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ポケットモンスターダークブラック 〜邪神復活〜
日時: 2010/09/12 20:27
名前: 夜月光介
参照: http://chiba.cool.ne.jp/kinokohonpo/sirokuro.html

第3章 3話 『リリィとホタル』

 ザロクは話が上手く、思い出話を聞いている内に外はすっかり暗くなっていた。
「あ・・・もう7時か。御免ねこんな時間まで付き合わせちゃって・・・」
「いえ、とっても楽しかったです。」
ザロクは欠伸をしながら立ち上がると、部屋のカーテンを閉める。
「明日から数日間リリィさんに送ってもらって1年ぶりの同窓会だよ。僕達は全員
リーグ関係者だから気軽に会いに行けなくなっちゃったのが辛い所だね。」
「ズリとオボンって奴か。」
「そうだよ。昔は皆ナンブシティに住んでいたんだ。今はキンブシティって言う名前に
変わってるみたいだけどね。今の市長が自分の名前にしたかったんだとか・・・」
ナツミはギンガの表情が変わったのを見逃さなかった。
「どうしたのギンガ。」
「いや・・・兄貴の名前と同じだからちょっと面食らっただけだ。多分別人だろ。」
ギンガも立ち上がり、部屋から出ようとドアのノブに手をかける。ナツミも
その後ろに付いていこうとしたがふと出てきた疑問をそのまま口にした。
「あ、そういえば・・・ザロクさんって能力者なんですか?」
「今は殆ど使ってないけどね。クレヤボヤンスだよ。」
その言葉を聞いた瞬間、ナツミの手は反射的に胸と股間を隠していた。
「ホ、本当に使ってないんですよね!?」
「前は面白がっていたけど、僕ももう24歳だからね。飽きちゃったよ・・・
銭湯の番台に立っている人を想像してもらえば解るだろう?」
「それならいいんですけど・・・」
少々顔を赤くしながらナツミはジムを後にした。

 カテナタウンの施設に戻ってくると、疲労感のせいかギンガはベッドに倒れこんでしまう。
「さっきのクレヤボヤンスってのは何だったんだ?ピンとこなかったんだけどよ。」
「ああ、透視能力よ。物体を透かして見る事が出来る能力ね。」
「なッ・・・!ナツミの裸を見られてたかもしれねぇって事か!?」
「ザロクさん目にマスクしてたから瞳が光ってるのかどうか確認出来なかったし、そんな飢えてる
人には見えなかったから微妙な所なんだけど・・・正直解らないわね。」
「チッ、もし見てたらジムリーダーと言えどもぶん殴ってる所だぜ。」
「でももし見ていたのなら、馬鹿正直に自分の能力を明かすかしら?適当にしらばっくれる事だって
出来たハズよ。私自身としてはそういう人じゃないと信じたいんだけど・・・」
ザロクの瞳が見えなかっただけに、見ていたのか見ていないのかはまるで解らなかった。
ならば何故マスクを付けているのかと暫く水掛け論が続いたが、答えは出ず2人はその論議を
諦め、素直に眠りに付く事にした。

 翌朝・・・2人はそれぞれシャワーを浴び着替えを済ませ、朝食を取ると衣服を外に干し始めた。
「また随分と綺麗に晴れてるわね。雲1つ無い快晴だわ。」
旅は楽しい事だけでは無い。衣服の心配もそうだが食料品の買出し等しなければならない事は
山程ある。そういった面倒な仕事は進んでナツミがこなしていた。
「ふああ・・・しかし足止めが続くな。今日は適当に野試合でもこなすか?」
「そうね。干すのが終わったら私も行くわ。どちらにしても今日は外に出ないとね・・・」
親に貰った金とバトルで得た金だけでは些か心許なかったが、これから先新しい衣服や
食料、それとボールや技マシンの補充は絶対に必要になる。2人にはそれがよく解っていた。
「まだもうちょっとかかりそうだから先にセンターに行っておいて。」
「解った。お前のポケモンもついでに回復してくっから渡してくれ。」
ナツミを残しギンガはポケモンセンターに向かう。

