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ポケットモンスターダークブラック 〜邪神復活〜
日時: 2010/09/12 20:27
名前: 夜月光介
参照: http://chiba.cool.ne.jp/kinokohonpo/sirokuro.html

第3章 3話 『リリィとホタル』

 ザロクは話が上手く、思い出話を聞いている内に外はすっかり暗くなっていた。
「あ・・・もう7時か。御免ねこんな時間まで付き合わせちゃって・・・」
「いえ、とっても楽しかったです。」
ザロクは欠伸をしながら立ち上がると、部屋のカーテンを閉める。
「明日から数日間リリィさんに送ってもらって1年ぶりの同窓会だよ。僕達は全員
リーグ関係者だから気軽に会いに行けなくなっちゃったのが辛い所だね。」
「ズリとオボンって奴か。」
「そうだよ。昔は皆ナンブシティに住んでいたんだ。今はキンブシティって言う名前に
変わってるみたいだけどね。今の市長が自分の名前にしたかったんだとか・・・」
ナツミはギンガの表情が変わったのを見逃さなかった。
「どうしたのギンガ。」
「いや・・・兄貴の名前と同じだからちょっと面食らっただけだ。多分別人だろ。」
ギンガも立ち上がり、部屋から出ようとドアのノブに手をかける。ナツミも
その後ろに付いていこうとしたがふと出てきた疑問をそのまま口にした。
「あ、そういえば・・・ザロクさんって能力者なんですか?」
「今は殆ど使ってないけどね。クレヤボヤンスだよ。」
その言葉を聞いた瞬間、ナツミの手は反射的に胸と股間を隠していた。
「ホ、本当に使ってないんですよね!?」
「前は面白がっていたけど、僕ももう24歳だからね。飽きちゃったよ・・・
銭湯の番台に立っている人を想像してもらえば解るだろう?」
「それならいいんですけど・・・」
少々顔を赤くしながらナツミはジムを後にした。

 カテナタウンの施設に戻ってくると、疲労感のせいかギンガはベッドに倒れこんでしまう。
「さっきのクレヤボヤンスってのは何だったんだ?ピンとこなかったんだけどよ。」
「ああ、透視能力よ。物体を透かして見る事が出来る能力ね。」
「なッ・・・!ナツミの裸を見られてたかもしれねぇって事か!?」
「ザロクさん目にマスクしてたから瞳が光ってるのかどうか確認出来なかったし、そんな飢えてる
人には見えなかったから微妙な所なんだけど・・・正直解らないわね。」
「チッ、もし見てたらジムリーダーと言えどもぶん殴ってる所だぜ。」
「でももし見ていたのなら、馬鹿正直に自分の能力を明かすかしら?適当にしらばっくれる事だって
出来たハズよ。私自身としてはそういう人じゃないと信じたいんだけど・・・」
ザロクの瞳が見えなかっただけに、見ていたのか見ていないのかはまるで解らなかった。
ならば何故マスクを付けているのかと暫く水掛け論が続いたが、答えは出ず2人はその論議を
諦め、素直に眠りに付く事にした。

 翌朝・・・2人はそれぞれシャワーを浴び着替えを済ませ、朝食を取ると衣服を外に干し始めた。
「また随分と綺麗に晴れてるわね。雲1つ無い快晴だわ。」
旅は楽しい事だけでは無い。衣服の心配もそうだが食料品の買出し等しなければならない事は
山程ある。そういった面倒な仕事は進んでナツミがこなしていた。
「ふああ・・・しかし足止めが続くな。今日は適当に野試合でもこなすか?」
「そうね。干すのが終わったら私も行くわ。どちらにしても今日は外に出ないとね・・・」
親に貰った金とバトルで得た金だけでは些か心許なかったが、これから先新しい衣服や
食料、それとボールや技マシンの補充は絶対に必要になる。2人にはそれがよく解っていた。
「まだもうちょっとかかりそうだから先にセンターに行っておいて。」
「解った。お前のポケモンもついでに回復してくっから渡してくれ。」
ナツミを残しギンガはポケモンセンターに向かう。

