旅する罪人 ( No.4 ) |
- 日時: 2011/02/11 18:13
- 名前: ティス ID:e.oNrK6w
- 二話「貴族殺しの破壊人」
「お前……、一体、どっちの味方なんだ……」
その瞳に負の感情を宿らせながら、男は震える声で言った。 足音がそんな彼に近づき、黒光りするぬくもりの無い冷たさが額に触れると声にもならない息が彼の口から溢れる。 男の目の前にいるのは少年、しかし少年が先ほど立っていたのは死体の山の前、死体は戦争している軍人、両国の軍人とも見境なく殺されている。
少年の右肩に乗ったイーブイが、幼く可愛い顔を持ちながらも冷たく彼を見下していた。 少年の腕は震えていた、震えていたから少年は弱いと思い込んでいたのに、引き金が引かれると必ず誰かが死んだ。 外れることの無い銃弾、そして攻撃を絶やさなかった小さく鋭い牙が全滅へと導いた、イーブイといえど少年の肩に乗っているのは庶民に愛されるアイドル的な生き物ではなく、戦闘に長けた兵器だった。
軍人はもう先が見えていた、この少年が自分を救うことなど無いことがわかっていた。 手持ちのポケモンも、他の軍人のポケモンも、手持ちの武器でさえない。 全てが少年と肩に乗っているポケモンに壊されたのだった、今はただ少年のちょっとしたためらいに生かされているだけ。
ためらいが別の物に変わったとき、それは男の死ぬとき、少年は右手の人差し指に力を入れた。
銃声
開いた風穴から血が飛び出し、男は後ろに倒れてしまった。 少年はそれを見ると肩を抱いた。 しかしそれもつかの間、深呼吸を一度すると走り出す。 一連の動作をしている間にイーブイは少年の頭の上へと移り、振り落とされないようにしっかりとしがみついた。
走っている間にベルトについた大きな丸い結晶を軽く叩く。 途端にそれが輝き、一つのリュックが彼の前に現れるとそのリュックのチャックを開けて替え玉が入っている銃のマガジンを取り出し、それを銃に入っていた空のマガジンと交換すると空のマガジンをリュックに突っ込み、また大きな結晶を叩いてリュックを消した。 物をどのような原理かは不明だが収納するものらしい、おそらくモンスターボールと同じ原理のものだろうがしまうものはポケモンのみではないようだ。 銃を背中側についているホルダーにしまうとついでに取り出しておいた非常食をかじり、肩に乗っているイーブイにも一つ食べさせた。
数分後、大きな城が少年の前に現れ少年はその城を見上げながら門番として立っていた兵士の顔面にとび蹴りを喰らわせ、気絶させると城の中に入り込んでいった。
複雑な通路を迷わずに進み、出くわした見張りのポケモンを肩に乗っていたイーブイが一撃でノックアウトし、ガードの弱そうなポケモンならば少年が持っている銃で的確に額を貫かれた。 疾走が止まることはなく立ちふさがった者は容赦なく殺され、あるいは気絶させられてゆく。
やがて少年の足元には真っ赤な絨毯が現れた、その絨毯はまっすぐに大きな扉へと伸びていっている。 戦争に導入されているせいか城の警備はそこまで厳重でなく、少年は大きな扉を開けるとその奥に広がっていた部屋を見た。
一番奥の玉座と思われる豪華な椅子には戦場を知らない権力者がいた。 そいつは少年を見ると兵士ではないことにすぐに気がつき、部屋の壁際にいたらしい兵士を呼んで少年に攻撃指令を出した。 剣や槍、銃を持った兵士とよく鍛えられているように見られるポケモンたちが一斉に少年とイーブイに攻撃を仕掛けた。
群がる敵に少年は一つ深呼吸をしてから両手に持つ拳銃を発砲した。 兵士はみな強固な鎧を身にまとっていたが、小さな銃弾はその鎧のつなぎ目に命中し、その装備はほぼ意味のないものと化していた。 ポケモンたちは鎧を着せようにもないが、鍛えられているせいか防御力には自信があるといった雰囲気があったが、その自慢の防御力も空しく小さなイーブイ一匹に何匹も犠牲になっていった。