 リューキューの気温は高い。だがカントー等の湿度も高い夏と違ってカラッと晴れているだけ
まだ気持ちの良いものだ。部屋の中の涼しさを感じると余計にそれが解る。
「ウキミソーチー!ココはカテナタウンポケモンセンターでございます!」
自動ドアを抜けると入り口にいた女性職員が挨拶してくれる。他の男性職員も元気な
リューキューの民である事をアピールしているかの様だ。朝8時の時点でかなりのトレーナーが
集まってきていたが、その中に見覚えのある顔を見つけギンガは思わず声をかけた。
「リリィじゃねぇか。お前トレーナーじゃねぇだろ?」
「んー?私じゃないよん。妹が今回復してもらってる所だから。」
リリィの視線の先には赤色の服を着た少女がおり、カウンターでボールが返ってくるのを
待っている様だった。
「へぇ、妹がいたのか。結構歳が離れてるんじゃねぇか?」
「うん。アタシが18で妹が13だからねぇ。今からオメガショップに行く所なんだ。
暇だったら一緒に来ない?人数が多い方がショッピングも楽しいだろうし。」
「俺達も丁度買い物に行く所だったんだ。まぁトレーナーも多いだろうし、野試合も
ある程度はこなせるだろ。」
「おっけー!決まりだね。」
年上とは思えない天真爛漫な笑顔・・・キツネと同じ様に見えるが微かな違いが確かにあった。
(無理をしている・・・)
何かは解らないがリリィには恐らく深い傷があるのだろう。ギンガと同じ様に・・・

 ギンガもセンターで2人分のポケモンの回復を済ませ、リリィ達と合流した。
「アタシの妹、ホタルって言うんだ。仲良くしてあげてね。」
「初めまして、ホタルです!」
赤がかった黒髪と胸元のルビー、腕に付いているリングもクリムゾンレッドと、褐色金髪のリリィとは
随分違う印象の少女だった。透き通る様な色白の肌もリリィと違う所だ。
「とりあえず君の友達の所へ行ってからショップだよね。ホタルと回るのは久しぶりだから
ちょっと楽しみなんだ。良い商品が沢山あると良いね!」
「私も楽しみ!お姉ちゃんに直接会うのも1年ぶりだし、今日は沢山遊びたいな!」
「リーグ関係の仕事か。」
「私、こう見えてもクニガミリーグでは結構有名なんですよ。」
ホタルも明るい利発そうな少女だった。2人が揃うと賑やかさが増幅されていく気がする。
ギンガはあまり五月蝿いのは苦手だった為、とりあえずナツミと合流する為センターから
外に出た。リリィとホタルも後につき施設へと向かう。
施設の方では洗濯物を干し終わったナツミがギンガの到着を待っていた。
「あれ、ギンガ・・・その2人は誰?」
「あ、初めまして!この街で育て小屋やってるリリィです。宜しくねー。」
「!ナツミさん!?」
一見見ただけでは解らなかったのだが、ナツミは少女が自分の名前を知っている事に
反応し彼女を凝視した。服装や雰囲気が異なっているが顔は同じだ。
「ホタルちゃん・・・」
「あれホタル。顔見知りなの?」
「昨日、社で会ったから・・・」
表情を曇らせたホタルに対してナツミは彼女の思いを察した。
「あの場所では違う自分を演じてるのね。大丈夫、誰にも言わないから。」
「すいません・・・私、あそこでは普段の自分になれなくて。」
社で会った時はやたら躾をされている少女だと思ったが、それは単なる演技だったのだろう。
「あー、兄貴の奴五月蝿いからねぇ。アタシの事も嫌ってるしさぁ。」
「私も堅苦しいの嫌いだからそれを強制するお兄ちゃんも嫌い・・・」
ホタルは暫くの間俯いていたが、顔を上げた時には先程の笑顔を取り戻していた。
「じゃあ、行きましょうか!」
嬉しさを抑えきれないのか走り出したホタルをリリィが追いかけた。
「そんなに急がなくっても店は逃げやしないわよ!」
「全く、しょうがねぇなぁ・・・」
ギンガが見せた久しぶりの笑顔に、ナツミの心は癒される。
(この2人との出会いはギンガにとってプラスに働いたみたいね・・・本当に良かったわ。)