 リューキューの気温は高い。だがカントー等の湿度も高い夏と違ってカラッと晴れているだけ
まだ気持ちの良いものだ。部屋の中の涼しさを感じると余計にそれが解る。
「ウキミソーチー!ココはカテナタウンポケモンセンターでございます!」
自動ドアを抜けると入り口にいた女性職員が挨拶してくれる。他の男性職員も元気な
リューキューの民である事をアピールしているかの様だ。朝8時の時点でかなりのトレーナーが
集まってきていたが、その中に見覚えのある顔を見つけギンガは思わず声をかけた。
「リリィじゃねぇか。お前トレーナーじゃねぇだろ?」
「んー?私じゃないよん。妹が今回復してもらってる所だから。」
リリィの視線の先には赤色の服を着た少女がおり、カウンターでボールが返ってくるのを
待っている様だった。
「へぇ、妹がいたのか。結構歳が離れてるんじゃねぇか?」
「うん。アタシが18で妹が13だからねぇ。今からオメガショップに行く所なんだ。
暇だったら一緒に来ない?人数が多い方がショッピングも楽しいだろうし。」
「俺達も丁度買い物に行く所だったんだ。まぁトレーナーも多いだろうし、野試合も
ある程度はこなせるだろ。」
「おっけー!決まりだね。」
年上とは思えない天真爛漫な笑顔・・・キツネと同じ様に見えるが微かな違いが確かにあった。
(無理をしている・・・)
何かは解らないがリリィには恐らく深い傷があるのだろう。ギンガと同じ様に・・・

 ギンガもセンターで2人分のポケモンの回復を済ませ、リリィ達と合流した。
「アタシの妹、ホタルって言うんだ。仲良くしてあげてね。」
「初めまして、ホタルです!」
赤がかった黒髪と胸元のルビー、腕に付いているリングもクリムゾンレッドと、褐色金髪のリリィとは
随分違う印象の少女だった。透き通る様な色白の肌もリリィと違う所だ。
「とりあえず君の友達の所へ行ってからショップだよね。ホタルと回るのは久しぶりだから
ちょっと楽しみなんだ。良い商品が沢山あると良いね!」
「私も楽しみ!お姉ちゃんに直接会うのも1年ぶりだし、今日は沢山遊びたいな!」
「リーグ関係の仕事か。」
「私、こう見えてもクニガミリーグでは結構有名なんですよ。」
ホタルも明るい利発そうな少女だった。2人が揃うと賑やかさが増幅されていく気がする。
ギンガはあまり五月蝿いのは苦手だった為、とりあえずナツミと合流する為センターから
外に出た。リリィとホタルも後につき施設へと向かう。
施設の方では洗濯物を干し終わったナツミがギンガの到着を待っていた。
「あれ、ギンガ・・・その2人は誰?」
「あ、初めまして!この街で育て小屋やってるリリィです。宜しくねー。」
「!ナツミさん!?」
一見見ただけでは解らなかったのだが、ナツミは少女が自分の名前を知っている事に
反応し彼女を凝視した。服装や雰囲気が異なっているが顔は同じだ。
「ホタルちゃん・・・」
「あれホタル。顔見知りなの?」
「昨日、社で会ったから・・・」
表情を曇らせたホタルに対してナツミは彼女の思いを察した。
「あの場所では違う自分を演じてるのね。大丈夫、誰にも言わないから。」
「すいません・・・私、あそこでは普段の自分になれなくて。」
社で会った時はやたら躾をされている少女だと思ったが、それは単なる演技だったのだろう。
「あー、兄貴の奴五月蝿いからねぇ。アタシの事も嫌ってるしさぁ。」
「私も堅苦しいの嫌いだからそれを強制するお兄ちゃんも嫌い・・・」
ホタルは暫くの間俯いていたが、顔を上げた時には先程の笑顔を取り戻していた。
「じゃあ、行きましょうか!」
嬉しさを抑えきれないのか走り出したホタルをリリィが追いかけた。
「そんなに急がなくっても店は逃げやしないわよ!」
「全く、しょうがねぇなぁ・・・」
ギンガが見せた久しぶりの笑顔に、ナツミの心は癒される。
(この2人との出会いはギンガにとってプラスに働いたみたいね・・・本当に良かったわ。)

