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ポケットモンスターダークブラック 〜邪神復活〜
日時: 2010/09/12 20:27
名前: 夜月光介
参照: http://chiba.cool.ne.jp/kinokohonpo/sirokuro.html

第3章 3話 『リリィとホタル』

 ザロクは話が上手く、思い出話を聞いている内に外はすっかり暗くなっていた。
「あ・・・もう7時か。御免ねこんな時間まで付き合わせちゃって・・・」
「いえ、とっても楽しかったです。」
ザロクは欠伸をしながら立ち上がると、部屋のカーテンを閉める。
「明日から数日間リリィさんに送ってもらって1年ぶりの同窓会だよ。僕達は全員
リーグ関係者だから気軽に会いに行けなくなっちゃったのが辛い所だね。」
「ズリとオボンって奴か。」
「そうだよ。昔は皆ナンブシティに住んでいたんだ。今はキンブシティって言う名前に
変わってるみたいだけどね。今の市長が自分の名前にしたかったんだとか・・・」
ナツミはギンガの表情が変わったのを見逃さなかった。
「どうしたのギンガ。」
「いや・・・兄貴の名前と同じだからちょっと面食らっただけだ。多分別人だろ。」
ギンガも立ち上がり、部屋から出ようとドアのノブに手をかける。ナツミも
その後ろに付いていこうとしたがふと出てきた疑問をそのまま口にした。
「あ、そういえば・・・ザロクさんって能力者なんですか?」
「今は殆ど使ってないけどね。クレヤボヤンスだよ。」
その言葉を聞いた瞬間、ナツミの手は反射的に胸と股間を隠していた。
「ホ、本当に使ってないんですよね!?」
「前は面白がっていたけど、僕ももう24歳だからね。飽きちゃったよ・・・
銭湯の番台に立っている人を想像してもらえば解るだろう?」
「それならいいんですけど・・・」
少々顔を赤くしながらナツミはジムを後にした。

 カテナタウンの施設に戻ってくると、疲労感のせいかギンガはベッドに倒れこんでしまう。
「さっきのクレヤボヤンスってのは何だったんだ?ピンとこなかったんだけどよ。」
「ああ、透視能力よ。物体を透かして見る事が出来る能力ね。」
「なッ・・・!ナツミの裸を見られてたかもしれねぇって事か!?」
「ザロクさん目にマスクしてたから瞳が光ってるのかどうか確認出来なかったし、そんな飢えてる
人には見えなかったから微妙な所なんだけど・・・正直解らないわね。」
「チッ、もし見てたらジムリーダーと言えどもぶん殴ってる所だぜ。」
「でももし見ていたのなら、馬鹿正直に自分の能力を明かすかしら?適当にしらばっくれる事だって
出来たハズよ。私自身としてはそういう人じゃないと信じたいんだけど・・・」
ザロクの瞳が見えなかっただけに、見ていたのか見ていないのかはまるで解らなかった。
ならば何故マスクを付けているのかと暫く水掛け論が続いたが、答えは出ず2人はその論議を
諦め、素直に眠りに付く事にした。

 翌朝・・・2人はそれぞれシャワーを浴び着替えを済ませ、朝食を取ると衣服を外に干し始めた。
「また随分と綺麗に晴れてるわね。雲1つ無い快晴だわ。」
旅は楽しい事だけでは無い。衣服の心配もそうだが食料品の買出し等しなければならない事は
山程ある。そういった面倒な仕事は進んでナツミがこなしていた。
「ふああ・・・しかし足止めが続くな。今日は適当に野試合でもこなすか?」
「そうね。干すのが終わったら私も行くわ。どちらにしても今日は外に出ないとね・・・」
親に貰った金とバトルで得た金だけでは些か心許なかったが、これから先新しい衣服や
食料、それとボールや技マシンの補充は絶対に必要になる。2人にはそれがよく解っていた。
「まだもうちょっとかかりそうだから先にセンターに行っておいて。」
「解った。お前のポケモンもついでに回復してくっから渡してくれ。」
ナツミを残しギンガはポケモンセンターに向かう。

