旅罪七話 ( No.9 ) |
- 日時: 2011/03/11 12:04
- 名前: ティス ID:e.oNrK6w
- 七話「機械人形」
魅せられた人間はそう簡単には元に戻らない。 命の危険にさらされるまで、または大きな傷を負うまでそれの虜にされ、過ちを繰り返す。 ただの人間ならその過ちは小さい物かもしれない、それならただ自分自身を壊していくだけだ。
だけど、それがもし、人間や、その人間のポケモンたちの命を握る立場の人間なら?
それらを用いてとんでもないことをすることが出来る、虐殺、破壊、侵略。 何をしてもいい、自分が一番偉いんだから。 止める人なんていない、不満を持っていても魅せられた権力者に反発しようものならその場で制裁を加えればいい……。 皆は、まるで操り人形のように都合よく動いてくれる。
命を握る立場にありながら、国王は無茶苦茶な人だった。 ほしい物は全て手にいれる、気に食わない物は全て壊す。 ずっと一人でいるのが好き、だけど人を動かすのも好き。 欲張りでろくでなしな人柄、そんな国王は嫌われていた。
でも
そんな王の流す涙は誰も知らない、時々見せる悲しそうな表情を知らない。 嫌っている人々はそんな彼の悲しみを、痛みを、その中に宿る孤独を知らない。 悪者扱い、やっていることが酷いから反発することも出来ないが、彼は反発しようとも思っていなかった。 悪いことだと、分かっているから。
何故、悪者になりたいのか、分かっていてそうするのか、誰も聞いたことがなかった。 聞けばきっと、すぐに制裁が待っていると考える人ばかりだったから。
やがて起きた国民の反乱、王を守ろうとするものは誰一人としていないはずだった。 しかしそんな中にもいた、一匹のポケモンが。 心臓部のところにひときわ鮮やかな赤い色の突起物のある、頭の緑以外は何処までも白く美しい体をしたポケモン、「サーナイト」
価値のない人間を守る必要があるのか? そう問えば彼女は間違いなく答えるだろう。 いいえ。
なら何故守るのか、言葉を返せば、彼女は、そっと答えた。 主に仕えることを光栄に思うような表情で、堂々と、迷いのない、限りなく澄んだ美しい瞳のままで。
「あの方は、お優しい方です」
そんな彼女に向かっていった生き物は、みな倒れていった、ただし死んではいない、気絶をしただけ。 主に抗う輩すらも殺さない彼女が言う、「優しい」と。 それは戦争と言える舞台にいたるまで発展した、国民対王の、不利な戦争。 どんなに疲れていても彼女は主を守った、その間病気や寿命で死ぬ者はいても、戦いで死んだものは誰一人としていなかった。
しかしどんなに被害がなくとも、「破壊人」はやってきた、そこが「戦場」だから。 やってきた彼はやはり強く、国民の反乱の波を押し切って彼女のところへと着た。 肩に、長い間パートナーとして日常をともにしてきた「兵器」を乗せて。
毎日戦闘を繰り広げ、おまけに誰一人として殺さないという大きなハンデをつけて戦ってきた、疲れきった彼女は瞬時に悟った。 『ああ、勝てないな……』、と。 それを分かっていても、彼女は戦った、結果はすでに見えていた惨敗、倒れた彼女に、もはや感情がないのではないかと思うくらいに無表情な王は近づいて、もう額を打ち抜かれて息絶えた彼女の風穴付近にそっと指を当て、流れ出た液体でその手を赤に染めた。
ずっと守ってくれていた者が殺されたのに、表情のない顔、それを見て少年は少し腹立たしくなり、彼女を撃ったリボルバーを彼に向ける。 少年の肩に乗っている彼女も同じように怒り、そして王を睨みつける。 しかしそれでも表情は変わらない、王はもうすぐで死ぬかも知れないと言うのに、表情は固まったままで言った。
「どうすれば、よかったんだ? クラエス」
ポツリと小さく出てきた言葉、表情は変わらないままで、その瞳からは涙が流れ始めた。 少年はそれを見て、奇妙に思った後、一つのことが浮かんできた。 『この人は、感情とともに出てくる表情を知らないのではないか』ということが。 そんなことはありえないとも思ったが、今彼は間違いなくそんな状況である、特に表情を出すまいとしているわけではない、表情は一寸も変わらないままただ涙が流れ出している。
しかし、彼の周りにまとわりつく雰囲気は、間違いなく「悲しみ」を帯びていた。
「教えられたことをしても上手く行かない、間違いではないといわれて、やれといわれたことをやっていただけなのに、お前まで失った」
「何 よ り も 、必 要 と し て い た の に」
大きな音、王はそんな風にしか思わなかったかもしれない。 閉じた瞳、暗くなっていった世界。
少年の瞳は怯えていた。 特に王の容姿にはいつもどおりの残酷な赤く染まった穴が開いているだけ、いつもならこんなに怖いと思うことはなかった。 「罪を犯した」、それが少年の中に強く根付いた。
罪を背負うことは覚悟をしていたはずなのに、本当に、この人は悪者なのか、それが分からなくなったのだ。 やることを定められ、植えつけられた機械のようなその人、感情を持つことは強要されなかったのに、権力を振りかざし、他の生き物を苦しめることを強要されたその人に罪があるのかが。 そんな彼に唯一感情を持つことを許してくれた、彼女、誰もが見ていないところで、そんな彼女に向けられた、彼女だけが知っていた王の「優しさ」、少年の前にいた人物にはなかった、「感情」。
殺すことが王にとっては開放だったのかもしれない、だけど、少年がしたかったのはこんな悲しい開放の仕方じゃなかった。 見てしまった、彼に残った、最後の感情がなくなるそのときを。
機械人形の最後の感情を、心の居場所を、奪った。
狂い咲いた傲慢の中で、狂気を埋め込まれた、機械人形は、相変わらず無表情のまま。
必要なものだったのに、必要な存在だったのに、それを奪われたまま。
色づいていない、死んだ世界の中で、「自分自身」を狂気に殺されたまま……。
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