Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.9 )
日時: 2010/09/06 22:49
名前: ギルガメッシュ月光 ID:

Course A 『リスタート』

 冒険……その単語に憧れて旅に出て、明日何が待ち受けているのか楽しみながら過ごせる輝かしい時期は、どこに過ぎ去ってしまったのか。
 ポケモンリーグチャンピオン……逃げることができない、まるで囚われた牢獄のような場所だ。
 深くため息をつくと同時に、部屋の扉がノックされる。
 適当に入るよう促すと、入って来た相手は態々律儀に深く腰を曲げ、頭を下げる。

「堅苦しいぞ、年下相手にそんな気を使わないでくれ。で、用は?」
「はい。理事長が、チャンピオンロードF-2エリアの調査をと」
「あのエリアはもう二十七回も行ってるじゃないか。あの爺はどれだけ俺を同じ場所に送って、調査すれば気が済むんだ。ワタルでも行かせておけよ」
「それが、ワタルさんは現在フスベシティに帰還しておりまして」
「じゃあキクコの婆は? 筋肉馬鹿のシバは? 水ポケラブのカンナは?」
「皆さん、諸事情があるそうです」

 溜息が出る。
 諸事情なんてどうせ私事だろう、四天王は基本的にポケモンリーグが開催されるかバッジを全て集めた者が勝ち抜きを申請して来るまで自由奔放だ。
 対して俺みたいなチャンピオンは基本的に常にポケモンリーグに、いや、正確にはセキエイ広原にいなければいけない。
 聞くところによればホウエンやシンオウのチャンピオン共は割合自由に動き回っているらしいが、何でカントー地方のチャンピオンである俺はこうまで自由を束縛されているんだ、納得がいかない。
 一度理事長の爺に問い詰めてみる必要がありそうだ。最悪チャンピオンなんてすぐ辞めちまえるが、俺が止めることで悲しむ奴だって少なからずいる。喜ぶ奴もいるだろうけど。

「分かった、じゃあ俺は支度があるからもう下がって良いぞ」
「はい……あの、つかぬことを窺ってよろしいですか?」
「何?」
「チャンピオンになられてから、その……覇気と言うか、輝きが感じられません。いえ、バトルの時はそれはそれは素晴らしく輝いておりますが、日常生活において元気が無いと言うか、その……」
「気のせいだろう。俺は今でも十分輝いてるぜ。ほら、右の奥歯とか金歯だし」
「そう言う意味では――」
「ほらほらさっさと出て行ってくれ。さっさと仕事終わらせたいから」
「あ、し、失礼しました」

 また頭を深く下げて、スタッフが下がっていく。どうやら他の人間に簡単にばれてしまうぐらい、今の俺は輝きが足りていないようだ。
 ボールから相棒のプテラを出して、その背中に乗る。
 チャンピオンロードはもはや俺の庭同然の場所で、監視カメラのある場所も把握している。
 セキエイ広原方面からチャンピオンロードに入ると、一瞬視界が暗くなるがすぐに目が慣れる。もはや眼を瞑っていてもどこに何があるのか分かるほど、この空間には慣れたものだ。
 ポケモンリーグが近づいてることもあってか、チャンピオンロードには所々にトレーナーの姿が見える。
 俺には、皆が輝いて見える。ポケモンリーグと言う未知なる強豪と戦える場所、その場所に向かってポケモンと一緒に進む姿。

「……俺には、もう無理なのか?」

 自問してもどうにもならないことぐらいわかっている。
 俺がまた冒険に出れるとしたら、俺以上のトレーナーが現れて、俺を正面から正々堂々とした戦術を使って叩き潰してくれることを祈るしかない。
 もしくは……俺が何らかの原因で死ぬことだけだ。
 前者も後者も多分長いことありえないだろう。俺は俺が強いことを自負しているし、それを傲慢だとも思わない。仕方ないんだ、強いものは強いのだから。
 非公式に俺に試合を申し込んで来てくれる各地の強敵はいくらでもいるが、何故か俺の心が盛り上がらない。
 言っては悪いが、勝って当たり前なほど実力が違い過ぎるんだ。