 カテナタウンはシティ程の規模では無かったもののなかなかの賑わいを見せている
大きなショップがあった。看板には『Ω』の文字が大きく描かれている。
「オメガショップはこの辺りじゃ一番大きなポケモンショップだねー。ギノザに比べると
品揃えはまだまだかもしれないけど。」
「3階建ての建物自体が珍しいかもしれねぇな。」
御誂え向きと言うべきか、ショップの横にはバトルフィールドが用意されており、トレーナー達が
バトルを楽しんでいる。リーグ休暇中でも普通のトレーナーはレベルを上げる事に熱心な様だ。
「ま、野試合は後でも出来るだろ。まずは買い物しようぜ。」
「ポケモン関係だけじゃなくて食品や化粧品関係まで網羅してる店なんですよ!」
「それはなかなか凄い店ねぇ・・・」
中はセンターと同じく冷房が完備されており、所狭しと商品が並んでいる。
「普通のボールだけじゃなくて、タイマーボールやダークボールなんかも充実してるわね。」
「あっちにあるのは傷薬か。結構広くて狭い通路になってるから迷いそうだな。」
「とりあえず4人で回るのもなんだから、分かれましょう。」

 ジャンケンで別れ方を適当に選んだ結果、ギンガはホタルと、ナツミはリリィと一緒に店を
見て回る事になった。ギンガは真っ先に栄養剤売り場へと向かう。
「もっと早く大量に買い込んでおければ良かったんだがな・・・流石に1本9800円となると
なかなか手が出ねぇぜ・・・」
「私が買ってる香水とかよりも遥かに高いですもんね。」
たった1本の栄養ドリンクさえも子供では手が届かない世界。ギンガは諦めて技マシン売り場の方へと
向かおうとした。それをホタルが呼び止める。
「あっあの・・・良ければ私がケースで買いますよ?」
「お前が!?」
「あんまりココで堂々と言えたものじゃないですけど、私四天王なので・・・」
リーグ四天王ともなれば年間で支給される額は数千万に達する。勿論チャンピオンならば
2年間で数億稼げる程だ。バトルが強ければ何でも手に入る世界でもある。
「あんまり大きな買い物しないので、余ってる位なんですよ・・・お姉ちゃんも
『助けてあげて』って言っていましたし・・・」
ホタルは腰に付けていたポシェットから財布を取り出すと、カードを抜き出し
店員に見せた。店員は暫く驚きのあまり目を見開いていたが、我に返ると
購入する商品の確認をする。
「どの商品をどれだけ購入されるのでしょうか・・・」
「ポケモンの栄養剤を1種類につき100本ずつ。全部ギンガさんのPCに入れて何時でも
使える様にしてあげてください。ギンガさん、自分名義のIDナンバーを覚えてますか?」
「あ、ああ・・・」
呆気に取られたままギンガはIDナンバーをホタルに伝え、店員がそれを確認すると
全ての商品はPCに転送された。カードを持ったままホタルは歩き出す。
「今度は何を買います?・・・大丈夫ですよ。ギンガさんがチャンピオンになったら
返してもらいますから。それまでは無期限の貸しって事で!」
ホタルの冗談もギンガの驚愕を打ち消す事は出来なかった。
(13歳で四天王とは・・・俺も負けてはいられねぇな・・・)