 カテナタウンはシティ程の規模では無かったもののなかなかの賑わいを見せている
大きなショップがあった。看板には『Ω』の文字が大きく描かれている。
「オメガショップはこの辺りじゃ一番大きなポケモンショップだねー。ギノザに比べると
品揃えはまだまだかもしれないけど。」
「3階建ての建物自体が珍しいかもしれねぇな。」
御誂え向きと言うべきか、ショップの横にはバトルフィールドが用意されており、トレーナー達が
バトルを楽しんでいる。リーグ休暇中でも普通のトレーナーはレベルを上げる事に熱心な様だ。
「ま、野試合は後でも出来るだろ。まずは買い物しようぜ。」
「ポケモン関係だけじゃなくて食品や化粧品関係まで網羅してる店なんですよ!」
「それはなかなか凄い店ねぇ・・・」
中はセンターと同じく冷房が完備されており、所狭しと商品が並んでいる。
「普通のボールだけじゃなくて、タイマーボールやダークボールなんかも充実してるわね。」
「あっちにあるのは傷薬か。結構広くて狭い通路になってるから迷いそうだな。」
「とりあえず4人で回るのもなんだから、分かれましょう。」

 ジャンケンで別れ方を適当に選んだ結果、ギンガはホタルと、ナツミはリリィと一緒に店を
見て回る事になった。ギンガは真っ先に栄養剤売り場へと向かう。
「もっと早く大量に買い込んでおければ良かったんだがな・・・流石に1本9800円となると
なかなか手が出ねぇぜ・・・」
「私が買ってる香水とかよりも遥かに高いですもんね。」
たった1本の栄養ドリンクさえも子供では手が届かない世界。ギンガは諦めて技マシン売り場の方へと
向かおうとした。それをホタルが呼び止める。
「あっあの・・・良ければ私がケースで買いますよ?」
「お前が!?」
「あんまりココで堂々と言えたものじゃないですけど、私四天王なので・・・」
リーグ四天王ともなれば年間で支給される額は数千万に達する。勿論チャンピオンならば
2年間で数億稼げる程だ。バトルが強ければ何でも手に入る世界でもある。
「あんまり大きな買い物しないので、余ってる位なんですよ・・・お姉ちゃんも
『助けてあげて』って言っていましたし・・・」
ホタルは腰に付けていたポシェットから財布を取り出すと、カードを抜き出し
店員に見せた。店員は暫く驚きのあまり目を見開いていたが、我に返ると
購入する商品の確認をする。
「どの商品をどれだけ購入されるのでしょうか・・・」
「ポケモンの栄養剤を1種類につき100本ずつ。全部ギンガさんのPCに入れて何時でも
使える様にしてあげてください。ギンガさん、自分名義のIDナンバーを覚えてますか?」
「あ、ああ・・・」
呆気に取られたままギンガはIDナンバーをホタルに伝え、店員がそれを確認すると
全ての商品はPCに転送された。カードを持ったままホタルは歩き出す。
「今度は何を買います?・・・大丈夫ですよ。ギンガさんがチャンピオンになったら
返してもらいますから。それまでは無期限の貸しって事で!」
ホタルの冗談もギンガの驚愕を打ち消す事は出来なかった。
(13歳で四天王とは・・・俺も負けてはいられねぇな・・・)

