝負を披露した兵だった。 ユキナリの手持ちはまだ戦いに慣れていないハスボーと深手を負っているコエンの2匹。 ここでジグザグマが倒れてしまうと数的には有利でも実際には断崖に追い詰められる事になる。 「ジグザグマ、待つんだ!」 しかしジグザグマは騒ぐマッドのせいか全く聞こえていないらしい。ユウスケは何も言わず、ただ戦いを不安げに見つめているだけだった。 (参ったな……) ユキナリはやっと解った。このユウスケの戦法がどれだけスタンダードで手厳しいものなのかを。 ジグザグマは痛みをこらえる事で精一杯。ユキナリの命令が聞こえていない。 対するユウスケは何も言わず、ただ勝手にジグザグマが攻撃し続けて自滅するのを待つだけだ。 (ま、負けるかもしれない……) ジグザグマは雄々しく立ち上がると、またマッドに向かって体当たりした。ユキナリの命令は全く届いていない。 「やめるんだ、相手の思う壺なんだぞ!」 ジグザグマは引く事を知らぬ真っ向勝負のポケモンだった。今回はそれが完全に裏目に出たと言える。 ジグザグマが3度目の体当たりを当てた瞬間、ユキナリは地面が少し揺れているのを感じた。空気がビリビリ震えている。 マッドが『死の叫び声』を発しているのだ。耳栓を付けていても、その叫び声の凄まじい事がよく解った。 ジグザグマは当然マッドよりHPが多かったのでその叫び声の犠牲になる。倒れて、ピクピク痙攣していた。
ユウスケは倒れて気絶しているマッドをボールに戻すと、耳栓を外してもいい事を手振りで伝えた。 ユキナリは痙攣したままのジグザグマを戻すと、耳栓を外し、溜息をつく。 「ユウスケ、マッドって強いんだね……」 「そんな事は無いよ。だってもしマッドが3匹目として残っちゃったら、戦闘不能にしたトレーナーが負けになるルールなんだから。 相手のポケモンの中には、別のポケモンを引きずり出す『吠える』って技があったりするしね」 「へえ、残っているポケモンを場に無理やり出す事も出来るんだ……」 ユキナリは苦渋の表情でハスボーの入ったボールを見つめていた。 (今信じられるのは、君しかいない。君と相手をするのはポケモンバトルを知り尽くしているボタッコだ……勝負は見えてる、でも!) 「可能性が1%でも残っているならば、僕は抗う!オチさんの様に……最後まで諦めはしない!!」 ユキナリはハスボーの入っているスーパーボールを手に持った。 「僕も知ってるよ……そのハスボー、バトルには慣れてないんだよね。でも、僕はあくまでこれが対等のバトルだと思ってる。 同じ『こおり・くさ』タイプのポケモンで最後の戦いをしよう!」 ユウスケもボタッコが入ったボールを握り締めた。同時にボールを地面に投げつける。閃光と共にまたポケモンが2体姿を現した。
『ユウスケ、このヒトは?』 「ユキナリ君が捕まえたハスボーだよ。バトル慣れしてないけど、君は全力で戦ってほしい、いいね?」 『えー?そ、そんな事していいの?』 「僕からもお願いするよ。これは僕が最初に体験する試練だと思ってるんだ。ハスボーと一緒に、このバトルに勝つ。絶対に!」 ユキナリの決意は固かった。ユウスケは頷くと、命令を出す。事実上ほぼ最後のバトルになる戦いだった。
『な……これは、何?僕は、どうしなきゃならないの?』 狼狽した変種ハスボーはユキナリに尋ねた。 「ハスボー、よく聞いて。僕は、君と一緒にリーグを目指したいんだ。他のポケモンと戦って勝つ……負けたって構わない。 とにかく、今はボタッコと戦ってほしいんだ。命令は僕が出すから……」 『た、戦う!?僕が他のポケモンと戦うの!?』 ハスボーは明らかに怯えている。 「頑張って!僕は君と一緒にリーグを目指したいと思った。親を失った君と共に、成長していきたいと思ったんだ…… だから、僕と一緒に、ユウスケのポケモンに立ち向かってほしい、お願いだ。頼む!」 ユキナリはハスボーに土下座までして自分の意志を伝えた。雪が土下座をしているユキナリの背中に当たり、消えていく。 ハスボーは、ブルブルと震えていたが、ユキナリのあの一緒に悲しんでくれた憂いの顔を思い出し、決意を固めた。 (僕を育ててくれる人……僕と一緒に人生を生きると誓った人……その恩に報いなきゃいけない! 例え怖くても、それが僕に出来る『お返し』なんじゃないのか?) 『……ルールを、教えてください。』 悲痛な顔を浮かべて、ハスボーはユキナリにバトルをする事を述べた。ユキナリは顔を少し上げると、とてもすまなそうな表情を浮かべる。 心を痛めながらも、ユウスケに勝ちたい。そんな矛盾の中で、芽生えたのは『勝利したい』という本能だった。
「君が覚えている技は僕が全部知っている。僕の命令に合わせて、攻撃をしてほしい」 『わ、解りました!』 「ねえ、ホントに大丈夫なの?」 ユウスケも止めた方がいいんじゃないかと言う表情をしている。 「傷薬ならまだあるから、今回だけ特別にコエンに与えてボタッコと勝負させても……」 「ここでハスボーに逃げる事を教えちゃいけない。戦わなきゃいけないんだ。僕とハスボーは」 ユキナリはじっとボタッコを見つめた。 『ユウスケが言ったんだ。全力を出して頑張るよ!』 『あの人と、戦うんですね。』 「うん、同じタイプだから、泥沼になるかもしれない。やばいと思ったら、負けたとしても君をボールに戻す。すぐに手当てしてあげるからね」 『……出来るだけ、やってみます。』
数分後、ようやくユキナリとユウスケのラストバトルが始まろうとしていた。2人は、いや2匹のポケモンは互いに睨みあっている。 いや、ハスボーは完全に気合負けしていた。顔が引き攣っている。 (だ、大丈夫かな……) ユキナリはそう思いながら、ボタッコの特殊能力を確認した。 『特殊能力・しめったからだ……やけど状態にはなりにくいが、こおり状態にはなりやすい』 (そうか、前コエンが勝てたのはこの能力のおかげだったんだ……で、ハスボーの特殊能力は?) 『みずけのかれは・じめんタイプの攻撃技が効かないかわりに、いわタイプの攻撃技をくらうとその技の通常ポイント×3倍のダメージを受ける』 (今回の勝負には関係無いかな……こおりタイプも持ってるハスボーにとっては、相手の特殊能力は意外といいかもしれない……って、あれ?) ハスボーが持っている技は、確認してみると『みずげい』と『はっぱカッター』、『体当たり』の3種類だけだ。 みずは相手には効かない、同じ草タイプも効かないだろう、頼れるのは『体当たり』だけだ。 (苦しい戦いになりそうだな……) 「戦闘開始!」 ユウスケの声と共に、ボタッコが動き出した。 『面白いんじゃない?こういう戦いも』 ボタッコは笑うといきなり上からボタッコに体当たりしようとしてきた。『のしかかり』だ。 「ボタッコ、避けて落ちた所を『体当たり』するんだ!」 ハスボーは素早さが早い方なので、ボタッコののしかかりを避ける事が出来た。 ハスボーは歯をくいしばって体当たりをする。ボタッコに当たり、ダメージを与えた。しかし体当たりでは満足なダメージにはならない。 パワーベルトを付けているボタッコは、HPの1/4程が失われた様だった。 「ボタッコ、気にせずもう1回のしかかりだ!」 しかし動きが緩慢だったのか、またしてものしかかりは外れた。地面がボタッコの形にへこむ。 『うわああ……』 強い衝撃。ダメージの恐怖。死の恐怖。ハスボーはその恐怖に完全に負けてしまっていた。いきなり逃げ出そうとする。 「ハスボー、逃げないでくれ!ここで逃げれば、攻撃も出来ないでただ相手の技をくらってしまうだけだぞ!」 しかし恐怖にかられたハスボーにはユキナリの声が届いていない。後ろ向きになったハスボーに、ボタッコが追い討ちをかけてきたのは当たり前の事だった。 『全力で勝負するよ!禍根が残らない様にしようね!!』 「いいぞボタッコ、そのまま『冷たい風』を使うんだ!」 ハスボーの周りを氷の風が襲う。逃げだそうにも逃げ出せず、ハスボーはただ痛みと苦しみに泣いていた。 『嫌だよ、助けて父さん……母さん!!』 (もう、ダメか……) ユキナリはガックリと肩を落とした。
ハスボーは凍える様な寒さの中にいた。風が周りを覆っていく……後ろを見るとボタッコがいた。 (冷たい風を口から出している。……そうだ、僕はこの人と、戦っているんだ!) ふいに自分の道が見えた。自分が今しなければならない事、それだけがハッキリと自分の頭を刺激する。 ハスボーは気力を振り絞ってその風から逃げ出した。 (父さんと母さんが僕を見ててくれてる……そんな気がするんだ。僕が勝つ事を望んでる気が……!!) 「ボタッコ、一旦飛び退くんだ……ああっ!」 「は、ハスボー……」 命令も何もしていないのに、ハスボーは自らの意志でボタッコに体当たりした。 それはボタッコの急所に命中し、ボタッコはそのまま地面に倒れる。 『ゆ、ユウスケ……まだ、戦えるよ……』 ヨロヨロと立ち上がるボタッコ。思わぬ攻撃に何も出来なかった自分が悔しかった。 (もう油断なんかしない。絶対に勝つ……それが目の前の敵であるならば!) 「ぼ、ボタッコ!体勢を立て直して……」 『イヤです!』 「ユウスケ、もう僕達の戦いじゃ無いんだ、これは。ボタッコとハスボーの戦いなんだよ!」 「うん……そうなっちゃったみたいだね。もう、見ているだけでいいのかも……」 ユウスケはボタッコを見つめた。 (こんなに熱くなったボタッコを見るの、初めてだな……)
『体当たりで、勝負しましょう……』 ハスボーはそう言うと、走る構えをとった。 『別にいいけど。ボクが勝つから!』 ボタッコは息を吸い込んだ。叫びはポケモンの戦闘力にも大きく影響する。 人間が最大限の力を一瞬発揮出来る様に、ポケモンにもその能力が秘められていた。 唐突に、しかも一斉に2匹は走り出した。勿論相手しか見つめていない。相手の腹にぶつかる事しか頭の中には無い。 勝つか負けるか、相手を倒すか自分が倒れるか、究極の二者択一があった。しかもそれは自分では選べない。
ユキナリとユウスケの目の前で、2匹のポケモンは激しくぶつかりあった。そしてその反動で2匹とも地面に倒れこむ。 どちらが体当たりしたのか、2人には全く解らなかった。 「ど、どっちが勝ったんだろう……」 「ポケギアでHP残量を確認してみれば?」 ユキナリは慌てて『バトル』の『互いのHP』を見る。 『ハスボー(ひんし)ボタッコ(ひんし)……』 壮絶な引き分けであった。正直、ユキナリはこの戦いが引き分けにもつれこむなど予想もしていなかったのだ。 ハスボーが勇気を出し、ボタッコに真っ向から立ち向かったのは彼にとって大きな喜び以外の何者でも無い。 「ユキナリ君。……コレは僕の負けみたいなものだよ」 「コエンがひんしにならなかったのは奇跡だよ……ユウスケとマッド・カレッキー、そしてボタッコとの戦いは引き分けに近かった。それでいいじゃないか」 ユキナリは空を見上げる。相変わらず曇り空から粉雪が無い落ちていたが、何故か今のユキナリにとってはとても暖かい天気の様に思えた。
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ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ− ( No.8 ) |
- 日時: 2011/02/20 18:49
- 名前: 夜月光介 ID:IS2GrSYY
- 参照: http://chiba.cool.ne.jp/kinokohonpo/sirokuro.html
- 第1章 7話 『オチとの対決』
ポケモンセンターで一旦互いのポケモンを回復し、2人が施設の前に戻るとそこには彼がいた。 「すまんな、先程の君達の戦い、物陰から鑑賞させてもらっていた……見応えのある戦いだったよ」 「お、オチさん!」 「ユキナリと言うのか……君の名前は。ギリギリの勝利。身を切られる様な勝負の果てに掴む高揚…… 私も君もそれを望んでいるのかもしれない。私と君は、同じ『ポケモントレーナー』なのだからな……」 オチは先程と同じ服装でユキナリ達を待っていたらしい。 「回復は済んだのだろうな。……ユキナリ、私は君と勝負がしたい。受けてくれないか」 「ええ、そんな……僕はまだ貴方に挑める程の腕はありませんよ!」 「君は立派に友人に勝利した……あの戦いで私は確信している。ここのジムリーダーより、君はもっと輝ける才能があると言う事を。それならば……」 オチは自分のマントを翻した。 「私は君と戦いたい、私はあの方の為、もっと強くならなければならないからだ!!」
粉雪は相変わらず降り続いていた。ユキナリは突然申し込まれたポケモンバトルにまだ戸惑っている。 (そ、そんな……今僕がオチさんと戦っても、負けるのは目に見えてる……) 「君は私の願いを聞いてくれないのか?トレーナーたるもの、他人からの挑戦は受けるが運命! 私と戦ってくれ、君の可能性を信じているのだ……」 オチは真剣な表情でユキナリを見据えていた。その言葉に、嘘偽りは微塵も感じられない。 「ユキナリ君、どうするの?」 「……精一杯戦わせてもらいます」 ユキナリは敗北を覚悟した。敗北する事を予感しながら申し出を受ける事は辛い。しかし、オチを落胆させたくは無かった…… 男なら、前を向いて正々堂々勝負するべきだ!そう、思ったのだ。
ユウスケは手袋を自分の頬に当て、寒がった。 「ねえ、ジムに戻って勝負した方がいいんじゃない?」 「その必要は無い。我々はここでバトルを行う」 オチは蛍光色に光るモンスターボールを取り出していた。 「ユウスケ、見守ってて。僕……出来るだけの事はするよ」 「ユキナリ君……」 ユウスケも解った。ユキナリは負けるのを承知でこのバトルに挑戦しようとしているのを。 「私のポケモンもパワーベルトを装着してある……レベルの高さ低さは、何ら遜色は無いハズだ」 オチはクスリと笑うと、そのまま構えた。 「さあ、存分に君の強さ……確かめさせてもらうぞ!」
地面に2個のモンスターボールが落ち、そして閃光と共に再びポケモンが2体向かい合っていた。 ユキナリが先鋒に起用したのはハスボーだ。先程の勇気を買い、出来るだけ粘ってもらえるだろうと敢えて先鋒にしたのだった。 「ハスボー、また戦った事の無いポケモンだ。気合を入れて挑んでくれ!」 『解りました!』 ハスボーはまだ少し迷い、怯えもある様だが、逃げる気は全く無かった。自分の『弱さ』を克服したい。 親から離れて、ハスボーは自分の道を見つけた。もう後には戻れない…… (とにかく、負けたくない。とことん抗って、勝ってみせる!) 『マスター、この者は誰です?』 ハスボーと対時しているのは、光の輪を頭に付けた天使の様なポケモンだった。純白の羽がオチのマントの色に酷似している。 「勿論、トレーナーだ。私は彼に輝きを見た……彼と戦う必要が出てきたのでね」 『解りました。仰せの通りに従います』 「ひかりタイプのポケモンなのか……?」 ユキナリはまたポケギアの図鑑をチェックした。 『ホーリー・神聖ポケモン。その昔、大群で現れて暗黒に閉ざされていた世界を光で照らしたと言う伝説が残っている。 頭の輪から強力な光を放っており、その光は時として人間を襲う程の威力を誇っている』 「特殊能力は?」 『せいなるまもり・どく・まひ・やけど・ねむり・こおり状態にならない。その他の状態異常も一切効果が無い』 「やけどにならない……」 しかしハスボーならただ攻撃するだけで充分だ。ユキナリは属性と技もチェックした。 『ひかり・ひこう……『プラズマ』『エレキテル』『さばきのひかり』を覚えている』 (そう言えば、さっき見た『ストーム』もこおり属性が入っていなかったな……もしかしてオチさんはこのエリアの人間じゃ無いのかもしれない……) 「それでは、始めるとするか……」 「戦闘開始!」 ユウスケの声と共に、一斉にポケモン2匹は動きを見せた。ホーリーは浮き上がり、ハスボーは地面を走る。 「ハスボー、浮いているホーリーに体当たりを当てるのは難しい。さっきのボタッコ戦だって奇跡みたいなものだったんだ。 みずげいで相手を攻撃した方がいい!」 『はい、やってみます!」 ハスボーは『みずげい』を始めた。周囲に水が飛び、ホーリーに水が思いっきりかかる。 しかし、体勢を少し崩しただけで、また何事も無かったかの様にホーリーは浮いたまま相手を睨みつけた。 『マスター、先手を取られるとは……相手を甘く見ていた様です。何なりとご命令を!』 「ホーリー、まずは『プラズマ』で相手をマヒさせるのだ!」 『承知致しました』 ホーリーは青い光を羽から出し、ハスボーを照らす。ハスボーは全身がビリビリと痺れるのを感じていた。 『体が……痺れてます……』 ユキナリはハスボーの状態をチェックした。どうやら『プラズマ』は相手をまひさせる為だけに使う技らしい。 「次は『エレキテル』で追い討ちをかけろ!」 ホーリーはまた羽から黄色い光を出した。ハスボーは懸命に飛び退こうとするが体が言う事を聞いてくれない。 あっけなく当たってしまい、HPの1/3が減ってしまう。 「ハスボー、ホーリーと距離を取るんだ!」 『で、でも全然動けないんです……』 ハスボーは涙声で答えた。全身の自由が効かない。体が火の様に熱くなったり、氷の様に冷たくなったりした。 「とどめだ。『さばきのひかり』で終わりにしろ!」 『はあああ……』 ホーリーの頭の輪が突然激しく輝きだした。どうやら力を溜めているらしい。 普通ならこの時スキが生じて攻撃をする事が出来るのだが、ハスボーはマヒしていた為、光を溜めているホーリーを見ている事しか出来なかった。 「ハスボー、なんとか動くんだ!前でもいい、横でもいい。とにかく少しでも動けたら……」 しかしユキナリの思いは木っ端微塵に打ち砕かれた。ホーリーは輪をハスボーの方に向け、クリーム色に光る美麗な光線を放ったのだ。 ハスボーはなす術も無くその場に倒れこんでしまう。勿論、瀕死状態になってしまっていた……
「そ、そんな……1回も攻撃出来なかったなんて……」 ユキナリは開いた口が塞がらなかった。オチはホーリーをフィールドに出したまま、静かな瞳で次のポケモンが出てくるのをじっと待っている。 「ユキナリ君、とにかく次のポケモンを出さなきゃ!」 「わ、解ってるよ……」 ユキナリは紅蓮のモンスターボールを取り出した。中にはユキナリの最も信頼すべき相棒……コエンが入っている。 (ここで挽回を望むとしたら、コエンしか戦況を逆転出来るポケモンは持っていない!) ユキナリは迷う事なくモンスターボールを投げた。地面に落ちたモンスターボールからコエンが出てくる。 『この人は……誰ですか?』 「ポケモントレーナーのオチさんだよ。今戦ってるんだけど、今相当不利な状況に立たされてる。ピンチなんだ……」 『どうやら、最近フタバ博士が発見したひかりタイプのポケモンみたいですね……とにかく、やるしか無いでしょう。命令を出してください!』 「戦闘開始!」 再び先に動いたのはオチの手持ちポケモン、ホーリーだった。 「ホーリー、先程と同じプラズマで相手を麻痺させろ!」 『承知致しました……』 羽を広げ、青い光を放つホーリー。しかしコエンは反射的にその光を飛び退いて避けていた。 ハスボーと違い、まだ近付いていなかったので光を避ける事が出来たのだ。 「コエン、相手の羽から出る光の射程から離れるんだ!」 ホーリーが羽から出す光線には射程距離がある。そこから離れて戦えば全ての光線を避ける事が可能だ。 コエンはバトルフィールドの端のラインまで距離を取り、相手の動向を伺った。 ホーリーはひたすらオチの指示を待っている。 「……そう、確かにホーリーには攻撃の射程距離がある……しかし、近付けば何ら問題は無い。 ホーリー、射程距離まで一気に迫るんだ!」 『了解致しました』 ホーリーは羽を広げてさらに上に浮かぶと、そのまま身体を傾け、滑空してコエンに迫ろうとした。 「今だコエン、射程距離まで近付いたホーリーに鬼火を使え!」 『そ、そうか!』 コエンはハッと気付き、滑空してきたホーリーに鬼火を放った。 鬼火は油断していたホーリーの急所に当たり、羽を焦がしていく。 『ま、マスター……』 「そのままふんばれ、お前はその程度で倒れるワケが無い!」 全身を包む青白い炎。そのままホーリーは悲鳴をあげ逃げる事も出来ずに悶え苦しんだ。 属性的には向こうの方が有利であったのだが、コエンの攻撃力と急所への命中が痛手となる。 オチは戦いを長引かせるのは不利と考え、ホーリーをボールの中へ戻した。 「……これ以上はホーリーの体が持たない。今意固地をはっていたら、間違いなくホーリーは瀕死となっていた。 ……見苦しい戦いは私の本懐では無いからな。この戦いは私の負けだろう」 オチは下を向いて悔しがった。しかし、ポケモンを思いやっている。ユキナリはやはりオチは尊敬に値する人物だと本気で思った。 「け、形勢が元に戻った……」 ユウスケは不利な状況を跳ね返したユキナリに驚きを隠せないでいた。ユキナリの様な戦いが出来るかどうか……全く、自信が無かった。 「では、今度は私が次のポケモンを出すとしよう……」 オチはボールを投げ、次のポケモンをフィールドに出す。姿を現したポケモンは、……目視確認する事が出来なかった。 「えっと……オチさん、相手のポケモンは何処にいるんですか?」 「君のポケギアを見たまえ。図鑑が反応するハズだ……」 オチに言われるまま、ユキナリは図鑑を見てみる。 『ウミホタ・人間の目には見えない小さな発光体。1つ1つでは見えないが、集団で浜辺に集まる事があり、それを見ると青い光を放っている事が解る』 ポケモンの映像を確認すると、どうやらウミホタはプランクトンの様な姿をしており、暗闇では青く光るらしかった。 雪が降っているこの曇り空ではそれは全く確認出来ない。 『オチさん……どうやって見えないポケモンと戦えばいいんですか?』 「心配は無用だ。バトルの項目には『レーダー』もある。トレーナーがそれを見てポケモンに指示を出せば良い。それで解決出来ると思うが……大丈夫か?」 「レーダー……?あ、ありました!」 ポケギアの画面が緑一色になり、裏側の一部分がスライドしてカメラのレンズが姿を現した。 レンズをフィールドの方に向けると、確かにコエンとウミホタがハッキリ見える。 小さいのは同じなのだが、青く光って見えるので位置がよく解った。 「大丈夫だと思います。特殊能力は……」 『ミニシールド・相手の直接攻撃を受け付けない』 (そ、そりゃそうだよね……) ユキナリはタイプも確認した。 『ひかり・みず』 (やっぱりそうだ……オチさんはここのエリアの人間じゃ無い。何かの理由で、トーホクにやって来たんだ……でも、何の為に?) 「早く始めてくれ。私とウミホタもさっさと勝負を始めたがっている……」 (表情も解らないんですけど……) ユキナリは汗をかいた。こんなバトルは初めてだ。相手の顔、どう動くかの予想が全く出来ない…… 厳しい戦いになりそうだった。 「戦闘開始!」
バトルが始まった……が肝心のコエンは自分から攻撃をしかける事が出来ない。 「コエン、鬼火で先制攻撃をしかけるんだ!」 『ど、何処にいるんです?』 「左の方だ、攻撃される前に出来るだけダメージを与えてくれ!」 『とにかく、ダメージを与えればいいんですね!辛いバトルですが……何とかやってみます!』 コエンは左方向に鬼火を繰り出し、攻撃した。ポケギアで示されているウミホタの位置が移動し、鬼火を避けてしまった事が解る。 「右だ、コエン!」 『逃げられましたか……ユキナリさん、このバトルは厳しいですね。相手の位置が解りませんよ……』 コエンは歯をくいしばって再び鬼火を繰り出した。しかしウミホタは体が見えない程小さい為か難なくそれを避けてしまう。 「コエン、また左に、いや右に……クソ、速すぎて見えない!」 『ど、どうすれば攻撃が当たるんですか?』 「ユキナリ君、これじゃウミホタと遊んでるみたいじゃないか!」 「わ、解ってるよ!……けど、これじゃあ……」 ユキナリは自分のふがいなさに気持ちが暗くなった。 (命令も満足に出せない……ポケモンが見えないだけで、機械に頼ってコエンを困らせてる……機械に頼って……?) ユキナリは勝てる可能性を見つけた。このままでは確実に負ける。もうコエンの心眼を信じるしか無い。 レーダー機能をOFFにし、コエンに命令する。 「コエン、いると思った所に鬼火を当ててくれ!」 『己の勘、ですか……』 コエンは目をつぶった。
「こんな事で梃子摺っていては、私に勝つ事は出来ない……見つけたまえ、可能性を!1つでもあるならば迷わずに使うのだ! 私を落胆させないでくれ……」 オチはじっとコエンを見守っているユキナリを見つめる。彼の目に、諦めの色は出ていなかった。 最後まで、戦う気力を失ってはいない。 (私が他のトレーナーに目を向けるとは、一体どうした事だろう……ユキナリは私に不思議な感情を与える…… それは、期待だ。私と互角の勝負を繰り広げている彼に期待しているのだ……そう、私を超えるのでは無いか、そう、思う故に……) コエンは暗闇の中、ウミホタの存在を認知していた。激しく動き回るその素早い移動が、解る……神経を極限まで尖らせて、攻撃を当てなければ! 『見えた!』 コエンは目を見開き、空中に向かって鬼火を発射した。その青白い炎はウミホタに直撃し、ダメージを与える。 しかしウミホタの属性は『ひかり・みず』……属性が『ほのお』の鬼火では、通常の4分の1のダメージにしかならない。 「ウミホタ、みずでっぽうでコエンを倒せ!」 オチの命令通り、技を出してスキが生まれたコエンの頭上から水が降ってきた。全身に付着し、大打撃を与える。 『クッ……!』 コエンは全身の震えと痛みで、反撃が出来なかった。 「コ、コエン!」 「とどめだ。もう1度みずでっぽう!」 また見えないウミホタからみずでっぽうが発射されたが、少し位置がずれたのかその攻撃は外れてしまった。 「コエン、もう1回鬼火を出すんだ!」 『ユキナリさん……最後の攻撃です!』 コエンは痛みに耐え、先程みずでっぽうが発射された位置に向かって鬼火を出した。 そのまま炎は一直線に相手に向かって飛んでいく。そして……着弾した。 (頼む、凍ってくれ……!) ここで負ければジグザグマと交代。直接攻撃しか出来ないジグザグマでは、そもそも勝負にならない事は目に見えていた。 (コエン、僕は……最後までオチさんと戦いたいんだ!) そして、オチは再度命令を出した。もしウミホタが凍ったのなら、みずでっぽうは出せない。 「ど、どっちだろう……」 ユウスケも不安な表情でこの場を見守っている。 「……ウミホタ、みずでっぽうでトドメをさせ!」
沈黙の後、ウミホタがみずでっぽうを出す事は……無かった。 ユキナリが急いで『バトル』の『相手のコンディション』をチェックすると、すでに『こおり』状態になってしまっている事が確認出来る。 こおり状態から抜け出す事が出来ないトーホクのフィールドでは勝利が確定した。 「ミスか……痛かったな」 オチはウミホタをボールの中に戻した。 「ユキナリ君……勝ったよ」 「うん……僕も勝てるとは思ってなかった」 『ユキナリさん……奇跡が、起きましたね……』 ユキナリはボロボロのコエンをボールに戻した。 「ふう……遂に私の切り札を出さなくてはならないのか……いや、ユキナリ。君との戦いにこそ、相応しい。 私は君に私以上の輝く光を見た。その光が本当に輝くかどうかは、君次第だ。私を倒す気で、最後の勝負をしてくれたまえ……さあ、ポケモンを出すんだ」 ユキナリは最後のポケモン、ジグザグマを出す。オチが出すポケモンは解っていた。 ゲンタに勝ったあのストームだ。勝てるかどうか……正直自信は全く無い。 しかし、ここまで来たからには、オチさんに勝ちたいと言う思いは格段に強かった。 (自分との戦いなのかもしれない……オチさんに勝つと言う事は) 「じゃあ、ユキナリ君……オチさんと一緒に、最後のポケモンをフィールドに出そう」
