Re: シュナとアルスの不思議な旅 引っ越し準備中 ( No.12 ) |
- 日時: 2010/09/27 22:19
- 名前: わたぬけ◆uIYgSadM30E ID:
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あと少し。 シュナの足は既にこの山の中を走りまわって逃げたりでパンパンに張っていたが、シュナの目の先にあるもの前には瑣末なことに思えてしまう。ただひたすら彼女はもう既に眼と鼻の先まで迫っているその場所に向かって歩みを進めた。側にはアルスが付き添っている。
「着いた!」
登り坂が終り、同時に森もそこで途切れひらけた場所に出て、シュナはその言葉と共に大きくため息を付いた。まだ少し寒さの名残の残る春の夕暮の中、二人はようやくその場所に立った。 そこは山道の峠だった。最初、二人はそのまま下山しようと考えていたが、シュナはハッサムに追われてあちこちに逃げまわった結果、偶然元の山道の通る場所に差し掛かったのでせっかくだからとそのまま登ることにしたのだ。それに彼女としてはこのまま下山したくないと思った。 アルスは当初、載せてやるよと言っていたがそれをシュナが断った。どうしても自分の足で登りたかった。 そしてようやく差し掛かった峠。そこは山道を通るものの休憩場所となっているらしく、小さな広場があり山道から少し逸れたところに麓を見渡せる小さな東屋が建っていた。二人は特にお互いの合意を得ずとも自然のうちにその東屋の屋根をくぐっていた。全て木材だけで建てられており、木のテーブルに半径二十センチメートルほどの丸太をそのまま立てただけの椅子が用意されている。シュナはその椅子に座ったが、アルスにはどうにも合わないらしくそのまま地面に座り込んだ。
「わあ……こんな場所があったなんて」
麓の街が一望できた。フィッツシティはそこまで大きな街ではないが、シュナの故郷のジェラルドタウンに比べれば十分都会と呼ぶに値する街だ。川べりにある駅を中心として背が低めのビルがぽつぽつと立ち並んでいる。バーンズロウ家の屋敷はこういった場所でもよく見えるほどの大きさを誇っているのだが、ここからでは山体の影になって隠れている。 山の上から眺める街の姿はまるでミニチュア細工のよう。
「ねえアルス。どうしてあたしの居場所が分かったの?」
視線を夕日に染まる麓の街に向けながらシュナが訊く。
「ああ、そのことだけどよ。お前が出ていってから大変だったんだぞ。すぐ戻ってくると思ってたら、あの後ソフィアって奴が来てなんやかやうるさく言ってさ」 「まさかソフィアに何かしたんじゃないでしょうね」 「まさか? それで俺もちょっと気になってよ。探しに行ったんってわけだ」 「ねえ、もしかして。探しに出る時、誰かに……」 「見られちまったな。お前んとこの庭にいた奴らとかにな。俺はめんどくさくてみなかったが、なんかギャーギャー叫んでたな」
シュナは「あちゃー」と漏らして手のひらを頭に当てた。
「それからまあ、色々あってよ。お前を見つけたってわけだ」 「色々って?」 「色々って、まあ……色々だ」 「なによそれ」 「うるせえ。説明がめんどくせえんだよ」
珍しくアルスが何かを言うことを渋ることがあるのだなとシュナは笑った。 シュナを見つけるためにアルスが辿った内容は以下のようなものだ。 屋敷をでたあとアルスはどこに行ったのか宛てもないままあちこちを探し回った。何のヒントもないまま探すので当然のごとく見つけられるはずがない。そのうちうっかり街中に出てしまった。フィッツシティはそこまで大きくない街ではあるが通行人の数はそこそこいる。それからが大変だった。 なにせこのような街中に、到底現れるはずのないカイリューが姿を現したのである。ただでさえこのような場所で見られるはずなく、また図体の大きいポケモンであるため一般の通行人はパニックを起こしてあたふたと逃げまわった。さらに悪いことにはガラの悪いトレーナーたちがあろうことかアルスを捕まえようと襲ってきたのである。 アルスはというとそういった者たちをほとんど無視してシュナを探し続けていたのだが、さすがに襲われたとなっては無視し続けることも出来ずに、受けて立ったのだ。とはいってもほとんど一蹴するように片付けてしまってそのトレーナーたちはヒイヒイ言いながら退散したのだが。
