Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.28 )
日時: 2010/09/06 23:02
名前: とあるRの白黒神話 ID:

Aコース「今日から頑張る」



「虫除けスプレーは持ちましたか?」
白木海都が自分の荷物を確認しながら、隣で荷造りをしている黒町夏樹に尋ねた。
二人は、今日からポケモントレーナーになるのだ。
隣街に住むポケモン博士の研究所までポケモンを貰いに行く所だ。
隣街までは遠くはない。
子供の足でも二、三時間もあれば着く。
冒険と呼ぶには物足りない小旅行だ。
「んーと、オッケーオッケー、ばっちりよ」
夏樹はスプレー缶を手に元気に応えるが、その様子に海都はうんざりとしてため息を吐く。
「その整髪スプレーで、どうやって虫を防ぐんですか?」
「んェ? あぁ!? これ虫除けスプレーじゃない!」
「こっちに転がって来たのが貴女の虫除けスプレーだと思いますが?」
慌ててバッグをひっくり返す夏樹に海都は虫除けスプレーを転がし渡す。
「んゥ、ありがと」
夏樹は虫除けスプレーを受け取ると、それをバッグに詰め込んだ。
「それから、荷物はちゃんと整理して、綺麗に纏めた方が良いとも思いますが?」
海都のもっともな指摘に、夏樹は面倒くさそうに「入ればいいじゃないの」と応える。
「……ところで、そちらは着替えですよね、僕にはそれがカバンに入りきる様には見えないのですが?」
「ん……は、入るわよ! こう、詰め込めば……詰め込めば……詰め込む……」
夏樹は無理にバッグに荷物を詰め込もうとしているようだが、やはり海都の指摘通り入りそうにはない。
「貸してください」
海都が夏樹のバッグを受け取ると、中の物をすべて出していく。
「……女の子のバッグを漁るってどうなのよ?」
「貴女の任せていたら、日が暮れてしまうと思いますが?」
不満そうに呟く夏樹だが、海都は取り合わない。
「……男の子に世話されるとか、あたしの女の子としての存在意義をクライシスするつもり?」
「そんなもの始めからなかったと思いますが……何ですか? これは」
海都がバッグの中からそれを取り出し尋ねる。
「見りゃわかるじゃん、枕」
夏樹が当然のように答える。
「それはわかりますが、なんでこんなものが入ってるんですか、と聞いています」
「ほら、あたし枕替わると眠れなくなるし」
ピンと人差し指を立て言う、枕って大切だよね、と。
「枕が替われば眠れなくなるような人は、学校でも眠らないと思いますが?」
容赦のない突っ込みに夏樹は「んゥ……」と呻く。
「あ、あれは……そう、教師の催眠術よ、もしかしたらダークホールかも知れない」
無茶苦茶な、と海都が呆れる。
「もしかしたら学校と言う建物自体が眠りに誘う効果があるのかもしれないわ」
妙案だと言わんばかりだが、海都は素直に呆れていた。
「じゃあ、居間のソファで眠るのはどう言い訳するんですか?」
「んゥ、あ、あれは……テレビ、そうテレビよ、テレビから眠くなる電波が流れてるのよ」
何年か前に騒がれたロケット団のジョウトラジオ塔事件。
その際にラジオを通してポケモンを操ろうとしたらしい、と夏樹は言う。
「貴女はいつからポケモンになったんですか、枕はいらないですね」
「仕方がないわね」
夏樹は残念そうに枕を抱き締める。
「道具は種類事に整理整頓していれる……あれ、毒消しがありませんが?」
「え、毒消しいる?」
「あった方が良いと思いますが」
「わかった、じゃあ買ってくる」
夏樹はそう言うと勢い良く部屋を飛び出して行く。
「……毒消しを買うのは行く途中でも良いと思いますが……って傷薬までないじゃないですか!」

海都が夏樹の荷物を纏め終わった頃、ようやく夏樹が戻って来た。
「買ってきたわ、マヒ直し!」
誇らしげにマヒ直しを掲げ……
「……貴女が買いに行ったのは毒消しだったと思いますが?」
「んェ? そだっけ?」
「です、それから傷薬もありませんが」
沈黙、むしろ撃沈する夏樹。
「……行って来る!」
再起動。
「買い物は往く途中でも間に合いッ…」
慌てて海都が叫ぶがそれよりも先に夏樹が飛び出していってしまった。
「……人の話をちゃんと聞く人ではないと思いますが……」
ふるふるに握りこぶしを震わせて呟く。
「僕の話を聞けー!」
海都の叫びが虚しく響いた。

「買ってきたわ! 傷薬となんでも治し!」
夏樹が帰ってきたのは日が傾きだした頃だった。
「ずいぶんと遅かったですね、そしてなんでなんでも治しなんですか?」
「んゥ、傷薬売り切れてたからも一つ向こうの店まで行って来た、なんでも治しは……ほら、なんにでも効くじゃない?」
便利よね、と人差し指を立て……
「つまり何を買うか忘れたんですか」
海都に図星を突かれ、明後日の方向へ視線を向けた。
「コダックでももう少し物覚えが良いと思いますが」
「コダックバカにしないでよコダック、あのとぼけた顔とか完璧じゃない」
なぜかコダックを力説し始める夏樹。
「別にコダックはバカにはしてませんが、と言うか、バカにしてるのは貴女だし」
「んナッ!? 誰がバカよ! 誰が!」
あーはいはい、と海都は適当にあしらい、時計を指差す。
「もうこんな時間です、かなり急がないと日が落ちるまで間に合わないと思いますが?」
隣街までは遠くはない、と言えどすぐに行けるほど近くもない。
「あ、嘘?」
「嘘ではありませんが、着くのは夜になると思いますが」
だから早く行きましょう、と急かす海都。
「よし、わかったわ」
夏樹もそれに元気良く応え……
「今日はここまで!」


どうやら二人の旅は、もう少し先になるようである。




その頃。
「遅いわね、まだかしら? こんなに遅くなるなんて……もしかして野生のポケモンに襲われでもして!?」
二人がたくさんの人を振り回す話も、もう少し先である。