ボールが粉雪の降る地面に落ちると、また閃光と共にジグザグマと先程カビゴンと戦っていたストームが出てきた。 『おい、アイツ宙に浮いてんのか?』 「うん。オチさんの切り札だよ……」 ユキナリはストームの特殊能力を確認した。 『ひかりのいちげき・相手があくかゴーストタイプの属性のポケモン、もしくは2属性のうち片方がそのタイプだった場合、 ストームがバトルに出た瞬間に相手に一定量のダメージを攻撃をせずに与える』 「へえ、でもジグザグマはノーマルだから問題無いかな……」 「ユキナリ君、さっきの戦いではジグザグマの特殊能力を確認してなかったよね。ちゃんと確認しておいた方がいいよ」 「そうだね」 『ささくれのからだ・直接攻撃をした際、相手が受けるダメージが通常のダメージより少し上がる』 「さてと……もう互いの手の内は解ったのか?始めるとしよう……私にはそれ程時間の余裕は無いのだ」 オチはジグザグマに向かって指をさした。 「戦闘開始!」 「ストーム、バリアーで相手の通常攻撃のダメージを抑えるんだ!」 始まってから数秒で、ストームは金色の光に包まれた。 『チッ、あがきやがって!』 「バリアー?」 「ユキナリ君、相手が出してくる通常攻撃のダメージを少なくする攻撃だよ、でもスキも生まれ易いね……」 「そうか、ジグザグマ。アイスアタックだ!」 アイスアタックはこおりの属性判定を持っているが、通常攻撃扱いとされている変種ジグザグマお得意の攻撃だ。 宙に浮いたまま、バリアーを張るのに精一杯のストームは逃げる事が出来ない。そのままアイスアタックを受けてしまう。 「バリアーが終わるまで、何回でもアタックするんだ!」 ジグザグマは動きが素早いのでオチの予想を遥かに超える動きを見せた。何度も連続でアイスアタックを繰り出す。 『マスター、バリアーを張っていますが……このままではHPが減るばかりです!』 「バリアーを張ったのが裏目に出たか……」 だがオチは『バリアーを解け』とは言わなかった。その後、ストームは完全にバリアーを張り、ジグザグマを突き飛ばす。 「HPはどれ位減ったんだ?」 ユキナリは相手のHP残量を確認するが、バリアーの為、全体の1/4程しか減っていない。 (これじゃ、満足にダメージを与えたとはとても……) 「ストーム、こうはだんでダメージを与えるんだ!」 『解りました、マスター!』 カビゴンとの戦いで見せたあの無数の光の粒が、ストームから放出され、突き飛ばされたジグザグマにクリティカルヒットする。 『クソッ、まだ負けちゃいねえぞ!』 ジグザグマはユキナリが命令もしていないのに駆け出す。 「待て、ジグザグマ!相手の準備が整っている時に飛び出すのは倒してくださいと言っている様なものだ!」 『五月蝿えな、俺は俺のやり方でケリをつけてやる!』 「ストーム、こうはだんを連続で放て!」 ジグザグマが射程距離に入る前に、ストームは再び光の粒を撒き散らしていた。攻撃しようとする事に集中していたジグザグマは、簡単にその攻撃を受けてしまう。 『グッ……』 「じ、ジグザグマ!」 「ユキナリ君、HPがもうちょっとしか無いよ!」 ジグザグマはヨロヨロと立ち上がると、駆け出した。その表情には鬼気迫るものがあり、ストームは怯む。 「相手の体力はもはや風前の灯……ストーム、それ以上苦しませてはならん、決着をつけてやるんだ」 しかし、あまりの形相にストームは怖くなり、攻撃をする事が出来ない。 「何をしている!」 『す、すみませんマスター……どうしても攻撃出来ないんです!』 「ジグザグマの執念が、相手のストームを怯えさせているんだ……怯んで当然だよ。」 「ユウスケ、ここで立ち上がらなきゃジグザグマと僕は負ける……チャンスを、活かすしか無い!」 ユキナリはその瞬間を見据えた。ジグザグマが射程距離に入った時、迷わずに命令する。 「もう1度、アイスアタックだ!」 『うおおおおお!!』 氷の様に固く冷たい頭が、ストームに直撃した。その破壊力はバリアーを粉砕し、ストームをねじ伏せる程強力なものだ。 ジグザグマの真価はここにある……ユキナリはそれを実感した。 『マスター……』 血を吐き、悶えるストーム。オチが勝つ為には……方法は2つあった。 ジグザグマを倒し、重傷のコエンと勝負する。そしてもう1つは…… 「ストーム、てんからのむかえを使うんだ」 『マスター、そんな事をしなくても……』 ストームは見た。マスターであるオチの穏やかでいて、哀しいその顔を。微笑んでいる……悟った。 負ける覚悟での命令なのだ。ジグザグマを倒し、ほぼ瀕死に近いコエンと戦えば、ひかり・いわタイプであるストームは勝つだろう。 しかし、オチはそれを投げていた。何故だ……それも解った。この闘志だ。 ジグザグマは動きを見せればすぐアタックしてくるだろう…… 自分とほぼ同じダメージを受けているにも関わらずだ。オチは自分に『こうはだん』を出せと命じる事が出来ない。 まともな攻撃をしようとすれば気力を振り絞ったジグザグマのアタックが襲い掛かる。ならば、勝つには…… てんからのむかえで無理やり相手を下すしか無い!オチは信じているのだ……またストームがHPを1残すであろうと。それが、最後の望みなのだと。 (マスター……HPが1残るか倒れるかは、私にも解りません。でも、勝つ可能性を掴むには、これしか無いのは解っているんです……やらせてもらいます!) いきなり、ストームはジグザグマの攻撃が絶対に届かない空中に上がった。ジグザグマはなす術も無く立ちつくす。 ユキナリはストームのHPが残らない事を期待した。 (ジグザグマの執念が、ストームを怯えさせた……もうストームにはジグザグマに向かって攻撃する程の闘志は残っていない。 もう、オチさんが出来る命令はこれしか無かったんじゃ……) 「ストーム……」 オチは光を放っているストームを見つめた。ジグザグマは瀕死状態になり、ストームがHPを残すのか、それとも負けるのか…… その2つしか無かった。3人は空を見上げたまま、しばらく何も喋らず、ストームの動向を確認しようとしていた……
「ユキナリ君、降りてくるよ!」 3人が見守る中、なんとまたストームはHPを1残して降りてきたのだ。奇跡の生還だった…… 「まだ勝負はついていないだろう……ユキナリ、君のコエンをフィールドに出したまえ。最後の決着をつけよう」 ユキナリはコエンが入っているボールを見つめた。 (どちらかのポケモンが全員戦闘不能になった時点で戦いは終わる…… コエンだってあと1発でも攻撃を受けたら瀕死だ。もう、どれだけ速く攻撃出来るかしか無い!) 粉雪はほぼ瀕死状態でヨロヨロとなんとか浮いているストームを苦しめていた。HPが1しか残っていないのに戦いを強いられる事は滅多に無い事だろう。 『ま、マスター……早く、命令を……』 「ユキナリ君、ストームのHPが残っている以上、コエンと戦わせなきゃならないんだ!」 「わ、解ってる……」 (コエン、本当にゴメン……でも、戦うしか……!) ユキナリは紅蓮の色をしたボールを地面に投げた。
『ユキナリさん……どうやら、まだ勝負がついていないみたいですね……』 荒い息で立つのもやっとだと思われるコエンが姿を現した。ストームも条件は全く同じである。 「ストーム、もう相手のポケモンが出たぞ。……ユウスケ君。早く戦闘開始の合図を!」 (コエン……ここが、最後のふんばり所だ!) 「戦闘開始!」 その瞬間、ストームもコエンもトレーナーの命令が始まる前に勝手に動き出していた。 もう命令を聞いているヒマなど無い。相手よりいかに早く攻撃するか、それしかもう考えられなかった。 「コエン、無茶はするな!」 『ダメです、ここで負けたくはありません!』 走りながら鬼火を携えるコエン。一方ストームはこうはだんを行う為、光を吸収していた。 「ストーム、そのまま一気に行け!」 『はい、マスター!!』 最後の気力を振り絞って、ストームはこうはだんを発射した。しかしコエンはもう鬼火を出していたのだ。 気圧される程の一瞬だった。光の粒がコエンに命中した時、全く同時に鬼火がストームを包んでいたのだから…… ストームのHPは1しか無かったので、当然属性の有利不利は関係無い。コエンもほぼ同じ条件だった。 2匹はそれぞれの攻撃をまともに受け、その場に倒れた。全く同時に意識を失い、戦闘不能に陥ってしまう……
壮絶な、引き分けだった。オチもユキナリも、それが当然の様な顔をしている。 お互いに実力を認めあい、そしてまだ決着をつけるべき時では無いと思っていたからだろう。 「見事だ、ユキナリ君……トレーナーとして旅を始めたばかりとは思えない程の強さを持っているよ。しかし、結果は相打ち。 それならば、私と君との間の決着は、まだついていない。何時か、また戦う機会がめぐってきた時…… それは、私がもっと強くなって君の目の前に立ち塞がる時にしか他ならない事を、覚えておきたまえ……」 オチは焦げているストームをボールに戻すと、その場からすぐに立ち去っていった。ユウスケは呆然として、今の状況がまだあまり把握出来ずにいる。 (オチさんに勝ちたかった……だけど、負けなかっただけ良かったんだと思う…… それに、今はまだオチさんに勝てる実力を持ってるワケじゃ無い!) それはハッキリ解っていた。ジムリーダーを全て倒し、四天王も撃破し、チャンピオンに勝利するその日まで、ユキナリはオチに挑戦する権利は無いだろうと信じていた……
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ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ− ( No.9 ) |
- 日時: 2011/02/27 15:28
- 名前: 夜月光介 ID:Ik6jeyTg
- 参照: http://chiba.cool.ne.jp/kinokohonpo/sirokuro.html
- 第1章 8話 『決戦!ゲンタVSユキナリ』
その後、ゲンタを崇拝しているトレーナーが数人手合わせにやってきたが、ユキナリはことごとく彼等に勝っていった。 オチとの戦いで何かが目覚めたのだろうか。ユウスケもユキナリの強さに目を見張る程だったのだから…… 「ユキナリ君、随分バトルに慣れてきたんじゃない?ちょっと寂しいな、僕はユキナリ君より長くポケモンと付き合ってきたのに負けちゃったりして……」 「そんな事無いよ……たまたま運が良かっただけだって。明日、僕はゲンタ君に挑戦する…… ノーマルポケモンはどんなポケモンとも対等に戦える実力派。オチさんとの戦いが活かせるかどうか……」 ユキナリは自信が無かった。オチとほぼ互角の勝負を繰り広げていたゲンタ。オチが運を掴まなければ勝てなかった相手であったゲンタ…… そんな少年に勝てるのだろうか?ジムバッチを手にする事が出来るのであろうか……不安は心の中でどんどん大きくなっていった。
その夜、ユキナリはすぐに寝た。ユウスケもゲンタに明日、挑戦する決意を固めたらしい。 それは、ユキナリにとっても嬉しい報告だった……
翌日、ユキナリとユウスケはジムの前に置いてあった自分達の自転車を邪魔にならない様どかすと、白い廊下を通り、ジムのバトルフィールドへと赴いた。
バトルフィールドでは、ゲンタが2人を待っていた。 「昨日は結構はりきってたみたいだね。オイラの戦い方を真似てるトレーナー仲間を全員倒したって聞いてるよ…… どうやら、もうアンタはオイラに立ち向かえる実力を手に入れてるみたいだ」 「精一杯、やらせてもらいます!」 ユキナリはゲンタに頭を下げた。 「いよいよだねユキナリ君。僕、昨日は緊張して寝るのが遅くなっちゃったよ……でも、ユキナリ君に追いつきたいんだ!」 「もう1回ルールを説明するよ。ウチのジムバトルの場合、使用ポケモンは3体。ポケモンが全員倒れたトレーナーが敗者となる。別に何ら問題無いよね?」 「はい、問題はありません」 「それじゃあ……」 ゲンタはサークルボールを取り出し、ニヤリと笑った。 「存分に楽しませてもらうよ!」
「ユウスケ、悪いんだけど……」 「ん?」 ジムバトルの行方を見守ろうとしたユウスケに、ユキナリはばつが悪そうに言葉をかけた。 「外に出ててくれないかな。僕とゲンタのバトルが終わるまで。……これは、オチさん同様2人の戦いなんだ。 それに、今度はユウスケ……君もジムバトルに挑戦するから、この戦いは見ない方がいい」 ハッキリと、真剣な眼差しでそう言われるユウスケ。 「……そ、そうだよね。僕、ユキナリ君とオチさんの試合と違って……ゲンタ君にも挑戦するんだもんね……」 そう言うと、ユウスケはバトルフィールドから出て行った。扉が閉まり、ゲンタは改めて鍵をかける。 「勝負に集中したいんだよね。オイラも丁度同じ事を言おうとしてたんだ…… ユキナリは今回がジムリーダー初挑戦。緊張するのも解るけど、もうちょっとリラックスしようよ。かたっくるしい戦いは嫌いなんだ」 「ゲンタ君と戦えるの……今凄く嬉しいんだ。胸の鼓動が何時もより早く感じる……恐怖と希望。 その2つがグルグルと渦を巻いて僕に襲い掛かってくるみたいで……」 「……手加減はしないよ。オイラとの戦いで掴めるものは何でも掴んだ方がいい。勝っても負けても悔いの無い戦いにしてよね」 ゲンタはフィールドにサークルボールを投げた。純白の球は地面に落ち、閃光と共にポケモンが出現する。 ゲンタの動きと同様にユキナリもボールを投げていた。最初に選んだのは……変種ジグザグマだった。 そして、ゲンタが最初に出したポケモンは……
『コラッタ・噛める物には何にでも噛み付いてくる凶暴性の高いポケモン。家屋を倒壊させる事がよくあり、シロアリよりも家主にとっては手強い存在となっている』 真っ赤な目。凄みのある顔。尖った耳。鼠と言うにはあまりにも可愛げが足りないポケモンだ。 「ノーマルの代表格だね。ノーマルのみ。その真髄を極限まで活かすのがオイラ流ってワケ」 ユキナリは最初にノーマルが入っているジグザグマを選んで正解だと思った。これなら、互角の戦い…… いや寧ろ少し有利な展開になるかもしれない。ユキナリは特殊能力を確認した。 『するどいは・攻撃する度に相手のすばやさを下げる。時々相手をひるませる事もある』 (厄介だな……でも、ジグザグマなら攻撃を受けるリスクが少ない。偶然とは言え、ベストな選択だったのかも) 「コラッタとジグザグマのバトルか……のっけから面白い展開だね。でも、ノーマル同士のバトルならオイラの方が数倍も慣れてる!」 相手のコラッタはもう戦いを始める準備万端の様だ。ジグザグマもうなり声をあげ、相手を睨みつけている。激しい睨み合いの応酬だ。 『うーん、面白そうな奴じゃねえか。戦いがいがあるぜ』 『そっちもな。タヌキ風情が俺に勝てると思うなよ!』 ゲンタとユキナリも互いに見つめあった。これが、ユキナリにとって最初の試練となる。 勝てば、ジムバッチをゲット……何としてもこの戦いでゲンタのポケモンを倒しておきたい! 「戦闘開始!!」 コンピューターアナウンスが屋内に響き渡った。
『戦闘開始!』 バトルフィールドに設置されている機械が試合開始を告げると、コラッタとジグザグマは走り出していた。 「どちらも素早さが高いみたいだね。でも、オイラの育てた疾風のコラッタに勝てるかな?」 ユキナリは思い出していた。 コラッタは『相手に攻撃する度に相手の素早さを下げる』のに対して、変種ジグザグマは『相手に直接打撃で攻撃を当てた場合威力が高まる』……互いの特殊能力だ。 (最初にぶつかれば戦いがかなり有利になる……ここは何も考えずに攻撃をさせた方がいい!) 「ジグザグマ、アイスアタックを使うんだ!」 『その言葉を待ってたぜ!そのまま突っ走るのをよお!!』 ジグザグマはニヤリと笑うと猪突に突っ込んだ。コラッタの体のみを見つめ、そこに全力で体当たりしようとする。 コラッタもどうやら攻撃を仕掛けようとしている様だった。 「コラッタ、かみつく攻撃!」 (かみつく……確かあくタイプになった属性技だったっけ) ユキナリはうろ覚えの知識を思い出した。 「ジグザグマ、方向転換して相打ちを避けろ!」 『俺は中途半端な命令は嫌いだ!』 ジグザグマは命令を無視して突っ走る。 (……もしかしたら、ジグザグマもハスボーと同じ様に記憶が消えていないんじゃ?) 記憶を失っているポケモンは忠実になる。しかし、これは明らかに忠実では無い。 (負ける原因になったら、困るな……) しかしユキナリはこれも個性だと思って命令を変更した。 「じゃあ、もっと早く走って相手の攻撃を避けるんだ!」 『それならいいぜ!』 ジグザグマはスピードを上げた。 「コラッタ、ジグザグマを逃がすな!」 『俺から逃げられると思うなよ!』 コラッタもさらにスピードを上げてジグザグマに迫る。 (どっちだ、どっちが速い?) もはやどちらのポケモンも残像の様になっていた。一瞬、止まったかの様に見え、その影は交差している。 「どうやら、コラッタとジグザグマは攻撃を当ててないみたいだね」 ゲンタがそう言った時、コラッタは素早く方向転換した。 「ジグザグマ!背後から攻撃を受けたら一方的なダメージだ!方向を変えないと負けるぞ!!」 『フン、じゃあ止まってやるよ!』 ジグザグマは後ろに振り向くと、そのまま身構えた。 「格好の標的だ、とびかかってかみつけ!」 『うおおおおお!』 コラッタはジャンプしてかみつこうとした。しかし、ジグザグマはスライディングしたのだ。 『!?な、何ィ!?』 前にスライディングされ、コラッタはつんのめって倒れる。完全に無防備になったコラッタめがけてジグザグマは振り向き、そのまま勢い良くアイスアタックを当てた。 『ぐあっ!』 胸を抑えて立ち上がるコラッタ。口の端から血が出ている。 『マスター、不意をつかれたぜ……』 「ジグザグマ、追い討ちをかけろ!」 『任せとけって!』 「コラッタ、迎撃しろ!ひっさつまえばを使うんだ!」 ひっさつまえば……この技は急所に当たりやすい一撃必殺の技。しかし、命中率はかなり低い。 かなりの手傷を負ったコラッタがジグザグマに勝つには、例え可能性が低かろうが当てるしか無いのだ。 『このおっ!』 コラッタは尖った前歯を突き出し、走ってきたジグザグマに噛み付こうとした。しかし、ひょいっとジグザグマはそれを軽々と避けてしまう。 そのまま再びアイスアタックを仕掛けた。 『しまっ……うごおっ!』 今度の攻撃は再起不能になるには充分過ぎる程の威力だった。コラッタはつんのめって倒れる。そして、痙攣していた。 「コラッタ、戻れ!」 サークルボールの回収ボタンを押し、ゲンタはコラッタをボールの中に戻した。一方ジグザグマは今だ無傷である。 (押してる……でも、全然油断は出来ない!) 「初戦は見事だったよ、ユキナリ。でも、オイラの力はまだまだこんなもんじゃないって事、その身に叩き込んでやる!」 ゲンタは別のサークルボールを取り出した。勿論、あくまでもノーマルポケモンにこだわっているのだ。 (オチさん同様、ジムリーダーもこおり属性を全く持っていない……でもそれは間違ってはいないんだよな。 リーグ本部がそれぞれに別のエリアで捕まえたポケモンを支給しているんだから……)
ボールが落ちると、閃光と共に可愛いポケモンが出てきた。 『マスター、今度の戦いはこのヒトとやってるの?』 「ちょっと今ピンチなんだよね。押し返さなきゃ……オタチ、オイラの命令、しっかり聞いてくれよな!」 『OK、大丈夫だって!』 「オタチ……」 ユキナリは早速図鑑と特殊能力をチェックしてみた。 『オタチ・素早い動きで相手を翻弄するポケモン。草叢から木の上に、また草叢に移動したりと、休む間もなく移動を繰り返している。 ポケモンファンの中では、可愛さも相まって女性に人気がある様だ』 『属性・ノーマル・ひこう……しっぽふりふり・相手の命中率がバトル開始の時少し下がる。その効果は相手が瀕死になるまで続く』 (また厄介な特殊能力を持ってるぞ……) 「じゃあ、ユキナリはそのままジグザグマを使うの?別にルールとしては、変更してもいいんだけど」 「いえ、このまま戦います」 ユキナリはジグザグマの熱い闘志を感じたのだ。このまま戦わせれば、きっといい結果が出る……そんな気がしたのだ。 『戦闘開始!』
「オタチ、空中に上がれ!」 戦闘が始まると同時に、ジグザグマの命中率が下がった。大きな痛手だが、相手の特殊能力なのだから仕方が無い。 「ジグザグマ、相手は空中にいるから攻撃は無理だ。相手の攻撃を避けた後アイスアタックをしろ!」 『そうだな。流石の俺も飛んでいる相手には攻撃出来ねえよ。飛び退いてやるとするか!』 相手は空中に浮かんだまま、次の命令を待っている。ジグザグマは相手が動いたらすぐさま飛び退く準備を整えていた。 「オタチ、かっくうを使え!」 『絶対当ててみせるからね!』 オタチは急に物凄い勢いで急接近してきた。地面にぶつかる様な急角度で、地面を抉るかの様にジグザグマがいる方向へと飛んでいく。 「ジグザグマ、避けるんだ!」 しかし、あまりにも速すぎたのか、ジグザグマはその姿をとらえる事すら出来なかった。無様にもそのまま攻撃を受けてしまう。 『グッ!』 まるで振り子の鉄球を頭にくらった様な衝撃だった。あまりの衝撃にジグザグマは一瞬目がくらむ。しかしオタチは追い討ちをせずに、また空へと上がった。 「今度は慎重に攻撃しないとね……」 「さっきの攻撃技は、何なんだ?」 ユキナリは『かっくう』の説明を見てみた。 『かっくう・命中率は100%、しかしダメージは少なめ……相手が怯む確率は極めて高い』 ジグザグマのHPを見てみると、大体1/5が失われた様だった。確かにダメージは少ない……しかし攻撃が出来ないとその少ないダメージさえ命取りになる。 「オタチ、もう1度かっくうを使うんだ!」 「ジグザグマ、なんとか避けてくれ!」 しかし命中率は100%、何処へ逃げてもムダだった。 『畜生、俺の動きに合わせて軌道を変えてきやがる!』 まるで誘導ミサイルに追いかけられている様な感覚だった。右へ行こうが左に行こうが、滑空してくるオタチはそのままジグザグマに向かって突撃してくる。 そして、またもや攻撃が当たった。 「ジグザグマ、せめて攻撃を当ててくれ!」 ひるまなければ、攻撃が出せる。ジグザグマは今度は気を失う事は無かった。しかし無情にもアイスアタックは外れ、再びオタチは空に上がってしまったのだ。 「くそ、命中率が下げられているせいなのか……」 「へへ、オイラのオタチの特殊能力は結構便利なんだよねー。……さて、さっきの屈辱を晴らさせてもらうよ。オタチ、そらをとぶ攻撃!」 オタチは空から勢い良く落ちてきた。しかしかっくう程の速さは無い。 命中率は下がるが、この攻撃が当たると2回もかっくうのダメージを受けたジグザグマが戦闘不能になってしまう。 「ジグザグマ、なんとか避けてくれ!」 ユキナリには命令を出す事しか出来ない。その命令に従えるかは、そのポケモンの技量にかかっているのだ。 『ここで負けてたまるかよ!』 ジグザグマは空からの体当たりをすんでで避け、落ちてきたオタチにアイスアタックをくらわした。 今度は無事に命中したらしい。オタチはヨロヨロと空中に上がった…… 「オ、オタチ!背中にジグザグマが乗っているぞ!」 ゲンタは苦い顔をした。飛びつかれては、空中からの攻撃が出来ない。しかも、ここまで距離が縮まっていては、命中率がどうのこうのと悠長に構えていられない。 「いいぞジグザグマ、体当たりするんだ!」 『……飛びついたはいいが、体当たりすると地面に落ちるな。さて、どうしたもんか……』 『うわぁーっ、ちょ、ちょっと!離れてってば!!』 オタチは振り落とそうとするが、ガッチリと掴まれているので無駄なあがきにしかならない。 『体重をかければ落ちるかもな……』 ジグザグマはオタチに向かって全体重をかけてみた。オタチは必死に持ち応えようとする。このまま地面に激突すれば オタチがジグザグマのクッションとなり、さらに気絶した所を攻撃されて戦闘不能になってしまうからだ。 「ジグザグマ、そのまま落とせ!」 「オタチ、持ちこたえてくれ!ここでオイラが2連敗すると、残り手持ちがカビゴンだけになっちゃう!」 『ホラホラ、どうした?』 『うう……もう、ダメ……』 オタチはもう空中でふんばっていられなかった。急に目の前が真っ暗になり、オタチは勢い良く地面に激突する。 そしてそのオタチの上に立っていたジグザグマは無傷で、そのまま気絶しているオタチに向かって体当たりした。 ユキナリがポケギアで確認すると、オタチのHPはゼロ。戦闘不能確定だった。 「あちゃー、ちょっとふざけすぎたかな……」 ゲンタは苦笑いするとオタチをボールに戻した。 「でも、ここからがオイラの本当の実力。オイラのカビゴンはノーマルタイプの王…… いや、他のタイプの王と呼ばれるポケモンにだって、絶対ひけを取りはしない。このまま逆転だって出来るさ!」 そう言うと、ゲンタはサークルボールを投げた。ジグザグマはまだ戦闘不能になっていないので、そのままバトルフィールドに待機している。 「大丈夫だ。もう出来る限りでいい……後はハスボーかコエンがなんとかしてくれるさ」 『まだだ……俺の実力だって発揮されてねえ……このまま俺が3匹全員を倒してやる……』 しかしうそぶくジグザグマの身体は確実にダメージを受けていた。痛みのせいで動きが緩慢になる。 出てきたカビゴンは、まさにゲンタのトリに相応しい貫禄を持つ巨大なポケモンだった。先程もユキナリはカビゴンを見たが、間近で見るとやはり大きい。 ユキナリの10人分以上はありそうだ。 『ぶよぶよ・直接攻撃のダメージを少なくする。持ち物・食べ残し……ターンごとに自分の体力を少しずつ回復出来る』 「食べ残し……」 「ポケモンに持たせる事の出来る道具はトーホクにも沢山あるよ。もし買える機会があったら、購入しておく事だね。 オイラのカビゴンは常に食べ残しを持たしてるんだよ」 「へえ……持たせる道具か……」 (なんだか、有利になった気がしない……カビゴンが文字通り大きく見える。生半可な戦い方じゃ勝てそうに無いぞ……) カビゴンはHPが高い。攻撃力もある。そして、ジグザグマは直接攻撃しか使えない…… これでは、ジグザグマはまず負けてしまうだろう。しかし、逃げるワケにはいかない。ユキナリはジグザグマをそのまま続けて戦わせる事にした。
『戦闘開始!』 「いけ、ジグザグマ!アイスアタックだ!」 『おう、とにかく当ててやる!』 苦悶の表情でカビゴンに向かっていくジグザグマ。しかし対するカビゴンは起きようともしない。 『この野郎!』 ムカついたジグザグマはさらにスピードを速める。ゲンタは何も言わず、ただジグザグマの動向を見ていた。 (ゲンタには何か考えがあるんだ……でも、ジグザグマは直接攻撃しか使えない。 何があろうとも、ぶつからなければ効果は無いんだ!) ジグザグマはカビゴンの腹に向かってアイスアタックをくらわそうとする。その時、初めてゲンタが命令を出した。 「カビゴン、のしかかりを使うんだ!」 のしかかり……ボタッコが使ってきた技だ。ノーマルタイプで、時折相手を麻痺させる事がある。 『ふあ――――あ……』 大きな欠伸をしてのっしと立ち上がると、走ってくるジグザグマに対して包み込む様にのしかかる。 「ジグザグマ、避けろ!」 しかしもう無駄な命令だった。ジグザグマは血気盛んに走っていたのでブレーキをかける事が出来ない。 そのまま勢いを殺され、無様に潰されてしまった。その瞬間、ジグザグマのHPはゼロになったのである。
