第一話 ( No.1 ) |
- 日時: 2011/01/17 00:54
- 名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:u8YXgOJo
- 世界で一番初めに海と言うものに風流を見出したのは誰であろうか。誰であるにしろ大昔であることにほぼ変わりはないだろう。海と言うものは我々の故郷であり生活する糧でもある、それは今も昔も変わらない。
何が言いたいかと言うと天気のいい朝に海辺で簡易イスに寝そべりながら読む本は最高に最高だという事だ。誰にも邪魔されることなく自分の世界に入るこむことができ…… 「キリト! ココは危険だから関係者以外立ち入り禁止だって何度言ったら分かるの!」 俺の世界にビザなしで乗り込んできたのは、少し幼さが残ってはいるが気丈で凛とした声。タイトなジーパンに薄手のジャケットを羽織っている、隠しているようだが隙間から下に着ているピカチュウプリントのTシャツが見える。俺がここで生活する上での唯一と言っていい問題、ジムトレーナー様だ。 「チマリ……何度も言うが俺はポケモントレーナーだぞ? 君らが懸念している海ポケモンにも対抗できるし、この浜辺は満潮になっても飲み込まれることはない、そもそもデンジさんの許可は取ってある」 「何度も言うけどあんたがトレーナーだなんて私は認めてないわ! それにデンジさんの許可なんて意味無いわよ、あの人誰にでも許可出すんだもの」 「つーことはイコール誰でもはいっていいってことだろ、だいたい呼び捨てかよ、さんをつけろ、キリトさんって。もしくはキリトお兄さんとか」 「うるさい、いいから即刻出ていきなさい、さもなくば実力行使に出るわ」 チマリが腰に手を当てる、なんだかややこしいことになりそうなのでここは素直に引くことにしよう、海よさらばだ。 「わぁったわぁった、センターに戻ることにするよ、ほら、椅子を片付けるから本を持っててくれ」 ハードカバーの本をチマリの方へ放り投げ椅子を片付ける、チマリはそれを背伸びをしてキャッチした。 このチマリと言うトレーナーはおよそ八年前に若干六歳にしてジムトレーナー、しかもシンオウの最難関ジム、ナギサジムにジムリーダーデンジ自らの推薦で所属した天才少女だ。しかもジムトレーナーになってからもメキメキと実力をつけている。 順調にいけばジムリーダーライセンス所得もあるらしい、本人にその気があればだが。 「あんた学者なの?」 俺が渡したの本をニ三ページめくってチマリが聞いた。 「そう見えるかい?」 俺は裸眼だが右手でずれた眼鏡をずらす演技をする、片手には折りたたまれた簡易イス、丈夫で座り心地もいいのだが重いのがネックだ。もう少しだけ軽かったら移動の際に苦労はしないのに、かといって地べたに座りたくはない。 「ぜんぜん、ただの優男にしか見えないわ、ただこの本がね」 持っている本の表紙を俺に向けてちらつかせる。 「あぁ、本ね、本」 「『ポケモン進化に対するレポート百選』こんなの一般人は読まないし存在すら知らないんじゃない?」 「書いてあることの八割は分からないけど暇つぶしにはちょうどいいよ、理解しようと一生懸命読んでればなんかこう……ぐっすり眠れる」 「編集者のウツギ博士が聞いたら泣くわね」 チマリは溜息をつきながら本を投げ返す。俺と違ってコントロールが良い。 「海を見ながらぐっすり眠るためにナギサに来たわけ?」 チマリが呆れた風に言った、そりゃぁ確かにチマリの前では海の前で寝てばっかりだけどもそりゃないだろう。 俺がここのポケモンセンターに泊まり始めて今日でちょうど三カ月目になる、チマリとの会話を見れば分かるかもしれないがだいぶこの町になじみ始めている。といっても特に何かをしたわけではないが。 「それも少しはあるけど、俺も一応トレーナーだ、そんな奴がここに来るってく事は、最終目標は分かるだろ?」 トレーナーがこの町に来る、それすなわちナギサジムへの挑戦を意味する、最もデンジというジムリーダーはここ八年間で無敗。ポケモンバトルシンオウリーグのシードを得るにはナギサジムを含む八つのジムバッチが必要だが、今現在シンオウリーグのシード権を得ている人間は非常に少ない。デンジが強すぎるからだ。ちなみにナギサのジムバッチであるビーコンバッジは持っているだけである一定のステイタスとなる、まぁ当たり前と言ったら当たり前の事だが。 「ふーん、あんたがデンジさんにねぇ……時間の無駄だからやめておけば? シンオウより違う地方のバッチを集める方が楽よ」 「ははっ、言うねぇ」 チマリの自信満々の目を見るとデンジへの信頼がよく分かる。職務放棄だのジム改造廃人だの言われてはいるがデンジが人間的にもバトルの面でも優秀なトレーナーであることは間違いないだろう。 「明日の朝に一試合対戦が組まれてるの、よかったら見学するといいわ、まぁデンジさんにかかればあっと言う間だけどね」 胸に手を当て誇らしげに言う。 このチマリと言う少女は自分の事についてはあまり語らないがことデンジの事になると急に饒舌になる。彼女の家庭の事までは分からないが六歳からジムにいるのだ、ジムのトレーナーやリーダーのデンジの事を家族の様に思っているのだろう。 「今回は断っとくよ、他人のバトルを見るのはあまり好きじゃない」 「あんた、トレーナー向いてないわよ」 デンジの話が出て機嫌が良くなったのだろう、始めの様な仏頂面は無くなっていた。 「よりにもよってデンジさんのバトルを見ないなんて……」 今のチマリが俺を見る目から読み取れるのは憮然と憐み、あとは少々の選民的な思想だ。 ジムリーダーデンジを圧倒的に信頼、尊敬している、本人だけにとどめていればそれで良いのだがそれは俺達にまで及ぶ。 俺が初めてチマリにあった時、彼女は俺に対して怒りと敵対心を持っていた。ポケモントレーナー同士なのだから当然と言えば当然なのだが彼女の場合はそれとは少し違う。 この町に来るトレーナーそれイコールデンジの敵だと認識し敵意をむき出しにする。自分対誰か、ではなくデンジ対誰かなのだ。俺にはそれが良いことなのか悪いことなのか何とも言い難いが。 「あんたってポケモンセンターで暮らしてるのよね?」 「まぁね、三か月もいるとさすがに迷惑がられるがな」 センターには一応トレーナー用の仮眠室があるが、あくまで一夜限りを想定しているものであって、流石に三ヶ月居座る俺のようなトレーナーは少ない。 「お風呂とかどうしてんの? あそこに設備はないし……まさか入ってないとか」 「あのな、俺はトレーナーだっつてんだろーが、ドラム缶がありゃぁ風呂なんていくらでもできらぁ」 余りにもアウトドアな発言に顔をしかめるチマリを尻目に、俺は第二の故郷であるナギサポケモンセンターに帰った。
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第二話 ( No.2 ) |
- 日時: 2011/01/19 00:56
- 名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:v8OfTrk.
- センターでジムリーダーのデンジと出会った。
八年前の敗北時に二十一歳だからもう三十近いはずだが全く老けているようには感じない。ぱっと見では二十代前半ぐらいに見えるだろう、男の肌の曲がり角は四十前後と言われているから外見に気をつけていれば当たり前の結果と言えるのだろうか。俺もこんな風に年をとりたい。ところどころ黒く汚れた作業着のツナギを着ており、タオルをバンダナの様に頭に巻きつけている、趣味のジム改造の途中なのだろう。 「ども、ジムの改造お疲れ様です」 「やぁ、本はゆっくり読めたかい?」 「いや、チマリちゃんに怒られちゃいましたよ」 「ははは、悪いね、あの子はこの町以外の世界を知らないからキミの凄さが分からないんだ、親ばかだとは思うけど、許してくれ」 デンジは笑いながら頬を掻く。俺は娘を持ったことなど無いから分からないが父親の顔とはこういうものなのだろう、デンジは独身だが。 「いえ、俺はこの町で何もしてないですから、チマリちゃんにそう言われても仕方ない。それに、俺よりもチマリちゃんの方が才能がありますからね、チマリちゃんのあの自信も仕方ない」 自信と言う言葉を聞いた時、デンジの顔が曇った。 「自信か……キリト、チマリの事どう思う?」 「え、チマリちゃんですか。そりゃまぁ将来美人になることは大体分かりますけども……ちょっと当たりが」 「いやいやいやいやそっちじゃないから、トレーナとして、トレーナーとしてな!」 表情から察するにえらい焦りようだ、ちょっとした冗談なのに嫌にむきになるなと考え、この人がチマリに対して抱いているであろう感情を思い出し、少し納得する。そりゃぁ父親に対して言える冗談ではない。 「ちょっとした冗談ですよ、トレーナーとしてですか」 俺はここにきて三カ月全くバトルをして居なかった、チマリにトレーナーとして認められていないのもそれが原因。別にバトルが嫌いなわけではない、必要ない時にはしないだけだし、自分の中で重要な戦いの前にはその土地に自分を馴染ませたかった。そしてデンジとの戦いは俺の中でとてつもなく重要だ。 対象的にチマリは暇な時間のほとんどをがむしゃらにバトルに費やす。才能では埋めようがないスキル、経験をより多く得ようとしているのだろう。 チマリのバトルは何度か見たことがある。戦術は速攻型、効率的に勝利への最短を目指す戦い方だ。そしてその戦い方は。 「戦術は貴方にそっくりですね」 「そう、やっぱりそう思うか」 デンジはどこか遠くを見ると、センター端にある長椅子に座り、横に座るように言った。 「チマリちゃんの師匠は必然的にデンジさんなんだから戦術が似るのは当たり前ですよ」 「師匠……ね、そう、ただの師匠なら良かったんだ」 ただの師匠、その単語はあまり使うことないものだった。 「ただの。ですか」 「そう、ただの」 デンジは深く考えているようだった。頬杖をつき、小さく唸っている。 「チマリはこの八年間、俺と対戦したことがない、師匠と弟子という関係に限りなく近いのにだ、なぜだと思う」 そう言われてみれば確かにそう。この三か月、チマリはデンジと試合はおろか、手合わせすらしていない。俺が弟子だった頃には師匠に向かって行っちゃぁぼこぼこにされていたと言うのに。もったいない話だ。 だが心当たりはある、そしておそらくそれは当たっているだろう。 「チマリちゃんの、あなたに対するある種の服従じゃぁないですかね」 「そう、たぶんそうだ」 はぁ、とため息をつきうなだれる。 服従させること、それはジムリーダーには必要な能力だ、事実デンジにはファンも多く、ジムトレーナーも志願も絶えることなくやってくる。 もし俺がナギサの出身だったら、デンジの門下に下っていたかもしれない。それほどのカリスマをこの男は持っている。 そのあと三分ほど、沈黙が続いた。 「八年前、傲慢でも何でもなく俺はシンオウ最強のジムリーダーだった」 沈黙を破ったのはデンジの言葉だった。 俺は相槌を打たず、黙って聞くことにする。 「俺は悪友に誘われていたんだ、ジムリーダーを辞めて四天王の一員にならないかと、正直乗り気だったよ、何もない街、弱すぎる挑戦者、飽きるには事足りない、だが一つの要因が俺をジムリーダーという立場に縛ったんだ」 「敗北ですか」 ジムリーダーデンジという人間の経歴の中で数えるほどしか存在しない敗北。その中でもひときわ異常なのが八年前、ジムリーダーデンジの最後の敗北だ。 相手はわずか十二歳、その少年は津波のようにシンオウを飲み込もうとしていた。次々と突破されるジム、謎の組織ギンガとの戦い、負けを知らぬのではないのかと勘ぐってしまうほどの快進撃、次代の大物、世界を飲み込みかねない逸材とも呼ばれていた。だがそれでもデンジの敗北を予想したものは居なかった、デンジもまたある一種の天才、相手が次代の大物ならばデンジは現代の大物だった。 だが大半の予想を裏切り、デンジは敗北した。他のリーダーと同じく、飲まれたのだ。 だが、デンジは首を横に振り。 「いいや違う、確かに八年前に俺は負けた。シンオウのジムを破竹の勢いで勝ち進んだ少年。俺はそいつを叩き潰して、ジムリーダーを辞めるはずだった。だが俺は負け、リーダーを続けざるを得なくなった……いや、本当は勝とうが負けようがジムリーダーを辞めようと思っていたんだ、どっちに転がっても一つの区切り、俺はジムリーダーには向いていなかったしな。ところがだ、ところがだよ、チマリの奴が泣いて言うんだ『もう泣かないからやめないで』その姿がまぁ……その、なんてーのかな、すごく可愛くて、すごく弱弱しくて、守らなくちゃならねぇと思ったんだ。才能あるトレーナーを潰すかもしれないとか、幼い女の子をこんな僻地まで引っ張ってきた責任とか、そんなんじゃなくて、その……なんだ……くそっ、うまく言えねぇけどさ」 「大丈夫ですよ、いいたいことは大体分かります」 顔を真っ赤にしてチマリのことを語るデンジからはバトル中の冷たい殺気は感じられない、歳の離れている兄かもしくは若い父親のようだ。 「いい関係だと思いますよ、師弟の間の信頼感っつーのは無いよりはあった方がいいです、そんなに考え込むほどの事じゃない」 「いやそうじゃないんだ、考えてるのはもっと違う事、具体的に言えば、今俺は八年前と同じ気持ちなんだ」 頭のタオルをはずし、ワックスで固められたブロンドをガシガシと掻き毟る。そして、センター内にジムトレーナーが居ないことを確認してから言った。 「傲慢でも、たぶん慢心でもない。俺は……強すぎるんじゃないだろうか?」
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第三話 ( No.3 ) |
- 日時: 2011/01/20 00:19
- 名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:aQ/QO6jU
- 朝、デンジは挑戦者を迎えてジム戦を行う、チマリ含むジムトレーナーはそれの見学、という事はつまりだ。
俺が海を独り占めできると言うこと。チマリの事だ、今日はジムから出てこないだろう。天気は快晴、寒くもぬるくもない程度の素晴らしいそよ風、海ではマンタインが跳ねる、これほど睡眠もとい読書日和はないだろう。 正面に海を見据えて読書を始めて一時間ほどだろうか、誰かが砂を踏む音が聞こえて俺は目覚め、もとい本から目を離し、その方を見た。 チマリだった。ハーフパンツにブランド物のジャージ、隠しているつもりだろうが隠せていないピカチュウプリントのTシャツ、昨日に比べて動きやすい恰好、ジム戦の終わった後にジムトレーナーたちと一戦交えようとしていたのだろう。 まさかだった、まさか今日もチマリが俺を咎めに来るなんて。何とか言い訳をしないといけない。 「ちょっとまて、反則だって、そんなのってないよ、素直にデンジさんの試合を見てろって」 「キリト……」 俺が声をかけるまでチマリは俺に気づかなかったようだ。目はうつろでいつもの様なエネルギーが感じられない、声にも張りが無かった、本当にこいつはチマリなのだろうかと疑うほどに彼女は狼狽しきっていた。何かまずいことが起こった、今のチマリを見てそう思わない人間は人間をやめた方がいい。 チマリはひざから崩れ落ちるとこの町全体に響きそうなほどの大声で泣いた。ギリギリで耐えていた堤防が、水圧に負け決壊したかのように目から大粒の涙がこぼれる。それはとても年相応の泣き方ではなく、例えるに六歳の子供の様であった。 俺は椅子から飛び降り、彼女に駆け寄る、ウツギ博士が頑張ってまとめた『ポケモン進化に対するレポート百選』が砂の上に落ちた音がした。 「チマリ落ちつけ!」 それだけの言葉では彼女は泣きやまない、嗚咽を繰り返し、体は小さく痙攣している。両手では掬いきれない涙がシャツを伝い、プリントされているピカチュウも泣いているように見えた。 俺はどうしたらいいのかと考え、不安だったが膝を着き、彼女の顔を胸に抱えた。チマリはそれにすら動じず泣き続ける。 「落ち着け、落ち着け、落ち着け」 両手で頭を抱える、三カ月、毎日といってもいいほど小言を言われてきたが、この子はこんなにも小さく、か細かっただろうか。 「落ち着くのが無理なら思いっきり泣け、中途半端に終わらせるな、泣いてることがどうでも良くなるまで泣け、泣け、泣け」 俺の言葉は彼女に届いているだろうか、彼女はさっきよりも強く顔を押し付けてきた、俺のTシャツはもうびしょびしょだ。 「デンジさんが、デンジさんが、デンジさんが……」 「お前は強い、強い女だ、町の皆には泣いてる姿を見られたくなかったんだろ、だからここに来た、誰も居ない海岸に来た。大丈夫だ。俺しかいないから、ここには俺しかいないから、俺が邪魔なら俺も消えよう。だから気の済むようにやれ」 突き飛ばされるのではないかと思ったが、彼女は泣きながら俺の背に手をまわした。俺はそれを行かなくても良いと言うサインだと解釈し、黙って目を閉じた。 ナギサジムジムリーダーデンジの敗北が俺の耳に入るのはチマリが泣きやんですぐの事だった。
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第四話 ( No.4 ) |
- 日時: 2011/01/20 20:09
- 名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:aQ/QO6jU
- チマリと俺は取りあえずポケモンセンターへ向かった。センターの仮眠室――今ここを使っているのは俺だけだ――のベッドにチマリを座らせ、俺は何か温かいものを作ってやることにする。
「そこで待ってな、美味いもん作ってやっから」 チマリは何とか落ち着きを取り戻していた、だがほとんど喋らず、うつむいたままだ。 鞄から小さなガスコンロを取り出し、火を付ける、チタン製のコップにモーモーミルクと気持ちばかりの砂糖を入れる。後はかき混ぜて火にかけとけばいい。 温まるまでの少し時間がある、俺はチマリの横に腰掛け、話しかけた。 「まぁその、なんだ、デンジさんもトレーナーな訳だしな……いつかは……なぁ」 チマリはさらにうなだれた、俺はなんて馬鹿なんだと後悔する、彼女にとってデンジとはただのトレーナーでは無くさらに上の存在だった。話題を変えなくてはならない。 「俺にも似たような経験がある。そうだ、俺の話をしてやろう」 「キリトの?」 チマリが少しだけ顔をこちらに向けた。まぁ、関心はあるのだろう。 「そうだ、俺の師匠もデンジさんと同じジムリーダーだった、ホウエンのな」 へぇ、と小さく相槌を打つ。 「すげぇ強かったし、すげぇかっこよかった、しかもすげんだ、ホウエン地方のポケモンチャンプにもなったんだぜ」 「……ならなぜ、キリトはここにいるの? そんなに素晴らしい師匠ならその人に付いて学べばいいのに」 チマリの顔が少しだけ上がった。 「確かにな、ちょうど俺がお前くらいの頃だから十年前くらいかな、すげぇおっかねぇポケモンが二体も俺が住んでる町で暴れ始めたんだ、グラードンとカイオーガとか言う天候を操ると言われてた伝説のポケモンだ、俺達はどうしようもなくてみんなで一か所に固まってぶるぶる震えてたんだ、当時のジムリーダー……師匠の師匠なんだけどな、その人も何とか食い止めようとしてたが駄目だった」 ホットミルクが煮えこぼれる音が聞こえた、コンロの火を落とし、自然に冷めるのを待つ。 チマリはその間もずっと俺を見ていた、ミルクが目当てなわけではないだろう。 「それで、どうなったの?」 「師匠がやってきたんだ、これで何とかなるんだ。って俺と町の皆は思った、なんてったってホウエンで一番ポケモンバトルが強い人なんだ、負けるわけない。そう思ったんだよ……師匠もそのポケモン達を止められなかったときには、俺は死ぬんじゃないかと、いや、きっと俺は死ぬんだと思った」 チタンのコップに触れる、まだ熱い。 「雨と太陽が戦ってた、異常な光景だった。もうだめだ。って思ったときにものすごい風が吹いて、上空に緑色をしたこれまたすげえでっかいドラゴンポケモンが現れたんだ、街の人間全員が死を覚悟したと思う。だが、グラードンとカイオーガの動きは止まった、俺達が事態を飲み込む前にその二匹は消えた、あんなに暴れていたのに……とにかく、町の人間は喚起したさ、なんだあのポケモンは、神様なのかもしれない。ってな、だが」 そこまで言って話すのをいったん止める。コップに触るがまだ熱かった。 「ねぇ、何で止めるのよ」 「ここから先は教えないって言ったらどうする」 その問いに対してチマリは声は出さないもののあからさまに不機嫌そうな顔を見せる。 「冗談だよ、本当は、まだ信じられないんだ、あの光景が」 そう、あの光景は今の俺の原点であるが、それが本当にあった光景なのかどうかいまだに確信を持てないでいる。 「そのポケモンが、ボールに戻っていったんだ。そしてそのボールの持主は……俺よりも年下、十二歳くらいの女の子だった」 俺はこの話を滅多にしない、別に隠してるわけじゃない、あの凄惨な事故、伝説のポケモン同士のぶつかり合いはむしろ積極的に話していくべきだと思う。だがいつも最後、最後まで話すと、冗談だと思われる。 「その後、その女の子は師匠を倒し、ホウエン地方のポケモンチャンピオンになったってお話だ、俺は思ったね、師匠は確かに強いが、師匠よりも強い人は必ずしもいる。この町から出なければならない、世界には師匠よりも強い人がいるってな」 コップに触るとちょうどいいくらいの温かさになっていた。黙って居るチマリの目の前に差し出す。 「飲みな、飲んで寝ろ、泣き疲れってーのは本当にあるんだ」 チマリは両手でそれを受け取ると、表面にニ三度息を吹きかけ幼児がするように少しだけ口をつけた。 「美味いか?」 「……うん」 「そりゃぁよかった、俺は海岸の本を拾ってくるよ」 ベットから立ち上がり、コンロのガス栓がしっかりし待っていることを確認して、仮眠室のドアを開けようとした時、チマリが後ろから声をかけてきた。 「……ねぇ」 「ん?」 こんなに弱弱しくチマリから呼ばれたのは初めてだ、すぐに振りかえる。 「デンジさんに……挑戦するの?」 顔をあげたチマリの眼は、真っ赤に充血していたがまっすぐに俺を見据えていた。立ち直ったのだろうか、それとも気丈にふるまっているだけなのだろうか。 「するさ、俺はこう見えてもポケモントレーナーなんだ」 「そう、そうよね」 チマリは再び目を落とし、コップを傾けた。