そのうちあるトレーナーの持っていたゼニガメがシュナの乗っていた車が隣町に続く山の方に走っていくのを見たと教えてもらって、この山へと赴いた。しかし山に場所をある程度絞ったとはいえ、上空から探すにしても広すぎた。そしたら偶然その山に住んでいたラッタの親子が山道を女の子が登っていくのを見たと教えてもらい、山道をたどることとなった。 そしたら遠くの方でなにやら木の倒れる音がして不審に思ってそちらの方へと急いで向かうとちょうどシュナがハッサムに襲われているところだったというわけである。 反対側の山の向こうへ夕陽がおちていく。空はまるで朱を垂らしたように鮮やかな紅色に染まっている。少し肌寒さを感じる風が通りすぎていった。それに揺られた木々たちがサワサワと歌っている。 そのとき木々の歌声に混じって麓の街の方から教会の鐘の音が風に乗ってやってきた。日没を告げる鐘を鳴らしているのだろう。それはあたかも歌っている木の葉たちに静かで厳かな伴奏が入ってきたよう。そして鐘の音が合図だったかのように東の空に一番星がポツリと光った。 ゆっくりと静かに時間が流れているようだった。二人はしばらくの間言葉をかわさずに黙っていた。なんだか今野暮なことを言ったら今眼に見えている幻想的とも言える光景が崩れ落ちてしまうのではないかと思ったからだ。 葉末を渡る鐘の音はシュナの心のなかにすぅっとまるで布に音もなく水が染みこんでいくように深く浸透していった。そしてついに鐘は鳴り止む。同時に太陽も向かいの山の向こうへと姿を消した。 そのとき、まるで天啓を受けたかのようにシュナの心にある考えが浮かんだ。そして一度その考えが浮かんだが最後、どんどん大きくなりついにはその考えを実行する以外に手はないような気さえした。
「ねえアルス」 「なんだ?」 「……旅に出よう……」
それはまるで極ありふれた日常の会話を交わすかのように自然に放たれた。 アルスは一瞬あっけに取られて、何か言おうとしたがそれを遮るようにさらにシュナが続けた。
「あたし、あなたに会うまで自分が何をしても今の状況は何も変えられないとばかり思ってた。色んなものに縛られてるような気がして変わることを諦めてた。いや、変わることによるその代償が怖かったのかもしれない。鳥籠はとっくの昔に開いていたのに、抜け出す勇気が無かったの。でも、あたしやっと勇気が出せる」
そしてシュナは「それに……」とつぶやいてさらにつなげる。
「アルスもあんな屋敷でずっと隠れてるように過ごすよりは、この広い世界に出るほうがいいでしょう? 記憶の手がかりだって見つかるかもしれない。ね? いいと思わない?」
シュナはくるりと舞でも舞うように回ってアルスの目を見つめる。アルスは頭に右手を乗せてガリガリと掻いた。またこの仕草だ。このカイリューは何かを考えるときはこのように頭を掻くのを癖としているようだ。
「いいぜ。俺も早く昔のことを思い出したいしな」
アルスはわざとシュナから目をそらして、その向こう側に映る紅色の空を眺めた。 シュナの耳には先程の教会の鐘とは別の、心のなかで何かの鐘が鳴るのを感じた。その鐘の音はまた葉末を渡っていく……。
「シュナ、腹が減った」 「ああ、そうね。あたしもだわ」 「あれが食いてえ。リンゴが。……ん? どうした」 「……花畑といい、アルスって結構メルヘンなカイリューだったのかしら?」 「めるへん? なんだそりゃ」 「かわいいってことよ」 「か、かわ……い? う、うるせえ!」
*
ニ日後、バーンズロウ家の屋敷に一通の手紙が届いた。 差出人はシュナ=バーンズロウ。
【 〜拝啓、使用人の皆様へ〜
突然のお手紙失礼いたします。 まずはこの前のことに引き続き、またしても突然居なくなってごめんなさい。そしてこれからも皆様にはご迷惑をおかけするかと思います。 この家の当主である私、シュナは思うところがあってしばらく旅に出ることにしました。 身の安全については問題ありません。知っている方もいらっしゃるかも知れませんが、とても頼りになる護衛としてカイリューが付き添ってくれています。
思えば皆様には私が初めてこの家に来たとき、右も左もわからず家のしきたりにも慣れない私に協力してくれたり、優しくサポートしてくれましたね。 そのことについては大変感謝しております。
さて、私が旅に出ている間の皆様のお給金のことですが、全員無期限の有給休暇と致します。 日頃お世話になっている皆様への私ができる限りの恩返しだと思っています。
またちょっとした事故で私の持つ携帯電話が壊れてしまったので、新しくポケギアというものを買いました。 もしどうしても連絡を取らなければならないことがありましたら、下記の電話番号までご連絡ください。 新しい電話番号は070******1です。
しばらくの間、多大な迷惑をお掛けすると存じますが、どうかよろしくお願い致します。 そして皆様どうかお体に気をつけてお元気で。 敬具
シュナ=バーンズロウ】
シュナとアルスの不思議な旅 第一篇【旅の始まり】 −END− 第二篇へつづく
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