「いいよ、この調子でガンガン押しまくるんだ!」 ユキナリはジグザグマをボールに戻した。 (やはりカビゴンは簡単に倒せる相手じゃ無い……とにかく特殊攻撃のみを使って、出来るだけダメージを与えなきゃダメだ……) 次に選ぶポケモンはもう決まっていた。カビゴンはまたどたっと倒れ、そのまま身動きしなくなる。 「結構面白いだろ?オイラが命令するまで、カビゴンは全然何をしてくるのか解らないんだ。いっつも寝たきりだからね!」 ユキナリは目をつぶり、ボールを投げた。 (どうか、この一戦で体力を削れます様に!) 閃光と共に現れたのはハスボーだった。ハスボーは目の前の巨大なカビゴンに言葉を失っている。 『あ、あんなのと戦うの?』 「やれるだけでいい。カビゴンには近付かなくていいから」 『わ、解った……』 ハスボーは冷や汗をかいていた。いきなりこんな巨大なポケモンと戦うとは思ってもみなかったからだ。 「じゃあ、早く始めよう。コンピューター!」 拡声器を使った様な機械の声がバトル場に響く。 『戦闘開始!』 「ハスボー、みずげいを使うんだ!」 『は、ハイ!』 ハスボーは遠くからカビゴンにみずげいを使った。ボタッコと違い、カビゴンは攻撃力の高さは上だが素早さは非常に低い。 動きが緩慢なので、相手が離れていると攻撃が出来ないのだ。 『うう……』 カビゴンのHPが減っていく。何回でも続けて出せるので、一方的に攻撃している格好だ。 しかしターンごとに食べ残しで体力を回復している為、ダメージは少なかった。それでもなんとか体力を削り、あと少しまで追い込む。 「よし、そのまま攻撃を続ければ勝てるぞ!」 「甘いよ、ユキナリ……オイラのカビゴンはタフなんだ。ねむるを使え!」 『ふあああ……ZZZ……』 カビゴンが眠ると、ポケギアで表示されているカビゴンのHPがどんどん上がっていく。そして全回復した。 「ま、まさか……」 「普通全回復すると、相手にしばらく攻撃を仕掛けられなくなるんだけど……ここからがカビゴンの本領発揮だよ!」 『ググググ……ゴーゴー……』 「いびきの発動だ!」 カビゴンの口から非常に不快な音がする。それはフィールドの何処にいても聞こえる死の音楽だった。ハスボーは突然苦しみだす。 『み、耳が痛い……』 ポケギアで表示されているハスボーの体力が少しずつ、確実に減っているのだ。 「そ、そんな!」 「早く攻撃しないと、ハスボーが負けちゃうよ?」 「クッ……ハスボー、戦える限りみずげいを使ってくれ!」 『痛い、痛いよ……』 それでもハスボーはなんとかみずげいを使う。ばら撒かれた水はカビゴンに当たる。 寝ている間カビゴンはいびきを使う事が出来るが、ねむるを使う事は出来ない。 しかし食べ残しは常時使える為、特殊攻撃でもダメージが少なくなると言う最悪のコンビネーションが披露されていた。 「そのままいびきで敵を倒すんだ!」 (カビゴンは起きている間攻撃は出来ない……が眠るを使う事が出来る。寝ている間は攻撃は出来るが眠るは使えない。常に食べ残しの効果がある…… くそ、このバランスは完璧じゃないか!) 「オイラの戦術には勝てないかな?ユキナリ……屈指のコンビネーションをじっくりと味わってもらうよ!」 結局、カビゴンのHPの3/4を削った所でハスボーは疲れ果てていた。瀕死が近い。その時、カビゴンの目が覚めた。 「よし、ここで一気に追い込むんだ!」 最後の気力を振り絞り、ハスボーは攻撃を続ける。しかし無情にもゲンタはまた命令を出した。 「カビゴン、眠れ!」 『ふあーあ……』 (やめろ、やめてくれ!) ユキナリは絶望した。なす術も無くカビゴンは当たり前の様にまたもや体力を全回復し、いびきを使ってきたのだ。 その瞬間、ハスボーは戦闘不能になった。 『む、無理です……こんな戦い……』 ユキナリは悲痛な気持ちでいっぱいになった。 (どうすれば勝てるんだ。どうすれば!) ハスボーをボールに戻し、しばし考え込むユキナリ。 「どうだい、これで勝負の行方はオイラに傾いてきたんじゃないかな?」 確かに、ユキナリは追い詰められている……最早コエンしか残っていない。そしてカビゴンは磐石の守りを固めている。 (本当に磐石か?何か弱点があるハズだ、崩せる可能性があるハズなんだ!) ユキナリは答えを探す為に必死に考えていた。
残りポケモンは互いに1匹を残している。ゲンタは不利な状況を強力なポケモンで弾き返し、対する挑戦者、ユキナリはもう後が無い。 紅蓮のボールを握り締め、ユキナリは目を閉じる。コエンが最後の切り札だ。何故かそう感じていた。 (コエンなら、何か抜け道があるハズだ。考えろ。コエンが使える技は鬼火と化かすだ……化かす? そうか、いちかばちかの作戦しか無い!) カビゴンはフィールドでコエンが出てくるのを待っている。 「オイラとカビゴンのコンビネーション、崩せるものなら崩してみなよ!今まで、ずっとトーホクの挑戦者はここで挫折してきたんだ。 オチみたいに運で勝ってもいい。とにかく、オイラに勝てばバッチをゲット出来るだろ?」 「……勝てる自信は無いよ。でも、負ける準備はしてない。ここでふんばるしか、先へ進む道は無いから!」 閃光と共に、ボールからコエンが出現する。 『戦闘開始!』
コエンはユキナリの命令を待った。対するカビゴンはダメージは皆無なので眠るを使わず、相手が攻撃するのを待っている。 「コエン、鬼火だ!」 『随分デカイ敵ですね……でも、相手に不足はありませんよ!』 体から青い炎が噴き出し、コエンの身体を覆う。そのままカビゴンにヒットし、体力を削った。 勿論、特殊攻撃なのでカビゴンの能力は通用しない。 『うう……』 カビゴンは体力の半分程を失ってしまった。 「うーん、このままもう1度攻撃されたらヤバイかも……カビゴン、早いけど眠るんだ!」 『ふあ―――い……』 カビゴンは先程と同じ様に眠ろうとした。 「コエン、化かすを使え!」 『ハイ!』 「!ちょ、ちょっと待った、化かすだって?」 その命令にゲンタは慌てた。攻撃力も防御力も相当高いゲンタのカビゴン。しかし回避能力と素早さは普通のポケモンを遥かに下回っている。 つまりどんな攻撃でも間違いなくヒットすると言う事だ。こんらんさせる技でも同様。カビゴンは幻覚を見せ付けられ、技が出にくくなってしまった。 『?……?……』 カビゴンは眠れない。 「混乱か……コレはオイラでも対抗策が思いつかないや」 とにかく、技を出せるか出せないかは運にかかっている。 「コエン、もう1度鬼火だ!」 『あと1回出せば、倒れると思いますよ!』 コエンは2回目の鬼火をカビゴンに向けて放った。しかし当たり所が悪いのか、カビゴンは首の皮一枚残してギリギリ生き残ってしまう。 「特殊攻撃と混乱か……ユキナリ、アンタを見くびりすぎてたよ。でも、オイラは最後まで諦めない!カビゴン、眠るんだ!」 『?……ZZZ……』 「うッ!」 ユキナリは歯噛みした。カビゴンは悠々と体力を全回復してしまう。そして、いびきをかこうとした。 しかし……今度はこんらんの為にいびきが発動しない。 『ZZZ……?……』 「やったぞ!コエン、このスキに鬼火を連発するんだ!」 『ハイ、ユキナリさん!』 コエンは再び鬼火を繰り出した。一方、カビゴンは体が大きい為か、なかなか混乱が抜けてくれない。 「カビゴン、いびきを使ってくれ!」 ゲンタは焦った。いびきを使えずに寝ているのは倒してくださいと叫んでいる様なもの。とにかく何とかして起きなければならない。 『それっ!』 飛んでいく青白い炎はカビゴンの腹部に命中。またもやHPの半分程度を削る。しかしカビゴンはまだ起きれない。 しかもいびきが混乱のせいでまたもや出せない。 「頼む、混乱が収まらなきゃ負けちゃうよ……」 コエンは再び鬼火を出した。鬼火は矢の様にカビゴン目指して飛んでいく。その瞬間、カビゴンの目が覚めた。混乱も止まった…… しかしもはや手遅れだった。鬼火は容赦無くカビゴンを焦がし、カビゴンは仰向けになって倒れる。 ポケギアで確認すると、すでにカビゴンのHPはゼロになっていた。 (勝った……しかもコエンは無傷で……) 「参ったな……オイラ、連続で負けるのなんか久しぶりだよ……ユキナリ、アンタはオイラのジムを制覇した。仕方無い。これ、受け取ってくれよ」 そう言うと、ゲンタは純白の丸いバッチをポケットから取り出した。 「サークルバッチ。これを付けると、アンタが使っているポケモンの攻撃力が少しだけ上がる。それと……」 ゲンタは向こうの扉を指差した。 「あの奥の部屋に渡す技マシンがあるんだ。ついてきなよ」 「技マシン……」 『ユキナリさん、ポケモンは技マシンでも技を覚えられるって言ったでしょ?でも、技マシンは秘伝マシンではありません。 1回きりなので、よく考えて使ってくださいね』 ゲンタは倒れて動かなくなっているカビゴンをボールに戻すと、ユキナリと今回の戦いの鍵となった、コエンを奥の部屋に案内した。
バトルフィールドからさらに奥の部屋に入ると、そこは倉庫の様になっていた。技マシンが大量に置かれている。 「ジム戦勝利者は必ずこの技マシンを受け取れる。だからリーグからこんなに沢山の技マシンを貰い、ここに預けてるんだよ」 『凄い数ですね……』 ゲンタは慣れている様で技マシンの山に足を踏み入れ、数分後には技マシンを背負って戻ってきた。 「リュックみたいなんだね……」 『ポケモンに背負わせてボタンを押すと覚える事が出来るんです。その技を覚えられるかは、ポケモンの属性によって違います』 「で、オイラのジムではこの技マシンを譲与する事がリーグで決まってるんだ。はい、ユキナリこれ!」 ゲンタはユキナリに技マシンを手渡した。 「ギガインパクト……?」 ユキナリは技マシンに書いてある名前を読んだ。 「ノーマルポケモンの最強技、ギガインパクト。殆どの確率でポケモンにヒットし、大ダメージを与える。 でも、出した後1ターンは反動で動けなくなるから、長期戦向きの技では無いって事、覚えておいて」 ゲンタはユキナリの肩を叩いた。勿論、背伸びして。 「でもホント凄い戦いだったよ!オイラ、負ける気はしなかったんだけどな……コエンの戦略。最後で土壇場の大逆転! ……この先のナオカジムでも、きっともっと面白い戦いを繰り広げるんだろうね!クーッ!オイラワクワクしてきたよ!」 「ありがとう……ゲンタ君。僕、やっと一歩を踏み出せた気がする……このバッチが、僕が歩き出した証なんだ」 サークルバッチはユキナリのシャツの横側、腰の近くに付いていた。これが8つ揃った時、リーグへの挑戦権が約束される。 『じゃあ、ユウスケさんを呼びに行きましょうか』 「そうだね、ユウスケもゲンタと戦わなきゃならないんだった……ユウスケも、ゲンタに勝てるかな……」 「ま、オイラはアンタ同様、手加減はしないよ。……そうそう、ちょっとそのポケギア、オイラに貸してくれるかな。ちょっとでいいんだ」 「え?何をするの?」 「ま、いいから。ちょっと貸して」 ユキナリがポケギアを手渡すと、ものの10秒も経たない内にゲンタはポケギアを渡した。 「ジムの電話番号。ノーマルポケモンの事とかで聞きたい事があったら、オイラに連絡して。色々教えられる事は多いと思うよ」 「解った。……僕、ゲンタ君と戦えて本当に良かったと思う」 「オイラも同じ気持ちだよ……ナオカタウンはここから48番道路を通ってすぐの所だ。 オイラとも馴染みがある、ひこう使いのアオイがジムリーダーをやってる。オイラもアイツには梃子摺ったなあ……」 「ひこう使いのアオイ……」 ユキナリは次に戦うだろうジムリーダーの名前を知った。どんなジムリーダーが相手でも、負ける事は許されない。 (先に進みたいんだ!夢に向かって……)
ユキナリはコエンをボールに戻し、ユウスケを呼びに行った。 数時間後……ユキナリは戦いを見れなかったので詳しい事は解らなかったのだが、とにかくユウスケも勝ったらしかった。 ゲンタはまた苦笑いしており、ユウスケの手にはバッチと技マシンが握られていたのだ。 「ユキナリ君、センターに行って技マシンを預けてこよう。それぞれ専用のパソコンを、フタバ博士が用意してくれているハズだから」 「じゃあ……一旦、お別れだね」 「何時か、また戦う時があったとしたら、その時はまた全力でぶつかってくれよ!オイラだって意地があるんだから!」 「うん。勿論だよ!」 2人は自転車を引いてコヤマタウンのポケモンセンターに向かった。その後姿をゲンタが見送る。 「ユキナリも、ユウスケも、強いな……何時か、リーグではあの2人も敵同士だ。そう……2人の前に来た、あの男みたいに」
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ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ− ( No.10 ) |
- 日時: 2011/03/02 20:13
- 名前: 夜月光介 ID:33lzPbz2
- 参照: http://chiba.cool.ne.jp/kinokohonpo/sirokuro.html
- 第2章 1話『疾風』
「やっぱり、強いですね。私の想像を遥かに越えてましたよ……」 「俺も、もう1度最初からやり直したくなったんですよ。ただの登山家としての自分を捨て、今度は最強のポケモントレーナーを目指すってね。 ……弟との約束なんです。リーグで絶対に戦うと」 「そうなんですか……シオガマシティは結構遠いですよ。気を付けてください……また会えたら、戦いましょう」 既にジムリーダー2人目を倒したホクオウ。その手には、2つのバッチが握られていた。 (ユキナリ、兄としての意地だ。……リーグでは、絶対に負けはしない!山と同じだ。絶対に登りつめてみせる!)
ユキナリとユウスケはコヤマタウンを後にする前に、技マシンを自分達のパソコンに納めに行った。 自転車をこいでセンターに到着すると、早速パソコンの前に向かう。 「フタバ博士が用意してくれた僕達専用の倉庫だよ。 ユキナリ君と僕とでそれぞれ個別にスペースが用意してあって、ポケモンと技マシンや色んな道具をしまえる様になってるんだ!」 「へえ……」 ユウスケはまず見本を見せようと、パソコンの前に座った。椅子に座り、キーボートを叩く。 「ユキナリ君のパスワードは『HOKUOU』だよ。僕は……別に教えなくてもいいか」 (兄さんの名前か……ホクオウ。) ユウスケが自分用のパスワードを打ち込むと、音声アナウンスが入った。 『ポケモン預かりですか?道具預かりですか?』 「道具預かりのポイントをマウスでクリック、と……」 すると画面が切り替わり、ある人物が現れた。 『やあユウスケ君。僕の作った道具預かり所へようこそ』 「これ、ホンバ助手じゃないか!」 「うん、これはあくまでもプログラムだけどね」 ホンバ助手はトーホクのフタバ博士の助手をしている人物だ。顎鬚を生やし、肩には色んな研究道具の入ったバッグがある。 短パン・サンダル姿と言う非常に動きやすい格好をしているが、このトーホクで何故そんなにラフな服装をしていられるかは謎である。 「この技マシンを転送するんだ。隣に転送装置があるから……」 確かに、パソコンの隣には相当大きな装置らしき物があった。一言で言うとすれば巨大な掃除機の吸い取り口っぽいモノだ。 ユウスケはそこに技マシンを放り込んだ。技マシンは飲み込まれ、パソコンの画面に『破壊光線の技マシン』と表示される。 「取り出したい時にはこのポイントをマウスでクリックするだけ。簡単でしょ?」 ユウスケは自分のモードをログアウトした。 「今度は、ユキナリ君の番だよ」 ユキナリは椅子に座ると、さっき教えられたばかりの自分の兄の名前でもあるパスワードを入力した。 そしてユウスケと同じ作業をし、ログアウトした。 「ね、別に難しくもなんとも無いでしょ?頻繁に使っていこうね!」 「うん。……そう言えば、僕等、朝から何も食べてないんじゃない?」 その途端、お腹が思いっきり音を立てた。 「ゲンタ君とのバトルに夢中だったからね……カビゴン、かなり強かったから焦っちゃったよ……」 そう言うとユウスケは溜息をついた。 「お金が無いと、大変だなあ……モンスターボールも買えないし……」
その時、センターの外の方から叫び声が響いた。そして哀願する声、怒号…… 「ど、どうしたんだろう。表で何か声が……」 「ユキナリ君、行ってみよう!」 外に出ると、粉雪舞う中、1人の男性がモンスターボールを手に持って走り去っていく。しかもその姿は異様だった。 全身が薄い灰色のタイツに包まれており、変なサングラスをかけている。しかも、ツノみたいな物まで頭から生えていた。 「な、何アレ……」 「解んない。けど怪しすぎるよ……」 「クソ、待ってくれ。待ってくれ!」 その後から中年の男性が息を切らせて走ってきた。 「ワシのブルちゃん、ブルちゃんが誘拐されたぞ!」 (さっきの奴は、泥棒か!) 2人はすぐ合点し、自転車で先程の恐ろしく怪しい男を追いかける事にした。自転車を走らせると、またあの全身タイツの男の背中が見えてくる。 (おかしい……絶対おかしい人だ!) 「ユキナリ君、2人で通せんぼするんだ!」 2人は意外と足が速い男の前を通り過ぎ、自転車を横にして壁を作った。男は寸前で足を止める。 「くそッ貴様、どかんか!」 「人のポケモンを強奪しましたね!」 「それが何だと言うのだ。我等カオスに、誰のポケモンなどと言う言葉は無い!全てのポケモンはアズマ様の奴隷なのだ。覚えておけ!」 「許せない……ユキナリ君、とにかくポケモンを取り返さなくちゃ!」 「うん、解った。行くぞ、コエン!」 ユキナリは咄嗟に手にとった紅蓮のボールを投げた。コエンが出現する。 「コエン、あのタイツ男をこらしめるんだ!」 『え?……無理ですよ!僕等ポケモンは、人間に攻撃する事は禁止されているんです!』 「そんな……」 「クックック……貴様達、カオスの部下とも言えどその力は一般トレーナーを遥かに上回っているのだぞ。捕まえたばかりのブルーも俺のポケモンだ!」 男は横を向いた。……ユウスケがカレッキーを待機させている。コエンとカレッキーが男を睨み付けていた。 「……アズマ様、ゴメンナサイ!」 彼は逆方向に逃げようとする。しかし、中年男がすでに追いついていた。 「ブルちゃん、ワシの大事なブルちゃん!!」 限りなく変態に近い顔をしているオヤジだった。 「イヤアアア!」 涙を流して男は地面にへたりこんだ。肩まで雪が積もっている中年男は、ボールを奪い返した。 「おーブルちゃん、大丈夫だったでちゅかー?すぐ、お家へ帰りまちょうねー」 不気味な光景に2人は目の前が真っ暗になる。 (僕達、何でこんな争いに首を突っ込んじゃったんだろう……) (解んない。でも今すぐ逃げたい気持ちでいっぱいだ) へたりこんでいる全身タイツ男も血の気が引いている。中年男は頬擦りしながらボールのスイッチを押した。 (しめた!) その瞬間、とんでもない事が起こった。閃光と共に出てきたブルーはいきなり進化し、グランブルとなって中年男に襲い掛かってきたのである。 「ひええええっ!」 「フハハハ、ウイルスに見事ひっかかったな!今や我々の科学力はボールにウイルスをしこみ、ポケモンを凶暴化させるが出来る! しかも、もうその凶悪グランブルは俺のモンだ――!」 コエンとカレッキーを見下ろす程巨大なグランブル。グランブルは中年男を食いちぎろうと迫ってきた……
『俺達がいるッスよ!』 『ユキナリさん、早く命令を!』 カレッキーとコエンはグランブルを止めにかかった。ユキナリとユウスケも慌てて命令を下す。 「コエン、鬼火だ!」 「カレッキー、はっぱカッターを出せ!」 背中に攻撃が当たり、グランブルはうなりながら振り向いた。その表情からは殺意しか感じ取れない。 「やっちまえ、グランブル!」 灰色タイツ男はすっかり一流トレーナー気取りだ。とにかく、この気持ち悪い中年男を助けなければならない。 2人はそれぞれのポケモンで敢然とグランブルに立ち向かった。
『グルルル……』 巨大なグランブルは明らかに通常のグランブルよりも体が大きく、色が黒に近かった。ユキナリはポケギアで確認する。 『グランブル・ブルーから進化したポケモン。牙は鋭く、一撃で敵を仕留める。性格は気性荒く、食べられる物と判断した物は即座に喰らう』 「ユキナリ君、互いに別々の方向に散って、それぞれが敵を牽制するんだ!」 「解った、やってみる!」 カレッキーとコエンはY字型に距離を取った。グランブルはどちらを先に攻撃すれば良いのか迷ったが、まず先にカレッキーに襲い掛かってきた。 「カレッキー、冷たい風で素早さを下げろ!」 『解ったッス、マスター!』 カレッキーは氷の息を吐いた。その風はグランブルに命中し、素早さを下げる。調子が狂ったグランブルはますます怒り、誰彼構わず攻撃を仕掛けようとした。 グランブルにはもうポケモンに攻撃するとか考える思考能力は無い。トレーナーであるユウスケ目掛けて突進してきた。 『マ、マスター!』 カレッキーは助けに向かおうとしたが、間に合わない。その時、コエンが鬼火を当てて敵の注意を逸らした。 『こっちを狙ってください!』 「コエン……」 ユキナリは咄嗟の命令が出なかった事を恥じた。グランブルは白目をむき、泡を吹いて今度はコエンの方へと突進してくる。 「コエン、化かすで相手の動きを封じるんだ!」 『はい、ユキナリさん!』 コエンは幻覚の靄を出現させ、相手を惑わした。どうやら上手くいった様で、グランブルは頭を抱えてうめく。 「どうしたグランブル!もっと攻撃しろ!」 タイツ男はグランブルを叱咤した。いい気なものだ。グランブルは混乱状態になっている。その中で聞こえてくる自分の悪口。 グランブルは牙を向けた。勿論、タイツ男に向かって突進してきたのだ。 「ちょ、ちょっと待って!」 逃げようとするが、男は腰が抜けてしまい立てない。発狂したグランブルはもう目の前にいる物ならば 全て殺してしまおうとしている。ユキナリとユウスケは最後の攻撃を同時に出した。 「コエン、鬼火でトドメだ!」 「カレッキー、冷たい風であの変な男を助けろ!」 まず先に冷たい風がグランブルの足を止め、次に鬼火が体全体にまとわりつく。 グランブルは苦しみ悶え、煙を出してブルーに戻っていった。 「ウ、ウイルスの効果が消えちまった!」 タイツ男は逃げようとしたが、中年男に捕まった。 「よくもワシのブルちゃんを……!」
−御見苦しい場面があります 暫くお待ちください−
数分後、タイツ男は完膚無きまでに叩きのめされていた。 「畜生、お前等さえ邪魔してこなきゃアズマ様に喜んでもらえたのに。覚えてろよお前らああああ!」 タイツ男は覚えてろよと言いつつ逃げた。中年男は倒れているブルーを自分のボールに戻す。 「戦闘不能にしてしまってすみません。でも、こうでもしなきゃ僕達も危険でしたので……」 「いや、いいんだよ。おかげでブルちゃんが正気に戻った。君達のおかげだ。本当にありがとう!」 そう言うと中年男は財布を取り出した。 「この気持ちを伝えられないのが残念だ。すまないが、コレを受け取ってほしい」 そう言うと、中年男は黄金に輝く球を取り出した。 「モンスターボール?」 「いや、きんのたまだ。君達2人にそれぞれ1つずつあげよう。これで何か買うといい」 「ええ?わ、悪いですよ。ねえ?」 「そうですよ、僕達はそんなつもりで助けたんじゃ……」 「いやいや、こうでもしないと私の義理が立たない。頼むから、受け取ってくれ。本当はもっとお礼がしたい位なんだから」 2人は金の球を受け取った。 (ユキナリ君、きんのたまは売ると5000円の価値がある凄いアイテムなんだよ) (ご、5000円!?) 「ワシはポケモン大好きクラブメンバーのリンドウだ。君達には本当に感謝している。 シオガマシティに来た時には是非寄っていってくれ。会長が歓迎してくれると思うよ!」 中年男は何度も頭を下げてその場から立ち去った。 「2人で合わせて10000円も貰っちゃったね……」 「うん。……とりあえず、この球はとっておこうか」 何故か大金をゲットしてしまった2人。ユキナリはモンスターボールをあと3個持っている。他のポケモンを捕まえる気はある様だ。 ナオカタウンへ向かう際、通る48番道路。そこには、47番道路にはいない、新たなポケモンがユキナリ達を待っているのだ。 2人は自転車を走らせ、コヤマタウンからナオカタウンへと向かった。
ユキナリは『青空』、ユウスケは『緑芝』を走らせ、粉雪舞い落ちる48番道路を走っていた。 47番道路と違ってこちらは霜が落ちている草叢だ。少し自転車を走らせにくいが2人は上手に自転車を操って、走っていく。 「ユキナリ君、ここも結構ポケモンがいそうだね」 「しばらく走らせたら一旦自転車を止めて、探してみようか」 「シオガマシティのジムリーダー、ミズキまで使用ポケモンは3体だから、そんなに急いでポケモンを集めなくてもいいよ…… まあでも、図鑑を集める為には必要な事だけどね」 「沢山のポケモンと一緒に戦ってみたいなあ……」 ユキナリは、まだゲンタ戦の気持ちの高ぶりを覚えていた。あの勝利した時の奇妙な快感。 それは、真剣勝負をして勝った者にしか解らない感覚だった。
「鍵をかけてっと……」 2人はしばらく自転車を走らせた後、自転車を草叢の中に止めた。 「ユキナリ君、セカイさんのトーホクぶらり旅の昔の記録、聞いてみたら?」 「48番道路……過去記録が見つかったよ!」 『48番道路か……雪がまた映えるんだよなあ。出現するポケモンは、変種ビードル、変種キャタピー 変種ケムッソ 変種ノコッチ、変種イトマルだ。 虫ポケモンが住みやすい場所らしい。ポケモンは地面に穴を掘って毎日を過ごしてるから、スコップで掘ってみたりすると飛び出してくるかも!』 「虫ポケモンが寒いから土の中に潜ってるのか……」 「ユキナリ君、スコップ無いけどどうする?」 「足で掘ろう、足で」
地面を蹴散らしていくと草叢に土が飛んでいく。 「深い所にいたらイヤだなあ……」 「深い所にいたら、絶対出てこないと思う」 「でも、手で掘ったら凄く汚れるよね」 「ユウスケ、とりあえずポケモンを捕まえる為なら、僕は汚れてもなんとかするよ。だってこれじゃ日が暮れちゃう……」 ユキナリは根性を決めて手で掘り始めた。ユウスケはユキナリから一旦ポケギアを預かり、綺麗な手で『ユタカのヒットナンバーチャート』を選ぶ。 「曲、もう変わってると思うんだけど……」
−疾風−
風になれ 風になれ 風になれ 風になれ 風になれ
どうしても哀しくて涙が出てしまいそうになった時は
胸に手を当てて心落ち着かせ自分を励ましてやれ
怒りで頭の中が真っ白になって 何も考えられなくなった時は
友の顔を思い出し 全てを許してやれ
風になれ 風になれ 全てを切り裂く風になれ
風になれ 風になれ 優しく気高い風になれ
楽しい時は生きている事を喜べばいい
嬉しい時は友と手を取り合い笑い合えばいいのさ
風になれ 風になれ 全てを切り裂く風になれ
風になれ 風になれ 優しく気高い風になれ
風になれ 風になれ 偉大で雄々しい風になれ
風になれ 風になれ 全てを切り裂き悪を打ち砕く
最高の風になってやれ
風になれ 風になれ 風になれ 風になれ 風になれ
風になれ 風になれ 風になれ 風になれ 風になれ
風になれ……
『今週のヒットソングは『疾風』。いい歌だなー。勿論今回もずっとこれでOK!ループ最高!!』 「この歌の遭遇率アップは……98%!凄い確率が高くなったよ!」 「ユウスケ、しばらく流してて。とにかく探さないと……!?」 急に土の中からポケモンが飛び出してきた。 「キシャー、キシャア……」 チロチロと舌を出し、尻尾を振るポケモン。その身体の色は純白で、胴体から小さい羽が生えている。 「ユキナリ君、ノコッチだよ。ノコッチ!」 ユウスケは今預かっているポケギアの図鑑を聞かせた。 『ノコッチ・人前にはあまり姿を見せないポケモン。口から毒液を出し、身体を噛まれると意識を失う。 牙には猛毒が含まれている。ドンファンを一撃で倒す程の毒らしい』 「何のタイプなんだ?」 『どく・こおり』 「どくタイプか……結構強そう……」 「ユキナリ君、ボールだよ、ボール!」 ユキナリは汚れた手でボールを投げた。中から出てきたのは変種ジグザグマだ。 『お前、何でそんなに手が汚れてんだよ……あっ!俺のボールが汚れちまったじゃねえか、後で洗えよ、キチっと!』 「解ったってば、それより今はノコッチを捕まえる方が先決!」 『絶対洗えよな、忘れてたら承知しねえぞ!』 ジグザグマはイヤな顔をしながら敵に向かっていく。ノコッチは紫色の毒液を吐いてきた。 「どくどくだ!絶対に相手を猛毒状態にする攻撃……」 毒液はジグザグマの全身にかかり、ジグザグマは鋭い痛みを感じた。 『何だ、身体が妙に痛むぞ……』 「どくどくの効果は?」 「毎ターンごとに相手の体力を削っていくんだ。しかもターンごとにダメージが大きくなる!」 「じゃあ、早めに勝負を付けないと……」 ユキナリはジグザグマに命令した。 「ジグザグマ、体当たり!」 ジグザグマは走ってノコッチの身体に体当たりしたが…… 『ウグッ!?』 「お、おかえしだ。あくタイプの技で、ダメージをそのまま相手にも与えてくる!」 自分の強烈な衝撃を自らくらったジグザグマはよろめいた。それでなくとも先程から猛毒のダメージを受けている。 「シャ、シャ、シャ……』 ノコッチはケタケタと笑い、とびかかってきた。 「ジグザグマ、もう1度体当たりだ。今はノコッチも別の攻撃を繰り出そうとしている!」 『勝手な事言いやがって……こっちもキツいんだよ!』 ジグザグマは吼えるとノコッチに向かってジャンプした。2人は互いにダメージを与える。ジグザグマは体当たりし、ノコッチは毒の牙で噛み付いた。 「ポイズンキラー……時折相手を『どく』状態にするけど、それより恐ろしいのはその攻撃力だ!」 「シャ……シャ……」 ノコッチはジグザグマと同時に倒れた。予想以上にダメージを受けてしまったらしい。ユキナリはノコッチに向かってボールを投げた。 モンスターボールはノコッチに当たり、ノコッチは吸い込まれる。そして……捕まった。 「ジグザグマ、ありがとう。ノコッチが仲間になったよ!」 『へっ、やっぱり俺がいないとダメだろ……』 ユキナリはジグザグマをボールに戻した。 (ジグザグマの攻撃力が飛躍的に向上している……底知れぬ実力だ。僕も頑張らなくちゃ……) 「ノコッチは主に相手をどく状態にしていたぶる典型的なサドポケモンだよ。攻撃力もかなり強いし、作戦の要にしてもいいポケモンだね」 「ノコッチ……これから、よろしく」 ユキナリはノコッチが入っているモンスターボールを握った。またボールが汚くなる。 「ジムに行く前に絶対手を洗っておいた方がいいよ!」 「解ってるってば!はあ……ポケギアはもう暫くユウスケが持っててくれる?」 「OK、もう少し他のポケモンも探してみようよ!」 その時、ポケギアが反応した。電話の様だ。ユキナリはユウスケが持っているポケギアに耳を近づける。 『ポケモン捕まえてる?オイラだよ、ゲンタ!』 「ゲンタ!どうしたんだい?」 『いや、ひこうタイプのアオイについてちょっとオイラから言っておきたい事があってさ』 「そう言えばそもそもひこうタイプって、どんな感じのポケモンなの?」 『おいおい、タイプの事位全部知っておこうぜ……アオイが使ってるのはひこうオンリー。ひこうは鳥みたいなポケモンが多いな。 いわには弱いけど、むしやかくとうには強いよ。あとでんきとかには弱かったかな』 「でんき……」 『ナオカジムはもともとアオイがジムリーダーを務めてる所じゃ無かったんだ。 本当はアオイの兄貴がやってたんだけどさ、兄貴が四天王として旅立ってから1人でやっと後継者になれたんだよ』 「四天王?」 『トーホクじゃ無いけどね。確か……ジョウト四天王だって聞いた。トビオって奴だ。オイラも小さい頃いろいろ世話になったよ』 「へえ……」
