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ポケットモンスターダークブラック 〜邪神復活〜
日時: 2010/09/12 20:27
名前: 夜月光介
参照: http://chiba.cool.ne.jp/kinokohonpo/sirokuro.html

第3章 3話 『リリィとホタル』

 ザロクは話が上手く、思い出話を聞いている内に外はすっかり暗くなっていた。
「あ・・・もう7時か。御免ねこんな時間まで付き合わせちゃって・・・」
「いえ、とっても楽しかったです。」
ザロクは欠伸をしながら立ち上がると、部屋のカーテンを閉める。
「明日から数日間リリィさんに送ってもらって1年ぶりの同窓会だよ。僕達は全員
リーグ関係者だから気軽に会いに行けなくなっちゃったのが辛い所だね。」
「ズリとオボンって奴か。」
「そうだよ。昔は皆ナンブシティに住んでいたんだ。今はキンブシティって言う名前に
変わってるみたいだけどね。今の市長が自分の名前にしたかったんだとか・・・」
ナツミはギンガの表情が変わったのを見逃さなかった。
「どうしたのギンガ。」
「いや・・・兄貴の名前と同じだからちょっと面食らっただけだ。多分別人だろ。」
ギンガも立ち上がり、部屋から出ようとドアのノブに手をかける。ナツミも
その後ろに付いていこうとしたがふと出てきた疑問をそのまま口にした。
「あ、そういえば・・・ザロクさんって能力者なんですか?」
「今は殆ど使ってないけどね。クレヤボヤンスだよ。」
その言葉を聞いた瞬間、ナツミの手は反射的に胸と股間を隠していた。
「ホ、本当に使ってないんですよね!?」
「前は面白がっていたけど、僕ももう24歳だからね。飽きちゃったよ・・・
銭湯の番台に立っている人を想像してもらえば解るだろう?」
「それならいいんですけど・・・」
少々顔を赤くしながらナツミはジムを後にした。

 カテナタウンの施設に戻ってくると、疲労感のせいかギンガはベッドに倒れこんでしまう。
「さっきのクレヤボヤンスってのは何だったんだ?ピンとこなかったんだけどよ。」
「ああ、透視能力よ。物体を透かして見る事が出来る能力ね。」
「なッ・・・!ナツミの裸を見られてたかもしれねぇって事か!?」
「ザロクさん目にマスクしてたから瞳が光ってるのかどうか確認出来なかったし、そんな飢えてる
人には見えなかったから微妙な所なんだけど・・・正直解らないわね。」
「チッ、もし見てたらジムリーダーと言えどもぶん殴ってる所だぜ。」
「でももし見ていたのなら、馬鹿正直に自分の能力を明かすかしら?適当にしらばっくれる事だって
出来たハズよ。私自身としてはそういう人じゃないと信じたいんだけど・・・」
ザロクの瞳が見えなかっただけに、見ていたのか見ていないのかはまるで解らなかった。
ならば何故マスクを付けているのかと暫く水掛け論が続いたが、答えは出ず2人はその論議を
諦め、素直に眠りに付く事にした。

 翌朝・・・2人はそれぞれシャワーを浴び着替えを済ませ、朝食を取ると衣服を外に干し始めた。
「また随分と綺麗に晴れてるわね。雲1つ無い快晴だわ。」
旅は楽しい事だけでは無い。衣服の心配もそうだが食料品の買出し等しなければならない事は
山程ある。そういった面倒な仕事は進んでナツミがこなしていた。
「ふああ・・・しかし足止めが続くな。今日は適当に野試合でもこなすか?」
「そうね。干すのが終わったら私も行くわ。どちらにしても今日は外に出ないとね・・・」
親に貰った金とバトルで得た金だけでは些か心許なかったが、これから先新しい衣服や
食料、それとボールや技マシンの補充は絶対に必要になる。2人にはそれがよく解っていた。
「まだもうちょっとかかりそうだから先にセンターに行っておいて。」
「解った。お前のポケモンもついでに回復してくっから渡してくれ。」
ナツミを残しギンガはポケモンセンターに向かう。

