Re: シュナとアルスの不思議な旅 引っ越し準備中 ( No.14 )
日時: 2010/09/27 22:22
名前: わたぬけ◆uIYgSadM30E ID:

 さて、いよいよシュナとアルスの不思議な旅が始まりました。
 莫大な遺産を受け継いだ少女『シュナ』。廃墟の地下で封印されていたしゃべるカイリュー『アルス』。
 二人の旅はどこへ向い、どこへ行き着くのか。シュナを狙う輩は? アルスの記憶は? そして運命は二人をどこへ誘(いざな)うのか。
 【鍵の行方篇】。ここに開幕。



 



 シュナとアルスの不思議な旅 第二篇【鍵の行方】

 第六章「レマルクシティへ」


 駅の構内で鉄道の発車を告げる笛の音が鳴り渡った。勢い良く空気の出るような音とともに開いていたいくつもの扉が一斉にとじる。それから数秒の間をおいてから、一瞬だけ鋭い揺れが起き、列車は進み始めた。

「うおおお! すげえ! シュナ、こんなデカイくて長いのが動き出したぞ!」
「うん。分かってるから、あまりはしゃがないで」

 シュナとアルスの二人はフィッツシティの隣町モンテシティで旅支度を整えた後、街の中心にある駅からレマルクシティ行きの特急に乗った。
 なぜフィッツシティではなく、わざわざ隣のモンテシティにしたのか。それは先述したアルスが起こしてしまった騒動のせいだった。結局山の峠での決意のあとアルスは街で起こしてしまったことを告白した。シュナは呆れたが、そもそも自分が屋敷を飛び出したからアルスがそんな行動に出てしまったんだと思い直し、では隣町のオルキスに行こうと提案したのだ。

 二人がモンテについたのはもうとっくに日も暮れ、空には星星が輝き始めている時刻だった。それから街のポケモンセンターへ行ったのだ。
 いくつか説明が必要だが、まずポケモンセンターはほとんどの自治体に最低一箇所は置かれているポケモンの診療施設およびポケモントレーナーのための宿泊施設だ。小さな町や村だと一箇所、もしくは置いていないという場合もあるが、大きな街になると規模が大きかったり複数置いていたりする場合もある。
 このモンテシティの場合だと街の規模は隣のフィッツシティと同程度の小さな市であるためポケモンセンターは街の中心街に一箇所あるだけだった。ポケモンセンターの外観のデザインは町ごとで多少の違いはあれど、一目見てそれだと見間違わないようにどこも一貫してモンスターボールをあしらったデザインとなっている。屋根は赤く壁は白というデザインを基本とし、広い入り口の上にはでかでかと「POKEMON CENTER」と書かれた看板が掲げられていた。
 大概のポケモンセンターは一階がポケモン診療、二階がトレーナー宿泊施設となっている。どちらを利用するにせよまずは一階のロビーカウンターの総合受付に行くことになる。そこでトレーナーカードを提示して利用するというシステムなのだ。
 トレーナーカードは全国民が十歳になるとトレーナーになるにしろならないにしろ自動的に発行される証明書で、これによって人々はポケモンと一緒に過ごすことの出来る権利を得るのだ。だからシュナもトレーナーカードは持っていて、いつも財布の中に入れている。だが如何せんこのカイリューと出会うまでポケモンと一緒に暮らすことはおろか、興味もあまり示したことがなかったので、このトレーナーカードもずっと持ち歩いていながらこの時になって初めて使うこととなったのだ。
 翌日、朝からシュナとアルスは旅支度のために街中を奔走することとなった。

 一通りに旅に必要な物品等を揃えると駅へ行ってこの列車に乗った。
 ここ数十年で世間もポケモントレーナーに対する目は寛容になっており、この鉄道を有する鉄道会社はポケモンをモンスターボールから出したまま乗ることが出来るという業界初のサービスを実施していた。それまでは膝に載せられる程度の小さなポケモンならば他の乗客の迷惑さえかけなければ黙認のような形で乗せることもあったが、大々的な形でポケモンも乗車可能としたのは初めてのことであった。
 そのかわり、やはりまだ色々制限は設けられていて、あまりに巨大すぎるポケモンや重すぎるポケモンはやはりモンスターボールに入れなければならなかったし、一席をどうしても占有するほどの大きさのポケモンはトレーナーとは別にもう一人分の切符を購入しなければならない。
 アルスは大きさや重さの制限ではほとんどギリギリ許可が出たが、当然ながら乗るにはシュナとは別にもう一人分の切符を購入する必要があった。幸いなことにというか皮肉なことにというか、シュナはお金に困ることはなかったので難なく払うことは出来たのだが……。
 シュナとアルスは空いているコンパートメントの席を見つけ、そこに腰を落ち着かせ現在に至るというわけだ。
 アルスは初めて乗る鉄道に子供のように大はしゃぎで外を流れていく景色に見とれていた。椅子は元々人間向けに設計されたものだから座りにくそうな体勢になっていたが、そんなことは全く気にしていないようだ。
 コンパートメントは今シュナとアルスの二人しかいないので、アルスがしゃべっていても大丈夫だが、シュナはいつ車掌が切符の拝見に来たり、他の客が入ってくるかと思うと内心ヒヤヒヤした。