 一方ナツミとリリィの方は食料品コーナーを見て回っていた。
「旅の間ってあんまり良い食事出来ないでしょ。今日の夜は皆で美味しいものでも
食べない?勿論アタシが奢るからさ。」
「そ、そんな!会ったばかりなのにそんな御好意に甘えるワケには・・・」
「大丈夫大丈夫。ザロクさんからも今日の朝イチで旅費貰ってるし、本業の方も頗る
順調だから。結構こう見えてお金持ちなんだよ、アタシは。」
そう言いながら彼女はカートに生卵や胡瓜、チャーシュー肉、そして麺のパックを入れていく。
「料理だってコレ位なら・・・」
どうやらリリィは冷やし中華を御馳走しようとしているらしい。屈託無い笑顔を見ていると
ナツミも心が癒された。
(この人は私と違う・・・人の心を読むと言うか、掴む事が出来る人なのね。)
「あ、そうだ。後でホタルに新しい髪飾りでも買ってあげよっかな。前のやつも
かなり気に入ってくれたみたいだけど・・・」
「優しいんですね。」
ナツミの言葉に対して、リリィはばつが悪そうに頭を掻く。
「アタシも助けられてるからね。妹に。そりゃ血の繋がった妹だから可愛くないって言ったら
嘘になるよー。あと兄貴があんまりにもアレだからその反動もあるのかな。」
「そのお兄さんって・・・?」
「兄貴もホタルと同じ邪神守民・・・いや元々はアタシも一族の末裔なんだけどさ。
何て言うかプライドが高くてアタシやホタルに真面目な態度を強要するのよ。
守民ならば誰に見られても恥ずかしくない様にしろってね。」
「そうだったんですか・・・」
「アタシも色々あって守民の仕事を辞めちゃってね。紫炎拳古武道を習ったり
ジャンパーの能力を鍛えたりして・・・最終的には育て小屋に落ち着いたの。」
ナツミは自分とは違う、辛い人生を歩んできたであろう彼女の事を思った。
「ナツミちゃんも頑張ってね。ギンガ君から色々聞いたけど、あの子は闇に呑まれかかってる。
私も前に同じ経験をしてるからよく解るの。その侵食を食い止められるのは一番近くにいる
貴方しかいない・・・重いかもしれないけど、好きなら全部受け止めてあげないとね・・・」
「はい、覚悟は出来てます。私もギンガも気持ちは同じですから・・・」
前々からその兆候は出てきていた。ナツミ自身は気が付かなかったがナツミにもその兆候が
出始めている。ナツミはギンガを救いたいと思っていたが、本当は2人が支え合って
危うい状態を保っているのだ。ナツミもギンガもまだその事には気が付いていなかった。

 その後それぞれが食料品・衣服・技マシン・ボール等を購入し、合流した時には既に時計は
12時を回っていた。ショップの屋上には何軒かの屋台があり、そこで適当に
食事を取った後4人はバトルフィールドへと向かう。
「まだ昼時だから他のトレーナーがいないねー。」
「まぁ文句は言えねぇよな。誰か来るまで気長に待つしか・・・」
ベンチに座ろうとしたギンガに対して、リリィは手招きをした。
「アタシとやろうよ。アタシもポケモンを育てていないワケじゃ無いんだよ?」
「面白ぇ、やってやろうじゃねぇか。」
ギンガはそのままバトルフィールドの片側に立ち、ナツミ達は側でその戦いを
見守る事になった。
「リリィさんのバトルの腕が全然解らないだけに怖いわね・・・」
「お姉ちゃんは私と同じ炎タイプの使い手なんです。元々は私じゃなくて
お姉ちゃんが『炎邪神守民』の座に着くハズでしたから・・・」
ナツミはホタルがリリィの心の傷を知っているのだと見抜いた。しかしその
傷の正体を聞くワケにもいかず、ギンガの応援に回る。
「頑張ってねギンガー!」
「お姉ちゃん、負けちゃ駄目だよー!!」
「観客が2人だけってのはこういう場所にしちゃ少ねぇよな・・・」
「まぁ良いじゃないそれでも。ところで君に相談があるんだけど。」
「何だよ今相談って。」
「ただ勝負するだけじゃつまらないからさ。アタシ、ポケモンの卵を持ってるのよ。
客からの預かり物じゃ無いし、炎ポケモンでもない奴ね。君が勝ったら
それをあげる。負けたらあげない。別に君が何を賭けるワケでも無し。
どう、悪くない話でしょ?」
「願ってもねぇ話だな。そりゃ当然承諾させてもらおうか。」
リリィは綺麗な歯を見せながら笑うと、ジーンズのポケットからモンスターボールを取り出した。
メンテ