 リューキューの気温は高い。だがカントー等の湿度も高い夏と違ってカラッと晴れているだけ
まだ気持ちの良いものだ。部屋の中の涼しさを感じると余計にそれが解る。
「ウキミソーチー!ココはカテナタウンポケモンセンターでございます!」
自動ドアを抜けると入り口にいた女性職員が挨拶してくれる。他の男性職員も元気な
リューキューの民である事をアピールしているかの様だ。朝8時の時点でかなりのトレーナーが
集まってきていたが、その中に見覚えのある顔を見つけギンガは思わず声をかけた。
「リリィじゃねぇか。お前トレーナーじゃねぇだろ?」
「んー?私じゃないよん。妹が今回復してもらってる所だから。」
リリィの視線の先には赤色の服を着た少女がおり、カウンターでボールが返ってくるのを
待っている様だった。
「へぇ、妹がいたのか。結構歳が離れてるんじゃねぇか?」
「うん。アタシが18で妹が13だからねぇ。今からオメガショップに行く所なんだ。
暇だったら一緒に来ない?人数が多い方がショッピングも楽しいだろうし。」
「俺達も丁度買い物に行く所だったんだ。まぁトレーナーも多いだろうし、野試合も
ある程度はこなせるだろ。」
「おっけー!決まりだね。」
年上とは思えない天真爛漫な笑顔・・・キツネと同じ様に見えるが微かな違いが確かにあった。
(無理をしている・・・)
何かは解らないがリリィには恐らく深い傷があるのだろう。ギンガと同じ様に・・・

 ギンガもセンターで2人分のポケモンの回復を済ませ、リリィ達と合流した。
「アタシの妹、ホタルって言うんだ。仲良くしてあげてね。」
「初めまして、ホタルです!」
赤がかった黒髪と胸元のルビー、腕に付いているリングもクリムゾンレッドと、褐色金髪のリリィとは
随分違う印象の少女だった。透き通る様な色白の肌もリリィと違う所だ。
「とりあえず君の友達の所へ行ってからショップだよね。ホタルと回るのは久しぶりだから
ちょっと楽しみなんだ。良い商品が沢山あると良いね!」
「私も楽しみ!お姉ちゃんに直接会うのも1年ぶりだし、今日は沢山遊びたいな!」
「リーグ関係の仕事か。」
「私、こう見えてもクニガミリーグでは結構有名なんですよ。」
ホタルも明るい利発そうな少女だった。2人が揃うと賑やかさが増幅されていく気がする。
ギンガはあまり五月蝿いのは苦手だった為、とりあえずナツミと合流する為センターから
外に出た。リリィとホタルも後につき施設へと向かう。
施設の方では洗濯物を干し終わったナツミがギンガの到着を待っていた。
「あれ、ギンガ・・・その2人は誰?」
「あ、初めまして!この街で育て小屋やってるリリィです。宜しくねー。」
「!ナツミさん!?」
一見見ただけでは解らなかったのだが、ナツミは少女が自分の名前を知っている事に
反応し彼女を凝視した。服装や雰囲気が異なっているが顔は同じだ。
「ホタルちゃん・・・」
「あれホタル。顔見知りなの?」
「昨日、社で会ったから・・・」
表情を曇らせたホタルに対してナツミは彼女の思いを察した。
「あの場所では違う自分を演じてるのね。大丈夫、誰にも言わないから。」
「すいません・・・私、あそこでは普段の自分になれなくて。」
社で会った時はやたら躾をされている少女だと思ったが、それは単なる演技だったのだろう。
「あー、兄貴の奴五月蝿いからねぇ。アタシの事も嫌ってるしさぁ。」
「私も堅苦しいの嫌いだからそれを強制するお兄ちゃんも嫌い・・・」
ホタルは暫くの間俯いていたが、顔を上げた時には先程の笑顔を取り戻していた。
「じゃあ、行きましょうか!」
嬉しさを抑えきれないのか走り出したホタルをリリィが追いかけた。
「そんなに急がなくっても店は逃げやしないわよ!」
「全く、しょうがねぇなぁ・・・」
ギンガが見せた久しぶりの笑顔に、ナツミの心は癒される。
(この2人との出会いはギンガにとってプラスに働いたみたいね・・・本当に良かったわ。)