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ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ− ( No.11 ) |
- 日時: 2011/03/09 21:47
- 名前: 夜月光介 ID:lzvx9GZs
- 参照: http://chiba.cool.ne.jp/kinokohonpo/sirokuro.html
- 第2章 2話『フルサトの育て小屋』
『トビオは凄かったよ。ジムリーダーになる前はトーホクのリーグチャンピオンだった……』 「チャ、チャンピオン!?」 ユキナリは度肝を抜かれた。 『でも、リーグ王座の座を奪われてナオカタウンのジムリーダーに抜擢されたんだ。 ナオカタウンは鳥ポケモンが人と共に暮らしてる街だから、ひこうタイプの王者トビオには居心地の良い場所だろうって……』 「じゃあ何で、四天王になったの?」 『……足を骨折して、2度と自分の足では歩けなくなってしまったからさ。ハンググライダーで空を飛ぶ楽しみも奪われてしまった…… トビオは失意のうちにジムリーダーの肩書きを妹に譲り渡して……でも、その時偶然にもジョウト四天王に1人空きが出来たんだよ!』 「その空きに入れたんだ……」 『最初は、周囲の反対も多かったらしいよ。車椅子の四天王なんてイメージが損なわれるって奴が沢山いたからね。 でもジョウト四天王チャンピオンのアカギが、その反対意見を押し切って、スカウトしたんだ。 トビオはジムの全権をアオイに譲り渡して、ナオカタウンを出て行ったよ。もう、トビオとアオイはなかなか会えないんじゃないかな。遠すぎるから……』 「大変だったんだね……」 『オイラも色々アオイに相談されたよ。兄貴を過酷な場所に戻していいのかってね。 骨折した足はかなり痛んでいたから、四天王の職務そのものが非常に困難だったんだ。でも、トビオはそれを聞き入れなかった。 まだトレーナーとしてのプライドを捨てたワケじゃ無かったんだ。 一時は自殺しようとまで考えてたみたいでオイラも慌てたけど、やっとアイツも生きる道が見つかったんだ。良かったなって思ってる』 「そうだったんだ……」 『アオイは今も兄貴の意志を継いで、鳥と一緒にハンググライダーで大空を飛んでるよ。トーホクの空は常に雪が降ってて危ないけど、アイツは止めない。 何時か、兄貴の二の舞になってしまうんじゃないかって囁かれてるよ……ハンググライダーの事故だったんだからね。視界が極端に悪くなったせいで……』 「そう言えば、時々雪の降る量が極端に多くなる日が時々あるよね……それで?」 『足の骨折の原因がハンググライダーじゃ、アイツもホント救われないよね。まあ、ユキナリだったらアオイに勝って、バードバッチをゲット出来ると思うんだけど』
「ねえ、そろそろ話をストップしてよ。僕、この体勢でポケギアを差し出してるのは辛いんだからさ……」 ユウスケの腕が震えている。ユキナリは慌てて話を切り上げた。 「そ、それじゃあ。そろそろ……」 『OK、コッチに来る事があったら何時でも寄ってくれよな。また、勝負しようぜ!』 ユウスケはポケギアの電話機能をOFFにした。 「随分長く話してたね」 「ゴメン。重要な話だったから……」 「確かに、僕も聞いたけどかなり暗い話みたい」 「今はジョウトの四天王か……初めてなのかな。車椅子の四天王って言うのは」 「うん、本当はリーグ四天王の資格項目の中にそれもあるんだ。足を骨折してるなんて、普通は絶対四天王になれないハズなんだけど…… よっぽどそのトビオさんが強いんだろうね。チャンピオンだった実績もあったみたいだし」 そう言うとユウスケはユキナリにこう頼んだ。 「ところで、僕もポケモンを捕まえたいんだけど……ユキナリ君もう手が汚れるだけ汚れてるんだから、僕の為に掘ってくれない?僕、ちょっと土は苦手で……」 ユキナリはユウスケとは長い仲なので、彼の言っている意味が解った。 ユウスケはあまり免疫の無い体質だし、そもそもユウスケにやらせては電話がかかってきた時にポケギアを汚してしまう事になる。 ユキナリは頷き、早速地面をまた掘る事にした。
「どう、出てきてる?」 「うーん、さっきのノコッチも偶然だったかもしれないしな……捕まえられたのも、だけど」 ノコッチもジグザグマも先程の戦闘でボロボロになっていた。ノコッチはほぼ戦闘不能、ジグザグマは瀕死。 体力を回復し、現在無傷なのはコエンとハスボーしかいなかった。 「とにかく、何時出てきても戦える様に先にユウスケのポケモンを出しておいた方がいいと思うよ」 「そうだね……いけ、ボタッコ!」 ボールを投げると緑色のボールからボタッコが飛び出す。 『ユウスケ、仲間を探してるの?』 「うん、今ユキナリ君に追い込んでもらってる所なんだ」 (追い込み漁に似ていなくも無い作業だからねぇ……) ユキナリはせっせと手で土を掘った。しかし掘れども掘れども虫ポケモンはいっこうに出てこない。 「手が痛くなってきたよ……地面も冷たいし」 「もう少し、出来たらでいいからやってみて」 「うん……ユウスケ、なんか僕が運が良かっただけじゃない?」 ユウスケはその言葉で不安になった。 (いや、ユキナリ君と同じだ。僕だって、そろそろ新しいポケモンをゲットしなきゃ……)
『ユウスケ、もうユキナリに掘らせるのよそうよ……このまま掘ってたら手が凍っちゃうって……』 ユキナリの手は寒さの感覚を失い始めていた。このまま霜のついた冷たい地面を雪の降る中で掘り続けていたら大きなダメージを受けてしまう事は確実だ。 「あと1分、あと1分でいいから……」 「ユウスケもポケモンをゲットしたいって言う気持ち、僕にも解るよ。だってまだ3匹で充分なんだよ?それなのにユウスケに時間を取らせて…… 僕はもう少し掘ってみる。ポケモンが出れば……うわっ!」 「ポケモン!?」 草叢の上に出現したのは体が青紫色に近い白色をしている、小さなむしポケモンだった。頭にツノが生えている。 キバを剥き、キーキー鳴いているそのポケモンはクモの様な身体をしており、足が8本あった。 『イトマル・獲物の小さな虫を探して野を駆け巡るポケモン。寒さには強く、地面に隠れて冬を越す虫ポケモンを捕まえて食べてしまう』 「むしポケモンだね……属性は?」 キーキー鳴いたままのイトマルにポケギアを向けると、『むし・こおり』と言う言葉が画面に出てきた。 「むしか……まあ、当然だよね」 「ジョウトで発見されたイトマルは『むし・どく』タイプなんだ……きっとどくの技も使えるんだろう。ボタッコ、注意して攻撃してよ!」 『僕だって、やる時はしっかりやるんだよ♪』 ボタッコはイトマルに向かって勢いよく飛び出した。のしかかろうとしたが、逆に先手を取られてしまう。 「ボタッコ、避けてからのしかかりだ!」 しかし、素早い攻撃になす術もなくボタッコは捕まってしまった。 『うわっ、何コレ……糸?』 変種イトマルは口から大量の糸を吐き出していた。ボタッコはその糸に絡め取られてしまう。 『ちょっと、待って……!』 「いとをはく攻撃をされたんだ!」 「いとをはく攻撃って?」 「相手の素早さを奪う技だよ。でも、何かひっかかるな……」 「何が?」 「いや、ただ糸を吐いてる様には見えないんだ。ボタッコ、とにかくイトマルの攻撃射程から一旦離れて!」 『うん、解った……ぐえっ!』 「イトマルが相手を糸で締め付けてる!」 見事な連携技だった。糸でボタッコを絡めとリ、素早さを奪ってからその糸をきつく縛りつける。 全く身動きが出来ぬままボタッコだけがダメージを受けていた。 「早くボタッコに命令を出して、あの糸から逃げないと……」 「うん、解ってる……でもあれじゃ体当たりも出来ないよ!」 『く、苦しい……』 ポケギアを見るとボタッコの体力は少しずつだが確実に減ってきている。このままでは何も出来ぬまま戦闘不能になってしまうだろう。 しかし、野生のポケモンを捕まえる為に2匹のポケモンを使う事はしたくなかった。 (僕と1匹のポケモンの実力でイトマルを捕まえなきゃ、イトマルを仲間にする権利なんて無いんだ……) ユウスケは歯を食いしばり、叫んだ。 「ボタッコ、その体勢のまま、イトマルに飛び込んで体当たりして!」 『このまま……?そうか、解ったよ!』 ボタッコはダメージを受けている痛みをこらえて、縛られた状態のまま力を振り絞りジャンプした。 糸を引っ張っているイトマルに対して、縛られたままタックルする。身体にその攻撃は見事に命中した。 「キー、キ、キー……』 イトマルは体勢を崩し、締め付けている糸を思わず緩めてしまう。しかもよろけたせいで無防備な状態になってしまっていた。 「よし、糸を抜け出して、のしかかりだ!」 ボタッコはそのスキをついて糸の中から抜け出し、イトマルに強烈なのしかかりをくらわした。 イトマルはよっぽど強い衝撃を受けたのか、痙攣したまま動かない。しかし戦闘不能では無かった。 「キー、キー!」 イトマルは苦し紛れに『どくガス』を使ってきたのだ。紫色の煙で視界を遮られ、ダメージを受けるボタッコ。 しかもそのせいでイトマルは体勢を立て直し、再度攻撃をしようと糸を吐いてきたのだ。しかしどくガスは2匹のどちらの視界も奪っていた。 普通はイトマルから離れて出すハズの毒ガスを近距離で吐いてしまったからだ。 「ボタッコ、巻きつかれるなよ!」 ユウスケからも2匹の姿はまるで見えなかった。ガスが晴れ、視界がきく様になったボタッコの首に糸が巻きつく。 『ク……クソッ……』 グイグイと首を締め付け、窒息させようとしてくるイトマル。このままではボタッコが戦闘不能になってしまう。 「ユウスケ、僕のハスボーで助けなきゃ……」 「ボタッコ、気合でなんとかするんだ!」 「ユ、ユウスケ。一体……?」 「ユキナリ君。僕だって、人の手を借りずにやり遂げたいんだよ!頼ってばっかりじゃ、成長なんかしない。そうだろう!?」 ボタッコは意識が遠のきながらも、なんとか抜け出せないかと必死にもがいていた。ギリギリと絞められる痛み。 コレで終わりか……その瞬間、何故かプッツリとイトマルの糸が切れ、ボタッコは地面に倒れこんだ。
「君達、ポケモンは大丈夫かい?」 格子模様のチョッキを着込んだ、茶髪の男性が声をかけてきた。口の周りに濃い土色のヒゲが生えている。 白い軍手をはめており、その手には鋭いナイフが握られていた。灰色のズボンをはいている。 「す、すみません……」 『ハア、ハア……』 ゼーゼーと荒い息を吐き、倒れこむボタッコ。 「全く、トレーナーのポケモンに悪さをするとは、とんでもない奴だ。このバカもの!」 イトマルは怒鳴られ、オドオドした。 「ついてきなさい。お詫びしよう……このイトマルは野生のイトマルなんだが、私が子供の様に育てているポケモンなんだ。 こうして、時々外へ出てイタズラするものだから、ほとほと困り果てているんだよ……」 「おじさんがボールで捕まえたポケモンじゃ無いんですか?」 「ああ。だから、トレーナーに捕まえられてしまうかもしれないだろ?見張っていないと大変なんだ。 こうして外に出るのは危険なんだと、教えても教えても好奇心で外に出ては他の野生のポケモンと戦いあっているんだからなあ……」 彼は溜息をついた。かなり大柄で、山男を彷彿とさせる。 「私の名前はフルサト。ナオカタウンで育て親父の仕事をしている。イトマルは私の大事なパートナーなんだ」 「パートナー、なんですか……」 ユウスケはバレない様そっと、溜息をついた。ユキナリがそれをなだめる。 (まあまあ、もし捕まえてたら大変だったよ。知らないうちに、罪を犯す事になったんだからね) 「?マルボー、首輪はどうしたんだ?」 「キー、キー!」 「すまないが君達、私と一緒にコイツの首輪を探してくれないか。もしもの用心に、首輪を付けさせているのだが、草叢で落としたらしい……」 「じゃあ、ナオカタウンからここまでの道に落ちている事になりますね」 「そうだろうね。君達に手間をかけさせてしまって申し訳無いが……」 「大丈夫ですよ。ユウスケ、落ち込んでないで、イトマルの首輪、探してあげよう!」 「うん……」 捕まえようとしたポケモンが実は他人の物だった為、ショックを隠し切れないユウスケだった。
数分後、青紫色の首輪が見つかった。早速変種イトマルの首にかけてやると、とてもよく目立った。小さく『育て親父の家所属』と書かれている。 「すまなかったね。私の家に来てくれないか。手間をかけさせてしまったし、君達のポケモンに怪我をさせてしまったしね……」 その表情は誠実そのものだった。 「何か凄く優しい人なんだね……」 「うん、あんなににこやかな顔をしてる人、初めて見た」 人に媚びる様な不自然極まる笑顔では無く、自然に出る唇の端がちょっと上に上がる程度の微笑みだった。 「マルボー、行こうか」 「キ、キー!」 フルサトの肩に乗っかると、イトマルは楽しそうに鳴いた。 「ホントに珍しいよ……野生のポケモンが人間に慣れてるなんて……よっぽど信頼されてるんだね」 「ユウスケ、あれが人とポケモンとの理想の形なのかもしれない。でも、僕にはあんな事……」 いや、出来ないワケでは無い。恐れているのだ。記憶を奪って友情を作った。もしコエンが本当はユキナリの事を嫌っていたりしたら…… そう思うだけで、顔が青ざめるのだった。 自転車に乗ったまま歩きのフルサトについていくと、綺麗な街並みが見えてきた。ナオカタウンだ。 「ポケモンセンターに行って、回復させなきゃ……」 「私の家でも出来るよ。私の家に来てくれないか。お詫びに……と言っては何だが、お願いしたい事があるんだ」 (お詫びに……お願いしたい事?) よく意味が飲み込めなかったが、2人はそのまま彼の経営している『育て親父の家』に行ってみる事にした。 草叢を抜けるとそこは広い大きな円の土地で、綺麗な家がそこかしこに並んでいる。 遠くの方には切り立った大きな断崖絶壁があり、そこに少し降る雪が積もっていた。 「私の居場所、ナオカタウン!今日は少し雪が強いみたいだな。ちょっと急いだ方がいい。雪だらけになる前にね」 ユキナリは空を見上げた。先程より少し空が白から灰色に変わり始めている様だが・・・ 「ユキナリ君、このままだとちょっと風が強くなるかも……降雪量も増えると思うし、早めにフルサトさんの家に入った方がいいと思うよ!」 「そっか……じゃあ、申し訳ありませんが少し休ませてください。雨宿り程度でいいんです」 「急いだ方がいいよ。私も走るから、全力で自転車をこいでいけばすぐ着くさ!」 風が強くなっていくのがハッキリ解る。2人は自転車のペダルを強く踏み、ナオカタウンの北側、出口に近い『育て親父の家』に向かって走り出した……
育て親父の家は、丸太で構成された小屋だった。慌てて自転車を裏手に停め、急いで小屋の中に入ろうとすると、フルサトは自転車を小屋の中に入れる様に言った。 「大丈夫さ、私の小屋には自転車を停めるスペースが用意されているからね」 ドアを閉め、小屋の隅に2台の自転車を置くと、2人はようやく休む事が出来た。ゼーゼー荒い息を吐きながら、その場に倒れこむ。 「ハア、ハア……ペダル相当早く漕いだよ……」 「うん……ホント、疲れた……」 「ハッハッハ……こんなの、このナオカタウンじゃ慣れた事だよ。ちょっと来てくれないか。この奥に私が預かっているポケモン達がいるんだ」 2人はそれぞれ肩を寄せ合い、なんとか立ち上がってフルサトについていった。
「ここが、飼育部屋だ。ポケモンのレベルを上げて、持ち主に返す時にお金を貰うのが私の商売。でも、中には預けたまま取りに来ない人もいる……」 中には沢山のポケモンがいる。小さいガルーラの子供や、水槽で浮いているメノクラゲ。 ボール遊びをしているパウワウなど、本当に沢山のポケモン達がそれぞれ好きに遊んでいた。 「このクロバーなんだけど……」 そう言うと、フルサトは若草色をした小さなポケモンを指差した。 「もう期限限界の1年をとっくにオーバーしてるんだが、取りに来ないのさ……預けた人がね。私は1年後、この子のレベルを上げるのを止めた。 それは私の責任問題でもあったからね。この家はリーグ公認の商売をしてるから、1年以上育てるのは厳禁なんだよ。 それに本当は、期限が切れたモンスターは野生に返さなくちゃいけないんだ」 「じゃあ、どうして野生に戻さないんですか?」 「預けてきた人がいたからさ」 「預けてきた人……?」
「あれは、夏のちょっと涼しい日の事だった。雪もパラパラとしか降っておらず、気候は非常に穏やかな時、私の小屋に女性が訪ねてきたんだ。 『ナオカタウンから引越しする時に、この子は連れて行けないって言うの……だから、暫く預かってくれない?すぐに取りに行くから!』 「1年以内に来てくれれば何時でも渡せるよ。その代わり、お金は払ってくれるね」 『うん、勿論!』 クロバーを預けた女性は、そのまま去っていってしまった……」
「そして数年が経ち、彼女はクロバーを放棄した事になる。このクロバーはもう、野生のポケモンと同じ扱いなのさ…… でも、私はコイツを野に放す気にはなれなかった……トレーナーに、心の優しいトレーナーに、引き取ってもらおうと思って、こうしてずっとリーグにも内緒で隠していたんだよ」 「バレたら……」 「大変な事になるさ、きっと……だからこそ急ぎたいんだ。確か君はポケモントレーナーだね?」 「はい、そうですけど……」 ユウスケは頷いた。 「さっきイトマルと君のボタッコが戦っていた。きっと、イトマルを捕まえようとしていたんだろうね。それは大事にならなくて済んだ ……しかし、君は納得出来ていないだろう。だからこそ、君へのお詫びに、責任を持ってこのクロバーを育ててほしいんだ」 「僕が、このクロバーを?」 「どうやら、あの女性は各地を親の都合でまわっていたらしい。このクロバーはトーホクの生まれでは無いしね。 その証拠に色が全然白くない。『くさ・ひこう』と、こおりの属性も入っていないんだ」 「くさ……僕の好きなタイプだ……」 「ユウスケ、どうする?そのクロバーを、受け取るの?」 ユキナリも真剣な表情で聞いてきた。ユウスケはまだ決めかねる様で、相当悩んでいたが、結論に達した。 「……おじさん、僕……そのクロバーを『預かる』よ」 「え?」 「僕が預かるんだ。何処かでその人を見つけたら、必ず僕が返しておくよ。それでいいでしょう?」 「……君がそうしたいのなら、そうした方がいいだろう。とりあえず、クロバーは君の手に渡る事になるね」 フルサトは、クロバーをボールに戻すと、ユウスケに渡した。 「ロックを解除しておいたから、トレーナーは君名義になっているよ。大事に扱ってくれ」 「ハイ!」 責任重大だった。これはまだユウスケのポケモンでは無い。『誰かに返さなければならない』ポケモンなのだ。 「ユウスケ、大切にしなきゃダメだよ」 「解ってる……僕のポケモンは、一応これで4匹。ジムの4人目に挑戦出来る権利があるって事だよね……」 「君達はリーグを目指しているのかい。でも、難しいな……ココのジムリーダーは相当強いよ。そのクロバーと同じ、『ひこう』タイプのリーダーだ。 空中戦を挑まない限り、勝ち目は無い。君達は鳥ポケモンに対抗出来るポケモンはいるかい?」 「コエンは空中に向けても攻撃が出来ます。でも、ジグザグマは無理か……直接攻撃しか出来ませんから」 ユキナリはジム戦に向けての心の準備など、まだ全然出来ていなかった。
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ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ− ( No.12 ) |
- 日時: 2011/03/22 20:00
- 名前: 夜月光介 ID:nuVHHbLI
- 参照: http://chiba.cool.ne.jp/kinokohonpo/sirokuro.html
- 第2章 3話『カオスの暗躍』
2人が小屋に来てから、30分以上の時が過ぎた。 「やはり、雪が強くなってきたな……」 外を見ながらフルサトはそう呟く。 「ユキナリ君、ユウスケ君。今夜はここに泊まっていきなさい。今外に出るのはかなり危ないだろうからね」 ユキナリ達は、その言葉に甘えさせてもらう事にした。 「夕食は私が作ろう。君達は小屋の中にいるポケモン達の面倒を見ててくれ。頼んだよ……」 そう言うと、フルサトは奥の部屋に向かい、2人の視界から消える。 「沢山ポケモンがいるんだね……」 小屋の中には様々なタイプのポケモン達がいた。レベルを上げる為に他のポケモンとバトルしているポケモンや、玩具で遊んでいるポケモン。 絵本を読んでいる頭のいいポケモンもいれば、寝ているぐうたらなポケモンもいた。 「僕達も混ぜてもらおうか」 一心不乱に戦っているポケモン達の輪の中に、ユキナリはボールを投げた。さっき捕まえたノコッチの入っているボールだ。 『おう、お前が俺様のマスターか。これから宜しく頼むぜ、俺様1匹いるだけで、バトルの流れが変わっちまうからな。ケケッ……』 「これから宜しくね、ノコッチ」 『おうおう何だその戦い方は。まるでなってねえぜ。俺様が相手してやる。かかってきな!』 「随分口が悪いポケモンだね……」 「ま、まあどくポケモンだからかもしれないけど」 ユウスケはちょっとイヤな顔をした。気が弱い彼にとって、口五月蝿く、威圧的な声は嫌いなのだ。 戦っていたポケモンの1匹がノコッチに近づいてくる。ユキナリは手を洗わせてもらっていたので、自分の手でしっかりポケギアを持ち、『コミュニケーション』を開いていた。 向こうのポケモンも誰かは知らないが『飼い主がいるポケモン』なので、機械的な声が聞こえる。 『自信たっぷりだな。その言葉、本当かどうか俺が試してやろう……』 ノコッチの体長の2倍はあると思われる白い体のポケモンが立ちはだかった。腹や耳にクリーム色の模様がある。 「ザングースだ。どくタイプのポケモンが相手だと敵無しと言われてる勇猛果敢なポケモンだよ!」 ユキナリは図鑑を見てみた。 『ザングース・ハブネークと言うヘビ型ポケモンとは宿命のライバル同士。縄張り争いを繰り広げ、互いに数を減らし、繁栄してきた。 強い攻撃力を持つ子孫を残す為、その力は時が経つと共に増大していく』 『相手がヘビなら容赦しねえ、この爪で切り裂くだけだ!』 『生意気な口を叩きやがって、後で後悔するなよ!』 試合開始の言葉も無しに、突然2匹は互いに飛び掛った。 「ちょ、ちょっと待った!まだ相手の特殊能力も調べてないのに!それに命令は僕が……」 『すまねえなマスター。こいつとの戦いは俺の力で勝つ……何故だか解らねえが、因縁めいたものを感じるんだ』 「ユキナリ君。ザングースはどくポケモンには容赦しない。それにヘビ型なら尚更だ……命令を聞く前に倒されちゃうよ。 ココは、ノコッチに任せてみた方がいいんじゃないかな……」 「……解った。ノコッチも、ジグザグマに似てるな……ちょっと口が悪すぎる気もするけど」 ユキナリは一応ポケギアでザングースの特殊能力を確認しておいた。すると…… 「!?こ、この特殊能力って……これじゃ最初から勝負にならない!ノコッチ、戦いを止めるんだ!」 しかしノコッチは聞いていない。ザングースの喉に噛み付き、猛毒を注入する。 『ケケッ、俺様の毒液が体の自由を奪うのさ!』 『お前は何も解っていないな……相手を考えてバトルをしないと、待っているのは『敗北』だけだ』 ザングースは何事も無かったかの様にノコッチを弾き飛ばした。ノコッチは受身を取り、再度噛み付こうとする。 しかしザングースは鋭い爪でノコッチを切り裂いた。その衝撃でノコッチは小屋の壁にぶつかってしまう。 『き、効いてねえのか……?』 「ユキナリ君、ザングースの特殊能力は……」 「うん、今見たよ……ノコッチには悪いけど、ノコッチがザングースに勝つのは無理だ……絶対に!」
『ザングースの特殊能力・たいないけっせい……相手の『どく』タイプの攻撃を無効化する。また、絶対に『どく』状態にならない』
ノコッチはなんとか立ち上がった。既にフラフラになってしまっている。 『相手がこの俺だと言う事が不運だったな。そのまま一気にカタをつけてやる!』 ザングースは爪を立ててノコッチに襲い掛かろうと走り出した。 「コラ、何をしている!預かり所のポケモン……つまりお前達は人様のポケモンと対戦出来ない決まりだろう!」 シチューの皿が乗ったお盆を両手に持ったままのフルサトがザングースに向かって激昂した。 『ちょっと待ってくれ。俺が勝負を始めたんじゃない。あのノコッチが俺を挑発してきたんだ!』 「そうなのかい?ユキナリ君」 「僕達、そんな決まり知らなくて……ゴメンなさい」 ユキナリとユウスケは素直に謝った。 「そうか……私が言っておかなかったのも悪かったね。 リーグの決まりはコマゴマしていて覚えるのが大変かもしれないけど、リーグに挑む人達は必ず覚えておかなくちゃならないマナーだから、覚えておいておくれ」 「ハイ……」 「よし、戦いは終わりだ。皆、飯の時間だぞー!」 フルサトが呼びかけるとさっきまでぐうたらに寝そべっていたポケモンもいきなり起きだしてフルサトの周りに集まってくる。 「君達にはシチューを用意しておいたよ。沢山鍋に残っているから、遠慮せずに食べてくれ」 夕食……ポケモン達は特別な『全ポケモン愛用フード』を食べ、フルサトと2人はシチューを食べていた。 「そう言えば、君達は何処から来たんだい?」 「シラカワタウンから来ました」 「シラカワ……トーホクのポケモン発祥地と言われているゆかりのある街だね。 私も一度行ってみたいんだが、何せリーグではこういう仕事をしている者は他の街に行ってはいけないと言う決まりがあるんだ…… だから、この仕事を始めた時から私はこの街の発展しか見ていないのさ」 「大変ですね……」 「ポケモンと言っても、この街では鳥ポケモンが多いからね。強いトレーナーと言ったら、この街ではアオイ君位しかいないんじゃないかな」 「ジムリーダーか。まだ、会ってないよ……」 ユウスケはユキナリの方を見た。 「明日、落ち着いたら行ってみよう。ひこうポケモンがどれ位強いのか、まだよく解ってないし……」 『ジムリーダー戦では是非俺を使ってくれよ。さっきみてえなヘマはしねえからな。ケケ……』 「あ、ノコッチをボールに戻してなかった!」 ユキナリは一心不乱にフードを食べ散らかしているノコッチをボールに戻す。 和気藹々とした食事も終わり、今夜はここに泊まらせてもらう事になっていたので、2人は寝室に案内された。 「ココは来客用寝室。勿論、今日は誰も来ていないからココで休んでいくと良い。シャワー室は隣にあるから好きに使ってくれ。私は、失礼させてもらうよ……」 フルサトは大きな欠伸をして自分の部屋へと向かった。残された2人は明日の事について話し合う。 「アオイさん……か」 「具体的な戦い方がまだ決まってないよ……どうすれば空を飛ぶポケモンに勝てるんだろう?」 「上からの攻撃は避けにくいからね。ヒット&アウェイで、攻撃に来た所を叩くしかないよ。もしくは、無理やり地上戦に持ち込ませるとかね」 「そんな事、出来るかな……」 「とにかく、戦ってみなきゃ解らないよ」 2人は深い眠りについた……