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ポケットモンスターダークブラック 〜邪神復活〜 ( No.7 )
日時: 2010/11/15 19:48
名前: 夜月光介 ID:dV7cMGmo
参照: http://chiba.cool.ne.jp/kinokohonpo/sirokuro.html

第3章 9話 『再会』

 ガーロムンによって発射されたがんせきほうは攻撃前の硬質化状態にあるニッケルに
向かって一直線に飛んでいく。しかしがんせきほうはギリギリの所で外れ、そのまま
部屋の壁の方へと飛んでいってしまった。
(は、外れた!?)
狙いが僅かにずれたのかがんせきほうは不発に終わる。しかしこの場合反動ペナルティは無い為
次の攻撃がまひによって不発に終わればもう一度がんせきほうを繰り出せる。
(勝つのがちょっと遅くなっただけだ。不発で勝ち。当たったとしても耐えれば勝ち。
大丈夫、こちらの負けは無いハズだ。負けは・・・)
心の中ではそう思っていても、1つのミスから生まれる動揺と言うものは大きい。ギンガには
狼狽しているザロクの姿がハッキリ映っていた。
「追い詰めている方が、実は最も追い詰められているモンなんだぜ。負けられねぇってプライドや
プレッシャーを強く感じちまうからな!」
ニッケルのメタルバードもまひを乗り越え無事成功した。鋼の翼を広げ、ガーロムンに向かって
突撃し渾身の力で体当たりをくらわせる。そのスピードはナツミやリリィの肉眼では捉えられない
程のスピードだった。そのまま壁に叩きつけられるガーロムン。もしHPが残っていれば
もう一度がんせきほうを撃つ事が出来る。残っていなければ・・・

 「どうして、僕は勝てないんだろう・・・」
ザロクの頭の中で昔の自分の声が聞こえた様な気がした。目の前の視界が消え、昔の光景が蘇る。
「お前はポケモンに対して優し過ぎるんだよ。もっと精神的にも強くならねぇとな。」
「でもさ、私達相当強くなったと思うよ。将来の夢・・・3人皆ジムリーダーって夢を
絶対果たそうね。アイの為にも!」
ザロク達は死んでしまったアイの為に、アイの分まで生きようと誓っていた。そしてアイが持っていた
もう1つの夢・・・ジムリーダーになりたいと言う夢を3人全員で叶えると言う目標もある。
(私ね、何時かもっと強くなって・・・ジムリーダーになるの。ズリやザロク、オボンに負けない位の
強くてかっこいい素敵なジムリーダーに!そしたら・・・そこで戦ってほしいな。)
幼い頃の夢は違っていたが、今の夢は3人皆アイの為に叶えようとしていた夢だった。
ひたすらに強くあろうとした。離れ離れになってまで、それぞれの街から動けないジムリーダーの職を
掴んででも、夢を叶えたかった。勝ち続けて、アイの夢を確固たるものにしてあげたかった・・・

 「・・・僕は、どうして・・・」
ガーロムンが最早動けないと言う事を理解したザロクはその場に崩れ落ち涙を流す。
あらゆる点で運がギンガに味方した戦いだったとも言えるだろう。しかし追い詰められた側である
ギンガも勝ち誇る余裕は全く無かった。
「ジムリーダーだな・・・やっぱり。何度も危ねぇと思わされた。正直生きた心地がしなかったぜ。」
ナツミも駆け寄ってギンガを祝福してやりたかったが、試合の結果に驚き呆然としている。
(凄い試合・・・私もこんな勇気を持てるのかな。勝とうと思う勇気を・・・)
「負ける可能性を考えていたらああいう博打には出れないだろうねー。ホントにおめでとう。
結果を聞いたらきっとホタルも喜ぶと思うよ!」
リリィは2人の健闘に対して心からの拍手を送った。それぞれのポケモンをボールに回収した後、
ギンガはザロクに近付き、マスクを取った素顔を見せろと迫る。
「俺が勝ったんだ。約束通りマスクを取ってもらおうか。」
「ああ、約束は約束だ・・・でも、勝った相手に見せる約束だろう?別室で技マシンとバッチを
渡す時に見せる事にするよ。ついてきてくれ。」
ギンガはバトルフィールドの奥にある扉の方へザロクと共に向かった。