 リューキューの気温は高い。だがカントー等の湿度も高い夏と違ってカラッと晴れているだけ
まだ気持ちの良いものだ。部屋の中の涼しさを感じると余計にそれが解る。
「ウキミソーチー!ココはカテナタウンポケモンセンターでございます!」
自動ドアを抜けると入り口にいた女性職員が挨拶してくれる。他の男性職員も元気な
リューキューの民である事をアピールしているかの様だ。朝8時の時点でかなりのトレーナーが
集まってきていたが、その中に見覚えのある顔を見つけギンガは思わず声をかけた。
「リリィじゃねぇか。お前トレーナーじゃねぇだろ?」
「んー?私じゃないよん。妹が今回復してもらってる所だから。」
リリィの視線の先には赤色の服を着た少女がおり、カウンターでボールが返ってくるのを
待っている様だった。
「へぇ、妹がいたのか。結構歳が離れてるんじゃねぇか?」
「うん。アタシが18で妹が13だからねぇ。今からオメガショップに行く所なんだ。
暇だったら一緒に来ない?人数が多い方がショッピングも楽しいだろうし。」
「俺達も丁度買い物に行く所だったんだ。まぁトレーナーも多いだろうし、野試合も
ある程度はこなせるだろ。」
「おっけー!決まりだね。」
年上とは思えない天真爛漫な笑顔・・・キツネと同じ様に見えるが微かな違いが確かにあった。
(無理をしている・・・)
何かは解らないがリリィには恐らく深い傷があるのだろう。ギンガと同じ様に・・・

 ギンガもセンターで2人分のポケモンの回復を済ませ、リリィ達と合流した。
「アタシの妹、ホタルって言うんだ。仲良くしてあげてね。」
「初めまして、ホタルです!」
赤がかった黒髪と胸元のルビー、腕に付いているリングもクリムゾンレッドと、褐色金髪のリリィとは
随分違う印象の少女だった。透き通る様な色白の肌もリリィと違う所だ。
「とりあえず君の友達の所へ行ってからショップだよね。ホタルと回るのは久しぶりだから
ちょっと楽しみなんだ。良い商品が沢山あると良いね!」
「私も楽しみ!お姉ちゃんに直接会うのも1年ぶりだし、今日は沢山遊びたいな!」
「リーグ関係の仕事か。」
「私、こう見えてもクニガミリーグでは結構有名なんですよ。」
ホタルも明るい利発そうな少女だった。2人が揃うと賑やかさが増幅されていく気がする。
ギンガはあまり五月蝿いのは苦手だった為、とりあえずナツミと合流する為センターから
外に出た。リリィとホタルも後につき施設へと向かう。
施設の方では洗濯物を干し終わったナツミがギンガの到着を待っていた。
「あれ、ギンガ・・・その2人は誰?」
「あ、初めまして!この街で育て小屋やってるリリィです。宜しくねー。」
「!ナツミさん!?」
一見見ただけでは解らなかったのだが、ナツミは少女が自分の名前を知っている事に
反応し彼女を凝視した。服装や雰囲気が異なっているが顔は同じだ。
「ホタルちゃん・・・」
「あれホタル。顔見知りなの?」
「昨日、社で会ったから・・・」
表情を曇らせたホタルに対してナツミは彼女の思いを察した。
「あの場所では違う自分を演じてるのね。大丈夫、誰にも言わないから。」
「すいません・・・私、あそこでは普段の自分になれなくて。」
社で会った時はやたら躾をされている少女だと思ったが、それは単なる演技だったのだろう。
「あー、兄貴の奴五月蝿いからねぇ。アタシの事も嫌ってるしさぁ。」
「私も堅苦しいの嫌いだからそれを強制するお兄ちゃんも嫌い・・・」
ホタルは暫くの間俯いていたが、顔を上げた時には先程の笑顔を取り戻していた。
「じゃあ、行きましょうか!」
嬉しさを抑えきれないのか走り出したホタルをリリィが追いかけた。
「そんなに急がなくっても店は逃げやしないわよ!」
「全く、しょうがねぇなぁ・・・」
ギンガが見せた久しぶりの笑顔に、ナツミの心は癒される。
(この2人との出会いはギンガにとってプラスに働いたみたいね・・・本当に良かったわ。)