 一方ナツミとリリィの方は食料品コーナーを見て回っていた。
「旅の間ってあんまり良い食事出来ないでしょ。今日の夜は皆で美味しいものでも
食べない?勿論アタシが奢るからさ。」
「そ、そんな!会ったばかりなのにそんな御好意に甘えるワケには・・・」
「大丈夫大丈夫。ザロクさんからも今日の朝イチで旅費貰ってるし、本業の方も頗る
順調だから。結構こう見えてお金持ちなんだよ、アタシは。」
そう言いながら彼女はカートに生卵や胡瓜、チャーシュー肉、そして麺のパックを入れていく。
「料理だってコレ位なら・・・」
どうやらリリィは冷やし中華を御馳走しようとしているらしい。屈託無い笑顔を見ていると
ナツミも心が癒された。
(この人は私と違う・・・人の心を読むと言うか、掴む事が出来る人なのね。)
「あ、そうだ。後でホタルに新しい髪飾りでも買ってあげよっかな。前のやつも
かなり気に入ってくれたみたいだけど・・・」
「優しいんですね。」
ナツミの言葉に対して、リリィはばつが悪そうに頭を掻く。
「アタシも助けられてるからね。妹に。そりゃ血の繋がった妹だから可愛くないって言ったら
嘘になるよー。あと兄貴があんまりにもアレだからその反動もあるのかな。」
「そのお兄さんって・・・?」
「兄貴もホタルと同じ邪神守民・・・いや元々はアタシも一族の末裔なんだけどさ。
何て言うかプライドが高くてアタシやホタルに真面目な態度を強要するのよ。
守民ならば誰に見られても恥ずかしくない様にしろってね。」
「そうだったんですか・・・」
「アタシも色々あって守民の仕事を辞めちゃってね。紫炎拳古武道を習ったり
ジャンパーの能力を鍛えたりして・・・最終的には育て小屋に落ち着いたの。」
ナツミは自分とは違う、辛い人生を歩んできたであろう彼女の事を思った。
「ナツミちゃんも頑張ってね。ギンガ君から色々聞いたけど、あの子は闇に呑まれかかってる。
私も前に同じ経験をしてるからよく解るの。その侵食を食い止められるのは一番近くにいる
貴方しかいない・・・重いかもしれないけど、好きなら全部受け止めてあげないとね・・・」
「はい、覚悟は出来てます。私もギンガも気持ちは同じですから・・・」
前々からその兆候は出てきていた。ナツミ自身は気が付かなかったがナツミにもその兆候が
出始めている。ナツミはギンガを救いたいと思っていたが、本当は2人が支え合って
危うい状態を保っているのだ。ナツミもギンガもまだその事には気が付いていなかった。

 その後それぞれが食料品・衣服・技マシン・ボール等を購入し、合流した時には既に時計は
12時を回っていた。ショップの屋上には何軒かの屋台があり、そこで適当に
食事を取った後4人はバトルフィールドへと向かう。
「まだ昼時だから他のトレーナーがいないねー。」
「まぁ文句は言えねぇよな。誰か来るまで気長に待つしか・・・」
ベンチに座ろうとしたギンガに対して、リリィは手招きをした。
「アタシとやろうよ。アタシもポケモンを育てていないワケじゃ無いんだよ?」
「面白ぇ、やってやろうじゃねぇか。」
ギンガはそのままバトルフィールドの片側に立ち、ナツミ達は側でその戦いを
見守る事になった。
「リリィさんのバトルの腕が全然解らないだけに怖いわね・・・」
「お姉ちゃんは私と同じ炎タイプの使い手なんです。元々は私じゃなくて
お姉ちゃんが『炎邪神守民』の座に着くハズでしたから・・・」
ナツミはホタルがリリィの心の傷を知っているのだと見抜いた。しかしその
傷の正体を聞くワケにもいかず、ギンガの応援に回る。
「頑張ってねギンガー!」
「お姉ちゃん、負けちゃ駄目だよー!!」
「観客が2人だけってのはこういう場所にしちゃ少ねぇよな・・・」
「まぁ良いじゃないそれでも。ところで君に相談があるんだけど。」
「何だよ今相談って。」
「ただ勝負するだけじゃつまらないからさ。アタシ、ポケモンの卵を持ってるのよ。
客からの預かり物じゃ無いし、炎ポケモンでもない奴ね。君が勝ったら
それをあげる。負けたらあげない。別に君が何を賭けるワケでも無し。
どう、悪くない話でしょ?」
「願ってもねぇ話だな。そりゃ当然承諾させてもらおうか。」
リリィは綺麗な歯を見せながら笑うと、ジーンズのポケットからモンスターボールを取り出した。
メンテ

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ポケットモンスターダークブラック 〜邪神復活〜 ( No.3 )
日時: 2010/10/10 20:02
名前: 夜月光介
参照: http://chiba.cool.ne.jp/kinokohonpo/sirokuro.html