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第五話 ( No.5 ) |
- 日時: 2011/01/22 03:22
- 名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:rc/1.JHk
- 「おやおや、これはこれは、シンオウで活動しているという話はお聞きしましたがまさかお会いすることができるとは、いやはや、長生きというものはしてみるものです」
デンジを倒したトレーナーがこの民宿にいるとジムトレーナーから聞き、俺はそこに向かった。 チマリに嘘をついたのは……なぜだろうか、ただなんとなくだ。 出迎えてくれたのはロバートと名乗る年老いた紳士だった、センスのいい海外製のスーツに身を包み、髪と髭はだいぶ白が強くなっている。髪が潰れているのは普段ハットをかぶっているからだろう。 「いえ、俺の事を知っていただいているようで光栄です」 「はっはっは、少し前までジョウトにいたものでね、あなたの事を知らない方が異常だ。最も、もう少しすればここシンオウにもあなたの名前が響き渡るのでしょうな、残念です、旅行中でなければそれを目の当たりにできたのに」 「おそらく俺なんかより貴方の名前が有名になる、明日はシンオウ中であなたの名前が聞けるでしょう。なんてったってあなたは……シンオウ最強のジムリーダーデンジに勝ったんですから」 ロバートはその歳相応にニコリと口端を上げると、「立ち話もなんですね」とロビーのソファーに俺を座らせ、向かい側にテーブルをはさんで座る。 座っておいてなんだが長居するつもりはない、話しの核心を突くことにする。 「デンジは……強かったですか?」 バトルの話になるとロバートの目がギラリと光ったような錯覚に至った、うん、この人は強い。間違いなく。 「私はトレーナーになって六十年になりますが、間違いなく一番強かった、今日の戦いも接戦、一応の対策はしたはずなのですがね」 「これを聞くのはマナー違反の様な気がしますが……穴はありましたか?」 別に聞くこと自体は何の問題もない、むしろ情報のアドバンテージを取ることはバトルは絶対的に必要不可欠な事だ、特にジムリーダーとなるとバトルにおけるプライバシーは無いに等しい。戦法、使用するポケモン、癖、それらすべてを公衆の面前に晒すも同然、特に強豪のジムリーダーになるとそれは顕著だ、一般人が超人との溝を埋めようとすれば、ただの情報であっても金剛石並に重要だ。 だが他人から聞くのには抵抗がある、引け目と言うよりも嫉妬に近い何かだ。 「それをマナー違反だと思うことが貴方らしい。 本当に小さなものですが穴はありました、そしておそらくそれは今後埋めようのないものです」 「なるほど、気になりますね」 「才を持ってしまったがための『ズレ』です。才とは例えるなら切れすぎる刃だ、一見太刀打ちできそうにないが一度でも刃こぼれすると脆い」 なるほどね、確かに筋は通ってる、そしておそらくこの人ならその『ズレ』に漬け込むことも可能だろう。 だが、引っ掛かるのだ、はたしてそれだけであのデンジが敗れるだろうか。 デンジは昨日確かに言った『俺は強すぎるのではないだろうか?』と。 恐らく慢心ではない、確信に満ちた一言だった。そりゃそうだ、二三度勝っただけの少年が粋がるのとはわけが違う。八年間もの間、戦術も、使用するポケモンも、癖も、大衆の間に晒し続け、シンオウの猛者の挑戦を受け続け、それでもなお無敗だった男なのだ。 何かがある筈だ、とんでもない油断、もしくはこのロバートという男がとんでもなく強いか。 「ありがとうございました、とても参考になりましたよ」 礼を良い、ソファーからたち上がる、それをロバートが声でさえぎった。 「本当にそれだけですかな?」 「……他に何があると言うのですか?」 ロバートの目がギラリと光る。 「老いぼれの勘違いですかな? 私はてっきりこっちの方かと思いましたよ。それとも、バッチを六つしか持っていなければたとえデンジを倒した男であっても興味がありませんかな? 実績では劣っていても六十年の歴史には少々の自信があります」 背広を少しまくり腰のボールをチラつかせる、その気がないわけではない、バトルをやらなくなってちょうど三カ月だ、そろそろ始めてもいいころだとは思う。 それに、ロバートのプライドの問題もある、これは引くに引けない。目があったらバトルの合図、俺たちの根底にはこの掟があるのだ。 「……良いですよ」 ロバートは歳に似合わぬ満面の笑みを見せた。 「あなたならそう言ってくれると信じていましたよ、この旅館の裏にちょうどいいスペースがある、一日にナギサのデンジとルネのキリト両方と戦える、トレーナーとしてこれほど幸福な事はない」 ロバートは立ち上がると足早に俺をエスコートする、見た目は落ち着いた紳士だがその中身は若者の様にぎらついている。 俺は腰の一番先頭のボールと二番目のボールを入れ替えた、まだこいつを出すわけにはいかない。もしデンジと闘うことになればこいつはとっておきとなる。
「ん……」 窓から差し込んでくる日差しが眩しくて、チマリは目覚めた。 どれほど眠っていたのだろう、ポケッチの時計機能を起動して確認するとキリトが仮眠室をを出て行ってから大体三十分ほどだった。 「寝ちゃったのか」 ホットミルクを飲んだ後に疲れを感じ、横になったとたんに眠ってしまったのだ、別にキリトの指示に従った訳ではない、疲れたから横になっただけだとチマリは自分に言い聞かせる 自らを落ち着かせるために海岸へと向かったが、天気のいい日にはキリトがいることをすっかり忘れていた。気が動転していたのだろう。 机の上を見るとキリトのコップが置いてあった。中身は無い、あまりに美味しかったから、あっという間に飲み干してしまった。 目をこする、意識がはっきりしてくると先ほどまでの自分の行動が思い出されて急に恥ずかしくなってきた。 泣いたのなんて、いつ以来だろう……あぁそうだ、何年か前に、デンジさんが負けて以来だ。と自らの過去を顧みる。 泣いた事を思い出すと、キリトに力いっぱい抱きしめられた事も思い出した。急に顔が熱くなる、弱みを見せてしまったからなのだろうか、それとも。 「あーあ、馬鹿馬鹿しい」 背伸びをし、そのまま真後ろに体を倒す、すると背中の方に異物の感覚があった。 「ん? 何だろう」 体を起こして見るとキリトが来ていたジャケットが投げっぱなしになっていた。どうして男というのはこうにもだらしのない生物なのだろうかとチマリは思い、椅子に掛けようとジャケットを引き寄せた。 「あれ?」 ジャケットの下には本があった。それもつい最近見た本、『ポケモン進化に対するレポート百選』だった。相変わらずチマリにとってつまらなさそうな題名だ。 「ん?」 チマリはキリトが仮眠室を出て行くときになんと言っていたか思い出し、矛盾に首をかしげた。
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第六話 ( No.6 ) |
- 日時: 2011/01/23 00:55
- 名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:RtO/tSK.
- 「シザークロス」
虫タイプのポケモン、テッカニンが俺のサンダースの目の前に迫る、まだ回避の指示を出すには早い、もっと、もっとひきつけなければ。 「砂かけから高速移動」 「回避しなさい」 テッカニンがサンダースを捕らえようとしていたその瞬間に指示を出す、サンダースは前足で砂をテッカニンの目の前にかき上げ、テッカニンがそれを避けている隙に距離をとった。 「電気ショック!」 「む、バトンタッチ」 サンダースの体から電撃が放たれる。威力は小さいが隙のない技だ。ロバートの指示は一瞬遅く、テッカニンは電撃がヒットしてからボールに戻った。 「君のポケモンもデンジのポケモンも、指示があるまで攻撃を避けない、強い信頼関係があるのでしょうな。それに技の威力も素晴らしい、小技ながらやられる所でした」 「弱点を突いたまでです、早く次のポケモンを出さないとサンダースの技の威力がさらに上がってしまいますよ」 ロバートが話しているその時にもサンダースは体に電気をためている。サンダースをはじめとする電気タイプと対戦する際には無駄が許されない、一秒のロスがそのまま技の威力に直結するからだ。 「心配ない、サンダースにはそのまま退席して頂く、デンジを倒した私の切り札でね」 ロバートが腰からボールを取り出す、彼の切り札の情報は無い、間違いなく強力なのはわかっている、何しろあのデンジを倒したポケモンなのだ。 それに厄介なのは先ほどのバトンタッチ、バトンタッチは自らの能力変化を後続に引き継がせるものだ。テッカニンは飛び続けているだけで自らの素早さを引き上げる特性を持っている、そしておそらく今から出てくるポケモンは重量級、力強くタフだが鈍足さがネックとなっているポケモンだろう、そのポケモンが鈍足さという弱点をテッカニンの特性とバトンタッチの特性で回避する、手堅く強力なコンボだ。 ロバートがボールを投げる、出てきたのはいくつもの鋼の塊が連なっているポケモン、ハガネール。ハガネールのタイプは鋼と地面、電気タイプとの相性は最悪。だが乗り越えなければならない、デンジを超えるのであれば。 「アイアンヘッド」 ボールから出てきた勢いそのままにハガネールの巨大な頭がサンダースに向かって来る、やはりそれは今まで見てきたハガネールよりも数段早かった。
チマリの小さな疑問を、地響きが消し去った。建物が壊れるほどのものではないが日常生活ではあまりお目にかかれないものだ。そのあとにポケモンの唸り声、その唸り声には聞き覚えがあった。今朝、デンジを倒したトレーナーの切り札、ハガネールのそれだ、鳴き声からだいぶ追い詰められているのが分かる、しかもデンジさんと戦っている時以上にだ。誰が、誰がここまで追い詰めているのだろう。 「……デンジさん、デンジさんだ!」 チマリはベットから立ち上がった。デンジの敗北は何かの間違いで、今、仕切り直しをしている。そしてデンジがあのトレーナーを圧倒しているとチマリは確信した。 チマリは持っていたキリトのジャケットを床に放り投げると、バトルをしているであろう場所へ向かった。
場所はすぐに分かる、デンジが作ったナギサ名物の陸橋に上って、ぱっと見渡してハガネールの頭が見える場所へ行けばいいのだ。近くにある民宿、戦いはそこで行われている。 鳴き声から感じるにハガネールは大分弱っている。今にも力尽きそうだ。 チマリはさすがデンジさんだと呟いた。たった一度見ただけなのに完全に相手を凌駕している、どのようなバトルが行われているのか、早く見に行かなければ。
チマリがその場に到着したとき、ハガネールが大きな音を立てて崩れ落ちた。ちょうど勝負がついたのだ。ロバートがハガネールをボールに戻し悔しがっている。 「やった! デンシさんが勝った」 チマリは思わず声に出して喜んだ、 キリトがその声に気づいてチマリのほうを見る。土煙でお互いに姿は分からないがキリトは声の主がチマリであると分かった。 少しして土煙が晴れると、チマリからもキリトの姿が確認できるようになった。 チマリはまさに「きょとん」とした顔で言った、 「……あれ、なんで? キリトが居るの?」
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第七話 ( No.7 ) |
- 日時: 2011/03/23 14:51
- 名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:l3nBrnbY
- 声のした方を見るとそこにはチマリが居た。ロバートの背後に立っている。
ポケモンをボールに戻し、チマリに近づく。俺がチマリに話しかけるその前にロバートが俺に話しかけてきた。 「流石は最強のバッジコレクター、手も足も出ないとはこのことですな」 ロバートはそう言うと右手を差し出す、俺もそれに応えて握手した。 「ロバートさん、あなたも強かったです。申し訳ないが少し席をはずしてはいただけないですかね」 「私もそう言おうと思ってたところでしたよ、この少女にはあまりよく思われてはいないだろうからね」 ロバートは傾いたハットを右手で直すとチマリに一礼をして宿に戻っていった。俺とチマリが向き合う形で残される。 「……勝ったの?」 俺を見据えるチマリの目には再び涙が溜まっていた、大体の理由は分かる。デンジに勝ったトレーナーに俺が勝つ、それはデンジ至上主義の彼女からしてみればあまり喜ばしいことではないのだろう。 「大体分かるだろ、勝ったさ」 それは彼女にとって辛い宣告、チマリの目の涙が今にもこぼれそうになる。 「キリト、あんた強かったのね……」 俺と目を合わせない、うつむきがちにチマリが言った。 「さぁ、どうだろうね、自分ではまだまだだと思ってる」 「そんなこと言わないで!」 握りこぶしが胸に振り下ろされる、だがそれはあまりにも弱弱しい。迷いが表れていた。 「デンジさんもそう、自分の強さに満足していない。もっと強く、強くなろうとしてる。あの人は私よりもずっと強いのに」 少し、チマリが言葉に詰まる、自分の言いたいことがどのような単語になるのか選んでいるのだろう。 「デンジさんが強くなかったら私はどうなのよ! あの人よりも弱い私は」 涙こそこぼれてはいないが、崩れ落ちそうになる彼女の両肩を掴んで支える。涙をいっぱいに貯めた目が俺の目と合う。 「それはちがう」 腰を落とし、チマリと同じ目線になる。俺も昔よく師匠にこうされていた、今思えば師匠も俺と同じ気持ちだったのだろう。 「世界で一番強いトレーナー、それはデンジじゃない、ロバートさんでもない、俺でもない。世界で一番強いトレーナーってのは自分の中の理想の自分なんだ」 「自分の?」 「そうだ、どれだけ負けたって良い、負けのないトレーナーなんて居ないんだ、だがどれだけ巨大な力の差を見せつけられても、どれだけ負けても、決して屈服したらダメなんだ、こんな奴俺が鍛えたら瞬殺だ。慢心かもしれないがそのくらいの気持ちを持て、そして精進すればいい。理想の自分に、最強の自分により近づくために、妥協は駄目、相手とも戦うが自分とも戦わなければならない」 チマリはジャケットの袖で涙を拭いた、結局、泣くことはなかった。 「わかんない……よくわかんないよ。私に分かるのは……デンジさんが強いってことだけ、デンジさんについていけば私も強くなれるって事だけ、それも間違っているの? デンジさんにとって私ってなんなの?」 俺の目を見て訴えかけるチマリは主を失ったメリープに近い。行き場所を失い、自由を手に入れたがその自由が何なのかわかっていない、行き場所があった方が良かった、主に仕えている方が良かった。今後どのようなトレーナーになるか、その分岐点に今彼女はいる。 俺の中のモヤモヤ、心の中に引っ掛かっていた何か、それはほぼ確信に変わっていた。トレーナーとしてではなく一人の人としてのデンジ、彼ならこれを犯しうる、トレーナーとして最大の禁じ手。 「デンジさんは、君の事を第一に考えてる、間違いなくね、だから間違いを犯し、敗れた」 「間違い?」 何かが俺の中を支配していた、それはチマリを助けたいという気持ちと、怒り。 準備はできていない。だが一刻でも早くこの輪廻から脱したかった。居心地が悪い。 だいぶ落ち着いたであろうチマリの肩を二回たたき、陸橋へ向かう。 「どこに行くの?」 「ナギサジムさ、ちょっとデンジさんに用ができた」
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第八話 ( No.8 ) |
- 日時: 2011/01/24 19:07
- 名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:BLZXZ7EM
- 静まり返ったジムの外れ、倉庫の中にデンジは居た。電気こそついていて明るいもののジムには必要ないのではないかと言う部品や、様々な道具が散乱していた。
センターで出会った時とほぼ同じ恰好、ツナギとバンダナの様にまかれたタオル、ジム戦をそのような格好で行う訳ないのでおそらく着替えたのだろう。傍らに大きな工具箱を置き、白い布がかけられた何かをいじっていた。 開けっ放しになっている扉を手でたたき、一応の礼儀を済ます。入口に背を向けていたデンジがこちらに振り向いた。 「ジム戦、お疲れ様です」 「君か、結果は知っているだろう。負けてしまったよ」 会話の途中に再び背を向ける、機械いじりに夢中のようだ。 「チマリちゃんから聞きました、切り替えが早いですね、何をいじっているんですか?」 「あぁこれかい、バイクだよ、バイク」 立ち上がって掛けてある布を捲る、中から少し小型の二輪車が現れた。 全体的に赤がベースで何と言うか、かわいい。未成年の子供か女の人が乗るようなものだった。 「デンジさんが乗るイメージじゃないですね、少し小さい」 「いや、俺が使うのはこっち」 デンジが指さした方を見ると黒塗りでかなり大型のバイクがあった。 「電気ポケモンの発電で動くようになってるんだ、もちろん改良済み。今やってんのは俺が乗る奴じゃないよ」 電気ポケモンを動力に動く二輪車か、ややこしいところが聞いたら五月蠅そうなものだ。 「チマリちゃん、ですか?」 「まぁ、気持ちはね、だけどまだわからない、チマリがナギサから外へと行くと宣言した時。その時には、乗り方を教えるつもりだ」 「免許の問題があるでしょう」 「取らせるさ、ジムリーダーという立場を最大限に利用してね。費用だって俺が出す」 「娘想いなことで」 「娘か、確かにその位の気持ちなのかもしれないな」 少し笑ってまた俺に背を向けバイクをいじり始める。 感動的で微笑ましい光景、これも一つの師弟の形だと思った。だが、デンジがチマリの事をそれほどにまで気にかけている、愛しているからこそ許せなかった。 「デンジさん、今日、俺はあなたに挑戦する」 デンジの動きが止まった。予想外の事だったのだろう、もちろんだ、俺だってこんなにも早く挑戦する予定ではなかったのだから。 「君が指定した日にちは十日は後だ、何か急ぐ理由でも?」 「感情に身を任せているだけです。デンジさん、俺はあなたが許せない、一秒でも早くあなたを叩き潰したいんだ」 嘘偽りない、口調もいつもに比べたら幾分か激しく、早い。 デンジは振り返り、俺の真正面に立った、俺よりも少し背が高い、俺を見下ろすその目に、怖さは無かった。 「旅のトレーナに敗北したことがそこまで不服だったのかい? それなら謝罪しよう」 「そんな事じゃない、戦いには勝利と敗北しか存在しない」 「ならば何が不満なんだい、俺の八年間不敗というブランドが崩壊したことか? 今日以降のナギサジム認定バッジには価値を見いだせないと言うことか」 デンジの言い訳に等しい弁解は突き放すように聞こえたが、俺の怒りの矛先を自分に向けようとしている様に聞こえる、自分以外の人間の話題が極力出ないように。 俺がこの物語の全容に大体気づいていると言うこと、デンジはそれを理解しているのだろう、これらの発言はデンジ最後の抵抗、批判の方向を自分に向け、その他の事を目に入らなくする。だが説得力がないのだ、おそらくこの男は嘘などついたことがないのだろう、俺の目と合っている目は今にも視線を逸らしそうで、戦いのときの威圧感は無い。 俺はこの茶番に付き合うつもりはない、自分が思っていることを全部言うつもりでいる、デンジ最後の抵抗の先にどれほどの利益があってもだ。 「あなたがわざと敗北したと言う事」 デンジの目の光が完全に消えたように見えた。 「それが気に食わない。いくら弟子のためだとは言えそれだけはやってはいけない行為だ」 俺はこの時のデンジの表情を忘れることはないだろう、自らの企みがばれてしまったと言う焦り、何とかごまかさなくてはと思考する表情ではなく。後悔と、緊張から解放されたと言う安堵の表情。平然を装っていたが罪悪感に押しつぶされそうだったのだろう、この分だともっと悪い形で露呈していたかもしれない。 デンジは俺から目を逸らす、だが否定の言葉は出てこない、嘘を嘘で塗り固められるほどの嘘のテクニックがこの男には無い。 短い沈黙の後、デンジの口から出てきたのは自供だった。 「チマリは天才だ、おそらく同世代でチマリに適うトレーナーはいないだろう。だがチマリは、俺の下に就いたばっかりに自分に蓋をしてしまっている。あれでは駄目、あれでは俺より強くなることはない。だが俺は負けない。あいつの前で、チマリの前で勝ち続ける。それでまたチマリは自分に蓋をする、自分の凄さに気付かない、自分の可能性を否定する、どうすればいいんだ、あれじゃぁチマリは並のジムトレーナーになってしまう、それだけは嫌だ。そう思った時、ずっと昔からより懸念していた禁じ手を使う事を決めた」 「あなたが負ければ、チマリは自分に自信を持つだろう」 「そう、俺が負ければいいと思った。俺が負ければチマリは俺に失望し、この町を出て行くと思ったんだ。その時、これを」 デンジが目の前のバイクに手を置く、だから負けてすぐに整備してたのか。 「だがあんたに対するチマリちゃんの依存度はもっとすさまじかった、あなた、チマリちゃんが泣いたところは見たことありますか?」 デンジの表情が曇る。俺がこの問いをするという意味を理解しているのだろう。 「八年前に見て以来、無い」 やはりな、と思った。最もデンジに見て欲しい彼女の弱みを彼女はあえてデンジに見せない。 「チマリちゃんはあなたの敗戦の後、海岸で泣いたんですよ。あの子は強いが弱い、あなたに涙を見せまいとすることはできたがあなたの敗北を受け止められることはできなかった。デンジさん、あなたがわざと負けたことも腹が立つが、それ以上に、師匠が弟子を泣かせたこと、これが許せない」 デンジは両手で顔を覆った。 「返す言葉もない、キリト、教えてくれ、俺はどうすればいい? 俺はチマリに何をしてやれる? チマリに何と言えばいい?」 デンジが初めて俺に弱みを見せた。社交辞令的な謙虚な物ではなく本当の、突けば死にも至るであろう弱み。しかもそれは凡人には理解しがたく誰も共感してくれない、孤立したものだった。 「そんなもん、本人に聞けばいい、ほら、出て来い、つけてきたことは知っているんだ」 俺が扉のほうに向かって声を上げると、扉の影からチマリが出てきた、ずっと後ろからつけていたことは分かっていた。だが俺はそれを咎めず、かといって案内する事も無かった。来たければ来ればいい、彼女にも聞く権利はあるしすべては彼女の自由だ。だが、黙って聞いていたあたり、あんがい彼女も半信半疑ながらも気づいていたのかもしれない。 デンジは言葉も出ないようだ、いや、本当は出したいのだろうが言いたいことが多すぎてどれを言っていいのか分からないのだろう。頭の中を言葉だけがぐるぐると回っている感じ。 「チマリ」 散々考えた挙句、その言葉を発し、デンジはチマリに歩み寄った。 「チマリ」 デンジはもう一度チマリの名を呼んだっきり固まってしまった。 何かを弁解しようとしているのだろうが、何から弁解すればいいのか、何から説明すればいいのか、どうすればチマリが勘違いしないか、どうすればチマリが傷つかないか、それを深く考えるがあまり何も出てこないのだろう。 二人とも不器用で要領が悪いなと思った。要領がいい人間というのは曲線だ、障害物があったら曲がり、それが危険なものならば囲う事も出来る。 だがこの二人は共に直線、デンジはチマリに対して、チマリはデンジに対してそれぞれ一本の線を引いている。傍から見れば交わっているように見えるその線は実は少しずつずれているために交わらない。そのズレは些細なものだが、直線の二人にはどうしようもない。勿論、第三者にも。 偽りでもいい、一つ優しい言葉でもかけてやればいいのにと思う、それだけで救われる人間だっているだろう。不器用故、それすらもできない。 幾分かの沈黙が続いた後、デンジは立ったままチマリを抱き締めた。