 カテナタウンはシティ程の規模では無かったもののなかなかの賑わいを見せている
大きなショップがあった。看板には『Ω』の文字が大きく描かれている。
「オメガショップはこの辺りじゃ一番大きなポケモンショップだねー。ギノザに比べると
品揃えはまだまだかもしれないけど。」
「3階建ての建物自体が珍しいかもしれねぇな。」
御誂え向きと言うべきか、ショップの横にはバトルフィールドが用意されており、トレーナー達が
バトルを楽しんでいる。リーグ休暇中でも普通のトレーナーはレベルを上げる事に熱心な様だ。
「ま、野試合は後でも出来るだろ。まずは買い物しようぜ。」
「ポケモン関係だけじゃなくて食品や化粧品関係まで網羅してる店なんですよ!」
「それはなかなか凄い店ねぇ・・・」
中はセンターと同じく冷房が完備されており、所狭しと商品が並んでいる。
「普通のボールだけじゃなくて、タイマーボールやダークボールなんかも充実してるわね。」
「あっちにあるのは傷薬か。結構広くて狭い通路になってるから迷いそうだな。」
「とりあえず4人で回るのもなんだから、分かれましょう。」

 ジャンケンで別れ方を適当に選んだ結果、ギンガはホタルと、ナツミはリリィと一緒に店を
見て回る事になった。ギンガは真っ先に栄養剤売り場へと向かう。
「もっと早く大量に買い込んでおければ良かったんだがな・・・流石に1本9800円となると
なかなか手が出ねぇぜ・・・」
「私が買ってる香水とかよりも遥かに高いですもんね。」
たった1本の栄養ドリンクさえも子供では手が届かない世界。ギンガは諦めて技マシン売り場の方へと
向かおうとした。それをホタルが呼び止める。
「あっあの・・・良ければ私がケースで買いますよ?」
「お前が!?」
「あんまりココで堂々と言えたものじゃないですけど、私四天王なので・・・」
リーグ四天王ともなれば年間で支給される額は数千万に達する。勿論チャンピオンならば
2年間で数億稼げる程だ。バトルが強ければ何でも手に入る世界でもある。
「あんまり大きな買い物しないので、余ってる位なんですよ・・・お姉ちゃんも
『助けてあげて』って言っていましたし・・・」
ホタルは腰に付けていたポシェットから財布を取り出すと、カードを抜き出し
店員に見せた。店員は暫く驚きのあまり目を見開いていたが、我に返ると
購入する商品の確認をする。
「どの商品をどれだけ購入されるのでしょうか・・・」
「ポケモンの栄養剤を1種類につき100本ずつ。全部ギンガさんのPCに入れて何時でも
使える様にしてあげてください。ギンガさん、自分名義のIDナンバーを覚えてますか?」
「あ、ああ・・・」
呆気に取られたままギンガはIDナンバーをホタルに伝え、店員がそれを確認すると
全ての商品はPCに転送された。カードを持ったままホタルは歩き出す。
「今度は何を買います?・・・大丈夫ですよ。ギンガさんがチャンピオンになったら
返してもらいますから。それまでは無期限の貸しって事で!」
ホタルの冗談もギンガの驚愕を打ち消す事は出来なかった。
(13歳で四天王とは・・・俺も負けてはいられねぇな・・・)

 一方ナツミとリリィの方は食料品コーナーを見て回っていた。
「旅の間ってあんまり良い食事出来ないでしょ。今日の夜は皆で美味しいものでも
食べない?勿論アタシが奢るからさ。」
「そ、そんな!会ったばかりなのにそんな御好意に甘えるワケには・・・」
「大丈夫大丈夫。ザロクさんからも今日の朝イチで旅費貰ってるし、本業の方も頗る
順調だから。結構こう見えてお金持ちなんだよ、アタシは。」
そう言いながら彼女はカートに生卵や胡瓜、チャーシュー肉、そして麺のパックを入れていく。
「料理だってコレ位なら・・・」
どうやらリリィは冷やし中華を御馳走しようとしているらしい。屈託無い笑顔を見ていると
ナツミも心が癒された。
(この人は私と違う・・・人の心を読むと言うか、掴む事が出来る人なのね。)
「あ、そうだ。後でホタルに新しい髪飾りでも買ってあげよっかな。前のやつも
かなり気に入ってくれたみたいだけど・・・」
「優しいんですね。」
ナツミの言葉に対して、リリィはばつが悪そうに頭を掻く。
「アタシも助けられてるからね。妹に。そりゃ血の繋がった妹だから可愛くないって言ったら
嘘になるよー。あと兄貴があんまりにもアレだからその反動もあるのかな。」
「そのお兄さんって・・・?」
「兄貴もホタルと同じ邪神守民・・・いや元々はアタシも一族の末裔なんだけどさ。
何て言うかプライドが高くてアタシやホタルに真面目な態度を強要するのよ。
守民ならば誰に見られても恥ずかしくない様にしろってね。」
「そうだったんですか・・・」
「アタシも色々あって守民の仕事を辞めちゃってね。紫炎拳古武道を習ったり
ジャンパーの能力を鍛えたりして・・・最終的には育て小屋に落ち着いたの。」
ナツミは自分とは違う、辛い人生を歩んできたであろう彼女の事を思った。
「ナツミちゃんも頑張ってね。ギンガ君から色々聞いたけど、あの子は闇に呑まれかかってる。
私も前に同じ経験をしてるからよく解るの。その侵食を食い止められるのは一番近くにいる
貴方しかいない・・・重いかもしれないけど、好きなら全部受け止めてあげないとね・・・」
「はい、覚悟は出来てます。私もギンガも気持ちは同じですから・・・」
前々からその兆候は出てきていた。ナツミ自身は気が付かなかったがナツミにもその兆候が
出始めている。ナツミはギンガを救いたいと思っていたが、本当は2人が支え合って
危うい状態を保っているのだ。ナツミもギンガもまだその事には気が付いていなかった。