 ジムの施設には規定があり、バトルフィールドと大量の技マシン・及びバッチを保管している
部屋があればジムとして通用する事になっている。昔無人の島の中にある洞窟でジムリーダーを
やっていた者がいたが、広ささえあればその2つを満たす事は比較的容易だ。
「まずは僕から技マシンをプレゼントしよう。『スピードトリック』は素早さと攻撃力を交換する
技だ。素早いが攻撃力の低いポケモンでも、数ターンだけ攻撃力が非常に高いが鈍重なポケモンへと
姿を変えてしまう。使い方は色々あるだろうが君自身で色々試行錯誤してみてほしい。」
背中に背負うリュックサックの様な技マシンも昔と変わらない。最近ではディスクを入れる事により
技マシンの中身を変更する事が出来るタイプもある。サイキックバッチも受け取ったギンガは
改めてマスクを取れとザロクに対し迫った。
「解っているさ。ただし・・・後悔しないでくれよ?あんまり見れたものじゃ無いんだ。」
額から鼻の上を覆っているマスクをザロクは外そうとする。その時・・・

 外の方から凄まじい爆発音が聞こえ、建物全体がビリビリと震える程の衝撃が2人を襲った。
「何だ今のは!」
ザロクは急いで外へと飛び出していく。その後をギンガが追いかけた。
リリィとナツミも入り口から外へ飛び出し、広場の中心に立っている黒い影を視界に捉える。
それは青い長髪を風になびかせながら佇む、角の様な物が生えた生命体だった。
紫色のオーラを噴出させながら、地面から浮いた状態でこちらに近付いてくる。
『力を感じるぞ・・・ドス黒い力をな。お前達2人だ・・・』
能面の様な表情で口角だけ吊り上げ、ギンガとリリィの方へ向かってきた。
『私は証明するのだ。人間よりもポケモンよりも、私こそが最も優れた生物であると言う事を
証明する・・・その為にお前達には犠牲になってもらおう。』
「突然何を言い出すかと思えば・・・大体テメェは何者なんだ!」
つっかかるギンガをその女性は指だけで弾き飛ばし、近くの植え込みに突っ込ませた。
「サイコパワー・・・凄まじい力じゃない。それなら、コレはどう・・・」
リリィが蹴りを入れようとした瞬間、女性は睨んだだけで動きを止め、シャツを掴むとそのまま
地面に叩きつける。リリィはあまりの激痛に呻き、地面に転がったまま動けなくなった。
『やはりな。人間はあまりにも弱くて脆い生き物だ。こんな連中が世界を支配していると言うのも
馬鹿馬鹿しい話・・・全て壊してしまえば良い。そうすれば何もかも無くなる・・・』
ナツミは傷を負ったリリィに近寄り安否を心配しながらも彼女に向かって尋ねる。
「貴方は一体・・・」
『私の名前はアイ−005。人間によって作られた最強の合成獣だ。最高の知能・ポケモンとしての
圧倒的なパワー・・・ミュウやミュウツーを凌駕する戦闘力を私は手に入れた。』
「アイ・・・ミュウ?」
『誰が私をどう呼ぼうと構わない。いずれ愚かな人間は滅び、ポケモンは解き放たれるのだ。
人間の鎖からな。だがその前に・・・』
睨み付ける視線の先を感じて、ナツミは慌てて植え込みの方へと走った。アイミュウは邪悪な笑みを
浮かべながら巨大なエネルギーの塊を作り、植え込みから出されるギンガに狙いを定める。
『私に対抗する力を持つ可能性のある人間は全力で排除してやろう!』
「止めてーッ!!」
涙を流しながらギンガを担ぎ走るナツミに、アイミュウはエネルギーボールを投げつけようと・・・