「人間ってすげえなあ! こんなデカイ鉄の塊を動かしたりするんだからなー」

 アルスのこのはしゃぎようでは、巨大な豪華客船やジャンボジェットなどを目の前にした日には卒倒するんではないかとシュナは思う。身を乗り出して次々と移り変わっていく窓からの景色にじっと子供のように見とれていた。その様子をじっと見つめるシュナ。シュナの目はアルスとその向こうにある忘れられた記憶へと向けられる。
 今のところ分かっていることは、まず自分に似た女性を見たことがあるような気がするということ。様々な種類、色の花々が咲いている花畑。その場所がどこなのかそこに住んでいたのかそれともただ記憶にある場所なのかはわからない。現在分かっているのはこの二つだけ。しかしこの二つの事項は今のところ何も結びつかない。座標の全く結びつかない点でしかない。それはまるでレストランで出されたウミガメのスープを飲んだ男が自殺した、さてそれはなぜかと問う問題のようだ。しかも難易度はそれよりも凶悪的な高さである上に、ヒントは絶対に教えられることはない。
 それにしても、アルスは人間のものにとても興味を持っているようだ。自動車や鉄道のことは知っていたようだが、乗るのはこのように欣喜雀躍(きんきじゃくやく)に舞い上がってることから分かるように初めてのようだったし、モンスターボールのことも初めて知ったよう……?
 そのときシュナが気づく。

 え? それって……?
 じゃあアルスって今……えっ? あり得ない。
 だとすると……まさかアンノーンってそんなことも出来るの……?
 いや、まだ確信するのは早い。そもそもポケモンの寿命は人間のそれとは違うかもしれないし……。
 それにあたしの記憶違いかもしれない。

「どうしたんだシュナ。難しい顔して」

 自分でも知らないうちに顔をしかめて俯いていたらしい。アルスが下からシュナの顔を覗き込んできた。いきなりアルスの顔が度アップで迫ってきたので、思わずシュナは声でもない声を上げて慌てる。勢い良く背中のモンテで買ったリュックサックが背もたれにぶつかった。

「ううん。なんでもないよ」

 しかしアルスはなにやら腑に落ちないらしく、何か言おうと口を開きかけた。だが、そこへまるで見計らったかのようにコンパートメントの扉がガラリと開き、車掌が切符の拝見にやってきた。
 慌ててアルスは口を閉じる。シュナも思わず無意味に背筋を伸ばした。
 車掌は初め、席にでかでかとカイリューが乗っている様にぎょっとしたような表情を見せたが、すぐに自分の中で納得したらしく誰に対してでもなく二,三度頷くとシュナに切符を求めた。
 シュナの分とアルスの分と二枚渡す。本来ポケモンはモンスターボールにさえ入れていれば料金は発生しないのだが、アルスはモンスターボールに入ることを嫌がった。「こんな狭苦しい物(もん)に入れだなんてごめんだな」というのが彼の言い分である。実際はモンスターボールの中はポケモンにとって快適な空間などと言われているが、アルス曰く「気持ちの問題」だそうだ。
 確かにアルスの言い分は理解できるなとシュナは思った。もしも、たとえ内装はとても豊かで快適でも外から見たら手のひらに乗るくらい小さいというヘンテコな家に住めと言われたら敬遠してしまうだろう。人によって意見は異なるだろうが、そういう点ではシュナとアルスの認識は共通していた。
 切符の拝見が終わると車掌はさっさと次の乗客の元へとコンパートメントを去った。
 そのとき列車はトンネルに入ったらしく、外が暗くなる。それに驚いたアルスがまたもはしゃぐ。

「うおおおおぉ! 急に真っ暗になったぞ。なんだ!? この世の終わりか!?」
「トンネルに入っただけよ」

 レマルクシティへは二時間ほどで到着するようだ。そしてこの二時間の間にアルスがしゃべることが誰にもバレませんようにとシュナは祈るのだった。


 *



 誰かの電話の受話器からの声

「……お電話失礼いたします。グラマーでございます。今お時間の程は?……はい。……はい、お館様が亡くなって早いもので三週間になろうとしてます。……はい、その件は誰も気づいていません。……。ただ、ソフィアには気をつけなければならないかもしれません。あのときうっかり彼女の前でモンスターボールを落としてしまいまして。……あれだけで気づいたとは思えませんが、彼女は普段呆けているようで時折勘の鋭いところがありますので。
 ……いえ、ただ少しばかり紆余曲折(うよきょくせつ)あったようですが。はい、シュナお嬢様はあなたさまのご予定の通り、あのカイリューとともに旅立たれました。……、それはお嬢様次第で私(わたくし)どもにはどうすることも出来ません。
 ……そう、お嬢様から使用人全員宛に手紙が届きました。内容は旅に出るということの他、使用人全員に有給休暇をくださるとのことです。……はい、どなたに似たのでありましょうね。……、いえ、お嬢様が旅立たれたことは全員には伝えましたが、有給休暇のことは敢えて伝えませんでした。……。たとえ無期限の休暇を与えてくださったとしても、屋敷の主がいつ帰って来てもいいように勤めるのが私ども使用人の使命なので。このことを知っているのは私とナタリーだけです。
 ……いえ、もったいないお言葉を感謝いたします。……。そうですね、場合によっては……それも致し方ないでしょう。……了解いたしました。私ももうしばらく経ってからそちらへ伺います。
 ……。いえ、こちらこそ突然のお電話失礼いたしました。……。はい、心得ております。あなたさまもどうかお体に気をつけて。では、失礼いたします」