雪が強い深夜、ナオカタウンは風の音しか聞こえない。凍りついた井戸も、静寂を保っているかに思われた。 しかし突然、井戸の中から大勢の人間が姿を現す。 「セイヤ様、街の連中は皆寝入っております。今が絶好のチャンスかと……」 「解っている。我等が希望アズマ様の為に、奴隷となるポケモンを調達しなくてはな……」 井戸から出てきた金髪の青年は、暗闇の中でニヤリと笑った。青年の他に、沢山の全身黒タイツの男達が井戸を登って這い上がってくる。 数年前から使われなくなった古い井戸に彼等は目をつけたのだ。 「行動に移れ!」 手下達は素早く闇に消えていった。 「お前達には勿体無い。カオスが有効利用してやるのだ。ありがたく思うんだな!ハハハハハ……」
翌日……雪は止みはしなかったが、天候は落ち着いた。ユキナリは朝起きるとシャワーを浴び、荷物を持ってユウスケと小屋の居間に向かう。 昨日、ポケモン達がココにいたが、彼等はもう外で元気に走り回っていた。2人の前に、フルサトが姿を現す。 「やあ、もう起きたのかい。今、朝食を作り始めた所なんだ。ついでなんだし、ジムに行く前に食べていきなさい」 「朝食まで?い、いや、悪いですよ!」 ユウスケは慌てて手を振った。 「遠慮する事は無いさ。ここはリーグ挑戦者の疲れた体をほぐす為の場所でもある。来客用寝室って言うのも、実は君達みたいな子供達が使うんだよ…… もっとも、大人が来る事自体が少ないって事でもあるんだけどね」 机の上に用意されたのは、朝食に相応しいツナのサンドイッチとバナナ、コップに入った牛乳だった。 「バナナはおやつに入らないって言うよね」 「ま、そうだけどさ……主食って感じじゃ無いよね。デザート?……かな」 ユキナリとユウスケは朝食を食べる。やはり旅の途中、暖かい心の支援があると元気が出るものだ。 数十分後、朝食も後片付けも終わり、2人はフルサトと一緒にジムへ行こうと出発の準備を始めていた。 「重い荷物だね……大丈夫かい?ウオマサ高原までこれを背負っていくなんて」 「自転車がありますから……それに、街に着いてから休める場所はきっとあるハズです。ゲンタやフルサトさんに出会って、それが充分解りましたから」 「そうだね。私も、君達が何処まで勝ち進んでいくのか楽しみだよ。ここにいても、リーグの様子は確認出来るからね」
「フルサトさん!大変です。ナオカタウンの人達のポケモンが……」 突然、入り口からパイロット帽とゴーグルを付けた水色の髪の女の子が3人のいた居間に飛び込んでくる。 ユキナリとユウスケよりは少し年上と言った印象で、ゲンタとは3歳か4歳離れていそうだ。 「皆、皆行方不明なんです。見つからないって……街中大騒ぎになってます!」 「な、何だって!?」 「ユキナリ君、ポケモンがいなくなったって!」 「とにかく、フルサトさんについていこう!」 急いで外へと飛び出したフルサトについて、ユキナリとユウスケは自転車を小屋に置いたまま、走り出した。
「アオイ君、皆の状態は?」 「ヒステリックになってる人とか、穴を掘ってる人達とか、街中に響く様な大声を出してる人とかで…… とにかく皆、自分達のパートナーが突然消えちゃったって、大変な事に……」 「そうか……私の所は、厳重に鍵をかけておいたし、ポケモンが逃げ出す心配は無かったんだが……ポケモンが集団で失踪するとは考えられない」 (アオイ……?この女の人、もしかして、ジムリーダーのアオイさんなのかな……) 走っていたので、ユキナリの思考能力はあまり上手くは働かない。4人で走っているので、まるで息が機関車の煙が後ろにたなびいているかの様だった。
アオイを先頭に、フルサト、ユキナリ、ユウスケは人ごみの近くに集まる。 「物凄く人が集まってるね……」 「皆、自分達のポケモンが心配なんだよ……」 まだ雪が降っていて肌寒い朝だと言うのに、彼等は気が気では無い様子だった。沢山の人間が名前を呼び、それぞれが何と言っているのかさえ解らない。 「皆さん、落ち着いてください!」 フルサトは街の皆が見える位置に立って全員に話しかけた。 「フルサトさん!一体どうなっちまったんだこれは!」 「私のとこのエンジェルちゃんも今朝いなくなってたのよ?」 「とにかく!」 フルサトは皆を静めた。 「私の育て小屋のポケモン、たまたま小屋で泊まった2人の少年のポケモンは1匹も欠けていません。 それに、皆さんの家にいるポケモンが、突然集団でいなくなる事などありえない!」 (さっき、僕とユウスケとフルサトさんとでジム出発の準備をしてた時に、フルサトさんにポケモンの体調を診てもらってたんだっけ……) 傷ついたノコッチやジグザグマ、ポッドに入れて回復させてもらった事をユキナリは思い出した。勿論、今もボールは4個、ちゃんと持っている。 「何者かが、いえ集団が……勝手に泥棒をしたのかもしれません。昨日の夜は風も雪も相当強かったし、暗闇で外を歩く人などいなかった。 手当たり次第に人の家にあがりこんで、ポケモンを盗んでいく事が出来たかもしれないのです!」 「そんな、一体誰がそんな事を!」 「でも、フルサトさんの言う事も一理あるわ。もしそうじゃなかったとしたら、急にポケモン達が集団夢遊病にでもなったりしたと言うの? それに、モンスターボールの中に入れていた家のポケモンも、ボールごと無くなっていた。ボールは勝手に消えたりしないでしょう!」 住民達はそうだそうだとフルサトの意見に賛成した。 「フルサトさん、街の皆から信頼されてるんだね……」 「そうですよ」 「えっ?」 ユウスケがそう呟いた時、隣に彼女がいた。少し大人びた綺麗な顔……でも少し哀しそうな顔。アオイは微笑むと、フルサトの方を見た。 「フルサトさん、トビオ兄さんがリーグに行ってしまって1人ぼっちになってしまった私のサポートをしてくれているんです。 別に大丈夫ですと言っているんですけど……あの人、誰かが泣くのが嫌いな人だから……他人の幸せが自分の幸せみたいな…… 神様みたいな人なんです。正義感もあって、皆があの人を信頼しています」 「へえ……やっぱりフルサトさん、優しいんだなあ」 「あの、ポケモントレーナーの方ですよね?」 「はい、ユウスケって言います。ユキナリ君と一緒に、トーホクリーグに挑む事になって……旅をしてるんです」 「旅……いいですよね。私も外へ出れたらなあ……ジムリーダーの仕事も難儀ですよね。兄さんの所へも行けないなんて……」 アオイは空を見上げた。 「今も、兄さんは空を飛んでいるんです。きっと……」 ユウスケもつられて空を見上げたが、雪と雲しか見えなかった。
ユキナリはフルサトと住民達の声に混じって、何かくぐもった声がするのを耳にした。耳を澄ますと、それは地下の方から聞こえてくる様な声だ。 (よし、急いで済ますんだ) (セイヤ様に怒られたら、ただじゃ済まないからね……) (何処からだ?何処から聞こえてくるんだ?) ユキナリは全神経を集中させた。フルサトは街の広場みたいな所に立っている。その後ろに見える凍り付いた井戸……そこから聞こえてくる気がした。 「あの、声が聞こえませんか?」 「五月蠅い位聞こえるよ。私もどうすればいいのやら……」 「そうじゃなくて……そうか。フルサトさん、皆を静かにさせてください。皆のポケモンが戻ってくるかもしれないんです!」 「解った。皆さん、ちょっと静かにしてくれませんか。まあそう焦っても解決しません。落ち着いて、冷静にこの事件の対策を考えてみましょう!」 躍起になっていた住民達も、確かにそうだと心を落ち着かせていく。静かになると、ユキナリにはハッキリ聞こえてきた。 ユウスケにもアオイにもフルサトにもだ。 (よし、送ったポケモンは今何体だ?) (41匹です。あと数分もすれば、全てのポケモンを基地に転送する事が出来るでしょう) (なかなかいいな。送ったらもうこの街に用は無い。今日の夜にでもここを抜けて別の街へ向かうとするか……) 「井戸からだ!井戸から声が聞こえてくるぞ!」 「誰かいるんだ、井戸の中に!」 ユキナリ達は井戸の周りに集まり始めた。
井戸は凍り付いていて、人が降りられる様な梯子などはついていない。しかし中が氷に包まれているので、音がよく響き、声が聞こえたのだ。 「とにかく、中に人がいるみたいです。それも大勢。街の皆のポケモンを奪ったらしい会話をしてますよね」 「ああ、奴等を倒して早く皆のポケモンを取り返さないと……だが、私はポケモントレーナーでは無い。 中に入るのにポケモンを持っていないと危険だ。誰かが井戸の中に入らななければ……」 「僕が行きます!」 「ぼ、僕も!」 ユキナリとユウスケが名乗りを挙げた。 「私も、皆さんのポケモンを取り返したい!」 アオイが確固たる決意を述べ、手を挙げた。 「そうしてくれるとありがたい……だが、この井戸から安全に下に降りられなければ、どうしようも……」 「下にいる人達は井戸から出てきて、井戸に入っていったんです。私達も井戸から降りるしかありません。こんな風に!」 アオイはそう言うと、井戸の中に飛び込む。 「あ、アオイ君!怪我でもしたらどうするんだ!」 「ユキナリ君、僕達も早く行こう!」 「そうだね、グズグズしているワケにはいかないよ!」 後を追って、ユキナリとユウスケも井戸の中に入った。 「……大丈夫かなあ……」 フルサトも井戸の中に入ろうとしたが、彼はガッシリとした体型で、しかも身長が高い為、入ろうとすれば詰まってしまうだろう事が予想出来た。 「無事を祈るしか無いのか……」 フルサトや住民達は井戸の中に飛び込んでいった3人の事を心から心配し、見守っていた。
一方、井戸はパイプの様になっていて、滑り降りて無事に3人は地面に着地していた。 「誰かが改造したんですね。地下基地になっちゃってます」 広い部屋だった。向こうに廊下が見える。 「水が出なくなった井戸だから、丁度良いと思ったのかもしれないね」 「とにかく、ポケモンがここにいるのなら、早く助け出さなきゃ!」 廊下はT字形になっていた。アオイはそれを見るとユキナリ達に指示を出す。 「ユウスケさんとユキナリさんは右へ、私は左へ行きます。二手に分かれれば、それだけ早くポケモンを探せるハズです」 「解った、僕達は右の道へ行ってみる!」 アオイは素早く駆け出し、廊下を曲がって見えなくなってしまった。 「まるで鳥みたいに早いんだね……」 「僕達もうかうかしてられないよ、探さなきゃ!」 2人は廊下を右に曲がり、突き当たりの広間へ出た。そこにはタイツ姿の男がいた。 コヤマタウンで騒動を起こした男に似ているが、サングラスとツノの色が違う。タイツも白に近い灰色だった。 「ん?何だお前等。不法侵入者だな?このアジトに気付くとはなかなかやるじゃねえか。しかーし!ここから先へは通さねえぜ!」 タイツ男はモンスターボールを取り出した。漆黒のボールに金色の文字で『COS』と言う文字が刻まれている。 「ユキナリ君、戦うしか無いみたいだね……」 「大丈夫さ、あの時みたいにすぐ勝てる!」 2人はお互いにポケモンを取り出した。その時、別の戦闘員が到着する。どうやら体のラインから見て女性らしい。サングラスの色も赤かった。 「なーにしてるのよ、アンタ。あら?可愛い坊や達じゃない。ポケモンバトルは1対1の方が燃えるわよ!」 「こいつら、このアジトに勝手に入ってきやがったんだ。セイヤ様にバレる前にさっさと追い出さねーと……」 「加勢してあげるわ、行くわよ、坊や達!」 女性のカオス隊員はボールからエネコロロを出した。男性の方はゴルバットを出す。 「ここで負けたら、皆に迷惑がかかる……負けられない!先に進むんだ!」 ユキナリはボールを投げた。
「クソ、可愛い顔してやりやがるな……」 「ナオカタウンの人達が持っているポケモン達を保管している場所は何処ですか、答えてください!」 アオイは自慢の鳥ポケモンで既に戦闘員の1人を撃破しており、彼に詰問をしていた。 「へっ、保管もクソもあるかよ。今頃お前達ナオカの住民のポケモンは、カオスの本部に送られてるハズさ!」 「な、何ですって!?」 「ポケモン達を集めてこの組織の力にする……それがカオスのやり方だ。文句を言うのはまだはえーぞ!」 (どうしよう……早く見つけないと手遅れになる……それに、ここで合っているのかどうかも解らない。 ユキナリさん達の方に転送装置があるのかもしれないし……) アオイは上手く事が運ばない事に対して焦りを感じていた。
ユキナリとユウスケはさらに奥へと進んでいく。 「あの2人、見かけ倒しと言うか、そのまんまだったね。」 「早く倒せて良かったよ。ポケモン達は……何処にいるんだ?」 2人は奥の扉に入った。中に入ると、そこには巨大な転送装置と1人の青年が立っていた。 金色の髪に冷たい目。水色のゴーグルをはめており、部下とは違って濃い深緑色の服を着ていた。 「なんだ、お前達は……そうか、街の連中だな。もう遅い。すでに奪ったポケモンは全てホウの管理している本部へ送った。 我々も今しがた引き上げようと思っていた所だ……ご苦労な事だな」 「そんな、なんて酷い事を!」 「酷い?ポケモンを愛している者に言われたくは無いな。お前達は真実が見えていないのだ。ポケモンがどんなに凶暴で残虐で愚かしい生き物なのかを……」 青年は吐き捨てる様に呟いた。 「私はセイヤ。カオス3幹部の1人だ。この街にもう用は無い。そこを退かぬと言うのなら、力でねじふせるだけだ……来るなら来い!」 「ユキナリ君、戦おう!」 「よし、ポケモンバトルだ!」 「フ……仲間意識を持たぬ私と道具であるポケモンに勝てるかな?勝つ為には手段など選ばん。お前も、ポケモンを人間の仲間として見るのなら忠告する。 それは間違った答えだ。それを……教えてやる!」 セイヤは懐から真っ黒に輝くモンスターボールを取り出すと投げた。閃光と共にモンスターが出てくる。 ユキナリもモンスターボールを投げた。最初に選んだのは……ノコッチだ。 『マスター、このポケモンとバトルするのですか?』 「ああ、私は命令はせん、勝手につぶせ」 セイヤはそう言うと近くにあった椅子に腰を下ろす。 (何なんだ?この希薄な関係は……まるでトレーナーがポケモンに信頼を寄せていない!) セイヤが出してきたポケモンはストライクだった。素早い速さで翻弄し、風の如き勢いで斬りつけてくる虫ポケモン。通常のストライクより色が白い様だ。 「ストライクの特殊能力は何だ?」 『しゅんそく・ターンごとにすばやさが上がっていく。そのかわり上がりきるともうすばやさは上がらない』 『貴様か……私と戦うポケモンとやらは。随分己の力量をわきまえていないらしいな。チビでは無いか!』 ノコッチはカチンときた。頭に血がのぼる。 『何だとテメー、お前なんかすぐにこの猛毒の牙で倒してやるよ!かかってきやがれ!!』 試合開始の合図はユキナリが出した。 「ノコッチ、かみつく攻撃!」 『おう、俺もそうしようと思ってた所だ!』 ノコッチは牙をむいてストライクに噛み付く為跳躍する。そのジャンプの軌道は正確で、おまけに速かった。 しかしストライクは肩にかみつこうとしているノコッチを軽くあしらうと、腕の刃物で斬りつけてくる。 ノコッチはその一閃をのけぞってギリギリで避けた。後ろに倒れるとすぐさま体勢を立て直す。今の攻撃をまともにくらっていたらかなり危険だった。 真っ二つにされかねない勢いだったからだ。 「くだらん……」 腕を組み、足を組んで戦いを凝視しているセイヤはあくまでも氷の様に冷たかった。まるで感情など無いかの様にただ冷静にストライクを見ている。命令もしない。 『この野郎!』 「ノコッチ、ポイズンキラーだ!」 ノコッチはかみついてから強力な毒を牙から相手の体内へと注入する技をかけようとしたが、またも攻撃をかわされた。 相手の動きが攻撃をかける度に速くなってきているのだ。 「ユキナリ君、素早さが上がってるんだよ。なんとか位置を予想して攻撃しないと……」 (相手が逃げる前に攻撃しなくちゃダメか……) 「ノコッチ、もう1度ポイズンキラーだ!」 ノコッチはもう一度飛びかかる。ストライクは、この攻撃を避けてきりさく攻撃をし、相手の攻撃を封じようとまた動きを見せた。 「今だ!そこで飛びかかる方向を変えろ!」 ノコッチは空中で落ちる位置をずらした。加速し始めたストライクの右肩に、ノコッチの牙が勢い良く刺さる。 『くっ……』 ストライクの全身に痛みがまわった。毒を注入されたのだ。ノコッチはそのままかみつくを連発する。 『離せ、離すんだ!』 『やなこった、テメェは随分自信過剰だったけどよ。それならしっかり攻撃してみろってんだ!』 ストライクは肩にかみついているノコッチを振りほどこうとするが、痛みと毒による精神混乱のせいで、うまくノコッチを払い落とす事が出来ない。 だんだんHPが減ってきている。このままでは危険だった。ストライクは体を回転させると、その遠心力でノコッチを強引に振りほどく。ノコッチは地面に倒れ込んだ。 「ノコッチ、そのままとどめをさすんだ!」 既にノコッチの攻撃を振りほどいたはいいものの、毒のせいで自慢の素早さも発揮出来ていない。フラフラで視界もきいていない様だった。 ノコッチは今がチャンスとばかりにストライクの足にしがみつく。 『な、何を……するッ……!』 『楽にしてやるよ。立ってるの、面倒だろ?』 「ノコッチ、かみつく攻撃!」 ノコッチはストライクの片方の足にくらいつくと、そのままストライクのバランスを崩させ、無様に地面に倒れさせた。 痙攣しながら泡を吹き、青い顔で気絶しているストライクにもう偉そうな言葉は言えなかった。 「ほう、私のストライクを倒すとは……だが、私も道具には最高の物を用意している。次はどうかな?」 セイヤはまた真っ黒なボールを取り出すと投げた。ユキナリとセイヤの戦いは加熱していく……
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ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ− ( No.13 ) |
- 日時: 2011/03/24 14:53
- 名前: 夜月光介 ID:2eicVjYM
- 参照: http://chiba.cool.ne.jp/kinokohonpo/sirokuro.html
- 第2章 4話『激闘・蠢きのセイヤ』
セイヤが次にフィールドに出してきたのはバタフリーだった。白い羽を上下させて空中を飛んでいる。 『ン?君がボクの相手をするノ?てんで勝負にならないナ。ボクはずっと上にいるかラ、戦いたいなら飛んできなヨ』 そう言いながらバタフリーは天井近くを飛んでいた。 「バタフリーの特殊能力は何だ?」 ユキナリはポケギアで相手の特殊能力を確認した。 『はばたくつばさ・常に風を起こしているので、ねむりごな・しびれごな・どくのこななどの粉系の技は効かない』 「ノコッチにはそんな技もともと無い!ノコッチ!ポイズンキラーで相手の体力を奪うんだ!」 『上に行ってやるよ、そしてボロクズにしてやらぁ!』 ノコッチは天井までジャンプする事が出来る。そのまま飛び上がろうとしたのだが…… 『うッ……何だ?体がビリビリして動けねえ……』 ノコッチはそのまま動きを封じられてしまった。 「ユキナリ君、あれ!」 ユウスケがバタフリーの方を指さした。何とバタフリーの体から『しびれごな』が出ているでは無いか! 「高度な戦い方というのは、こういう戦い方の事だ。自分は戦わずして相手を倒す。美しいだろう……」 セイヤは座ったままノコッチをあざ笑った。 『マスター、攻撃を始めますカ?』 「好きにしろ、どちらにせよコイツはお前の獲物だ」 バタフリーは上空でしばらく考えていたが、念には念を入れる事にする。 「ノコッチ、何とか動くんだ!粉の攻撃を避けないと……」 『ケケ……ヤバイな。俺も解ってるんだけどよ。粉の攻撃だと気付くべきだったな……ZZZ……』 「ねむりごなだ、相手を数ターン眠らせる技だよ!」 バタフリーはゆうゆうと降りてきて、何の抵抗も出来ないノコッチを痛めつけた。一方的な試合展開になりつつある。 「良いぞ!ポケモン同士の醜い小競り合いは……何時見ても胸がスカッとする。獰猛で、どうしようもない生き物には、やはりこの様な野蛮な戦いがピッタリだ!ハハハ……」 セイヤはポケモン全体に対して激しい憎悪の思いを持っているらしかった。ポケモンに対する気持ちも、彼にとっては『駒』にしか過ぎないのだろう。 「ノコッチ……」 バタフリーは吸血で相手の体力を削っていた。ノコッチの方は眠りながらみるみる弱っていく。このままでは戦闘不能どころでは済まない。 ユキナリはボールを握りしめた。 「戻れ、ノコッチ!」 ノコッチの敗北だった。バタフリーはゆうゆうと空へと戻っていく。 「ユキナリ君、あの上空からの粉攻撃をなんとかしないと、バタフリーには勝てないよ……」 (どうすればいいんだ……どうすればあんな上空で攻撃出来る?僕にそんなポケモンがいるのか?) 「フフ、お前達のポケモンもカオスの発展の為に役立ててやろう、ありがたく思うがいい!」 セイヤは高笑いをした。
一方、別行動をとっているアオイの方は、来た道を戻り、反対側の方へと向かっている最中だった。 (やっぱり、あっちだったんですね……ユキナリさん達大丈夫かな……私も早く加勢しないと……)
「ユキナリ君、次に出すポケモンは何にする?」 「やっぱり……遠距離攻撃の出来るハスボーかな。素早さに問題があるけど、ジグザグマを出したら確実に攻撃する事が出来ない……ハスボーにするよ」 ユキナリはモンスターボールを握りしめた。 (ポケモンは仲間だ。僕とポケモンのコンビネーションがあってこそ、勝利を掴む事が出来る。 ポケモンを道具としか見ていない人になんか、負けるワケにはいかないんだ!) 「行け、ハスボー!」 フィールドに出現したハスボーは、キョロキョロと辺りを見回していた。どうやら、相手が何処にいるのか解らないらしい。 『ね、ねえ。僕が戦う相手が見えないんだけど……』 「君の頭の上にいるよ」 ユキナリの指さす方向に目を向けると、そこには空中でゆうゆうと旋回しているバタフリーの姿が見えた。 『攻撃、届くかな……』 「解らない。でも、出来るだけの事はやってほしいんだ。君と僕とで出せる力は全部出し切ろう」 『うん……解った!』 セイヤは傍観を決め込んでいた。あくまで勝手にポケモンを動かすのが彼のポリシーらしい。つまり、セイヤは『主従関係』すら求めていないのだ。 彼にとってポケモンとは『使えるモノ』でしか無い。命令を出す事も、励ます事もしない。ただ、奴隷として出したポケモンを勝たせる…… その為に、彼は憎いポケモンを敢えて持っているのだった。 『また、僕の勝ちかナ?フー、フフフ……』 バタフリーは気持ち悪い笑い声を出すと、また上空からしびれごなをばらまき始めた。 「ハスボー、出来るだけ走ってこなを避けるんだ!」 しかし、井戸の中は無風なのでハスボーの上にバタフリーがいれば、ほぼ100%の確率でこながハスボーの体に触れてしまう。 『これじゃ、逃げるだけだよ!攻撃させて!!』 「でも、攻撃しようとしたらこなを受ける様なものじゃないか!」 『攻撃出来るだけマシだよ、攻撃しなきゃ勝てないんだ!!』 ユキナリはハスボーの言葉が正しいと思った。 「ユキナリ君、とにかく攻撃して、バタフリーの動きを止めるんだ。はばたきを止めるだけでも戦況は大きく違ってくる!」 「ハスボー、みずげいで攻撃するんだ!」 ハスボーは上空に向かって水を散布した。ハスボーに粉をまく為に移動していたバタフリーは、真上からの攻撃をまともに受けてしまう。 『うッ……羽が濡れたラ、粉が撒けなイ……』 バタフリーの羽は乾いている。羽の部分に水が当たると、乾いた粉を撒けなくなってしまうのだ。しかも、浮力を失う為、飛ぶ事が困難になる。 バタフリーは落ちない様、必死でバランスを保とうとした。落ちたら好き放題攻撃されてしまうからだ。 勿論、しびれごなを散布する事は出来なかった。一方、みずげいを真上から発射したのが功を奏して、ハスボーは粉を受けずに済んだ。 ヨロヨロと飛んでいるだけで精一杯のバタフリーに向けて、さらに水を当てる。 「いいぞ、ハスボー!そのままみずげいを続けるんだ!」 マスターであるユキナリの嬉しそうな声を聞いて、ハスボーはさらに水の勢いを強くした。 (僕が頑張れば、マスターが喜んでくれるんだ……僕も、勝てば勝つ程強くなれる!) 「ハスボーの戦闘能力が上昇している?……信じられん、こんな馬鹿な事が……」 セイヤはゴーグルでポケモンの力量を見る事が出来た。確実に、ハスボーの力が増大している。それは、一種の『やる気』そのものだった。 『ク……やるナ、でも、僕だって追いつめられれば本気を出すんダ!』 バタフリーはバランスを崩して落下した。HPは残り僅かだ。ハスボーはバタフリーにとどめをさそうと近づく。 ユキナリは何かを感じた。不吉な予感がしたのだ。 「待て、ハスボー!不用意に近づくと危険だぞ!」 『フー……』 とどめをさそうとしたハスボーに対して、バタフリーは息を吹きかけた。その途端、ハスボーは急に痛みを感じてうずくまってしまう。 『あれ……変だな、体が、痛い……』 ユキナリはバタフリーの使える技をポケギアで確認した。 『むしのいき・むしタイプのポケモンなら殆どのむしポケモンが覚えている技。自分のHPが少なければ少ない程与えるダメージが大きくなる。 瀕死に近いポケモンがむしのいきをすると、相手に与えるダメージは相当なものになるのだ』 「むしのいき……バタフリーはもう倒れる寸前だったから、ハスボーはHPの2/3位を失った計算になるかな……」 「とにかく、とどめをさすんだ、ハスボー!」 ハスボーは痛んだ体をなんとか立て直すと体当たりをした。バタフリーは腹に手痛いダメージを受け、ニヤリと笑うと戦闘不能に陥る。 「ポケモンにしてはなかなか賢いでは無いか……これで、私がお前のポケモンを倒すチャンスが増えた事になる。 私の持つ最後のポケモンは、お前達が簡単に倒せる様なものでは無いぞ!」 セイヤはまた真っ黒なモンスターボールを投げた。フィールドに出現したのは、ミノムシに羽が生えた様なポケモンだった。 白い息を吐き、パタパタと真っ白な羽を振っている。 「何だろ、僕も見た事が無いや……ユキナリ君、ポケギアの図鑑であのポケモンの事調べてくれない?」 「解った……虫ポケモンなのは解るけどね……」 セイヤは虫ポケモンの使い手なのだとユキナリはようやく気付いた。何故かこだわりがある様だ。 『ミノガー……トーホクにしか生息していないこおり・むしタイプのポケモン。柔らかい体は雪の寒さに耐えられないので、体に草や木の枝を貼り付けて冬眠する。 ミノッチと言うポケモンから進化』 「へえ、こおり・むしタイプのポケモンなんだ……ミノムシみたいなのにそのままの姿で飛んでるのは結構面白いね……」 「とにかく、ハスボーに頑張ってもらわなくちゃ。この人が持ってる最後のポケモンだ。切り札の強さがある……絶対、油断はしない!」 「貴様等いっぱしのポケモントレーナー風情が、カオスにたてつこうなど100年早い!それを、身をもって教えてやる……!!」 セイヤは歯をくいしばっていた。予想以上のトレーナーの強さに内心動転しているらしい。 ミノガーとの戦いが始まろうとしていた……