第3章 6話 『過去から来た青年』

 翌日・・・リリィの育て小屋に泊めてもらった2人はホタルやリリィと共に朝食をとり、
その後ホタルは別れを惜しみつつ帰っていった。守民社では無くリーグの方に帰還するらしい。
「それにしてもやっぱ10日間ってのは長ぇな。それまでロクに挑戦も出来ねぇってのが・・・」
「規定は規定なんだからしょうがないじゃない。そのおかげでホタルちゃんにも会えたんだし。」
ボーっとしているワケにもいかないと、2人は育て小屋を出て再びΩショップ近辺に向かった。

 リーグ休暇中と言う事もあり、昨日に負けない程沢山の買い物客が楽しそうに歩いている。
ギンガはバトルフィールドの方に向かい、ナツミもそれについていこうとした。
「おい、怪我してるぞ!」
「救急車を呼べ、救急車!」
だが突然聞こえてきた騒がしい声に足が止まる。見ると噴水広場の方に人だかりが出来ていた。
気になった2人はとりあえずその場所へと移動する。
「まだ救急車は来ないのか!」
人の輪の中心には怪我をした青年が横たわっていた。切り傷は浅かったが火傷が至る所に出来ており、
命が危険に晒されているのが解る。やがて救急車が到着すると彼はそのまま運ばれていった。
「一体誰だったのかしら。あんな所で・・・」
「P.O.D.かダークの連中にやられたのかもな。病院に行ってみようぜ。」
「入れてくれるかどうか解らないわよ。」
「話が聞ければ御の字か。とにかく少しでも情報を集めねぇと・・・」

 カテナタウンの病院はΩショップから少し歩いた所にあった。シティの病院は立派なものだが
タウンの病院はこじんまりとしており普段は重症患者等運ばれては来ない。
「全身に火傷の跡がありましたが命に別状はありません。切り傷も深くは無いですし、安静に
させていればいずれ目が覚めるでしょう。貴方がたは彼のお知り合いですか?」
「ああそうだ。突然こんな事になっちまって・・・あいつから直に事情を聞きてぇんだ。」
平然と嘘をつくその態度に看護婦も疑問を抱かず、2人を病室まで連れて行ってくれる。
「お静かに願いますね。他の患者様の迷惑にならない様にしてください。」
白一色の病室に彼はいた。顔には火傷を負っておらず、話によれば火傷もそこまで深くは残らないだろうと
言う事である。意識を失っている彼を2人は暫く眺めていたが、数分後彼はゆっくりと目を開いた。
「大丈夫か?」
ギンガの問いに彼は答えず、ゆっくりと半身を起こし窓の外を見た。
「また失敗か・・・それにしても命が助かったのはラッキーだったかな。」
「またってどういう意味です?」
「え、知らないの?近所じゃ僕の嫌な噂ばっかりだと聞いていたけど。」
時折包帯が巻かれた手で目を擦りながら何かを探している。
「僕の眼鏡は?」
「倒れていた時に眼鏡は落ちてなかったぜ。」
「そうか・・・飛んでいったのかもしれないな。また新しいのを買わないと・・・」
青年は何気無く窓の外から視線を2人の方へ移し、今度は壁にかけられているカレンダーの方を見る。
その瞬間、青年の顔色が変わった。
「なんだこれ・・・74年だって?」
カレンダーにはポケモン暦も記されている。リーグ休暇日の10日間は赤く塗られていた。
「ねぇ君達。今は74年なのかい?」
「そうですけど・・・」
「なんてこった。14年間も寝たままだったなんて・・・鏡は無い?」
ギンガ達は青年の言葉に疑問を抱いたが、彼の言うままに鏡を渡した。
「私の手鏡ですけど・・・」
青年は自分の顔を鏡に映していたがやがて鏡をナツミに返す。
「馬鹿な・・・僕の顔は同じだ。つまり時は経過したが僕は歳を取っていない。つまり・・・
タイムスリップしたって事なのか!?」
狼狽する青年に対して2人はどう言おうか迷った。
「もう僕の研究室は残ってないのか・・・カントーで僕は行方不明扱いになっているのかもしれない。
いや、とっくに死亡した扱いになっているのかも・・・」
「カントー?カントーだって?ココはリューキューだぜ。」
「リューキュー・・・?場所も違うのか。どうすればいいんだ・・・」
頭を抱える青年に対して質問をすると、彼は自分の事を訥々と語り始める。