 カテナタウンはシティ程の規模では無かったもののなかなかの賑わいを見せている
大きなショップがあった。看板には『Ω』の文字が大きく描かれている。
「オメガショップはこの辺りじゃ一番大きなポケモンショップだねー。ギノザに比べると
品揃えはまだまだかもしれないけど。」
「3階建ての建物自体が珍しいかもしれねぇな。」
御誂え向きと言うべきか、ショップの横にはバトルフィールドが用意されており、トレーナー達が
バトルを楽しんでいる。リーグ休暇中でも普通のトレーナーはレベルを上げる事に熱心な様だ。
「ま、野試合は後でも出来るだろ。まずは買い物しようぜ。」
「ポケモン関係だけじゃなくて食品や化粧品関係まで網羅してる店なんですよ!」
「それはなかなか凄い店ねぇ・・・」
中はセンターと同じく冷房が完備されており、所狭しと商品が並んでいる。
「普通のボールだけじゃなくて、タイマーボールやダークボールなんかも充実してるわね。」
「あっちにあるのは傷薬か。結構広くて狭い通路になってるから迷いそうだな。」
「とりあえず4人で回るのもなんだから、分かれましょう。」

 ジャンケンで別れ方を適当に選んだ結果、ギンガはホタルと、ナツミはリリィと一緒に店を
見て回る事になった。ギンガは真っ先に栄養剤売り場へと向かう。
「もっと早く大量に買い込んでおければ良かったんだがな・・・流石に1本9800円となると
なかなか手が出ねぇぜ・・・」
「私が買ってる香水とかよりも遥かに高いですもんね。」
たった1本の栄養ドリンクさえも子供では手が届かない世界。ギンガは諦めて技マシン売り場の方へと
向かおうとした。それをホタルが呼び止める。
「あっあの・・・良ければ私がケースで買いますよ?」
「お前が!?」
「あんまりココで堂々と言えたものじゃないですけど、私四天王なので・・・」
リーグ四天王ともなれば年間で支給される額は数千万に達する。勿論チャンピオンならば
2年間で数億稼げる程だ。バトルが強ければ何でも手に入る世界でもある。
「あんまり大きな買い物しないので、余ってる位なんですよ・・・お姉ちゃんも
『助けてあげて』って言っていましたし・・・」
ホタルは腰に付けていたポシェットから財布を取り出すと、カードを抜き出し
店員に見せた。店員は暫く驚きのあまり目を見開いていたが、我に返ると
購入する商品の確認をする。
「どの商品をどれだけ購入されるのでしょうか・・・」
「ポケモンの栄養剤を1種類につき100本ずつ。全部ギンガさんのPCに入れて何時でも
使える様にしてあげてください。ギンガさん、自分名義のIDナンバーを覚えてますか?」
「あ、ああ・・・」
呆気に取られたままギンガはIDナンバーをホタルに伝え、店員がそれを確認すると
全ての商品はPCに転送された。カードを持ったままホタルは歩き出す。
「今度は何を買います?・・・大丈夫ですよ。ギンガさんがチャンピオンになったら
返してもらいますから。それまでは無期限の貸しって事で!」
ホタルの冗談もギンガの驚愕を打ち消す事は出来なかった。
(13歳で四天王とは・・・俺も負けてはいられねぇな・・・)

