あなたのおなまえなんですか? ( No.5 )
日時: 2010/09/06 22:46
名前: 夏花火ロリコン仕立て ID:

Bコース『あなたのおなまえなんですか?』


 祭囃子が聞こえてくる。賑やかな喧騒。子供の笑い声。そのどれもが、今は自分を嘲笑っているかのようで不快だった。
 思いの外美味しかった林檎飴、一匹も掬えなかった金魚掬いも楽しかった。なのに、なぜ、今はこんなに惨めで心細いのであろうか。
 分かり切っている。全部おにーちゃんがいけないのだ。
 家族で来た夏祭り。おにーちゃんに手を引かれ走り回っていると、いつの間にかおとーさんもおかーさんもいなくなっていた。はぐれてしまったのだ。
「真由! おまえはここで待っていろ! お兄ちゃんが必ずお父さん達を見つけだしてやるぜ!」
 かっこよく、なのかどうかはよくわからないが、とても良い顔でそう言ったおにーちゃんはまだ戻ってこない。もう一時間以上前のことだ。きっとおにーちゃんのことだ、どこか明後日の方向目指して突っ走っているに違いない。まったくもってあてにならないおにーちゃんだ。
 そんなことを考えていると、なんだかムカムカしてくる。全部おにーちゃんがいけないのに、なんで私がこんなめに合わなければいけないのだろうか。
「そこのお嬢さん」
「……ぁによ」
 無意味に爽やかな声が目の前からして、私は顔を上げた。歳はたぶん十五、六。おにーちゃんより少し上。声に負けじと無駄に爽やかな顔。まるで太陽のように爽やかに、否、うざったく笑う。
「迷子かい?」
「……知らないお兄さんとは話すなって言われた、子供相手に声掛けてくるお兄さんはみんな幼女性愛者(ロリコン)だから気を付けろって」
 彼は一瞬、キョトンとして私を見つめていたが、次の瞬間には大きな笑い声を上げる。
「これは教育熱心な親御さんがいたもんだ、知らないお兄さんからは物を貰うな、とか言われてるのかい?」
「……それは言われてない」
「物を貰うな付いていくなを先に教えるべきじゃないのか」
 そういってまたお兄さんが笑う。たしかにそれもそうだ。
「まあいいや、食べるか?」
 いつの間に持っていたのか、ずっと目の前にいたのだから、きっと最初から持っていたのだろう、バナナチョコを私に差し出す。私も素直に受け取ると、一言呟いた。
「……バナナ……嫌いなのに」
 悪態を付きながらそれを一口頬張る。
「でも、おいしい」
 その言葉を聞いてショックを受けていた彼が微笑む。
「それは良かった」
「で、何の用?」
 まさか見ず知らずの女の子にバナナチョコを食べさせる為に話し掛けてきた訳ではあるまい。
「そりゃあ、お兄さんは幼女愛好者(ロリコン)だからな、小さな女の子が寂しそうにしていたら声を掛けるさ」
 あくまでも爽やかに問題発言を口にする。爽やかな笑顔……やっぱりウザイ笑顔も崩さない。
「お兄さん、携帯持ってる?」
「お父さんの携帯の番号とかわかるかい?」
 私はふるふると首を横に振る。十一ケタもの電話番号はさすがに暗記出来ていない。
「警察に電話するの、お菓子で釣って幼女をたらしこもうとする犯罪者がいるって」
「いやいやいやいや、ちょっと待てゐ」
 さすがにお兄さんもこれには笑顔を崩した。
「お兄さん、ただの好青年だよ、悪い人じゃないから」
「悪い人は自分を悪いなんて言わないと思うけど」
 小さく呻くお兄さん。それに自分でロリコンて言ったし。
「ところでお嬢さんのお名前は?」
「坂下真由、八歳」
「八歳か、ところで、知らないお兄さんとは話しちゃいけないんじゃなかったの?」
 すっかり忘れていた。慌てて言い訳を考える。
「バナナチョコ貰ったからもう知らないお兄さんじゃない」
 なんてダメな言い訳だろう。お兄さんがくすりと笑うのがムカつくから、一言付け足してやる。
「今はロリコンバナナのお兄さん」
 微笑んだ姿のまま硬直するお兄さん。うん、中々反応が面白いお兄さんだ。
「……まあ、それは置いておこう」
 お兄さんは言いながら、誰かに電話を掛け始める。
「警察?」
「違うって、ちょっと静かにしててね……もしもし、今祭来てるよ、うん、今本部? あー、それは悪かった」
 本部ってなんの本部だろうか。まさか幼女性愛者(ロリコン)協会の本部……そんなわけはないか。
「うん、迷子、坂下真由ちゃん、八歳、あ、今来てる? おー、良いタイミングだった、じゃあそっち連れてく? うん、わかった、じゃあ待っててもらって、うん、今行くから」
 お兄さんが携帯を切る。
「うちの親が祭の実行委員なんだ、本部に問い合わせたら、今お父さん迷子センターに来てたって」
「本当に?」
「うん、嘘吐いてるように見えるかい?」
「うん、幼女性愛者(ロリコン)協会本部に連れていこうとしてるように見える」
 さすがに慣れてきたのか、今度は笑顔で返してくる。
「そんな協会があるなら行ってみたいな」
「幼女性愛者(ロリコン)はビョーキです、適切な施設で隔離とか矯正とかしてもらえば治ります、たぶん」
「どこでそんな言葉覚えるの?」
「マンガ」
 明らかに、この子はどんなマンガを読んでいるのだろう? と言う顔をしているお兄さん。私は立ち上がると、お兄さんの手を取る。
「早く行こう、ロリ協本部」
「そうだね、行こうか」
 彼は苦笑いしながら、私の手を引いて歩きだす。
 ロリコンバナナのお兄さんから、優しいロリコンお兄さんにランクアップしてあげよう。でもそれは教えてあげない。
「そうだ、お兄さんの名前聞いてないよ」
「うん? 俺?」
「そう、私教えたもん、お兄さんも教えてくれないと不公平」
「そういうもんか? まぁいいや、俺は――」



 また、会えるだろうか?

 少し変で、でも優しそうで、ちょっと頼りになるお兄さんに。




あとがき

まだおにーちゃんは両親を探しています。
おにーちゃんは一回真由ちゃんの元に戻りました。
今度は真由ちゃんがいません。
おにーちゃん「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」