 彼の名はニシキ。ポケモン暦60年の時点では16歳。16歳にして物質空間転送装置の
構想を練り、カントーで実験を繰り返していたと言う。
「僕はあの時、ポケモンと人間を合体させる機械を発明していたマサキさんに資金提供をしてもらって
研究を続けていた。あの時はたまたま遊びに来ていたレッド君とマリンちゃんの前で
ちょっとしたテストをするつもりだったんだけど・・・」
2人の前で完成直前と思っていた装置の最終チェックを行なっていた所、突然目の前が真っ白になって
気を失い、気がついた時には既にこの病室にいたのだと彼は話した。
「恐らく装置が誤作動を起こして爆発したんだろう。2人は離れさせていたから被害は受けなかった
だろうけど、直接装置をいじっていた僕は当然逃げられなかった。何故こうなったのかは僕自身も
全然解らないよ。爆発の衝撃によってタイムスリップを起こす可能性があるとは聞いた事があるけど・・・」
「じゃあアンタにしてみれば、突然14年後の世界に放り出された事になるワケか。」
「うん・・・装置は元々時間移動の為のものじゃ無かったし、僕がいた14年前の世界に戻るのは
恐らく絶望的だろう。おまけにリューキューじゃ頼れる人も全くいないし・・・」
頭を抱えるニシキに対して、ギンガは暫く考えを巡らせていたが、やがてこう切り出す。
「俺達の知り合いの所に厄介になったらどうだ。客間もあるし、稼いでるからカントーへの旅費も
何とかなるかもしれねぇよ。ただ、14年も経過してるからアンタの知り合いがカントーに
いるかどうか・・・」
「いや、きっといるよ。父さんや母さんはともかく、マサキさんは同じ所で研究を続けていると思う。
・・・父さんと母さんにしてみればもう僕は死んだも同然だし、カントーにいるかどうか怪しいのが
辛いけど。その場所にいるのが耐えられなくて引っ越すってのは多いからね・・・」
平静を装いながらもやはりニシキは苦しんでいる様子であった。このままにしてはおけないと
ギンガはすぐリリィにポケギアで連絡を取り、会いに来てもらう事にする。

 病室に訪れたリリィは彼の顔を見ると驚いて立ち竦んでしまった。
「アタシ・・・小さい頃に貴方の写真を雑誌かなんかで見た事があるよ。確か研究所が木っ端微塵になって
遺体は見つからなかったけど生存は絶望的だって書いてあった気が・・・」
「そんなに酷かったのか・・・マサキさんの事もそうだけど、レッド君やマリンちゃんは今頃
どうしているんだろう。セキエイのチャンピオンを目指すって張り切っていたけど・・・」
「レッドさんっていったらもう並のトレーナーじゃ手が届かない程の伝説の存在ですよ。マリンさんも
三強の一角って言われる程の立派なトレーナーですし・・・」
「そりゃ凄い・・・あの2人がそんなに強くなっているなんて。」
「とりあえず傷が完全に癒えるまでアタシの所に来ればいいじゃない。治ったらアタシの力でカントーまで
連れてってあげれるしさ。ホタルに頼めば研究室も建て直せるかもよ?」
「すいません何から何まで本当に・・・」
涙を流しながら感謝するニシキを見てリリィは慌てて両手を左右に振った。
「困った時はお互い様でしょうよー。でも、傷が治ってカントーに戻れたら、この2人の事を
サポートしてあげて。それがアタシからのお願いって事でどう?」
「解りました。預かりシステム等に関しては熟知してますし、基本はさほど変わっていないと思います。
14年も経てば勿論変わっている事も多いでしょうが・・・」
ニシキは涙を拭くと、改めて2人の方を見た。
「そういえばまだ君達の名前を聞いていなかったね。君達を見ているとあの2人を思い出すよ。」
「俺はギンガ。こっちはナツミ。今のアンタとは1歳差だな。俺達の方が年下だ。」
「・・・そう考えると、もうあの2人は24歳か。随分離されちゃったなぁ。」
昔を思い出しているのか、ニシキは静かに目を閉じて考え事をしている様だった。
ナツミは不自然にならない様そっと近付き、彼の手に触れ意識の中に潜っていく・・・