 一方ナツミとリリィの方は食料品コーナーを見て回っていた。
「旅の間ってあんまり良い食事出来ないでしょ。今日の夜は皆で美味しいものでも
食べない?勿論アタシが奢るからさ。」
「そ、そんな!会ったばかりなのにそんな御好意に甘えるワケには・・・」
「大丈夫大丈夫。ザロクさんからも今日の朝イチで旅費貰ってるし、本業の方も頗る
順調だから。結構こう見えてお金持ちなんだよ、アタシは。」
そう言いながら彼女はカートに生卵や胡瓜、チャーシュー肉、そして麺のパックを入れていく。
「料理だってコレ位なら・・・」
どうやらリリィは冷やし中華を御馳走しようとしているらしい。屈託無い笑顔を見ていると
ナツミも心が癒された。
(この人は私と違う・・・人の心を読むと言うか、掴む事が出来る人なのね。)
「あ、そうだ。後でホタルに新しい髪飾りでも買ってあげよっかな。前のやつも
かなり気に入ってくれたみたいだけど・・・」
「優しいんですね。」
ナツミの言葉に対して、リリィはばつが悪そうに頭を掻く。
「アタシも助けられてるからね。妹に。そりゃ血の繋がった妹だから可愛くないって言ったら
嘘になるよー。あと兄貴があんまりにもアレだからその反動もあるのかな。」
「そのお兄さんって・・・?」
「兄貴もホタルと同じ邪神守民・・・いや元々はアタシも一族の末裔なんだけどさ。
何て言うかプライドが高くてアタシやホタルに真面目な態度を強要するのよ。
守民ならば誰に見られても恥ずかしくない様にしろってね。」
「そうだったんですか・・・」
「アタシも色々あって守民の仕事を辞めちゃってね。紫炎拳古武道を習ったり
ジャンパーの能力を鍛えたりして・・・最終的には育て小屋に落ち着いたの。」
ナツミは自分とは違う、辛い人生を歩んできたであろう彼女の事を思った。
「ナツミちゃんも頑張ってね。ギンガ君から色々聞いたけど、あの子は闇に呑まれかかってる。
私も前に同じ経験をしてるからよく解るの。その侵食を食い止められるのは一番近くにいる
貴方しかいない・・・重いかもしれないけど、好きなら全部受け止めてあげないとね・・・」
「はい、覚悟は出来てます。私もギンガも気持ちは同じですから・・・」
前々からその兆候は出てきていた。ナツミ自身は気が付かなかったがナツミにもその兆候が
出始めている。ナツミはギンガを救いたいと思っていたが、本当は2人が支え合って
危うい状態を保っているのだ。ナツミもギンガもまだその事には気が付いていなかった。

 その後それぞれが食料品・衣服・技マシン・ボール等を購入し、合流した時には既に時計は
12時を回っていた。ショップの屋上には何軒かの屋台があり、そこで適当に
食事を取った後4人はバトルフィールドへと向かう。
「まだ昼時だから他のトレーナーがいないねー。」
「まぁ文句は言えねぇよな。誰か来るまで気長に待つしか・・・」
ベンチに座ろうとしたギンガに対して、リリィは手招きをした。
「アタシとやろうよ。アタシもポケモンを育てていないワケじゃ無いんだよ?」
「面白ぇ、やってやろうじゃねぇか。」
ギンガはそのままバトルフィールドの片側に立ち、ナツミ達は側でその戦いを
見守る事になった。
「リリィさんのバトルの腕が全然解らないだけに怖いわね・・・」
「お姉ちゃんは私と同じ炎タイプの使い手なんです。元々は私じゃなくて
お姉ちゃんが『炎邪神守民』の座に着くハズでしたから・・・」
ナツミはホタルがリリィの心の傷を知っているのだと見抜いた。しかしその
傷の正体を聞くワケにもいかず、ギンガの応援に回る。
「頑張ってねギンガー!」
「お姉ちゃん、負けちゃ駄目だよー!!」
「観客が2人だけってのはこういう場所にしちゃ少ねぇよな・・・」
「まぁ良いじゃないそれでも。ところで君に相談があるんだけど。」
「何だよ今相談って。」
「ただ勝負するだけじゃつまらないからさ。アタシ、ポケモンの卵を持ってるのよ。
客からの預かり物じゃ無いし、炎ポケモンでもない奴ね。君が勝ったら
それをあげる。負けたらあげない。別に君が何を賭けるワケでも無し。
どう、悪くない話でしょ?」
「願ってもねぇ話だな。そりゃ当然承諾させてもらおうか。」
リリィは綺麗な歯を見せながら笑うと、ジーンズのポケットからモンスターボールを取り出した。
メンテ

