Re: ポケノベ2010夏企画 移転中につきコメント禁止 ( No.1 )
日時: 2010/09/06 22:44
名前: うぱぁ ID:

Bコース「マサゴの灯」

「おせぇぞ、罰金百万円な!」
「何かあったのか?」

息を切らせて到着した私に幼なじみの二人が駆け寄ってくる。遅れたことは悪いと思う。
でも久しぶりに会った二人の姿を見ると顔が自然にほころんでしまう。
「……ううん、別に……ごめんね」
「何にやにやしてんだよ。じゃ、行こうぜ!」
私は慌てて緩んでいた口元を引き締めたけど、指摘した張本人はとっくに背中を向けて歩き出していた。
一瞬でも反応してしまった自分が恥ずかしい。だってあやつの罰金請求も怒った顔も、真に受けるだけ損。分かりきってることなのに。
もう一人の幼なじみは私の方を見てくすっと笑い私の隣につく。後はみんなの位置を線で繋げばお決まりの二等辺三角形が出来上がり。

「一年ぶりか。あっという間だな」
不意にそう話しかけてくる隣の彼。声変わりしてからもう二年くらい経つのかな。
深くて優しいとても素敵な響きのになぜか未だに少し落ち着かない。尤も声の違和感だけなら断然目の前のあやつの方が上だけど。
「そうだね。色々忙しかったし」
一人だけ昔と変わらない声で当たり前の事を言ったつもりがなんだか妙に言い訳がましく聞こえた。
今の自分の言葉、彼の紺の浴衣と同じくらい気持ちよく闇に溶け込んで消えてしまえばいいのに。
そう思うと白地に朝顔を散らした浴衣までもが薄明かりの中で物凄く浮いているように感じて、この場にいることさえ急に居たたまれなくなった。
「みんな、元気にしてるの?」
「まあな。そうそう、ドダイトスが新しい技を覚えたんだ。後でフルバトルしないか?」
「バトルか! のったぜ!」
誘われたのは私なのに、この手の話題になるとホント地獄耳なんだから。私はちょっと反感を込めて相手の橙色の目を見据えた。
「見てろ! オレのゴウカザル今すげえことになってんだ! ん? ああ、お前とのバトルはその後だ!」
ダメだ。相変わらず空気が読めない。深緑のランニングにオレンジの半パンという格好の時点でなんとなく諦めがついてたとはいえ。
「ところでさ、エンペルトはどうしてんだよ?」
「え?」
これまたムードのないランニングシューズを凝視していた私は慌てて目線を上に向ける。確かに流れとしてはエンペルトが話題に上がるのは当然だ。
こいつと彼と私の三人は同じ日にナナカマド研究所で初心者トレーナー推薦ポケモンのナエトル、ヒコザル、ポッチャマの三体の中から好きな子を受け取った。
そして旅に出た。
「うん、まあまあかな」
目的が異なる私達はそれぞれの修業に明け暮れる日々のせいで出会う機会もめっきり減ってしまったけれど、年に一度のこの日だけは必ず集まるようにしている。
一昨年よりは去年、去年よりは今年。私のエンペルトは確実に強化されているけれどそれは他の二人のパートナーだって同じ筈。大きな事は言えない。

「あいつ今でこそ威厳っつーか落ち着いてるけどさ、ポッチャマだった頃はお調子者だったよな」
「何言ってんの。あんたのヒコザルだってお尻の炎でよくボヤを起こしてたじゃない」
「僕のナエトルにも少しは触れてくれよ」

こうやって三人で無心にワイワイ話してるとまるで研究所で初めてポケモンを貰ったあの日に舞い戻ったような気がしてくる。
だけど哀しいくらいはっきりと分かる。数え上げれば切りがない程だ。遠く手放したあの日との相違点は。
最初の頃はみんなボールからポケモンを出してずっと連れ歩いていた。旅に出たばかりの頃は何もかもが不安で押しつぶされそうだったけれど、
そんな時ポケモン達はいつだって私を慰め、支え、傍に居てくれた。でもいつの間にかボールの中に入れて連れ歩くのが自然になった。
理由は進化して大きくなると場所を取ってしまうからだけど、たぶん本当はそれだけじゃないんだという自覚はなんとなくあった。

それにあいつも彼も旅に出た頃とは比べものになら無いほど背が伸びた。私も伸びたけどこの二人の比じゃない。
ちょっとはタワータイクーンのお父さんみたいに締まった顔つきになったけど太陽みたいな金色の癖っ毛もせっかちなところも変わってないし、
あいつに関してはまだまだこの先どうなっていくのか分からない。でも良くも悪くも取り柄の元気は相変わらず人一倍だ。
彼は短かった黒髪を伸ばし、やっぱり顔も大人びているけど一番変わったと思うのは性格だ。元々頭は良かったけど、
以前のちょっと頼りない感じが影を潜め、服も落ち着いた系統が多く今ではすっかり冷静沈着のイメージで固定化されている。

私はお気に入りだった黄色いバレッタを取り外して、おもしろくもなんともないセミロングを維持している。ただそれだけ。

ここ数年、私はこの日が近づくにつれていつも追い詰められるようなせき立てられるような感覚に襲われていた。
向き合うのは恐ろしかったけれど、向き合わないのはもっと辛かった。
だけど不思議な焦りのようなこの気持ちの正体の輪郭がぼんやりと掴めてきたかと思うと、あと一歩の所で取り逃がしてしまう。だから毎年、この救われない苦しみが繰り返されている。
この大切な日を、この嬉しい再会の日を心から楽しみにしている筈なのに。二人に会った瞬間はあんなに幸せになれるのに。どうして時間が経つにつれこの状況を素直に喜べなくなるのだろう。

自分でもよく分からないこの気持ち。表面上はなんでもないように振る舞っていたけれど、私はいよいよ本日の目的であるマサゴ祭りの灯が見え始めると、
そのまま煩わしい下駄を脱ぎ捨てて全てに背を向けて駆けだしてしまいたくなるのだった。