「試合開始!」 セイヤはまた命令はせず、ミノガーを出したまま椅子に座っていた。ミノガーはパタパタと羽を動かしたまま、動いていない。 「ハスボー、みずげいでミノガーに攻撃するんだ!」 『解った、でも、もう限界が近いよ……』 ハスボーはミノガーに水をかけた。ところが、ミノガーはHPを減らされてもいっこうに動こうとはしない。 パタパタと空中に浮いたまま羽を動かしているだけで、全くハスボーに攻撃してこないのだ。 (どうして、ミノガーが攻撃してこないんだ?……ポケギアで確認しても、ミノガーのHPはみずげいで確実に減っている…… このままじゃ、何もしないで負けてしまうだろう。何を考えているんだ?) しかしセイヤは不敵な笑みを浮かべたままミノガーを見つめるだけだった。 「ユキナリ君、攻撃してこない今がチャンスだよ!一気にたたみかけよう!」 「OK、ハスボー……このまま一気に倒すんだ!」 『うん……出来るだけやってみるよ!』 ハスボーは攻撃してこないミノガーに、みずげいを続けた。ポケギアで確認すると、ミノガーのHPはどんどん減っている。 どうしてミノガーは攻撃してこないのだろうか。なおもハスボーの攻撃は続く。セイヤは黙って見守るだけだ。 既にミノガーのHPはどんどん減り、風前の灯火と化してしまっている。 「ハスボー、とどめの一撃をさすんだ!」 ユキナリはポケギアを見て、ミノガーが次の攻撃で倒れるだろう事を知った。 「これで、終わりだ!」 『僕だって……やる時はやるんだからね!』 ハスボーはみずげいを止め、体当たりで最後の一撃をくらわそうとミノガーに迫った。 その時……急にミノガーの体が美しく光り出し、ハスボーは凄まじい衝撃を受け弾き飛ばされてしまう。 『な……何だろう?どうして……』 「ククク……ミノガーの特殊能力、それは回復と同時に攻撃する点にある!回復技で回復する瞬間、相手を葬り去るのだ!」 セイヤはハスボーを指さし、指を下に降ろした。 「終わりだ……」 『ウ……ゲフッ!』 ポケギアの画面は異様だった。ミノガーが体力を回復した分だけ、ハスボーのHPが減り、ハスボーが倒れてしまったのだから。 「これが、ミノガーの特殊能力……」 『いたみのおかえし・相手から受けたダメージを回復する時、回復したHPの量だけ相手にダメージを与える』 「ユキナリ君、ミノガーは自分からは攻撃出来ないんだよ、きっと……ダメージを受けないと攻撃が出来ないんだ!」 「ご名答。だが、それが解った所で何になる?攻撃をしなければ私のポケモンを倒す事は出来ない。 しかし、ダメージを受ければ私のミノガーは回復し、お前のポケモンを倒すのだ……完璧な戦い方だろう?」 セイヤは椅子に座ったまませせら笑った。それは、冷たい悪魔の笑いだった。 「ユキナリ君……ポケモンは?」 「コエンだ……何時も、絶体絶命の状況を乗り越えてこれたのはコエンがいたから……今回もそう。コエンと一緒に、この戦いを終わらせる!」 紅蓮に燃えるボールを握りしめて、ユキナリは誓った。 (負けるワケにはいかない……相手がゲンタ君なら、まだ負けても諦めがつく気がする……でも、こんな酷いトレーナーに負けたら、僕自身の正義が、終わってしまうんだ!) 「行け、コエン!」 ハスボーはすでにボールに戻っていたので、フィールド上にはコエンとミノガーが睨み合う状況が起こっていた。 「私も……負けられないな。アズマ様に誓った。中途半端な正義を振りかざす者に負けると言う事は、我等カオスの名折れとなる……私自身も誓った。 お前は解っていない!敗北を知って初めて、私のポケモンを憎む気持ちが伝わるのだ。お前が……カオスにひれふす時、それが解る!」 ポケモンを憎む心……何故彼がそこまでしてポケモンに憎悪の念を抱いているのか、ユキナリには解らなかった。 ただ1つ解っている事、それは……彼等がナオカタウンの人々のポケモンを勝手に誘拐し、何かに使おうとしていると言う事だ。 「セイヤさん、貴方は間違っています!僕達は貴方に勝つ事でそれを証明したい。ポケモンは、パートナーだからこそ最高の力で戦えるんだ。 氷の心だって、きっと砕いてみせますよ!!」 『ユキナリさん……属性的には有利です。むしタイプはほのおタイプの得意とする所ですからね。でも、何だか気になるんです。 あのヒト、さっきから全然動いて無いんですよ……』 「すぐに解るさ、とにかく……まずは攻撃しないと!」 ユキナリとコエンはミノガーと戦う。セイヤの悪の心を打ち砕く為に、彼のポケモンを倒さなければならないだ……
その頃、アオイは邪魔をしてくるカオスの下っ端をポケモンで蹴散らし、丁度ユキナリ達がいる部屋の手前まで来ていた。 「ハア……ハア……弱い人達とはいえ、何度も勝負すれば体力を消耗しますよね……私に、ポケモンバトルを続けて出来る程の精神力があれば……」 アオイの相棒である鳥ポケモンも、HPを消費し、ボロボロになってしまっていた。とにかく、街の皆の為にユキナリ達と合流しなければならない。 アオイは奥の扉を開けた。それは丁度ユキナリ達がいる部屋へと続く扉だった。
「試合開始!」 ユウスケの言葉と同時にフラフラになったアオイが部屋の中に飛び込んでくる。 「アオイさん!今まで、どうしてたんですか?」 「ユキナリさん達が向かった方向が正しい事に気付いて、急いでこっちに来たんですけど……遅かったみたいですね」 サッパリしてしまっている部屋の中を見渡して、アオイは答えた。肩で息をしている格好だ。 「コエン、相手に反撃のチャンスを与えてはダメだ。混乱させて、その後一気に勝負を決める!」 『思い出しました!このポケモン、前にフタバ博士に見せてもらった事があります。……そう、攻撃を受けないと攻撃出来ないポケモンでしたね!』 コエンは身構えた。『鬼火』を繰り出そうとしたのだ。しかし、身構えた時急に衝撃波がコエンを襲った。 「!?……そうか、ユキナリ君。まだ、ミノガーはさっきの攻撃で体力を全回復していなかったんだ!」 「でも、さっきハスボー戦で相当回復してハスボーにトドメをさしてたから、さほどダメージは大きく無いんじゃないかな……」 事実、その通りだった。ミノガーが体力を全回復したものの、先程回復した量が多かったので、先制攻撃にしてはかなりコエンに与えたダメージ量は少ない。 『クッ……これ位なら、問題ありません!』 「コエン、体力を全回復したミノガーは何も出来ない!『化かす』を使って相手を混乱させるんだ!」 これがユキナリの狙いだった。運任せにはなるものの、確実に相手を混乱させ、むしタイプには効果抜群の『鬼火』で攻撃する。 これだけでバトルの展開はユキナリに大きく傾くハズだ。 「ユキナリさん……諦めないんですね」 「うん……やっぱり、凄いよ。ユキナリ君は。僕なんか足下にも及ばない位の根性がある……」 「私も、見習わなくちゃいけませんね。最後まで、可能性を信じて戦い続ける。それは、兄さんもしていた事ですから……」 アオイはユキナリとセイヤの戦いを凝視していた。一方、何も命令はしないもののセイヤは明らかに焦りの色を見せ始めている。 相手のポケモンがほのおタイプだっただけに、しっかりした対抗策が思いつかない。 (ここでほのおタイプのポケモンが出るとは……しかし、唯一の救いはレベルが低いポケモンだと言う事。 私のミノガーはダメージを受けるとすぐに回復する様調教してある……だが、問題はヤツがどう出るかだ……) セイヤは、コエンが『化かす』を覚えている事を知らなかった。それが、最大の誤算になる。 「コエン、『化かす』を使うんだ!」 すっかりお馴染みになった攻撃方法だが、コエンは気を抜いたりはしなかった。 『かかった後、自滅してくれれば勝機が見えてきますね』 目を閉じ、幻影の霧を作り出し、相手にぶつける。ミノガーがくらったのはダメージ攻撃では無いので、この攻撃ではミノガーは反撃する事は出来ない。 「上手く混乱状態になったみたいだね」 「このままミノガーが何も出来なければ、ユキナリさんが勝ちますけど……もし、反撃してきたら……」 アオイは不安だった。ほのおわざで攻撃すると言う事はそれだけリスクが高い事を意味する。 もし首の皮一枚でも残ろうものなら、ミノガーは迷わず回復し、コエンは大ダメージを受けて即死してしまうだろう。だが、コエンが勝つ為には攻撃するしか道は無かった。 「コエン、ミノガーに向かって鬼火を出すんだ!」 ミノガーは混乱状態になったばかりだ。今なら、充分チャンスがある。ミノガーが何も出来ないと言うチャンスが。 『一撃で倒したいですね……!』 青白い炎を体から放出し、ミノガーに向けて放った。コエンの炎はミノガーの体に付着し、ダメージを与える。 このまま一撃で倒れてくれればどれだけ有難い事だろう。だが……やはりミノガーは倒れはしなかった。 しかも、混乱状態にも関わらず回復してしまったのだ。その瞬間、相手の回復と同時にコエンがダメージを受ける。 『ううっ……!!』 「コエン!」 ユキナリはポケギアをチェックした。ミノガーは殆どゼロの状態から殆ど回復した状態。コエンは本当にHPが極限状態まで減ってしまっていた。 『まだ……です……』 胸を押さえながら立ち上がり、再度炎を放つコエン。一方ミノガーはもう一度少しダメージを受けているHPを回復し、完全にコエンにトドメをさそうとしている所だった。 「立場が、逆転してる……コエンが圧倒的に不利だ!」 「でも、コエンはまだ諦めていない……それに、ユキナリさんのあの表情……諦めていないどころか、勝利を確信したかの様な顔!」 「コエン、僕達は勝てる!そのまま一気に勝負を決めるんだ!」 鬼火は回復しようとしていたミノガーに命中し、体を燃やしていく。むしタイプのミノガーにとって、ほのおの属性技の鬼火は天敵以外の何者でも無いのだ。 「さっき、ミノガーはギリギリまで追いつめられて、回復した。でも、完全に体力を回復出来ていない…… コエンの攻撃を再度受ければ、ギリギリミノガーのHPを……」 ミノガーは炎に包まれて、地面に落ち、動かなくなった。ポケギアがユキナリの勝利を告げている。コエン、残りHP12。本当に逆転に次ぐ逆転を果たした瞬間だった。 ミノガーへの攻撃は本当に奇跡的に倒せた結果だろう。 あと少しでも威力が少なかったら、ミノガーはまた回復し(混乱状態にはなっていたが)コエンは確実に倒れていたかもしれない。まさに紙一重の勝利だった。 「バカなああああ!!」 その瞬間、セイヤが椅子から立ち上がった。 「私が、お前の様な小僧に……負けただと!?何故だ、何故だ!!私はアズマ様に認められた実力の持ち主……それなのに!」 セイヤは激しく激昂し、歯を思い切り食いしばった。 「ユキナリ君、勝ったんだね……カオスの幹部を、倒したんだ!ユキナリ君の実力で!」 「うん……僕、最後まで信じてたから。コエンと僕なら、必ずあの人の『理想』を崩せるって」 「信用……か。お前は解っていない……哀れなものだ。私もお前と同じ考えを持っていた時があった…… ポケモンは真の友であり、真のパートナーだと。ポケモンと人間が手を取り合って暮らせる社会が出来たのならば、素晴らしい事だと思っていた時が……」 「セイヤさん、何が貴方を変えてしまったんですか?貴方のそのポケモンに対する憎悪……何故貴方は、そこまでポケモンを奴隷にしたがるんです?」 ユキナリの悲痛な訴えに、セイヤは微笑んだ。しかしそれは、フルサトがする微笑みとは、明らかに違った微笑みだった。冷たい、戦慄する様な笑顔…… 3人が沈黙する中で、セイヤは1人、自嘲気味に語り始めた……
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ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ− ( No.14 ) |
- 日時: 2011/03/27 22:25
- 名前: 夜月光介 ID:YqbErTyw
- 参照: http://chiba.cool.ne.jp/kinokohonpo/sirokuro.html
- 第2章 5話『光の残影・白騎士ウォリック』
「私がカオスに入る前……今から数年前の出来事だ……私は何の事は無い普通の虫ポケモントレーナーだった。 大学に通い、勉学とポケモンバトルに励み……恋に落ちた。彼女は清楚で聡明で、大学では高嶺の花だった。 だが私は彼女への気持ちを抑える事は出来なかった……自然に彼女と会話し、何度か会う度に私達の距離は縮まっていった。 そして……付き合う様になった。大学を卒業したら、彼女と私は同棲生活を始め、結婚すると誓い合っていた。 どんな時も私達2人は一緒だった。あの、悪夢が起きた時までずっと……」 セイヤのハンサムな顔が怒りに歪んだ。 「私と彼女はポケモンを連れて山登りをした。あの時季節は夏……山に降る雪も穏やかなもので、私達は何の苦労もなく涼しい山頂へ登る事が出来た。 『凄い、海や、私達の住んでる街もハッキリ見える!』はしゃぐ彼女に向かって、私は微笑んだ……その時、黒い影がいきなり彼女を捕まえた。 彼女が空に連れ去られる。私はポケモンを出し、彼女を助けようとボールを投げたのだが……既に手遅れだった。 黒い影がオニドリルだと解った瞬間、彼女は崖下に向かって落ちていったのだ……!!」 セイヤはその光景を思い出してでもいるのか、身を震わせ、涙を流している。 「ポケモンが、私のかけがえの無い恋人を奪った……オニドリルは飛び去り、私は崖下に向かったが彼女は助からなかった…… 叩きつけられた衝撃で、彼女は複雑骨折し、酷い出血を起こして死んでいた。その苦しみと痛みと死など、誰が与える権利があろうか! 私は激昂し、むせび泣いた。何故、彼女が死ななければならないのか、彼女が死んだと言う現実から逃げたい気持ちもあった…… だが、私の心の中では憎悪の念が渦巻いていたのだ!」 セイヤはユキナリを睨み付けた。 「その後私はアズマ様と出会い、共にポケモンへの復讐をしようと誓った。2度と悲劇が起こらぬ様、人間がポケモンを奴隷として扱えば全ては解決する。 野生のポケモンも、人に飼い慣らされたポケモンも同じだ!ポケモンは平気で人間の命を奪う。そんな獣を、人間のパートナーとして扱えると思っているのか!!」 ユキナリは驚愕し、言葉を完全に失っている。彼の言葉に嘘は無い……これ程までの憎悪の理由がハッキリ解った。 恋人を殺された復讐心からだったのだ。だが、ユキナリ自身、ポケモンをどうしても否定する事は出来なかった。 「それでもお前は、ポケモンを信じると言うのか……それも良いだろう。だが覚えておけ。これ以上カオスに関わるな。お前に解らぬ崇高な理想の為に我々は活動している。 首を突っ込むのなら命の保証は出来ん。我等に賛同すると言うのなら、話は別だがな……」 「セイヤさん。貴方の気持ちは、痛い程解ります……でも、ポケモンは道具じゃ無いし、奴隷でも無い! その出来事があったからと言って、ポケモンを酷使するのは人間のする事じゃ無いと思うんです!!」 「偽善者め。何時かお前も気付く日が来る。ポケモンと人間の共存など、不可能なのだと言う事が……」 その途端、ユキナリ達のいる部屋の地面がグラグラと揺れ、3人は振動で動けなくなってしまう。 「な……何なんだ?この揺れは……」 「ユキナリさん、この揺れは……地震じゃありませんよ!」 突如部屋の床が壊れ、先端に金属製のドリルが付いている乗り物が姿を現した。セイヤはそれに飛び乗ると、ハッチを閉める。 『ひとまず退却させてもらおう。お前達のポケモン、確かに全て奪わせてもらった。カオスの理想の為に、我等が総帥アズマ様の為に使われるのだ。 有難いと思うがいい……』 そのまま乗り物は地中に潜っていってしまった。振動は小さくなり、やがて静寂が訪れる。 「あの乗り物、相当大きかったね……」 「きっと、下っ端連中もあの乗り物で一緒に逃げたんだと思います。街の皆さんのポケモンを取り返す事が出来なかった……お詫びの言葉もありません……」 アオイはうつむき、泣きそうになった。 「大丈夫、僕達が何とかするよ。成り行きから考えれば、僕達がポケモンをあの人達から取り返すべきなんだ。 それに……僕自身、あの組織が気になる。奪ったポケモンをどうしているのか……そして、『アズマ様』とは誰なのか…… 僕は、確かめたい。あの人達の本意を!!」 「ユキナリ君……」 ユウスケは不安を隠す事が出来なかった。 「でも、関わったら命の保証は出来ないって……」 「あの人達の存在を知ってしまった以上、黙って関係無いフリをするワケには行かないよ。僕達はフルサトさんとの約束を果たさなきゃいけないんだ…… 必ず、ナオカタウンの皆が可愛がっているポケモン達を元の場所に返さなきゃ!」 ユキナリの決意は固かった。それに、セイヤの哀しい顔が、どうしても気にかかったのだ。彼の心に深く刻まれた傷…… それを治せるのならば治してあげたい、そんな思いが頭の片隅にあった……
案の定、アオイを先頭に部屋を出ると、カオスの下っ端はいなくなってしまっていた。 廊下の真ん中に大きな穴が開いていた事からして、ほぼ間違いなくあの乗り物に乗り込んで一斉に逃げたのだろう。セイヤと共に…… アジトの入り口と化していた井戸の真下に辿り着くと、井戸の壁に縄梯子が用意されていた。何処かの家からフルサトが持ってきたのだろうか。 そんなに丈夫な縄梯子とも思えなかった。 「1人ずつ順番に井戸の外に出ましょう。井戸から出たら合図を出して、次の人が安全に渡れる様にしてくださいね」 アオイはそう言うと、最初に縄梯子を上り始めた。別にユキナリとユウスケからの異論も無く、まず最初にアオイが井戸の外に出る。 「大丈夫かい、ユキナリ君!ユウスケ君!」 井戸の上からフルサトの声が聞こえてくる。 「私はもう渡りきりました、次は2人の番ですよ!」 「ユキナリ君、僕が先に上ってもいいかな」 「うん、別に構わないけど……渡りきったらちゃんと合図を出してね。この縄、あまり丈夫じゃ無さそうだし……」 ユウスケが縄梯子を上り始め、姿が見えなくなる。その間、ユキナリは先程のセイヤの告白を思い出していた…… ポケモンに、しかも聞いていた者の1人、アオイが使用している鳥ポケモン、オニドリルによって彼の恋人が死んだ…… 一体、何故そんな事になってしまったのだろうか?意味もなくポケモンが人間を襲うなど、考えられない。 餌と間違えて彼女を掴み、餌では無いと認識して落としてしまったのだろうか……?疑問は尽きなかった。
ユウスケからの合図で、ユキナリは縄梯子を使い、井戸の外へ出た。外へ出るとフルサトがユキナリにねぎらいの言葉をかけてくる。 「心配していたんだよ……地震が起きたからね。3人共無事で良かった。井戸の下に埋まってしまうのでは無いかと気が気じゃ無かったが……本当に良かった!」 フルサトは彼等が無事に生還した事がよほど嬉しかったらしく、嬉し涙をこぼしていた。本当に優しい人だ。 「それで、私達のポケモンはどうなってしまったの?」 「そうだそうだ、井戸の下で一体何があったのか、説明してくれよ!」 自分勝手な大人達は3人の心配をせず、むしろ自分達の飼っているポケモンの心配ばかりしている。 動転しているのは解るが、いくら何でもあんまりじゃないかとユキナリは思った。 「まあまあ、3人とも無事だったんだし、きっと疲れているだろう。ゆっくり休ませてあげなければ……その後、私が話を聞いて、皆さんに伝えますから」 「フルサトさん、お願いしますよ」 「どうなったのか、全然解らないんですからね!」 フルサトは溜め息をつきながら、ユキナリ達を自分の小屋へと連れて行った。雪は全く止まない。
ナオカタウンの入り口近くにある育て小屋の中……ポケモン達がいる居間で3人は休んでいた。 「寒かっただろうね、井戸の下は空気も澱んでいただろうし……ほら、暖かい牛乳だよ。寒い時にはこれが一番さ。」 フルサトはボーっとしているユキナリ達が体を預けているテーブルにコップを置いた。湯気が出ている。 「有難うございます……」 ユキナリは寒さの為か、急に疲れが出てきた様だ。ユウスケもアオイも、しばらく何も喋らなかった。 「何があったのかよく解らないけど、大変だったみたいだね。皆に話すのは体力がもたないと思って、ここで私だけに話してもらおうと思ったんだ。 私も、ポケモン達がどうなってしまったのか気になるしね……」 暫く牛乳を飲んでいると、少し喋る元気が出てきたらしく、ユキナリは重い口を開いた。 「井戸の下が改造されていて、アジトになっていました。噂だけかと思っていた『カオス』の隠れ家になっていて…… 僕達がある部屋に入るとセイヤさんがいました。カオスの幹部で……ポケモンは転送装置を使って全てホウのいる別の場所に送ったと言っていました。 僕とセイヤさんはポケモンバトルをして、僕が勝って……それでカオスの部下達もセイヤさんも退却してしまいました。 一緒にいたユウスケも後から来たアオイさんも、それを見ていましたから……確かです」 「うん……そうだったよね。でも、やっぱり……街の皆に話すのはよくないと思うんだ。悪戯に皆を刺激すると、パニックが起きるかもしれないしね」 ユウスケも話に参加してきた。アオイも元気を取り戻したらしく、毛布にくるまってはいたが喋り始める。 「でも、ショックでした……セイヤさんは私が愛用している鳥ポケモンの、オニドリルに恋人を殺されたって言ったんです。 それでポケモンを恨んで、カオスに入ったと、そう言っていました。私、本当に辛くて……信じたく無いんです。私の大好きな鳥ポケモンがそんな事をしたなんて……」 「アオイ君、そのセイヤと言う人物が言った事がもし本当の事だったとしても、哀しみにくれる必要は無いんだ。君は、君の道を歩めばいい。 自分の鳥ポケモンを信じる事だ。それが出来なければ、君は自分を越えられない」 「フルサトさん……」 「ユキナリ君、やっぱりこの人……ナオカタウンジムリーダーのひこう使い、アオイさんなんじゃ無い?」 「うん、さっきから確認は出来なかったんだけど……やっぱり、この人がジムリーダーみたいだね」 「あれ?……そうか、そう言えばアオイ君は君達にハッキリした自己紹介をしていなかったね。アオイ君、この2人に、改めて自己紹介をしてあげてくれないかな」 「ハイ……ユキナリさん、ユウスケさん。私の名前はアオイ。ナオカタウンジムリーダーです。 鳥ポケモン……つまり、ひこうタイプのポケモンを極める為にずっと、ジムで鍛錬を続けています」 「鳥ポケモン……ポッポとか、スバメとかだね」 「貴方達は、私に挑戦する為にこの街へ?」 「はい、ユウスケと一緒にリーグに挑戦したいんです。だから、アオイさんとポケモンバトルをしなきゃ……」 「バードバッチを手に入れられない。そうですよね……ユキナリさんの実力、先程の戦いでよく解りました。ゲンタさんを倒した実力、確かに感じられます。 でも、私も兄さんの意志を継いでジムリーダーになったからには、どんな戦いにも勝ちたい!挑戦者が来ても、絶対に負けるワケにはいかないんです!」 「アオイ君の腕はお兄さん譲りだからね。アオイ君のお兄さんが今ホウエン四天王だと言ったら、アオイ君の強さも解るだろう。 事実、今まで沢山のトレーナーがバードバッチを掴もうと挑戦しにこの街を訪れたが、皆ことごとく去っていった。彼女のポケモンを愛する力は、凄いものだよ……」 「ユキナリさんが戦いたいと言うのなら、その挑戦、喜んで受けましょう。でも、私は負けませんよ!」 「ユキナリ君、アオイさんは……少し前僕達と合流してたよね。その時、きっとカオスの部下達に囲まれたハズ……強い事は、僕にもハッキリ解るよ」 そうだった。ユキナリにも彼女の強さが伝わる。彼女はたった1人でセイヤの部屋に戻ってきた。その間、何人のトレーナーとバトルしたのかも解らない。 その全てに勝利したのなら、それはゲンタをも越える実力だと言う事だ。ユキナリはアオイを見つめた。 (僕とあまり歳は違わないみたいだけど……やっぱり僕には無い相当な決意が読みとれる。僕が勝てる相手なんだろうか?) 「私の体力が回復したら……ユキナリさんも万全の準備で私に挑んでください。きっと、白熱した戦いになるんでしょうね…… ちょっと、怖い気もしますけどとても楽しみです。貴方と勝負出来る事が!」 アオイはそう言うと静かに微笑んだ。フルサトも2人のトレーナーの勝負が気になる様だ。ユウスケも彼女に挑戦してバッチを手に入れたい挑戦者の1人。 既にホクオウはバッチを手に入れて街を後にしている。ユキナリはアオイとの勝負に勝ち、兄と同じ位置まで進んでいく事が出来るのだろうか。
ユキナリ達がフルサトの小屋で話し合いをしている頃…… カオスの部下達とむしポケモン使いの冷徹なる青年、セイヤはカオスの地面専用兵器『モグタンク』の中に入り、一路地中を掘り進んでいた。 「ミサワタウンまではあと何時間で到着する」 「燃料もフルに入っていますから、あと数時間もあれば到着出来ます。アズマ様に作戦の成功を告げたら、次のポケモン捕獲作戦に移りましょう」 「作戦成功……か」 セイヤは屈辱的な気持ちになっていた。 (あの少年……奴に負けただと?カオスの幹部である、このセイヤが? あんな正義を盾にする小僧を前にして、私が敗れてしまうとは……何者なんだ?奴は……) 彼は昔の自分と戦うのを嫌っていた。ユキナリはまさにあの頃の汚れを知らない、純粋なポケモントレーナーだった。 だからこそ、セイヤはユキナリに負けた事を悔やんでいたのだ。 (昔の私に負ける事こそ屈辱……あってはならん事だ。私に疑問はいらない……ただポケモンを捕獲し、アズマ様に喜んでもらえるのならば、それで良いではないか。 トーホク全土を制圧した暁には、カントー、ジョウト、ホウエンに乗り込み全てのポケモンをカオスの奴隷にする…… それがカオス幹部になった者の務めだ。余計な感情は不要!) セイヤが考え込んでいる時、急に前方のガラスに光が差し込んできた。 「何だ、こんな地中に光など差さないハズだぞ!」 「前方に、何者かがいる様です!」 「構わん、押し潰せ!」 しかし、強烈な光が差し込むと、いくらスピードを上げてもモグタンクは全く進まない。 「何が起こっているんだ、誰か外に出て確認しろ!」 セイヤは怒鳴り、部下達に命令を下した。
『その必要は無い。我が行っている事だ』 機械的な声が響き、セイヤは振り向いた。部下達をポケモンで倒し、ただそこに立っている男。 純白のマント、衣服に身を包み、顔の半分、丁度目と鼻が見えない程の兜を付けている。 「誰だ、貴様は!」 『我はウォリック。サカキ様の恨みを晴らしに参上した。ロケット団と長年争い、邪魔ばかりしてきたお前達のせいでロケット団の団結は乱れた。 ロケット団が壊滅してしまった後も、お前達はのうのうと組織であり続けた。それは我が許さぬ。悪の名のもとにお前達を道連れにする!』 ウォリックはマントを翻し、セイヤを睨み付けた。 『カオス3幹部の虫ポケモン使い、セイヤ……我はまずお前を倒す。勝負から逃げる事は許さぬぞ。サカキ様に代わり、我が組織を壊滅させる!!』 「フン……噂には聞いていた。ロケット団の残党が、我々の事を逆恨みして滅ぼそうとしていると…… ロケット団大幹部光の騎士ウォリック。貴様はひかり使いか。逮捕の恐怖を恐れて逃げ回っていた様な男に何が出来る…… 私に勝つだと?面白い、その挑戦受けてやろう!」 『恨みの力を知らぬお前には我の力量が解らぬのだ……同じ悪に身を染めた者同士、どちらが上か確かめろ!!』 ウォリックはポケモンを出してきた。セイヤもそれに応じる。 「誰なんだアイツは?」 「俺は聞いた事があるぜ。ロケット団の連中が根こそぎ捕まった時、奴だけはあまりにも強くて警察を蹴散らしたあげく、逃げ去ったらしい…… 誰なのかも解らない、謎の騎士なんだ」 「ドルガス、カミーユとか言う幹部と同等の位置に立っていたらしいね。何でも、ロケット団総帥、サカキの信頼を1番に受けていたらしいよ。 壊滅してサカキが逮捕された時も、ウォリックを守って捕まったって言う噂が立った位だからさ……」