 「アイ・・・アイなんだろう?」
突然聞こえた涙交じりの声に、アイミュウの動きが止まった。
「僕は君の事を誰よりも知っている。ずっと会いたいと思ってた。探してた・・・」
アイミュウの視線の先に立つザロクは、そのままマスクを地面に捨てると彼女の方を見る。
「思い出してくれ!あの時とは大分違うかもしれないけど・・・僕だ、ザロクだ。
皆にからかわれたこの蛇みたいな瞳・・・覚えているだろう?」
地面に叩き付けられた為に激しく咳き込むリリィも、担がれたギンガも、ザロクの顔を見て息を呑んだ。
ザロクの瞳は確かに蛇の様な細い黒目になっており、顔の右半分、鼻の上辺りまでの部分が酷い
火傷の跡に覆われている。今は大分良くなっている様だが、大変な痛みであったであろう事は容易に
想像が付いた。彼は成長したアイに対して言葉を続ける。
「君がいなくなってしまった後・・・僅かな可能性を信じてカントーまで行ったりしたんだ。君の
故郷でもある場所だよ。もう1度出会えたらって・・・僕だけじゃ無い。ズリだってオボンだって
そう思ってるハズさ。見える傷だけじゃない。見えない傷も沢山負った・・・」
ザロクを見た瞬間、アイミュウの手が止まった。エネルギーボールも手から消え、その瞳には
涙が溢れている。ギンガ達は呆然としたままその光景を眺めていた。
『ザロク・・・』
光が失われていた瞳に光が戻り、アイミュウはザロクの方へ近付こうとする。
『ガァァァァァァッ!!』
ザロクが彼女に駆け寄ろうとした瞬間、アイミュウは頭を押さえて蹲り、突如空へと舞い上がった。
『クソッ!私の体に・・・心に介入してくるな!この体は私のものだ!!』
『もう誰も殺させない。誰の命も奪わせはしないわ!』
アイミュウの口から先程までの声と澄んだ声が漏れる。その言葉を最後にアイミュウは凄まじいスピードで
飛び去り、後には抉られた地面や破壊された噴水だけが残された。
「アイ・・・」
地面に膝をつき泣き崩れるザロクを2人は暫く眺めていたが、やがてハッと我に返るとすぐさま救急車を呼び
リリィに駆け寄る。今だ痛みを感じ動けずにいたリリィであったが、意識は保っている様だ。
「アイツ何者なんだろうね・・・ザロクに詳しく話を聞かないと解らないかもしれないけど。」
「アイ・・・って言ってましたよね。確かアイって交通事故で死んだザロクさんの親友だとか・・・」
サイレンの音が近付くにつれ、先程の出来事がまるで夢では無かったのかとさえ思う程、
アイミュウの力は常軌を逸している。ポケモンでも人間でも無い、キメラの力を見せ付けられた形となった。