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ポケットモンスターダークブラック 〜邪神復活〜 ( No.4 )
日時: 2010/10/25 20:10
名前: 夜月光介
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第3章 7話 『イレカエ3姉妹・レシラ』

 翌日、ギンガ達はリーグ休暇による足止め期間を無駄にすまいとΩショップに再び出向き、今度は
数多くのトレーナー達と野試合を行なう事が出来た。ギンガにとって一番気がかりなのはミズチの戦闘力が
他の面子より現時点では劣っている事である。そこで近くの草叢にも足を運んでレベルアップに勤しんだ。
「野試合でも出せる様にはなってきたな。ザロクとの試合でも上手く立ち回れりゃ良いんだが・・・」
ゴーストタイプの技はエスパータイプのポケモンに対して絶大な威力を発揮する。その為ミズチが実戦でも
活躍出来る程のレベルになれば大きな戦力になるハズだった。
『マスター、私にとっては初めてのジム戦になるけど・・・とにかく頑張るよ!』
「頼むぜ。相手がエスパータイプのポケモンを使ってくるから尚更だ。あくにも弱いらしいから
ホノオグマも役に立ってくれるだろ。もう1匹は押して無理やり勝ちに持っていくしか無ぇかな・・・」
手強い相手だったリリィがザロクと戦い負けた事があると言う話はギンガの心に一抹の不安を与えていた。
そうなると俄然、ナツミとの練習にも気合が入る。
「はがねタイプのポケモンを持ってるパートナーを持ってると何かと便利でしょ?」
ナツミは冗談半分にそう言ったが、ギンガはその言葉に対してしっかりと頷いた。殆どのタイプに対して
有利な『最強のタイプ』とも言えるはがねタイプのポケモンと戦えるのは大きなプラスである。
「日も暮れてきたし、今日はポケモンセンターに立ち寄った後素直に宿舎に戻るか。」
「リーグ休暇日もそろそろ終わりね・・・きっとザロクさんも帰ってくるわ。」
リリィによると『久しぶりの同窓会』を彼は満喫していると言う。彼と知り合ってからリリィは
相談事に乗ったり戦ったりしている内に随分と仲が良くなったらしい。
(ザロクにも傷がありそうなんだよな・・・結局傷がある者同士何かを感じて惹かれ合うのかもしれねぇが。)
お互いに慰めあって絶望を乗り越えていく。ギンガはナツミに励まされ、時には助けられてきた。
だからこそ、彼女を守ってやりたいと心から願う。彼女にも大きなトレーナーになってほしいと思うのだった。

 夕方のポケモンセンターはギンガ達と同じく野試合を終えて帰ってきたトレーナー達で賑わっている。
「やっぱりすぐには回復出来ねぇか。待つか・・・」
「そうね。素直に待ちましょう。」
2人は番号札を貰い、椅子に座って順番が来るのを待った。
丁度ナツミの隣に座っていた白い髪の少女がナツミに向かって話しかけてくる。
「今日は随分混んでますね。」
「そうみたいですね・・・何時もこんな感じなんですか?」
「リーグ休暇日終了が近いですし皆どっと帰ってきたんでしょう。何時もはもう少し
夕方でも静かなんですけどね。」
肩まで伸ばした長い髪。前髪も長く顔がよく見えない相手だ。
「カテナタウンに住んでいるんですか?」
「ええ。カテナタウンで『幸福館』を開いています。とは言っても一軒家と同じなので
すぐには見つからないでしょうね。」
「ココロの館?」
「コレ、私の名刺です。」
ナツミに手渡された名刺には『幸福館 イレカエ3姉妹レシラ 幸福交換に応じます』と
書き記されており、裏面には住所とポケギアの番号が詳しく記載されている。
「幸福交換・・・」
「詳しい事は私の館に来て頂ければお話しましょう。それでは・・・」
彼女は自分の番号札が呼ばれた為、その場から去っていった。
「なんか胡散臭い奴だぜ。止めとけよ。」
「うん、そうなんだけど・・・」
確かに妙な話である事は確かだが、ナツミはギンガの絶望を取り除いてあげたいと言う願いが
特に強かった。この話に興味を持つのは無理も無い話だ。
(ちょっと行ってみようかな・・・)
ギンガが番号札を呼ばれセンターの職員の所へ向かう時、ナツミは心の中でそう呟いた。