 その後それぞれが食料品・衣服・技マシン・ボール等を購入し、合流した時には既に時計は
12時を回っていた。ショップの屋上には何軒かの屋台があり、そこで適当に
食事を取った後4人はバトルフィールドへと向かう。
「まだ昼時だから他のトレーナーがいないねー。」
「まぁ文句は言えねぇよな。誰か来るまで気長に待つしか・・・」
ベンチに座ろうとしたギンガに対して、リリィは手招きをした。
「アタシとやろうよ。アタシもポケモンを育てていないワケじゃ無いんだよ?」
「面白ぇ、やってやろうじゃねぇか。」
ギンガはそのままバトルフィールドの片側に立ち、ナツミ達は側でその戦いを
見守る事になった。
「リリィさんのバトルの腕が全然解らないだけに怖いわね・・・」
「お姉ちゃんは私と同じ炎タイプの使い手なんです。元々は私じゃなくて
お姉ちゃんが『炎邪神守民』の座に着くハズでしたから・・・」
ナツミはホタルがリリィの心の傷を知っているのだと見抜いた。しかしその
傷の正体を聞くワケにもいかず、ギンガの応援に回る。
「頑張ってねギンガー!」
「お姉ちゃん、負けちゃ駄目だよー!!」
「観客が2人だけってのはこういう場所にしちゃ少ねぇよな・・・」
「まぁ良いじゃないそれでも。ところで君に相談があるんだけど。」
「何だよ今相談って。」
「ただ勝負するだけじゃつまらないからさ。アタシ、ポケモンの卵を持ってるのよ。
客からの預かり物じゃ無いし、炎ポケモンでもない奴ね。君が勝ったら
それをあげる。負けたらあげない。別に君が何を賭けるワケでも無し。
どう、悪くない話でしょ?」
「願ってもねぇ話だな。そりゃ当然承諾させてもらおうか。」
リリィは綺麗な歯を見せながら笑うと、ジーンズのポケットからモンスターボールを取り出した。
メンテ

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ポケットモンスターダークブラック 〜邪神復活〜 第4章 1話 『テレビ局の兵達』 ( No.9 )
日時: 2011/01/02 20:04
名前: 夜月光介 ID:YLe3my4.
参照: http://chiba.cool.ne.jp/kinokohonpo/sirokuro.html