 リリィはニシキが入院している病院で数日間休む事となった。激しく地面に叩き付けられていたが、幸い
全身に軽い擦り傷を負った程度で、大事に至るものでは無いらしい。
「紫炎拳古武道は受身でも一流・・・だからねー。それにしてもそっちに怪我が無くて良かったよ。」
「ザロクさんがいなかったらどうなっていた事か・・・助けて頂いて本当に感謝しています。」
だが当のザロクは心ここにあらずといった感じで、マスクも付けず窓の外を凝視していた。
また戻ってきてくれはしないかと待っている・・・そういう風にも受け取れる。
「ザロクさん、貴方達はカントーに来た事があると聞きましたが・・・」
ニシキに呼ばれ、ようやく我に返ったザロクは振り向き素顔を晒したまま話し始めた。
「僕達はアイが死んだ後、グレンタウンにあるポケモン研究所に向かったんだ。そこはかつてアイの
父さん、フジ博士が働いていた場所・・・廃墟となっていたけれど、そこにアイを取り戻す
何かの鍵があるんじゃないかと思ったんだよ。」
結局書類の類は既に何者かによって奪われた後で、研究所内を捜索している間にその何者かが建物に
放火。レッドとマリンの助けにより難を逃れたが、逃げ遅れたザロクだけが酷い火傷を負ってしまったと言う。
「アイの父さんは遺伝子結合によるポケモンの強化を研究していた。そしてグレンタウン在住のカツラさんは
ミュウの研究を・・・今なら解る。彼女は・・・恐らくアイとミュウの合成獣(キメラ)なんだ。」
「キメラ・・・?」
「ミュウは全てのポケモンの頂点に立つ生命の存在そのもの。唯一永遠の命を持つポケモンだ。人間のクローンは
実用段階には達していない。培養液の中で1年か2年耐えれば良い方だからね。フジ博士・・・アイの父さんは
こう思ったハズだ。その欠点を補う為にはミュウのDNAが必要だと。」
「馬鹿な・・・ミュウのDNAだなんてそう簡単に手に入れられるワケが無ぇだろう!」
「だが僕はレッドさんから聞いた。『ミュウツー』がロケット団の手駒として存在していた事を。ミュウのクローンが
いたならばミュウのDNAがあったと言う事になる。辻褄はコレで全部合うハズだ。」
「うーん・・・」
にわかには信じられない話に、ギンガは溜息をつきながら椅子に座り込んでしまった。
ミュウツーの事を知っているのはレッドと彼等に繋がる者達だけだ。ナツミやギンガはロケット団壊滅のニュースは
聞いた事があるものの、ミュウツーの存在までは知ってはいない。
「ミュウツーの事は僕もレッド君から聞いた事があるよ。本人からならもっと詳しい話を聞けるだろうが・・・
それよりも大切なのは彼女を野放しにしておくのは非常に危険、と言う事実だ。」
ニシキがハッキリと危険と言う言葉を口にした瞬間、ザロクの表情が硬くなった。
「ちょっと待ってくれ。僕は感じたんだ。アイは・・・彼女の中にいる。助けなきゃいけない。
そもそも処分する事が出来ない事は君だって知ってるだろう?」
「確かに永遠の命を持つ彼女を殺す事は出来ないさ。しかし彼女は人類抹殺を狙っている。そんな人物を
放置しておいたらどうなるかなんて子供でも解る事だろう。何とかしなきゃならない。」
アイに対しての思い入れが強いザロクとニシキの意見のぶつかり合いは続き、治まりそうに無かった。
そんな2人を尻目に、ギンガとナツミは一旦施設の方へと戻る事にする。

 カテナタウンで夜空を見るのは今日で最後だ。明日から第4の街ヤカシティに向かう事になる。
「この夜空の下で、アイミュウも悔しがってるんじゃねぇかな。」
「3人の友達の事を想っているのかもしれないけどね。」
数年前、その3人の少年少女達はこの満天の星空を見る事は出来なかっただろう。車が走り高層ビルが
立ち並ぶ都会もあるカントーでは、ココまで綺麗な星空を見る事は出来ない。
「ヤカシティのゴスさんと戦えばジムバッチは4つになるわ。チャンピオンの夢だって
もうすぐ叶うわよ。きっと・・・」
ナツミの胸にはサイキックバッチが輝いていた。アイミュウとの邂逅後、リリィを病院に連れて行く
ギンガを見送った後彼女は即座にザロクとのバトルを行なう。平静を失っているザロクはあっさりと
負け、ナツミにジムバッチを手渡す事になった。
「ああ。それとダークの件もな。それにしても奴等あの後何も仕掛けてこねぇ。逆に気味が悪ぃぜ・・・」
キツネ・ガドウ・ツバサ・・・まだダークの幹部は彼等以外に2人いる。その2人がいずれ
接近してくるであろうと言う予感はしていた。
「とりあえず・・・もう眠りましょうか。」
問題は山積していたものの、ギンガとナツミは自分達の事で正直手一杯である。大人しく眠り、
明日からの旅の再開に備え眠る事にした。
メンテ

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