悲鳴が響き渡る、優勢のはずが気がつけば数分のことだったというのに半数以上も減っていた。 あまりの数の多さに拳銃の弾をきらせてしまった少年は銃を背中のホルダーに戻し、さらに隠し持っていたのか今度は首の後ろ側に手を突っ込み、別の銃を出した。
リボルバーのタイプで弾数はそこまでないが威力は一級品、獣のような銃声が再度鳴り響き八人を殺めると殺めた兵士の持っていたライフルを拾って引き金を引く。 イーブイはその小さな体からは考えもつかない力強い一撃を繰り出し兵士のポケモンを全滅状態にしていた、最後の一匹の喉を噛み千切ると鎧を着ている兵士の一人に狙いを定め鋼鉄と化した尻尾を鉄仮面に叩きつける。
あっけなく鉄はへこみ、倒れた兵士の鉄仮面の隙間からはどろどろとした血が円状に広がっていった。 頭が割れてしまったのだろうか、少年は高く飛び上がり一人の兵士の頭を踏みつけて一回転しながら踏みつけた兵士の首元にライフルを打ち込み、残り三人ほどの兵士をイーブイに任せて玉座に座っている裕福な身なりをした男の方へ走る。 余裕を浮かべていたはずの表情が恐怖に変わった。
弾が残っている長身の銃の口を男の額に当て、あれだけの人数を相手にして少しも疲れていない様子の少年を見て思わず叫ぶような声で命乞いをする。
プライドなど一瞬にして砕け散った。 恐怖の前になすすべも持たないその人に、少年は優しく笑いかけて優しい声で質問をした。
「あなたが他国の土地を求めたために起きた戦争で、何人の人が死んだと思います?」
その質問には柔らかさなど一切含まれていなかった、三人の兵士の始末を終えたイーブイは少年の下へ駆け寄り、体をよじ登って肩に乗った。 男はその言葉を聞いて、生きることが出来ないということを悟った。 もはや何も話さなくなった男に悲しい笑みを浮かべたまま、ゆっくりとライフルの引き金を引いて……放った。
刹那の出来事にしか過ぎなかった、男はその額に風穴を開けて玉座の背もたれに体を預け、動かなくなった。
「分からない、分からないよ、貴方の考えていることが……」
返り血をたくさん浴び、ほとんど赤黒く染まってしまった彼は吐き気がするような血の臭いを嗅ぎ顔をしかめた。
自分の後ろに広がった何処までも続くような数の死体を見て、彼は来た道を歩きだした。 そして城から出た後、この寒さの中で気絶していた門番の呼吸を確認し、呼吸がなくなっていると知るや悲しそうに目元に涙を浮かべた。 そう、同じ。 気絶させてもさせなくても野ざらしにしてしまえば結果は最終的に同じところへと帰着する。
先ほどの戦闘のときの動きをしていたものとは似ても似つかないような弱々しい足取り、肩に乗ったイーブイの頭を撫でると、広がった、振り続ける雪で覆い隠されてゆく死体を見て嗚咽交じりに泣き出した。 寒さではない何かが少年を襲い、また体が震え、それでも何処へ行くというのか歩き続ける。
吹雪と化してきた気候の中、少年はどこかへ消えていった。
後に殺されずに場内で気絶していた人々が口々に言った。
あの少年は、近頃有名になっている、戦争を止めるために多くの生き物を殺す、中でもその中心となっている人物、貴族を最終目的として動く旅人だと。 長引く戦場に必ずそいつは現れ、一部では戦場の怪物と呼ばれている。 途絶えることのない恐怖に皆少年だったとしか言うものはおらず、顔は覚えてないといった。 ただ一つ、マントが翻る様が悪魔の羽に見えて仕方がなかった、あれは人間じゃなかったのではないかと噂が流れるほどであった。
しかし、貴族を目的とする彼にはもうそれより有名なあだ名がついていた。
「貴族殺しの破壊人」
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