 幸福館はカテナタウンの中心付近に建っていた。リーグ運営と関わっている守民やジャンパーの
仕事で稼いでいるリリィと同じ様にかなり立派な一軒屋だ。金持ちが多いと言われている
キンブシティよりも、カテナタウンの方が飛び抜けた金持ちの多い街かもしれない。
「とにかく宗教関係の話とか持ち出してきたらすぐ帰るからな。」
「うん、解ってる。」
夕飯の後こっそり外へ出ようとしたナツミだったが結局ギンガに見つかってしまい2人で幸福館に
出向く事となった。玄関のブザーを鳴らし応答を待つ。
『どちら様ですか?』
「あ、あの。ポケモンセンターで先程話を伺ったナツミと申します。」
『ああ、トレーナーの方でしたね。どうぞお入りください。』
入り口が開き、2人は奥の暗がりへと足を踏み入れていった。
部屋の中は水晶と机、レシラの座っている部分だけに上から光が当たっている。
「コレは神秘的な雰囲気を出す為のものです。お客様の中にはそういう形から入っている事を
望んでいる方もいらっしゃいますので・・・」
「あの、ココは具体的にどういう事を行なう場所なんですか?」
レシラはその言葉を聞くと微笑みながら話し始めた。
「私は人の幸福を他の人間の不幸と交換する能力を持っています。一時的なものですが、
それでもおかげさまでなかなか評判は良いんですよ。」
「幸福を・・・不幸と交換?」
「人は色々な過去の出来事や今置かれている自分の状況から、幸福か不幸かどちらかの感情を持つでしょう。
例えば自分が不幸だと思っている人に幸福の絶頂にいる人の『幸福感』を与えてしまえば、
状況自体は変わらずとも不幸だと思っている人間もポジティブに考える事が可能になるのです。」
「まぁ一理あるな。」
「勿論その交換によって生じる変化は一時的なものです。また不幸な出来事が連続して起これば
不幸だと思う事に変わりはありませんからね。でも、マイナスイメージを持っている人間から
打開策が生まれる事も無いでしょう?一時的にせよポジティブになりプラスイメージを持つ事で
思考が研ぎ澄まされ、自分の人生の転機を自ら起こす事も可能になるのです。」
「そういう事ですか・・・」
「私達イレカエ3姉妹はリューキューの各地に散らばりこうした活動を行なっています。商売なので
少々の値が張りますが、行なった方は皆満足していますよ。」
「でも、幸福を貰った人は良くても・・・」
「そう。ですからこの幸福館には2人で来て頂きもう1人の方には覚悟をしてもらわなければなりません。」
レシラは奥からボードを持ち出してくると、ペンで解り易く図を書いた。
「Aの人間の不幸感が全部Bに渡り、Bの人間の幸福感がAに全て渡る。幸福感しか持っていないAと不幸しか
持っていないBとなるワケですね。ココに来るお客様は・・・そう、例えばBがAに対して借金をしている
場合、全ての幸福感を渡す約束をしてやってくる場合があります。どんな人間にも必ず幸福感は
ありますからね。Aの不幸感が綺麗さっぱり消えると言う意味でも有効でしょう。」
ナツミは暫くギンガと共に考えていたが、今はそれをする事は出来ないと話した。
「私達2人だと片方どちらかを不幸にする事なんて出来ません。」
「いえ、良いんですよ。私の能力を貴方達が利用するかしないかはあくまで自己判断ですから。ただ、もし
そういうケースに巡り合う事があればどうぞお気軽にいらしてください。最近はリリィさんとホタルさんが
私の能力を使う為に訪ねてきてくださいました。」
「リリィさんが!?」
「ええ、リリィさんの不幸に思う気持ちを払拭したいと、ホタルさんは仰っていましたから・・・」