 バトルフィールドに投げ入れたボールから出現したミズチは、非常に落ち着かない様子だった。
『マスター、あの人強そうだね・・・』
「ザロクとのバトルで見せたお前の力なら倒せるハズだ。自分の力を信じて戦え。」
『お手柔らかにお願いしますね♪』
握手を求めてきたアリアに対して、ミズチはビクビクしながらもそれに応える。
『大丈夫ですよ、リラックスしてくださいリラックス。ココは楽しくバトルする所。
真剣勝負であっても何かを失う場所じゃ無いんです。お互いにベストを尽くしましょう。』
『は、はい・・・』
優しく微笑むアリアに対して何時の間にか敬語を使っているミズチ。バトルの腕はまだ
未知数だが相手の心をほぐす心得は充分にある様だ。
「アリアはリューキューで新たに見つかったひかりタイプのキメラなんだよ。科学者が
作り出したと言われているんだが、その科学者も誰かは解らないらしいね。」
ギンガはスダの言葉を聞きながら、ポケギアの図鑑項目を開いていた。
『アリア・せいかポケモン・・・リューキューで発見された半人間のポケモンであり、習わなくても
素晴らしい歌唱力を生まれつき持っている。その美しい歌声はどんなに怒り狂っている人間でも
心を鎮め、絶望に苦しんでいる人間でも希望を与えてくれるケンタウロスだ。』
(特殊能力は・・・)
ギンガは図鑑項目からアリアの特殊能力が書かれている項目を選んだ。
『特殊能力・聖歌音域・・・ねむらない。(ねむってしまう技を受けても絶対にねむり状態にならない)』
(眠らせてから叩くって戦法は無理って事か。正攻法でいくしかねぇな・・・)
元々みず・ゴーストタイプのミズチでは相性の悪い相手。ザロクとのバトルや一定の戦いを経て
レベルアップは果たしているものの、みずタイプ一致だけで戦わなければならないのは辛い戦いである。
「新しい技も覚えてるし、お前の今の実力を示すには良い機会だろ。とにかく攻めろ!」
『うん、私頑張るからねマスター!』
ミズチは笑顔でギンガの期待に応えようと身構えた。アリアの方も戦闘態勢に入り真剣な表情へと変わる。
「それじゃあ始めようか。アリア、頼んだよ。」
『解りましたマスター!』

 先に仕掛けてきたのはアリアの方だった。光の鞭を作り出し素早くミズチに迫ると、そのまま鞭での
攻撃に入る。床に向けて素早いスピードで向かってくる鞭の先端をミズチはバックステップで回避した。
『私のきらめくウィップを避けるとはなかなかどうして・・・良い反射神経してるじゃないですか。』
『はッ!!』
避けた直後に放ったみずのはどうが、アリアの顔面に直撃する。よろめいた所で追撃を与えようかどうか
ミズチは迷ったが、アリアがあっと言う間に持ち直したので再び探り合いに戻る事にした。
『驚いちゃいましたよ。今のはお見事でした。私もちょっと本気を出さないといけませんね・・・』
そう言って不敵な笑みを浮かべるアリアからはもう慈愛は感じられない。鞭を手にとって笑うその姿は
まるでその方面の女王の様だった。ミズチも再び回避してからの反撃に専念する。
『届かないとでも思っているんですか?』
アリアが笑ったその瞬間鞭が振り上げられ、ミズチのいるかなり離れた場所へ先端が飛んできた。
あまりにも速いその一撃が避け切れず、咄嗟に頭を動かしたものの肩に命中してしまう。
『まさか、今の一撃で致命を免れるだなんて!』
余裕を見せていたアリアであったが彼女の速さには素直に感服した様子だった。一方ミズチは
肩に苦手なタイプでのダメージを受けてしまい、傷口を押さえながらも相手を睨み付ける。
『私は負けない!』
再び繰り出したみずのはどうは、馬の体では避けにくい後足を狙ったものだった。馬は先に前足を
動かしても後足は同じ位置にある場合が多い。彼女も例外では無く、ダメージを受けてしまう。
『信じられませんね・・・ゴーストタイプのポケモンでありながら私をココまで翻弄するなんて。』
アリアは追い詰められた事が今まで無かったのか、歯軋りしながら悔しがった。そういう細かい所は
やはり馬の様に見える。ミズチの方も追加効果が発動しない事が非常に悔しい。
(眠らなくても混乱状態にはなるハズ。なんとかして相手を混乱状態にしたい・・・!)
「君のミズチは凄いね。タイプ不利を跳ね返してリードしているじゃないか。」
スダの言う通り、経験の浅い進化前のポケモン同士の戦いである事もその一因ではあるが
確かにミズチのバトルセンスは素晴らしいものだった。2度の攻撃命中によって若干ながらも
リードを奪っている。2人のHPは共にイエローゾーンに突入していた。