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第九話 ( No.9 ) |
- 日時: 2011/01/25 18:15
- 名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:QNK7Nmp2
- 「ごめん、ごめんチマリ」
シンプルな謝罪だった、だがチマリにとってこれ以上の事はないだろう。チマリは先ほどのデンジの言葉を聞いているしこれ以上の言葉は言い訳になってしまう。二人が和解する事にめんどくさい手順は必要無い。 チマリはデンジの背に手を回し、思いっきり抱きしめた。彼女の体から緊張とプレッシャーが抜ける。 見ると、チマリは泣いていた、あれだけ泣いたのにまだ涙が出ることに少し驚いた。 「デンジさん……私強くなる」 「もう良いんだ」 「私強くなる、強くなるから、だから」 チマリはデンジから離れ、ジャケットの袖で涙を拭き、しっかりとデンジを見据えて言った。 「もうこんな事はしないで、いつも全力で戦って、わざと負けたりなんかしないで」 俺がナギサにきて始めてデンジにチマリが命令をするところを見た。 恐らく、これはチマリとデンジの主従関係が構築されて以降初めてのことだろう。むしろ、主従関係は今終わったともとれる。 「あぁ、わかった」 デンジの顔は安らかだ、自分を縛っていた鎖が解けたのだから当たり前なのだろうが。 「勝手に解決されても困りますな」 扉の影から声がした。振り返って見るとロバートがいる。ハットを胸に当て、デンジに向かって軽くお辞儀をする。 驚いた、チマリがつけて来ている事には気づいていたがロバートには気づかなかったからだ。俺をつけてきたのか、それともチマリをつけてきたのかは分からない。 「盗み聞きしてしまった事は謝罪しよう。だが、それ以上の過ちをあなたは犯している。私の願い、聞き入れてもらえますかな」 デンジの影でチマリが怯えていた。無理もない、口調こそ大人しいもののデンジを責めるロバートは鬼気迫るものがあった、並のトレーナーなら戦う前から負けてしまうだろう。彼の気持ちも痛いほどに分かる、苦労して倒したと思えば、すべては弟子の為の狂言。だがロバートが怒りに感じているのはそこではないだろう。彼が怒りに感じているのは初めからデンジの視界に自分が入って居なかったという屈辱だ。 「ロバートさん、怒りに思うあなたの気持ちはよく分かる。申し訳ないことをした」 デンジは頭を下げる。 「私が欲しいのは謝罪でも偽りのジムバッジでも無い。このバッジはお返しする、だがすぐに取り返しますよ。私と再び戦ってもらいましょう、もちろん全力で。そして今度も私が勝つ」 もしロバートが並のトレーナーであったらこの事は見なかった事にするだろう、本気のデンジと戦って勝つなんてことは難易度が高すぎるからだ。いや、正直ロバートの実力ではデンジに勝つことは難しいかもしれない、一度手を合わせたから良く分かる。確かにジムリーダーと均衡する実力は持っているが相手が悪すぎる。それでも突っ走るということが彼がどれだけ高貴で勇敢で情熱的なトレーナーであるかを表している。 「わかりました、先ほどの試合の記録も抹消します。正式なジム戦を行うことを約束しましょう」 「再戦は今日だ。キリトさん、申し訳ありませんがお先に勝たせていただきますよ」 こちらを睨むロバートの目は、怖い。 「いえ、都合がいい。戦うなら夜が良いと言うところでした」 デンジはこれから二人のトレーナーと対戦することになる。ジム戦でトリプルヘッダーと言うのは非常に珍しい事例だ。しかも碌に仕事をしないことで有名なデンジが。 「無理よ! 今日はもう一回戦っているしこれから二人なんて」 俺たち二人に抗議するチマリをデンジが左手で制した。右手ではポケッチをいじっている。 「大丈夫だチマリ、簡単な事だよ、二回勝てばいいんだ」 その発言は余裕と言うより気持ちの切り替えの様に聞こえた。ロバートもそれを分かっているのだろう、その発言でイラついている様子はない。 「……今、午後三時三十二分です。ロバートさんの試合は四時からで宜しいですか?」 「いや、実はいろいろあってまだポケモンが瀕死のままなのです。回復と、作戦を練る時間を頂戴したい、朝と同じではあなたは倒せないのでしょう。五時からがいい」 ロバートがちらりと俺を見る、勘弁してほしい、戦いたいと言ったのは貴方だろうに。 「わかりました、キリトはどうする」 「六時以降ならいつでも、ロバートさんの試合が終わるのが遅けりゃその後でもいい」 デンジはチマリに何かを命じた、チマリが走って出て行く。急遽決まった対戦が二つに取り消せねばならぬ試合が一つ、さまざまな準備が必要なのだろう。 部屋の中は三人だけになった、デンジがもう一度頭を下げる。先ほどのものとは違い、本当に深々と。 「申し訳ない気持ちと、感謝したい気持ちがある。二人とも本当にすまない」 本当に誠意が込められている謝罪をされたら、恐らく今の自分たちのように返す言葉がなくなるのだろう。 「私は、再戦さえできれば後は言う事はありません。ただ、あの少女が救われたのは喜ばしい事だ。失礼する」 ロバートは手短に言うと出て行った。怒りが静まりそうになったのだろう。デンジに対する敵意が薄れてはまずいと判断したのだ。彼も自分の身の丈をある程度は理解しているようだ。怒りに身を任せ普段の自分以上のもの出そうとしている。 「ロバートさんは気の毒ですが俺は特に何も被害はないですから。まぁ必要以上に首を突っ込みましたが」 「君がいなければチマリは立ち直れなかった、本当にありがとう」 顔をあげたデンジの目には薄く涙が見えた。なんて人だ、この人は弟子のために泣いているのだ。 「自分の目の前で女の子に泣かれりゃ深入りもしたくなりますよ。それに、彼女に強くなって貰う方が将来楽しみになる。それよりも、感謝の気持ちは戦いのときに出してもらいたい、あなたはチマリちゃんの事を考えすぎだ」 「わかってる、今日の戦いは俺のトレーナー人生で最も重要なものだ、フィールドで向き合う時目の前にいる人間がジムリーダーデンジだと思わない方がいい。八年前のシンオウ最強トレーナーデンジがロバートさんと君を迎え撃つ。ロバートさんにあのバッジを返す気はないし、君にバッジを渡すつもりもない、チマリにも約束したしな」 早速チマリの名前が出た。俺はこの二人に肩入れしてしまった事に少し後悔した。こんなことになるならば、デンジがこれほどの威圧感を持つようになるのならば肩入れしない方がよかったのかもしれない。 今すぐセンターに帰って作戦をなりなおさなければならない。この挑戦は予定よりもかなり早いものだし、ポールに入っているとっておきの準備はまだできてないし、今のままでは使い物にもならない。
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第十話 ( No.10 ) |
- 日時: 2011/01/26 20:48
- 名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID://12zAbE
- ポケギアは午後五時五十分を表示していた。ポケモン達をボールに戻し腰にセットする、考えを纏めるために使っていたノートをカバンに戻し残っていたコーヒーを啜った。そろそろ指定した時間だ、行こう。
センターから出て陸橋を登る、ジムまでは一直線だ。陸橋からは海が一望できた。沈みかけの太陽が今日最後の輝きで空を赤く染め、普段は青い海もその時だけは顔を赤らめる、三カ月の間何度も見た光景だがやはり美しいなと思った。 ジムに近づくにつれてジムの前に人影が二つあることがはっきりとわかる。ロバートとチマリだ。 軽い挨拶に右手をあげる、ロバートは帽子を手に取り軽く頭を下げたがチマリは動かなかった。 陸橋が終わり、舗装された地面を足が踏んだ。目の前にはチマリとロバート。 「どうしたチマリ?」 チマリは黙ったまま腰からボールを取り出すとそれを投げた。尖った耳に黄色い体、彼女のTシャツに何時も隠れているポケモン、ピカチュウが現れた。 「あなたのことロバートさんから聞いたわ、ホウエンやジョウトでは有名なバッジコレクターだそうね」 ロバートの方を見る、彼は申し訳なさそうな目で俺を見ると「すまない、この少女があまりにも強情で」と一応の弁解をした。 最も、俺がバッジコレクターだと言う事は大体のジムリーダーやジムトレーナーなら知っていることだ、彼女の場合頭の中がデンジと自分のことで一杯だっただけの話で、もっと早い段階に他のジムトレーナーから聞くものだと思っていたのだが。 「いくつバッジを持ってるの?」 「二十を越えたあたりから数えてないが四十は無い、少しは俺を見直したか?」 「教えて、なぜジムバッジを集めているの?」 俺はこの手の質問が一番嫌いだ。なぜならばこの質問は全くの的外れであり、俺はこの質問に関して答えることができない。 それと同時に、バッジコレクターと呼ばれることも好きではない。だからこの三ヶ月俺は彼女に自分のことを話さなかったのだ。 体ごと彼女のほうに向ける。一人のトレーナーとしてこの様に面と向かってジムトレーナーの彼女と向き合うのは初めてではないだろうか? 「別にバッジを集めてるわけじゃない、もっと強くなるために、理想の自分を追いかけて各地の強者と戦った結果だ」 大体、バッジの数なんて強さと何の関係も無い、チマリの様にバッジを持っていなくともポケモンリーグレベルの人間はゴロゴロ居る。 俺は俗に言うバッジコレクターとはそもそものベクトルが違う、彼らは権威が欲しいだけに過ぎない、そして同時に彼らを黙らせるのに俺が持っているバッジは非常に役に立つ。 「コレクターって一様に似たようなことを言うわ、私はジムトレーナーとして何百回とコレクターと戦った。そして叩き潰してきた。キリト、私はバッジコレクターが嫌い、態度ばかりでかくて実力が伴っていない、戦術は卑怯で下劣、私に勝つこともできないくせにデンジさんとの試合を口やかましく望む」 「俺が奴らと同じだと言うのか? それならかなり心外だ」 「正直言って同じだとは思わないわ、他のコレクターみたいにバッジに対する脂っこくてギラギラとした執念があなたには無いから、でも、同じことなのよキリト。ジムトレーナーは挑戦者の力量を試すために戦う権利があるわ。キリト、私と戦いなさい。あなたが私に勝てなかったらデンジさんに挑戦することはできない、正確には私がデンジさんへの挑戦権を剥奪することができる。そしてあなたの印象は私が戦ってきた卑怯で、下劣なコレクターと同等になるわ。あなたは私に勝つしかないのよキリト、そして、私は勝たせる気なんてないわ」 俺を睨みつけるチマリの目はデンジのそれによく似ていた。真っ直ぐで少しでも油断があればそこを貫かれそうな緊張感。やはりこの子は天才なんだなと改めて感じる、俺と同年代だったらあっという間に天の上の人になっているだろう。 「私はやめろと言ったんですがね、どうしても聞かんのですよ」 チマリの後ろでロバートが呆れたように言う。 俺は腰の左から二番目のボールを握った。 「良いだろう、よーく目を凝らしとけ」
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第十一話 ( No.11 ) |
- 日時: 2011/03/23 12:53
- 名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:l3nBrnbY
- ボールを地面に投げつける。ボールに張ってあるシールの影響で薄い煙が小さい範囲に張られその中から小型の電気ポケモン、サンダースが飛び出す。子供の玩具として軽視されるシールだが戦いにも応用は可能だと俺は思っている。
「待てサンダース」 お互いに、相手のポケモンと自分のポケモンの距離を見測りながら睨み合う、サンダースとピカチュウでは素早さの面でサンダースが圧倒的に有利だ。自らのポケモンの素早さが高ければ高いほど相手ポケモンの行動を確認してから自分のポケモンに指示を出すことができる。例えるなら後出しじゃんけんだ。 当たり前の事だがただ自分のポケモンが速けりゃいいという問題でもない、もしそうなら全国のトレーナーがテッカニンとマルマインとメガヤンマを所持するだろう、素早さが高いポケモンは大抵そのために何かを犠牲にしているし素早さが低いポケモンはそれを補うように他の能力が秀でている。そして速さの勝負も単純な素早さの問題ではない。 お預けを食らい、気持ちが高ぶっているサンダースの体毛が逆立ってくる、サンダースの体毛はどれほどの電気が溜まっているのかの目安になる。これだけ逆立っていれば十万ボルトを放つことも可能だろう。 「サンダース、電気ショックだ」 待ってましたと言わんばかりにサンダースがピカチュウに小さい電撃を放つ。十万ボルトを打つこともできたが、あいにく電気タイプとの相性が悪く、隙と次の攻撃までの間を作るリスクは回避したかった。 「ピカリ、高速移動で交わして待機」 ピカリとは彼女のピカチュウのニックネームだろう。ピカチュウは素早い動きで電撃を回避し、再び先ほどと同じような間合いを取る。 初めて対峙した圧倒的な才能に少し緊張する。チマリが見せたこの何気ない動き、これこそが彼女の才能の片鱗であり常人が何年も苦労して身に付けるテクニックだ。 素早さならばサンダースの方が圧倒的に上、俺の指示からサンダースの行動までのタイムラグはほとんど無いと言っていい。並のトレーナーであったらたとえサンダースより素早さが上のテッカニンやメガヤンマを使っていても電撃を食らってしまうだろう。トレーナー同士の対戦において速さとポケモンの単純な素早さは実はあまり関係ない、必要なのはトレーナーのサポート。俺とサンダースのコンビネーションがどれだけ速かろうが、チマリの指示次第で彼女のピカチュウはそれ以上の速さを得ることができる。つまり先ほどの彼女の指示はポケモンの素早さを引き上げる魔法のテクニック。俺がそれを得るまでにどれだけの時間と力を費やしたと思っているんだ。 恐ろしいのはそれだけではない、彼女の指示は高速移動での回避、決してこちらに攻撃をぶつけなかった、相手の技をかわすことが可能ならば攻撃をぶち当てることも可能だ。彼女がそれをしなかったのは俺の意図を百パーセント読み切ったから。サンダースの体毛の状態から大技を出せることを認識し。隙と間を嫌い、相手の反撃にカウンターをぶち当てることを期待していた俺の思考を読み切り、高速移動での回避だけにとどまる。俺の指示を聞いてから俺の意図を読みとり、なおかつピカチュウで俺とサンダースのコンビネーションを上回った。 だがこれらは、非常に高いレベルではあるが、まだ想定内だ。 しばらくお互いに固まっていたが前触れなくチマリが右手で目を覆った。フラッシュが飛んでくる! だが彼女が指示を出すまで決して目を覆わない、ただのブラフの可能性もある。ポケモンがフラッシュを使える事はそのままアドバンテージにつながる。 「フラッシュ」 「伏せろ!」 彼女の言葉を聞いてから急いで右手で目を覆う。と同時に短く小さい口笛を吹いた。その後に何かがはじけたような大きな音、フラッシュだ。とりあえずは防いだが問題なのはこの後、目を開けたすぐ後にその場の状況を把握しなくてはならない。 目を開ける。ピカチュウが地面に伏せているサンダースの目の前に迫っていた。 「メガトンパンチ!」 「真正面、電光石火!」 ピカチュウがどれだけ速かろうと、チマリの指示がどれだけ速かろうと、サンダースの電光石火ならほとんどの相手に先手を取れる。 ピカチュウの小さな拳が突き出される前にサンダースがピカチュウに体を浴びせる。だがピカチュウの体は空気の様に崩れた。 もう一体のピカチュウが俺の視界の外から現れサンダースの背後を取る、みがわり。フラッシュを焚く前もしくは後、俺が目を覆っている一瞬に俺に気づかれないように身代わりを用意したのか。これは非常にまずい。サンダースと俺は完全に虚を突かれている。 「貰った! 気合いパンチ!」 「高速移動、後ろを取れ」 身代わりで時間を稼ぎ、気合パンチの集中を妨害させない、シンプルで古典的だが決まれば一撃で勝負を決めることもできる強力なコンボだ。 俺とサンダース共に虚を突かれている事と、サンダースが後ろを取られている事から電光石火は間に合わない。身代わりを打たれた時点で気合いパンチを食らう事は確定してる。 ピカチュウの気合パンチがサンダースの腹部にヒットする、だがサンダースも先ほどのピカチュウと同じ様に崩れる。
そして、チマリの背後から俺の高速移動の指示を聞いたサンダースが飛び出し、ピカチュウの後ろを取った。 みがわりと言う技は使いどころが難しい、たとえ相手に聞かれても大声で技の指示を出すのがポケモンバトルの常識だ、小さな声ではポケモンに届かず一方的にやられてしまう事もあるからだ。だがみがわりと言う技は相手に聞かれてしまっては意味がない、そこでトレーナーはポケモンとの間にみがわりを使う合図を決める。 俺の場合は口笛、目を覆う前に吹いたそれだ、短く吹けば自分は隠れろ、長く吹けば二匹で惑わせろだ。 「もう充分だろう」 サンダースをボールに戻し、チマリに近づく。 するとまだボールに戻っていない彼女のピカチュウが俺の行く手を遮る、体からパチパチと帯電している音が聞こえる、勝手に勝負をつけるな、まだやれると言っているように思えた。 「ピカリごめん、私の負けだよ」 押し殺した声でチマリが言う、純粋に悔しいのだろう。 ピカチュウがサンダースの身代わりを攻撃した時、俺が攻撃の指示を出せばピカチュウに大技を当てることができた、耐久力の無いピカチュウなら一撃で落ちていただろう、重ねたバトルの多さからチマリもそれがわかっている。 ピカチュウの耳と尻尾が垂れる、この種族のポケモンが落ち込むとこうなるのだ。 「いいパートナーじゃないか」 すれ違いざまにチマリの肩を叩く、振り向きもせず彼女は俺と目を合わせない。悔しくてたまらないのだろう。若いうちはこのくらいの闘争心があるほうがいい。 「ジムリーダーデンジへの挑戦を認めるわ」 「理想の自分は見えたかい?」 「……少し」 「ならそれを追っかければいい、あと二年……いや一年もすればお前は今の俺を越える。ま、そのころには俺ももっと強くなってるがな」 ロバートと目が合った、ロバートは帽子を胸に当て頭を下げる。 「負けてしまいましたよ」 彼には悪いがやっぱりなと思った。だが彼が弱いのではない、デンジが強すぎるのだ。 彼の表情は負けたとは思えないほどスッキリとしたもので、全力で戦い、同じく全力で倒されたのだろう。 「もう一度修行し直そうと思います、今の私では先ほどの君と彼女のバトルにも着いていけない。最も、六十の手習いですが」 クツクツと自嘲気味に笑った、自分に限界を定めているような言動に、少し違和感を覚えたがあまり触れないことにする、気持ちの整理もできていないだろうし、彼なら少しすればまたあの闘争心を取り戻してくれるだろう。 「対戦場まで案内しましょう、デンジがコースを固定してくれています」
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第十二話 ( No.12 ) |
- 日時: 2011/01/28 17:42
- 名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:UscYe.VQ
- ジムの入り口から競技場までは回転床による複雑な仕掛けがある。普通に攻略を進めると最善手でも一時間はかかるとデンジは得意げに言っていた。何年もの間、彼が独自に改良を進めた結果だ。
ロバートに先導され機能の止められた回転床を進む、手作りとは思えないほどにしっかりとしたそれを踏みしめる。 この仕掛けはデンジと俺達凡人の間にある大きな溝なのだと思った。デンジと俺達の溝が大きくなればなるほどにこの仕掛けは複雑に、より時間がかかるようになる、それが今やたったの五分、もちろん俺とロバートに対する謝罪の意のほうが大きいだろう、だがそれ以外に意味もあるように感じてならなかった。 回転床が終わった、目の前には扉がある、競技場へとつながる扉だ。 「この扉を開ける権利はあなたにしかない、私たちは観戦させてもらいますよ」 ロバートはチマリを連れてその場を去った、俺は一人扉と向き合う。暑い訳ではないのに首筋を汗が伝う、瞬きの回数が多くなり、鳴りもしないのに指の関節を鳴らそうとしてしまう。いつもこうなるのだ、重要な戦いの前にはいつも緊張に押しつぶされそうになる、その度に自分が凡人であることを痛感させられる。扉を開けようとする手が震えていた。 呼吸を整え、出来るだけ平然と振舞っているように装い扉を開けた。 床が固められた土で出来ていること以外は体育館とほとんど変わらない競技場、二階の観客席にはロバートとチマリの姿が見えたが、それ以外のギャラリーは少なかった。天井は一部ガラス張りになっており、日が完全に落ちていることがわかる。 デンジは競技場の中心にいた。レフリーだと思われるトレーナーと共に俺を待っている。 デンジの表情は柔らかく、穏やかだった。