【ポケモン暦60年 カントー 1の島 ポケモンネットワークセンター】

 1の島でポケモンネットワークセンターの管理人として過ごしていたニシキは、もっと効率的な
ポケモンの瞬間転送の手段を考えていた。ポケモンはPCに預け入れる事でデジタルな存在となる事が
当時実証され、預かりシステムはほぼ完成していたが彼自身にはまだ不満が残っている。
(確かにPCからポケモンを預けるシステムは完璧だ。だけど、A地点から何処でも好きな所へポケモンを
飛ばす技術は完成されていない。ポケモンが一時的にデジタルな存在になればそれも実現可能なハズだ!)
ポケモンの交換は当時完全なる手渡しでPC内から相手にポケモンを渡す事は出来なかった。相手の家に
瞬時にポケモンが入ったモンスターボールを飛ばせたら便利極まりないと考えたのだ。
「時空間移動とかも考えてるって話聞いたけど。」
「マサキさんは無理って言ってたけどね。いずれは挑戦してみるよ。人間はデジタルな存在になれないから
難しいけど、デジタルな存在になる生命体なんてポケモンだけだ。その利点を活かせば必ず過去や未来に
ポケモンを送る事だって出来る。今は無理だけど、科学がもっと進歩すれば・・・」
ニシキの傍らには当時10歳であるレッドとその幼馴染マリンが立っていた。幼馴染とは言ってもそれは
8年後辺りでの話であり、当時はまだ出会ってから数ヶ月も経過していない。
「それが、物質空間転送装置ですか?」
「そうだよ。今は最終調整の真っ最中さ。将来的には人間が自由に移動出来るシステムが出来ると
良いななんて思ってるんだけど・・・夢は大きく持たなくちゃあ・・・」
機械を暫くいじっていたニシキだったが、不意に手を止めると2人に遠ざかっている様指示した。
「あんまり近くにいすぎると危ないんだ。転送装置に巻き込まれてしまったらひとたまりも無いからね。
僕もボタンを押したらすぐに離れるよ。」
研究所の外からでも窓の中の様子はよく見えた。暫く機械をいじっていたニシキであったが、
2人の目の前で突如窓の中が白く光り、次の瞬間爆発が起こって研究所が火に包まれる。
「な・・・おいマリン!すぐに警察と消防署に連絡しねぇと!!」
「解ってるわよ、アンタはココで待ってて。すぐにかけに行くから!」
ポケギアが開発される前だったのでマリンは即座に電話ボックスを探しに走っていった。
残されたレッドは呆然としながら荒れ狂う炎を見つめている。
「・・・ニシキさん・・・」
レッドはどうする事も出来ない自分が悔しかった。

 目の前が真っ白になった所で彼の過去の記憶は途切れた。意識を失ってしまえば当然その先を見る事は
出来ない。ナツミは彼の手から自分の手を離した。
「カントー出身だとこっちの人間の事は解らねぇかもしれねぇが、リリィはジャンパーの能力を
持ってるからすぐに送ってもらえるだろうぜ。」
「ジャンパー?」
「アタシ、行った事のある所か写真を見せてもらえば何処にでも瞬間移動出来るんだ。そのアンタが
開発しようとしてた物質空間転送装置とか無くてもさ。」
「そりゃ凄い。貴方に監修してもらえば完璧だったかも・・・まぁ今更の話ですいません。僕
研究の事となるとつい熱くなっちゃうんで・・・」
彼の言葉通りニシキの瞳には探究心の炎が燃えている様だ。
「今は療養に専念して、その後今後どうするかを決めていくのが一番でしょうね。」

