わたしとあなた 外伝 ( No.314 ) |
- 日時: 2011/03/20 01:18
- 名前: 桜庭 ID:WDgBXKC.
- チクタクちくたく
「ポケモンをつくる?」
薄暗い寺院を照らす満月は、いつもより明るい気がした。 雲ひとつない夜空にぽっかり浮かぶ、満月の下でふたつの影。
「正式にはつくれるかも、だけどさ」 「でも、言い方悪くないですか?」
寝床につくわけでもなく、マイとその金目の男は真っ直ぐと満月を立ったまま見上げて話している。 互いに顔を合わせるわけでもなく。
「まあね。でも生み出す、だと御幣が生じるだろう?」 「ごへい? よくわかんないけど……それで、なんですか?」 「この話を知ってるかい? ポケモンをつくりだすって」 「はい。前にお兄ちゃんから聞きました。あ、お兄ちゃんってほんとのお兄ちゃんじゃないんですけどね」 「ああ。あのソラって子だろ? 知ってるなら話が早い」
これだけ話してもふたりは視線を合わせない。 けして互いに嫌い合っている仲ではなく、己の瞳と同じ輝きを放つそれに惹かれているだけであって。 金目の男はマイに名前を教えてない。だからマイはそれ以来「おじさん」と呼んでいる。 このおじさん、住職のくせに坊主ではない。特に気にしていないが。 それよりこのおじさんは情報網がやたらと広い。今だってソラのことを知っていた。 特別マイも驚いた様子はない。
「ポケモンとは、心の支えだと。そう思っているんだってな」 「……」 「私もそう思うよ。ポケモンは素晴らしい。差別というものをしない否知らない。私はポケモンがだいすきだ」
ここでようやく満月から目を離しておじさんは未だ満月を見ているマイを見る。 マイは無視することはないが言葉数が少ない。首を縦に振るか横に振るかで大体は終わる。このおじさんは除いて。
「私もジョウト地方に息子がいてな」 「むす、こ?」 「ああ。元気だと、そう聞いて安心した。職業柄なかなか家に戻れないんだ」 「おじさん、サニーにおうちないの?」 「私の本当の戻る場所はジョウトにあるんだ」
急に話しをかえるおじさんを不思議に思ったが、聞き返すのも面倒なのかマイはそれでよしとした。
「その息子はな、私を嫌ってはいないらしい。それは嬉しいことだ。まあ、この一人称もあっちに行けば俺になるんだけどな」 「ふーん」 「ああ、話がずれたな。ポケモンをつくりだすには、条件とかはないんだ。心のどこかにつくるんだ。これがミュウというポケモンに伝わるときに新たなポケモンが出来るらしい」
だんだん話しが難しくなり嫌になったのか満月を見上げるのをやめて、寝床に戻ろうとするマイ。 おじさんも、やっぱりな、と苦笑いで寝床に戻るマイの後を追った。
「おじさん」 「ん? どうした」
先に歩いていたマイは不意に振り返った。
「わたしね"スイクン"ってポケモンつくったよ。せいぎのポケモン。こまってるひとを助けてくれる。せいぎのみかた!」 「そうか"スイクン"な――」 「ピンクのポケモンが、わたしに話を掛けてくれたの。可愛かったよ」
せいぎのポケモン。本来"正義"というものは存在しない。 正義の反対は、反対の正義。本当の悪は存在しないのだから。 それでもマイは、自分にまっすぐな"正義"を持っている。だから、マイの正義は正義で正しいのだ。
「ミュウか――」 「みゅう? それでね、みゅうってポケモンが"はやく捕まえてあげてね"って。だから、わたししょうらい大きくなったらポケモンとれーなーになって、スイクンを捕まえるの!」 「そうかそうか」
――純粋な涙に正義が混じる。この正義の涙は世界を救う。どんなに汚れていても綺麗に浄化するポケモン。それがスイクンか。
「おじさん、おやすみなさい」 「おやすみ」
寝床に着くとすぐに眠りについてしまった。 おじさんとマイの部屋は隣通しだから、何かあったらすぐに駆けつけることが出来る。 ピンクのポケモンのミュウが、マイのところに訪れたのはマイがポケモンをつくりたいから、なんて思ったからではない。 彼女の正義が、いつの間にかミュウを呼び起こしていたからだ。
そんな彼女が今――自分の世界を動かしているのは、果てしてなんなのやら。
(おじさん、おはよーございま、す) (私は一応、20代なんだけどな……おはよう)
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