「昨日の話は忘れてくれ」 競技場の中央、公式の審判員が俺達のボールに不正が無いかどうかチェックする。 本来ならば両者に緊張と気まずさが流れる場であるが、デンジは冷静に、そして気さくに話しかけてきた。 「センターでの話ですか?」 「そうだ……君の事はここに来る前から知っていた、ホウエンとジョウトのジムを立て続けに突破している男がいると。そして三ヶ月前に始めて君とあった時、僕は八年前のあの挑戦者と……君が重なっているように見えた」 少し言葉を切って、 「だから俺は期待したんだ。求めていた敗北、それは君がもたらしてくれるのではないかと。だがもう違う、もう俺には負ける理由は無い、今の俺にとってこの戦いは八年前のリベンジマッチであり絶対に負けたくない戦いなんだ、俺が絶対的な、強すぎるトレーナーだということを皆に証明してみせる」 過大評価だと思った、八年前の、すでに伝説の領域に達しているトレーナーと同格に見られても困る。 将来的に、鍛錬を積んだ結果にそのようなトレーナーになる自信はある、だがまだ今の俺はその境地には達していないだろう。 「あなたが俺の事をどれだけ評価しているかはどうでもいい事です。ですが、ですが俺はあなたに勝てると思っているからここに立っている」 審判員が合計十二個のボールを簡易的に置かれた机に並べる、共に不正はなし。当たり前だ。 お互いにここから三つづつボールを選び、それら全てが戦闘不能になるまで戦う。入れ替えはなし、シンプルだがお互いの力量が浮き彫りになる試合方法だ。 十二個のボールの内のひとつが強烈な光を放っていた。俺、審判員、目の良い観客全てがそれに目を奪われている。 先ほどから視界には入っていたが、目の前にするまで信じられなかった。マスターボール。俺達一般トレーナーは余程のことが無い限り手にすることが出来ず、もし仮に使用することになっても国の許可証が必要な特殊すぎるボール。 通常ならばポケモンを保管するボールを入れ替えることは自由なのだがマスターボールはそれが認められていない。したがってこの様な試合形式の場合、真っ先に警戒されてしまう。 最も、公式の、いや非公式の試合でもマスターボールに入っているポケモンを使うことなんて稀だ。 そして、もしデンジがそれを使って居たのであればそれは必ず俺の耳に入っているはず、珍しい情報はとにかく早く、広範囲に広がる。 「十年ほど前に」 俺達の視線に気づいたのだろう、デンジはそれを手に取り、 「国の依頼で使ったんだ、もちろん許可証もある」 「あなたがそれを使う、いや持っているなんて聞いたことが無い」 「そりゃぁそうだろうね、公式戦で使うのは今日が始めて、八年前にも使わなかったんだ」 「それは、光栄ですね」 「負け惜しみに聞こえるかもしれないが、彼を使えば八年前の戦いも勝てていただろう」 デンジはそのままそのボールを腰にセットする、これ以上無い絶望感が降りかかった。 「何故使わなかったのですか」 絶望を悟られたくなかった、最もばればれであっただろうが。 「力におぼれるからさ」 それは、デンジには似つかわしくない言葉だと思った。 「あなたほどのトレーナーが力におぼれるとは考えられない」 「俺じゃぁ無い」 デンジが残り二つを手早く腰の装着する。 「ジムトレーナー達、彼らが努力をやめると思ったからだ。覚悟して欲しい、こいつにはそれほどの力がある」
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第十三話 ( No.13 ) |
- 日時: 2011/01/29 00:42
- 名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:dmpYx2Ts
- 競技場の中央からそれぞれの立ち位置に向かう二人をロバートとチマリは二階観客席から眺めていた。
ジム戦のときは記者やトレーナーで一杯になることもある二階席だが今は数えるほどの人数しか居ない。 その中からポケモン協会員らしき人間とジムトレーナーの数を引けば純粋な意味での観客はロバート一人となる。この試合が決定したのがつい先ほどなのだから当たり前といえば当たり前なのだが。 勿体無いとロバートは呟いた、ジムトレーナーを目指すものに限らず、トレーナーであるならば垂涎もののマッチメイクだ。 横に居るチマリは座席から身を乗り出しまさに食い入るように競技場を見つめていた。もし前の座席に人が居たらトラブルになっていただろう。 「どちらが勝つと思うかね?」 何気ない問いかけのつもりだったが、そう言った後にロバートは後悔した。この少女にその質問を投げかけるのはふさわしくないと知っていた。 「デンジさんに決まってます」 予想通りの答え。 会話はそれ以上続かない、競技場に居る審判員が二階席にも聞こえる大声でルールを説明していた。 試合は三対三、道具を持たせる、使用することは禁止されている、ポケモンの入れ替えは不可の勝ち抜き戦で使用ポケモンの公開義務も無い。 「デンジ君が真っ先にセットしたボール、私にはマスターボールのように見えたが、どうかね?」 「間違いない……と思います、だけどデンジさんがマスターボールを持ってるなんて始めて知りました」 ふうん、と興味ありげにロバートが漏らした。 「ジムトレーナーの君も知らなかったのか」 「たぶん私だけじゃない、この町の誰でもいい、そのことを知ればその噂はあっという間に広がります、あなたにもあのボールの価値はわかるでしょう」 競技場の二人はベルトからボールを利き手で掴み前へと差し出す、それぞれの先頭のポケモンだ、上級者同士の対戦だと先頭ポケモンの選択で勝負の流れが決まってしまうことも多い。 デンジが持っているボールはマスターボールではなかった。 審判員の開始の合図と共にお互いがボールを投げる。 ボールの中から飛び出してきたお互いのポケモンは素早く自分たちが好む間合いを取る。 デンジ側のポケモンはレントラー、バランスの取れた電気タイプで相手の出方を見るにはうってつけのポケモンである。仮に相手の先手のポケモンが苦手とする地面タイプだったとしても氷のキバなどで弱点をつくことができる。 対するキリトのポケモンに、ロバートは思わず疑問の声を漏らしてしまった。 「イーブイ?」 キリトが繰り出したポケモンは愛くるしい容姿で戦いとは別の方向で人気の小型ポケモン、イーブイだった。 サンダースやグレイシアなどの進化先には優秀なポケモンが多いがイーブイ単体にはそれほどの力は無い。 「そういうことか」 一人で納得したようにチマリが声を上げた。 「どういうことかね?」 「三ヶ月もの間、キリトがナギサに居た理由、それはイーブイをこの環境に適応させるため」 「適応?」 「特性、適応力。イーブイというポケモンは確かにそれほど強くないけど、環境に適応することでそれなりの力を付けることが出来る、キリトはこの舞台でイーブイの最高の状態を作り出すために、三ヶ月もの間ナギサの空気に、水に、適応させたんだと思います」 チマリの説明にロバートは一瞬だけ沈黙したが、直ぐに納得行かないような顔で質問を投げかけた。 「それでも、イーブイを使う理由にはならないと思うが、ノーマルタイプで優秀なポケモンは他にも居る」 競技場ではレントラーの噛み付き攻撃からイーブイが電光石火で必死に逃げ回っていた。 「分からない事もないけれどね」
「噛みつく」 デンジの指示とほぼ同時にレントラーがイーブイとの間合いをつめる。 「左にかわせ、電光石火」 迫り来るレントラーを間一髪でかわす。そして再び間合いを作るといったんレントラーの噛み付き攻撃がやむ。 イーブイは小型のポケモンだが、特別にスピードがあるわけではない、俺の指示があってもかわすのがやっと、近距離戦に利があるレントラーに迎撃することはリスクがありすぎる。 レントラーというポケモンは扱いが難しい、最終進化系ゆえの扱い辛さもあるがそれよりも近距離攻撃力以外の能力値の半端さが大きい、特に素早さに関してはトレーナーの技量が大きく関係してくるだろう。 デンジは先ほどから噛み砕く以外の攻撃の指示をしていない、このイーブイの戦いの型がまだ判っていないため様子見に回っているのだろう、特性である適応力を考慮し隙を見せないようにしている。先行イーブイが俺なりの立派な戦術であることは当然としてだ。 長引かされると困るのはこっちだ、このイーブイの『異常なまでの手数の少なさ』に気づかれると戦術そのものを見透かされてしまう。 ここは一気に行こう。 「正面、電光石火」 こちらから動くのはこれが始めて、電光石火ならばイーブイの素早さをカバーすることが出来る。 だがデンジは特に慌てる様子無く、逆に攻撃を待っていたかのように指示を出した。 「カウンター、体当たり」 一気に間合いをつめたイーブイに対してレントラーは迎撃の姿勢。 静寂からの電光石火、並みのトレーナーとポケモンならせいぜい出来てもかわす程度、迎撃にまでもっていくあたり流石はデンジとその主力言った所だろうか。 お互いの体が正面からぶつかり合う、適応力でイーブイの攻撃力は上がっているはずだが跳ね飛ばされたのはイーブイのほうだ、地面をこする音が聞こえ、レントラーとの間に距離が出来る。隙も少ないが同時に威力も少ない体当たりのおかげで大きなダメージは無い、だが地面に叩きつけられ体勢が良くない。 デンジは素早くそして的確にそこを突いてくる。 「噛み付く」 レントラーが脚力でイーブイとの距離を一気につめる、イーブイが体勢を立て直した時、レントラーがすぐそこにまで迫っていた。 「イーブイ!」 表情を変えないように出来る限り勤める、だがついつい口元が緩んでしまう。 ここまでは怖いくらい思い通り。 十分にひきつける、そしてレントラーがイーブイのスペースに踏み込んだ。 「迎撃だ」 イーブイがレントラーに対し体当たりで迎撃する。 ここでデンジが表情を変える、だがそれは焦りではない、何かを確信したような、自信に満ち溢れる顔。 「中止だ! かわせ!」 この試合で初めてデンジが声を荒げた。 レントラーは前足で急ブレーキをかけ、身を翻そうとする。 「とっておき」 もう遅い、今からレントラーがどのような行動をとろうともうすでにイーブイのスペースに入っている。 イーブイの小さな体がレントラーにぶつかる、次の瞬間、レントラーの体が競技場の端から中央にまで吹き飛んだ。 とっておき、そのポケモンが覚えている全ての技を使った後にのみ繰り出すことが出来る高威力の超大技。 すぐにイーブイは攻撃の姿勢をとり俺の指示を待つ、だがレントラーは倒れたまま起き上がらない。 審判員が戦闘不能と判断し、赤い旗を揚げた。
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第十四話 ( No.14 ) |
- 日時: 2011/01/29 20:50
- 名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:dmpYx2Ts
- やっぱりね、とチマリが呟き、あごを支えていた手を逆の手に差し替える。
「予測していたのかね? とっておきを」 それに対しロバートは信じられないという表情をしている。 「覚えさせる技を最小限にまで絞って奇襲のとっておきって戦法は古くから研究されています、特にイーブイの特性を利用したものは理論上はかなりのもの、でも実用はできなかった」 「どういうことかね? 現にキリト君のイーブイはデンジ君のレントラーを倒している」 「致命的なのは、後が続かないことです。もうあのイーブイは後続に倒されることしか道が残っていない。派手で衝撃的でも出来て一対一交換、それも相手のポケモンが少しでも耐久力に長けていたり岩や鋼タイプだったらそれすらも出来ない」 フン、と機嫌悪そうに鼻を鳴らし、 「デンジさんのレントラーもイーブイのとっておき程度で倒れるようなポケモンじゃありません。偶然、偶然急所に攻撃をぶつけられたから予想以上のダメージを食ってしまっただけです」 つまらなそうにイーブイを眺めていた。 「ならば何故キリト君はそのような戦術を? 彼ほどのトレーナーならもっと有効的なものが会ったはず」 ロバートの問いにチマリは答えなかった。急に立ち上がり、目を競技場に向けたまま誰も居ない空間に言った。 「嘘よ、そんな事、起こりうるわけない」
「全てが、君の思い通りに進んでいる訳か」 レントラーをボールに戻したデンジが言う。 その目線は俺ではなく、俺のポケモンに注がれている。 「残念です、あまり驚かないんですね」 驚いたり、悔しがったり、あるいは悪態のひとつでもついてくれる方がこっちの気が楽だ。 そちらの方が『裏をかいてやった』という達成感がある。 だがデンジの反応はそれら全てと違った。 むしろ。 「とっておきという技とそれらを利用した戦術の存在は俺も知っている、そして、それが実践ではほとんど役に立たないことも。 だが、イーブイとなると話は別『決して操作できるはずの無いある可能性』が起これば、とんでもない戦術になりうる。イーブイ、君が三ヶ月間バトルをしなかったこと、戦いを指定した時間は夜。君の狙いは手に取るようにわかった、だからあえて激しい攻撃をしなかった、イーブイというポケモンが戦いという環境に適応しようとするのを防ぎたかったからだ、だが」 デンジが一瞬だけ俺と視線を合わせ、再び俺のポケモンに目を向ける。予測されていたのだ、全て。 俺の前で構えているポケモンはついさっきまでイーブイだった。 イーブイというポケモンは通常のポケモンとは違い、環境に適応するために進化をする珍しいポケモンだ。 素人では測定できないレベルという概念で進化するポケモンに比べて、トレーナーがある程度の進化先を操作できる。 それを利用したのが今回の戦術。そしてそれは絶対に見破られる訳のない、俺オリジナルのウルトラCの筈だった。 この二年、どれだけ進化についての研究をしたことか、夜寝る間を惜しんで読みふけった『ポケモン進化に対するレポート百選』はもう全てのページを復唱することが出来る、今の俺ならウツギ博士と進化について語り合えるだろう。 それでも半分半分、戦いの予定が大幅に狂ったからだ。予定通りもう十日後だったら進化を確実に操ることが出来たのに。 デンジはブラッキーをじっと眺めながら続ける。 「無駄だった、あるいは心のどこかでその戦術を否定していたのかもしれない、出来る訳ないと『進化を戦術に組み込む』なんて非現実的で理想論だと」 とっておき戦術の弱点はどうあがいても一対一にしか持ち込めないことだった。手の内が全て分かっている相手に再び負けるトレーナーは少なくともジムリーダーには居ない。 だが、もしとっておきの後に進化することが出来たら、手の内を再び隠すことが出来、より強力なポケモンで相手を迎えることが出来る。 「脱帽だよ、これで俺は三対二で相手の情報はほぼ無しという圧倒的に不利な状況になった訳だ」 ニコリと笑うデンジと対照的に俺は背筋が凍る、いや凍るなんて生易しいもんじゃない、全てを見透かされている、戦局で有利に立とうともデンジの手のひらの上で踊っているような気がしてならない。 落ち着け、有利なのは俺なのだ。戦術を見破られた程度で精神的に負けるな。 キリトはブラッキーから目を離さず、マスターボールではないもうひとつのボールを掴むと競技場の中央付近に投げた。
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第十五話 ( No.15 ) |
- 日時: 2011/01/30 16:51
- 名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:SkMAlWjQ
- 「偶然だと思うかね?」
ロバートがチマリに問う。 チマリは取り合えずいすに座り、 「海岸で彼が読んでいた本はポケモンの進化に対するものでした、それでも出来すぎです」 ふてくされたように言う。 「世の中にはそういう出来すぎたこともある、そしてその場に居ることが出来るからヒーローになれるんだ」 ロバートが口元を緩める。
ボールから飛び出してきたのはサンダース、素早さが自慢のポケモンだが出てきてから一歩も動かない。 少しの時間、お互いに指示も何も出さないにらみ合いの時間が続いた。 サンダースの毛がだいぶ逆立っている、時間が立てばたつほどに高威力のプレッシャーが俺にのしかかってくる。 先に動いたのはデンジのほうだ。 「十万ボルト」 デンジの指示と共にサンダースが電撃を飛ばす、目に見えて高威力だ。 「左、電光石火」 最高のタイミングで指示を出した筈だったがブラッキーはギリギリで避ける、ブラッキーの種族的な素早さが芳しくないのもあるしブラッキーそのものが戦いになれていないのもあるが、やはりサンダースの種族的な素早さとデンジとのコンビネーションが非常に高い。 だが、それなりの戦い方は考えてある。 「電光石火でつめろ」 十万ボルトを撃ったことで若干の隙が出来ているサンダースにブラッキーが襲い掛かる。 「すなかけ」 そのまま前足で地面を巻き上げ、サンダースの目付近にすなを飛ばす。 「光の壁」 デンジの指示でサンダースはすぐに体制を整え肉眼では捕らえにくい壁を一瞬で作り出す、デンジの冷静な指示も、その意図を理解するサンダースも全て素早い。 ブラッキーが巻き上げた砂はすべて壁に叩きつけられサンダースには届かない。 だが壁から砂が落ちたとき、ついさっきまで居たそこにブラッキーはいない。砂かけがある意味で目潰しの役割を果たしている。 「だましうち」 サンダースの視界を砂が覆っているうちに横から回り込んだブラッキーがサンダースの懐に飛び込む。 「右移動光の壁」 攻撃があたるギリギリの所でサンダースは横に跳ねとび、先ほどまでサンダースが居た場所に再び壁が作られる。 サンダースには確実にブラッキーが見えてなかった筈だが、デンジの的確な指示で事なきを得た。 ブラッキーが壁に激突する、ダメージは無いが少したじろぐ。 そして再びにらみ合い。 だまし討ち程度なら迎撃に回ってもいいのだが、それをも光の壁で防ぐ。 壁には多量の液体が付着していた。 首筋が熱くなり、嫌な汗が噴出してくる。 入れ替え不可のこの試合形式では毒状態というのはかなりの痛手となる。そしてブラッキーは、興奮すると全身の毛穴から毒素の混じった汗を出す性質がある、直接的な打撃攻撃により相手をどく状態にし、後はブラッキーの耐久力を武器に相手を倒す戦法、成功すれば一匹で二匹のポケモンが倒せることになるが。 これも、読まれている。 ブラッキーがサンダースより種族的に素早さが劣る以上、逃げに回ったデンジに直接攻撃を当てるのは難しい。 しかし、デンジもあまり積極的には動けないだろう。 直接的な攻撃はもちろん出来ない、だが遠距離から高威力のものを放っても大体は避けられ隙を作る、電磁波などでブラッキーを麻痺させることは出来るだろうが、ブラッキーの特性はシンクロ、麻痺になってしまえばサンダースの長所がひとつ消える。できることは遠距離からの小技か、こちらの攻撃に対して光の壁を出す程度。 三対二で数的に有利なのは俺、ここは愚直に、ただ突き進む。 「正面、電光石火」 真正面からサンダースへと向かう。どのようなカウンターをされようとブラッキーが一撃で落とされるようなことは無い。 「光の壁」 想定の範囲内だったのだろう、デンジが素早く指示すると再び壁が作られる、だが今回は俺もそれを読んでいる、これまでは読み合いだったが、読み合いではなく、それぞれのトレーナーの判断力が勝負を分ける戦局へとシフトしている。 「怪しい光だ」 ブラッキーの首の模様が光り、相手に幻覚のようなものを見せる、肉眼に捕らえにくい、硝子の様に透けている光の壁は今回は仇となった。 だがサンダースは特別変わった行動はとらない、混乱状態にさせることは失敗したのか。 その隙にブラッキーは壁を回り、再びサンダースのサイドをとる。 だが、俺が次の指示をする前にデンジが叫んだ。 「左、電磁波!」 光の壁じゃない。 サンダースは電磁波を放つと同時にブラッキーと向き合う、ブラッキーは電磁波をまともに食ったがシンクロによってサンダースも麻痺する筈。 「だまし討ちだ!」 ブラッキーに指示を出すが麻痺の影響で少し行動が遅れている。だがそれは相手も同じ筈だった。 「二度蹴り」 驚くほど早く、サンダースが後ろ足で蹴りを見舞う、右足で顎を、左足で腹部を的確に捉える。 悪タイプに対して相性のいい格闘タイプの技をぶつけられブラッキーの足元がふらつく、だがサンダースの近距離戦闘力の貧弱さに助けられ戦闘不能にはいたっていない。 サンダースの動きはいまだに鈍らない、だが見る限り毒状態になっている。 シンクロのラグを利用し、その間に毒状態になることでシンクロを実質的に無効化した、麻痺よりも毒を選んだのは短期決戦に自信があるからか。 そしてこの状況は非常にまずい、サンダースは二度蹴りを出した後すぐに体勢を立て直す、対するブラッキーは麻痺し素早さが落ちている状況でまだ足元がおぼつかない。 そしてサンダースの体毛はこれでもかと言うほどに膨らんでいる。 「十万ボルト」 サンダースの尻尾から電撃が放たれる、電気の中でもかなりの大技。近距離に居たブラッキーに避けるすべは無いが。 電撃が当たったのはブラッキーのやや後ろ、当然ながらそこには何も無い。 「どうしたサンダース!」 サンダースには二つの敵が見えているのだ、一つはブラッキーであり、そしてもうひとつは怪しい光が見せる幻影。それら二つによりサンダースは混乱していた、混乱状態は他の状態異常とも症状が重なる。 そして、大技を放ったサンダースは隙だらけだ。 