 レシラの幸福館を出た頃には夜の8時を過ぎていた。リューキューにはゼクロとキュームと言う姉達がおり、
2人もレシラと同じ様な交換能力を持っていると言う。
「ホタルちゃん、リリィさんに対してやっぱり負い目があるのかな・・・」
「俺と同じで昔何かあったみてぇだしな。」
リリィの過去を詮索する事は野暮だとは思っていたが、2人共気になっている事は確かだ。
「俺達に出来る事であれば、リリィの奴を助けてやりてぇんだが・・・」
「そうよね。その為にも本当は一体何があったのか知りたいんだけど。」
2人にはレシラにもそれとなく聞いてみたのだがレシラは全くリリィの過去については知らないらしい。
『ただ、不幸を請け負ったホタルさんが相当苦しそうにしていた事を考えると、リリィさんの抱えている絶望は
かなりのものなのでしょう。根本からの改善が必要なのかもしれません。』
先程聞いたレシラの言葉を思い出しながら、ナツミは物思いに耽っていた。
(私とギンガを助けてくれたリリィさんだからこそ、何時か・・・絶対に助けてあげなきゃ!)

 さらに数日が経過し、ホタルはリーグの方へと戻り、ザロクは同窓会から帰ってきた。
ギンガの方はポケモンを育て上げ万全の態勢を整えている。ザロクの方も準備を完了させたと連絡が
入った為、昼頃2人はザロクの待つカテナタウンジムへと向かった。
「随分対戦を待たせてしまって悪かったね。1年ぶりに色々皆と話してきた。楽しかったよ。」
「なぁに俺も猶予があったおかげで育てる事が出来たんだ。逆に助かったぜ。」
「それは何よりだね。・・・さてと、そろそろ始めようか。」
バトルフィールドの傍らではナツミとリリィが2人の戦いを見届けようとしている。
「アタシを倒した相手だからね。油断しない方が良いよー。」
「その話を聞いた時は驚いたよ。僕も辛勝だったからね・・・となれば、素晴らしい戦いが
出来るって事だ。ワクワクするじゃないか!」
周囲に立てられた燭台の蝋燭は紫色の妖しい炎を燃やしている。中心のバトルフィールド・・・
そこに立つザロクは目に装着されたマスクの為に一層不気味に映った。
「ルールを確認していこう。後々諍いを起こさない様にね。ポケモンは3匹ずつ出し合い
戦う。簡単に言えば3vs3だ。2匹以上ポケモンを眠らせる、凍らせる行為は禁止。
持ち物の所持は自由。1匹残ったポケモンで自爆技を使うのは禁止。大丈夫かい?」
「ああ、その通常のルールに不満は無ぇよ。ただ、アンタのマスクが気になるな。」
「・・・過去の傷さ。見ても面白いものじゃ無いよ。」
ザロクは俯きそう言ったが、ギンガは食い下がった。
「俺が勝ったら・・・マスクを取って素顔を見せてくれるか?」
「・・・良いだろう。僕も負けるつもりは全く無いからね。」
ザロクの言葉にリリィは息を呑む。その態度にナツミも反応した。
(ザロクさんの素顔、見た事が無いんですか?)
(小さい頃のは写真で見た事があるけど・・・数年前にこっちに来てジムリーダーになった時からの
顔はずっとマスク付けっぱなしだったからアタシも見た事が無いんだ。)
確かに気になっている事ではあった。ザロクは何故頑なに素顔を隠すのかと言う事が。
「僕は小さい頃から『4人』でずっと励まし合って生きてきた。辛い時も哀しい時も皆が側に
いてくれたんだ。勿論ポケモンバトルも研鑽を重ねた・・・」
ザロクは懐からモンスターボールを取り出し、構えを取る。ギンガも反応し、身構えた。
「君の実力が通用するかどうか、今から僕が見極めてあげよう!」
モンスターボールが宙を舞い、床に落ちると閃光と共にポケモンが出現する。
現れたポケモンは大きな鈴の様な姿のポケモンだった。
「まずは小手調べ。美しい音色を奏でるリーシャンと戦ってもらおう!」
