9. わたしとあなたは ( No.10 ) |
- 日時: 2010/09/07 00:52
- 名前: Pause
- 「これは?」
「それは世界の歴史」 ルーナが掌を差し出した。ページを開いたまま本を返すと、彼女は慎重にそれを閉じてテーブルに置く。 「そして、この中にある神話というのは、昔、この世界に二十二の神々がいて――」 あ、とジャスティスが素っ頓狂な声を上げた。身を乗り出す。 「それって、二十二の神々が、魔法を使って世界を治めたっていうやつでしょ!?」 「知っているの?」 「長老に聞いたんだ」 ジャスティスの声が弾む。ルーナはさほど驚いた様子を見せなかった。何事もないように続ける。
「それなら話が早いわ。あなたは、その神々の末裔なのよ」
「え……?」 「だからここに連れてこられた」 ジャスティスは瞳を見開き、しばらく口も閉じることができなかった。聞き返すことも、その口から言葉を吐き出すことも。遥かに続くような沈黙。何時間も経ったようなその後、やっとジャスティスは小さな声を絞り出した。 「本当に……?」 「名前が示しているわ。ジャスティスというのは、正義の女神のことよ」 ルーナの言葉は淀みなく、ジャスティスはまた言葉をなくす。 「そして、世界の歴史には続きがあるの」
「太陽の魔法は血を選び、種族の中で生き続けてきた。月の魔法は何者かが設計図を残していた。それを知った人々は、魔法戦争が再び起こることを恐れた。月の魔法の設計図を探すとともに、魔法を持つとみられる者たちを見つけては次々と処刑したわ」 ジャスティスが頭を抱える。ルーナの低い声は部屋に響き続ける。 「それは今でも続いているのよ。ディアネイルという組織、その過激派たちが、魔女を探し続けてる。そしてここは――ディアネイルの、ひとつの拠点」 そして一呼吸を置き、ルーナはきっぱりと言い切った。 「わたしとあなたは、ここで心中するの」 その声は至極ゆっくりと消えた。空気の濃さに潰されそうになりながら、ジャスティスは問いを絞り出す。 「しんじゅう……?」 「そう。わたしとあなたはここで死ぬの」 ルーナの声には諦めた色があった。ジャスティスは火がついたように立ち上がる。何かが切れた感覚だった。 「嫌だ!!」 ジャスティスは叫ぶと、扉のノブを激しく回す。乾いた音がするばかりで、押しても引いても扉は動く気配がない。それに気がつくと、扉を拳で叩き始めた。がん、がん、がん、と響く音は空しい。 「やめなさい」 先より大きな声がして、強い力で右腕を掴まれる。ルーナが厳しい目をしていた。 「離して!! 僕は死にたくな――」 「静かにして。大きな声を出すと守衛が来るわ。すぐに処刑されてしまうわよ」 その声にも揺らぎはほとんどなかった。ジャスティスはもがきながら叫んだ。焦り、悲しみ、怒り、恐怖、それらに突き動かされている。 「あなたはっ、なんで静かでいられるの!? 死ぬんならあなたがひとりで死ねばいい、僕はまだ死にたくないっ!!」 刹那、空気が唸る。パンと音が響き、その勢いにジャスティスは倒れ込んだ。左の頬が熱く、じわじわと痛みを伴ってくる。 「ひどい……わたしだって――わたしだって生きていたいわよ!」 あまり地声は大きくないのだろう。それを絞り出して掠れた大声を上げるルーナを、ジャスティスは見上げることしかできなかった。
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