「しっぺがえし!」 ブラッキーが前足をサンダースにおもいきり叩きつける、相手の隙を突けばつくほど威力のあがる大技に、サンダースの体が宙に浮く、混乱はこの衝撃で解けるだろう。 ブラッキーの攻撃力も褒められたものではない、いくらサンダースが打たれ弱いからといってこの程度では落ちないだろう、もう一手の何かがいる。 「つめろ、電光石火」 ブラッキーが麻痺しているなりに素早く倒れているサンダースへと向かう、それを見てデンジも指示を出す。 「ミサイル針」 素早さではやはり適わないが、得意の電気技を出すにはまだ帯電量が足りていない。倒れていたサンダースは体勢を立て直すと尻尾を高く掲げ、向かってくるブラッキーに対して体毛を飛ばす。 「怯むな、押し返せ!」 サンダースを倒すにはここしかない、針の雨の中にブラッキーが突っ込む。ブラッキーの全身に針が突き刺さるがスピードは落ちない。 デンジは逃げる指示を出さない、逃げに回ると毒に侵される。デンジもここが勝負どころだと感じているはずだ。 ブラッキーよ、耐えてくれ。 「ダメ押し!」 ほとんど頭突きのような形でブラッキーの攻撃が当たり、針攻撃がやむ。後方に吹き飛びながらもサンダースは踏ん張り堪えていたが、やがて体が崩れ落ちた。 審判員は一まずサンダースに対して赤旗を揚げる、デンジは何か納得したような顔でサンダースをボールに戻した。 そして審判員がブラッキーを確認する。 ブラッキーの目はまだ爛々と輝いており一応全ての足で立ってはいるが、全身に痛々しくサンダースの体毛が突き刺さっておりとても戦えるようには見えない。二度蹴りとミサイル針で体力も相当削られているだろう。 ほとんど始めての実戦でここまでやってくれるとは正直予想していなかった、さすがは彼女の娘だ。 審判員がポケモンを戻すか否かを俺に問う、戻してしまえばもうこのバトルでは使えない、相手は残り一体でこちらはブラッキーを含めずに残り二体、定石ならばブラッキーはそのままにしておき、相手のポケモンを確認してから次に出すポケモンを決める、だが次にデンジがどんなポケモンを繰り出そうとも俺のアンカーは揺るがない。 一応ボールを取り出してはみるがブラッキーは動きは明らかにそれを拒否していた。 そもそも『勇敢』な性格であるし、初めての実戦にもっと身をおきたいのだろう。 「戻るか?」 確認の意味を込めブラッキーに問う、だが奴は後ろ足で地面を掻いただけで振り返りもしない。 「続投でよろしくお願いします」 「そりゃそうだろう。そもそも何故聞く必要があるんだ」 右手でマスターボールを捏ね繰りながらデンジが審判員を弄くる。 「さて、久しぶりだよ、ここまで追い詰められたのはね」 形式的には追い詰められていてもまだ表情に笑みが見えるデンジに若干の苛立ちを覚えた。 「あなた、状況分かってますか? 三対一なんですよ」 「分かっている、だがこんな経験初めてじゃない、俺が何千回と繰り返してきた戦いの中にはこれよりもしびれる状況だってあった、だがそれらの戦いでも俺は彼を使わなかった」 マスターボールを眺める。 「そろそろ始めよう、これが俺の切り札、この国が脅威を感じたポケモンだ」 デンジがマスターボールを投げる。 ボールが光り、中のポケモンが現れる。 俺の予想はサンダーやライコウといった伝説のポケモン。だが現れたそれはそれらよりももっと驚異的なポケモンだった。 人型ポケモンというのは大体体長一メートルから二メートルまでだ、そりゃそうだろう、人と同じようなサイズだから人型と言うのだ。 だがボールの中から現れたそのポケモン、通常なら百八十センチ程度しかない筈のエレキブルは目分量で見ても軽く二メートルと半分はあった。瞳が通常と違い青い。 突然変異種、見るのは初めて、そして戦うのもちろん初めてだった。
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第十六話 ( No.16 ) |
- 日時: 2011/02/02 14:20
- 名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:pZAQLgsY
- 「エレキブル。だけど、大きすぎる。通常のものに比べて体毛の色も濃いし、瞳の色も違う」
「突然変異種の最終進化系……マスターボールが必要なわけだ」 ロバートが声を上げる。独特の緊張感があった。 「何それ?」 「人間と同じだよ、ポケモンにも異常な遺伝子を持ったものが生まれうる」 「でも、突然変異種なんて見た事も聞いたことも無いわ」 「ポケモンは人間に比べてデリケートな存在だ、大体の突然変異種はまだ卵のころや、幼生のときに細胞の成長に体が耐え切れず死滅する、だから一般には殆ど知られていない。 だが、ごく稀に、本当に何十年かに一度の次元で成長しきってしまうことがある、それがおそらくあのエレキブルだ。すごい、私もはじめてお目にかかる」 ロバートは食い入るようにエレキブルを見つめていた、まるで好奇心旺盛な少年のようだった。 「何でそんなポケモンをデンジさんが……」 「突然変異種は人間にとって脅威だ、何百年か前に突然変異種のギャラドスが国を半壊させたと言う記録もある、だから国はエキスパートにその捕獲、保護を依頼する。ポケモンを必ず捉えることの出来る最高にして最低のボール、マスターボールの使用も厭わない。おそらくデンジ君は電気のエキスパートとして国から依頼されたのだろう」 「……知らなかった」 「しかし」 「え?」 「これでキリト君が勝つのは難しくなった、もしデンジ君があのエレキブルを完全に操れるのならば、並みのポケモンに勝ち目なんて無い」
とんでもない、とんでもない切り札だ。 いや、切り札なんてもんじゃない。俺が今まで経験してきた試合でこんな切り札を切られたことあるか? 突然変異種の、最終進化系。 圧倒的という言葉がそいつには良く似合う。 このエレキブルを前にして『ただでかいだけ』と言ってのける人間がこの世に何人いるだろう。 だが、ここはサーカスではない、ジム戦だ。相手はジムリーダーデンジ、『電気ポケモン』のエキスパート。勝つ手段を考えなくてはならない。 取り合えずブラッキーを動かそう、体力はギリギリで麻痺している、到底勝ち目は無いが……何もしないよりかは行動を起こしたほうがいい。ネガティブに考えるのは試合が終わってからだ、試合中はプラス思考が鉄則。突破口は案外こういうところから開けたりするものだ。 「嫌な音」 どこから出されているのかは知らないが、ブラッキーが悲鳴のような、金切り声を上げる。 いつ聞いても心地のいいものじゃないな。 エレキブルが微妙にたじろぐ、嫌な音は集中力を削ぎ、一時的にガードをとかせる効果がある、だがそれも相手が上級プレイヤーなら大して通用しない。 むしろここで嫌な音を使ったのは別の目的、これで再びそろった訳だ デンジはまだ動かない、今のブラッキーはお世辞にも素早いとはいえないのに。エレキブルと言う種族はそれほど鈍重な種族ではないのだが、もしかしたら巨大すぎるが上に機動力が無いのかもしれない。 「詰めろ、電光石火」 ブラッキーがエレキブルに接近する、それでもまだデンジは動かない。 ブラッキーが飛び掛る。タイミングは今しかない。 「とっておき!」 ここでデンジが動いた。 「放電」 バチン、と一瞬何かがはじけるような、大きな静電気のような音。 そして、ブラッキーが地面に落ちる音。審判員が赤旗を揚げる。 その技は俺の知っている放電ではなかった、放電と言うのは長時間、ポケモンがためている電気を放出する電気タイプの中でも屈指の大技。 だがその放電は一瞬だけ、時間にして一秒にも無いくらいの、本当に静電気のような短いものだった。 それでも、ブラッキーは大きく弾き飛ばされている、力学に反したように、巨大な何かに殴りつけられたように。 ブラッキーを犠牲にしてわかった……いや、再認識した事は、あのポケモンが、規格外で、非常識で、俺が今まで戦ってきたどんなポケモンよりも『ヤバい』と言うことだった
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第十七話 ( No.17 ) |
- 日時: 2011/02/01 21:10
- 名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:y7CoRI7c
- ブラッキーをボールに戻し、腰にセットする。
本当ならば今すぐに回復させてやりたいが試合中の回復行為は原則認められていない。 そして、手持ちを回復させたいのはデンジも同じだ。 もう少し、耐えてくれ。 二つのボールをベルトから外し、両の手で持つ。 考える時間が欲しかったが、ポケモンの交換は長くとも一分以内に行わなければならない。毒の状態異常に配慮したルールだ。 プラスに考えれば、一分間は考えても良い。それぞれを見比べ思考をめぐらせる。 突然変異種の、最終進化系と戦うと言うことは、本を読んだり、教えを受けるようなこととは違う、すでにある道を歩くのではない。この前例の無い戦いにおいては俺が道を作らなければならない、もちろんその様な経験は無いに等しい。 これまでの様にデンジが俺に語りかけてくることは無い、余裕からか、それとも俺の心中を察しているのか。おそらくは後者だろう。 左手に握っているボールを眺める。アンカーは決まっている。問題はこいつでどのように攻めるかだ。 過去の経験を頭に浮かべ、我に帰りそれをかき消す作業を何度か繰り返した。過去など役に立つものか。 時間は残り少なかった、審判員が時計を気にしている。別に時間をオーバーしても失格になる訳ではない、失格とされるのは一分と三十秒を越えてからだ、一分を越えてもポケモンをすぐに出すようにと促されるだけだがそれもある意味で敗北だ。 右手のボールを腰にセット、そして左手でボールをエレキブルから距離をとるように投げる、ボールからポケモンが出てくると同時に俺は叫ぶように指示を出した。 「しびれごな!」 ボールから姿を現したロズレイドはエレキブルに向かって植物の種子のようなものを飛ばす。 選んだ戦術は、少し奇抜的な速攻。 「散らすな、火炎放射」 種子が破裂し粉を撒き散らす前にエレキブルが炎を吐き出し種子を焼き尽くす。技の精度に穴は無い。 「足元、右腕タネマシンガン!」 ロズレイドが突き出した右腕からタネが放たれる。 粉が失敗するのは予想していた。それよりも重要なのはエレキブルが火炎放射を使えると言うことと、その精度に穴がないと言う情報。あまりうれしいものではないが分からないよりかは分かるほうが良い。 タネはエレキブルの足元に放たれ、土煙が上がる。エレキブルは一歩後退するがそれ以上のことはしない、デンジの指示を待っている。 「構うな、ロズレイドに火炎放射」 そのまま口から炎を吐き出す。 だが距離が遠い。 「右に避けろ、距離は変えるな」 スペースのある右側にロズレイドを逃がす。その間に出来るだけ短い時間で、思考をめぐらせる。 この行動でわかった事は、エレキブルとデンジはそれほど多くの実戦は積んでいないということだ。 デンジと共に多くの試合をこなしてきたポケモン、たとえば彼のレントラーなどは、トレーナーの意図を数少ない言葉で理解することが出来る。 だが先ほどデンジは散らばったタネマシンガンの弾に対する指示と、攻撃対象の選択の指示を出した。 隙がひとつ見つかった。 「ロズレイドに向かって電気ショック」 攻撃が当たっていないことを確認したデンジはすぐさま次の指示を出す。エレキブルが先に仕掛けるのは初めてだ。 頭から生えている二本の角の間に青白い火花が散る、それは一瞬でバスケットボールほどの球体になる。 エレキブルがそれを放とうとした時にロズレイドに指示を出す。 「下がれ」 ロズレイドは立ち位置を一歩か二歩ほど後方にずらす。 電気の球体は先ほどまでロズレイドがいた場所に狂い無く着弾し地面をえぐる。 技を避けられた苛立ちか、距離を変えられたくなかったのか、エレキブルは前に踏み出そうとする。 「行くな!」 エレキブルの行動を予測してなかったのだろう、デンジが焦って声を上げる。 だがエレキブルがその動きを止めたのは一歩前に、タネマシンガンの弾が散らばっている箇所に足を踏み入れてからだった。 ロズレイドの右腕から放たれるタネは『宿り木のタネ』着弾後にすぐに発芽を開始するものと、何らかの刺激を受けて初めて発芽する二種類のものがある。先ほどばら撒いたのは後者のほう。 刺激を受けた宿り木が発芽を開始し、エレキブルの足に複雑に絡まる、草結びの要領だ。 「落ち着け! 大した仕掛けじゃない!」 困惑の声を上げるエレキブルをよそに宿り木が胴に絡まり、それを支柱にさらに上へと絡まろうと成長を続ける。 「焼き切れ! 最大出力の放電だ!」 理想の展開だった。 恐らく宿り木は簡単に突破される。そもそも宿り木に相手を拘束するほどの強度は無い。 重要なのはエレキブルの動きを一時的でもいいので止めることと、注意をこちらから逸らさせる事だ。 「こっちも最大出力だ」 隙が大きすぎる大技も、今なら確実に当てることが出来。致命的なダメージを与えることが出来る。 ロズレイドが両腕を前に突き出す。同時にエレキブルが両腕を振り上げ、威圧的な雄たけびを上げる。それぞれの手が尻尾の先端を一本ずつ握っていた。 青白い光と思わず耳をふさぎたくなるような騒音がエレキブルを包み込む、これまでみてきた放電とは物が違う、エレキブルを中心に半径一メートルほどの電磁の半球体が作られていた。 宿り木を焼ききり、無防備になったところを狙う。 「リーフストーム!」 「放電を続けろ!」 ロズレイドの両腕から数多の葉が放たれ、それらは巨大な竜巻となりエレキブルに襲い掛かる。 草タイプ最大威力のその技はエレキブルが纏っている電磁のシールドを着き抜け、雄たけびを上げ続けるエレキブルに襲い掛かる。 「放電やめ!」 デンジの指示でエレキブルを包んでいた電磁の壁が解かれる。エレキブルは両腕をだらりと下げており、周りには大量の葉が巻き散らかされていた。 リーフストームは直撃した。二の手三の手を使えば勝負は決まる。 「ロズレイドに電撃波」 デンジが指示を出す、刹那エレキブルは再び雄たけびを上げ、角から火花を散らす。電気が貯まるスピードが先ほどより速く感じられる。 それはこれまでの物よりも段違いのスピードで放たれた。 判断が追いつかない、かわすことは不可能だ。 「根を張る!」 両足を地面に突き刺したロズレイドに電撃波が直撃する。 リーフストームは確かに直撃した筈だった、だがエレキブルの電撃波を見る限り消耗している様子はない。 あまり考えたくないが突然変異種ゆえ耐久力も桁違いなのだろうか、可能性としては十分に考えられる。だがエレキブルは種族的には決して耐久力があるわけではない。いくつかの可能性が頭に浮かんだ。 根が地面に電気を逃がしたために致命傷にはなっていないがその代償として。 「ロズレイドはもう逃げられない、とっしんだ」 地面に根を張ったことによってもう移動することが出来ない、だが根を張らなければ相当なダメージを食っていただろう。スピードのある電撃波を放たれたときすでに戦局は決まっていた。 エレキブルがその巨体に似合わず素早く距離を詰める。 逃げられないのなら、最後の抵抗をするまでだ。 「両腕、タネマシンガン」 ロズレイドは臆さず、両腕を突き出し種を放つ。 「放電状態を維持しろ」 再び放電、先ほどに比べれば規模は小さいがそれでも十分な勢いだった。 エレキブルはタネマシンガンをものともせず、むしろ先ほどよりも速度を上げ、ロズレイドに突っ込んでくる。 「ギガインパクト」 電磁を纏ったギガインパクトにロズレイドが下敷きになる。殆どのしかかりに近い形だ。 状態を確認するまでも無く、審判が赤旗を揚げた。
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第十八話 ( No.18 ) |
- 日時: 2011/02/02 18:43
- 名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:pZAQLgsY
- ロズレイドをボールを戻し、自らの判断の遅さに悔いる。すまない。
残るポケモンは一体、俺はすぐにボールをエレキブルの背後に向かって投げる。エレキブルはまだ体勢を立て直せていない、ギガインパクトは高威力だが攻撃後の体勢が非常に悪い。削り切れはしないだろうが、一撃与えるくらいに隙はある。 「水の波動!」 ボールから飛び出したシャワーズはエレキブルから距離をとり、四肢で地面に踏ん張る。青い肌が光を反射しきらきらと光っていた。 「死角から来るぞ、放電」 エレキブルは悪い体勢のまま両手でそれぞれ尻尾の先端を握る。 シャワーズは口を開け、水流を繰り出す、隙の少ない中威力技で正面から撃つことが出来れば相手の混乱を誘うことが出来るが今回は無理だろう。 水流がエレキブルに当たる直前に放電が開始される、シャワーズは攻撃範囲の外だったのでこれと言った被害も無く、水流は振り向きざまのエレキブルの背中と左半身にに直撃。 「真後ろだ、振り向きざまに雷パンチ」 大きく後ろに下がりながら右腕を振りかざす。リーフストームのときと同じでダメージは受けてないように見え、技の速度も先ほどまでに比べて格段に早い。 この時、俺の中で可能性の一つに過ぎなかったある仮定が確証となった。。 エレキブルの特性は電気エンジン、電気タイプの技を受けてもダメージを受けず、自らの俊敏性をあげることが出来る。突然変異種とはいえ恐らくこのエレキブルも同じ特性だろう。 エレキブルがリーフストームと水の波動を受けたとき、葉っぱや水は電気の壁を突き抜けた後にエレキブルに当たっていた。 もしやエレキブルは相手の技を帯電させることによって無理やり電気タイプの技に変えているのではないだろうか。もちろん、普通のポケモン同士での対戦では起こりえないことだ。だが相手は突然変異種、常識は通用しない。 「下がりながらすなかけ」 シャワーズが尾びれで地面の砂をかきあげながら身を引いて拳から身を守る。 砂はエレキブルの顔あたりにかかり、少しだけたじろいだ。 黒い瞳で俺をちらりと確認し、指示を仰ぐ。ぴんと張った耳で指示を聞き漏らすまいとする。長い付き合いだがこいつとならどんな強敵が相手でも何とかなるような気がする。 これからはアンカーとアンカーの対決。 デンジのエレキブルか、俺のシャワーズか。
「勝ちたいのか、負けたいのか、さっぱり分からない」 チマリはうーんと唸りながら悪態をつく。 競技場ではシャワーズとエレキブルがにらみ合っている。だが相性とサイズの関係でどうしてもエレキブルのほうが押しているように感じられる。 ロバートはチマリの方に少しだけ視線を向かわせ「何故かね?」と聞いた。 「シャワーズをアンカーに据えるなんてどうかしてる、いや、そもそも持ち手に水タイプを組み込むことが間違っている。相手が電気タイプのエキスパートなのは分かりきっていることなのにわざわざ弱点で迎え撃つなんて」 電気タイプにポケモンに対して水タイプのポケモンは圧倒的に不利、ましてやデンジは電気タイプのエキスパートでもある。チマリはデンジと挑戦者のバトルを多く見てきたが、アンカーに水タイプと言う選択をしたものは数少なかった。ほとんどのトレーナーが地面タイプや草タイプを中心にしたメンバーだった。 不満と、疑問の表情を浮かべるチマリに対して、ロバートはまるで疑問を感じていない、涼しげな表情で答える。 「もし、ポケモンバトルと言うものがじゃんけんの様なゲームであったら、そういう考え方もある。だが彼らのバトルとはそんなものではないのだ。事実、私は電気タイプに対して圧倒的に有利な地面タイプのポケモンを使用し、敗れている」 チマリはロバートがアンカーに据えていたハガネールのことを言っていることにすぐ気が付いた。 ロバートのハガネールは、デンジのサンダースを倒したものの、レントラーの多彩な噛み付き攻撃に敗北した。 「もちろん、タイプの相性はバトルにおける絶対的な基本で、スクールで真っ先に覚えなくてはならないものの一つだろう。だが、時としてはそれよりも真っ先に優先せざるを得ない事もある。分からないのも無理は無い、君は私よりも遥かに才能のあるトレーナーだろうが、トレーナーとしての経験は私のほうが二倍以上ある、月日が立たねば分からないこともある」 エレキブルが小さな電撃を放つ、牽制的な意味もあるであろうそれをシャワーズはひらりとかわし、先ほどと同じ距離をとった。 チマリはロバートが何を言っているのかが分からないと言った風に首を振った。 「それは何?」 ロバートは視線をキリトのシャワーズに移した、水色の肌には艶と張りがあり、尾びれは優雅でもありまた力強くも見えた。 「信頼関係だよ、ポケモンとトレーナーの信頼が強ければ強いほどより強固な力となる、そしてそれはタイプの相性すら覆しかねない。キリト君は水の都ルネの出身だ。シャワーズとは長い付き合いなのだろう。デンジ君にしてもそうだ、私がハガネールを使ってくることは知っていただろうにあえて電気タイプのポケモンで迎えうった」 ロバートの説明に口をつむぐチマリに、ロバートはさらに続けた。 「最も、私が使ったハガネールだって、私が最も信頼する手持ちだったがね」
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第十九話 ( No.19 ) |
- 日時: 2011/02/03 00:28
- 名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:iorfcLKU
- お互いのポケモンが正面から睨み合っている。いや、正確に言えばこちらが一方的に睨まれているのだ。