「これを傲慢って言わずして、何が傲慢なんだろうな……なぁ、プテラ」

 他愛も無い会話が、今の俺が自由を感じられる数少ない行動の一つだ。何とさびしいことか。



 チャンピオンロードF-2エリア……あの伝説の鳥ポケモンであるファイヤーが巣を構えている場所としても知られている。
 そんな場所を普通の調査隊が行けばどうなるかなんて火を見るより明らかだ。ファイヤーなだけに……自分で言ってて恥ずかしくなってきた。
 幸いなことにどうやらファイヤーは現在お出かけ中らしい。写真撮って石ころ拾ってさっさと帰るか。
 落ちている石を適当に拾う。この辺の石はファイヤーの放つ炎の影響を受けて、特殊な炎の石の効果を持っているものがあるらしい。別にどうでもいいけど。

「……す……て」
「ん? プテラ、今何か聞こえたか?」

 気のせい?……いや、確かに聞こえる。
 耳を澄まして良く聞いてみれば少しずつだが方角がわかる。真後ろ、天井が崩れたらしく、岩が山のようになっている場所が一ヶ所。
 嫌な予感ってのは当たるものだ。近づいて問い掛けてみれば、もはや耳を澄ませなくても聞こえるぐらいの声は聞こえて来た。

「おい、大丈夫か?」
「ひ、人!? お願い助けて! ファイヤーが近くに!」
「落ち着けよ、ファイヤーは今はいない。それにしてもこの落石に巻き込まれて助かるとは強運だな。動くなよ、岩を退かし……おい、冗談悪いにもほどがあるぞ」

 地の底から聞こえて来る、腹の底を揺らすようなおぞましく怒気に満ち溢れた複数の咆哮。
 嫌な予感しかしない……嫌だけど振り返ってみれば、視界に入って来たのは三匹のファイヤー。
 しかもそのうち一匹は考えられないほどでかい。他の二匹に比べれはその個体としての大きさはおよそ2倍強、ファイヤーが複数現れることがある情報は聞いていたが、これほどとは。
 どこかの馬鹿が中途半端に攻撃したせいで傷を負っているし、そのせいで怒っている。
 最悪の状況だ、大したバトルなんて想定して無かったからプテラとガブリアスしか連れてきていない。さらには負傷者がいる。

「まぁ、普通に考えればこれが適切だよな……プテラ!」

 俺の意志を感じ取ってくれたプテラが、破壊光線で一気に岩の山を粉々に吹き飛ばす。
 中に居たトレーナーはいきなりの攻撃に驚いて腰を抜かしているらしく、俺が手を差し伸べてもしばらく動かなかったので無理やり引っ張りだしてやった。
 多少荒かっただろうか? まあいいだろう。

「プテラ、このお譲ちゃんを運べ。俺は後から追い付く、絶対にこの子をこれ以上傷つけるな」

 頷いたプテラの背中に少女を載せると彼女が何か言っていたようだが、そんなもの聞いている余裕はない。
 逃げるその姿をファイヤーが追おうとしたらしいが、俺がもう一個のボールからガブリアスを出してそれを止める。
 不思議な気分だ。絶体絶命の状況、恐怖が体を支配する状況なのに、何故かこう、懐かしい。
 そうだ、これが……冒険じゃないのか?

「そうか……ありがとうよ、三匹のファイヤー。俺はまだまだ、世界を知らな過ぎたようだ!」





 セキエイ広原のポケモンセンター、ポケモンリーグに参加する予定……後にチャンピオンとなる少年は、複数のテレビから流れるニュースを見る。

『――つまりチャンピオンリーグのF-2エリアと呼ばれる場所で、現在のポケモンリーグチャンピオンが消息を絶ち、未だに手掛かりが見つかっていない状況が続いており』
『助けられた少女の話によると、三匹のファイヤーに対したった一匹のポケモンで挑んだことが分かっており、その後の消息は』
『さらに後日そのチャンピオンの事務所に何者かが侵入し、ボールといくつかの物品を盗んだことが分かっており』
『ポケモン協会は彼の能力を過信し、必要以上に依存していたことを明らかにしました。さらにチャンピオンの日記には自由意志が少なかったことへの意見が多く書かれ』





 セキエイ広原から遥か離れた大陸、その桟橋のベンチに腰掛ける青年は、大空を見上げながら薄ら笑う。

「何だい、なんかいいことでもあったのかい?」
「ん? いーや、別に」
「そうかい。それより船の準備が出来たぞ、乗っておくれ」
「おう、ありがとうおじさん」
「ところ悪魔が棲むって有名なあの島に、何しに行くんだい?」

 迷わず答えられる。俺は、このために故郷を出たんだ。

「ん? 冒険」