 2人が病院からリーグ施設に戻ったのは結局夜7時を回った頃であった。
『伝説』の2人とあった事があるニシキに対して根掘り葉掘り聞いていたらあっと言う間に
時間が経過してしまったのだ。野試合を諦め、そのまま夕食をとりシャワーを浴びる。
シャワーから出て着替え終わると、ギンガは改めてリリィから譲り受けたポケモンの卵を
バッグから取り出して眺めてみる事にした。
「しっかしこうして見るとホントに小せぇな。モンスターボール並じゃねぇか。」
ギンガの言う通り、貰った卵はチョコエッグ程の大きさしか無い。黄緑色の表面に時折
深緑色の斑点が付いている。殻は非常に固く、石にぶつけても割れそうに無い。
「どんなポケモンだか教えてもらってねぇんだよなぁ・・・」
リリィに聞く事を怠った為今更ワザワザ聞くのもはばかられる。溜息をつきながら暫し
卵を見つめていたが、不意に卵に亀裂が走った為ギンガは驚き卵を離してしまった。
「うわッ!?」
そのまま卵は割れ、中からポケモンが出現した。
『うわぁ、貴方が私のパパになるんだ。これから宜しくね!』
ポケモンは人間と違い赤ん坊の状態でも高い知能を持っている。赤ん坊と言っても姿形は
ある程度成長したものと変わりは無い。ギンガはとりあえずモンスターボールを床に
落とし、ポケモンを捕獲した。捕獲した後改めてポケモンをモンスターボールから出す。
『マスター、お腹減ったー。』
「へいへい・・・」
洗脳装置はギンガを『父親』では無く『マスター』だと理解させる効果もある。洗脳自体は
強力なものだが性格や人格自体が大幅に変わってしまうワケでは無い。
ギンガはΩショップで購入していたポケモンフードを小皿に移した。
『マスター、コレ美味しいね!』
「そりゃ良かった。あんま食べ過ぎんなよ。」
突然父親になった様な感覚を味わい、ギンガは若干動揺していた。
(卵から生まれたポケモンは野生のポケモンより強くなるとか言われてるが実際はどうなんだろうな。)
目の前でフードを食べているポケモンは下半身が魚で無かったらその辺りにいる女の子と
勘違いしてしまいそうだ。リューキューで近年話題になっている『キメラ』に間違いなさそうだった。
(そういやキメラポケモンなんて初めてみたな・・・)

 『キメラ』はニューアイランド島での実験を繰り返していたフジ博士が生み出したもので、人間の遺伝子と
ポケモンの遺伝子を混ぜ合わせて生まれてきた生物である。元々キメラは素体となるポケモンが異常な戦闘力を
持っていなければそこまで圧倒的な強さを持って生まれてはこない。だがキメラが通常のポケモンよりも
高い戦闘力を持っているのは事実である。キメラは最初にフジ博士が大量に生み出したものから野に放たれ
交配し、卵から生まれたキメラ同士が交配を繰り替えす事で遺伝子的に安定し爆発的に増えていった。
今ではリューキューに棲息しているポケモンのうち4割強がキメラポケモンになっている程だ。
フジ博士以外にもポケモンの戦闘力を高める事だけに固執してキメラを生み出した科学者は多数存在している。
(さて、こいつの名前は何だ・・・?)
ギンガはポケギアを用い卵から生まれてきたポケモンの名前を確認した。
『ミズチ・にんぎょポケモン・・・リューキューで新たに発見されたキメラの1匹。海に通じている洞窟内で
楽しそうに唄を歌っている事が多い。群れになると美しい合唱を披露する。』
(へぇ、みず・ゴーストタイプとは珍しいな。特殊能力は・・・)
『特殊能力・音波回復・・・音を使った技を受けるとその技でのダメージ・あるいは状態変化を無効化しさらにHPが回復する』
【例・うたうを受けた→眠らず回復 ハイパーボイスを受けた→ダメージを受けず回復】
「ま、その位か。技もまだまだ弱いのしか覚えてねぇが、育てりゃ強くなるだろ。」
『マスター、もっと食べたい!』
「腹八分位にしとけ。明日こそ野試合やっからお前も参加しろ。一緒にリーグ制覇の夢を見る為にもな。」
『あ、やっぱりマスターもリーグ制覇が夢なんだ。私ももっと強くなりたいからすっごく楽しみ!』
「俺も寝るから寝とけよ。疲れる前にな。」
ギンガはミズチをボールに戻すと疲労感もあってそのままベットに倒れ込み深い眠りへと落ちていった・・・
メンテ

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