電気タイプの相手に対してこちらは水タイプ。一瞬でも隙を見せれば全て持っていかれる可能性もある。それに対し相手はわざわざ自分から向かう必要は無いのだ。 水タイプでデンジに挑むということは傍から見れば愚かな選択かもしれない、だが、もし俺の手持ちの中で最も大切な試合の最後の最後を任せられるパートナーと言われれば、物心着く前からパートナーであったシャワーズになるのだ。 シャワーズが前足で地面を掻いている。それは彼女が臆していない証拠なのだ。もしかしたら俺よりも冷静かもしれない。 「水鉄砲」 指示と同時に、シャワーズがエレキブルに向け口から水を噴射する。 「たいした攻撃じゃない、電気ショックで直接狙え」 デンジが素早く指示を出すと、エレキブルは水鉄砲を正面で受け、シャワーズに向け電撃を放つ。 俺が何も言わずともシャワーズはそれをかわそうとする、だがエレキブルの電撃は予想以上に早く、電撃がシャワーズを掠めた。 「睨みつける」 エレキブルの両目がシャワーズを捉える、少しでもシャワーズが不穏な動きをすればすぐに反応できるようにだろう。 ジムリーダーらしい、合理的な戦術だ。もしタイプの相性をいいことにエレキブルが力任せに技を連射すれば必ず隙が生まれてしまう。こちらの行動を見切り、一発のカウンターで勝負を決めるつもりなのだろう。 動きづらい状況だが、エレキブルの体に起こったある変化が隙を作った。 エレキブルの胴体から何本かのやどりぎのつるが現れ、その体を覆おうとしたのである。ロズレイドが最後に放ったタネマシンガンの種が、水鉄砲の刺激により発芽したのだ。 それらは弱弱しく、エレキブルの巨躯を拘束できるほどではないが、それは俺とシャワーズにとって一つの合図、反撃の狼煙だった。 「やどりぎに構うな、目の前の敵に意識を集中しろ」 デンジもこのやどりぎがたいした拘束力を持たないことを理解しているようだった、やりにくい。 再び硬直、お互いに動くことはほぼ無く、やどりぎが微妙ながらに成長を続けるだけ。 我慢の限界なのであろうか、やがてエレキブルがやどりぎを体から引き剥がそうと右手を動かした。そしてそれは俺達が待ち望んでいた、隙とも言うことが出来ない本当に細い抜け道。 「黒い霧!」 シャワーズの口から黒い濃霧が撒かれる。 エレキブルはそれを見てすぐに攻撃態勢に入ったがデンジが制す。 「間に合わない、霧に入るな!」 一瞬ではあるがやどりぎに気をとられていたためにカウンターを入れるタイミングを逃したのだ。シャワーズは素早く霧に飛び込み姿をくらませる。 「冷凍ビーム」 徐々に広がりを見せる霧の中から、シャワーズが冷凍ビームを放つ、それは霧から離れようとしていたエレキブルの片足を捕らえ、地面と片足を固定した。 「炎のパンチで拘束を解け」 エレキブルが赤く染まった右腕を地面と足を固定している氷塊に連続して振り下ろす、その間にもシャワーズは霧を吐き続け、ついにエレキブルの巨体も霧に包まれた。 包まれたと言っても霧の高さは一と半メートルほどで、エレキブルの腰から上は霧に隠れていない。その一方でシャワーズの体は全て霧の中へと収まっている。 相手はこちらが見えず、こちらは相手が見える。という一方的な状況を作った。 加えて、上昇したエレキブルの俊敏さも元に戻る、睨み付けられて下がっていたシャワーズの防御力も元に戻る。 黒い霧はかなりの範囲に広がった、もしエレキブルが霧の範囲外に逃げようとすればそれなりの隙が生まれる、デンジは霧が晴れるまで耐えるしかない。 「無理して全体を見通さなくて良い、足りない分は俺が補う」 動揺が見えるエレキブルに、デンジが指示を出す。 黒い霧で俊敏さが元に戻っているとはいえ、エレキブルそもそもの俊敏さ、それに加えて、デンジの的確な判断と指示。戦局的に有利になったとはいえまだ安心は出来ない。 じり、じりと、エレキブルが移動する、エレキブルの独断だろうか、それともデンジの指示か、声による指示はないがハンドシグナルや僅かな目線の動きによる通しだってありうる。もしくは、このような状況を想定していて事前に決めていたのかも。 霧が晴れてしまえば、またこちらが不利になる。そう思っていると。 ぐわん、とエレキブルの巨体が動いた。先ほどまでのじりじりとした動きではなく、大股の一歩。 それと同時に周りの霧が巻き上がり、消える。大きな動きによって無理やり霧を消そうと言うのか。なるほど、むちゃくちゃかもしれないが理にはかなっている。 「冷凍ビーム」 「後頭部を庇え!」 エレキブルの背後の霧の中から冷凍ビームが放たれる。 霧の揺らめきから判断したのだろうか。冷凍ビームが放たれる前にデンジが指示を出し、エレキブルは両手で後頭部をカードした。 エレキブルの腕の一部が凍る、エレキブルは素早く背後に振り返ると霧が巻き上げられ、チラリとシャワーズの姿が現れたがすぐに霧に消えた。エレキブルは腕に熱を集め、氷を溶かす。 「今のは『みがわり』だ、本物は背後!」 エレキブルが再び体を反転させる。 鼓動が早まる。何故見抜かれたのか、俺はシャワーズに対して身代わりの指示を出してはいない、あの『みがわり』は俺とシャワーズの阿吽の呼吸の集大成であるからだ。 「電磁波」 俺が混乱している間にデンジの指示が飛ぶ。 ぶぅん、という音が聞こえ、霧の中からシャワーズが飛び出し、それは空中に叩き付けれられた。 目の前で起こっていることに、理解が追いつかない、何故シャワーズは宙に浮いているのか、原因が分からなければ対策の仕様も無い。 そして、シャワーズは宙に浮いているのではなく、先ほどサンダースが繰り出した『ひかりのかべ』に電磁波によって押し付けられており、俺とシャワーズはその方向に誘導されていたことを頭が理解したとき、エレキブルは右腕を大きく振り上げていた。 「メガトンパンチ」 その指示がさらに俺を混乱させる。何故メガトンパンチなのか。この状況なら雷パンチをぶつければ殆ど勝負は決まると言うのに。 エレキブルは左腕で二本の尻尾をまとめて掴み、体中から電気を発しながら右腕をシャワーズに向かって振り下ろす。雷パンチだ、デンジの命令を無視した。 ひかりのかべが粉砕する音と、水飛沫、そしてエレキブルの雄たけび――絶叫と言ったほうがいいかもしれないそれ――が響き渡る。黒い霧は晴れつつあった。
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第二十話 ( No.20 ) |
- 日時: 2011/02/03 22:15
- 名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:iorfcLKU
- エレキブルは消耗していた。足取りはおぼつかなく、息も荒い。
それほどの攻撃をぶつけた記憶は無い。つまり考えられることは、スタミナ切れ。もしくは、自滅。 なるほど、そういうことかと思った、そして、俺が考えているとおりだとしたら、なんと悲しいことだろう。 エレキブルの体からやどりぎが生えたとき、同じように発芽した『タネ』がある。ロズレイドの左腕から放たれた『なやみのタネ』だ。 なやみのタネは相手の特性を不眠にする効果がある。エレキブルの電気エンジンを封じることで帯電による技の無効化を防ごうとしたのだ。 だが、エレキブルは突然変異種がゆえに俺が思っている以上に特性に依存していた。自らが放つ電撃に自らの体が耐えることが出来ないのだろう、原動付き自転車にスポーツカーのエンジンを搭載するようなもの。 今思えばデンジがメガトンパンチのを指示を出したのも、なやみのタネに気づいていたからに違いない。その洞察力、流石は最強のジムリーダーと言ったところか。 だがエレキブルは勝負を焦り、雷パンチを放ってしまった。 「まだ勝負は付いていない! 油断するな!」 デンジはまだ周囲を見渡し、エレキブルを鼓舞する。 エレキブルはかろうじて両足を踏ん張り、小さく唸り声を上げる。敗北を拒否するのは、突然変異種であることのプライドか。 霧が晴れても、シャワーズの姿は無かった。もちろんだが雷パンチで消滅した訳ではない。 興奮で体中が暑くなる。俺はトレーナーとして負けた。 自分が優位であることで図に乗り、対戦相手がデンジと突然変異種であることを忘れていた。追い詰めているように見せかけられ、相手の術中にはまっていた。身代わりを見破られ、光の壁へと誘導されていた。デンジの手のひらで踊っていただけだったのだ。もしエレキブルがデンジの命令どおりにメガトンパンチを放っていたら…… 水飛沫が地面の窪みに溜まる。そしてそれは一気にシャワーズの形を作る。 『雷パンチ』を受ける直前に『とける』の指示を出していなかったら確実に戦闘不能に追い込まれていただろう。そして、指示を受けるポケモンがシャワーズでなかったとしても恐らくは敗北していたであろう。シャワーズがギリギリまで俺を信じ、独断で動かなかったからこそ、俺の指示が通ったのだ。 「全力だ! ハイドロポンプ!」 身代わりで体力を使い、とけるで最大限の防御をしたとはいえ弱点である電気属性の攻撃、恐らくこれが最後の攻撃になるであろう、そしてエレキブルの消耗からして相手もそう長くは無い。シャワーズは四足を踏ん張り、最高の状態でハイドロポンプを放とうとする。 「迎撃しろ、破壊光線」 対するエレキブルもシャワーズに目標を定める。 先ほどの雷パンチで自らの体に起こっている異常に気づいたのだろう。命令に背かず、口から破壊光線を放った。 ハイドロポンプと破壊光線が両者の中央でぶつかり合う。だがすぐにエレキブルは体勢を崩し、破壊光線はハイドロポンプに押し切られた。水流がエレキブルを飲み込み、エレキブルの巨体は力なく崩れる。 ジムの中を静寂が包んだ、だが一人だけ、デンジだけは冷静に、冷静に言葉を放った。 「審判、見れば分かるだろう、戦闘不能だ」 審判員は自分の役割を思い出したように、びくりと体を痙攣させると、デンジ側の赤旗を揚げた。 同時に、ジムトレーナーたちから拍手が沸き起こる。そのとき初めて、この戦いが終わった事を実感した。 観客席に目を向かわせ、チマリの様子を伺う。 立ち上がり拍手をいるロバートの横で、チマリは真っ直ぐに俺を睨んでいた。
俺達は競技場の中央に集まり、審判員にそれぞれの手持ちを受け渡した。 審判員は開始前と同じように ボールに不正が無いことをチェックし、それらを回復装置に持っていくようにとまた別のジムトレーナーにボールを渡した。 「俺が手抜きなどせず、この戦いに本気で望んでいたことはここに居るジムトレーナー達が証明してくれるだろう」 デンジは開口一番にそう言った。負けたとは思えないほどに満ち足りた表情だった。 「三連戦目であったとか、直前に不自然な試合の取り消しがあったとか、そういう事を言う輩が居るかもしれないが、君がこのジム至上トップクラスの挑戦者であったことはこの俺が保障する」 そしてジャケットのポケットから小さなバッジを取り出し。 「とても、良い、勝負だった。このバッジは君に相応しい。受け取ってくれ」 ビーコンバッジ。八年もの間、どんなトレーナーでももぎ取る事が出来なかったそれは少し埃かぶっているような気がした。 理屈や信念で何を思っていようと、バッジを貰った時は嬉しい。 だが同時に、悔いることもあった。 「もし、あなたのエレキブルがあの時指示に背かなければ、俺は負けていたでしょう。トレーナーとして、俺はまだあなたには及ばない」 エレキブルがデンジの『メガトンパンチ』の指示を無視し『雷パンチ』を放った、結果として発電に僅かではあるが時間を消費しために『とける』の指示が通った。そして、発電によって体力を殆ど奪われた。 「リスクを背負って、彼をアンカーに据えたんだ。彼を攻める気にはならない。それに、あの状況は、百人のトレーナーが百人『雷パンチ』の指示を出すだろう。なやみのタネの有無に関わらずにね」 「何故なやみのタネに気づいたのですか?」 「エレキブルが電気ショックを放ったとき微かに違和感があった、彼は気づいていなかったようだがね」 確かに、エレキブルが電気ショックを放ってからは電磁波しか電気技の指示を出していない。 自分に重ねて考えてみる、俺は、シャワーズの些細な行動に気づけるだろうか? 負けてもなお、デンジというトレーナーは凄みを見せる。 「これで、良かったのだろうか」 デンジが、軽く顔を伏せているのに気づき、失礼だが笑いが漏れた。戦いが終われば、またすぐに愛弟子のことを気にしている。顔を上げないのはチマリと目を合わせたくないからだろう。 「後は、彼女しだいですよ」 もう一度、チマリのほうを見る。 先ほどと同じく、俺を真っ直ぐに睨んでいる。デンジへの同情も、失望も無ければ。俺に対する憎しみも、怒りも無い。ただただ、トレーナーとして、戦いを求めるトレーナーとして俺を睨んでいた。 僅かではあるが背筋が震える。それと同時に、自らのトレーナーとしての本能的な部分がチマリを一つの壁として認識していることに気づいた。 「まぁ、大丈夫そうですけどね」
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第二十一話 ( No.21 ) |
- 日時: 2011/02/04 22:19
- 名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:B6jioj.g
- 規則的に鳴り響くポケギアの音で目が覚めた。体を起こし、背筋を伸ばす。
ポケギアで今の時刻を確認する、昼前。昨夜は戦いのレポートを書き終えた後何時もより早くにベッドに入ったはずなんだけれども、やっぱり大一番の後は何時もより疲れる。 「さて、と」 シーツを折りたたみ、扉のそばにおいてある網籠の中に放る。結局俺が居る間にこの仮眠室を利用したのは俺だけだった。 別のベッドの上に散乱している私物を全て鞄に押し込み、寝床にしていたベッドと共に整える。 そして、今日やるべきことを考える。 顔を洗い、歯を磨こう。そして仮眠室を掃除して、身支度を整えて、センターの職員たちに軽く挨拶をした後。 この町を出よう。
「キリト、ここは危険だから関係者以外立ち入り禁止だ」 何時も本を読んでいた海岸。 海を渡るためにボールからポケモンを繰り出そうとしたとき、背後から急に声をかけられ、振り返るとデンジが微笑みを浮かべながら、 「ま、別にいいけど。それよりも、何の挨拶も無かったほうが問題だな」 「す、すみません。何だかこう、恥ずかしくて」 俺は、気持ちの切り替えがヘタだ。昨日、あれ程の激闘を演じた相手と翌日普通に話すことが出来るだろうか。 それに、必然的に顔を合わせる事になるであろうチマリとどう接していいのかわからなかった。 「どうしてここが?」 「君がセンターからチェックアウトしたら俺に連絡をまわすように職員に言っておいたのさ。そして、更なる高みに行こうとすれば出口はここしかない」 更なる高み、シンオウ地方四天王の事だろう。 だが、今のところ俺にその予定は無い。昨日の戦いで、俺の中のエネルギーと言うか、そういうものが全て持っていかれてしまった。当分、戦いを望む事はないだろう。 「あなたの悪友とやらには会ってみたいですね」 デンジの苦笑。 「ロバートさんとチマリちゃんは?」 「ロバートさんはジムでトレーナーと手を合わせているよ。時間が許す限りこのジムで鍛錬するそうだ。それに、実力でもぎ取るとさ」 ジャケットをチラッとめくり、裏側にあるバッジを俺に見せた。 「近づいたら、殺されそうだよ」 宿であった時に感じたロバートのギラギラとした若々しさ。紳士を装ってはいるが基本的に負けず嫌いなのだろう。 「チマリは……まだ、どう接していいのかわからない。もし君に会いたいのであれば、悪いことをしたのかもしれない」 そんなに気にするようなことでもないのに、と思う。 あの時チマリが俺に見せた表情は、完全に独立した、一人のトレーナーとしての顔。 だがデンジが危惧しているのはそんなことではなく。これまでの関係が崩れてしまうこと。これまでの兄と妹、もしくは父と娘のような関係が崩れているのかもしれないと不安なのだろう。 どちらが子供なのか、分からなくなる。 「デンジさん!」 デンジの背後から、デンジを呼ぶ声。 視線をそのほうに向けると、チマリと彼女の手持ちであるピカチュウがこちらに向かって走ってくる。 「デンジさん、急に居なくならないで。あなたが居ないと私の練習が進まないんだから!」 「あ、あぁ。すまない」 何時もと変わらないように――少し気さくかもしれない――デンジに話しかけるチマリに対してデンジはまだチマリの様子を伺っている。だが、デンジの表情に少しばかりの安堵が浮かんだ。 チマリはデンジの腕を引くと、俺のほうに顔を向け、 「あんた、帰るの?」 「あぁ、もうすることが無いからな」 「あ、そう」 また何時ものように二言三言小言を言われるかと身構えたが、彼女の口から出たのはたったそれだけ。 だが、すぐに彼女の目つきが変わり、 「今の私じゃあんたにもデンジさんにも勝つことは出来ない。だけどいつか、いつか力をつけて、デンジさんにもあなたにも勝つ。だからそれまで、私がまたあんたと戦うまで衰えないで、私は絶対あんたに勝つわ!」 それだけ言って「行きましょうデンジさん」とデンジの両腕をピカチュウと共に引っ張り海岸から消えた。 デンジは去り際に「機会があったらまた手合わせしよう、次は負けない」と言い残した。 彼の目は薄っすらと光を反射していた。 彼らの姿が完全に見えなくなって、先ほどまで三人の人間が居た海岸にあっという間に一人残される。 寄せては返す波の音だけが俺の耳に届く。 「なんと言うか……我が侭なお姫様だねぇ」 戦いというものは怖い。 昨日まではただの少女であったトレーナーを、一晩でここまで、具体的にはジムリーダーと同じような空気、威圧感を醸し出すまでにさせてしまうのだ。 彼女が再び俺に戦いを挑むのにどれだけかかるだろう。十年、五年……いや、真面目にやれば三年もあれば十分。 もはやデンジさえも彼女の壁ではない。少なくとも、彼女はもうデンジに勝てないなどとは思っていないはずだ。 自然と気持ちが高ぶり、口角が釣り上がる。 「心配事が増えたなぁ」 ボールを海に向かって放り投げる。ややサイズが大きめのマンタインが現れた。シャワーズでは小さすぎる。 ここら辺は野生のマンタインも多く生息する、こいつにとっても泳ぎやすい海だろう。 浅瀬に浮かぶマンタインに飛び乗り、行き先を伝えた。 「行こう、だれでもいいから強い奴の居るところに」
完
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短いながら感想を。 ( No.22 ) |
- 日時: 2011/02/15 21:28
- 名前: レイコ ID:APj77r3A
- こんにちは、スレッドでは初めまして。
完結おめでとうございます。そしてお疲れ様でした。
ポケモンバトルのおもしろさ、奥深さを改めて感じさせてくれる作品でした。 自分はしがないプレイヤーなのでデンジさんのいる高見とは程遠い存在です。 またチマリのように誰の強さに憧れているということもありません。キリトのように強さを追い求めているのとも少し違う気がします。 しかし負ける悔しさがあるからこそ勝つ喜びがあるという部分は共通しているのではないでしょうか。 負けっ放しでも勝ちっ放しでも物足りない。その狭間で藻掻く瞬間瞬間こそがバトルの醍醐味だと思っています。 本作で繰り広げられた熱い闘いを見ていると自分も闘争心を掻き立てられるようでした。 チャットの常連さんにお願いして鍛えて貰うのも良いなと思いました。
それでは。次回作も楽しみにしております。
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感想返し ( No.23 ) |
- 日時: 2011/02/17 00:50
- 名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:u8YXgOJo
- 始めましてレイコさん。
ポケモンバトルを書くのは凄く頭を使いました。ゲームの中では淡々と起こる技の応酬の描写が難しいのもありますし、ゲームの中での効果を如何に現実的に表すかなどが難しかったです。 しかし、考えている間は面白かったので皆さんもやってみればいいと思います。 今回の作品は大げさではなく、三行ごとに誰かに見てもらっていました。チャットの常連さんの協力のおかげで何とか書き上げたと思っています。
余談ですが、感想ってもらえるとめちゃくちゃうれしいですね。
それでは
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番外編 ( No.24 ) |
- 日時: 2011/03/24 20:05
- 名前: 来来坊(風) ID:.2AuWWoc
- 番外編『老兵、かく語りき』
ジムリーダーデンジのあの戦いから半年と少し、私はまだナギサシティの旅館を寝床にしていた。 あの日、私はデンジに惨敗し、観客席から彼らの試合を傍観していた。 そこで私は確信した、自分はまだあのレベルではないと。それと同時に、トレーナーである以上、あのレベルに近づきたかった。 不甲斐無き自分を恥じ、私は時間の許す限りナギサジムで鍛錬を積むことにした。 ナギサジムのリーダーを含む若く才能のあるトレーナー達との鍛錬は自らのレベルを上げる貴重な経験であった。
どこか遠くで、さざ波の音が聞こえ、野生のペラップ達が心地よくさえずる音が聞こえて私は目覚めた。 半年と少しの間に冬が通り過ぎ、最近は過ごしやすい。 相変わらず旅館の風通しは良いし、相変わらず日当たりも良い、何時もと同じ朝だった。 だが、私は今日と言う日を大事にしなければならない、否、大事にしたい。この何時もと同じ朝を味わえるのは恐らく今日が最後になるだろう。 昨晩、故郷から手紙が届いた。内容は簡単に言えば『誤魔化しきれなくなったので帰って来い』と言う物、仕方ないと思う、そもそも一ヶ月の予定を半年と少しまで引き伸ばしていたのだ。上手く誤魔化していた息子に感謝を述べたい。 旅館の朝食を腹に収めた後お気に入りのスーツに袖を通して、世話になった皆に最後の挨拶をするためにジムへと向かった。