 「ミズチ、相手は動揺してるぜ。隙を突いて一気に勝負を決めてやれ!」
『うん、大丈夫だよマスター!』
肩の傷を庇ってはいられないとミズチは呼吸を整え、再び構えを取る。
「相手も傷を負っている事には変わりないさ。ココでアドバンテージを取らせて頂く事に
しようかアリア。準備は出来ているね?」
『ハイ、大丈夫ですマスター!』
アリアは呼吸を整えると、胸の前で手を組み美しい歌声を披露し始めた。スダにとっては
相手を眠らせて一方的に攻撃し、コレ以上のダメージを減らしておくつもりであったのだが、
ミズチに対しては逆効果であると言う事を彼は理解していない。
「おっと、こいつはラッキーだな。もう一度ダメージを与えてやれ!」
ミズチはその歌声を無視して再びみずのはどうを放ち、歌う事に集中しているアリアの腹に
命中させた。衝撃で大きくバランスを崩したアリアはそのまま倒れ込んでしまう。
「回復している!?・・・まさか!」
慌ててスダはポケギアの図鑑項目を見ようとしたが既に手遅れである事は彼自身承知していた。
ある程度の予想はついていたのだがそのページを見た瞬間に片手で頭を掻き溜息をついてしまう。
「参ったね・・・」
ミズチの特殊能力は『音波系の攻撃を受けるとその攻撃を無効にして回復する』と言うもの。
音を使わないさいみんじゅつであれば置かれている状況は好転したかもしれないが、体力を完全に
回復したミズチと、今の攻撃で混乱状態に陥ってしまったアリアとでは最早殆ど勝負は決していた。
「アンタのミスだな。有利なタイプである事に驕って相手の力を見誤ったのが悪ぃんだ。」
『マ、マスター・・・頭がフラフラします・・・』
混乱状態に加え先程の攻撃のダメージにより体力は既にレッドゾーンに達している。
同じ攻撃を何度も行なう事はミズチにとっても本意では無いがダメージを与えられる技が他に無いのだから
仕方が無い。掌から発射された水の衝撃波は一直線にアリアに向かって飛んでいく。
『ふわぁ・・・』
ふらつくアリアは無意識に体が横に動いてしまい、結果的にみずのはどうを回避した後きらめくウィップを
振るってミズチにダメージを与えた。鞭が思ったよりも遠くへ飛ぶ事を理解したミズチは一旦距離を取る為に
後退する。アリアは再度手を胸の前で組むと今度は呪文を唱え始めた。
『死なばもろとも・・・ですよぉ・・・』
混乱状態から回復していないアリアであったが運が良く技が次々に決まっている。青白い光に包まれたアリアの
姿を見てギンガはアリアが『みちづれ』を発動した事を悟った。
「クッ、3ターンの間逃げ切って引き分けを狙うつもりか!」
『そうはさせない!』
ミズチは再びみずのはどうを放ちアリアにとどめを刺そうとするが、アリアは俊敏な動きを見せさらに
きらめくウィップを使いミズチを全く寄せ付けない。1ターン経過により青白い光がさらに強くなっていく。
『ウフフ、勝ちを狙いたかったんですが・・・引き分けで妥協する事にしましょう♪』
『嫌だ!私はマスターの為に・・・引き分けよりも勝ちを取る!』
先程の肩に受けた傷のせいか狙いが完全には定まっていないが、腹に狙いを定めて放った一撃が彼女の胸付近に
命中し、吹き飛ばされた彼女は倒れてそのまま動かなくなってしまう。テレビ局での戦い、ギンガはまず1勝を得た。