一方ユキナリ達は完全に体力を回復した。 フルサトは街の皆に事情を説明しに行き、ユキナリとユウスケ、アオイは(2人は自転車を押して)ジムに向かっていた。パラパラと雪の降る中を歩く。 「ここが、私の兄さんが管理していたナオカジムです。今は私が引き継いで、ジムを守っています」 コヤマタウンのジムと違い、こちらは全体的に水色が目立っていた。『ひこう』タイプの象徴が水色なのを考えると妥当な建物の色なのだが。 自転車を置いて鍵をかけると、2人はアオイに案内されてジムの中に入った。 ジムの中に入るといきなり美しい光に包まれ、ユキナリは咄嗟に目を瞑ってしまう。 「あ……青空……?」 ユウスケがそう思ってしまったのも無理は無い。壁は水色、そして天井には青空が描かれている。トーホクでは決して見る事の出来ない美しい青空。 雲などは動き出しそうな程リアルだ。ユキナリは目を疑った。 「天井にこんな綺麗な青空が描かれているなんて……」 「兄さんが描いたんです。絵の才能があった兄さんは、昔画学生で、そのまま画家として生きようとしたんですがポケモントレーナーとしての才能を買われてリーグに挑んだら勝ってしまったんですよ。 そのままズルズルとチャンピオンからジムリーダーになってしまって……兄さんはそれを忘れるかの様に突然ハングライダーをやり始めました。そして……」 アオイはそこで言葉を止めた。ユキナリとユウスケには言葉を止めた理由が解っていたので何も言わなかった。 「とにかく、私は兄さんの描いたこの青空が大好きです。小さい頃、カントーで見た青空と同じ様なこの色…… 私も、ひこうポケモントレーナーになりたいと思ったのはこの絵を兄さんが見せてくれた時でした。そして……どうせならひこうポケモンを極めたいと思ったのも!!」 アオイはユキナリの方を向いた。 「ユキナリさん、貴方の強さ……私にも解ります。でも、兄さんのジムを継いだからには、絶対に負けたくない。ずっと負け知らずだった、兄さんの様に!」 そう、ユキナリはアオイと戦い、バードバッチを手に入れる為にジムに来たのだ。正直、勝てるかも解らない戦いだが、ユキナリは勝負を延ばしたくは無かった。 「僕も、精一杯自分を偽らない戦いがしたい。強さを求めて生きている、オチさんの様に!アオイさん、ジムバトル……挑戦させてください!!」
ジムバトルが始まろうとしていた頃、セイヤは呆然としていた。ウォリックは立ち去った後だった。手下達も戦いの後、開いた口が塞がらないままだ。 「……強過ぎる……」 1人のカオス女性部下が呟いた。セイヤは見事に敗北した。ウォリックに……負けた。 モグタンクは動くが、セイヤと部下達はしばらく動く事が出来なかった。そのまま、暫く静寂が続き、彼等が出発したのはセイヤの敗北から1時間後の事であった。
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ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ− ( No.15 ) |
- 日時: 2011/04/03 11:11
- 名前: 夜月光介 ID:JgSFaNUw
- 参照: http://chiba.cool.ne.jp/kinokohonpo/sirokuro.html
- 第2章 6話『天使の飛翔・VSアオイ』
ナオカタウンジム……今まさにユキナリとアオイの戦いが始まろうとしていた。公式ルールにて、2人はそれぞれ3匹のポケモンを使って戦う。 どちらかのポケモン3匹が全て敗れた瞬間、勝者が決定するのだ。ゲンタとのジムバトルの時も試合の行方を見守っていたユウスケが一時的に審判を務める。 「では、互いのポケモンをバトルフィールドに出してください!」 水色の床に互いのモンスターボールが落ち、閃光と共にポケモンが出現する。ユキナリが出したのは口は悪いが血気盛んなノコッチ。 アオイが出したのは鳥ポケモンのホーホーだった。 「1本足の鳥ポケモン……?」 「いえ、ちゃんともう1本の足がありますよ。ホーホー、片方の足で立たずに、足を見せてあげてください!」 『ホー、別にいいですけどー』 ホーホーは両方の足で立ったが、すぐまた1本足で立つ。 「ユキナリ君、ホーホーにはそう言う習性があるんだよ。図鑑で確認してみればすぐに解るから」 ユキナリは何時もの様にポケモン図鑑を開いた。ポケギアにホーホーの姿が映り、説明が開始される。 『ホーホー、1本足で立っているのは知能を高めるホーホーなりのやり方。木の枝に立ったまま、数時間動かずに瞑想にふける事がある』 「知能か……」 「知能が高いと言う事は、とくこうが高いと言う事です。とくこうと言うのはつまり、間接的な攻撃を指すんですよね。 私のホーホー、素早さもとくこうも結構高いですよ!」 『くだらねえ事言ってねえで、さっさと始めろや!ケケケ、俺は早くコイツをいたぶりたくて仕方が無えんだからよ……』 対するノコッチは素早さと驚異的な攻撃力を持つ。反面、とくぼうはあまり強くない。とくぼうの強いホーホーと戦うのは、少し分が悪かった。 「じゃあ、そろそろ始めましょうか」 ユウスケはジムバトルにかかせない開始ボイスを待った。 『試合開始!』 機械的な声と共に最初のバトルが始まる。ここはノコッチで先制をしたい所だが、勝ち負けはやってみないと解らない。ユキナリはとにかく命令を下した。 「ノコッチ、どくどくで相手のHPを奪うんだ!」 ノコッチの戦法、それはノコッチ自身が言う様にとにかくじわじわ相手をいたぶっていく攻撃方法だった。 ノコッチの口から、人間が浴びても致命傷になりかねない紫色の毒液が発射される。だがホーホーは1本足で立ったままそれをジャンプして避けてしまった。 『てっ、てめえ!ふざけやがって!!』 ノコッチは飛びかかって毒液を吐くが、ホーホーはまるでここが森であるかの如く俊敏に動いた。 「ノコッチ、あまり深追いするのは危険だ!」 『五月蠅え、こんな鳥になめられてたまるかよ!』 毒液とホーホーの戦いはホーホーが制していた。どう飛んできてもホーホーは避ける。ひたすら避ける。 「ユキナリ君、マズイよ。ノコッチが興奮すればするほどホーホーは攻撃を当てやすくなる!」 『こっちですよー。ホー、ホー……』 「ホーホー、みらいよちを使ってください!」 『…………』 毒液を避けながらホーホーは目を閉じ、瞑想した。その間、ノコッチは絶え間なく毒液を吐き続けている。 『全然当たらねえ、どうしたって言うんだ?』 「ノコッチ、一旦退がってチャンスを待つんだ!」 『ケッ、解ったよ……マスター』 気がのらないのか、ノコッチはイヤそうな表情をして身を引いた。しかしその瞬間、急にノコッチの周りが歪み始める。ノコッチは痛みに顔を歪めた。 『な、何だ?何だってんだよ!!』 「みらいよちの力です。数ターン後に確実なダメージを与える攻撃……その代わり、ダメージ自体は少ないんですけどね」 「みらいよち……」 「ユキナリ君、ホーホーの特殊能力を確認してないんじゃない?」 「そうか、何か対抗策が見つかるかも……」 ユキナリはポケギアで相手ポケモンの特殊能力をチェックした。 『考察・ターンごとに守備力がかなり減るが、その代わりにとくこうと素早さが上がっていく』 「攻撃を当てれば勝てる……でも、当てない限り攻撃されてしまったら思い切り不利になるのか!」 ノコッチは激昂してさらに毒液を吐きまくった。 『テメーの逃げる位置を予想して毒液を吐きゃ当たるだろ!絶対逃がさねーぞ!シャ、シャ、シャ……』 ノコッチは不気味な笑い声を発すると、作戦を変更した。今ホーホーのいる位置に毒液を吐くのでは無く、移動するであろう位置に毒液を吐くのである。 「ホーホー、逃げ続けてもう1度みらいよちを!」 『ホーホー、解りましたよー』 「ノコッチ、ホーホーがどく状態になってバランスを崩したら、その時がチャンスだ!」 『ケケ、その時に噛みつきゃいいんだろ?面白くなってきやがったぜ……ケッ、ケッ』 ノコッチは醜悪な欲望により冷静さを取り戻した。蛇特有の残忍な性格で、確実に獲物をしとめようとする。 一方ホーホーは再び瞑想に入り、みらいよちを繰り出した。念を込めるとホーホーの周りに七色の靄が見える。 それが消えると、数ターン後に攻撃が必ず当たるのだ。 「ノコッチ、とにかく攻撃を続けてくれ。当たるまでずっとだ!」 「ユキナリ君、今度のみらいよちは危険だよ。さっきよりとくこうが上がっているハズだ。 守備力の下がったホーホーを先に攻撃して倒さないとノコッチが深刻なダメージを受けてしまう!」 その時、ホーホーにとって予想もしていなかった事態が発生した。不意にバランスを崩し、転倒してしまったのだ。 素早さが売りのホーホーにとって、これは非常に珍しいミスである。しかも、それが命取りになった。 「ああ、ホーホー!」 アオイは予期せぬ事態に慌てた。しかし、命令を出す前にノコッチの毒液が思い切りかかる。 『ホ、ホ、ホー……!』 どく状態になり、起きあがれなくなるホーホー、その一瞬の隙をノコッチが見逃すハズが無かった。 『ケケ、運がいいぜ!!俺様の攻撃をくらえるんだからよ!』 ノコッチは大きくジャンプして弧を描き、鋭い牙でガッチリとホーホーに噛みついた。『ポイズンキラー』だ。 そのまま猛毒を注入すると、ホーホーはみるみる弱っていく。だがその瞬間、みらいよちの攻撃が始まった。 とくこうが上がっているだけに、先程とは比べモノにならない位の凄まじいダメージが間接的にノコッチを襲う。 ノコッチがホーホーを押さえつけているのにも関わらず逆にノコッチがダメージを受け、ホーホーに突き飛ばされてしまった。 「ノコッチ、大丈夫か?」 『くそっ、もう少し発動が遅けりゃトドメを刺してやれたのに……』 痙攣するノコッチ。ホーホーも猛毒が体の中を巡っていると言うのに雄々しく立ち上がった。 が……そこでどく状態によるダメージがホーホーに最後の一撃を与え、ホーホーは戦闘不能状態になり、倒れてしまう。 「ホーホー……頑張ってくれましたね。本当に有難う。暫くの間ゆっくり休んでくださいね!」 ホーホーをボールに戻すと、アオイは笑った。 「流石です、ユキナリさん。ここまで強いなんて……正直、考えていませんでした。貴方のお兄さんにも負けない位の腕前です!」 「に、兄さん?アオイさん、兄さんに会ったの?」 「ジムバトルで負けてしまいました……悔しかったです。でも、2度も負けるワケにはいきません。 貴方がいかにポケモンを育てていようと、私は兄さんとの約束を果たします!」 そう言うとアオイは別のボールをフィールドに向かって投げた。出てきたのはノコッチよりは少し大きい、これも鳥ポケモンだった。 優雅な印象を見せる、美しい青色のポケモンだ。 「オオスバメだ……」 さらに白熱したポケモンバトルが展開しそうだった。
モンスターボールから出現したオオスバメは、優雅さ、美しさ……気品を持っている様に見える。 「へえ、凄い綺麗な鳥ポケモンなんだね……」 「ユキナリ君、オオスバメの図鑑と、特殊能力をチェックしてみてよ!」 「そうだね。調べてみよう」 ユキナリはポケギアでオオスバメの能力と特徴を確認した。 『オオスバメ、餌となる虫を探して大空を自由に飛び回るポケモン。伝書鳩代わりにも使われている』 『特殊能力・白麗飛翔……ひこうタイプの攻撃力が少し上がる』 「もともとひこうタイプのポケモンがひこうタイプの技を使うと威力が増すんだ。それがさらに増すって事は攻撃力は半端じゃ無さそうだよ、ユキナリ君……」 (オオスバメか……体力をかなり削られているノコッチが、このポケモンを倒すのは難しい。どうしようか……) 「ここで貴方の快進撃を止めて見せます!」 アオイはすでに準備万端だった。
『試合開始!』 スピーカーから機械音が響いた時、オオスバメはもう動き出していた。高くジムの天井近くに舞い上がり、そのまま待機する。 「ユキナリ君、そらをとぶだ!一旦上に上がって敵の攻撃をやりすごし、一気に急降下するひこうタイプの技だよ!」 『クソ、この体がもう少しマシに動けたら……』 「ノコッチ、もう僕達が勝つ方法は1つしか無い。捨て身で相手の喉にかみつくしか無いんだ!出来るだけ、最後の力を振り絞って攻撃してくれ!」 『ケケ、まだ諦めちゃいねえよ。俺は、もうあんなヘマはしねえんだからな……』 ノコッチの脳裏に、ザングースと戦ったあの時の自分の無様な姿が思い出された。もう失態は見せたくない。それは、覚悟のアタックだった。 「オオスバメ、そらをとぶ攻撃!」 『行きますよ、マスター!』 凛とした声でオオスバメはそれに応え、尖った嘴を前に向けて急降下してくる。ノコッチがその攻撃を受ければ間違いなく戦闘不能だ。 「今だ、ノコッチ!」 その瞬間、ノコッチは空に向かってジャンプしていた。 「な、何をする気ですか?」 ノコッチにもう攻撃を避ける程の体力は残っていない。ならば、全ての意識を攻撃に集中させるしか無いのだ。 高くジャンプしたノコッチは空中でオオスバメの体の上に着地し、そのまま喉笛に噛みつく。 『クッ!』 『シャ、シャ、捕まえたぜェ!』 そのままガッチリ牙で噛みつき、毒液をオオスバメの体内に注入していく。 『オ、オオオ……』 体が確実に弱っていく。ユキナリがポケギアで確認すると、体力が奪われていく様がよく解った。 『は、離せ、離せっ!』 必死に空中に舞い上がり、素早く動いて振り落とそうとするが、ノコッチも体力が少ないので必死にくらいついたまま離さない。 「オオスバメ、急降下してノコッチを地面に叩きつけてください!」 『解りました……マスター』 オオスバメはそのままジムの床に向かって急降下する。だがノコッチはオオスバメの上に乗って噛みついていたので、地面に激突するのはオオスバメだけだった。 それに気付き、慌てて空中に舞い上がるオオスバメ。もう、毒が体中にまわり、フラフラになってしまっている。 「ユキナリ君、オオスバメが落ちていくよ!」 ポケギアはオオスバメの体力が残り少なくなっている事を確認した。このままではノコッチも一緒に地面に叩きつけられてしまう。 「ノコッチ、オオスバメが床に落ちる前に着地しろ!」 しかし、ノコッチにもジャンプする体力は残されていなかった。オオスバメと一緒に、喉に噛みついたまま落下していく。 『このまま道連れにしてやる……!』 『ケッケッ……それで充分さ。お前を倒せたんだからな。後は他の仲間がなんとかしてくれるだろうよ。しっかり命令して、勝てよ。マスター……』 「ノコッチ!」 床に同時に倒れ込むノコッチとオオスバメ。『ポイズンキラー』にて体力を全て奪われたオオスバメと、最後に地面に叩きつけられたダメージでトドメを刺されたノコッチ…… 結果、2匹は同時に戦闘不能となった。 「アオイさんの残りポケモンはあと1匹……勝てるチャンスは充分にあるよ、ユキナリ君!」 「ノコッチ……僕の命令より良い動きをしてくれて有難う。絶対にこの努力を無駄にはしない!」 「追い詰められてしまいましたね……でも、私にだって誇りがあります。兄さんは優れたポケモントレーナーです。 四天王になる前、兄さんはジムリーダーとしてこの街を活気づけました。強いジムリーダーがいる事で、この街を救ったんです。 過疎の街になりつつあったこのナオカタウンがここまで発展したのも兄さんのおかげ……私は、兄さんの様に強い事で人を救えるトレーナーになりたいんです! ココで、その夢を諦めるワケにはいきません!」 アオイが取り出したのは、色が違うモンスターボールだった。中央に天使の羽が描かれており、上の色が水色、下の色が白の美しいボールだ。 「あれは……」 「きっと、ゲンタ君が持ってたサークルボールみたいに、ひこうタイプのポケモンを捕まえる為のボールなんだよ……」 「バードボール。優れた鳥ポケモンはこのボールにより、強さを上げます。私の最後の切り札……ピジョットの威力を見てください!!」 閃光と共に現れた鳥ポケモンは、非常に大きく、人が1人乗っても平気な位だった。アオイはピジョットに飛び乗る。 「ア、アオイさん!ポケモンバトルの時ポケモンに乗るのは危険ですよ!」 「これが……私の最後の切り札。最強の鳥ポケモン。そして、私のバトルスタイルを貫きます!」 ユキナリは理解した。これが、アオイの真価を発揮するバトルスタイル……鳥ポケモンに搭乗する事で、より命令がしやすくなり、互いの信頼度も上がる。 アオイにとって、それは『最もベストな戦い方』だった。ユキナリはあと2体、アオイはピジョットのみ。 だが、有利に立っているにも関わらずユキナリは自分が勝てるのかどうか解らなくなってきていた。 (この巨大な鳥ポケモン……ゲンタ君の時のカビゴンを彷彿とさせる……勝てるのか?僕の力と、ポケモンの力で……!) ナオカジムの最後の決戦が始まろうとしていた。
ピジョットは何者をも退けると言わんばかりの神々しさに満ちていた。アオイの表情も先程より険しくなってきている。 「ユキナリ君、鳥ポケモンの最強格、オニドリルをも超えるポケモン……それが、あのピジョットなんだ」 (ピジョット……大きいし、それにカビゴンの様な鈍くささは感じられない。辛い戦いになりそうだぞ……) 「とにかく、特殊能力をチェックしなきゃ」 ユキナリは自分の心を落ち着けた。 (大丈夫、ノコッチの健闘を無駄にするワケにはいかない……) 『ピジョット、美しさも身のこなしも鳥ポケモン中1番だとされている優雅なポケモン。 巨大な体にトレーナーが乗り込むと空を飛んで色々な街に連れて行ってくれる。総合的な戦闘能力はかなり高い』 『特殊能力・タッグコンディション……トレーナーが乗り込んで指示を与えると、普段より総合的な攻撃力が上がる。ただし、トレーナーの安全は保証出来ない』 (覚悟の戦い方か……僕に、それをうち破る程の力があるんだろうか?ポケモンとのコンビネーションが……) 今でもユキナリは、ゲンタに勝ったと言う気がしない。いや、勝てる程の力量を持っていたとは思えなかったのだ。 ゲンタのカビゴンとの戦いは運で勝った様なもの……そして今、目の前には遙かに強いオーラを放つピジョットとそれに乗り込んでいるアオイの姿があった。 (負けたくない……例え負けたとしても、絶対悔いは残さないと、僕が僕に約束する!) ユキナリはモンスターボールを投げた。フィールドに落ちたボールからポケモンが出てくる。 『う、うわぁっ!!ちょ、ちょっとユキナリ!このポケモンと戦うの?む、無理だって!!』 「無理を承知で頼みたいんだ。出せる力だけでいい。ジム戦の真剣勝負なんだ。相手に背中は向けられないよ!」 ハスボーはピジョットを見た。ピジョットは見下す様にハスボーを睨み付ける。 『私と戦うのですか?抗いなさい、立ち向かいなさい。けれど、貴方には勝ち目はありません!』 それは、威厳を持った女性の声だった。ハスボーは怯えていたが、そのままなんとか睨み返す。 『僕だって……戦うんだ!ユキナリが僕を認めてくれているのなら、僕はそれに応えたい!!』 『頑張る事です。勇気を持つ事です。そうすれば、勝機は見えてきます……後は、心の問題ですね』
『試合開始!』 ピジョットはアオイと共に空中に舞い上がった。ユキナリはハスボーに命令する。 「巨大な嘴が当たったら致命的だ。ハスボー、とにかく遠距離攻撃で出来る限り相手のHPを削ってくれ!」 『解った、とにかくやってみる!』 「ピジョット、そらをとぶ攻撃!」 ピジョットはアオイに対して頷くと、いきなりハスボーに向かって急降下した。ハスボーは反射的にそれを避ける。 間一髪の所でハスボーはジャンプして避ける事が出来た。 『ならば、追い回すのみです!』 ピジョットは滑空し、そのままハスボーに向けて体当たりをしけけてきた。ハスボーはそのままピジョットの前を逃げる状態に陥る。 「ユキナリ君!なんとか対応策を考えないと……」 『うわあああ!』 ハスボーは必死に走り、ピジョットは低空飛行のまま追いかける。タチの悪い鬼ごっこだ。 「ハスボー、右か左に急に曲がれば相手も体勢を立て直す!とにかく攻撃出来る体勢を整えるんだ!」 ハスボーは闇雲に走った。ピジョットは確実にハスボーの後ろについている。 『何処まで逃げても無駄だと言う事が解らないのですか?』 ピジョットは茶番を終わらせようとスピードを増した。その時、床に足を取られてハスボーは体勢を崩してしまう。 『わっ……!』 しかしのけぞった瞬間、ハスボーはジャンプする格好になり、ピジョットの嘴を逃れ、そのままピジョットの頭の上に着地した。 「ユキナリ君、チャンスだよ!ノコッチの時と同じだ!」 『……離れなさい!』 しかし、それ程甘くは無かった。 ハスボーは必死にしがみついていると言うのに、ピジョットが軽くあしらう格好で頭をブンと横に振ると、ハスボーは簡単に床に飛ばされてしまったのである。 『僕だって、やる時はやるよ!』 飛ばされた瞬間、ハスボーは『はっぱカッター』を繰り出していた。元々がくさとみずを扱うポケモンなだけに、この技も覚えていたのだ。 『無駄なあがきです!』 ピジョットは空に舞い上がって攻撃を避けた。しかし、全部を避けきると言うワケにはいかず、ピジョットの足に草のカッターが飛んできて、切り裂く。 「だ、大丈夫ですか?ピジョット!」 『軽い怪我です。心配はありません』 だが、それはただの怪我では無かった。さらに上に上がり、そらをとぶ攻撃の準備に移ろうとしたピジョットは、何故か上手く飛ぶ事が出来ない。 「や、やっぱり足の怪我はダメージが大きいですよ!」 『気にする事はありません……私達ポケモンは、人間と違って治癒能力が遙かに高いのです。 この戦いに勝利したら、すぐにカプセルに入りますから、安心してください……マスター』 アオイは、兄の悪夢を思い出していた。あの時の涙が蘇る様な気がして、心が張り裂けそうだった。 「ハスボー、相手は上手く飛べていない!今がチャンスだ!さらにはっぱカッターでダメージを与えろ!」 『このチャンス、僕は逃さないよ!』 冷や汗をかいていたが、ハスボーは確実に成長していた。だんだん、戦う事への意味を見いだしているかの様に。 はっぱカッターを再び繰り出し、ピジョットにぶつける。 『小癪な、これしきの事で私が弱ると思っているのですか?』 ピジョットは横に移動して攻撃を避けようとしたが、足に怪我をしたのはやはり致命的だった。上手く飛べず、今度は全身にカッターの洗礼を受ける。 『マスター、お怪我はありませんか?』 「ピジョット、私は気にしないで、今は逃げる事に集中してください!」 「ユキナリ君、なんか様子が変じゃない……?」 『僕だって、勝てるよ。それを証明したいんだ!』 ハスボーははっぱカッターを連射した。ポケギアを見ると、ピジョットの体力は半分近くにまで減ってしまっている。 『マスター、ポケモンは大丈夫です。でも貴方は攻撃が当たれば致命傷になりかねない。私が貴方を守らなければ……』 「いいえ、私が決めた事です。このバトルスタイルは、ずっと前から貴方としていた事…… 誇りをかけて、戦いましょう!私の事は気にしないで、攻撃に集中してください!」 その時、ピジョットの眼孔が一段と鋭くなった。 『攻撃は最大の防御です。攻撃が止まればいいのですから……!』 そのまま墜落するかの様にピジョットはハスボーに向かって突っ込んできた。 攻撃に集中していたハスボーは、攻撃を避けられる体勢では無かったので、ダメージを受けてしまう。 『うわっ!』 床すれすれの所でピジョットは体勢を立て直し、強烈な衝撃波をハスボーにぶつけた。嘴が当たり、ハスボーは衝撃波の勢いで壁に向かって飛んでいく。 『ユキナリ、後は任せたよ!最後の1匹にバトンタッチだ!』 ハスボーは最後にみずげいを出し、ヨロヨロと地面すれすれの所で浮いているピジョットに最後の攻撃を当てた。 水で切り傷から流れている傷が流され、そのままポタポタと床にたれていく。もはや目は鋭いと言う表現を超えていた。 それは瀕死寸前の荒武者の様な、玉砕覚悟の目つきである。 『見事です。しかし……私には誰も勝てません』 床に叩きつけられ、ハスボーはトドメをさされ、力尽きた。 「ハスボー!」 ユキナリは戦闘不能になったハスボーをすぐにボールに戻した。そして、ピジョットの方を見る。 アオイは傷1つ負っていなかったが、ピジョットは優雅さが消えていた。その代わりに、恐ろしい程のオーラが感じられる。 ユキナリとユウスケが唖然とする程恐ろしい形相だった。 『私はマスターと共に戦っています。マスターの気持ちが折れない限り、私は絶対に負けてはならないのです!』 「ユキナリさん……本当に凄いです。チャンスを掴むテクニック、形勢を逆転させる運……それは私に無い貴方のスタイルです。 でも、私のスタイルはそれを上回ります、私の敗北は私だけの敗北じゃ無いんです!」 「私だけの敗北じゃ……無い?」 ユキナリは思い出していた。アオイは兄に心の中で負けぬ事を告げていたと。ホクオウに敗れた事がショックだったのだろうと。それならば…… 「僕だって、色んな物を背負っています。誰かに認められたいワケじゃない。ただ、自分が何処まで進めるのか、確かめたいだけなんです!」 ユキナリは紅蓮のボールを見つめた。 (ノコッチがホーホーとオオスバメを倒し、ハスボーがピジョットの体力を半分削った。ここからが正念場だ。コエンに全てを託して、最後の勝負をするしか無い!) 「結局、ここまでもつれこんじゃったね、ユキナリ君。僕、今凄いワクワクしてるんだ。どっちが勝つかまるで解らない勝負が始まろうとしてるんだから!!」 ユキナリはピジョットを見つめた。ピジョットと同じ、自分の力を確かめたい猛者の目……ユキナリは、ポケモントレーナーとしての『目標』を見つめていた。 そして、ボールをフィールドに、投げる。
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ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ− ( No.16 ) |
- 日時: 2011/04/06 15:43
- 名前: 夜月光介 ID:jZrXJZjI
- 参照: http://chiba.cool.ne.jp/kinokohonpo/sirokuro.html
- 第2章 7話『渡された思い』
紅蓮のボールは地面に落ち、閃光と共にコエンが現れた。 『ユキナリさん、今の状況は?』 「ジムバトル中、ノコッチが1匹を倒して2匹目と相打ち。3匹目のピジョットが強くて、ハスボーはHPを半分しか削れなかった」 『相当強いんでしょうね……勿論、相手に不足はありませんよ!ノコッチさんもハスボーさんも頑張ってくれたみたいですし……必ず勝ちましょう!』 濡れた体のまま、コエンを睨んでいるピジョット。必ず相手を倒すと言う信念が伝わってくる。 「ユキナリ君、相手のピジョットはかなり弱ってる。油断さえしなければきっと勝てるよ!」 ユキナリはずっとコエンに助けられていた。最後の最後、コエンは他のメンバーが託した思いを全て受け取ってくれる。そう、『勝利』と言う願いがかなうのだ。 (全て、僕の命令にかかってる……下手な命令は出来ない。コエンと僕とで、ノコッチとハスボーの戦いを価値あるものにするんだ!) ココで負ければ、2匹の努力は水泡に帰す。正念場だった。 「ピジョット……相手は1匹です。私達の力を十二分に発揮すれば、負ける心配はありません!」 『最初からそのつもりですよ……マスター』 ピジョットは大きく羽を広げて威嚇した。 『例えどんなに傷を負おうが、勝つのは私です!覚悟を決めてかかってきなさい!!』
