微かに残る希望 ( No.9 ) |
- 日時: 2011/01/25 21:44
- 名前: 一葉 ID:4SRIwxyQ
- † 微かに残る希望 †
その場に居合わせたのは本当に偶然だった。 不幸中の幸いなのか。 または、これから始まる全ての出来事の引き金となるのか。
飛び上がったストライクの行く手を遮るように火の粉が上がった。 火の粉を避け身を翻したストライクは、忌々しそうに、彼を見つめる。 その先にいたのは、小さな子供だった。 揺らめく炎ような赤と燈色の身体のポケモン。 「なんだよ、おまえたち」 ブレンは震える声で叫んだ。 それは精一杯の虚勢。 目が覚めたブレンは、ヨーランの買い物に行くという書き置きを見て工房を出た。 商店街のほうか、外れにあるケーキ屋のほうか。 そして、商店街へ足を進めると、チルノが襲われている現場に出くわしたのだ。 ブレンにとってはなけなしの勇気だったのだろう。 「ふざけたことを……」 それは、ストライクの一言で吹き飛んでしまいそうなほど弱々しい。 「ブレンッ!?」 チルノの泣きだしそうな声が空に響く。 「逃げて、チルノ」 ブレンは必死に叫んだ。 チルノは、その言葉に背を向ける。 そのため、その瞬間は見えなかった。
肉がぶつかり合う鈍い音、続いて彼が地に伏せる軽い音と悲鳴が重なった。 「え?」 何事かとチルノは振り向く。 視界に映ったのはただ緑色。 それが何かを理解するより先に、チルノ意識を失っていた。
「くっ」 肩越しに後ろを見ると、追い掛けてくるレディアンの姿が見えた。 捕まったら、命はない。 そんな気がしてヨーランは走り続けた。
だが。
「アスペリオ、事を荒立てる必要はない」 リオルがレディアンの肩に手を置くとそう言った。 「いいのかよ、リオン、手掛かりになるぜ?」 エレブーは走り去っていくヨーランの後ろ姿を眺めていた。 「構わない」 リオンと呼ばれたリオルはそういうと歩き始めた。 「波紋ってやつを使うのか? 臭いを追うんだっけ」 アスペリオが納得したように呟く。 「残留した思念の気配だ」 リオルが言い放つ。 波紋ポケモンと呼ばれるリオルは、大気に伝わる意志やエネルギーの波動を読み取ることができるのだ。 それを応用すれば、逃げた相手を追うことなど容易である。 だが…… 「その必要もない」 「どう言うことだ?」 尋ねてきたエレブー、レイベルにリオンは冷たく返す。 「隊長が戦闘を始めた、見つけたんだろ、巫女を」 それも波紋の力である。 距離があるため微弱ではあるが、隊長、ストライクのハルシファムの波動を感じた。 「合流するぞ」 リオンはそういうと、ヨーランが逃げた道とは別の方向へ駆けて行く。
なんとか工房まで逃げ帰ったヨーランは、ブレンがいないことに気付いた。 誰もいない工房で、ヨーランは歯を食い縛る。
――だから、あたしがさらわれないように気を付けるの。
脳裏によぎる彼女の言葉。 チルノは無事だろうか? ヨーランは仲間たちの無事を祈りながら、テーブルの上に置いてあったナイフを……チルノのお守りに、誕生日のプレゼントにと、ブレンと二人で作ったナイフの形の装飾品を手に取ると外へと飛び出した。
チルノが買い物に行ったとしたら、商店街かケーキ屋だろう。 そして、ケーキ屋にはいなかった。 だから、いるのは商店街。 ヨーランは商店街を目指して走り続けた。
そして、商店街に辿り着いたとき、ヨーランは愕然とした。 「嘘……だよ……」 死屍累々と街の人たちがそこかしろに転がっている。 「パラヴィおばさん、ファーウェル兄ちゃん」 近くにいたパラセクトとアブソルに駆け寄る。 だが、もう息はなかった。 生きているポケモンもいた。 それ以上に、多くのポケモンたちが命を奪われ、打ち捨てられていた。 これが現実なのか、それすらもわからなくなりそうでヨーランは泣き出した。
「……ヨォ……ラン……」 自分の名前を呼ぶ声にヨーランは振り向いた。 「ブレン!?」 ヨーランは倒れていた親友を抱き起こす。 他のポケモンにあるような大きな傷、鋭い刃物で斬り裂かれたような傷はない。 「ブレン、よかった、ブレン」 泣き崩れるヨーランをブレンが制する。 「ヨーラン……チルノが、チルノが……」 それはヨーランの脳裏に描かれた最悪の結果。 それが、親友の口から直接形にされる。 「……連れて……いかれたっ」
――だから、あたしがさらわれないように気を付けるの。
彼女は言っていた。 守ってほしいと、彼女は言っていたのだ。 怖かったから、守ってほしいと。 工房を出ていったときの、チルノのムッとした表情が甦る。 ヨーランはわかってやれなかった。 そして、守ってもやれなかった。 連れていかれてしまった。
「……ヨーラン……チルノを……チルノを助けて!」 ブレンの言葉が、ヨーランの胸に突き刺さる。 守れなかった、守らなきゃいけなかったのに。 「……まだ」 ヨーランが思い切り涙を拭うと立ち上がった。 「まだ間に合う、チルノを連れ戻すんだ!」
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