 『マスター、勝ったよ!私勝っちゃった!!』
「偉いぜミズチ。この調子でもっと強くなってくれよ。」
『うん、もっともっと頑張るからね!』
満面の笑みを浮かべて抱きついてきたミズチの頭を撫でながら、ギンガは少しだけ
複雑な心境だった。娘に対する父親の気持ちが少しだけ理解出来た様な気がしたからだ。
(姉貴に対する親父の気持ちも・・・こんな感じだったんだろうな。)
哀しい記憶が脳裏を掠めたがギンガはそれを振り払い、ミズチをボールに戻すとスダに呼びかける。
「もっとやるか?」
「いや、残念だが休憩時間はそろそろ終わりだ。しかし、君のミズチはなかなかに素早かったよ。
これからの伸びによってはとんでもないポケモンになるかもしれないね。」
スダは倒れているアリアをボールに戻すと、手を振りながらバトルフィールドを後にした。
(確かにミズチはあの下半身にも関わらず素早さに秀でているな。キメラが全てそうなのかは解らねぇが
相手の方もかなり攻撃を回避していた・・・どちらにせよキメラ相手には充分注意する必要がありそうだな。)
暫く座って対戦相手を待っていたギンガであったが、10分程経過した頃人相の悪い男が部屋に入ってきた。
「お?なんだテメェは。完全な部外者じゃねぇかよ。」
「ゴスに言われてついてきたんだ。俺の実力を試す良いチャンスになると思ってるんだが。」
「あー、ゴスの野郎か。って事はかなり『出来る』トレーナーって事だな。面白ぇ・・・」
リーゼントにサングラス、片目に傷。テレビ局の人間とはとても思えぬ風貌の男はへらへら笑いながら
懐からボールを取り出すと、自己紹介をする。
「俺の名はアベ。元々はトーホクでちっとは名の知れた暴走族『ポイズンロッド』の幹部だったんだが、
リーダーのトサカさんが解散表明しちまったもんでココに来てカメラマンの仕事をしてるってワケよ。」
背中に背負っている撮影の為の機材が目に入り、ギンガはやっと彼が局の人間である事を認識した。
(そりゃ元暴走族ならおかしくねぇか・・・にしても裏方しか出来ねぇよなあんな顔じゃ・・・)
「トサカさんは俺よりずっと凄ぇ人だぜ。そんな人についてトレーナーとしての実力を上げる事が出来たのは
俺の誇りよ。テメェがどれだけやれる奴なのか、しっかりと試してやるぜ!」
トサカと言う名前はギンガにも聞き覚えがあった。トーホクのウオマサリーグで四天王をしている・・・
その辺りの知識しか無かったが四天王であると言うだけでその強さは解ろうと言うものだ。
「よし、出てきやがれ俺の相棒!」
アベはバトルフィールドにボールを投げ入れ、虫眼鏡の様な目が特徴的なポケモンを出現させた。
「俺のギョガンカはそんじょそこらの雑魚とはワケが違ぇぜ!」
『おホッ!久しぶりに良いバトルが出来そうですなッ!!』
ギョガンカは巨大な目を瞬きさせながら嬉しそうに笑う。
(魚・・・って事はみずタイプか。もう少し情報が無ぇとな・・・)
ギンガはポケギアの図鑑項目を開き、ギョガンカの情報を確認した。
『ギョガンカ・サーチポケモン・・・巨大な2つの瞳はライトとして機能し、棲処の深海にて
獲物を探したり、また外敵をいち早く発見し逃げる為に使われる。発光器官は目だけでは無く
体にも備わっており、繁殖期に入ると体を光らせて雌を魅了する。』
(みず・ひかりか。まぁひかりタイプだからと言って飛び抜けた強さってワケでも無ぇし・・・)
引き続き彼は相手の特殊能力の確認に移る。
『特殊能力・発光魚眼・・・『ひざしがつよい』状態では技の命中率が半分になってしまうが、『あめ』や『あられ』の状態では攻撃が必ず命中する。』
(チッ。天候を操る技を覚えているポケモンがこっちのパーティにいない以上・・・相手の方は
有利な展開に持ち込む為絶対に天気を変えてくるハズ。厄介な相手だぜ。)
相手も休憩時間を利用してココに来ている。あまり考えている時間は無い。
(まぁ、コイツしかいねぇか・・・)
ギンガは自分の側のバトルフィールドにモンスターボールを投げ入れ、ボルタを出現させた。
『うし!さぁ、サッサとやろうぜ!!』
『随分元気が良いではないですかッ!これは期待出来ますなッ!』
単純な相性ではボルタが勝ってはいるが、天候操作によるダメージの増加は避けられない。
ギンガは素早いボルタを使い相手が有利な状態になる前に仕留めようと考えていた。