珍しい事に練習場にデンジ君は居なかった、聞けば応接室に居るらしい。てっきりジムの改造にいそしんでいる物かと思ったが不思議な日もあるものだ。そもそも、応接室は何処だっただろう。 記憶をたどりながら何とか応接室にたどり着きドアをノックする。「どうぞ」とデンジ君の声が聞こえたのでドアを開けた。 「あ」 よく効きなれた女の子の声が聞こえた。 応接室の中にはデンジ君とチマリ君が机をはさんで向き合うように座っていた。机の上には何らかのポスターと何枚かの書類がある、一瞬だけ婚約届けが頭に浮かんだが馬鹿な考えと頭を振った。 恐らく、何らかの事で話し合っていたのだろう。迂闊だった、そうと知っていたらずけずけと入る事はなかった。 「失礼」 挨拶なんて今日中にすれば良い、別に急いでいる訳ではないのだから。そう思い、ドアを閉めようとした。 「あ、大丈夫です、大丈夫ですよ」 デンジ君が慌ててそれを制す。 「ちょうど、あなたの意見が聞きたかったところだ」 立ち上がり、チマリ君の横の椅子に座るよう求める。私は彼の好意に甘え、其処に座る。チマリ君はその間何も喋らなかった、俯いて何かを考えていた。 机の上のポスターに目を向ける、それはイッシュ地方で何年かに一度開かれ、次は来年の今頃に開催される大きなポケモンバトル大会の物だった。 「ロバートさん」 デンジ君が声を上げたので、私はその横にある書類に目を向ける前にデンジ君のほうを見た。 「貴方はイッシュの生まれだと聞きました。このリーグについてどう思われますか?」 そう言ってポスターを私の目の前へと移動させる。もう一度良く確認するがそれは確かに私の知っているあの大会の物であった。私が子供のころから存在しているし、スポンサーもしっかりしている。 「イッシュでは最も権威のある大会のうちの一つです。伝統もある、出場者に対する規定も厳しい、不正に対する罰則も厳しいですしチェックも堅い。そして、当然のようにレベルが高いです」 横でチマリ君が小さく声を漏らした。 「妙な噂は聞いていますか?」 不安そうな表情でデンジ君が返した。チマリ君の様子もおかしい。 「この大会の歴史は古いが、そんな話は聞いた事がない。第一、イッシュのポケモン協会が絶対に許さないはずです。其れほどこの大会の価値は高い」 デンジ君が安堵の表情を浮かべる。 「実は、昨日推薦状が届いたのです」 推薦状と聞いて、思わずデンジ君の顔を二度見てしてしまった、確かにジムリーダー等が推薦選手として出場する事は良くある事だった。私が婚姻届けだと思ったのはどうやら推薦に関する書類らしい。 「ははぁ、なるほど。確かに大会ごとに何人かの推薦選手が出場する事もあります、他の地方のジムリーダーが出場した事もありますから貴方が選ばれても不思議ではない。非常に光栄な事だと思いますよ」 デンジ君の戦いと、イッシュの著名なトレーナーを重ね合わせる。 「いや、それが」 デンジ君は机の上の書類の下に敷かれていたこれらが入っていたであろう大き目の封筒を取り出し、私に手渡した。 「推薦されたのは、私ではありません」 それの宛名の部分を見て、私は自らの体が熱く、熱くなって行くのを感じた。 恐らくこれは、あるトレーナーの歴史の始まり。そして、私の予測と勘が正しければ衝撃的な一ページになるだろう。別にそれ自体はそこまで仰々しい事ではないではない、そういうことはポケモンバトルと言う興行がある限り定期的に起こりうる。 だが、恐らくこれから巻き起こるであろう事がどのような結末を迎えようと、否どのような結末を迎えるのか想像するだけで、私の血がより早く、より早く循環する。 宛名には、チマリ君の名前があった。 「なるほど」 私がこれまで見てきたチマリ君の戦いを思い出す。確かに、あの大会に相応しい。大会委員もいい目の付け所をしていると思う。 「素晴らしい瞬間に立ち会えたようですな」 当事者ではないのに微笑んでしまう。デンジ君とチマリ君も信用ある大会と分かって一安心だろう。 だが、デンジ君のほうはまださえない顔をしている。徐に顔を上げると、先ほどから黙っているチマリ君に言った。 「チマリ、ロバートさんの言うようにこの大会は信用のあるものだ。お前の実力なら良い所までいけると思うし、俺も出来る限りサポートする」 デンジ君の発言から察するに、何時ものチマリ君からは想像できないが、彼女はまだ出場するかどうか決めかねているのだろう。 デンジ君はチマリ君の反応を待っていたし、チマリ君は先ほどから喋らない、私は口を挟む権利が無いように思えて黙っていた。少しの間、皆が黙った。 「出場した方が良いのは分かってる」 小さな声で、チマリ君が言った。私もデンジ君もそちらに顔を向ける。 「勝つ自信だってある。だけど」 チマリ君がまた口をつむぐ。 私にはその理由に心当たりがあった。否、恐らくこの場に居る全員が分かっている。だが、誰も口に出す事は出来ない、チマリ君はトレーナーとしてのプライドから、デンジ君はチマリ君を愛するが故に。 この場を変えることができるのは恐らく私だけだ、そして私はこの場を変え、話を次の段階に進める義務があるのだと思う。私がこの場にいるということはそういうことなのだろう。 「イッシュは、遠いかね?」 場の空気が変わる。 恐らく図星だろう、デンジ君もそれが分かっているようで、一度目線を落とした後再び顔を上げた。 チマリ君は膝の上に乗せた両の拳をぐっと握り、 「遠いし、怖い」 彼女の声は、僅かに震えていた。 彼女は自他共に認める素晴らしいトレーナである、故にこのチャンスを逃す自分が許せない。声の震えは自らへの軽蔑からだろう、短いその言葉を引き出すまでにどれほどの葛藤があったのか。 だが、同時に彼女はか弱いアーリーティーンでもあるのだ。 「イッシュに行った事はあるかね?」 チマリ君が首を横に振る。 「シンオウから出た事も無いのに、イッシュなんて」 「見知らぬ土地に不安を覚えるのは、恥じることではないよ。それは、トレーナーの強さとはまた別の問題だからね」 デンジ君が、私と目を合わせる。 少し、嘘を言った。 人間的な精神力も十分トレーナーの強さとして数えられるだろう。だが、それは興行にでるような精神的に成熟したはずのオトナに対して求められる物だ。彼女のような若者がプレッシャーに押しつぶされる事もある。ただし、それを乗り越えて初めて一人前のトレーナーと言われるのかもしれないが。 「私は、今日でイッシュに戻らなければならない」 話題を変え、本来伝えに来た事を彼らに言う。 チマリ君は少し驚いたようで「え」と声を出し、こちらを見た。 デンジ君が何か言おうと口を動かしたが、右手で其れを制した。何時もの癖が出て、少し高圧的だったかもしれない。 「もちろん、私はこの大会を観戦する。それも生でだ」 ポスターを指でトンと叩く。 「チマリ君、耄碌爺の独り言だと思って聞いてもらいたいが。私の中で君の記憶が薄れる前に、私はもう一度君の戦いを見たい」 それは本心だ。 「イッシュでの滞在期間のことは私が保証する。どんな要求でも答えよう」 私は自由に家計を動かせる立場には無い人間ではあるが、そのくらいの事は出来る、否、やらなければならない。もちろん彼女の戦いを見たいと言う自分のエゴのためにだ。 「時間は、まだ一年もある。ゆっくりと考えて結論を出すと良い」 立ち上がり、帽子をかぶって、デンジ君に感謝の言葉を述べた。社交的に間違った事は言っていないはずなのだが不思議と何を言ったかはあまり記憶に残らなかった。 「それでは、失礼するよ」 「あ、ロバートさん。送ります」 ドアを開ける手をデンジ君が制して言った。 「私も」 チマリ君も跳ねるように立ち上がった。 「いや、遠慮しておく、見送りと言うのは何処で止めれば良いのかややこしい。こちらも、いつまでも振り返って手を振らなければならないしね。この部屋までで十分だよ」 本来なら、見送ってもらいたいものだし、今日はゆっくりとする筈だった。 だが、チマリ君がデンジ君に相談する時間を一秒でも長く残したかった。私のこういう辺に頑固なところは本当に幼いと思う。まぁこの幼さのおかげで得をした事もあるが。 「あぁ、そうだ」 ドアを閉める直前、私はチマリ君とデンジ君両方に向け発破をかける。 「この大会が開かれる時期に他の大きい大会は無いから、もしかしたら。彼、も顔を見せるかもしれないな」 二人とも、同じ男を想像しただろう。 ドアが閉まる直前に見た、彼らの顔と言ったら。
エレベーターで最上階まで上がり、敷き詰められた絨毯に足を踏み入れる。足の裏が沈むような柔らかさは苦手だ。だが、一般とは違う内装にしなければ威厳と言う物が出ないらしい。 広く取られた廊下の先にある扉の内、一番重厚な扉をノックする。 どうぞ、と言う声が聞こえる前に扉を開く、中に居る人物に気遣いなど必要ない。 「父さん」 無駄に大きい椅子から立ち上がった中年の男、私の息子、ビンスだ。 「久しぶりだな」 「父さん、貴方はこの会社の相談役なんだ。いくら現地調査と言う建前があろうとも、帰ってきてもらわないと困るんだよ」 ビンスは言い聞かせるように私に言ったが、その言葉に威厳は無かった。あくまで私の機嫌を損なうまいとしている。 息子は不安なのだ。私が彼の前に居ない事が。精神的な支柱として私が必要なのだろう、妻が先立ってからはその姿勢が顕著だ。どんな形であれ会社の社長なのだからもう少し自立して欲しい物だ。そもそも、この会社をここまで大きくしたのは私ではなく、ビンスだ。 「次から、気をつけるさ。そんな事よりも、イッシュ大会の事のスポンサー推薦枠のことなんだが」 イッシュでも最大規模のイベントに我々の会社もスポンサーとして何年も貢献してきた。ある一定の貢献をしているスポンサーの権利として選手を推薦する事が出来る。ビンスもその権利を有しているようだが、彼はバトルに興味が無いので毎回枠を余らせていた。 「ある男を推薦したい。まだ交渉もしていないし、所在もつかめていないが、必ず探し出す」 自分の言ったことには、責任を持つ。 もちろん、彼らとイッシュの猛者のマッチアップが見たいのもあるがね。
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番外編の感想をば。 ( No.25 ) |
- 日時: 2011/03/23 02:26
- 名前: 乃響じゅん ID:quEFBwEI
- 番外編!
こういう主人公のいない後日談って結構好きなんですよ〜。
スポンサーもしっかりしている、の伏線が素晴らしいです。 全然気付きませんでした。してやられた感じです。
再戦を取りはからおうとするロバートさんカッコイイですね。何と言う胸熱展開。 そんなアツさをしっかり魅せてくれたのは風さんのなせるワザですね。素晴らしいッ!
私も事前に読ませて頂いた一人ですが、「この作品をより完成度の高いものにする」という気概に満ちていたように思います。 あっぱれ!
最近知ったのですが、チマリって実際にいるキャラクターなんですね。 てっきりオリジナルかと思ってましたw
それでは、また。
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誤字発見 ( No.26 ) |
- 日時: 2011/03/23 04:21
- 名前: ジャック◆YLWidO8ODg ID:BwP8XN0A
- 誤字を見付けたので取り合えず報告です。
記事No.11 ×トレーなど牛の対戦において ○トレーナー同士の対戦に於いて
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感想返し ( No.27 ) |
- 日時: 2011/03/23 19:58
- 名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:l3nBrnbY
>>乃響じゅんさん
感想、ありがとうございます。 ロバートはかなり好きなキャラで、いつか生かしていたいと思っていました。 最後のほうの設定などはあまりにも厨過ぎて自分でも書くのを躊躇しましたが結果的に書いちゃいました。
じゅんさんには本当に完成前にお世話になりました。本当にありがとうございます。
ゲームで幼女が居たのは覚えていたのですが、デンチマというジャンルをみたときには感動しました。一番初めに考えた奴は天才。
>>ジャックさん
把握、修正しました。
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感想と何か ( No.28 ) |
- 日時: 2011/03/28 20:01
- 名前: いんろう ID:uPdqhlfU
- こんにちは。読んでいて素晴らしいアイディアがたくさんありとても面白く感動的な話でした。下にいろいろ書いてますがそれを気にさせない程のパワーがこの作品にはあり、そういう力をもった作品がいわゆる名作と思っているので、気にしないでください。うざったいとおもうので頼まれればいつでも消しますw
◆編集できそうなとこ。風さん以外読むの禁止
まずキャラのモチベーションを支える要素ともう一つの可能性について 突拍子もない話、この作品にはデンジさんをいじるだけで発生する別ルートがあることに気づいた。最初の方でチマリをかばう様な発言があったけど、この発言はチマリのためではなく、バトルの意味もトレーナーとしてのプライドのぶつかり合いとしてのバトルだということも肩入れを後悔したことや態度から伝わってくる。だけど、この一見複雑な感情の入れ込みを利用して実はクールな彼にもチマリを意識させながらトレーナーとしてデンジとプライドのぶつかり合いバトルをさせるルートも存在したなということ。とてもベタな話なんだけど、もしやろうとするなら最初にデンジさんを泣いて謝罪させるのではなく冷たい反応をさせること。これは彼にとっては勿論嘘の態度なんだけど、これによってバトル中も主人公にデンジゆるせない!という感情をより強力に意識させることができるし終盤最後の最後で仲直りし彼の人為的なものではなく裏側にあるような全然違った弱さや優しさを見せる感動シーンまで作れ、更にチマリとのフラグなんてものまで簡単に立てられてしまうので幅広い分野でよく使われるパターンでもある。もちろんバトルそのもののクオリティーはそのまま。純粋なトレーナー同士としてのバトルがひとつのテーマではあるし、もちろん今回のバトルに特別なドラマが必要だったかというとそれは計り知れないのだけど、ドラマとしてのバトルもわりと簡単にできたしそっちを望む人もきっと多いよという話です。キリトはどちらかというと義理より純粋な強さが似合うキャラなのだろうけど、そういったある種の極端な一途さをもった人物を、対比させる人物なしで一人称の作品の主人公にもってくるスタイル。つまり特別な感情を描くことなくずっと強さばかりにこだわらせるのは読者にとって抵抗感を生まれさせるリスクが実はあるから、それを解消するための方法もあって、キリトに近い位置にいる第三者の視点で書くような手法がとられるか(これは今回は無理)、トレーナーの世界の外にいる人間をどこかに置いてキリトと絡ませる(ロバートにそう言う側面はあったので何かしらの形で役割を持たせることはできたと思う)、もしくは彼の違った一面、つまりバランスをとるセリフやエピソードをどこかにひとつはさむ必要があったかも。
・バトルの話 チマリとのバトルの最後では、実際に本当にとどめを刺せるぞ、という表現を加えるとより迫力が出るかと思います。迫力だけでなく後の文を削れるし伝わりやすくもあるから。何故終了したのか疑問をもたせて後から解説することでレベルが高いことを表現する手段っていうはたぶん小説独特のものだろうなという感じはあって、とどめという意味ではあの場所は一番盛り上がるところでもあり少し珍しい演出のように思えた。個人的には好きだったけど。もしやるなら第三者を配置して「なぜやめたんだ?」とつっこませると読者からはわかりやすいとおもいます。 エレキブルが出た直後、演出も凝っていてなかなかよかったのだけど、手負いのブラッキーを放電で倒すのは具体例としての強さの強調にはちょっと弱いように感じたかも。マスターボールの印象約束やデンジの話で強いという設定は勿論伝わったのだけど実際に本当に強いというシーンをどこかで書いたほうが効果的。ひとつ例あげるとすると、特別じゃなくても倒せそうな傷ついたブラッキーを放電で倒すのではなく、帯電電気エンジンを利用してとっておきの必殺攻撃をへっちゃら顔で受け続けることで可能だったのではと思う。ありがちなシーンに思うかもしれないけど、攻撃が全く効かない事実をこの時点ではっきり示すこともできるから余分な場面が削れ全体のテンポが一気に良くなる。 そして、このバトルの最大の見どころである、主人公の狙いによりできた僅かな隙がテーマにからむ演出、具体的にいえば最後の命令違反による雷パンチが絆の話につながるところ、タネマシンガンでやどりぎを撒いたと思ったら、なやみの種までこっそりまき、それによって電気エンジンを封じさせ、自身の電気に一瞬怯むという弱点を利用する(ここらへんの設定は出たのが急すぎて工夫しないとよくない意味での意外性に働く可能性が)、更に「水には電気だろう」というポケモンにもわかる心理と絆・信頼関係を絡ませる。そして信頼関係の部分にはロバートのセリフ以外にも、”デンジの説明過多な火炎放射”の部分からシャワーズの無指令の溶けるとの対比として伏線まで張ってあって、あそこはホントにものすごくよく出来てると感心しました。ただ、デンジを倒すにはその部分だけスマートにもってきて表せば十分すぎると思うので他はざっくり切ってしまってもいいかもと思う気が。テンポ良くするために、光の壁とかを出して用が済んだら即勝負がつくぐらいのスピード感があればもっとコンパクトになると思います。またエレキブルの良くないと思った点、具体的にいえばメガトンパンチ絡みで、電気エンジンに気づくまでの過程とかタネマシンガン、やどりぎ、水鉄砲、なやみの種、あとトドメのハイドロポンプ、破壊光線などはしょうがないのだけどそれ以外のところは読者が「エレキブルの戦闘能力そのもの」を疑ってしまう様な要素を含んでいる気も、つまり信頼関係とバトルに不慣れであることが原因となる攻撃や防御のミス以外は彼の強さをはっきりと強調したほうがいい。そういう意味で火炎放射の場面は届かなかった当たらなかった、だけじゃなくもっと実際はリーチがあって緊迫感を意識した演出なんかはできただろうし、静電気のような電気で軽く倒せるという演出をやっておきながら中盤なのにギガインパクトという多技でとどめを刺したりやどりぎを解くのに「最大出力の放電」というフレーズもピークでないのに表現が極端で使うのは非常にもったいない。
・演出の話 もったいないという意味では、さらっと凄いことやってるのに演出的にはテンション一定でスルーというのもおしい たとえば技を電気タイプに変えるという設定は、あれはギャラリーに気づかせてあげて驚かせてもいいかも。発想は非常におもしろいのだけどエレキブルが倒れない秘密だったというとんでもない設定なだけにその事実に気づきやすくするための、演出の起伏はあってもいいかもです。 電磁波を使い光の壁へ押しつけられパンチをくらうという場面、そしてハイドロポンプと破壊光線の場面も盛り上がるはずの場所なのにちょっと演出に欠け気味。そこで一本取られたと思うならそういう言い回しは工夫し強調するところ。エレキブルの絶叫ではなく対峙しているキリト自身のやデンジに何らかの変化があるはず。意味不明なこと叫んでもいいしクサイ言葉でもクドい言葉でも冷汗ダラダラかくだけでもいい、声もでないほどのショックならそれでもいいのだけど、キリトの心情を表すのは「目の前で起こっていることに、理解が追いつかない」くらいであとはほとんどがバトルの説明ばかりでそういうことはあまり掘り下げて書かれていなかったのがちょっと残念。バトルがひっくり返り状況が変わった瞬間、そして決着がつく瞬間。つまりせっかくの見せ場なのに読者はそのことに気づかないまま読んでいく可能性を高める原因になってしまう。非常に素晴らしいバトル内容も感情の起伏がないため読み疲れられ、面白くないの一言で終わる。ひねったやり方じゃなくても簡単に演出すれば作品そのものが化けるチャンスなのにとてももったいないです。ニヒルなキリト自身じゃなくても他のキャラにだってできるしセリフ回し以外でもいくらでもキャラやバトルのテンポを崩さずにできるはず。クールなキャラはかっこいいですが無反応なキャラはいくら強くてもちょっと不自然で逆にリアルさを失うのではないでしょうか。主人公なら尚更です。
・台詞の話 セリフでは、説得力を失っているセリフもいくつかありました。たとえばロバートの「信頼関係だよ」のセリフ、確かに具体例をあげてはいるがロバート自体キリトとレベルが明らかに違うのでいくら経験のある彼が本質的なことを急に語り出しても違和感がある。本来、核心に近いキャラに言わせるべきなのだけどこのメンツの場合バトルの伏線を張りつつ、回想の中でジムリーダーに言わせるという手法が一般的。これはこの作品で多用されてる、読者を出しぬく伏線という使い方ではなく気づかせるための伏線の使い方をするともっとわかりやすく良くなります。少々強引な設定も多いので軽い前置きの解説を含めてここで回想を交えるのもいいと思います。 そして一番致命的な問題じゃないかと思えるのがデンジさんのセリフ。セリフだけでなく態度も底を見せすぎて貫禄が失われてしまう。強いはずのキャラが何度も底を見せるっていうのはひょっとしてキリトを引き立たせたかったのでしょうか。涙を見せる場面は不器用で優しいということから理解出来ますが、自分で自分を最強だとか強いというのは、ちょっとカッコわるい・・。それも何度も繰り返し言っちゃってる。これをやるのは憎い敵キャラを演出するときか、かませキャラか、成長の途中で天狗になった主人公キャラ。これらのキャラ相手にボコボコにすることはあっても正々堂々とフルバトルするって作品は見たこと無いので、やるからには強いと言わずに本当に強いと思わせる表現や演出、展開をバトル以外でもいくつか組み込む必要があったと思います。そう言う意味ではチマリとのバトルのレベルがすごく高く、期待させるというというのも強さを想像させるのに十分な演出の一つではあったので好きでした。
以上です。キャラの配置や構成、オリジナリティの分野についてはまだ勉強不足なので今のところ言うことはありません・・。来来坊さんの次の作品をとても楽しみに待っています
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レス返し&あとがき ( No.29 ) |
- 日時: 2011/03/28 23:45
- 名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:AbtWRGk.
