災いの来たる気配 ( No.8 ) |
- 日時: 2011/01/10 03:24
- 名前: 一葉 ID:QjLrtwIE
- † 災いの来たる気配 †
「ヨーラン、完成だよ」 この数日間工房に泊まり込んでいたブレンが満足げに呟いた。 ブレンの手には、一振りのナイフが握られている。 まず目を引くのは、紅に輝く刀身だった。 以前あった凹凸はもはや影もなく、鋼特有の光沢が光を反射する。 鍔飾りはなく、紅鉄でできた柄部分には鞣した革が巻いてある。 刃は滑らかに仕上げてあるが、磨いではいないため切れるものではないが、見た目はナイフそのものであった。 時刻は既に朝の五時を指していた。 今日は大晦日である。 「なんとか間に合ったね」 ヨーランは疲れ切った様子で言う。 だが、その表情はブレンと同じく、嬉しそうであった。 「うん、よかっ……た……」 ブレンは両手を上げ、身体を伸ばし、そのまま仰向けに倒れると寝息をたて始めた。 その様子に苦笑しながら、ヨーランも座り込んだまま眠りについた。
チルノが工房に顔を出したとき、二人は地面に転がって眠っていた。 最近、何かを忙しく作っていたのは知っている。 昨日も遅くまで起きていたのだろう。 仕方がない、とため息を吐いて二人に毛布をかけてやる。 それから、今日のパーティのための料理の材料を買いに行こうと工房を出た。 時刻は、昼の一時を過ぎた頃だった。
その頃、シトレンチノ南部。 山間を抜けていく小沢のそばに、彼らはいた。 「この先か?」 赤い身体に四つの腕を持つ虫ポケモンが言った。 その背中には星のような黒い斑点が五つある。 レディアン。 「そうらしい」 黄色と黒の稲妻模様のポケモンが答える。 エレブーだ。 「また間違いでしたじゃ洒落にならねえぜ」 岩盤のような硬そうな皮膚に覆われたポケモンが笑い声を上げる。 その鼻先にはドリルのように螺旋を描いた角があった。 サイドンである。 「笑い事じゃない」 全身に紺色の毛皮を纏うポケモンがそれを諫める。 彼の腕には宝石のように輝く石が埋まっていた。 リオル。 「……そうだな」 両手に鋭い鎌を備えた緑色の虫ポケモン、ストライクが立ち上がる。 「巫女には傷一つ付けるな、邪魔するものは殺しても構わん」 彼は言いながら、真紅に染められた胸当てを身に付ける。 それに倣うように、四人もそれぞれの武具を身に付け始めた。 「腕がなるな」 全身に重厚なプロテクターを纏っていくサイドン。 「遊びすぎるなよ」 エレブーは両腕に銅を巻いた鉄鋼をはめた。 「わかってるさ、殺しをするために来たんじゃない」 そう言ってレディアンは四本の刀を腰に提げた。 リオルが両腕に碧く輝く小手をはめるのを確認すると、ストライクは胸当てと同色の兜を被った。 「行くぞ、巫女を見つけるまでは暴れるなよ」
目を覚ましたヨーランは買い物に出ていた。 木の実の粉を固めて焼いたケーキを三つ。 ヨーランと、ブレンと、チルノのぶんだ。 「チルット?」 突然聞こえた声にヨーランは振り向いた。 店主のチェリムの話を聞いていたのはヨーランは知らない顔だった。 シトレンチノは大きな街ではない、それ故に街の住人はすべてが顔見知りである。 エレブーにリオル、レディアン。 この街のポケモンではない。 「あぁ、十歳くらいの女の子なんだけど」 三匹の中でリオルが説明する。 「配達の時に忘れ物をしていったんだ」 すぐに、それがチルノのことだとわかった。 この街に住んでいるチルットで、配達の仕事をしているのはチルノだけだ。 だが、ヨーランは彼らに声をかけることはできなかった。 女の子の誘拐。 そんな言葉がヨーランの脳裏をよぎった。 そんなことあるもんか、と言い聞かせるが、嫌な予感は消えない。 「あそこの子が友達だから、話を聞くといい」 そう言って、店主はヨーランを指差す。 背筋に冷たいものが走るのをヨーランは感じていた。 本能が告げる。 奴らと関わってはいけない。 次の瞬間にはヨーランはケーキを投げ出して走りだしていた。
ほぼ同時刻。 チルノは自分の名前が呼ばれたことに気付き振り向いた。 その先にいたのは、近所に住むパラセクトのおばさんと、見知らぬストライクとサイドンだった。 二人は、この街に住むポケモンではない。 「たぶんチルノちゃんだよ」 パラセクトがそう言った。 「大変だねぇ、わざわざ忘れ物を届けに来てくれたんだって?」 ふと、心の奥が騒ぎ立つのをチルノは感じた。 なぜなら、チルノは配達の時に忘れ物をしたことなどないからだ。 そして、他の街に行くのは配達の時くらいなのだ。 この街の住人ではない彼らに届けてもらう忘れ物などないはずだった。 チルノちゃんの家はね、と説明するパラセクトをストライクは制する。 「いいですよ、もう……」 ここに居てはいけない、そんな錯覚に陥りチルノは翼を広げ飛び立つ。 だが、それはもう遅かったのかもしれない。 ストライクにはパラセクトなど既に眼中にない。 彼の眼が捉えるのはただ一人。 「見つけましたから」 そしてストライクは冷たく言い放った。
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