7. 閉じられた出会い ( No.8 ) |
- 日時: 2010/09/07 00:48
- 名前: Pause
- 「なァんてな」
そう言って、白い歯を覗かせる。声を硬くするときの表情とまるで違う、締まりのない顔だった。 「からかってんのか!」 「よく分かったなァ!」 あっはっはとまた大きな声を上げてヴィオレントは笑う。すこぶる機嫌が良い。ジャスティスは眉をしかめ歯軋りするしかなかった。 白い建物が近づいてくる。硝子のドアの上に、平たい屋根がせり出している。壁はのっぺりとして、正面には窓ひとつついていないが、建物の側面にいくつかの小さな窓がある。四階建てほどのそれの屋上に、鉄骨のドームがある。 「アレが俺の城」 なァんて、プラシードに怒鳴られるなァ、と一人ごちてヴィオレントはおかしげに喉を鳴らす。そして足を止めた。 「悪ィけど、こっからは自分で歩いてくれな」 そう言って、ジャスティスをそっと草が淡く生える地に下ろす。途端反対へ駆け出したジャスティスに、ヴィオレントはすんでのところで足を引っ掛け、二人もろとも足から転んだ。草が匂う。ジャスティスは泣くまいと歯を食いしばり、涙を溜めた目でヴィオレントを睨みつけた。 「ホラ」 ヴィオレントが手を差し伸べる。ジャスティスはしばらく逡巡して睨みつけ、やがて身体の草や砂を払うと、背の小さな翅をはばたかせて立ち上がった。それでもヴィオレントは、逃げないようにと半ば引きずるようにジャスティスの手を引いた。 「おにーさんの言うことはちゃんと聞いとけよォ? 長い付き合いになるンだ」 「なるか!」 ジャスティスが噛みつかんばかりに叫ぶと、ヴィオレントは人差し指を口に当てて焦ったような顔をした。 回転扉が静かに佇み、二人の姿を映して見つめ返している。硝子越しに、うごめく影が見える。
ジャスティスはなす術もなく、ヴィオレントについて歩く。磨かれた鏡のようなホールを過ぎて左に曲がり、自動ドアをくぐってはうねる中を道なりに進み、エレベーターで上へと昇る。その中で何人かとすれ違う度、彼等は必ずヴィオレントに一礼を返した。この建物の中でヴィオレントは高い地位につく人間なのだろう。やがてジャスティスがどんな道をたどってきたのか分からなくなるころ、ヴィオレントは扉をひとつ開けた。ティールブルーに金の縁取りがされたその扉は、白く磨かれ抜いたプラスティックのような質感の廊下には、あまりにも重く見えた。 「ここで待っててくれな」 ヴィオレントはジャスティスを押し込むと、何かに目配せをして扉を慎重に閉めた。 ジャスティスは硝子のローテーブルを見た。古びた本が閉じられて載っている。革張りのソファ。そこに、少女が座っていた。露出した肩に落ちる黒髪が、黒い。その髪はきちんと四つにまとめられている。青地に黒の模様が入った長い袖を、二の腕の半ばで絞って留めている。ベルスリーブを纏う細い腕と脚はきちんと揃えられている。山吹色をしたトップス、同じ色の深いファーに紛れた表情は、ジャスティスには悲しみに近く見えた。 「あなたは……?」 ジャスティスが何も言えぬうちに、顔を上げて少女が問う。 「じゃ……ジャスティス・サルファー」 少女はゆっくりとジャスティスを眺めた。一房だけ跳ねた髪、前髪は短いが真ん中の数房だけ鼻まで伸びている。髪と同じ薄紫の瞳は、瞳孔だけが黒に近い。それは今、戸惑って揺れている。紫と象牙色のボーダー柄の半袖シャツ、背には小さな翅。サスペンダーで吊った大きめのホウボウに、砂の汚れが少しついている。 少女はジャスティスより遠くを見るような目で、呟いた。赤い瞳はジャスティスに言葉を許さない。 「ジャスティス……あなたが……」 か細い声の重さに耐え切れずに、ジャスティスは身じろぐ。しばらくして、少女はジャスティスに視線を戻した。 「わたしは、ルーナ。ルーナ・ディ・フォーチュン」
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