- 今回の感想返しは後書きと並行しようと思います。後書きもかねていますので本文を読んでいない方にはわかりにくいかと思います。
>>いんろうさん
・もうひとつの可能性について
デンジとの兼ね合いのとき「うそをうそで塗り固めるテクニックが無い」という言葉でデンジの性格を表現しました。これは自分がデンジに対して「遊び相手がいなかった天才児」という印象を持っているからです。確かにあなたが言うようにデンジが謝罪せずに冷たい反応をするというのもお話としてはありだったかもしれません、だけれども自分の中でデンジと言うキャラはそういう事ができる人間ではありませんでした。
また、キリトとデンジの間に「許せない」のような感情は似合わないと思います。自分の世界ではですけど。
バトル後の感動シーンも必要ないと判断しました。そもそもこの作品は「デンジとチマリの成長」と言うものを書きたくて書いた作品です。プロットの段階ではバトルはありませんでした。ただ、バトルを書いたほうがバトル後のチマリの人間的な成長がよりわかりやすくかけると思ったので書きました。
自分と、読者の皆様の間でもしかしたらずれがあったかもしれませんが。この話の軸はチマリです。いんろうさんが言うように「キリトに近い位置にいる第三者の視点で書くような手法がとられる」と言うのを自分はチマリに対するキリトでやったつもりでいました。ただ、バトルを無駄に凝ってしまったために前半のチマリのくだりが薄まってしまった点については今後の課題です。
・バトルの話について
『チマリとのバトルの最後では、実際に本当にとどめを刺せるぞ、という表現』とあります。ある程度上級のトレーナーになればある程度先は読めるのではないか? と言うのが自分のバトルにおける考察です。きあいパンチをスカらせた後にバックを取っただけで格の違いを表す表現は十分にできたと自分は思う、ただ、読者を置いてけぼりにしていたかもしれないけれど。
『手負いのブラッキーを放電で倒すのは具体例としての強さの強調にはちょっと弱いように感じたかも』とありますが、これに関しては全くその通りだと思います、ここら辺は完全に練り不足、今思えばロズレイドを倒すときにギガインパクトではなくてもよかったかも。突然変異主のエレキブルという設定を生かしきれなかった、もっと、もっと化け物っぽくしても問題は無かった。
表現が極端、と言うのも全くその通り。バトルに関しては痛いところを突かれまくってる。
後個人的にくいが残っていることは、あまりにもブラッキーが無双だったこと。急造で拵えたとはいえバトルのバランスがおかしい。
あと、ロバートとキリトのバトルも本来ならやる予定は無かった。だけど「チマリが如何に才能あふれているか」を表現するために書きました。ピカチュウより格段に早いテッカニンでも普通の人が使ってるとキリトのサンダースに技ぶつけられるよって意味で。
・演出について
ここに関して自分といんろうさんには決定的な溝があると思います。 もちろん、どっちが良いとか悪いとかと言う話にはなりません、どちらも正解かもしれないし、どちらも不正解かもしれない。 自分は、バトルで演出はあまり必要ないと思います、もちろん今回のような戦っている人間から見た一人称の場合です。 戦っている人間は、その場所以外に目なんていかないし、喋らないし、わけのわからない言い回しを思ったりもしないと思うんです。ただ、三人称視点や、傍観者側の一人称なら別だと思います。ただ、自分はそれらが苦手なんです、気取った台詞を考えるのも、二重三重に比喩を折り重ねたり、わけのわからないところで文章を切ったりするのが。
エレキブルの帯電電気エンジンについてですが、これが第三者にばれると言うのは絶対にありえないと思うんです、なんてたって常識じゃないんだから。でも「なぜ倒れないんだ!」的なことをロバートに言わせたほうがよかったなと後悔しています。
電磁波光の壁はおそらく自分がこのバトルにおいてもっとも自信を持ってリリースした戦術です、イーブイ進化でも帯電電気エンジンでもありません。デンジのサンダースが光の壁を出したとき「あぁ、この壁は終盤にまた利用されるな」と思った人は少ないと思います、帯電電気エンジンを見破ったキリトも思っていない設定でした。だからそれまでバトル中は感情を表さなかったのに、あのときに限って「目の前で起こっていることに、理解が追いつかない」と言ってしまったのです。ま、言わせたんですけど。
エレキブルが命令を無視して雷パンチを打つとき、確かにデンジの反応はあってもよかったかもしれない、だけど、やっぱり当事者はそっちを見ていないと思うんです。
あと、自分は『バトル』→『回想』と言うのはどうにも好かんのです。
・台詞について
キリトとロバートはもちろんレベルが違っているけど、彼にあるのは「年齢」と言う武器だと思うんですよ。むしろ、あの時、あの場所で「信頼関係だよ」などとこっぱずかしいことを言っても違和感が無いのはロバートだけだったと思っています。むしろそれを言わせるためだけにロバートを年増キャラにしたといっても過言ではないと思っています。比較的若い三人を差し置いて年食ってるロバートは本質を見抜いていたと言う。
自分は「読者に気づかせるための伏線」よりも「読者を出し抜く伏線」の方が圧倒的に好きなんです、むしろ全部読んだ後に「ん? もしかしてあれは!?」と、もう一度読んでほしいほどなんです。ここは、譲れないんです、伏線に関しては自分は読者と化かし合いをしていると思っています。電磁波光の壁なんてその典型なんですよ。 でも、頑固にならず「読者に気づかせるための伏線」を使ったほうがいい場面もあると思いますし、うまく使えるとまだまだ幅が広がると思います。
・デンジの台詞や性格等のキャラ付けについて
もう一度言いますが、自分の中でデンジは「遊び相手のいなかった天才児」なんです、だからバトルにおける強さと人間的、精神的な強さは決して比例しないと思うんです。だからチマリに対してどう接して良いのかよくわかっていない、そしてチマリも精神的に不安定な時期。そこを書きたかった。
何度も繰り返しデンジの底を見せたのは『ジムリーダー』としてではなく人間としてのデンジの弱さを書きたかったから、もちろん、アニメとか漫画とかゲームとかのデンジはこんなんじゃなかったですよ。あくまで自分の中でですからね。強さとは、いろいろ種類があると思います、そしてその全部が強い人間なんていやしない。
自分で自分を最強という場面。自分はこの作品でデンジが『自慢』という意味で自らを最強、とか強すぎる、とか言わせたつもりはありません。ポケモンセンターでは『葛藤』ジムでは『鼓舞』の意味として使ったつもりです。そもそも自分の小説の設定では八年間無敗です、それで「いやー全然ですよ〜」なんていったら逆にどうよ?
そして、デンジの強さをうまく描写できたのか? これはできていなかったと思います。イーブイ進化をよんでいたり、突然変異エレキブルを操ったり、電磁波光の壁をやったりしましたが、それでもまだ足りなかったと思っています。次回の課題です。
『全体的後書き』
始まりは、某大手イラスト投稿サイトでした。 ポケモンのイラストを漁っていた自分はあるタグが目に留まりました。 聡明な皆さんならお分かりでしょう。『デンチマ』これです。 私はすぐに虜になりました、絶対に『デンチマ』で一本書いてやるんだ。そう思っていました。 いろいろ頭で空想し、二週間後、書き始めました。 なぜ幼女のチマリではなくティーンエイジャーのチマリなのか、それはたぶん若い子の精神的なあれをあれしたかったんだと思います。 だけど自分は男です、女の子の心理なんてわかリゃーしません。そこで第三者としてチマリとデンジを傍観するキャラを作りました。それがキリトなのです。 初めはバトルなんて書く気はありませんでした、めんどくさいから。 しかし「序盤に張った光の壁に電磁波で貼り付けるんじゃね?」と思ったが最後、書いちゃいました。 今思えば、書かないほうがよかった、なぜならばあれのせいでチマリとデンジの云々が薄まったなんてレベルじゃないほど薄まったからです。本当に後悔してます。 だけどまぁ、楽しくできたし、良いかなって感じです。 ちなみに、短いとはいえ物語を完結させたのはこれが始めてだったりします。
最後に 完成に際していろいろチェックしていただいたり、感想とか言ってもらったり、挙句の果てに現在進行形でキャラ募集とか無理やり押し付けたりしても全く起こること無かったチャットの皆様、感謝しております。 これからもがんがんチェックさせるので今後ともよろしくお願いします。
だらだらだらだらと書きましたが、結局何が言いたいのかというと。
「お前らもっと感想書き込め」
と、言うことです。
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感想 ( No.30 ) |
- 日時: 2011/03/29 11:04
- 名前: でりでり ID:jJWugbBg
- 何回もチャットなどで完成途中のこの作品を読んでたんですが、感想を書くに当たってもう一度読み直しました。
まだ興奮が止まりません。 これこそ至高のポケモンバトルっていう感じでした。心理戦で語るは静かだけど、その水面下でも熱く激しい戦い、読み合いが繰り広げられる。ゲームの対人戦にも通ずるものがありますよね。 この作品に出るキャラはどれも魅力的で、なおかつポケモンバトルに対して真摯な姿勢でした。 彼らのそんなところがこの話を盛り上げたんだろうと思います。 >>「世界で一番強いトレーナー、それはデンジじゃない、ロバートさんでもない、俺でもない。世界で一番強いトレーナーってのは自分の中の理想の自分なんだ」 このセリフ聞いたとたんにわたしは震え上がりました。 ああ、なるほどな。これは彼らの世界に通ずるものだけでなくわたしたちにも通じますよね。 いやあもう、はい。とても面白かったです。かなり満足しました。この読了感が気持ちいい。 とにかくチマリのイッシュ戦が楽しみです。 あと、デンチマっていうジャンルをよくぞ見つけたなあと思いました。 こんな稚拙な感想ですがここで終わらせていただきます。
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レス返し ( No.31 ) |
- 日時: 2011/03/29 23:01
- 名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:AFo1Nw/Q
- >>でりでりさん
あなたにもなんどもチャットで見ていただきましたね、ありがとうございます。
ジムリーダーが絡む小説とあって、やはりバトルはそれなりに考え込まないといけないなと思いました。結果あのようになりましたが。 >>「世界で一番強いトレーナー、それはデンジじゃない、ロバートさんでもない、俺でもない。世界で一番強いトレーナーってのは自分の中の理想の自分なんだ」 この台詞に関してはおそらく何人もの人が似たようなことを言っていると思います。だけれどもこの小説を通じてどうしても言いたいことのひとつだったので、書きました、気に入っていただいて光栄です。
デンチマは至高です。最高でもあります。
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感想 ( No.32 ) |
- 日時: 2011/03/30 13:30
- 名前: とらと ID:wZ1.PEMQ
- 三月いっぱいと言ったので滑り込みセーフですね(*´∀`大変遅くなりましたが感想を。
完結おめでとうございました。あれイッシュのリーグ戦読めるんですよね?楽しみ^^ 何度か読ませていただいて、そのたびに見習いたいところがわらわら出てくる素敵な作品でした。めっちゃ面白かったです! 一回目はそりゃあもうデンチマでしたが、同時にこれほど緻密に作りこまれたバトルを読んだのは初めてだったかもしれないなってことでした。強いトレーナーっていう設定でバトルを書くのは自分にとって本当にプレッシャーのかかる作業です。能力や覚える技を見ながらバトル展開を考えるのは楽しくもありますが、ちゃんとハイレベルで面白いバトルにできるかと言われれば全く自信がありません。キリトVSチマリの、ピカチュウの最初の高速移動の時からなんかすげぇなと思っていましたが、最強のジムトレーナーとこれから伝説になるであろう男の一戦、その名に似合ったあの手この手のゲーム展開、本当に素晴らしかったとしか言いようがありません(*´∀`さすがは風さんでした。GJ! そして何週かした今冷静になって読み返してみると、やっぱりデンチマなんですが、同時にバトルの際のトレーナーの役割について、あらためて思わされるところがあるなぁと感じています。当たり前なんですが、ただ技名叫ぶだけじゃないんですよね。明らかに人間より運動神経のいいポケモンをどうサポートさせるのかっていうのがよく見えてたバトルだったんじゃないかと思います。参考にさせていただきます
しかしデンチマですね!デンチマ?と思って某大手イラスト投稿サイトで検索してみたんですが、なるほど幼女……なるほど風さん しかも思ったより活発なジャンルで噴きました ジム戦が終わった直後のキリトを睨むチマリちゃんの、きりっとした様子が凄く印象的でした。彼女のこれから歩んでいく道のりがどんなものであるか楽しみでなりません。将来有望な若者ってのはいいですな……ハハッ(´ω`
将来有望な風さんにも期待しつつこの辺で失礼いたします。 拙い感想で申し訳ありません、次の作品も楽しみに待っております。
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レス返し ( No.33 ) |
- 日時: 2011/03/30 22:18
- 名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:7Jww6XEo
- >>とらとさん
滑り込みセーフです。もうくれないのかと思いましたよ^^
イッシュリーグは……どうでしょうね^^
後書きにも書きましたが、初期の構想ではバトルはありませんでした。 しかし、皆さんにいい感じの評価をもらって、あぁ、書いてよかったなと実感しています。 バトルにはそれなりに拘ったつもりです。プロレスのような「魅せる戦い」が非常に好きなので。実際にプロレスファンだったのもよく関係していると思います。
あなたの感想を読んでふと「トレーナーの存在価値」について考えが頭をよぎりました。 自分が思うに、ポケモンと言うのは非常に強力な生命体です。 例えば、ひとつの鳥かごのようなものがあるとします。 その中に野生のポケモンとトレーナーとそのポケモンを閉じ込めたとして、野生のポケモンが勝ってしまうならばトレーナーの存在価値は無いのだと思うのです。 だから、トレーナーが絡むポケモンバトルを書くのは難しいのだと思います。幸い、この作品ではいい感じの評価をもらっていますが。
デンチマ、ですが。自分は正直チマリにもデンジにもあまり思い入れはありません。ただ、デンチマがすきなのです。
それでは、感想ありがとうございました。
あ、まだまだ感想募集していますよ、遠慮なさらず書いて行っちゃってくださいね。^^
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番外2 ナギサシティ。決意のお話 ( No.34 ) |
- 日時: 2011/04/12 22:49
- 名前: 来来坊(風)◆Ynwmyx27bQ ID:P6lPDJ6M
- 俺は今日もジムリーダーとしての責務を完全に放棄して、ナギサの灯台から海を眺めていた。
天才と持て囃され、凡人とのバトルに飽き、より痺れる、よりレベルの高い戦いに身を投じたくてジムリーダーになったが、それは俺自身が望まないバトルをこなさなければならないと言う事であった。 挑戦に来るトレーナーは皆つまらない。初めの方は我慢して相手をしていたがやがてそれにも飽きた。 俺はジムを改造する事に没頭し、挑戦者と面と向かうことも無くなった。幸い、ナギサジムのジムトレーナー達は軒並み優秀で、挑戦権を剥奪されるトレーナーが多かった。 だが、最近になってジムの改造できる部分も少なくなった。同時に、親友であるオーバから四天王加入を勧められた。ジムが異常に電気を食うせいで街全体が停電したこともあるし、そろそろこの街にも飽きた。 ふと、背後に人の気配を感じた。あぁ、またジムトレーナーが呼びにきたのだなと振り返るとそこにいたのはキャップをかぶった少年だった。 「ポケモントレーナー」 俺はその少年がただのトレーナーではないと本能的な部分で感じ取った、非科学的だと言われるかも知れないがトレーナーの実力はその人物のオーラ、気迫で大体読み取れる。そして俺がその少年から感じたの気迫はオーバのような四天王にも勝るとも劣らないものだった。 そして、最近シンオウのジムを破竹の勢いで勝ち抜いている少年がいるという情報が頭の中に浮かんだ。そうか、とうとうナギサにも来たのだな。 「ナギサジムへの、挑戦者、か」 ジムリーダーとしての最後の戦いとして、ふさわしいのではないかと思った。この少年を倒してしまえばもうナギサに強力な挑戦者が現れることも無いだろう。 少年は、黙って俺の目を見ていた。無口な奴だ、それとも緊張しているのだろうか。 「決めた、君が弱ければ俺はポケモンリーグで戦わせてもらうとしよう。ポケモンジムの改造も終わったし、なにより、ポケモントレーナーとして痺れる勝負を望むからね。シンオウ地方最強のジムリーダーとしての実力、存分に振舞わせてもらうよ」
思ったより早く、少年はジムの仕掛けとジムトレーナー達を突破してきた。それでもそれほどの驚きは無い、簡単なことだろう彼にとっては。 お互いのボールを審判員がチェックする、彼のボールはかなり傷ついていて、ここまでの道のりがとてつもなく雄大だったことが伺える。そして、彼はこの幼さにしてそれを乗り越えてきたのだ。 「さて、挑戦者」 少年の目が、俺と合う。真っ直ぐで嘘やごまかしの無い、今まで俺が見てきた実力者と同じような目だった。 「たまに俺と戦えるトレーナーがいるけれど、皆つまらないというか、手ごたえが無いんだよ」 ボールを腰にセットする。ひとつ、深呼吸する。緊張しているのか? この俺が。 「ふぅ、俺がジムリーダーのデンジ。シンオウで一番のジムリーダーと言われるが」 少年が一瞬だけ俺から目を離し、腰にボールをセットした。 俺は、疎外感を感じていた。俺だけ置いていかれているような、少年ははじめから俺を見ていないような被害妄想に近いような焦り。 少年が俺を追いかけているのか、それとも俺が少年を追いかけるのか、わからない。 「まぁ、いいや。俺にポケモン勝負の楽しさを思い出させてくれるトレーナーであってくれ」
全体練習が終了し、ジムの皆が大体帰ったであろう頃、俺は応接室で一人コーヒーを飲んでいた、ジムリーダー室で飲みたかったのだが、あいにくコーヒーメーカーは応接室にしかない、そういえば全部の部屋にコーヒーメーカーを取り付けるという改造が残っているな。 結論から言えば、俺は負けた。 久々に、自らがトレーナーであることに意義を見出せる試合だった。楽しくて、痺れる、原点のような試合。 彼はこの後ポケモンリーグで四天王と戦うことになるのだが、四天王になればまた彼と戦えるのだろうか? もっとも、敗北した俺にまだ四天王になる権利があればの話だが。 もし、認められるのならば、再び彼と戦いたい。彼ともう一度戦えば、俺の中の満たされることの無かったものが、満たされるどころか、溢れるかもしれない。 オーバは今ならまだナギサにいる、連絡が取れるだろうか。 そう思っていた時、応接室のドアノブが音を立て、扉が開いた。皆帰ったはずなのに、誰だろう? 「あ」 扉を開けたのはピカチュウの着ぐるみを着た女の子だった。名前はチマリ、地元の女の子で昔からよくジムに遊びに来ていたらしいが、つい最近ジムトレーナーとして登録された。確かまだ六歳だったと思う。泣き虫だがセンスがよく、ベテランのジムトレーナーも負かせてしまいそうな勢いがある子だ。俺に良く懐いていて、ことあるごとによって来る。 まだ、帰ってなかったのか。もう暗くなるから早く返してあげないと両親が心配するな。 「もう、練習の時間は終わり。早く帰ろう」 椅子から立ち上がり、チマリの傍まで寄ってドアを更に開く。コーヒーカップは、また明日で良いや。 「デンジ兄ちゃん」 デンジ兄ちゃんとは、もちろん俺のこと。彼女から見れば、俺はお兄ちゃん。おじさんと呼ばれないだけましだと思いたい。 「ん」 彼女を連れて、扉を閉めようとした手が止まる。 「ジムやめるの、やめて」 その質問が彼女の口から飛び出してきたことには驚いた、いったいどこで聞いたのだろう? 少し上ずっていたその声が俺の良心を抉った。 「一体誰に」 「髪が赤くて、モコモコした人」 オーバめ。あいつは何時も余計なことをぺらぺらと。そんなこと、こんな子供に言わなくても良いじゃないか。それにまだ辞める何て言っていないぞ。 「やめて、やめないで」 チマリの声に、震えが混じる。 「チマリ、デンジ兄ちゃんとの練習、好きだから。デンジ兄ちゃんとの練習、楽しいから。もう、泣かないから。我慢するから」 ドアノブを握っていた俺の手を、チマリが両手でつかむ。彼女が俺を見上げたとき、ピカチュウの顔が描かれたフードがずり落ち、彼女の両目に俺が写った。 あぁ、そうか。 なぜ、チマリが俺に懐いているのか、今わかった。 この子も、昔の俺と同じなんだ。 才能溢れるばかりに、普通の世界とは馴染めない存在。 大人たちのように、自分で世界を広げるには弱弱しく、かと言って自分のいる世界では満足することができない。彼女にとって俺はきっと、友達。オーバのような。友達。 もし昔の俺が、オーバと出会っていなかったら。あまり想像したくない。 「そっか」 腰を落とし、チマリと目線を合わせる。彼女の頬を伝うものを、袖でぬぐった。 「わかった」 ジムリーダーを辞めなければ、また、つまらない日常の繰り返し。それでもまぁ、良いだろう。 ジムリーダーには『次代の才能の育成』という漠然とした職務もある。きっともう、俺の時代は終わった。 「やめない?」 「やめない。明日から、また練習だよ」 チマリの顔が一気に明るくなる。俺はひとまずほっとして、チマリと手をつなぎながら応接室を出た。 終わった人間のエゴよりも、これから始まる若い才能を優先しよう。それに、ここまで満たされたのは、ジムリーダーになってから初めてではないだろうか。 必要とされている、それだけで十分。いや、そもそもそんな事、初めてかもしれない。 「チマリ、目が赤いぞ、今日は早めに寝たほうがいい」 「うん」 もう泣かないと、チマリは言ったが。俺はもう、彼女を泣かせない。 少しだけ強く、彼女の手を握った。
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