 試合開始と同時に動いたのはボルタの方だった。フットワークの軽さも手伝ってあっと言う間に
近距離攻撃の間合いに迫る。ギョガンカもまず相手の攻撃を回避するのが先決と考え跳ね回ったが、
動体視力も優れているボルタの方が一枚上手であった。
『おらよッ!』
電撃を纏った拳が見事ギョガンカに命中し、喰らったギョガンカは吹き飛ばされ床に転がる。
「成程。パワーとスピードの兼ね備えってヤツか。だが俺のギョガンカはタフネスが売りだ!」
まともに攻撃を喰らったものの、ギョガンカの体力はイエローゾーンに入った程度だ。
『ウムウ。なかなかやるではないですかッ!しかし、私の領域に入ってもそれが貫けますかなッ!』
ギョガンカが立ち上がり小声でボソボソと呟くと、バトルフィールドがある部屋の天井に雨雲が
出現し、雨を降らせフィールドの中だけに水辺を作り上げる。『あまごい』による天候変化だろう。
「ボルタ!相手は威力の上がった水タイプ技で攻めるつもりだ。こっちも電気一本でのしてやれ!」
『敵さんも甘くは無いですね。ココは一気に畳みかけますよ!』
右、左と相手に攻撃のチャンスを与えぬ様に距離を縮めていく。だが先程までと違い、膝が水に
浸かった状態でのステップは非常に足が重い。どうしても動きが鈍くなるのだ。
『貴方が私に近付こうとする以上ッ!私を惑わせようとしても無駄ですぞッ!!』
近距離格闘のボルタと遠距離攻撃のギョガンカではボルタの方が分が悪い。どんなに相手が遠くにいようと
攻撃を当てるチャンスがあるギョガンカに対して、ボルタは絶対に近付かなければ攻撃が当たらないからだ。
「よし、一発決めてやれ!」
アベの言葉に応じ、ギョガンカは口から大量の鉄砲水を吐き出した。光線にも匹敵するかの様なその速さに
ボルタは成す術も無く飲み込まれダメージを負う。ボルタの特殊能力もこの攻撃では役に立たない。
『タイプ一致+あめのハイドロポンプか・・・クソッ!』
単なる水を被った程度のダメージでは済まない。体に命中した鉄砲水は体全体に打撃を加えられた様な
ダメージを与える。ボルタはたった一撃でHPを半分以上持っていかれてしまった。
(天候操作は洒落にならねぇな・・・今同じ様に出ていっても格好の的になるだけだ。なら、相手が
変わるまで戦法を変更しねぇと勝てねぇ!)
ギンガと同じ様にボルタもそれを感じていた。遠距離攻撃を何度も行なってくる相手には多少与える
ダメージが少なかろうと遠距離攻撃に切り替えるしか無い。ギョガンカもその手で来るだろうと
考え、遠距離攻撃が飛んできたら回避、すかさずカウンターを決めようと考えていた。
『だが・・・退かねぇーーーッ!!』
ハイドロポンプを喰らい大きく距離を離されたボルタであったが、驚異的なスピードで距離を縮めると
マッハパンチを命中させた。口の下、顎に受けたギョガンカのハイドロポンプは咄嗟に出した攻撃の為
虚しく見当違いの方向へと飛んでいく。アベはボルタの素早さの高さに驚いていた。
「あんな遠くから立て直せるモンか!?信じられねぇ・・・!」
『クッ!しかし所詮は無駄な足掻き。そんな攻撃ではようやっとイーブンになったに・・・』
『勘違いしてるだろ・・・俺はまだアンタの目の前にいるんだぜ?』
マッハパンチはあくまで距離を縮める為だけに使ったジャブに過ぎない。本格的な攻撃は相手が攻撃を
外した後に安全に行なう。ボルタはすかさずもう一度かみなりパンチを喰らわせ、相手の体力を
レッドゾーンにまで追い詰めた。ギョガンカもただやられているワケにはいかない。
『ならばッ!』
ギョガンカはオーロラビームを繰り出し、ボルタをとにかく遠くへ追いやろうとした。咄嗟にボルタが
防御姿勢を取った為深いダメージを与える事は出来なかったが、両者のHPの差は殆ど無くなる。
『コレで勝ちですッ!』
相手を攻撃不能な位置へと追いやったと思い込んでいるギョガンカは、ハイドロポンプを再び放ち
試合を終わらせようとした。だが命中率の高くないハイドロポンプは何度も当たる代物では無い。
遠くにいるからこそ寧ろボルタはその攻撃を回避し、自身の遠距離攻撃を繰り出す。
『アンタと同じ・・・タイプ一致のきあいだまだ!』
放たれた橙色に輝く光球はギョガンカを飲み込むと膨れ上がって爆発し、ギョガンカのHPをゼロにした。
相手の攻め方を見誤ったギョガンカの敗北に、アベはただ黙って項垂れるしか無い。
メンテ

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