『ボクの音色で、世界中の人達を幸せにするよ♪』
ポケモンの体内に入っているボールが転がり、その度に鈴の音が聞こえてくる。
(エスパータイプのポケモンとは言え、2つのタイプを持っているかどうか
調べる必要があるな。慎重に行くに越した事は無ぇ・・・)
ギンガはポケギアの図鑑項目を開き、リーシャンの項目を探した。
『リーシャン・すずポケモン・・・リーシャンの鳴らす美しい音色には人々の殺伐とした心を
癒す働きがある事が解った。学者達の間では犯罪抑制や再犯防止の為にリーシャンを利用する
事が出来ないかと言う議論が盛んに行なわれている。』
(エスパータイプのみのポケモンか。特殊能力は・・・)
『特殊能力・治癒風鈴・・・攻撃技を受けた時受けたダメージの8分の1を回復する(特殊技では回復しない)』
(特殊技を使えって事か。この戦いはコイツに任せよう。)
ギンガはモンスターボールをバトルフィールドに向かって投げ入れ、ミズチを出現させた。
『マスター、私の始めての大舞台だよ!頑張って勝つからね!!』
ミズチは自分が選ばれた事に喜びを感じ、気合充分と言った様子だ。一方ザロクはゴーストタイプの
ポケモンを出されたのにも関わらず動揺を見せてはいない。
「不利なポケモンを出されるのは承知のうえさ。問題はその不利をどう払拭するかだ!」
リーシャンも相手が自分と似たタイプのポケモンの為、対抗意識を剥き出しにしている。
(ザロクさんとの戦い・・・進化していないポケモン同士の戦いだけれど、気を抜くのは厳禁よギンガ。
特にリューキューでは有名なエスパー使いだけに、どんな策を使ってくるか解らないわ。)
「よし、まずは挨拶代わりの先制攻撃だ!あやしいかぜを使え!」
『おっけー。緊張しちゃうなぁ・・・』
能天気な台詞を放つものの、目は真剣そのものだ。人魚でありながらまるで爬虫類の様な瞳に変化すると、
ミズチの周囲を黒い大気が包み込み、両手を前に突き出した瞬間に大気が風となってリーシャンに襲い掛かる。
『おわっ!』
突然の突風にリーシャンは成す術も無く飲み込まれ、黒い風の中でダメージを受けた。
「タイプ一致の特殊技だからな。ミズチにとっちゃとくこうが高い為に好都合だし、おまけに
リーシャンに対しては回復を防げる。この技だけでも充分だぜ。」
リーシャンはダメージを受け、イエローゾーンまで体力を減らした。だがまだHPは半分以上残っている。
『フフフ・・・なかなかやるね。でもコレはどうかな♪』
リーシャンは反撃に打って出た。リーシャンの眼前でエメラルドに輝く光の球が生まれ、それが大きくなった
瞬間恐るべきスピードでミズチに向かって迫ってくる。
「や、やべぇッ!」
ギンガはミズチが回避するのを願ったがあまりのスピードにミズチもついていけずダメージを受けてしまう。
「エナジーボール。リーシャンが覚える事が出来るくさタイプの技だ。君のポケモンにはみずタイプも
ついているから効果は抜群だろう。一見有利に見えても油断を怠ってはいけないんだよ。」
『痛ッ・・・でも、私は絶対負けないからね!』
まともにエナジーボールを受けたミズチであったが受けたダメージはリーシャンとそれほど変わらない。
タイプ一致のダメージ1.5倍がどれほど影響するかを証明しているとも言えるだろう。
(そうだ。奴はくさタイプじゃねぇ。あくまでエスパータイプだ。こっちの有利は揺るがねぇだろ!)
今の所どちらも全く劣らず、両者の睨み合いが続いている。どちらとも相手の攻撃のスピードに
反応する為、動くタイミングを伺う事となりお互いに動けなくなってしまった。
メンテ

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