『試合開始!』 フィールドに緊張感が走る。ユウスケが見守る中、アオイとユキナリの本当のラストバトルがスタートしたのだ。 「コエン、鬼火でピジョットに攻撃するんだ!」 コエンは俊敏な動きで素早く鬼火を繰り出すと、その青白い炎を息を吹くかの様にスッと投げた。その炎の速さは見ているユウスケを圧倒させる程だ。 ゲンタ、ユウスケ、オチ……トレーナーのポケモンとのバトルが、着実にコエンのレベルを上げている。 素早さを売りにしているピジョットも、この素早い炎の球は避け切れず当たってしまい、ダメージを受ける。 『は……速い!』 「反撃開始です。ピジョット、かぜおこし!」 こちらも負けじと攻撃を繰り出す。翼を一閃させ、小さな竜巻を作ると、それを何個もコエンに投げつけた。 「コエン、攻撃を避けながらピジョットに近づけ!」 ジグザグに動きながら風の攻撃を避けていく。その速さに、アオイも実力を認めざるを得なかった。 「ピジョット、距離を取ってください!」 床に立っているピジョットに向かってくるコエンをあしらうかの様に、ピジョットの体は空中へと舞い上がった。 『ユキナリさん、もう1度鬼火を出しますか?』 (ピジョットはかなりのダメージを負っている……特に足に受けてしまったダメージが功を奏してハスボーはあれだけのダメージを与えた…… ココは一気に勝負をつけたいけど、回り道をして確実な勝利を掴めばいい) 「コエン、化かすで相手を混乱させてから攻撃だ!」 空中に舞い上がったピジョットも、その言葉を聞いた。 『マスター、私に考えがあります。このままではただ攻撃を受けて負けてしまうだけでしょう』 「……突っ込むんですね。一気に……」 『幸い、相手のHPはそれ程高くありません。ごり押しで攻めれば、勝機が見えてきます!』 ポケギアで見ると、あと2回あたり鬼火の攻撃がピジョットに当たれば戦闘不能になる計算だった。 対するピジョットは、HP満タンのコエンに玉砕覚悟でぶつかり、そのまま力技で流れを変えるつもりだ。 「ピジョット、そらをとぶ攻撃!」 ピジョットは滑空し、そのままコエンめがけて突っ込んできた。しかし、コエンは靄を作り出し、そのままピジョットに投げる。 突っ込んできたピジョットは、為す術も無くその靄の中に入ってしまった。しかも視界が効かなくなった為、コエンにぶつからずにまた空中に上がってしまう。 『マスター、気分が……』 足の痛みもだんだん酷くなってきた。これ以上飛んでいると、バランスを崩して転落してしまう恐れがある。 そうなればアオイが危険だ。ピジョットを倒しても、彼女を助ける事が出来なければ真の勝利とは言えない。 「もう少し頑張ってください、ピジョット!」 『こんらん』状態になったピジョットはもはや上下の感覚も掴めなくなっていた。天井にぶつかる程フラフラと上がったかと思えば、床に落ちそうな程急に落ちる。 「コエン、鬼火を当てるんだ。2回当てれば僕達の勝ち……最後の攻撃はピジョットが床につきそうな程落ちてから当ててくれ!」 『解りました、ユキナリさん!』 コエンは1回目の鬼火を出現させた。フラフラと上がりきった所を狙い、ピジョットに向けて投げる。 「ピジョット、相手の攻撃が……!」 『マスター……私は、残念です。最後まで、せめて納得がいく戦いがしたかった……』 鬼火が当たる。全身に悪寒が走り、その瞬間ピジョットの『こんらん』状態が治った。 「ピジョット、大丈夫ですか?」 『ハア……ハア……頭がハッキリしてきました。もう、こうなれば相打ちを狙って飛び込むのみです!』 ピジョットは傷だらけの翼を大きく広げ、天井近くまで舞い上がると、アオイを乗せたまま急降下してきた。 コエンにぶつかれば自分も無事では済まない。相打ちで再戦に持ち込めば、望みが出てくる。自分の全体重を風に乗せて、そのまま流れ星の様に落下するピジョット。 「コエン、避けるんだ!」 コエンはユキナリに命令され、慌てて落下してくるピジョットから距離を取った。 『覚悟の攻撃に、失敗はありえません……』 ピジョットの目が鷹の様に鋭く光り、ピジョットはアオイを乗せたまま床すれすれを飛んだ。先程の落下スピードを殺さずに、そのまままっすぐコエンに向かって飛んでいく。 『僕より、遙かに速いスピードですよ!』 コエンは歯を食いしばり、恐怖の表情を浮かべながら必死に逃げたが、鬼の顔をしたピジョットから逃れる事は出来なかった。 「コエン!」 「ユキナリ君、これでもしコエンのHPがゼロになったら、互いの切り札を回復させて再戦する事になるよ! ……再戦にもつれこんだら勝てるかどうか……」 そう、ハスボーの健闘があったからこそコエンは有利に戦いを進めていた。もしここで再戦と言う事になれば、圧倒的にコエンが不利な状況へと追い込まれる。 『仕切り直せば、貴方に負ける様な戦いにはならないでしょう……』 ピジョットはコエンを壁際に追い詰めた。ユキナリはハッとした。アオイがまだピジョットに乗っているのだ。 このままピジョットが玉砕覚悟でぶつかればアオイの命は保証出来ない。 「アオイさん、ピジョットから降りるんだ!」 「……あれ?ユキナリ君。アオイさん……あそこにいるよ?」 見ると、先程のスピードについていけずに振り落とされたのか、アオイは床に尻餅をついていた。苦痛に満ちた顔をしている。 それは床に落ちた痛みだけでは無かった。最後までピジョットと共に戦えなかった事への後悔だった。 『ま、マスター?』 急に重みが失せた事に気付いたピジョットは慌てた。だがそれがいけなかった。もうコエンが立っている壁際は目の前だったのだ。 『それっ!』 コエンは土壇場で横に飛び、そのままピジョットの突撃を避ける。一方ピジョットはもう止まれなかった。 『ヌオオオオオッ!』 ピジョットは気力で体を傾けると、コエンが逃げた方向に位置を変える。そしてそのまま壁に激突した…… 「こ、コエン!」 「うわ、凄い煙だ……」 ぶつかった途端、凄まじい煙が壁から吹き上げた。衝撃で壁が壊れ、白煙で辺りが見えない。 それが晴れると、そこには頭から血を流して倒れているピジョットと、腹に頭突きを受けて痙攣しているコエンの姿があった。 ピジョットの攻撃を避けきる事が出来なかったのだ。 「ユキナリ君、ポケギアで確認しなきゃ……!」 「うん、コエンのHPは……」 ポケギアで2匹の体力を確認するユキナリ。コエンの体力はかなり削られていたが、残っていた。一方のピジョットは……戦闘不能状態だった。 あの体で、玉砕出来たのが不思議な位だ。 「……勝った……」 ユキナリは気が抜けてしまいそのまま床に座り込む。 「ハ、ハハ……」 「ユキナリ君、大丈夫?ユキナリ君!!」 ユキナリの精神力も限界だった。そのまま意識が薄れていく……そして、ジムバトルは終了した。
ユキナリが目覚めた時、ユキナリがいる所はジムでは無かった。 「あ、目が覚めたよ!」 「本当かい?……ああ良かった。随分疲れたみたいだね。ゆっくり休むと良い。急ぐ旅でも無いんだろう?」 ユキナリはおでこに濡れた冷たいタオルの感触を感じた。どうやらココは……フルサトの育て小屋らしい。 傍らにはユウスケとフルサトがいた。隣のベットではアオイが寝言を呟きながら眠っている。 (ピジョット、私も最後まで貴方と一緒に戦いたかったのに……でも、負けた事は素直に認めなければ……) 「アオイさん、大丈夫なんですか?」 「アオイさん、ピジョットが負けたのを確認すると倒れちゃって……疲れが一気に出たのかもね。 ユキナリ君もそうなっちゃって……僕、自転車を走らせてフルサトさんに来てもらったんだ」 「心配したよ。2人とも倒れていたんだからね。でも無事で良かった。アオイ君も熱くなりすぎたよ。 もしピジョットの背中に最後まで乗り続けていたら、大変な事になっていたかもしれないし……」 ユキナリはあの時の光景を思い出す。アオイは非常に悔しがっていた……ピジョットと共に戦っていたと言う自負があったので、自分が許せなかったのだろう。 「とにかく、おめでとう。ユキナリ君……ナオカタウンの住民としてはあまり良いニュースでは無いけれど、君はよくやった。 アオイ君を倒すなんて相当バトルを積んできたんだね。今まで誰にも負けなかったのに……そう、君ともう1人のトレーナーが来るまではね」 (ユキナリ君、きっとホクオウさんの事だよ) 小声でユウスケが囁いた。 (兄さん、今何処にいるのかな……)
「ほう、なかなかの面構えだな。俺に挑むには充分の風格だ。だが、格好だけでは俺には勝てんぞ!」 青い色の壁、それは海の色……淡い水色や、濃い青……様々な色が壁に塗られている。フィールドは巨大なプールになっていた。 「海……か。俺は行った事は無いが、その大きさは知っている。お前がその海に惹かれた男だと言うのなら……」 青年は男を指さした。 「全力でお前を倒す。俺自身に誓った目標の為にな!」 「お前の様な輩は嫌いじゃ無いが、甘いな。お前の実力は認めてやろう。だがな、俺を今までのジムリーダーと同じだと思うのは大きな間違いだぞ!」 その男は水泳帽を被った、ヒゲ面の男だった。体格も良く、筋肉質の体は荒涼とした海の男のイメージを彷彿とさせる。 腕を組み、鋭い目つきで青年を睨み付ける海パンをはいた男は、プールサイドにいた少女からボールを受け取った。 「さあ始めようぜ、でっかい海の戦いをな!!」 青年は頷き、プールに向かってボールを投げる……
しばらくすると、アオイも眠りから覚めた。 「ユキナリさん……お見事です。貴方とポケモンとの絆……それは私以上に深くなっていました。 自分の信念を貫けない者が勝利する事は出来ませんよね。……もう1度、最初からやり直します」 「アオイ君、敗北は無駄な物じゃない。それを覚えておきなさい。どんな人間の人生でも、敗北が無かった事は無い。 問題は、その敗北を次にどう活かせるかと言う事なんだ」 アオイは微笑んで頷いたが、それは快活な笑顔では無かった。 「本当に……勝てる望みがあっただけでした。再戦にもつれこんでいたら……きっと僕は勝てなかったでしょう。 ハスボーが頑張ってくれなかったら、ノコッチが2匹も倒してくれなかったら……僕の実力なんて、本当は貴方に及ぶものじゃ無いんです……」 「それがトレーナーなのさ、ユキナリ君。実力もあるが、勝負は何時も逆転劇がある。 流れが少しでも変われば、1匹のポケモンで3匹のポケモンを倒す事だって出来るんだからね。 それが出来るのは、優れたトレーナー。思いやりを持ったトレーナーにしか出来ない。君はポケモントレーナーの第一歩を無事に踏み出したんだ」 フルサトはユキナリに向かって優しい顔を見せると、近くにあった椅子に座った。 「アオイ君に勝った後は、この先にあるシオガマシティに向かうといい。大きな所だから、迷わない様にね。 ジムリーダーはミズキ。海の男と呼ばれている……アオイ君とはまた違った強さを持っているから頑張って勝つんだよ。私も応援させてもらうからね……」 フルサトはこう思ったに違いなかった。(アオイ君が負けた程のトレーナーならば、きっとこの先も勝ち進んでいけるだろう)と。 そんな時、ポケギアが鳴った。電話だ。ユキナリは布団の中からポケギアを急いで引っ張り出すと、電話を受ける。テレビ画面に男が映った。 『やあユキナリ君、僕だよ。覚えてるよね?』 「ホンバさん!」 『ハハハ、久しぶり。僕は今フタバ博士の命令でシオガマシティに来ているんだけど……君達は今何処にいるんだい?』 「ナオカタウンです」 『そうか……実は明後日、シオガマシティに有名なトレーナーが沢山来るんだよ。 ジョウト四天王とホウエン四天王、それにそれぞれのリーグチャンピオンがシオガマシティで交流会を開くらしいんでね』 「し、四天王とチャンピオン!?」 『毎年行われている行事の1つなんだ。今年はジョウトとホウエンなんだけど…… 前の年ではザキガタシティでリューキュー四天王とトーホク四天王、そして2人のチャンピオンが色々話し合っていたらしいよ』 「す、凄い……会えるチャンスなんて滅多に無いよ……」 『シオガマシティはサギーの湖を越えればすぐだから、明後日には間に合うんじゃ無いかな。僕はポケモンセンターで待ってるよ。それじゃ!』 ホンバ助手からの通信が終わった。 「四天王……!!凄い、僕達が会えない様な人がトーホクにやってくるんだ!」 「ユキナリ君、僕サイン欲しいな!どんな人達なのか、会ってみたかったんだよねー」 盛り上がる2人を後目に、フルサトは笑っていた。 「随分楽しそうだね。私も行ければいんだけど……アオイ君もこの街から離れる事は許されていないし。是非、感想を聞かせてもらいたいなあ……」 「ユキナリさん……後でジムバッチと技マシンを渡します。ついてきてくれますよね?」 「勿論です。あと……ユウスケとも戦ってくれますか?」 「ピジョットもカプセルで元気になったみたいですし、何よりユキナリさんが推薦する位のトレーナーなら、お手合わせ願いたい所ですよ。挑んできてください!」 ユウスケが喜んだのは言うまでも無い。そして数十分後、3人はジムに戻っていた……
ジムの中に戻ると、アオイはユキナリを奥の部屋に案内した。 「私がジムリーダーになってから、この部屋に入るのは2回目になりますね……貴方と、もう1人の男の人……」 「僕の兄さんじゃ無いでしょうか……兄さんはとても強い。僕が勝負を挑んでも負けるのが目に見えてます」 「お兄さん……フフ、私とユキナリさんって似てるんですね。お互いに立派な兄を持つと、それに恥じない自分でいたい…… 私はそう思って、ずっと敗北を恐れてきました」 奥の部屋には背負える程大きいゲンタのジムにあった様な技マシンが積まれていた。ゲンタのジムと同じく、相当人が入っていなかったのか、冷たい空気が流れている。 「これが、私が渡す技マシンです。大事に使ってください」 アオイは『エアロブラスト』と書かれた技マシンをユキナリに渡した。もう片方の手には、銀色に輝く翼をかたどったバッチがキラキラ光っている。 「バードバッチ。兄さんと私のジムのリーグ公認バッチです。これがあれば、リーグに行く資格があります…… 頑張ってくださいね。私もミズキさんとは何度か戦った事があるんですけど……やっぱり強かったですよ。 兄さんがジムリーダーを務めていた頃、私は1回もミズキさんに勝てませんでした」 (アオイさんが何度も負ける程のジムリーダーって……) 不安はだんだん大きくなってくるが、後戻りは出来ない。 それに、シオガマシティには『リーグ公認ポケモンドーム』、『トーホクラジオ塔』『太公望爺の家』『シオガマデパート』など、観光地としても有名な場所が沢山ある。 ホウエン四天王とジョウト四天王が集結するのならば、行かないワケにはいかなかった。
「俺の勝ちだな」 「……良い戦いだったぜ。ホラ、バッチを受け取れ」 「やはりジムリーダーは強い……だが俺の目指している場所はリーグ本部だ。ここで負けていたら、挑戦する事など最初から出来ない。とっくに諦めているだろう」 ホクオウはバッチを握りしめ、歩き出した。 (待ってろユキナリ。お前も戦っているんだろうな……だが兄の意地がある。リーグで会った時、それがお前と俺との実力を知る機会なんだ!) シオガマシティジムリーダー、ミズキ。海の男を倒したホクオウは一路イミヤタウンへ向かう。 だがホクオウはマウンテンバイクを持っていないので、回り道をする事にした。道無き道をひたすら歩くのみである。 ……ユキナリ、ユウスケ、ホクオウ。3人の歯車が動き出し、そしてもう1人の歯車も動き出そうとしていた……
その後……ユウスケとアオイのポケモンバトルが行われ、ユウスケが勝利した。 ユキナリと互角の戦いを繰り広げたユウスケは、やはりそれ相応の実力を秘めているのだ。 そのまま夜を迎え、2人はフルサトの育て小屋に戻り、別れの夕食を食べた。 「ユウスケ君も勝ったか……君達はいいライバルになれそうだね。お互いにリーグを目指すのなら、何時かは本気で戦わなければならない。 どちらがチャンピオンになれるのか……私はそれも期待しているんだよ」 「そ、そんな!別に僕はまだそんなに強くなんか……」 「私は貴方の強さが解りましたよ。私に勝った実力があるんですから、この先も無事に進んでいけるでしょう。 シオガマシティは港町。カントーに通じているので、人々の出入りも多い活気に溢れた街です。色んな人に会って、旅の楽しさを実感出来ると思いますよ!」 アオイはユウスケの肩を叩いた。ユキナリの親友であり、引っ込み思案でもありながら闘志は強いユウスケ。 そう、ユキナリもリーグに挑むのならば彼とも何時かは争わねばならない。チャンピオンの座を目指して…… 「ホンバ助手が待っててくれるって言ってたけど、明後日までにシオガマシティにつくかな……」 「ナオカタウンからシオガマシティまでは、49番道路、サギーの湖、50番道路がある。 シオガマシティから続く道は『マウンテンロード』だったから、君達はラッキーだったね。 自転車を持っていないと、あそこは危なくて通れないから……」 そう、ユキナリとユウスケは幸運にも『オイカゼのマウンテンショップ』で『青空』と『緑芝』を貰っていたのだ。 自転車さえあれば、シオガマシティから無事に進めるハズなのだが…… 「サギーの湖って、どんな所なんですか?」 「釣りの名所だよ。サギーと言うポケモンが大量にいて、食料にもなるから釣り人が連日釣っているんだ。 不思議な事に釣っても釣っても数が減らないらしい。そこもこのトーホクの名所の1つだね」 「サギーか……どんなポケモンなんだろうね」 「それは見てみないと解らないよ。明日、確認出来ると思うし……」 夕食が終わり、2人はシャワーを浴びると来客用寝室に入った。明日からまた重い荷物を背負って自転車を走らせなければならない。 辛くもあったが、人とのふれあいも彼等を元気にする要因の1つだった。 そのまま泥の様に眠り、朝を迎える……
「お世話になりました。フルサトさん!」 「いやいや、トレーナーをもてなすのも私の仕事だからね。当然の事をしたまでさ。……近くに寄ったら、また足を運んでくれ。何時でも歓迎するよ!」 荷物を背負い、2人は粉雪の降る中立っていた。育て小屋の前で2人はフルサトに別れを告げ、一路シオガマシティを目指して走り始める。 「応援してるぞー!」 後ろからフルサトの声が響き、そして消えた。 「ユキナリ君、そう言えば昨日の夕食の後から、アオイさんの姿が見えなかったよね……見送りにも来てくれていなかったし……」 「アオイさんにだって都合はあるよ。僕達はただ、彼女と戦ったあの瞬間を忘れない様にすればいい。 絶対、また会って戦いたいよ。バトルをしてて、本当に楽しかったから……!」 「ユキナリさーん、ユウスケさーん!!」 頭上で声がしたので、2人は慌てて自転車を止めて空を見上げた。 そこには、雪の降る中をハンググライダーを使って飛んでいるアオイの姿と、最後までコエンを苦しめたピジョットの姿が見える。 足の怪我もすっかり治ったらしく、また美しく雪の空を舞っていた。 「言い忘れてましたけど、バードバッチを持っているトレーナーは、リーグから『そらをとぶ』と言う秘伝マシンを使う事が許されるんです! 覚えておいてください!」 「秘伝マシン?」 「何回使っても無くならない技マシンだよ。 そらをとぶには通常の攻撃の他に、ポケモンに乗り込んでポケギアに登録された『行った事のある街』に行けると言う追加能力があるんだ…… でも、僕達はまだそれを手に入れていないんだけどね」 「本当に御二人とも強いです、兄さんがもし戻ってきたら、是非貴方達と勝負させたい! 私はリーグに挑戦出来ませんが、貴方達にはその資格があります。自らの夢を実現させてみてください!!」 「解りました、僕達……とにかく前進します!」 アオイに別れを告げ、2人は自転車に乗って次の街を目指す。四天王が集まると言うイベントを見に行く為に。 そして、ミズキに挑戦する為に!
粉雪の降る中、2人は自転車を走らせていた。青く光る『青空』も、緑が綺麗な『緑芝』も快調な速度で走り続けている。 「ユキナリ君、朝から出てきたのはいいけど……ポケモンも探したいな。まだ時間はあるし」 ホンバ助手が教えてくれた『覇者達の会談』は明日。 今日の朝から草むらの中を飛ばし続けたが、そろそろポケモンを捕まえる為に自転車を停めても良い頃だった。 「そうだね。とりあえず、ココの説明を聞いてみようか……」 ユキナリは自転車を停めると、ポケギアで『トーホクぶらり旅』の過去データを聞いてみた。 『49番道路か……俺も昔行った事があるよ。サギーの湖って言う、サギー釣りの名所の近くなんだ。 サギーは焼いても美味しいし煮ても美味しいしおまけにポケモンバトルでも使える優れもので、トレーナーの間では注目の的になっている。 おっと、出現するポケモンを紹介しないとな。変種ナゾノクサ、変種ニャース、変種オニスズメ、変種アメタマ、それにヒュードロ……』 「ヒュードロってどんなポケモンなんだろ?」 「確か……ゴーストタイプのポケモンだった気がする。道行く人を驚かすのが大好きだって本で読んだハズなんだけど……思い出せないなあ」 ユキナリは手を頭の上にやった。 「まあ、とりあえずユタカさんのヒットナンバーチャートを聞いてみようよ」 ポケギアの画面で『ヒットナンバーチャート』を選ぶ。勿論1週間も経っていないので『疾風』が流れ始めた。 「そう言えば、この曲でのポケモン遭遇率は相当高いんだったよね」 「うん。きっと、ポケモンが現れてくれる……ん?ユキナリ君、あそこに誰かいるよ?」 ユウスケは草むらの中に立っている人影を見つけた。座り込んでいるらしく、その場からピクリとも動かない。 「こんな雪が降っている所(何時も降ってるけど)でジッとしていたら風邪ひいちゃうよ……いや、もしかして具合でも悪いのかな?僕、ちょっと見てくる!」 ユウスケは向こうの方へ走っていく。 (こんな所に座り込んでいる人がいるかな……) ユキナリは怪しんだ。人影は見えるが、人とは断言出来ない。さっきユウスケはこう言っていた。 『ヒュードロは道行く人を驚かす』と……
「ひゃあああ!」 ユウスケが尻餅をつく音が聞こえた。 ユキナリが急いでユウスケのもとへ向かうと、怪しげな炎に包まれた、額烏帽子を頭に付けている青白いポケモンがケタケタ笑っている。 水色の体色で、出しているベロは紫色だった。急いでユキナリはポケギアの図鑑項目を確認する。 『ヒュードロ。夜中によく人を驚かしていたポケモン。恐怖を具現化する力を持ち、性格はやんちゃで悪戯好き。 死んでしまった子供の霊がポケモンになったと言う意見もある』 「とにかく、ポケモンを出して捕まえなきゃ……」 ユキナリは紅蓮のボールを取り出し、投げた。草むらに放り出されたボールの中からコエンが出てくる。 『今日も寒いですね……あれ?ユキナリさん、また新しいポケモンを見つけたんですか?』 「うん、とにかく捕まえたいんだ!」 『見たところゴーストタイプのポケモンみたいですね。私の能力を発揮出来る戦いになりそうですよ!』 「どういう事?ユキナリ君、コエンの能力って何だったっけ……」 ユウスケは震えながら質問をする。ユキナリは笑いながらクルクル回っているヒュードロを時折見ながらポケギアでコエンの特殊能力をチェックした。 『天武の才……ゴーストタイプのポケモンやエスパータイプのポケモンから受けるダメージが減る。 ただし格闘タイプや鋼タイプのポケモンから受けるダメージは増えてしまう』 「へえ、今まで確認してなかったけど、コエンにはそんな特殊能力があったんだ……特に格闘タイプには気を付けないと」 『じゃあ、いきますよ!』 コエンは炎を繰り出すと、ヒュードロに投げつける準備をした。ヒュードロは相変わらずケタケタ笑い続けるだけだ。 「コエン、鬼火だ!」 炎を投げつけるコエン。しかし…… 『ケラケラケラ……』 ヒュードロは姿を消し、コエンの後ろ側に回り込んだ。 『ケッケケケーーッ!!』 急にヒュードロは大声を出した。あまりの五月蠅さにコエンも耳を塞ぐ。ポケギアを見ると、コエンの体力は減っていた。 「『ハイパーボイス』だ。大声で攻撃するノーマルタイプの攻撃だよ!……僕、腰が抜けちゃって立てないや……」 ユウスケは冷や汗をかきながら情けない声を出した。 『ケケケ、ケケッ、ケーッ!』 ヒュードロは耳を塞いだまま動きを止めたコエンに向かって、漆黒のボールを作り出し投げてきた。 『うわっ!』 腹にヒットし、コエンはのけぞって地面に倒れる。 「『シャドーボール』だね。鬼火と攻撃方法は似てるけど、属性は完全に『ゴースト』だよ」 「予想以上に素早いんだね……」 『不覚です……私はこれ位ではまいりませんよ!』 「コエン!鬼火を何度も出して相手の動きを止めるんだ!」 コエンは連続で青白い炎を投げつけるが、あっさりとヒュードロはそれを避けてしまう。 早朝からコエンとヒュードロのポケモンバトルが始まった……
先程のハイパーボイスとシャドーボールのダメージが効いているのか、コエンは確実に動きが鈍くなってきていた。 『ユキナリさん、このままじゃ……』 ヒュードロはコエンに向かって舌を出す。 『ケーッ、ケケケーッ!』 「コエン、化かすで相手の動きを止めて、そこから一気に鬼火を当てるんだ!」 コエンはその命令を受け、ヒュードロに向かって靄を放った。しかしヒュードロはそれを楽に避けてしまう。 「ユキナリ君、ちょっと待って!」 やっとの事でフラフラと立ち上がったユウスケがユキナリを止めた。 「ヒュードロは『人の心が解る』ポケモンなんだ。人間が命令した攻撃が解る…… つまり、ユキナリ君が命令するとヒュードロにはコエンが繰り出す攻撃が解る事になる!」 「で、でも!」 「何も考えないで、コエンに任せた方が良いと思うよ。ヒュードロは『ポケモンの心』が解らないんだから……」 『ユキナリさん、命令を一旦止めてみてくれませんか!』 ユキナリは迷った。ポケモンに命令をする行為が無ければ、自分はただの少年でしか無い。 コエンは強い。でも、己の命令あってこその強さなのでは…… しかし、ヒュードロを捕まえたいと言う気持ちの方が強かった。コエンを瀕死状態にさせるワケにもいかない。 「じゃあ、命令を止めるよ……」 「ユキナリ君、頭の中で命令を出すんだ。きっとヒュードロはコエンの動きとユキナリ君の思考とのずれでダメージを受けるハズ!」 『遠慮なく、戦わせてもらいますよ!』 『ケケ……ケッケー!』 ヒュードロは口を開くと、また『ハイパーボイス』を出そうとした。 コエンは素早く走ると、ヒュードロに組み付き、口を塞ごうとする。しかしコエンが飛びつこうとするとヒュードロの身体をすり抜けてしまった。 「そうか、ゴーストタイプのポケモンには実体が無い!」 ヒュードロにはあらゆる物理的攻撃が効かない。身体に触る事は出来ないのだ。 故に、ヒュードロの攻撃を止める事は出来ない。轟音が鳴り響き、思わず2人は耳を覆った。 『クッ……やっぱり、私には無理なんでしょうか……』 ポケギアを見るとコエンの体力はかなり減らされていた。このまま攻撃をくらい続ければ倒れてしまう。 だがユキナリが命令すれば相手には攻撃方法が筒抜けだ。 (どうすればいいんだ……このままじゃコエンが……でも僕が命令するワケにはいかない……) 「ユキナリ君、僕名案を思いついたんだけど」 「え?」 「ヒュードロは『人の心が解る』んだ。何もユキナリ君だけの心だけを理解出来るだけじゃ無い。 この場にいる人間……そう、僕の心を読む事だって出来るハズだ!」 その時、ユキナリにはユウスケの『名案』が解った。相手の性質を逆手に取る…… それは、バトルにおいてとても大切な事。忘れていた『基本』だ。 「コエン、僕だけの声を聞いてくれ!」 そう呼びかけると、コエンはワケが解らないと言う顔をした。 『それ、どういう意味ですか?』 2人は大きく息を吸い込むと、一斉に大声で命令をした。ユキナリは本当の命令を。ユウスケはデタラメに命令を無茶苦茶に叫び続ける。 ヒュードロは途端にフラフラと体を揺らし始めた。 『?……ケケ……ケ……?』 「いいぞ、僕達の心を読んだせいでパニックになってる!」 「もっと叫び続けるんだ、ユウスケ!」 コエンの耳は研ぎ澄まされており、ユキナリの命令がシッカリと頭の中に入ってきた。 (「コエン、自分が思った通りに攻撃してくれ!」) (『解りましたよ……私が出来る事なら、何でも!』) コエンは身体を震わせると、青白い炎を多数出現させた。まだ頭を振っているヒュードロに向けて一斉に炎を放つ。 『?……!!ケッ、ケケケー!?』 ヒュードロは炎に包まれ、叫び声をあげた。当然攻撃出来ず、ダメージを受けるだけだ。コエンはもう1度鬼火を出し、攻撃の準備をしたが…… 「あれ?ユキナリ君、ヒュードロ……凍ってるよ?」 ヒュードロは鬼火の追加効果を受けて凍ってしまっていた。低確率とはいえ、ありえない事では無い。 ダメージを与えずとも、もう勝負は決まってしまっている。 「ユキナリ君、ボールを!」 モンスターボールがヒュードロの身体に当たり、そのままヒュードロを包み込んで吸い込んだ。ボールは暫く動いていたが、やがてランプが消えて動きが止まる。 「捕まえた……」 ユキナリはホッと一息ついてボールを拾い上げた。 『やりましたね、ユキナリさん!頼りになる仲間が増えましたよ!!』 コエンもダメージをかなり受けていると言うのに相当嬉しそうだ。無理をしているのか胸に手を当てている。 「街についたらすぐにセンターで回復させるからね……」 ユキナリはコエンをボールに戻した。 「これでユキナリ君がゲットしたポケモンの数は5匹か。僕も早くメンツを揃えないとなあ……」 ユウスケは雪の降る空を見上げた。
草むらに停めてあった自転車を再び走らせ、2人はサギーの湖に向かった。 その湖を迂回するルートをとれば、シオガマシティへと向かう為の50番道路に着く。新たなポケモンを捕まえ、はりきるユキナリであった。 ユウスケは50番道路で草ポケモンを捕まえようと考えているらしい。ともかく、サギーの湖を越えてからの話だ……
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